にげうまメモ

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15/7/16 Journal Club

*Journal Club

論文抄読会。読む論文は趣味。先に断っておくが、わたし個人の専門とは関係ない。

 

[Paper]

Racehorses are getting faster

Patrick Sharman and Alastair J. Wilson Biology Letters 2015

(論文へのリンク 全文読めるので是非→Racehorses are getting faster | Biology Letters)

 

[Summary]

先日PublishされたばかりのHotな論文。競馬ファンや関係者には読んだ人も多いだろう。国内のメディアでも取り上げられたので話題としては知っている人も多いと思う。要は過去の調査では競走馬のスピードは限界に達しているとの結論が下されていたが、今回の英国における大規模調査により、短距離において競走馬のスピードは進歩し続けている一方、中長距離においてはほぼ漸近線に達していることが判明した、という論文である。タイトルはなかなかにセンセーショナルだが、果たして。

 

[Introduction]

競走馬は優れた形質を持つ個体の選択とそうでないものの淘汰によって人為的に交配と改良が続けられている産業動物である。しかしながら、かつての調査では、競走馬のスピードは限界に達していると結論付けられてきた。例えばアメリカの三大レースにおける調査では、1970年台前半から勝ち時計は早くなっていないことが分かっている。このことは競走馬生産現場における集中的な選択的交配にも関わらず、それが既に遺伝的限界、すなわち競走馬のスピードが限界に達していることを示唆する。しかしながら、過去の調査には問題点が存在する。第一に、中長距離における"elite race"の勝ち時計にのみ着目している点、第二に馬場の柔らかさといった交絡因子を排除できていない点である。そこで当論文では、これらの問題点を解決するため、"elite race"及び競走馬全体のpopulationに着目して調査を行った。

 

[Methods]

以下のデータベースより引用した。英国の平地芝競争のみに着目した。

・Ruff's Guide to the Turf (1850-1951 annual editions)

・Raceform Flat Annual (1949-1994)

・Raceform Interactive (1996-2012)

ここから、平均48/yearの"elite race" (Group Race since 1971, 1850-1996)に対して、勝ち時計、計測方法、レース距離、競馬場、馬場状態、出走頭数、及び勝ち馬の名前と年齢と性別を記録した。及び同様のデータを、1997-2012におけるelite race (Group race)とそれ以外(全体で>50000)に対して記録した。また、これらのレースに対して、負けた馬の走破時計を着差とconversion scaleを用いて推定した。全体として、616084の走破時計と70388の競走馬からなるデータが得られた。

ここから線形混合モデル(linear-mixed effect model)を作成し、各年代、各距離、及び"elite race"と"all"、さらに勝ち馬と出走馬全体を分けて競走馬のスピードを推定した(table.1)。年代、距離、出走頭数、馬場状態は連続的共変数とし、一方で年齢、性別、勝ち時計計測手段と競馬場は固定因子とした。(詳しい式は論文本文参照のこと)競走馬個々についてはランダム因子とした(一頭の競走馬が複数の記録に関わるため)。ここから最大尤度をRもしくはASRemlを用いて求めた。本モデル(model 1)では各detaset内における競走馬のスピードの平均を算出するのに用いた。

さらに、線形近似を用いることなく、レース距離に依存した時間的な競走馬のスピード変動を算出するため、model1において年代による影響をmulti-level factorなどとして扱った修正モデル(model 2)を作成した。詳細は本文参照のこと。

 

[Result]

基本的にここからはリンク先にあるfigureを見ながら話を進める。

Model1から算出した平均的な競走馬のスピードは歴史的に向上していることがわかる(1850-)。ただし、1997以降の長距離Elite Raceでの勝ち時計を除く(Table.1)。さらに時間的な変動を詳細に追いかけたのがFigure.1(model 2)である。丸が6f、四角が10f、三角が17fである。これを見ると変動が線形ではないことがわかる。1800年代後半に急激な勝ち時計の向上が見られ、1975年あたりまで比較的変動は穏かになった後、それからさらに向上している。加えて、特に6fにおいて1850-2012までに劇的な向上が認められる。事実、1850年に対する2012年での向上率は6fで12.9%、10fで10.6%、17fで9.7%である。

では、1997-2012までの期間について詳細に見てみる。Elite Raceにおける勝ち時計は基本的に向上し続けているものの、主に短距離において顕著であることがわかる(Table.2)。逆に長距離における勝ち時計は若干の低下が認められる。さらに詳細に見たのがFigure.2である。Figure.2aはElite Raceの勝ち馬、2bはElite Raceの全出走馬、2cはAll Raceの勝ち馬、2dはAll RaceのAll Finisherである。どの場合においても向上率が最も高いのは短距離であることがわかる。詳しい数値はTable.2参照のこと。

 

[Discussion]

以上の分析によって1850年からElite Raceの勝ち時計は徐々に向上していることがわかった。また、1997-2012に期間においては、レース距離に依存して同様の向上が見られることがわかった。中長距離においてはその向上が緩やかだが、歴史的に鑑みれば向上していることは間違いない。これはElite Raceのみならず競馬全体でいえることである。

