にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

16/12/31 Worldwide Jump Racing Ten Breaking News

*2016年障害競馬ニュース10

去年に引き続き、2016年の障害競馬関連ニュースでも振り返ってみようキャンペーン。レース映像のリンクなど多めに貼り付けているので、文章はともかくレースを観るだけでも面白いかもしれない。正月のお供にでもどうぞ。なおニュースは独断と偏見で選んでいるのであしからず。

下のリンクは去年のもの。長文ご容赦。同じくこちらにも色々と映像リンクを載せている。

 

 ・The Resurrection of Sprinter Sacre - The Impossible Dream Comes True - (UK)

やはりまずはこれだろう。Sprinter Sacreは英国短距離Chaseにおける伝説的名馬。その戦歴の凄まじさは24戦18勝という数字が物語る以上のものがある。2011年の冬にChaseデビューすると、そこからは楽勝に次ぐ楽勝で10連勝。その中には短距離Chaseにおける歴代の一流馬相手のものも数多く含まれている。しかし、2013年の冬に心臓の問題で競争中止、2013-14シーズンは全休、2014-15シーズンに待望の復帰を果たすも全盛期の走りを取り戻すには至らず、精彩を欠いていた。

しかし2015年の冬のShloer Chase (G2)で久々の勝ち星を上げると、続くDesert Orchid Chase (G2)では2013-14シーズンの短距離Chaseのチャンピオン、Sire De Grugy相手に勝利。そして迎えたのが英国短距離Chaseの最高峰、2016年3月16日のQueen Mother Champion Chase (G1)であった。

レース映像:http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20160316/2582268/15382086

昨年の3着馬Special Tiaraが猛然と逃げる展開。これを追いかけて人気を背負った新星Un De Sceaux、Sprinter Sacre。2014-15シーズンの短距離ChaseチャンピオンDodging Bullets、2013-14の同チャンピオンSire De Grugy、中山GJにも登録があったFelix Yongerは後方から。ハイペースを作り出したSpecial Tiaraの前に各馬が次々と脱落するも、Sprinter Sacreは残り3障害を越えて敢然と先頭に立つ。そのまま抵抗するUn De Sceaux、Special Tiaraを抑えきって勝利した。

不死鳥の如き怪物の復活劇。Sprinter Sacreを管理し、この名馬を支え続けた人々の努力が実った瞬間。そして全てを出し切った強豪たちを上回る最高のパフォーマンス。アイルランドの名伯楽で2着のUn De Sceuaxを管理するWillie Mullins師はこの勝利をこう評している。"It's a winner for Racing"。これはSprinter Sacreの、Sprinter Sacreに関わった全ての人の、獣医医療の、そして競馬全てのための勝利である。Sprinter Sacreを管理するNichy Henderson師はレース後にこう述べた。"Dreams do happen, It's unbelievable."

その後が期待されたSprinter Sacreであったが、腱の故障により2016年11月13日に引退が発表された。同馬を管理し、引退の会見の際は涙を浮かべるほど深く愛したNicky Henderson調教師の言葉を紹介したい。

"His ability and charisma go together. He is the epitome of the horse who looks the part, moves the part and is the part. Life will have to go on without him. It has been such an emotional time over the last five or six years but I have loved every minute of it." 

 

なおこの話は本になってる。

Sprinter Sacreの僚友Simonsigの話。かわいい。

 

・Mighty Mare Kick Back dominates Great Northern (NZ)

ニュージーランドSteeplechaseはGrand National Steeplechase (Prestige Jumping Race:PJR)、Great Northern Steeplechase (PJR)の二つを頂点として行われる。Ellerslie競馬場で行われるGreat Northern Steeplechase (PJR)は距離6400mというニュージーランド障害の中では最長クラスであり、Stand DoubleやWaterといった計25の難易度の高い障害、さらにEllerslie Hillを3回上り下りするという厳しいコース設定も相まって、毎年非常に激しいレースが展開される。しかし2016年、このGreat Northern Steeplechase (PJR)を勝利したのは400kgにも満たない小さな牝馬、Kick Backであった。

