にげうまメモ

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16/03/15 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

*Cheltenham Good to Soft (Soft in Places)

英国障害競馬最大の祭典Cheltenham Festivalの1日目、Champion Day。レース前にはかつてKauto Starの好敵手として長距離Chase路線で活躍したDenmanを初め、Domply or Die、Punjabi、Mike D'hagunet、Tranquil Seaなどといった未だ草競馬で活躍する歴代の名馬がパドックでお披露目を行った。こういう文化が日本にも欲しい。

 

Supreme Novices' Hurdle (G1) 2m87y

短距離Novice Hurdleの最高峰。Charbelがミドルペースでやや引き離し気味に逃げる展開。人気のMinは2番手から。Altior、Bellshill、William H Bonney、North Hill Harveyなどは中段。かつて凱旋門賞Treveの5着のあるPenglai Pavilionや頑張れ東北Mister Miyagi、Buveur D'airは後方から。第3障害でMinがミス。残り2障害辺りからMinが抜け出しを図るも、これを追ってきたAltiorが最終障害手前でこれを振り切り、最後は7馬身差の圧勝。3着には後方から追い込んだBuveur D'air、4着には好位から粘ったTombstone、5着には逃げたCharbelが入った。Penglai Pavilionは大敗。

AltiorはこれでHurdle5戦5勝。Maputoを初めとする英国短距離Novice Hurdleの強豪を下してきた実績がある。また、この馬に負けた馬が悉くその後の下級条件戦を勝っているあたり、その水準の高さは示していた。今回は飛越も終始安定しており、馬群に入れても落ち着いており、抜け出すときの脚も際立っていた。ミドルペースからの上がり勝負というNoviceの一流戦らしいレースだが、その中でこれだけのパフォーマンスを見せるということは来シーズンに向けて明るい材料だろう。

人気を背負ったMinはトップスピードで突き放され2着。馬群に躊躇無く入れていったAltiorとは対照的に、比較的不利を受けにくい馬間隔の空いた2番手を追走するという安全運転。それでも飛越にミスが見られたりと、やや馬に若さが見られた。しかしやはり致命的だったのはトップスピードの違いだろう。アイルランドの重馬場で勝ってきた馬だけに、良馬場のスピード勝負ではやや分が悪かったということか。それでもここまでやれてしまうのは潜在能力の高さを伺わせるが、今後短距離Hurdleの一線級と当たってどこまでやれるかという点には疑問が残る。

下級条件戦から2戦2勝で挑んだBuveur D'airは後方から脚を伸ばすも3着が精一杯。Long Dogの2着のあるTombstoneは好位から頑張るも4着まで。Yonworthの2着のあるCharbelは逃げるも勝負どころから遅れ5着。この辺りはやや力落ちだろう。Penglai Pavilionは16f戦に戻したことで期待していたが、残念ながら大敗。勝負どころから置いていかれ勝負にならなかった。平地のスピードと障害のスピードは必ずしもイコールではない。今シーズンで管理する調教師が引退するらしいので、今後の動向がやや心配である。

 

Arkle Challenge Trophy (Novices' Grade 1) 1m7f199y

短距離Novice Chaseの最高峰。昨シーズンはUn De Sceauxが圧倒的なパフォーマンスを見せ付ける勝利を挙げたレース。

序盤はSizing Johnが引っ張るかと思いきや、Douvanがスピードの違いで途中からハナに。こうなったらもはやDouvanの天下。Sizing Johnは無理をして絡むことも無く、比較的ペースも緩む。残り3障害辺りから好位にいたVaniteuxが追ってくるも、残り2障害で落馬。あとはDouvanが悠々と後続を突き放して勝利した。2着にはSizing John。3着には途中から置かれたFox Norton。The Game Changerは4着まで。Asoは見せ場なし。

