にげうまメモ

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16/07/23 Jump Legend - Long Run -

*Jump Legend - Long Run -

初回のBlackstairmountainに引き続き、海外障害競馬における名馬を紹介してみよう企画第二弾。これを機に海外障害競馬にも興味を持って頂ければ幸いである。引退馬の方がやはり書きやすいのだが、出来るだけ現役馬や他の有名馬の話も織り交ぜていくので、色々とここから枝葉を広げながら調べてみると面白いと思う。

 

第二回は、英国障害競馬長距離Chaseにおける最高峰、Cheltenham Gold Cup (G1)を2011年に制したLong Run。また、長距離Chaseにおける一大レースであるKing George VI Chase (G1)を2010年、2012年と勝利した実績がある。このように、同馬は2011年から2013年の春にかけて英国障害競馬の長距離Chaseを牽引した超一流馬である。英国障害馬はかなり高齢まで活躍を続けることが多く、10歳を超えてからピークを迎える馬も少なくない。例えばGrand National (G3)は7歳以上という年齢制限がついており、10歳以上限定戦も数多く整備され人気を博している。それに対して、同馬は2011年時点で6歳という異例の若さで英愛障害競馬における頂点を極めた馬である。

しかし、8歳となり更なる活躍が期待されたはずの2013年の秋以降は精彩を欠き、11歳にて引退するまで、長く苦しい低迷を続けた。このように、同馬は若くして最高の栄光を掴み取りながら、その後に長く苦しい挫折とスランプを味わった馬である。トレードマークは大きなシャドーロール、長く手綱を取ったのはアマチュア騎手として有名なSam Waley-Cohen。そんな同馬の経歴を見ていこう。

 

・Long Run (FR)

Long Run Horse Pedigree

Owner:Robert Waley-Cohen

Trainer:Nicky Henderson / Robert Waley-Cohen 

 

調教師は何度か代わっているので。Long Runはフランス生産馬で、2008年にフランスでデビュー。3歳限定Hurdle戦を使い、デビュー戦こそ2着に敗れはしたものの、2戦目のListedは勝利。その後も3歳限定Hurdle重賞であるPrix Georges de Talhouet-Roy (G3)、Racing Post Prix Cambaceres (G1)と連勝。4歳となった翌年の5月からはChaseへと転向し、4歳限定ChaseであるPrix Maurice Gillois Grand Steeple-Chase 4 Ans (G1)を勝利と若くしてその才能を遺憾なく発揮する。

 

この活躍を鑑みて、オーナーであるRobert Waley-Cohen氏は英国移籍を決断する。移籍先は英国を代表する名伯楽、Nicky Henderson厩舎。初戦からいきなりBoxing Day (12/26)に行われる長距離Novice Chaseにおける一大重賞Feltham Novices' Chase (G1) (現Kauto Star Novices' Chase)を使うという非常に強気のレース選択。Noviceとは昨シーズンまでにHurdle / Chase、該当するカテゴリーにて未勝利の馬が当てはまるクラスであり、すなわち同レースは2009-2010シーズンにChaseにデビューし、その適性から長距離戦を選択した馬が目指してくる一大レースである。通常、英国移籍直後の馬は英国式障害に慣らすため下級条件戦から使うのが常識である。しかし、それだけ師は同馬の素質を高く買っていたということだろう。

Video | The Jockey Club

(リンク先はレース映像。なお同サイトにはRUK管轄のレース映像が置いてある。)

前半Huntingtonのレース映像が入っているが気にしてはいけない。Boxing Dayには英愛合わせるとものすごい数の開催が集中する。そのため、中継はよくこのような二画面表示になったりする。だいたい5分間隔でレースを組む方が無理がある。

障害の高さ・幅とともに非常に巨大であり、確実に飛越する必要がある英国式Chaseと比べると、フランス式Chaseはどちらかというとスピードを要求するものが多い。これは日本のように掻き分けて飛越する必要があるもの、巨大な水壕障害、また途中にHurdleが設置されていたりと障害が多様であることに由来する。さて、同レースにおいてLong Runは序盤は引っ掛かり、飛越を散々ミスしたりと若さを覗かせながら、これから長くコンビを組むことになるSam Waley-Cohenを背に13馬身差の大楽勝。実況も言っているように、まさにフランスから来た若き大物が鮮烈な英国デビューを飾ったレースと言ってもいいだろう。

