にげうまメモ

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16/04/07 National Hunt Racing - Grand National Meeting -

*Aintree Soft

Aintree競馬場最大の開催、Grand National Meeting初日。前日の夜にやや激しい雨が降った影響か、馬場はさすがに綺麗に整備されていながらもやや渋った状態で行われた。また、レース映像を見ると時折雨が降っており、馬場の悪化が懸念された。なお中の人は延々酒を飲みつつ観戦していたため、二日酔いで頭が痛い。

Aintree競馬場はNational Courseのイメージが強く非常にタフなコースである印象があるが、他の自然の地形を利用した英愛の競馬場と異なり、どちらかというと全体が平坦でスピードが要求されるコースである。従ってCheltenhamの下り坂の途中に設置された障害や、Ascot競馬場の向こう正面のOpen Ditch、激しい高低差が存在するChepstow競馬場などと異なり、比較的障害の難易度も高くなく、持久力や障害飛越の巧拙よりも単純なスピードがモノを言うことが多い。ただし、Chase Courseに関しては最後の数障害でNational Courseを斜めに横切る必要があるため、下手をすると急激な進路変更により減速を余儀なくされる恐れがある。ここでの進路取りはややトリッキーであるという点が挙げられるだろう。

 

Merseyrail Manifesto Novices' Chase (G1) 2m3f200y

中距離Novice Chase。短距離Novice Chaseで怪物Douvanの後塵を拝し続けてきたSizing Johnが人気になっていた。

逃げるのはArzal。スタンド前でこそ一旦は緩めるが、2周目の入り口から再度ペースを上げ、ミドルペースで淡々と引っ張る。人気のSizing Johnは好位から。Asoは序盤こそ好位にいたが、第6障害でミスをし中段に下がる。L'ami Sergeは中段の内。Garde La Victoireは後方から。途中から人気の一角Garde La Victoireはペースについていけなくなり、残り4障害で落馬。Sizing Johnも残り2障害辺りから手ごたえが悪くなる。逃げるArzalを必死でL'ami Sergeが追うも、これらを尻目にリードを広げ、最後は8馬身差の快勝。

Arzalは短距離Novice ChaseでAr Madなどと好勝負を演じてきた馬。Ar Mad自身はハイペースで引っ張るタイプの馬であり、そのペースについていった経験は伊達ではなかった。自ら厳しいペースを刻んでの勝利。比較的スローの上がり勝負で戦ってきた他の馬には厳しかっただろう。2着のL'ami Sergeは最後までバテてはいないので、この8馬身は決定的な差かと思われる。

L'ami SergeはJLT Novices' Chase (G1)でBlack Herculesの3着に入った馬。本来重馬場が得意な馬であり、Cheltenhamでは良馬場に泣かされたという面がある。今回はSoftな馬場で得意な舞台に変わるも、Arzalに対しては完全にスピード負けの内容。残念ながらこれは完敗と言っていいだろう。Sizin Johnは途中からついていけなくなり3着まで。Douvanに対して2着続きの馬であったが、いずれもスローからの上がり勝負。このように序盤からそれなりに流れるレースは未経験であり、最後は脚が上がってしまった。距離というよりはペースの問題だろう。そう考えると短距離Chaseにおいては現状ハイペースで引っ張る馬が多く、Douvanも上のクラスにどこまでやれるかというとやや疑問が残る。Cheltenhamでは残り4障害で落馬してしまったGarde La Victoireは雪辱を期すも今回も落馬という結果に終わった。やはりこの馬もNoiceらしいスローからの上がり勝負で勝ってきた馬であり、途中からペースについていけなくなってしまっていた。やや来シーズン以降に関しては不安要素の残るレースとなってしまった。

 

Betfred Anniversary 4YO Juvenile Hurdle (G1) 2m209y

4歳の若駒ハードルという名前のレース。おっとそこ笑ってはいけない。CheltenhamのJCB Triumph Hurdle (G1)を快勝してきたIvanovich Gorbatovが人気の中心、それを追うのが同レース2着の牝馬Apple's Jadeという前評判であった。

逃げるのはAzzuri。番手で追うのがApple's Jade。それを見る格好でIvanovich Gorbatovが構える。Sceau Royalは好位の内。Diego Du Charmil、Romain De Senamなどは中段から後方。Azzuriは淡々と引っ張る。残り4障害で後方に置かれていたFootpadが落馬。残り3障害で持ったままでApple's Jadeが進出。これを追うIvanovich Gorbatovはむしろ手ごたえが悪くなる。そのままApple's Jadeはひたすら差を広げ、最後は41馬身差の圧勝。2着にはなんとか逃げるAzzuriを押さえ込んだIvanovich Gorbatovが入った。

