にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

16/04/09 Crabbie's Grand National Chase (G3) Guide

*はじめに

昨年のGrand National Guideを若干手直ししたもの。Grand Nationalについての簡単な解説。Grand Nationalが行われるGrand National Meetingについて、及びコースや障害、見所や昨年の結果の解説など。詳しいところはwikiるなりAintree競馬場、RacingPostの HPを参照されたし。なお出走馬については別個で記事を書く予定。

 

Grand Nationalとは4月上旬にAintree競馬場にて行われるGrand National Meetingの最終日に存在する障害レース(G3)。ハンデ戦であるためG3の格付けとなるが、その賞金額・名誉・国内外合わせた世界的人気・馬券の売り上げなど、全ての面でほとんどのG1を凌駕する。馬券の売り上げは世界最高であり、かつ英国国内の人気は英国ダービーを超えて輝くべき第1位の座にあ る。条件としては7歳以上限定、距離は4m2f72y (約7000m)、飛越する障害は30。距離は世界最長に近く、また飛越する障害の難易度も世界的に見ても非常に高い。従って障害レースとしては世界最高クラスに過酷なレースと言われている。しかしながら、参戦する馬たちは、世界的に見てもトップクラスに飛越能力が高くスタミナもあるベテラン揃いである。 愛国調教馬Blackstairmountain(母国ではNoviceのG1を勝った程度の馬である)が日本の中山大障害の中でも最難関といわれる大竹柵を軽々と飛越し、見事制覇したのは記憶に新しいだろう。事実、英愛仏の障害レースのレベルは非常に高く、Grand Nationalに出てくる馬はその中でも精鋭揃いである。このようにGrand Nationalとは、選りすぐられた馬たちが障害レース最高の名誉を求めて、世界最高クラスに難易度の高いコースに挑む、非常に見ごたえのあるレースで ある。

 

*Grand National Meeting

Liverpool 近郊に存在するAintree競馬場にて、毎年4月の上旬に開催される祭典。開催は3日間行われ、初日のGrand Opening Day、二日目のLadies Day、そして最終日のGrand National Dayに分かれている。名高いGrand Nationalは最終日のメインレースとして行われるが、他にも数多くのG1が行われ、各路線の強豪たちが集まる非常に見ごたえのレースが展開される。

初日のGrand Opening Dayでは4つのG1が行われる。まずは中距離Novice Chase路線のG1、Manifesto Novices’ Steeple Chase (G1)。昨年は中距離Novice Chaseで圧倒的な強さを発揮してきたVautourこそ不在であったが、愛国のClarcamがVibrato Valtatの追撃を振り切って勝利した。次にThe Aintree Anniversary 4YO Juvenile Hurdle。こちらは4歳限定のHurdle戦。今年騎手を引退し、障害調教師に転向するらしいJoseph O'Brien師の管理するIvanovich Gorbatovという、Cheltenhamの4歳限定G1であるJCB Triumph Hurdle (G1)を勝利した強豪が参戦を表明している。続いて長距離Chase路線のG1、Bowl Chase。昨年は長距離Chaseの強豪であり、King George VI Chase (G1)勝ちなどの実績のあるSilviniaco Contiが連覇を達成した。同馬は今年はGrand Nationalに参戦することが報じられている。The Doom Bar Aintree Hurdleは短距離HurdleのG1。今年の短距離Hurdleの最高峰であるChampion Hurdle (G1)を快勝したAnnie Powerが登録している。このように、初日から各路線の主役級が集まる大レースの数々が行われる。

