にげうまメモ

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15/12/21 POG

*2015/16 POG

POG馬さんの近況。今回は折角なので戦評も含めて。

 

アラバスター

右後肢球節部に古い骨折線が見つかったとのこと。復帰は来年春になりそう。軽症らしいのでさほど心配はしていないが、所属する厩舎の調教師が今年度で定年引退を迎えるため、新たな所属先が何処になるかが鍵だろう。この馬に関しては典型的ハービンジャー産駒ということもあり、柔らかすぎる身体に少しずつパワーが付いてくることが予想される。ダービーに間に合うかは微妙だが、ナタ斬れする馬だけに菊であればチャンスはあるのではないだろうか。骨折箇所をしっかり治しての復帰が楽しみである。

 

・ダノンスパーク

[15/12/13 中京 2歳未勝利 ダ1800m重 松若 55 528kg 1人気 1着]

とりあえずは未勝利勝ち。ついでに中京ダート1800m2歳戦のトラックレコードのオマケつき。

出遅れた挙句中途半端な競馬となってしまった前走の反省を生かしてか、スタート直後から積極的に押して行き、最初の2fで脚を使うことでハナを奪う競馬。道中はペースを緩めつつ、直線に向いて一気に12.3sec/fと加速することで後続を突き放し、出走馬中最速の上がり37.9sec/3fを使って勝利するという危なげの無いパフォーマンスであった。

スピードに秀でたスターアイルの肌に懐の深いヴィクトワールピサということもあり、このような乗り方があっているということだろう。前後半ともにほぼ走破タイムは変わらず、逃げるか4角先頭でどこまでというタイプ。パワーがあるためダートもこなしているが、比較的身体の柔らかい馬なので芝でもやれると思う。ただし、スタートで今回もやや後手を踏んだように、雄大な馬体に比して後肢に力が付ききっていないため、上のクラスに入ってスタートの遅さにより好位を取れなくなる可能性がある点が課題か。

 

・グローサーザール

[15/12/20 阪神 2歳新馬 芝2000m良 田辺 55 546kg 7人気 9着]

え? 走るの? というデビュー戦。馬格だけは図抜けて立派だったパドック。とりあえず気合をつけて好位を取りに行くも、4角では既に余力無し。結果この大敗である。

馬体もまだ太く、新馬の緩いペースにも関わらず道中おっつけて追走する必要があるように馬にもまだ走る気がないように見えた。この馬に関してはレースを使いつつ少しずつ良化してくることを期待。この大敗で見限るのは早計だろう。

 

・レッドウィズダム

[15/12/19 阪神 樅の木賞(500万下) ダ1800m良 岩田 55 504kg 5人気 4着]

出遅れ気味のスタートから、道中外に逃げようとしたり引っ掛かったり、最後はとりあえず差をつめての4着。前の3頭とはやや離された。

勝ち馬のスマートシャレードは相当強いので仕方が無い部分はあるだろう。ただし、道中馬と散々喧嘩をしながら最後まで脚を伸ばし、結果として出走馬中2位の上がり37.1sec/3fを使えたことは評価してよいのではないだろうか。馬格もそれなりにあり、非常に柔らかい動きをする馬。キングカメハメハ産駒ということでこれから筋肉量が付いてくることが期待される。いずれにせよ、このクラスの勝ちあがりは早いだろう。

 

・ドレッドノータス

[15/11/28 京都 ラジオN杯京都2歳S (G3) 芝2000m良 武豊 55 464kg 3人気 1着]

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祝・重賞勝ちである。終始引っ掛かり気味に番手を追走し、粘りこみを図るリスペクトアースを最後きっちり交わしての勝利。

中段にいた有力馬と目されていたアドマイヤエイカン、ロライマなどが伸び切れず、前の2頭で決まったため前残りと見る向きも強いが、残念ながら力どおりの決着である。事実、他の好位にいた馬は悉く大敗している。ペースは前半61sec/5fとこの時期の2歳戦にしてはそれなりに流れている。京都は向こう正面に登り坂があるのでラップが遅くなるのは当然。その中で後半の5fを13.0 - 12.4 - 11.7 - 11.2 - 11.3と加速した前の2頭はここでは力が抜けているだろう。そして馬格と完歩の大きさで上回るリスペクトアースとの「ナタ斬れ勝負」を道中引っ掛かったまま下したドレッドノータスは総合的な身体能力が一枚上手であったと考えてよい。アドマイヤエイカンもナタ斬れする馬であり、道中押し上げて3着を確保したが、最後は前の2頭に離されての敗戦。前の2頭にこれほどのパフォーマンスを見せられてはなす術が無い。ロライマは最速の上がりを使うも6着まで。

