にげうまメモ

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16/03/18 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

*Cheltenham Good

Cheltenham Festival最終日、Cheltenham Gold Cup Day。1年間待ちわびたこのお祭りも始まってしまえばあっという間である。また1年間、Cheltenham Festivalを楽しみに過ごす日々が始まる。しかし、あえてこのタグを使おう。#NotLongNow

 

JCB Triumph Hurdle (G1) 2m179y

4歳限定戦。昨年は破竹の勢いで連勝してきたPeace And Coが期待にそぐわぬ走りを見せた。これに対して今年はややこれといった中心になる馬がおらず、A P O'Brien厩舎のIvanovich Gorbatovが押し出された形の人気になっていた。

さて、逃げるのは人気薄のBig Mcintosh。かなり思い切った逃げを打ち、レースは4歳戦にしてはそれなりに流れる。好位からWho Dares Win、牝馬Apple's Jade、Let's Dance。人気のIvanovich Gorvatovは中段から。Leoncavalloは後方から馬群の中に。Ruby WalshのFootpadは後方の内。Big Mcintoshのリードは残り3障害でなくなり、同馬は余力をなくし後退。替わって抜け出してきたのは牝馬Apple's Jade。これを追うのがLet's Dance、Ivanovich Gorbatov。残り2障害でIvanovich Gorbatovが逃げるApple's Jadeに並びかけ、この反撃を1馬身差ほど抑え勝利。離れた3着には後方から追い上げたFootpadが入った。Let's Danceは遅れ4着。Leoncavalloは馬群を捌くのに苦労し、抜け出してからはもはや余力がなく5着まで。

Ivanovich Gorbatovは先日引退したJoseph O'Brienが管理する馬。何でも騎手時代の評判は散々だったようだが、今後は障害調教師を目指すとのことで、その門出を飾る勝利となった。これで同馬はHurdle3戦2勝。前走はFootpadに完敗の内容だったが、重馬場から良馬場に代わったことが良かったかもしれない。また、経験の浅い4歳馬を比較的スムーズに運んだB Geraghty騎手の手腕も見事であった。しかし、4歳戦にしては道中からそれなりに流れたレースにおいて、最後までしっかりと脚を伸ばせたパフォーマンスは評価してよいだろう。おそらく良馬場専門だろうが、今後に向けて楽しみな一頭である。

2着のApple's Jadeは牝馬ながら健闘した。Hurdleは2戦目だが、いきなりKnight Frank Juvenile Hurdle (G2)にてJer's Girlを下すという素質の高さを見せていた。その3着馬がFootpadというのだからレースレベルはかなり高かったのだろう。最後は勝ち馬のトップスピードにこそ屈したが、今後に向けて非常に楽しみな馬が出てきた。牝馬Hurdle路線はどうにもAnnie Power、Vroum Vroum Mag以下はぱっとしないので、なんとか今後頑張って欲しいところである。

Ruby Walsh騎手のFootpadは最内を立ち回っての4着。比較的スムーズに運んだ辺りは流石の手腕だが、この馬場で6馬身差は決定的だろう。Hurdle6戦5勝落馬一回という成績で挑んだLeoncavalloは馬群を裁くのに苦労した。ただし、これまで比較的緩い流れのレースしか経験していないという点がマイナスになったか。

 

Vincent O'Brien County Handicap Hurdle (G3) 2m179y

Great Fieldが逃げる展開。直後にMontabazonが第二障害で落馬するアクシデントがあり、落馬した騎手Wayne Hutchinsonの治療のため最終障害は迂回することになる。Fethard Player、Sternrubin、Francis of Assis、Starchitectなどが先頭集団。Superb Story、Kayg Bloncoなどが中段から。Wait For Me、Hawk Highなどが後方から。第4障害で後方に居たDicosimoが落馬。ハンデ戦らしくペースはミドル程度で進行、徐々に馬群が凝縮し、ペースが上がっていく展開。この中からFethard Player、Sturnrubinなどが抜け出すが、最終障害辺りから先頭に立ったSuperb Storyがそのまま押し切り勝利。

