にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

15/5/22 National Hunt Racing

*2 1/2 miles Chase

前日に引き続き2+1/2 miles Chase路線の回顧。当然内容には主観がたくさん入っているので信頼性は自己責任で。ご意見などあればコメントに書いてくださると中の人が喜ぶ... かもしれない。

 

175 Don Cossack

171 Vautour (Novice)

169 Uxizandre

165 Al Ferof, Sizing Europe

163 Balder Succes, Wishfull Thinking

162 Champagne Fever

160 Johns Spirit, Rajdani Express

159 Clarcam (Novice), Eduard, Wonderful Charm

158 Boston Bob, Third Intention

157 Argocat, Lord Windermere, Ma Filleule, Oscar Whisky, Ptit Zig (Novice)

156 Texas Jack

155 Apache Stronghold, Sound Investment

154 Gitane du Berlais (Novice), Rebel Rebellion, Roi du Mee, Top Gamble (Novice), Vroum Vroum Mag (Novice)

153 Camping Gound, Turban

152 Fox Appeal, Hunt Ball, Irish Saint, Rolling Aces

151 Blood Cotil (Novice), Home Farm, Irish Cavalier (Novice)

150 Champagne West (Novice), Cloud Creeper (Novice), Gilgamboa (Novice), Mount Colah, Rubi Light

 

どちらかというと例年手薄になりがちな中距離路線。今期も手薄かと思いきや、Melling Chaseを圧勝したDon Cossackが続くPunchestown Gold CupでCheltenham Gold Cupの上位馬を一蹴し、まさかのRating175を獲得した。ただし、Ratingとしては短距離に比べて長距離のほうが高く出る傾向にあるので、このRatingは中距離のMelling Chaseで獲得したものというよりは、Punchestown Gold Cupによるものであると言っていいだろう。

とはいえMelling Chase (G1)ではCue Cardらを26馬身ぶっちぎる大楽勝。Sire de Grugy、Balder Succesなどといった強敵が落馬するというアクシデントこそあったものの、非常に強い内容であった。来シーズンどのような路線を歩むのかは不明であるが、中距離路線に出てくるのならば主役級の一頭と言っていいだろう。

なお落馬したBalder Succesは予後不良。Ascot Chase (G1)、Doom Bar Maghull Novices' Chase (G1)を勝利した、短~中距離路線における強豪であった。同馬のご冥福を祈る。

本来であれば中距離Chaseの最高峰であるRyanair Chase。昨シーズンで引退した伝説的ジョッキーAP McCoyを背に逃げ切ったのはUxizandre。昨年のPinsent Masons Manifesto Novices' Chase (G1)でもOscar Whisky相手に逃げ勝ちを収めており、JLT Novices' Chase (G1)でもTaquin Du Seuil相手に2着に入っている。 昨シーズンの中距離Noviceの主役級の一頭であったが、今期はこの大舞台でも大金星をあげることができた。どうやら良馬場で、かつ気分良く逃げられたときに真価を発揮する馬のようだ。いちおう中距離Chaseの評価としては昨年トップのCaptain Chrisの169と同値であり、それなりの評価は与えられたと考えていいだろう。ただし昨年のCaptain ChrisもAscot Chase (G1)勝ちがあるのみで、相手もそう強力ではないので、これ自体はあまり高い評価ではないことに注意したい。

むしろRyanair Chaseで着目したいのはDon Cossack。勝負どころでHidden CycloneとEduardに挟まれる不利を受けており、ブレーキをかけてしまっている。障害馬は平地の馬と違い瞬間的に加速するような脚を持っている馬は非常に少ない。この不利はDon Cossackにとっては致命的なものと言えるだろう。

 

さて、ここで驚くべきは、本来であれば中距離Chase路線トップの評価を下されているだろうUxizandreの上に、Vautour (Novice)という馬がいるということだ。 しかもRatingは171という驚異的なもの。昨年NoviceトップのTaquin Du Seuilが159ということを考えても、この数字の凄まじさがわかるだろう。この数字はこの動画を見れば誰もが納得するはずである。

雄大な馬体から繰り出される大きなストライド。そして特筆すべきはその飛越である。長いストライドから比較的踏切の遠い、大きな飛越を見せている。本来であればこのような大きな飛越を繰り返す馬は飛越時のスピードのロスは少ない一方、スタミナのロスが大きく、疲弊しやすい。スパートをかけた馬がスピードに乗ったまま踏み切りの遠い飛越を見せたはよいが、その分スタミナをロスして結果脚を障害に引っ掛け、落馬するという光景は良く見る光景である。しかし、Vautourの凄まじいところは終始このような飛越を見せながらも最後まで全くバテていないところであり、むしろ最後にスパートする余力まで残っていることである。この衝撃的なパフォーマンスからは171という超がつく高評価も納得だろう。来シーズンはどのような路線を歩むかは分からないが、中距離路線であれば間違いなく主役を張れる馬なのではないか。長距離に行った場合はスタミナが持つかどうか分からないが。