レース映像とか:http://www.nzracing.co.nz/RaceInfo/45279/6/Race-Detail.aspx

2014年の同レースの勝ち馬Amanood Ladが淡々と逃げる展開。Eric the Viking、Upper Cutなどがこれを追いかける。Kick Backは例によって後方に構える。Kick Backは3周目のEllerslie Hillの下りから一気に内から進出すると、必死の反撃を見せるAmanood Ladを抑えて勝利。3着にはZed Caseが入った。

Kick BackはこれでPakuranga Hunt Cup (PJR)から重賞2連勝となる。それにしてもAmanood Lad、Snodroptwinkletoes、Upper Cutなどといったニュージーランド障害競馬の一流馬が揃った中、後方から一気にぶち抜く圧巻のパフォーマンスだった。Ellerslie競馬場の厳しいコースを耐え抜く持久力と飛越技術、そしてスピード能力。後方から捲りをかけるのがこの馬のスタイルであり、やや勝負所の飛越にこそ注文はつくのだが、それでも記憶に残る走りであることは間違いないだろう。ニュージーランド障害のトップジョッキーShaun Fannin騎手の手綱捌きも素晴らしいの一言である。

ニュージーランド障害競馬は実績に応じて斤量が加算されるシステムであるため、斤量増を気にしてKick Backはこれで引退とのこと。その子供の活躍に期待したい。

なお3着のZed Caseは英Grand National参戦を将来的には目指すとの話もある。

 

・Jan Faltejsek makes all for his fourth winning of Velká pardubická (CZE)

チェコ障害競馬の頂点に位置するVelká pardubická s Českou pojišťovnou (Stcc L)。いわゆるヴェルカ・パルドゥビツカ、チェコのあれ。6900mというチェコ障害競馬最長距離、Velka Pardubikaでしか使われないVelký Taxisův příkop / Taxis Jump(高さ150cm、幅180cmの生垣障害の後ろに、深さ100cm、幅400cmもの空壕を設置)に代表される計31の多彩な障害という世界最難関とすら言われるコースであり、非常に厳しいレースとなることが知られている。これを騎手として計8回制覇したのがJosef Váňa。1952年生まれだが現役で騎手として騎乗しており、さらに近年ではチェコを代表する調教師としても名を馳せている。これを追いかけるのがドイツのPeter Gehm(4回)、チェコのVáclav Chaloupka(4回)であるが、2016年はこの歴代2位の勝利数に並ぶ騎手が現れた。チェコの名手Jan Faltejsekである。

Jan Faltejsekは1983年生まれ、2012-14にかけて名牝Orphee des Blinsで3連覇した騎手。2016年は上がり馬Charme Lookで挑むことになった。これに対するのが2015年に1位入線を果たすもその後禁止薬物が検出されたとして失格となった悲運の名馬Nikas、実績馬Rabbit WellとZarif、Lysá nad Labemで頭角を現してきた新星Ange Guardianなど。

動画はPardubice公式のもの。チェコ国営テレビのは2016 Velka Pardubickaで検索。

人気の一角Rabbit Wellが発馬拒否するアクシデント。Charme Lookは途中こそ葦毛のTer Millに先頭を譲る場面こそあったものの、Taxisを越えたのちのIrish Bankから先頭に立つと、残り2障害から迫ったAnge Guardianを競り落として勝利した。Zarifは3着、追い込んだPuntarenas、Hegnusが4、5着。Ter Millはやや足が上がり6着。

以前は多頭数で落馬も多かったVelka Pardubickaだが、最近は出走馬も精鋭に絞られ完走頭数も多くなっている。また、今年から負担重量が70kgとなったこともあり、各騎手かなり慎重に乗ったようだ。Charme Lookは以前こそIrish Bankでのミスがあった馬だが、最近はそのようなポカもなくなり障害馬として完成の域にある。Jan Faltejsekは先行馬に乗ったときはその馬に合った絶妙のペースを作り出し、最後まで足を使い切ることのできる名手。今年のVelka Pardubickaでも、序盤に引っ張ったUniverse of Gracieに惑わされることなくCharme Look自身のペースで走らせ、その最大限のパフォーマンスを引き出すことに成功した。人馬ともにまだまだ若く、これからのより一層の活躍が楽しみになるだろう。