Superb Storyは勝ち鞍としてはC3のハンデ戦程度の馬だが、前走はG3でOld Guardの2着に入っていた。5歳と若い馬であり、4歳路線では一線級には太刀打ちできなかったが、今シーズンに入って力をつけているのだろう。ただし良馬場が味方した感は否めない。2着のFethard Playerは惜しい敗戦。この馬も良馬場が良いようだが、最後はトップスピードの面で勝ち馬に見劣った。最終障害を迂回することになったのもこの馬にとってはマイナスだろう。夏から使っている馬だけに力量はわからないが、次のシーズンオフを使うのであればそれなりの活躍が見込めるだろう。

G3勝ちのあるSternrubinは最後遅れ3着。Lil Rockerfellerの2着があるくらいの馬だが、どちらかというとやや渋ったSoft程度の馬場がよいのかもしれない。昨年のChampion Bumper (G1)の3着馬Wait For Meは後方から脚を伸ばすも4着まで。さすがにこのようなレースで後方に構えるのは厳しいものがある。また、レース経験もNoviceの下級戦のみであったことはややローテーションとして厳しかっただろう。ただし、これがいい経験になったと思われるので、平地のスピードは確かな馬、今後の活躍が楽しみである。

 

Albert Bartlett Novices' Hurdle (G1) 2m7f213y

普段はあまりメンバーが集まらない長距離Novice Hurdleなのだが、今年はなかなか豪華なメンバーが揃った。とりあえず逃げるのは人気のBarters Hill。1周目の入りこそそれなりに流れるが、やはり長距離戦らしくペースは緩む。好位からChampers On Ice、Allysson Monterg、Up For Review、Definite Outcome。中段からLong Dog、Shantou Village、Bleu et Rouge。後方からUnowhatimeanharry、Fagan、Balko des Flos。Bachassonは最後方に構える。第5障害の手前でLong Dogに故障発生、同馬は競争中止。レースはそのまま流れるも、2周目の下り坂辺りからペースは少しずつ上がる。Barters Hillは抵抗するも、Champers On Ice、Faganが襲い掛かる。最終障害までは何とか食らい付くも、ここに強襲してきたのがUnowhatimeanharry。最後はFaganに1馬身差をつけて差し切った。3着にはChampers On Ice。

UnowhatimeanharryはHarry Fry調教師の下に移籍してこれで5連勝という冗談みたいな成績を残している馬。良馬場実績としてはC3のハンデ戦のみであったが、24f戦の経験が豊富であり、かつ持久力と苦しくなってからの精神力に優れている点はこの経験の少ない馬の中では抜けていた。最後はかなりの持久戦になっているので、この馬の経験が生きたということだろう。Faganも勝ち鞍としてはC4のみだが、前走は24f戦を使ってO O Sevenの2着に入っていた。Softな馬場で耐えて来た経験はやはり最後の一踏ん張りに生きてくる。Champers On Iceも良馬場でShantou Villageの2着の経験があり、ここのところはHeavyな馬場で頑張ってきた馬である。

人気を集めたBarters Hillだが、最後は苦しくなり4着。3戦3勝で挑んできた馬だが、ここまでさほど苦しいレースをしていなかったのはマイナスだったのだろう。Bachassonはそもそもペースが上がった辺りから付いていけず最後落馬。24f戦は長い。同様にShantou Villageも残り3障害から遅れ途中棄権。この辺りは距離だろう。

なお途中競争中止したLong Dogは予後不良とのこと。Hurdle6連勝で挑んだ期待の一頭だったが、残念な結果に終わってしまった。同馬のご冥福を祈る。

 