2日目のLadies Dayでは4つのG1が行われる。短距離Novice HurdleのG1、Top Novices' Hurdle。今年のCheltenham Festivalに行われたSupreme Novices' Hurdle (G1)を快勝し、Hurdle5戦5勝とした怪物Altiorの名前も登録馬の中にある。長距離Novice ChaseのG1、Mildmay Novices’ Steeple Chase。一昨年の勝ち馬HolywellはNovice路線では最も高いレーティングを獲得し、昨年のCheltenham Gold Cupでも4着と健闘した。JLT Melling Chaseは中距離ChaseのG1。今年の中距離Chase路線の最高峰、Ryanair Chase (G1)を圧勝したVautourが参戦を表明している。Sefton Novices’ Hurdleは長距離Novice HurdleのG1であるが、今年の長距離Novice Hurdle路線も混戦模様。Harry Fry師の下に移籍してから快進撃を続けているUnowhatimeanharry(You know what i mean harry)というギャグみたいな馬がいないのは寂しいが、新たな主役の誕生なるか注目である。

3日目のGrand National Dayでは3つのG1が行われる。The Mersey Novices’ Hurdleは中距離Novice Hurdle路線のG1。Maghull Novices’ Steeple Chaseは短距離Novice ChaseのG1。今期の短距離Novice ChaseにはDouvanという怪物がいる。詳しくはCheltenham FestivalのArkle Challenge Trophyを参照して欲しいが、同馬が出走するなら大注目である。加えて長距離HurdleのLiverpool Hurdle。いずれも各路線におけるトップクラスの馬たちが出走するレースであり、要注目である。

しかしながら、同日のメインはなんと言ってもCrabbie's Grand Nationalである。同レースはハンデ戦であるためG3の扱いになるが(G1は全て定量)、その賞金額は驚きの100万ポンドと障害競走としては世界最高額を誇る。英愛障害競馬の祭典Cheltenham Festivalの中で最も注目を集める長距離Chaseの最高峰Cheltenham Gold Cup (G1)の賞金額が55万ポンドということを鑑みても、同レースの重要性がわかるだろう。

 

注1) ChaseとHurdleについて

英愛障害レースは飛越する障害に基づいて2つのカテゴリーに分かれている。ChaseとHurdleである。これに関しては実際のレースを見てもらったほう が理解が早いだろう。簡単に言えばHurdleに比べてChaseの方が障害が大きく、飛越に際しての難易度が高い。従ってHurdleの方がスピードを要し、 障害馬としてはHurdleから障害デビューしその後スピードの衰えと飛越能力の向上に伴ってChaseに転向するといったキャリアが一般的である。な お、Grand NationalはChaseのカテゴリーに属するものの、下記の通り通常のChase Courseとは異なる特殊なコースと障害を用いる。また特殊なコースとしてはCheltenhamとPunchestown競馬場に存在するCross Country Courseが存在するが、これもカテゴリーとしてはChaseに属する。以下代表的なレースの動画。

注2) Noviceについて

前シーズンまで該当カテゴリー(Chase or Hurdle)にて未勝利である馬はNoviceという格付けになる。例えばHurdleにてG1を勝っているほどの馬でも前シーズンまでChaseで未 勝利であれば今シーズンのChaseのNovice戦に出走する権利がある。前シーズンまで該当カテゴリーにて未勝利であれば、今シーズンいくら該当カテゴリーを勝ちまくろうとNovice戦に出走することができる。ちなみに2015年の長距離Chaseの最高峰Cheltenham Gold Cupを勝ったConeygreeは前シーズンまでChaseで未勝利であったため、ChaseではNoviceの身ということになる。Noviceの身でCheltenham Gold Cupを勝利したのは1974年のCaptain Christy以来であり、Coneygreeは歴史的快挙を挙げたと言える。

この辺りは以前書いた英愛障害競馬の基礎知識に関する解説記事にちまちま書いてある。文章コピペしている部分もあるが、興味のある方はどうぞ。

 