 

Velka Pardubickaの紹介。

チェコの名牝Orphee Des Blinsの話。

 

・Sergeant Thunder roars at Wielka Wrocławska (POL, CZE)

ポーランド競馬というとほとんど馴染みはないと思うが、ポーランドダービー馬CacciniがGrosser Preis von Berlin (G1)に参戦したり(ドスローで引っかかって5着)、ポーランド3冠馬ポーランドのFrankelとか呼ばれているVa Bankがドイツ重賞Preis der Sparkassen Finanzgruppe (ex Spreti-Rennen) (G3)を勝っていたりと、なんだかんだで頑張っている。障害はWrocławとSłużewiecで行われており、Wrocławでは開催によっては半数以上が障害競馬とそれなりに盛んなようだ。そんなポーランド障害競馬の最高峰となるのがWielka Wrocławska Nagroda Portu Lotniczego Wrocław。距離は5000m、池の中を突っ切る障害や小型の飛び乗り台と見せかけて上がダートになっている障害など、Wrocławの障害を目一杯使ったコースとなる。2016年の同レースを制したのは新星Sergeant Thunderだった。

The Final Countdown。なんでここで使われているし。

Sergeant Thunderが逃げる展開。これを追いかけて連覇を狙うDelight My Fireを筆頭にLingarry、Jam Taki。徐々にペースを上げるSergeant ThunderをDelight My Fireが追ってくるが、残り2障害で脚色が一杯に。そのままSergeant Thunderが逃げ切り勝利した。

Sergeant Thunderはもともとは英国障害を走っていた馬だが、今シーズンからチェコに移籍、スロバキアのHurdle戦を経て3連勝。Delight My Fireはチェコ調教馬だがポーランドで頭角を現してきた牝馬。WrocławにてWrocławska Trialを勝利してここに挑んでおり、その後はPardubiceにてCena společnosti VCES a.s. - Cena Labe (Stcc L)、SlušoviceにてMercerdes-Benz Velká slušovická steeplechase (Stcc I kat.)を勝利、チェコを代表してCheltenhamのGlenfarclas Cross Country Chaseにも挑戦している名牝である。この馬のその後の活躍を考えると、Sergent Thunderはポーランドを足掛かりに今後の活躍が非常に楽しみとなる馬だろう。ポーランド障害競馬の可能性を感じさせるレースである。

 

・Mazhilis remonstrates with huge upset at Gran Premio Merano (ITA, CZE, FR, GER, IRE)

イタリア障害競馬はMerano競馬場を中心として主に春から秋の間に行われ、Steeplechaseにおけるその頂点となるのがGran Premio Merano (G1)である。ここにはイタリア調教馬は勿論のこと、チェコ、フランス、アイルランド、ドイツなどから多数の参戦馬が集まり、非常にハイレベルで興味深い国際障害競走となる。コースとしては距離5000m、計24の障害を越えることになる。イタリアMerano競馬場のSteeplechaseは馬の頭の高さほどもある非常に巨大な生垣障害が特徴的である。

人気となっていたのがアイルランドのAlelchi Inois。これを追いかけてフランスのAllen VoranとChiffre d'Affaires。そのほかドイツのFalconettei、イタリアのDominato、High Master、Nelly Darrier、Larsen Bay、チェコのAlpha Two、Mazhilis、Fafintadenient、Alcydon Fanが参戦していた。