Cheltenham Gold Cup (G1) 3m2f70y

本日のメインレース。そしてCheltenham Festival通じてのメインレース。

レースはHennessy Gold Cup (G3)で圧倒的なパフォーマンスを見せてきたSmad Placeが積極的に逃げる展開。しかしこれにRSA Chase (G1)の勝ち馬O'faolains Boyが絡んでいく。On His Ownは積極的に行こうとするがついて行けず中段から。ペースはミドル~ハイペースで淡々と流れる。昨年の2着馬Djakadamは好位の内、人気のDon Cossackは好位の外。Cue Cardはそれを見る位置から。遅れて末脚に定評のあるCarlingford Lough、Don Poli。ややペースに戸惑っていたのがIrish Cavalier。第16障害辺りからO'faolains Boyが仕掛けていき、Smad Placeは後退。しかし内から進出したDjakadamが残り4障害辺りから先頭に。Don Cossackがこれに絡んで行き、Cue Cardがこの間を縫って先頭に並びかける。O'faolains Boyは後退。しかし残り3障害でCue Cardがまさかの落馬。逃げるDjakadamをDon Cossackが残り2障害辺りで交わし去り、4馬身差の快勝。離れた3着には追い込んできたDon Poliが入った。

良馬場、ミドルペース、平均的位置からのスパート合戦というここ2年に比べれば比較的標準的なレースになった。Don Cossackは昨シーズンのRyanair Chase (G1)こそ直線の不利に泣いたが、その後のAintree、Punchestownから頭角を現し、結果として昨シーズン長距離Chaseにおける最高レーティングを獲得した馬、King George VI Chase (G1)は落馬という結果に終わっていたが、ここにきて最高のタイトルを手にすることになった。ただし、やはりここ2年ほどに比べて標準的なレースになった点は味方したことは否めないだろう。King George VI Chase (G1)はVautourが2周目から少しずつペースを上げていくロングスパート合戦で、最後は余力をなくしての落馬に終わっている。今回も最後はかなり脚が上がっているように、かなり一杯一杯の勝利だろう。逃げたのがSmad Placeというそこまで脚の速い馬でないこと、また非常に走りやすくスタミナの消費の少ない良馬場であることはこの馬にとって有利に働いたことは間違いない。

一方のDjakadam。昨年はConeygreeの作り出したハイペースを追走し、最後まで猛追する卓越したスピードの持続力を見せ付けた。今回もその能力を見せてくれたが、勝ち馬の一瞬のトップスピードにやられる格好となった。Ruby Walsh自身は天才的な勝負勘と神業に達する騎乗技術を持っているが、どちらかというと思い切った騎乗というよりは慎重に乗るタイプ。今回も勝負どころから無理に仕掛けて行くことなく、あくまで少しずつペースを上げていくといった仕掛けをした。最後までバテずに勝ち馬を追撃しているだけに、この仕掛けは結果的には間違いだろう。ライバルとなるDon Cossackはロングスパートに長けた馬ではないので、この馬の長所であるスピードの持続力と精神力を活かすため、より早めに逃げるSmad Placeを潰しに行ってもよかったかもしれない。

残り3障害で落馬に終わったCue Card。あそこはCheltenham New Courseの中でも最も難所とされる障害である。下り坂の途中に設置されており、ペースも上がりやすい位置。馬もそろそろ苦しくなってくる頃であり、落馬の多発する障害である。今回はそのちょうどペースを上げたところでの落馬となってしまった。King George VI Chase (G1)では自身の卓越したトップスピードとその持続力の復活を見せていただけに、悔やんでも悔やみきれない落馬となってしまった。Champion Bumper (G1)勝ちがあるほどトップスピードには長けた馬。あの落馬がなければ勝利まであっただろう。

