にげうまメモ

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15/10/11 Czech Racing - Velká pardubická - / Crystal Cup Result

*Pardubice (CZE) 3.6 pružná

125. Velká pardubická s Českou pojišťovnou

Steeplechase crosscountry L - 6900 m, cena, 6letí a starší 5.000.000 Kč

本日のメインレース、そしてチェコ障害競馬における最高峰のレース。世界的にも有名なCross Countryの大レースである。出走馬の短評は過去記事参照のこと。

 

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大歓声の中スタート。早速逃げるのはVelká cena města Pardubic XXIII.ročník - I. kval.na 125. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou (Stcc NL)の勝ち馬、Universe of Gracie。Pardubice最長距離を誇るコースにも関わらず、果敢にもハイペースで引っ張る。番手に出来れば逃げたかっただろうHipo Jape。おそらくUniverse of Gracieの出足が強烈だったので引いたのだろう。第三障害までは全馬見事な飛越を見せる。そしていよいよ挑むのは世にも恐ろしい障害、Taxis Ditch。多数の障害の存在するPardubice競馬場においても一年でこのレースの一度きりしか使わないという障害であり、150cmの生垣の後ろに深さ100cm、長さ400cmの空壕があるというものである。ちなみにこれまでに28頭もの馬がこの障害での事故で亡くなっている。大歓声の中、勇敢な22頭の馬と22人の騎手がこの難関障害に挑む。先頭集団から中段にかけては見事な飛越。フランスから参戦したPasquini Rougeも綺麗な飛越でクリア。しかし後方集団でNebriusとParetoが落馬。いずれも空壕は飛び越えており、そのあとの着地に失敗して転倒した形になる。幸い馬はすぐに起き上がっていた。さらに集団は巨大なDrop Bankに挑み、こちらは全馬見事にクリア。さらに多重落馬が発生したのは次の生垣障害。ここで中段から後方にいたSokol、Sherardo、そして昨年の2着馬Al Jazの3頭が落馬。この障害は直後にカーブが存在しており、Aintree競馬場のCanal Turnと同様に馬が内に密集するのが原因かもしれない。また、転倒した馬が障害に対して平行に倒れたのも原因として上げられる。さらに森の中で空馬にぶつかられたのか、Peintre Abstraitが落馬。

ここで隊列を一度確認すると、Universe of Gracieが単騎逃げの形、2番手にHipo Jape、その後ろにKlausやKasim。Cena firmy Chládek a Tintěra, Pardubice a.s. - III. kvalifikace na VP (Stcc NL)を圧勝してきた人気のRabbit Well、一昨年の2着馬Nikasなどの実力馬、実績馬が構える。Ribelino、II. Kvalifikace na 125. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou (Stcc NL)を完勝しているZarif、フランスからの参戦馬Pasquini Rougeは中段から。その後の2連続障害は全馬無事クリアするも、直後の生垣障害で後方にいたAmaragonが落馬。相変わらずUniverse of Gracieはハイテンポで引っ張る。このあたりからHipo Japeは少しずつ後退。Kasimが番手を護るも、後方からRibelino、Pasquini Rougeが押し上げてくる。スタンド前のDropではこの2頭が先頭集団にとりつく。ここで後方にいたGauner Danonが躓き騎手が落馬... するかと思いきや、必死で馬の首にしがみ付き馬を止める。スタンドからは大歓声。このシーンは必見。ちなみに同シーンの写真は #NeverGiveUp とかいうタグとともに呟かれていた。

スタンド前を越え、その後の水壕だけ障害の2連続はやや水しぶきが後方で上がるも全馬無事クリア(多分後方にいたModena。あまりのペースにかなり余力をなくしていた)。このあたりからDropを越えるということで一旦ペースを緩めていたUniverse of Gracieはまたペースを上げる。Kasim、Ribelino、Pasquini Rougeあたりが付いていく。再度の連続障害は無事全馬クリア。この辺りから先頭集団にNikas、Klaus、Zarifあたりも取り付いてくる。馬群は2つに割れ、Universe of Gracie引っ張る先頭集団と、後方のかなり余力をなくしている馬がちらほら現れてくる集団に固まる。