競走馬の進化は限界に達しているという過去の論文はあくまで中長距離のElite Raceに限定したものである。当調査の結果は必ずしもそれと相反しないものだが、短距離に限って言えば競走馬のスピードは未だ進化し続けていると言える。この進歩は非常に顕著で、1997-2012においてはElite Raceの勝ち時計は年に0.110%も向上していることが分かる。すなわち、1997-2012で勝ち馬は1.28馬身も前にいることになる。

中長距離における勝ち時計の向上が緩やかである一方、短距離におけるそれが顕著である理由は幾つか考えられる。例えば英国における配合はより短距離馬を作り出す方向へとシフトしている。また、騎乗スタイルやアメリカからの種牡馬の輸入も英国における競走馬の進歩に貢献している。しかし、この調査には問題点も考えられる。騎手の戦術もレースの勝ちタイムに影響しており、交絡因子として排除することは出来ない。さらに、今回は負担重量は考慮に入れていない。実際に1997-2012において平均負担重量はElite Raceにおいて増加しており、これが遺伝的進歩をマスクする可能性は捨てきれない。

当論文で判明した変化が、短距離志向の遺伝的選択によるものであるかどうかは今後の課題である。より遺伝的かつ量的な解析が必要だろう。

 

[Discussion2]

以下徒然なる駄文。読み飛ばし推奨。

やはり、ややセンセーショナルすぎるタイトルかと思われる。Fastとは何を指すのか? 勝ち時計が早くなっていればFastなのか? 確かに短距離における勝ち時計が早くなっていることはデータ上からは明らかだが。

当論文で何度か触れられている短距離志向の交配については、Pedigreeには詳しくないのでコメントを控える。いずれにせよ、英国の1997-2012において短距離で顕著な勝ち時計の向上が認められている、というのは興味深いデータだろう。これに対して中長距離では大きな向上が認められないことに対して、筆者らは中長距離においてはある程度selection limitに達していることを認めている。事実、中長距離における種牡馬が障害専門に回っていることからも英国の交配事情としても短距離志向にあるのだろう。加えて、英国の有力馬は3歳で引退する傾向にあるのも早熟・スピード志向という傾向に拍車を掛けているように思う。仕上がりの早いディープインパクト産駒など連れて行ったら活躍するのではないだろうか。

個人的には、日本産馬が英国にてどこまで通用するか見てみたい。日本の馬産は世界に誇れるものを持っているはずだ。セレクトセールで海外からも購入者がいらしていたと聞き、その馬の活躍が非常に楽しみである。ついでに英愛障害競馬など走ってほしいところ。日本産馬がGrand National勝ったらすごいでしょ! 日本の馬はあのキチガイじみた世界一タフなレースを勝てるんやで! って。

また、短距離と中長距離ではレースの質が違う。短距離は競走馬にとって比較的シビアな11sec/fのペースを持続的に追走する能力が求められるのに対して、中長距離は12~3sec/fのペースを追走し、直線に向けて10~11sec/fの瞬発力を温存する能力が求められる。従って、馬場、ハンデ、そういった諸々の影響をより短距離の勝ち時計の方が受けやすい。さらに英国の中長距離は騎手が馬を抑え、最後の直線の瞬発力と持久力争いになりやすいことを考えると、レースの質としてそもそも勝ち時計が向上しにくいように思う。(ばらつきも大きいだろう)。従って、このデータだけで中長距離における競走馬の能力が頭打ちになっていると結論付けるのはやや早計だろう。

英国における造園技術については全くの無知なのでコメントを控える。ただし、エアレーション作業による馬場の硬度変化によって勝ち時計が大きく変わることは特記しておきたい。近年、かつては先行有利レコード続出といわれた開催初日のレース傾向が異なってきているのは誰でも気が付いていることだろう。小島友美さんの馬場解説本は名著なので是非。

ではどのような調査が適切なのだろうか? まずは"Fast"の定義をはっきりさせることだ。競馬に勝つためには馬の瞬発力、機動力、持久力... 様々な要素が絡む。従って、ここではレース中における最大瞬発力、及びその持続力のスコア化を持って"Fast"と考えたい。そんなわけで、わたし個人としては1fごとのラップ解析を提案したい。明確にバテた馬、追っていない馬などを対象外として、例えば最後の3fのラップを解析するものである。おそらくハンディキャッパーが「力を出し切った馬」と認められるような馬か、もしくは勝ち馬と5着以内の馬くらいでよいだろう。出来ればラップ推移が特徴的な逃げ馬は除いたほうが良いかもしれない。これをレース距離に応じてsprint、middle、longと区分して、斤量と馬場硬度、競馬場の芝特性や坂に応じて補正を付ける。最もタイムが向上した1fと、他の2fを比較して瞬発力を算出した上でその持久力をスコア化する。いわゆるGrade Raceだけでなく芝全体で行う方が良いだろう。英国でもラップタイムの計測が始まったらしいが、どうやらガバガバらしいのでこれは日本で行ったほうがよいと思う。

 

では日本では? というのが誰しもが思う感想だろう。わたしはスプリンターに限らず、上記の定義によれば速くなっていると思う。いずれにせよ夢のある話である。わたしはサイレンススズカ最強説信者だが、いつかあの馬を越える名馬に出会えるかもしれない。その日が待ち遠しいと思えるような論文であった。

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