残念ながら英国短距離Novice Chaseにてハイラップを刻んで勝ってきたAr Madが離脱してしまった背景もあり、このようなスローからの上がり勝負となってしまった。DouvanはこれでHurdle時代から8戦8勝。Chaseでもいずれも危なげない飛越を見せつけ、4戦4勝、しかも出走するとなると他の馬が勝負にならないからといって回避するほどの馬である。Mullins師の評価も高く、ここまで期待にそぐわぬ走りを見せている。ただし、今回のレースレベルとしては昨年に比べてかなり低いものであることは注意した方がいいだろう。スローからの上がり勝負というNoviceらしい展開、Hurdle時代から相手にしていなかったSizing Johnが2着、かつ英国勢の離脱もあって、さほど相手としては強調できるものでもない。短距離Chaseには現状Un De Sceaux、Special Tiaraとかなり序盤から厳しいラップを刻む馬がいること、またDouvan自身がそのようなレースは未経験であることは今後の活躍を考える上で注意しておいた方が良いだろう。

Sizing JohnはまたもやDouvan相手に2着。そろそろ路線変更した方がいいと思う。3着のFox Nortonは元々Vaniteuxにも相手にならなかった馬。かなり格下と考えていいだろう。重賞3連勝で挑んだThe Game Changerは残念ながら水準としてはかなり低いと言わざるを得ない。英国勢の代表格Vaniteuxは残念な落馬。Ar Madと好勝負を演じてきた馬だけに、この馬がペースを刻んでもよかったと思うのだが。

 

Ultima Handicap Chase (G3) 3m1f

Double Rossが逃げる展開。Shanahan's Turnがこれに絡んで行き、ペースはさほど緩まずに進行。好位置からKruzhlinin、The Young Master、Holywell、Morning Assembly。Ballykan、Algernon Pazham、Theatre Guideなどは中段から。第12障害の手前で前の馬に躓いた中段にいたBeg To Differの騎手が落馬。第13障害で中段のThetre Guideが落馬、これに躓く形でSouthfield Theatreも落馬。残り4障害で好位置に居たKruzhlininがミス、同馬は後退。Double Rossもこの辺りから手ごたえが悪くなりあっさり後退。替わってHolywell、Un temps pour Toutが抜け出すと、最終障害で先頭に立ったUn Temps Pour Toutがスピードの違いでHolywellを突き放し、7馬身差の快勝。3着には盛り返してきたThe Young Master、4着にはMorning Assemblyが入った。

Un Temps Pour ToutはHaies D'auteuil Grade 1 Hurdle (G1)の勝ち馬。今シーズンからChaseに転向するも、なかなか結果が出ていなかった。ここに来てようやく嬉しい勝ち星を挙げたことになる。比較的関節の硬い馬で、にも拘らず比較的スタミナの消耗の早い踏み切りの遠い飛越を見せる傾向があり、スピードの違いで先頭に立つも最後脚が上がり差されるという競馬を繰り返していた。しかし、前走辺りからようやくこの飛越の問題が解消されつつあり、今回は踏み切りも身体能力に見合ったものを見せ、かつ勝負どころから最終障害に掛けては自身の特徴であるスピードを殺さない飛越が出来るという大人びたレース運び。ようやく素質馬がChaseにて花開いたと言った所だろう。

昨年のCheltenham Gold Cup (G1)にて4着のあるHolywellは最後遅れ2着。この馬自身いつ走るのかつかみどころの無いところがあるが、普通に走ればここでは実力上位であることを見せ付けた。トップスピードで突き放されたのは相手がHurdleでの一流馬である以上仕方の無いところだろう。驚いたのが2014年の終わりにかけて4連勝を飾るも、その後は全くいいところの無かったThe Young Master。前走Hurdleを使ったことが馬にとって良かったのだろうか。かつてRSA Chase (G1)にてO'faolains Boyの3着のあるMorning Assemblyは最後遅れ4着。どうも3mでは詰めの甘さが残るだけに、本質的には2m5fの馬かもしれない。Grand National完走暦のあるKruzhlininは残り4障害のミスで完全にリズムを崩しての敗戦。前走のKemptonは終始見事な飛越での勝利であったが、ミスをしてからの立て直しという点では本番に向けて疑問が残る結果となってしまった。Double Rossは自分のペースで逃げるも後続がきたときに全く抵抗できず大敗。3mは長いだろう。Southfield Theatre、Theatre Guideは勿体無い落馬。特に後者は良馬場でのトップスピードには長けた馬であったのだが。