Chiffre d'Affairesが思い切った逃げを打つ展開。スタート直後の障害でFalconettei、Dominatoの2頭が落馬。Larsen BayがChiffre d'Affairesを追いかけていくが、途中の生垣障害でChiffre d'Affairesは落馬。代わってLarsen Bayが先頭に立つも早々に脱落し、途中からMazhilisが先頭に。Allen Voran、Alelchi Inois、Fafintadenientがこれを追う。一旦は置いて行かれたAlelchi Inois、余力を無くしたFafintadenientを残してMazhilisがペースアップ。Allen Voranの追い上げを凌いで勝利した。

Mazhilisはほぼ最低人気に近い馬だが、フランスのChiffre d'Affairesがやや強引に引っ張り、Larsen Bayをはじめ後続も前掛かりになる中、各国の強豪を抑えきる強い競馬。チェコから参戦した馬でほとんどイタリアでは実績がなかったが、これはイタリア障害競馬における新星の誕生と言っていいだろう。イタリア障害競馬は比較的スローで流れることが多いが、このようなペースで耐え抜いたパフォーマンスは今後が楽しみとなるもの。イタリア・チェコ障害競馬において、来年に向けて非常に収穫のあるレースであったことは間違いないだろう。

 

Ruby Walsh governs the National (USA, IRE)

Ruby Walshはアイルランド障害のトップジョッキー。ここ12カ月ほどの勝率は36%と驚異的な数字を誇る。謎の白髪が強烈な貫禄を出しているが現在37歳。2000年にはPapillonでGrand Nationalを制覇、Irish Grand NationalもNumbersixvalverdeとCommanche Courtで2回、Welsh Grand Nationalは2004年にSilver Birchにて勝利、Scottish Grand NationalもTake Controlで勝利と各地の大レースを勝ちまくっている。ちなみにこの4つのNationalを全て制覇した騎手は現役ではRuby Walshのみとなっている。

その活躍は英愛のみにとどまらず、昨年はオーストラリアに遠征しBashboyにてBallarat競馬場のGrand National Steeplechaseを勝利、日本でもBlackstairmountainに騎乗し中山グランドジャンプを制覇している。2016年はアメリカFar Hills競馬場に遠征し、Rawnaqに騎乗しGrand National Hurdles Stakes (G1)を制覇するという快挙を達成した。

なおRawnaqはもともとアイルランドで走っていた馬だが、2015年から米国に移籍、Iroquois Hurdle Stakes (G1)ではアイルランドから挑戦したShaneshill、Nochols Canyonを返り討ちにする勝利を挙げている。

The 2016 Calvin Houghland Iroquois (Grade I) Hurdle Stakes on Vimeo

その後に挑んだColonial Cup Stakes (Hurdle G1)ではTop Strickerの2着と敗れているが、来年のCheltenham Festivalに参戦するプランもあるそうだ。

 

・Thistlecrack First Novice Winner of King George VI Chase (UK)

Boxing DayにKempton Parkにて行われるKing George VI Chase (G1)はCheltenham Gold Cup (G1)に並ぶ長距離Chaseの主要レースとして行われる。歴代の勝ち馬もKauto Star、Long Run、Kicking Kingをはじめ英愛障害競馬を彩る名馬たちである。一方でNoviceとは前シーズンまでに当該カテゴリー(Hurdle / Chase)にて勝ち鞍がない馬のことであり、障害シーズンは10月末から始まるため12月にいきなりNovice馬がこのような大レースに挑むことは考えにくい。しかし、2016年の同レースにおいて、並み居る強豪を抑えて勝利したのは2016-17シーズンにおいて史上最強クラスとも言われるNovice馬、Thistlecrackであった。

レース映像:http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20161226/2653615/15861730

Thstlecrackは2016年World Hurdle (G1)の勝ち馬。2015年から長距離Hurdleにて頭角を現すと、そこからは圧勝に次ぐ圧勝。2016-17シーズンからChaseに転向していた。Chase転向後もその期待に違わぬ走りと高い身体能力を生かした見事な飛越を見せ、Noviceクラスでは連勝。満を持してKing George VI Chase (G1)に参戦していた。