Apple's JadeはこれでHurdle3戦2勝とした。Hurdle初戦でアイルランドの強豪Jer's Girlを下すという強い内容。続いてCheltenhamでも最後こそIvanovich Gorbatovにスピード負けしたが、2着と大健闘するという実績を残していた。本来やや馬場が渋った方が得意な馬であり、かつ一流レースのペースを追走できるだけのスピードも兼ね備えた馬。ここでは完全に同馬に条件が向いたとも言えるだろう。しかし最後後続は脚が上がる中、同馬は全くバテずに余力残しで走る内容。短距離Hurdleにおいて楽しみな馬が出ていたといって間違いない。

Ivanovich GorbatovはCheltenhamこそそのスピード能力を見せ付けたが、今回はやや馬場に泣いた。最後はかなり苦しくなっているように、この41馬身という差は仕方のないものだろう。これでApple's Jadeと勝負付けが済んだと考えるのは早計である。未勝利馬Azzuriは積極的な競馬で見せ場を作った。下級条件戦であれば勝ち上がりは早いだろう。Footpadはペースについていけず落馬。重馬場の方が得意な馬かと思っていたのだが。

 

Betfred Bowl Chase (G1) 3m201y

長距離Chase。Cheltenham Gold Cup (G1)で2着のDjjakadam、3着のDon Poli、King George VI Chase (G1)勝ちのあるCue Cardなどが人気になっていた。

レースはまさかのDynasteが逃げるという展開で始まる。当然ペースはスロー。第3障害の直後に何故かコース内に飛び出していた柵にDynasteが接触するという事象が生じる。カメラマンの集団がコースに入り込んで撮影しており、柵を閉じなかったのが原因かもしれない。第4障害からDjakadamが先頭に立つが、ペースは上がらない。好位につけるのがCue Card、Don Poli、Dynaste。中段からSaphir Du Rheu、Taquin Du Seuil。Irish Cavalierは後方から。Houblon Des Obeauxは最初から走る気を見せず、早々に後方に遅れる。ペースはなかなか上がらず、残り5障害辺りからDon Poliが先頭に代わる。しかしこれを追撃したCue Cardが残り3障害に立つと、あとはスピードの違いで突き放す一方。Don Poliに9馬身差をつけて快勝した。Djakadamは3着まで。

Cue Cardは元々Champion Bumper (G1)勝ちがあるほどスピード能力に長けた馬。一時は骨盤骨折の影響でパフォーマンスを落としていたが、今期はKing George VI Chase (G1)勝ちを含むG1を2勝と、完全復活をアピールしていた。Cheltenham Gold Cup (G1)でこそ下り坂での障害で落馬と勿体無い結果に終わっていたが、スローからの上がり勝負であればここでは力が違う。比較的ハイペースへの耐性もある馬であり、次のシーズンでも長距離Chaseの有力馬であることは間違いない。

Don Poliは得意のスローからの上がり勝負になるも、Cue Cardにスピード能力の違いを見せ付けられ完敗の内容。Djakadamは重馬場こそ得意だが、本来スピードの持続能力に長けた馬であり、このようなレースは合わない。Ruby Walshはさほど積極的なレース運びをする騎手ではないので、ある意味仕方ない結果だろう。ただしハイペースへの耐性は現役馬の中でも屈指のものがあり、この敗戦で見限るのは早計か。

Dynasteはやや今シーズンは衰えが見られる。2m5f戦でやるにはスピードが足りず、3m戦ではややスタミナが足りない。Ryanair Chase (G1)勝ちのあるベテランであり、何とかもう一花咲かせて欲しいのだが。JLT Novices' Chase (G1)勝ちのあるTaduin Du Seuilは中段から進めるも上位馬には差を詰められず。もともと後方から脚を伸ばすタイプの馬だが、戦法の転換を図ったほうがいいかもしれない。また、3m戦はやや長い。昨年のWorld Hurdle (G1)で2着の実績のあるSaphir Du Rheuはなぜかここに登録してくるも大敗。あまりノドの調子も良くないようだ。

 