 

Champion Hurdle Challenge Trophy (G1) 2m87y

本日のメインレース。Faugheenの離脱は残念であるが、その代わりにAnnie Powerの参戦、My Tent Or Yoursの復帰など、楽しみな話題が続いた短距離Hurdleの最高峰。

レースはNichols Canyonが引っ張るかと思いきや、Annie Powerが先頭に。短距離Hurdleの最高峰らしい非常に厳しいペースで引っ張る。My Tent Or Yours、Nichols Canyon、The New Oneら有力馬は好位に構える。Identity Thiefも好位から。追加登録してきたLil Rockerfellerは好位から進めようと試みるもペースに戸惑い中段から。Top Notch、Hargam、Peace and Coら5歳勢は中段から。Sempre Medici、Camping Ground、Sign of a Victoryは後方から。残り2障害辺りからThe New Oneの手ごたえが悪くなり、同馬は後退。My Tent Or Yours、Nichols Canyonが逃げるAnnie Powerの追撃を試みるも、中々その差は詰まらず。最後はAnnie Powerが2着に4馬身半をつけて快勝した。タイムはコースレコード

まさに強い馬が強い競馬をしたらこのような結果になる、というレースになった。Annie PowerはかつてHurdle7戦7勝、無敗馬対決となった2014 World Hurdle (G1)でMore Of Thatに惜敗していた馬。昨年のCheltenhamではOLBG Mares' Hurdle (G1)に挑戦し、余裕を持って抜け出すもまさかの最終障害で落馬という結果に終わっていた。今回はまさにその雪辱を倍にして返すという結果を残した。テンポの速い飛越、卓越したスピードの持続力、短距離から長距離まで、良馬場から重馬場までこなす、まさに名馬中の名馬である。Faugheenとの対決が実現したら楽しみであるが、残念ながら同馬主であるため可能性は低いと思われる。

2014年の同レースでJezkiの2着に入り、今回が2年ぶりの復帰戦となったMy tent or Yoursも力を見せた。Annie Powerにこそ突き放されたが、あの超のつくハイペースを追走し、しかもThe New Oneを相手にせずNichols Canyonと叩き合って2着を死守するのはもはや実力以外の何者でもないだろう。とにかくこの馬に関しては無事に行ってくれることが何よりである。今シーズン初戦でいきなりFaugheenを下して名を上げたNichols Canyonは良馬場が懸念されるも力を見せて3着。ややこの馬をモノサシにすると2着以下はFaugheenには見劣るかもしれないが。

本来良馬場が良いはずのThe New Oneは最後遅れ4着。相次ぐライバルの離脱などもあり、今回はチャンスだったのだが、完全に3着馬とは力差を感じさせるものとなってしまった。やや力落ちがあるかもしれない。Top Notch、Identity Thiefらはさすがにここでは厳しかったか。Lil Rockerfellerはペースに戸惑い、最後まで脚を伸ばすも7着が精一杯。上がり馬であり、これまでさほど厳しいペースの経験がある馬ではないだけに、いきなりこのような超のつくハイペースは厳しかっただろう。まだ5歳馬だけに今後に期待と言ったところである。Sempre Mediciはさすがにこのメンバーに入ると厳しい。昨シーズンの4yo路線のチャンピオンPeace and Coは道中引っ掛かり通しで結果PU。この馬に関しては気性的な問題が解決しないとレースにならない。

 