一方でメンバーは少ないながら強敵揃いである。2015年の同レースの覇者でBetfair Chase (G1)を勝利し、長距離Chase3冠を狙うCue Cardを筆頭に、2013-14とKing George VI Chase (G1)を連覇したSilviniaco Conti、昨年のKauto Star Novices' Chase (G1)の勝ち馬Tea For Two。Peterborough Chase (G2)を快勝してきた素質馬Josses Hill。これらの並み居る強豪を、相手にThistlecrackは残り3障害辺りからの一気のスパートで快勝劇を演じて見せた。

飛越はまだまだ粗削りな部分はあるが、それでも高い身体能力から繰り出される飛越は大きな可能性を感じさせてくれるものである。また、その心肺能力も図抜けており、一瞬のスピードを生かした機動力、スピードの持続力。レースに必要な能力のいずれをとっても超一流のそれである。Open Ditchでの飛越、やや積極果敢な気性など課題はあるが、課題を一つ一つ改善させていく陣営や鞍上の手腕も素晴らしい。超一流の能力を持った馬が超一流になっていく過程を見ることが出来る幸せなシーズンなのではないだろうか。

 

・Joseph O'Brien makes Impressive National Hunt Trainer Debut (IRE)

アイルランドを代表する調教師Aidan O'Brienの息子であるJoseph O'Brienは、CamelotやAustraliaに騎乗しDerby Stakes (G1)を勝利するなど、若くして騎手としての実績を上げてきた。2012年、13年にはIrish Champion Jockeyのタイトルを獲得している。しかし2016年には騎手を引退、Aidan O'Brienの管理馬の中から主に障害馬を引き継ぐ形で6月から調教師デビューすることになった。初めての出走は6月6日であったが、ここではいきなり計4勝を挙げる固め打ちを決めることになる。

アイルランド障害競馬において有力なのがWillie Mullins、Gordon Elliot厩舎であり、特にWillie Mullins厩舎は海外にも積極的に遠征し、数々の大レースを制している。これに続くのがNoel Meade、Henry De Bromhead。Joseph O'Brienは12月29日現在ではMrs John Harringtonに次ぐ6位、計25勝を挙げている。管理馬の中にはJCB Triumph Hurdle (G1)の勝ち馬Ivanovich Gorbatovをはじめ、REA Grimes Property Consultants Juvenile Hurdle (G2)の勝ち馬Slowmotion、Bar One Racing Juvenile Hurdle (G3)の勝ち馬Landofhopeandgloryなど、若く才能豊かな馬たちが控えている。管理馬は主にHurdleで走っていることが多く、これから障害馬として成長していくことを考えても、Joseph O'Brien調教師がどのような馬を育ててくるか楽しみなところ。Aindan O'Brienの厩舎から馬が回ってくる可能性や、アイルランドの一大馬主であるJ P Mcmanus、Gigginstownの馬も管理していることを考えても、今後の活躍が楽しみな調教師の一人であることは間違いない。MullinsとElliotの牙城を崩せるか要注目といったところか。

Ivanovich GorbatovのJCB Triumph Hurdle (G1)

レース映像:http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20160318/2582898/15386687

やたら詳しいファンサイト:http://josephobrienfansite.com/

 

Champion Jockey Richard Johnson receives trophy from Sir AP McCoy (UK)

英国において20年連続でチャンピオンジョッキーの座に君臨し続けた伝説的障害騎手AP McCoyが引退したのが2015年の4月。この2位の座に16年間甘んじ続けたのがRichard Johnsonだが、そのRichard Johnsonにとって2016年は飛躍の年になった。1月にLudlowで通算3000勝を達成。2015-16シーズンは通算235勝、勝率約22%という素晴らしい成績を達成した。そして4月のSandown競馬場において、元騎手のSir AP McCoyからチャンピオンジョッキーのトロフィーを授与された。このシーンはまさに英国障害競馬において、新たな時代の始まりを告げるものではないだろうか。