Doom Bar Aintree Hurdle (G1) 2m4f

Champion Hurdle (G1)を圧勝した牝馬Annie Powerが圧倒的な人気を背負っていたレース。逃げるのはNichols Canyonだが、右に斜飛していたりとあまりスムーズな飛越を見せられない。第5障害辺りから自然とAnnie Powerが先頭に立つ。第5障害で好位にいたThe New Oneが落馬。Campiong Groundが好位、My Tent Or Yoursは後方から進める。My Tent Or Yoursは徐々に位置を上げ、残り4障害辺りでは逃げるAnnie Powerを射程圏に入れる。しかしここからMy Tent Or Yoursの手ごたえが怪しくなり、Annie Powerが後続を引き離す。結果18馬身差の圧勝。My Tent Or Yoursが離れた2着に入った。

Annie PowerはこれでHurdle14戦12勝2着1回、その他OLBG Mares' Hurdle (G1)でまさかの落馬と素晴らしい成績を残してきている。今シーズン序盤はやや順調さを欠いていたが、ここにきてG1を連勝、そのいずれもが圧勝の内容と非常に充実したものとなっている。短距離Hurdleで面白い存在であることは間違いないが、同馬主・同厩舎でFaugheenという怪物もいるので、それとの使い分けが懸念される。2年近い休養明けからChampion Hurdle (G1)で2着と頑張ったMy Tent Or YoursはここでもAnnie Powerの後塵を拝することになった。重馬場でも問題なく走れる馬だが、やや今回は相手が悪かった。今シーズン初戦でFaugheenに初黒星をつけたNichols Canyonは飛越にスムーズさを欠いた。Cheltenhamではこのような悪癖は見られなかったのだが。The New Oneは早々に落馬。よく最終障害でミスをしたりと、さほど飛越の上手い馬ではないことは注意しておいた方がいいかもしれない。

 

Crabbie's Fox Hunters' Chase (National Course) (C2) 2m5f19y

Aintree競馬場の代名詞であるNational Courseを使うレースである。このレースはコースを1周ちょっとするアマチュア騎手限定の定量戦。従って出走馬としてもOpen Hunters' Chaseを主に使ってきた馬が多く出走していた。

レースは恒例のFalse Startから幕を開ける。人気のPacha Du Polder、On The Fringe、Doubledisdoubledat、Bound for Gloryなどが引っ張る展開。Dineur、Monkey Kingdom、Ockey De Neulliacなどが好位置。前半は比較的全馬綺麗な飛越を見せるも、第6障害でForge Valley、Need to Know、Sam Cavallaroが落馬。少しずつNational Fenceをこなせない馬が遅れて行き、隊列は長くなる。Beacher's Brookは全馬綺麗に飛越。第12障害であるCanal TurnでBound For Gloryが落馬。さらに第13障害であるValentinesで後方にいたRichmond、第14障害でSwallows Delight、Major Malarkeyが落馬。第13障害からOn The Fringeが番手に並びかける。残り2障害辺りから逃げるDineurに代わって先頭に代わり、そのまま後続を突き放し8馬身差の快勝。Pacha Du Polderが残り2障害辺りから苦しくなり大敗。

On The FringeはHunters' Chaseの常連。昨年の同レースの勝ち馬でもある。CheltenhamのFoxhunters' Chaseに続いての勝利であり、いずれも連覇する形となった。このレースでもとにかく飛越が安定しており、National Fenceを軽々と飛越していた。コース経験、飛越能力、スピード能力とともに抜けていたことは間違いないだろう。来年こそはGrand Nationalに向かって欲しいのだが。

Dineurは元々は短~中距離ハンデ戦をうろうろしていた馬だが、今シーズンからHunters' Chase路線に転向。2戦とも2着と惜しい競馬が続いていた。今回は初のNational Course、12st0lbという斤量とやや条件は厳しかったが、積極的な競馬で見せ場を作った。距離がどこまで持つかはわからないが、面白い一頭だろう。3着に入ったMendip Express。かつてBecher Chase (G3)でOscar Timeの2着に入った実績もあり、その経験も生きたか。やや勝ち馬とは差があるが、National Courseであれば無視できない一頭か。人気のPacha Du Polderは最後苦しくなり大敗。昨年の2着馬でありコース経験も豊富であったが、どちらかというとスピード能力に長けた馬。ペースが遅くなりがちなHunters' Chase路線ではこの能力で勝ってこれるが、このような厳しいレースになるとやや苦しくなる可能性は今後も無視できないだろう。

なお競争中止したMarasonniean、Clonbanan Ladは残念ながら予後不良とのこと。両馬のご冥福を祈る。