同馬はその後のKingmaker Novices' Chase (G2)も大楽勝。続いて、英国障害競馬の祭典、Cheltenham Festivalに行われる英国長距離Novice Chaseの最高峰であるRSA Chase (G1)に向かい、そこでも2番人気に押されたが、Weapon's Amnestyの3着と敗れる。同レースはどちらかというと、Noviceらしく道中は慎重に飛越し、最後の数障害での勝負に掛ける上がり勝負。比較的一瞬のスピード能力という点では見劣る同馬にとっては厳しい展開だったのだろう。

 

2010-11シーズンはPaddy Power Gold Cup (G3)から始動。ここでは軽ハンデ馬に足元をすくわれ、3着と敗れる。しかし次に選択したのが英国長距離Chaseにおいて、Cheltenham Gold Cup (G1)と双璧を成すとされる最高峰のG1である、King George VI Chase (G1)。そこには現役最強馬、英国障害競馬の歴史においても燦然と光り輝く戦歴を持つKauto Starが登録していた。

Kauto Starは生涯にしてG1を16勝、うちCheltenham Gold Cup (G1)を2勝、King George VI Chase (G1)を5勝もした伝説的名馬。飛越自体は決して上手な馬ではなかったが、その化け物じみた持久力とスピード、他馬を圧倒する身体能力と精神力にて、12歳になるまで英国長距離Chaseの王者に君臨し続けた馬である。危うさを秘めた飛越と卓越した才能は多くのファンを熱狂させ、虜にしてきた。当然のことながら、2010 King George VI Chase (G1)においてもKauto Starは圧倒的一番人気を集めていた(なお本来12月末に行われるレースだが、延期のため開催自体は2011年1月)。これに若き挑戦者のLong Runがどこまで太刀打ちできるか、といった下馬評であった。

レースは葦毛のNacaratが逃げる展開。シャドーロールをつけたKauto Starは好位の外。Long Runも好位の真ん中に構える。スタンド前を過ぎる時の大歓声がこのレースの盛り上がりとKauto Starの人気を物語っているだろう。2周目からLong RunがNacaratにプレッシャーをかけていく。これを追うのがKauto Star。後続はRiverside Theatreを残して脱落。Kauto Starは一時は手ごたえが悪くなるも、抜け出しかけたLong Runを追ってくる。しかし残り2障害でKauto Starが大きなミス。ここでLong Runが完全に抜け出し、Riverside Theatreに10馬身差をつけて圧勝。興奮した実況がその新たなチャンピオンの誕生の衝撃を物語っているだろう。

この勝利を受けて陣営は、次なるレースとして長距離Chaseの最高峰、Cheltenham Gold Cup (G1)を選択。英国障害競馬のほぼ全ての路線におけるG1が開催されるのが3月に行われるCheltenham Festivalであり、ここで勝つことは"Festival Winner"として大きな名誉になる。その中でもCheltenham Gold Cup (G1)はFestival最終日のメインレースとして行われ、4日もの間、英愛障害競馬ファンを熱狂の渦に引き込むCheltenham Festivalの中でも最も人気を博するレースである。

しかし、ここに集まってきたメンバーは決して容易い相手ではない。2011 King George VI Chase (G1)では残り2障害でのミスで敗れたKauto Starが雪辱を期して参戦。また、その好敵手として"The Tank"の異名をとったDenmanもまた参戦。DenmanはCheltenham Gold Cup (G1)をはじめG1を4勝もした名馬である。さらに、昨年(2010)Cheltenham Gold Cup (G1)でDenmanを下して勝利したImperial Commander、のちにGrand National (G3)にてSunnyhillboyを死闘の末に下す葦毛の怪物Neptune Collonges、シャドーロールと頭の高い走法、後方から捲り上げていく戦法で人気を集めたベテランのTidal Bay。ほかにもHennesy Gold Cup (G1)を勝利してきた上がり馬Kempes、Bowl Chase (G1)の勝ち馬What A Friend、4連勝で挑んできたCheltenham競馬場を得意とするMidnight Chaseなど、非常に豪華なメンバーが揃っていた。