Richard Johnsonは2016-17シーズンは12月29日現在、計131勝を挙げて2位のSam Twiston-Daviesの83勝に大差をつけている。騎乗数も600戦を越えており、そのタフさには感服するばかりである。その卓越した騎乗技術と力強いアクションは必見。英国のRichard Johnson、アイルランドRuby Walshといった構図だろうか。

2016 Coral Welsh Grand National (G3)

レース映像:http://www.attheraces.com/racecard/Chepstow/27-December-2016/1440

2016 Hennessy Gold Cup (G3)

レース映像:http://www.racinguk.com/video/watch/2016-hennessy-gold-cup

いずれもハンデ戦のため格付けはG3だが、非常に権威のある大レース。Native RiverはMildmay Novices' Chase (G1)を勝ってきた馬であり、2016年は飛躍の年となった。特にWelsh Grand National (G3)ではトップハンデを背負っている。非常に楽しみな馬。

 

・Rule the World rules the world of National Hunt Racing (UK, IRE)

締めにはやはりGrand National (G3)。上がり馬The Last Samuriと連覇を狙うトップハンデのMany Cloudsが並んで人気になっていた。続いて昨年のCheltenham Gold Cup (G1)の4着馬Holywell、King George VI Chase (G1)を2連覇した長距離Chaseの強豪Silviniaco Conti、Irish Grand National (Grade A)の勝ち馬で昨年の4着馬Shutthefrontdoorなど。しかし、これらの強豪たちを退けて勝利したのは、なんとChase未勝利馬、Rule The Worldであった。

レース映像:http://www.racinguk.com/video/watch/2016-crabbies-grand-national

Grand NationalにおいてNovice馬(Hurdle / Chaseにおいて昨シーズンまで未勝利であった馬)の出走はあるものの、非常に高い飛越技術と持久力を要求する同レースにおいてはやはり経験の少なさはそれだけで不利になる。一方でRule The Worldは2015 Irish Grand National (Grade A)ではThunder And Rosesの2着、Kerry National (Grade A)でRogue Angelの3着、Neville Hotels Novice Chase (G1)ではNo More Heroesの2着などがあったが、Chaseでは勝ち星を上げられていなかった。しかし、Aachen、The Romeford Peleなどが前半から飛ばし、昨年の勝ち馬のMany Cloudsも完全に脚が上がって歩くように入線したレース。これを勝ち切る同馬のパフォーマンスは凄まじいとしか言いようがない。まさに「最強の1勝馬」の誕生だろう。

この勝利に際して、Mouse Morris師はこう述べている。"It's Disneyland - fairytale stuff. .. He's fractured his pelvis twice. Before that I always thought he was the best horse I ever had, how good would he be with a proper rear end on him?" 2度も骨盤骨折を乗り越えてきた馬が、何度も惜敗を繰り返してきた馬が、最高の舞台で最高の栄誉を掴んだ。これをFairytaleと言わずになんと言うのだろうか?

なおRule The WorldはこのあとNovice戦を一走したのちに引退。同馬の余生が幸せなことを祈るのみである。

 

結果の詳細とか主に駄文。

Grand Nationalの紹介。

2016年のGrand Nationalの出走馬の紹介

 

*そのほかの色々なニュース

あとは雑多に。

・Wells sparkles for Second Grand National (AUS)

8月21日にSportsbet-Ballaratで行われたQLS Grand National SteeplechaseはHeavy10の馬場に大雨と非常に厳しいコンディションで行われた。これを勝利したのは9歳のセン馬、Wellsであった。

レース映像:https://www.racing.com/form/2016-08-21/sportsbet-ballarat/race/6/results

(ログインが必要だが特に面倒な記入事項はなかったはず。レース映像と中継が視聴可能。)

一番スタミナに不安があるのがこの実況なんだがさて。大抵序盤から何故か盛り上がっては最後声が出なくなる。この日は障害レースが多かったせいかスタミナを温存することを覚えた模様。