OLBG Mares' Hurdle (G1) 2m3f200y

昨年からG1に格上げされたレース。昨年はAnnie Powerが圧倒的な人気を背負うも、まさかの最終障害落馬という結果に終わっていた。

レースはDesert Queenが思い切って逃げる展開。Pass The Time、Aurore D'estruval、Melbourne Ladyらが好位。The Govaness、Lily Wagh、Flute Bowlらが中段。圧倒的人気を背負ったVroum Vroum Magは後方から。ペースはDesert Queenがそれなりに引き離して逃げたにも関わらずさほど上がらず、スロー~ミドルペースで進行。徐々に外を回って追い上げてきたVroum Vroum Magが残り2障害辺りから先頭に並びかけると、最終障害を飛んだところで抜け出し、軽く後続を突き放し2馬身差の快勝。2着にはやはり後方から追い上げたRock On The Moor、3着にはLegacy Gold、4着には好位から粘ったPass The Timeが入った。

Vroum Vroum Magは愛国移籍後はこれで9戦9勝。今回も危なげのない飛越と卓越した加速力を見せ付けた。ただし、レースレベルとしては残念ながらさほど高いものとは思えない。2着のRock On The Moorは愛国で平場勝ちがある程度の馬、3着のLegacy Goldも下級条件勝ちのみで前走はAnnie Power相手に勝負にすら持ち込めていない。9着までが殆ど団子状態というスローからの上がり勝負であったこともレースレベルを示すいい指標であろう。また、Vroum Vroum Magが前走Ascotで勝利した際も、2着は愛国でいまいちな競馬を続けているJennies Jewelという点も英国牝馬Hurdle路線の水準の低さを示していると考えられる。Vroum Vroum Magに関して、この中では力は抜けていることははっきりしているが、今後のレース選択によっては疑って掛かったほうが良い。このレースに関しては、何でもG1に格上げすればよいというわけではないことを示すいい一例だろう。

なお最終障害で落馬したThe Govanessは予後不良とのこと。同馬のご冥福を祈る。

 

National Hunt Chase Challenge Cup (Listed Amateur Riders' Novices' Chase) 3m7f170y

4miles戦、アマチュア騎手、Novice馬と三重でわけわからんレース。Vintage Vinnieが積極的に引っ張る展開。好位からやや引っ掛かり気味のJohnny Og、Pleasant Company、Viva Steve、Native River、Bally Beaufortなど。Minella Rocco、Vieux Lion Rouge、Pont Alexandreは後方から。2周目辺りから我慢できなくなったのか、Johnny Ogが替わって先頭に。こちらも緩めずに引っ張る。残り4障害辺りからMinella Rocco、Measureofmydreams、Southfield Royale、Native Riverらが先頭に替わる。この中から抜け出してきたのがMinella Rocco。Native Riverの鋭い追い上げを1馬身ほど凌いで勝利。離れた3着にはMeasureofmydreamsが入った。

ほぼ全ての馬にとって未知の距離である4miles戦にも関わらず、積極的に飛ばした馬がいたおかげで非常に見ごたえのあるレースとなった。Minella RoccoはこれがChase初勝利。24f戦のG2でVyta Du Rocの2着がある辺り、長距離適性としては高いものがあったのだろう。しかしこのハイペースの中、特に飛越のミスもなくきっちりと勝ちきる辺りは評価に値する。今後も超長距離戦線では楽しみな一頭だろう。直線でやや不利のあったNative Riverも惜しい2着。Un Temps Pour Toutを下してきた馬であり、そのトップスピードは特筆すべきものがある。最後まで脚も上がっておらず、これも楽しみな一頭。アイルランドから2戦2勝で挑んだMeasureofmydreamsも頑張ったが、やや上位馬とはスピードの面で見劣る感が否めない。もう少し馬場が渋ってくれた方が良いだろう。Kauto Star Novices' Chase (G1)にてTea for Twoの2着のあるSouthfield Royaleは最後遅れ4着。どちらかというと持続的なスピードに長けたマラソンランナーであり、上位馬にあそこまでのトップスピードを使われると厳しかったか。

なお途中棄権したPont Alexandreは予後不良とのこと。怪我を乗り越え復帰してきた馬だけに残念でならない。同馬のご冥福を祈る。