レースはMidnight Chaseがスローで逃げる展開。1周目こそ大きな動きはなく、馬群は凝縮して進行するが、2周目の入り口でKauto Starが早めに先頭に立つ。これを楽逃げさせまいとプレッシャーをかけるのがChina RockとImperial Commander。これを追うのがLong RunとDenman。レースは徐々にペースが上がり、少しずつ脱落する馬が出てくる。コースの最高地点を越えた辺りからChina Rockは脱落。その直後にImperial Commanderもミスをして脱落。ここから外からDenmanがKauto Starに並びかけ、これをLong Runが追う。残り2障害でDenmanとKauto Starの叩き合いにLong Runが参戦、これを外から交わし最終障害で先頭に立つ。死力を尽くして食い下がるDenmanを突き放し、Long Runが7馬身差をつけて圧勝した。Kauto Starは最後力尽き3着。

何度見ても凄いレースである。バケモノKauto Starに絡んでいったのはImperial CommanderとChina Rock。この2頭は結局力尽きて途中棄権という結果に終わっている。Kauto Starですら最後脚が完全に上がり、それを力で捩じ伏せに行ったDenmanもまた死力を尽くしてゴールへと歩を進めている。歴史に名を残す名馬たちが、英愛障害競馬における現役最強クラスの馬たちが、全てを出し切り最後は精神力だけでゴールへと向かう、まさに文字通りの死闘である。この戦いをその類稀なる持久力と精神力で制したLong Run。それはまさに新たなチャンピオンの誕生、歴史的名馬の誕生を予感させるものであった。

 

更なる飛躍が期待されたLong Runであるが、2011-12シーズンの初戦であるBetfair Chase (G1)はKauto Starから離された2着、連覇をかけて挑んだKing George VI Chase (G1)もまたKauto Starの後塵を拝する結果に終わる。

これがKauto Starである。決して飛越は安定しないながらも、その圧倒的な身体能力と心肺機能、卓越した持久力と精神力、そしてスピード。その高いポテンシャルで他馬を圧倒する、危うさを同居させたそのパフォーマンス。これはKauto Starの5回目のKing George VI Chase (G1)制覇となる。下馬評ではLong Runの方が上だが、その人気は決して下馬評だけでは判断できないということがKauto Starの飛越の度に沸き起こる歓声が物語っている。

Long Runは続くDenman Chase (G2)こそ格下相手に辛勝したものの、連覇をかけて挑んだCheltenham Gold Cup (G1)では悲運の名馬Synchronisedの3着に敗れる。

Long Run自身非常に精神的に強いところがあるため、やや行きたがって走る部分があるが、決して瞬間的なスピード能力に長けた馬ではない。むしろそのスピードの持久力、精神的な強さを生かして勝負する馬である。このレースでは最後までThe Giant Bolsterの前が空かずに、漸く前が空いたところではスピードで勝るSynchronisedが完全にエンジンをふかしているといった状態。やや不完全燃焼な敗戦であった。ちなみにThe Giant BolsterはCheltenham競馬場でしか走らないことで有名な馬である。

 

再起をかけて挑んだ2012-13シーズンの初戦Betfair Chase (G1)だが、ここでは上がり馬Silviniaco Contiの2着に敗れる。シーズン初戦は全体的に大事をとってスローで流れることが多く、比較的ペースが流れて持久戦になった方が強みを発揮する同馬にとっては辛い展開だろう。次には昨シーズンと同じく、King George VI Chase (G1)に向かうことになる。Kauto Starが引退した今、同馬に掛かる期待は大きく、ここでも一番人気に押されることになる。しかし、その前に立ちはだかったのは、同馬にとって初の経験となるHeavyという馬場だった。

