にげうまメモ

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18/04/14 Japanese Racing

*Nakayama Firm

Nakayama Grand Jump (JG1) 4250m

https://www.youtube.com/watch?v=HXSQHQsyX7A

ようつべを漁ると中山グランドジャンプの映像はわんさかと出てくるのだけれども、だいたいは無断転載で、実はJRA公式チャンネルがあって地味に映像を上げてくれていたりするので、出来るだけそっちを見てください。そもそも公式でレースを全部上げてくれるJRAはものすごくサービスがいいですし、海外からのアクセス制限もなく、このサービスは続けてもらいたいので。公式のサービスが悪くてどうしようもないところは仕方ないのですが。

同日にAintree競馬場でGrand National (G3)がありそちらに行っていたので、今回は写真はなし。メイショウアラワシやオジュウチョウサンが出てくるも、これを制してアップトゥデイトが逃げる展開。これを執拗にオジュウチョウサンが追いかけて行き、残り2障害辺りから先頭に立つとそのまま後続を突き放して勝利した。2着にはアップトゥデイトニホンピロバロンが3着。

オジュウチョウサンはこれで2016年の中山グランドジャンプから9連勝、G1はこれで5勝目とした。その相手がいつもアップトゥデイトなので成績表の見た目はいまいちなのだが、スローからの機動力勝負、オープンなハイペースの持久力勝負、重馬場でのパワー勝負と、現状日本障害競馬において考えられる様々なレースシナリオの全てに対応しており、勝ちパターンとして多岐に渡っていることは特筆すべき点である。もともとは緩いペースからパワーのある機動力を生かして勝ってきた馬だが、ここのところはハイペースを追走して終いまで脚を伸ばす持久力を身に着けており、故障を挟んだ9連勝の中でもその内容を年々進化させている辺り、この馬の圧倒的な凄みを感じる。日本障害競馬において現時点でこの馬を負かすには相当特異なレースにならないと厳しいのだが、そのような相当特異なレースとなるシナリオはまず考えられないというのが現状である。今回も前が前半から入れ替わりつつ、かなりペースが激しく流れる展開の中、ほぼ持ったまま好位で追走し、最後の上がり3fを平地並みのタイムでまとめた内容は完勝の一言。パワーを生かしたストライドで障害を真っ直ぐに突っ切る飛越は、もともと障害競馬におけるキャリアをヨーロッパと比較すると長いものを想定せず、平地のストライドを障害飛越に外挿する日本障害競馬における一つの理想形である。ここ数十年において最強を誇る障害馬の姿がここにある。この水準の馬を日本国内で無双するにとどまるのは日本競馬にとっての損失であり、平地再挑戦とかいう理解不能な妄言はもはや論外、海外障害競馬への挑戦が期待される。言うまでもなくGrand NationalのNational Fenceにおいては日本障害競馬とは全く性質を異にする飛越が必要とされるため、海外遠征先の候補としてはフランスHaiesか、イギリス/アイルランドのHurdleが考えられる。近場であればオーストラリアであり、オーストラリアであればSteeplechaseくらいはこなせるように思われる。フランスSteeplechaseやチェコCross Countryという可能性もあるが、いかんせん障害に突っ込んでいく部分が残っているため、TimberやStone Wallを考えるとやや不安が残る。また、障害馬としてはやや大型であり、海外障害馬と比較すれば平地のスピードが武器となるため、距離的には4000メートルクラスまでが守備範囲だろうか。比較的馬場の良くなるCheltenhamからAintree、Punchestown、さらにAuteuilと転戦するのが良いかもしれない。

アップトゥデイトの鞍上の林満明騎手はこれで引退らしい。ここのところは思い切った騎乗でこの馬としては正攻法の戦い方を挑んでいたのだが、オジュウチョウサンの成長がそれを上回っていた。今回も前半から積極果敢な逃げを打ったのだが、メイショウアラワシ、マイネルクロップ辺りに絡まれる部分があった。出来れば前半から後半にかけて息を入れることなく緩慢に、かつ確実にペースアップするようなレース展開を作りたかった。この馬にとって、オジュウチョウサンを負かす可能性がある唯一のシナリオとしてはストライドの持続力が問われるレース展開であり、極限まで悪くなった馬場や、ほとんどの馬がほぼ歩くような状態でゴールする程度の厳しいレースであり、残念ながらそのようなシナリオは日本障害競馬ではまず考えられないというのが現状なのではないだろうか。とはいえこの馬自身も高い能力を持った、日本障害競馬における近年まれに見る逸材であり、海外障害競馬においても通用するポテンシャルを秘めていることは間違いない。ただし、オジュウチョウサンとは対照的に、この馬自身は飛越の高さと幅、飛越における慎重さがあるため、フランスSteeplechaseやニュージーランドSteeplechaseに適性があるように思われる。HurdleやSteeplechaseがごっちゃになっている日本障害競馬は、各カテゴリーに対して高度に適応した馬が存在する海外障害競馬とは異なり、ややヘテロな集団が存在することはある意味で特色の一つである。

ニホンピロバロンはこの馬のレースをしたが、最後まで勝ち馬を追いかけたアップトゥデイトとは対照的に脚が上がり3着。ルペールノエルも含めて実力通りの着順と言ったところ。テイエムオペラドンは最長距離がたったの4250mしかなく、Velka Pardubickaの出走条件にすら満たない日本障害競馬ではなく、3マイル以上は走るようなレースで見てみたい。クランモンタナも合わせて、アイルランド辺りに行った方が障害馬としては大成する可能性を秘めている。古豪サンレイデュークは完全にオーバーペース。スローで途中から押し上げることが可能な展開であれば再浮上の可能性はある。途中果敢に絡んでいったマイネルクロップはこの馬の良さを出すレースをしたのだが、もはや上述のようなバケモノがいたことが災難だった。