 

さて、この3頭が抜けた評価を得た一方、2 1/2milesカテゴリーに入った他ではさほどめぼしい馬はいないか。165のAl FerofはAmlin 1965 Chase (G2)勝ちがあるのみで、Melling ChaseではDon Cossackに完敗。これでは厳しいだろう。Wishfull ThinkingはBetfred Monet's Garden Old Roan Chase (G2)にて完勝したものの、その後の成績が安定しない。どうやらノド鳴りの持病がある馬で、同馬はもう12歳と高齢。これ以上のパフォーマンスを望むのは酷か。Balder SuccesはAscot Chase (G1)勝ちがあるものの、残念ながらMelling Chaseにて予後不良となってしまった。昨シーズンMelling Chase、Punchestown Gold Cupと連勝を飾ったBoston Bobは3milesを中心に使うも成績は冴えず、Ratingは159とかなり落とす結果となってしまった。スピードに長けた馬で、さほど持久力に優れてはいないので、2 1/2路線に戻したほうが良いのではないだろうか。中距離路線は現在手薄である。VautourとDon Cossackさえいなければ。

また、Aintree Hurdle2連覇、Pinsent Masons Manifesto Novices' Chase (G1)でもUxizandreの2着に入ったOscar WhiskyはTingle Creek Chase (G1)での落馬で予後不良となってしまった。短中距離路線の中心的な存在として楽しみにしてただけに残念でならない。同馬のご冥福を祈る。

 

なお、Rating159を獲得したSizing Europeは今年の5月をもって引退が決まった。G1を8勝を含む42戦21勝、2着9回。13歳の高齢になるまで活躍し、2011 Queen Mother Champion Chaseを勝利して一時代を築き上げ、さらにSprinter Sacre、Sire de Grugyといった歴代の短距離の名馬と渡り合った、まさに"Living Witness of the History"である。しかも特筆すべきは、これだけ長いキャリアにも関わらずChaseでの落馬が一度も無いこと。まさに無事是名馬、そのものである。幸せな余生を過ごしてくれることを祈りたい。あわよくばどこかのレース前によくあるパレードに参加して欲しいものだ。

 

あとはNoviceから何頭か。159を獲得したClarcamは本来2m路線を使ってきた馬だが、One Magnificent City Manifesto Novices' Chase (G1)にてVibrato Valtatらを抑えて勝利。ただしArkle Challenge TrophyではUn De Sceauxに太刀打ちできなかったように、実力面という点ではやや不安が残る。また、下した相手も2milesから中距離へと距離を伸ばしてきた面々であり、あくまでUn De Sceaux不在での中距離戦では頭1つ抜けていた、という結論でよいだろう。

むしろ面白いのはValseur Lido (3mileカテゴリー)、Wounded Warrior、Apache Stronghold。この面々はVautourにこそ水を空けられているが、Don Poliあたりとは実力も伯仲している。アイルランドのNovice勢は昨シーズンは非常にレベルが高く、この面々も混戦模様ながらその中のDon PoliがRSA Chaseを勝つなど実績も十分。各馬がどのような路線を歩むか不明だが、少なくともアイルランドでの中長距離路線を押さえておくならば要注目の馬たちだろう。

 

その他、他の路線から何頭か。昨年のRyanair Chaseの勝ち馬Dynaste。3mカテゴリーで166という高評価を得ている馬である。今年は3mに挑戦しKing George Ⅵ Chase2着などと奮戦したが、やはり3mだと最後の詰めが甘くなる。来シーズン中距離に戻してくるようであれば要注意である。

また、昨年の短距離チャンピオン、Sire De Grugyも中距離路線への転向を示唆している。Melling Chaseこそ落馬競争中止に終わったが、Queen Mother Champion Chaseの敗戦後、調教師が中距離のほうが向いているとのコメントを出している。昨シーズンの短距離Chase路線では無敵の強さを誇った馬。引き続き中距離に挑戦するのであれば要注目である。

 

いずれにせよ、この路線は非常に入れ替わりが激しい。来シーズンはどの馬がこの路線に参戦してくるかで勢力図が大きく変わると考えていいだろう。Don Cossackが中心だがおそらく3mだろう。VautourもCheltenham Gold Cupを目指すという話も出ている。そうなるとUxizandreだが同馬も展開次第で凡走もありえる。むしろNovice上がりの馬や、別路線からの参戦組にも注意したい。