そもそも水はけが非常に良い日本の馬場と異なり、欧州の馬場は水はけが悪い。大雨で競馬場が池になって開催延期になるのは冬のイギリスやアイルランドではよくある光景である。英愛の馬場はHard-Firm-Good-Soft-Heavyの順に悪くなり、よくSoftを重馬場、不良馬場と考える人は多いが、SoftとHeavyとでは日本の良馬場と不良馬場くらいの違いはある。Softでは走るがHeavyでは全く走らないという馬もいれば、その逆もある。高い飛越能力と持久力を要する英愛障害競馬において、当日の馬場は非常に重要な要素である。

どれだけ厳しく重い馬場かは、最後歩くように入線している馬たちの姿からも推し量れるだろう。レースはChampion CourtとJuniorが引っ張る流れ。2周目からLong RunはChampion Courtにプレッシャーをかけ、残り3障害辺りで必死の抵抗を試みるChampion Courtを競り落とす。しかしここから忍者のように忍び寄ってきたChaptain Chrisが猛追。最終障害では飛越の上手さで一旦は前に出る。しかし、ここからLong Runが死力を尽くした猛追。通常の馬であれば諦めているほどの疲労と決定的な差、もはや足を上げることすらままならない中、精神力を振り絞ってChaptain Chrisを追う姿。そこにはただひたむきにゴールを目指す英国一流障害馬の姿があるだろう。この勇敢な姿は"the most gripping finish of recent times"とのちに評された。なお同レースに出ているCue Cardはのちに骨盤骨折を乗り越えKing George VI Chase (G1)を制した名馬。Kauto StoneはKauto Starの弟である。

 

しかし、これが大舞台でLong Runが自身のパフォーマンスを最大限に発揮し、勝利をもぎ取った最後のレースとなってしまった。次のCheltenham Gold Cup (G1)はやや疲れがあったのか、得意の展開に持ち込みながらもBobs Worthの3着。Bobs Worth自身は苦しくなってからの鋭い伸び脚を武器とする馬であり、これにやられた格好だろう。

その後のPunchestown Gold Cup (G1)ではCheltenham Gold Cup (G1)で2着に入ったSir Des Champsに惜敗。やや不甲斐ない形で2012-13シーズンを終えることになる。

 

2013-14シーズンはいつも通りBetfair Chase (G1)から始動。しかし、ここではスピード能力に長けたCue Cardから離れた5着と大敗を喫する。再起をかけて挑んだKing George VI Chase (G1)でも飛越が安定せず、最後は落馬という結果に終わってしまう。英愛障害馬は基本的に最初はHurdleを使い、飛越の上達とスピード能力の衰えによってChaseへと移行する場合が多い。同馬もスピード能力に衰えが見られたと判断されたのか、この時点で同シーズンの大目標をCheltenham Gold Cup (G1)ではなく、Grand National (G3)へと切り替える。Grand National (G3)ではスピード能力はさほど要求されず、むしろ通常のChaseよりも難易度の高いNational Fenceをこなす高い飛越能力と、英愛障害競馬における最長距離を走りぬく持久力、多少のミスでもへこたれず、次の障害へと立ち向かっていく強い精神力が要求される。少なくとも持久力と強い精神力という点では素晴らしいものを持っていた同馬だが、さて。

やっぱりやらかしたよLong Run。基本的に綺麗な飛越を見せる時は綺麗なのだが、どうにもポカがあるので信用できない。スタート直後から勇敢にも前に出てくるも、Valentine's Brookで早々に落馬。幸い馬に異常はなかったようだ。なんでも馬が障害をナメて飛んでいたとのこと。

なおさりげなくBurton PortとかTidal Bayとかいるわけだが、気づいて頂けただろうか。ちなみに序盤で早々に落馬している。Tidal Bayに至っては先頭を頑張って走るAcross The Bayに迷惑をかけている。Across The Bayは完走を果たしているだけに気の毒すぎる出来事である。

 