*National Course

Grand Nationalは通常のChase Courseとは異なる特殊なコース、National Courseを用いる。このコースはAintree競馬場のみに存在する。コース自体は平坦な三角形に近い形状であり、1周2m2f (2miles-2furlongs 以下この表記を用いる)である。英国障害競馬といえばGrand Nationalという認識を持っている人も少なくないと思うが、実はこのコースを用いるのは年に5回のみ、11月もしくは12月に行われるBecher ChaseとGrand Sefton Chase、及びGrand National Meetingに行われるTopham ChaseとFox Hunters' Chase、そしてこのGrand Nationalである。Grand Nationalはその中でも唯一National Courseを2周し、全体として距離は4m2f72y、飛越する障害は30である。距離としては、世界最長の座こそCrystal Cupの一環として行われるフランスのAnjou Loire Challengeに譲るが、英愛障害レースの中では最長であり、また障害レースとして世界最長クラスの距離である。また、障害の難易度も下記にある通り 非常に高い。このように、距離の長さ、障害の難易度の高さも相まって、世界の中でもトップクラスに過酷なレースである。実際毎年40頭近い出走馬を集めるが、年によっては完走馬が10頭を切ることも珍しくない。例えばHeavyな馬場で行われた2001年の完走馬はたったの4頭だった。

 

注) Crystal Cup

欧州各国で行われるCross Country Serious。各レースの着順でポイントがつき、合計ポイントを競う。日本のサマー2000シリーズなどの欧州Cross Country版だと思っていただければよい。詳しくはCrystal CupのHPを参照されたし。開催国は英愛仏伊など多岐に渡り、かの有名なチェコのVelka PardubickaもCrystal Cupの一環として行われる。各レースの出走馬は主に開催国の馬が多いが、ある程度馬の交流もある。例えば2014 Grand National2着の英国調教馬Balthazar Kingはその後Crystal Cupの一環として行われるフランスのGrand Cross Country De Craonに参戦し、見事勝利を挙げている。Crystal Cupの各レースに関してはタグ"Crystal Cup"の記事でぐだぐだ書いていたりするので、宜しければどぞ。

 

 

*Obstacles

詳しくは英語版のwikipediaを参照されたし。Grand Nationalではスタンド前の2つの障害(The Chair、Water)を除くNational Courseの障害を各2回飛越し、合計30の障害を飛越することになる。英愛における通常のChase Courseの障害は日本のものと異なり、搔き分けて飛越することがほぼ不可能であるが、National Courseにおける障害は比較的柔軟な素材で出来たFenceの上部14 inches(約35cm)がトウヒの枝で覆われており、馬がトウヒの枝の部分を搔き分けて飛越することが可能になっている。Grand Nationalの動画を良く見ると、馬が飛越した後、ぼろぼろになった障害に係員がトウヒの枝を積み直しているシュールな光景が認められるはずだ。 また、Grand Nationalに向かう馬がNational Fenceの練習にと、普通の障害の上にトウヒの枝を乗っけたものを跳んでいることもある。Chase Courseの障害は最低4 ft 6 in(約1.4m)であり、National Courseの障害も似たような高さではある。しかし、このような障害は他の競馬場には存在せず、障害によっては着地点が飛越側よりも低くなっているものや、障害が直角のコーナーの直前に置かれているものもあり、その距離の長さと障害の難易度の高さのよるスタミナの消費も相まって、完走するには人馬に高い飛越スキルとスタミナが求められる。実際に毎年数多くの落馬事故がおきている。ただし馬の死亡事故は落馬数に比して少なく、ここ3年ほどは起きていない。 以下各障害の詳細を記す。

 

Fence 1st and 17th (高さ 4 ft 6in)

スタート直後にある障害。高さとしてはWaterを除き最低だが、第一障害ともあってスピードも出ており、かつ馬群も密集しているため落馬を引き起こしやすい。実際に昨年は3頭(Ely Brown、Gas Line Boy、Al Co)が落馬している。なお英国のブックメーカーでは全馬が第一障害を突破できるかというしょーもないBettingも行っているので参照されたし。

Fence 2nd and 18th (高さ 4 ft 7in)

かつてはThe Fanとも呼ばれていた障害。

Fence 3rd and 19th (高さ 4 ft 10in、障害の前に 6 ft の空壕) - Open Ditch

こ の障害のように、障害の前に空壕が存在する障害は一般的にOpen Ditchと呼ばれる。通常の障害に比べよりスピードを持って飛越する必要があり、難易度は高い。通常のChase Courseにも同様に空壕が設置されている障害が存在する。昨年はRubi Lightが落馬。