その他。昨年のRSA Chase (G1)の勝ち馬で、今年もLexus Chase (G1)を勝利するなど調子の良さを見せていたDon Poliは後方から追い込むも離れた3着に終わった。残念ながら現状ではトップクラスとは差があるだろう。もっとも、ここまでの2戦はいずれもスローからの上がり勝負、特にLeopardstown競馬場は残り2障害程度からの上がり勝負になりやすいので、今回のような厳しい競馬には戸惑った可能性もある。特に残り3障害辺りからペースが上がった際に対応できなかったのは致命的だろう。これが良い経験になればよいのだが。4着のCarlingford Loughは前走Irish Gold Cup (G1)を勝利し復活ぶりをアピールしていたが、さすがにこのロングスパート合戦は厳しかった。どちらかというと一瞬の脚に長けたスタミナには不安のある馬で、Heavyな馬場も得意ではない。Softよりも良い馬場で、スローからの上がり勝負になりやすい競馬場(Leopardstownなど)で穴を開ける可能性はあるだろうが、現状ではこのクラスでは勝負にならないだろう。C2勝ちのみの実績ながら果敢に挑戦してきたIrish Cavalierは大健闘の5着。ややペースに戸惑う場面こそあれど、最後は脚を使っているようにバテてはいない。ペースに慣れてくれば重賞戦線でももう少しやれるかもしれないし、また超長距離への対応を考えた際にもこのパフォーマンスは評価できるだろう。

逃げたSmad Placeは大敗。この馬自身は一定のペースで走り続けるマラソンランナーであるだけに、他の馬にそれ以上の脚を使われてはどうしようもない。ここでは厳しいだろう。RSA Chase (G1)の勝ち馬O'faolains Boyは積極的な競馬を見せるも最後はバテて大敗。前走スピードの違いで勝ってきただけにそのイメージで乗ったのかもしれないが、さすがに前走とは相手が違う。また、苦しくなったときに抵抗できないのは今後を考える上でマイナスだろう。On His Ownはスピード負けし大敗。これは気にしなくていいだろう。やや歳をとってスピードの衰えが見られるのが気がかりである。

それにしても、Coneygree、Vautour、Road To Richesなど、展開の鍵を握るだろう馬がこぞって離脱したのは残念であったが、色々な可能性を考える上では面白い。例えばConeygree、Vautour、Road To Richesが揃って出ていたら、Coneygreeが確実に強烈なハイペースを作り出していただろう。これを追いかけるのがDjakadamとRoad To Riches。Smad Place、On His Own、O'faolains Boyは好位で追いかける程度だったか。その場合は距離不安のあるVautourやO'faolains Boyは後半から苦しくなる。Smad Place、On His Ownは付いていけず。Djakadam、Road To Richesは良馬場でどこまでやれるのかわからないが、確実に展開は向いただろう。Don Cossackも苦しくなると思う。面白いのがやはりハイペース耐性のあるCue Card。おそらくConeygeeとCue Cardの一騎打ち、これを追うのがRoad To RichesやDjakadamなどだったのではないだろうか。Vautourのみが参戦した場合も面白い。おそらくKing Georgeでのレース運び、及びSmad Placeのペースを考えると、今回のCue Cardのようなレース運びをするだろう。この場合はCue Card、Don Cossack、Vautourの三つ巴か。トップスピードで勝るVautourとCue Cardが優勢だとは思うが。

色々想像すると面白いが、これも競馬である。個性豊かなメンバーが揃い、それぞれの個性を出し、かつ道中の運・不運もあり、そして鞍上の微妙なさじ加減によって結果が変わる。これが競馬であり、その面白さなのだろう。その中でDon Cossackは自らの弱点を露呈しないレース展開の中、自らの武器を出し切って勝利した。確かにメンバー、展開、運など色々な要素が合っただろうが、それでも勝ちきるのはこの馬が名馬である証拠である。Cheltenham Gold Cupという、決して運だけでは勝てない、何かしらの強烈な武器を持った馬だけが勝利する由緒正しいレース。このレースを見事制覇したDon Cossackには最大級の賛辞を送るとともに、今後の活躍と他のライバルたちの対戦を心待ちにしたいところである。