その後はPunchestown Gold Cup (G1)を使うも、スピード能力に長けたBoston Bobから離された3着と敗れる。何とかもう一花咲かせたいと考えていた陣営はフランス遠征を決断。フランスChaseの最高峰、Grand Steeple-Chase de Paris (G1)へ参戦する。

なお、ここでは騎手免許の関係で、いつも手綱を取っていたSam Waley-Cohenではなく、アイルランドを代表する障害騎手Ruby Walshが騎乗している。Long Runは途中までは好位で追走。しかし2回目の大水壕障害から遅れていき、結果先頭とは大きく離された9着と大敗する。フランスChaseはイギリス・アイルランドのものとは異なり、比較的スピードを要求するものが多い。若いころのLong Runにとっては得意としていた舞台であったかもしれないが、現在のLong Runには厳しいものだったのだろう。

 

かつてKing George VI Chase (G1)、Cheltenham Gold Cup (G1)を若くして勝利したLong Run。Kauto Star、Denmanといった歴戦の名馬を渡り合ってきた兵である。年齢的に障害馬としての寿命はまだまだあるはずであり、その高いポテンシャルを考えればもう一花咲かせるだけの可能性は十二分に秘めていた。しかし、年齢とともに衰えてきたスピード能力、そして元々さほど高くない飛越能力。どちらかというと類稀なる精神力と持久力にて他馬を捩じ伏せてきた馬だけに、その目標はやはりスピード能力を比較的必要としないGrand National (G3)を目指すと言われていた。しかし、往年の出来にはないとして調子も上がらず、何度も復帰の報が出されてはそのまま立ち消えになるという状態が続いていた。2014年のパリ大障害を最後に、Long Runはターフから姿を消す。

 

ようやく戻ってきたのが2016年の3月。Carlisle競馬場のHunters' Chaseである。英愛障害競馬においてアマチュア騎手は数多く存在し、主戦となるSam Waley-Cohenもアマチュア騎手である。有名なところであると、五輪金メダリストのVictoria Pendletonもまたアマチュア騎手としての活動を行っている。そのようなアマチュア騎手を対象としたレースがHunters' Chaseである。ここではペースを落とすため通常よりも重い斤量でのレースが行われており、出走馬は様々であるが比較的経験を積んだ馬が多い。スピード能力に陰りが見えるLong Runにとっては格好の復帰戦であった。

Video | The Jockey Club

大きなシャドーロール。鞍上にはいつものSam Waley-Cohen。気持ちの強さからかやや引っ掛かり気味の道中。相変わらずポカのある飛越。この姿に往年のLong Runを重ねたファンも多いだろう。しかし、中盤から14歳のOckey De Neulliacに絡まれてからは全く抵抗できず。結局勝ち馬のRobbieから大きく離された5着に終わった。この敗戦の直後に陣営から引退が表明された。また、鞍上のSam Waley-Cohenは馬を十分に追わなかったとして、BHAからペナルティを課されている。これにはSam Waley-Cohen自身も抗議し、それに賛同する声が大きく広がった。

 

若くしてKauto Star、Denmanといった強敵相手に勇敢に立ち向かい、類稀なる持久力と強い精神力をもってしてCheltenham Gold Cup (G1)を制覇し、英愛障害競馬長距離Chaseの頂点に立ったLong Run。しかしそのキャリアの後半は、自らの能力の変化と限界等に苦しめられたものであった。栄光と挫折、その両方を味わった馬である。その苦しい戦いはファンの中からも引退を要求する声も上がっており、最後のレースにおけるSam Waley-Cohenの一件はどこかそのような寂しさを感じるものである。しかし、どのような逆境にもへこたれず、どれだけ苦しくなろうとも前を向き、ひたすら次の障害に立ち向かっていくその姿は、一頭の勇敢な障害馬のそれだろう。その姿はSam Waley-Cohenという一人の騎手とともに記憶されていくに違いない。同馬が幸せな余生を過ごしてくれることを祈るのみである。

 

以下参考資料。

・英愛障害競馬入門

グランドナショナル解説(2014年解説と称した駄文つき)