Fence 4th and 20th (高さ 4 ft 10in)

3rdと高さは同じだが空壕は存在しない。なお第20障害は2011年にGrand Nationalの歴史上初めて迂回された障害として有名である。

Fence 5th and 21th (高さ 5 ft)

Beacher's Brookの前の障害としてアナウンスされる。見所としては確かに後者だが、この障害自体も非常に高く、難易度が高い障害である。1998年はこの障害で3頭が死亡する事故があった。昨年は葦毛のUnionisteが落馬。

Fence 6th and 22th (高さ 5 ft、着地側が 6in to 10in 飛越側よりも低い) - Becher's Brook

Grand Nationalの数ある障害の中でも最も難易度が高いとされる障害。着地側が飛越側よりも低くなっているため着地時に人馬がバランスをとるのが非常に難しく、毎年数多くの落馬を引き起こす。実際に昨年はフランスから参戦したRiver Choiceが落馬している。馬の死亡事故も歴代計14頭とNational Courseの障害の中でも圧倒的な数を誇る(誇らんでよい。第二位は4thの8頭。ちなみにチェコのVelka Pardubickaの中で最も難しいとされているTaxis Ditchのこれまでの合計死亡数は28頭である!)。なお2013年のGrand Nationalではここまでの障害を全ての馬が無事に飛越しており、アナウンサーが驚愕をもって実況している。「ALL OVER BEACHER'S!」。なおこの障害は1839年にMartin Becher大佐の騎乗した馬がこの障害(当時は小川だったらしい)にて落馬したことから名づけられている。

Fence 7th and 23th (高さ 4 ft 6in) - Foinavon

障害としてはWaterを除いてNational Course最低の高さであるものの、コーナーの途中に設置されているため難易度は高い。この障害は1967年のGrand national勝ち馬Foinavonにちなんで名づけられた。これは1967年のGrand Nationalにおいて、先頭を走っていた空馬(Popham Down)がこの障害の前で立ち往生し、先頭集団を含めほとんどの馬がこの障害の前で大渋滞とそれに続く多重落馬を起こした。これに対して集団のはるか後 方を走っていた超人気薄のFoivavonだけがこの渋滞を回避して飛越することができ、このアドバンテージを生かして見事勝利したというエピソードであ る。この動画は中々シュールなのでお勧めする。

Fence 8th and 24th (高さ 5 ft) - Canal Turn

National Courseの中でも有名な障害の1つ。障害としての高さはもちろんのこと、障害の直後に直角のカーブが設置されている障害。 そのため馬群が内に密集し やすく、多重落馬を引き起こしやすい。昨年はこの障害で落馬したBalthazar Kingに引っ掛かってBallycaseyが落馬。Balthazar Kingはその後しばらく立ち上がれず、2周目の同障害は迂回することになった。なおCheltenham競馬場のCross Country Courseにはこの障害のレプリカが存在する。

Fence 9th and 25th (高さ 5 ft、障害の後に 5 ft 6 in の空壕あり) - Valentine's Brook

National Courseの中でも有名な障害の1つ。障害の後に空壕が設けられており、飛越の高さはもちろんのこと、飛越の幅が求められる障害となっている。特に2周目の飛越の際には各馬スタミナの消耗も激しく、スピードをもって飛越することは難しい。

Fence 10th and 26th (高さ 5 ft)

高さとしては最高レベルであるものの特に空壕などは設けられていない。このように何も付属物のない障害はPlain Fenceと呼ばれる。昨年は先頭集団にいたThe Druis Nephew、The Rainbow Hunterが落馬した。ちなみにThe Rainbow Hunterは2年連続で1周目のCanal Turnで落馬していた愛すべきベテラン。The Rainbow Hunter Specialと銘打って、この馬がCanal Turnを越えるか、完走するかというBettingが行われていたほど好かれていた馬である。そして3度目の挑戦にしてついにCanal Turnを越え、2周目から満を辞して先頭に立ったが、ここで無念の落馬となった。ちなみに同レースを持って同馬は引退となった。