いよいよレースも終盤。Stchに入り、Pasquini Rouge、Klausあたりは脱落。代わってZarif、Ribelino、そしてNikas辺りが逃げるUniverse of Gracieを追ってくる。最初に動いたのがNikas。Universe of Gracieが目の前の空馬に苦労しているところを、外から交わして果敢にも先頭に。これを必死で追うのがRibelino。Zarifは追走に苦労。Universe of Gracieはまだ余力が残っているもののここはあえて仕掛けない。Rabbit Wellは後方から追うもやや手ごたえが悪い。Kasim、Klausあたりは既に脱落。そしていよいよ最終障害。これを先頭で飛んだのがNikas。外からRibelino、内からUniverse of Gracie、後ろからZarif。しかしこれらの追撃を尻目に、Nikasが見事に逃げ切り勝利。2着には必死に追ったRibelino、3着にはZarif、4着には追って伸びなかったUniverse of Gracie。Rabbit Wellはかなり離れた5着まで。6着に途中まで先頭集団に食らいついたKasim、7着に後方から追い上げたLorain、8着はやはり後方にいたModena。それからTemplář、Pasquini Rouge、Klaus。これらが完走した馬である。なおHipo Jape、Orixは途中棄権。

 

Pardubice競馬場にある、Velká pardubickáの歴代勝ち馬を刻んだ石碑に新たな名前が刻まれることになった。ポーランドの土着血統から生まれたチャンピオン、世界の主たる血統からは程遠いものながらも、類稀なる持久力と強靭な精神力を持つ古豪Nikasである。一昨年のVelká pardubická s Českou pojišťovnou (Stcc L)の2着馬であり、近走こそ落馬などが続いていたが、ここで見事な復活劇を見せた。もっとも前走の落馬は不運なものであり、実績面から考えれば決して軽視できる存在ではなかったが、ここは人気の盲点となっていた。しかしUniverse of Gracieが作り出した超のつくハイペースを押し上げ、自ら最初にスパートして押し切る。見事な勝利だろう。10歳と比較的高齢だが、来年も楽しみな馬であることは間違いない。

Ribelinoもやはり人気の盲点となっていた。Velká cena města Pardubic XXIII.ročník - I. kval.na 125. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou (Stcc NL)でUniverse Of Gracieの2着、前走はCena společnosti AUTO IN, s.r.o. (Stcc II.kat.)を快勝と非常に調子の良い馬。しかしこの乱ペースを追走し、最後まで勝ち馬を追撃した力は侮れない。まだ若い馬だけに、これからの成長が非常に楽しみな馬である。

人気の一角Zarifも力は見せた。しかし強気に立ち回った1、2着馬と比べるとやや後方から追い上げた感は強く、最後も一杯になっていた。やや力量的には見劣るだろう。しかしその実力はやはり確かなものであり、この馬もチェコCross Countryの一流馬であることは間違いない。

そして言及しなければいけないのがこのハイペースの立役者、Universe of Gracie。前半からかなりのペースで引っ張り、最後まで我慢する持久力は圧巻の一言。序盤から先行した他の馬がバテている中、この馬だけが残っていることはその実力の表れだろう。惜しかったのがStchに入ってややペースを落としてしまったことだろうか。今年初戦をそのような勝ち方で勝っているだけに、そのイメージで乗ってしまったことが原因だろう。あそこで強気に引き離しにかかっていたらどうだったのだろう。完全に脚が上がった可能性はあるが。いずれにせよ、10歳ながらもここに来て急成長を遂げた馬。来シーズンも楽しみである。

その他負けた馬から何頭か。Rabbit Wellは初の大舞台、しかも乱ペースということで最後は一杯になってしまった。スピードに長けた馬ではあるが、さすがにここまでの持久力を求められると厳しいということだろう。しかしそれでも5着にくる実力は確かなものであり、9歳と年齢は重ねているが今後が楽しみな馬である。Kasim、Modena、Klausあたりは完敗だろう。また、フランスからの参戦馬Pasquini Rougeも見せ場を作ったが、最後は完全に脚が上がっての敗戦。フランス障害馬の強さを見せ付けるも、やはりここでは厳しかったかもしれない。もったいなかったのが昨年の2着馬Al Jaz。あの落馬さえなければ後方から案外脚を伸ばせた可能性はある。今シーズンは何かと不運続きで終わってしまったが、いずれも言い訳の出来る敗戦なので、来シーズンも軽視できない存在であることは間違いない。

 

いずれにせよ、「俺についてこれるか?」とも取れるような、挑発的な逃げを打ったUniverse of Gracie、それを「俺がチャンピオンだ」とでも言わんばかりに早め先頭から押し切ったNikas、必死に追ったZarifとRibelino。どの馬も自らの力を出し切っての結果だろう。どこまでも走っていくのではないかと思わせるような卓越した持久力、類稀なる精神力、そして難易度の高い障害を次々とクリアしていく高い飛越能力。どれもが素晴らしく、そして眩いばかりの迫力あるレースであった。チェコCross Countryの一流馬とは何たるかをまざまざと見せてもらった。今回見事な勝利を上げたNikas、完走した馬たち、そしてこの激しいレースに挑んだ全ての人馬に最大級の賛辞を送りたい。