Wellsは2014 Grand National Steeplechaseの勝ち馬。2015年は怪我で休養し、今シーズン復帰するも勝ち星はTrialのみとやや恵まれずにいた。しかしAustralian Steeplechaseにて2着と力は見せていた。厳しい競馬となった今回、まさに貫禄の勝利。この路線はSea King、I'll'ava'alf、Undergroundfighterなど楽しみな馬が多くいる。Thubiaanに中山GJへの参戦プランも出たように、豪州障害競馬もまた見逃せないシーンであることは間違いない。

2014 Grand National Steeplechase

レース映像:https://www.racing.com/form/2014-07-27/sportingbet-park-lake/race/4/results

 

・Unlucky Santo Cerro with Ferhanov Sertash takes wrong course (ITA, POL, CZE)

イタリアMerano競馬場は迷路のように複雑な障害コースが設置されている一方で、さすがは現地の騎手、慣れたものでなかなか間違えないわけだが、残念ながら時々このようなアクシデントもある。

Ferhanov Sertashは主にチェコやイタリア、ポーランドで乗っている人。2015年のVelká pardubická s Českou pojišťovnou (Stcc L)ではGauner Danonに騎乗しスタンド前のDropで落馬するも、必死に馬の首にしがみつき空馬を止めたシーンが話題になった。Santo Cerroはその後Gran Criterium D'Autunno (Siepi G1)を勝っている。ただし鞍上はJan Faltejsekに乗り替わったようだ。なおカメラに虫がついているのはイタリアクオリティ。

走路を間違えたといえば、Prijs Jacques du Roy de Bliquy By Audiの勝ち馬Gallo's StarもPremio Delle Nazioni-Merano (Steeple-cross country G2)で失格を食らっていたりする。どこで間違えたかおわかりになるだろうか。オレンジの帽子に、オレンジと紺の勝負服の馬。なお勝ったのはイタリアのMighty Mambo。

 

・Germany dominates Swedish Jump Racing at Strömsholm (SWE, GER, NOR)

Strömsholm競馬場で行われるスウェーデン障害競馬の祭典Svenskt Grand National、Svenskt Chapion Hurdle。2016年はそのいずれもがドイツ馬が勝利するという結果になった。Svenskt Grand Nationalを勝利したのはKazzio。これで2011年から6年連続でドイツ馬が勝利することになる。Kazzioは2015年のGran Premio Merano (Steeple G1)の勝ち馬であり、ドイツ障害最強馬。Svenskt Champion Hurdleを制したのはFalconetteiであり、これもドイツ障害では頭一つ抜けた実力を持っている。ここにはスウェーデン障害競馬の強豪Calvadosやノルウェーの強豪Hot Wing、チェコからの参戦馬Tauritoなども出走していた。

なお公式で映像が配信されていないため映像リンクは省略。非公式でなら上がっている。

 

・Milord Thomas lands Fifth Grade 1 Winning with hat-trick of Prix la Haye Jousselin (FR)

フランス障害競馬の規模はイギリスに次いで大きく、馬のレベルも非常に高い。フランス馬はイギリス、イタリア、ベルギーなどに積極的に遠征し結果を残している。特にイタリア障害競馬にフランス馬が参戦したときは例外なく人気になっているようだ。Prix la Haye Jousselin (Steeple G1)は11月のAuteuilにて行われる一大レースであり、2014、2015とMilord Thomasが制している。そのMilord Thomasは2016年の同レースも制し、Prix la Haye Jousselin (Steeple G1)を3連覇するという偉業を達成した。

相手はGrand Steeple-chase de Paris (Steeplechase G1)の勝ち馬So FrenchやStorm of Sainty、2013年のPrix la Haye Jousselin (Steeple G1)の勝ち馬Shannon Rockなど、フランス障害競馬を代表するメンバー。

以下はフランスギャロの同馬のデータ。登録が必要だがレース映像が見れたりする。

http://www.france-galop.com/fr/cheval/TDFwTlBCRU1xdi80eVNhWkovbk84QT09

 

・Oju Chosan completes Nakayama Biggest Jump Races in Japan (JPN)