Fence 11th and 27th (高さ 5 ft、飛越側に6 ft の空壕) - Open Ditch

飛越側に空壕が設けられた障害。昨年はPortrait Kingが落馬。

Fence 12th and 28th (高さ 5 ft、着地側に5 ft 6in の空壕)- Ditch 

先ほどの障害とは逆に、着地側に空壕が設けられた障害。

Fence 13th and 29th (高さ 4 ft 7in)

Plain Fence。この障害での落馬は比較的少ないといわれている。

Fence 14th and 30th (高さ 4 ft 6in)

こ れもPlain Fence。高さもWaterを除き最低。2周目では最終障害となるため、疲弊しきった馬が完走を目指して飛越を試みた結果しばしば落馬するが、死亡事故はここまで起きていない模様。2周目では次の2つの障害(The Chair、Water)は迂回してゴールに向かう。

Fence 15th (高さ 5 ft 2in、飛越側に幅 6 ft の空壕) - The Chair

高さとしてはNational Course最大のもの。かつ飛越側に巨大な空壕を持つ。1862年にGrand National史上唯一の騎手の死亡事故を起こした障害である。スタンド前に存在するためひときわ飛越時の盛り上がりも大きい。

Fence 16th (高さ 2 ft 6in、着地側に 9 ft 7in の水壕あり)- Water Jump

高さとしては他と比べて非常に低いものの、着地側に巨大な水壕が存在する障害。落馬事故はほとんどないが、スピードをもって飛越する必要がある。なお中山の水壕障害と比べると高さは大して変わらず、20cmほど水壕の幅が大きい。なおフランスのパリ大障害のRiviere des Tribunes(水壕)はこれよりも水壕の幅が2.6mほど大きいというのだから恐ろしい。

 

注1) 競争中止

競争中止と一概に言っても原因は色々ある。ここでは代表的なものを3つ紹介したい。第一にPull Up (PU)。これは障害飛越とは関係なく、途中棄権と書いたほうがいいかもしれない。原因としては故障のほか、先頭から大きく離され てしまい勝機がなくなった場合、または馬が著しく疲労した場合などが挙げられる。第二にFall (F)。これは障害飛越の際の落馬転倒である。第三にUnseated Rider (UR)。これは飛越時に馬がバランスを崩し、鞍上が落馬した場合を指す。ちなみに珍しいものではRefuse to Race (RR)などもある。要するに発馬拒否である。これを繰り返すとBHAから出走停止を食らうことになる。気になる人はMad Mooseで検索されたし。要するに発馬拒否を繰り返して一時期Banされた馬である。その出走停止が解けた復帰戦、#Willhestartというしょ もないタグが流行ったのは記憶に新しい。

注2) 障害の迂回

Grand NationalはNational Courseを2周するため、1周目の障害で事故があり再度の飛越が危険と判断された場合はフラッグが振られ、該当する障害を迂回することになる。外ラチ と障害の間にはある程度の間隙があり、障害を迂回することができるように配慮されている。これは例えば1周目で落馬した馬が障害の近くに留まり、その場で 治療または処分を行う場合などが挙げられる。故障馬の治療はシートで隠され、映像には映らないよう配慮こそされるものの、いずれにせよあまり見たくない光景である。

注3) Foinavon

件の事件は6:30あたりから。

注4) 2013年のGrand National

All Over Beacher's! なおレースは超人気薄のAuroras Encoreが勝利。同馬はその後復帰するも、成績は冴えず、前肢の怪我で引退。Grand Nationalでは歴代の勝ち馬がレース前にパドックでお披露目をする行事があるのだが、残念ながら2014年では姿を見せず、怪我の状態がちょっと心配である。