ドレッドノータスの課題としては、やはりまずは折り合いだろう。初戦もファスナハト相手に同様の勝負を繰り広げていたが、さすがにこのようなレース運びが大舞台で出来るとは思えない。加えて、2戦とも京都という平坦コースでの勝利のため、今後は坂を駆け上れるだけの後肢の筋肉量が必要である。中山で行われるホープフルステークスは回避したが、これは英断だろう。出走していたら中山の急坂で止まっていた可能性が高い。しかし、この2戦で見せた瞬間的な加速力、そのトップスピードの持続力ともにまさに一流馬のそれである。数々の課題はあるが、これらを克服できれば大きいところを狙える馬であることは間違いないだろう。願わくばなんだか色々と不評なハービンジャーの評価を覆すような最高傑作となって欲しいところである。

 

・リオンディーズ

[15/12/20 阪神 朝日杯FS (G1) 芝1600m良 M. デムーロ 55 496kg 2人気 1着]

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祝・G1勝ちである。仕上がりが早く既に完成されている馬や明らかな短距離志向の馬、気性的な若さを覗かせる馬が散見されるパドックの中、一頭だけ2歳馬らしからぬ気品と落ち着きを見せていた。馬体はまだまだ完成途上ながらも、そのしなやかさは群を抜いており、また全体のバランスと馬格、関節の稼動域から算出される完歩の大きさ、前駆の強さと筋肉量は飛びぬけていた。強いて言えば前駆の強さと馬格に見合った筋肉量が後駆には付ききっていないと言ったところだろうか。

レースはウインオスカーが主張して行く流れ。テンの3fはある程度流れたものの、シュウジが番手で抑えたことにより道中は緩む。これによって4角辺りでは馬群は凝縮。人気のエアスピネルは中段からじっくり構え、直線は一気にギアを上げきらずに悠々と馬群から抜け出してくるも、最後方を追走し大外から飛んできたリオンディーズがあっさりとこれを差し切るというレースであった。

リオンディーズのレースとしては調教そのものだろう。マイルの流れを無理に好位や中段で追走することなく、むしろ後方で中距離のペースを維持して馬を抑えていたことに価値がある。レースは残り4fから12.7 - 11.9 - 10.8 - 11.7と推移しているが、馬の完歩の伸ばし方から鑑みるにこの馬の上がり3f自体はおそらく11秒前半から10秒台後半の一定ラップで推移し、最後までラップは減衰していないと考えられる。エアスピネルは対照的にある程度ペースが流れる中、中段でじっくりと折り合い、道中緩んだところで外に持ち出し、馬なりで直線抜け出すという最高の競馬。比較的減衰性の高い末脚の持ち主なだけに、一気にギアを上げ切るのではなく、徐々にギアを上げていった武豊騎手の騎乗は最高であった。現にリオンディーズが来てから抵抗しギアをもう一段階上げている。馬体も比較的マイラーに近く、現時点での完成度、仕上がりや勝負気配は勝ち馬よりも上。阪神1600mという舞台も合っていた。これを難なく差しきったリオンディーズは2着馬とは力が1枚も2枚も上であることは間違いない。まさに超一流ストレッチランナーのナタ斬れとはこのことだろう。

リオンディーズの課題としては、後駆の強さが十分でない点だろう。筋肉の強さ、特に前駆の強さが半端ないため関節の稼動域の広さに対する完歩の大きさに見合った推進力を生み出せているが、やはり前駆の力メインで走っているという点は否めない。馬は前足に比べると後肢の筋肉が強く、走法としては後輪駆動によるものである。従って後駆の筋肉が付いてくれば更にもう一回りスケールの大きな馬になることは間違いないだろう。現時点でも2歳馬のトップクラスにいることは間違いないが、成長次第では牡馬三冠、歴史的な名馬になる可能性をも秘めている馬である。個人的にはあのハーツクライですら敗北したAscotの急坂も克服できるのではと期待している。なお、マイルを使った弊害を指摘する人は多いが、この馬が道中走ったペースとしては中距離のそれなのでさほど心配しなくていいと思う。むしろ問題は鞍上。ミルコが続けて乗ってくれればよいのだが。

2着のエアスピネルは最高に立ち回っての結果。着差はわずかだが、鞍上が言うとおり完敗だろう。相手がバケモノ級の馬なので今回ばかりは仕方が無い。しかし同馬の瞬発力も一流のそれであり、減衰性という点には問題があるものの末脚は確かなものがある。路線次第ではこの馬も大きいところを狙えるだろう。

3着以降は混戦。強いて言えばイモータルか。さすがに世界的名手ライアン・ムーアからの乗り代わりは厳しかった。幸四郎も嵌れば上手い騎手だが、今回は折り合いを欠いての敗戦。スムーズであれば3着はあっただろう。この馬も前走で見せたようにストレッチランナーであり、適性としてはマイルにある。パドックで見た馬体は中々に立派であり、巻き返しがあるとしたらこの辺りだろう。

いずれにせよ、久しぶりに素晴らしい馬を、素晴らしいレースをありがとうと言える名勝負であった。少し長くやってるファンであればかつてのシーザリオエアメサイアの勝負を思い出すのではないだろうか。今年度はこの2頭に加えて、ドレッドノータスというディアデラノビアの傑作も待ち構えている。来年のクラシックを楽しみにするとともに、各馬が無事に行ってくれることを願ってやまない。