2015年の日本障害競馬界はアップトゥデイトの活躍に沸いたが、2016年にも新たなスーパースターの誕生を見ることになった。2015年の中山大障害では見せ場がなかったオジュウチョウサンだが、今年に入って力を付け中山グランドジャンプ(J.G1)、中山大障害(J.G1)の二つを制覇。特に中山大障害では、昨年の覇者アップトゥデイトをぴったりとマークし、最終コーナーで交わし切る強いレース。その飛越技術とレースへの集中力も卓越しており、まさに新たなチャンピオンの誕生と言えるだろう。アップトゥデイトともども、来年以降の活躍が楽しみな馬であることは間違いない。

中の人が撮ったいまいちな写真と短評も。被写体が素晴らしいのでご容赦。

 

・Dual Cross Country Winner Vinga becomes the Champion of Crystal Cup Series (FR)

Crystal Cupは欧州Cross Country Series。フランス、イギリス、アイルランドチェコ、イタリア、ベルギーの各国のCross Country競争を走り、その獲得ポイントで優勝が決定する。チェコのVelká pardubickáもまたCrystal Cupの一環として行われる。2016年のチャンピオンはフランスの牝馬、Vingaであった。

VingaはもともとHaies、Steeplechaseに加え、StrasbourgのPrix Emile et Dany Niess (Cross Country)で勝ち星のあった馬。2016年はFontainbleauのGrand Steeplechase Cross Country de FontainbleauでVazabelle Du Lionの3着に入ると、Prix Anjou-Loire Challenge (Cross Country Listed)を勝利、Haiesを一度叩いたのちにCraonのGrand Cross-de Craon Crystal Cup (Cross Country Listed)を勝利と、2016年は飛躍の年となった。Velka Pardubickaへの参戦プランもあったらしく、2017年は国外遠征も含めてその活躍を楽しみにしたいところ。

Prix Anjou-Loire Challenge

レース結果と映像:http://www.france-galop.com/fr/course/detail/2016/O/Tm1uWlJqb25zMERweVd2ZDB2TkhJdz09

Grand Cross-de Craon Crystal Cup

レース結果と映像:http://www.france-galop.com/fr/course/detail/2016/O/emxMTUZzSS91dWxTbSswemxxZUxtZz09

途中で謎の音楽が入っているが気にしてはいけない。

 

英国で活躍したBalthazar Kingの話。

 

・French Champion Jockey Vincent Cheminaud makes great start in Japan (FR, JPN)

f:id:virgos2g:20161231145817j:plain

f:id:virgos2g:20161231154752j:plain

写真は頂きものでなので転載等は控えてください。

2014年に90勝を挙げフランス障害競馬のトップジョッキーとなったVincent Cheminaud(ヴァンサン・シュミノー)は、その後New Bayに騎乗しPrix du Jockey Club (G1)を制している。2016年の秋からは日本に短期免許で来日し、計4勝を上げる活躍を見せた。重賞にこそ手は届かなかったが、ホープフルステークス(G2)やチャレンジカップ(G3)で2着に入るなどの活躍を見せた。ついでに中山大障害にも乗ってくれないかと期待したが、残念ながら平地免許だけのようだった。1993年生まれと若く、また基礎技術も非常に高いものを持っている。平地・障害兼用で活躍してくれないものか。Cheminaudと行く中山大障害ツアーとか参加したさしかない。

そんなCheminaudのフランスでの障害勝ち鞍。Storm of Saintyなる馬。

 

明るいニュースもあれば暗いニュースもあった。SimonsigやVautourとの別れもあったが、たくさんの知らない馬とも出会うことができた。なにかとこういったサイクルが良い方向に回っていれば楽しいのだろう。その中で出会った馬が競争馬として大きく成長し、権威のあるレースを勝つことが出来ればこれほど喜ばしいことはない。来年もこのように素晴らしい馬や人に出会い、素晴らしいレースを見ることが出来るとともに、世界的な障害競馬発展の年になってもらいたいものだ。

 

おまけ