注5) パリ大障害

埋め込み形式がどうも一定しないのははてぶのせいにして欲しい。Riviere des Tribunes(超巨大な水壕障害)は必見。なおこの年のパリ大障害には英国からは2012年のCheltenham Gold Cupの勝ち馬Long Runが参戦しているが、大敗している。Long Runは今年はGrand Nationalを目指すとしていたが、残念ながら復帰戦も精彩を欠き、その時点で引退となった。詳しくは下記事参照のこと。大きなシャドーロールが特徴的な、栄光と挫折、両方を味わった馬である。

注6) Taxis Ditch(Velka Pardubicka)

www.youtube.com 

いわゆるチェコのアレ。チェコでも障害競走は盛んであり、その中でももっとも権威のあるレースとされている。見所はなんと言っても第4障害、Taxis Ditch。その大きさは150cmの生垣の後ろに、1mの深さ、4mの幅のある空壕が設置されているという驚異的なもの。当然落馬事故も多く発生してお り、Pardubice競馬場の数ある障害の中でもVelka Pardubickaでしか使われないという恐ろしい障害。このレースとしてはクロスカントリーに属し、多彩な障害を超えていくので見ているだけでも面白いと思う。巨大な水壕障害、二連続障害などは必見。なおレースはOrphee des Blinsという馬が2014年は3連覇を達成した。2015年のレースに関しては下の記事を参照のこと(動画あり)。

 

*Weight

Grand Nationalではハンデ戦ということもあり、レーティングに基づいて斤量が決定される。2014年だと11st10lbのTidal Bayがトップハンデであり、10st1lbのSwing Billが最軽量である。2013年は11st10lbのImperial Commanderがトップハンデ、10st0lbのSollなどが最軽量である。要するに全体として65~75kgほどの斤量を背負い、トップハンデと 最軽量では約10kgほどの斤量差があると考えていいと思う。なおこれを酷量と考えるかは人それぞれだと思われるが、英愛障害競馬において70kg以上の 斤量を背負うことは日常茶飯事である。むしろG1などは11st10lbほどの定量で行われる。事実、Blackstairmountainの戦歴を見る と、いかに日本の中山大障害で背負った斤量が軽いモノかわかるだろう。ただし、この大きな斤量差はGrand Nationalを予想する上では厄介である。他にもほとんどの馬にとって未知の距離と障害、さらに多頭数であるため重複落馬がおきやすいこと、などがこのGrand Nationalを予想する上での難解さに拍車を掛けている。

 

*Points of View

で、何に注目すればいいの? て方向けにちょこちょこと。出走馬に関しては別記事参照のこと。

・馬場

Hard- Firm-Good-Soft-Heavyという順に悪くなる。HardとFirmは馬場が固すぎるためむしろ避けられる傾向にあり、実際にレースが行わ れることはほとんどない。この時期の英国の天候は晴れが多いため良馬場(Good)で行われることが多いが、年によっては悪天候により馬場が悪化した状態 で行われる。良馬場であれば走りやすく、スタミナの消費も少ないため完走馬が多くなる傾向にあるが、馬場が悪化した状態ではスタミナの消耗が激しく、完走にはかなり厳しいレースとなる。良馬場(正確にはGood to Soft, Good in Places)で行われた2015年の完走馬は19頭、Heavyで行なわれた2001年の完走馬は4頭だった(もっとも、この年はCanal Turnで重複落馬が起きたせいもあるが)。さらに、重馬場と良馬場では日本のそれとは比べ物にならないくらい異質なコースになるので、当然得意とする馬、苦手とする馬が存在する。合わない馬場では全く走らない馬もいる。このように、当日の馬場状態は要チェックである。

・スタート

ス タートは日本のゲート式と異なり、バリヤー式を用いる。これは見ればわかると思うが、馬があるエリアに並び、スターティングバリヤーが上がることによってスタートする。しかしながらGrand Nationalにおいては出走馬が40頭近くもいることから、しばしばスタート失敗(False Start)が生じる。この原因としては、一部の馬が適切な位置に並んでいなかったこと、または適切な方向を向いていなかったことなどが挙げられる。大歓声の中スタートし、やり直しの旗が振られたときのがっかり感というか、残念な感じはもはや筆舌に尽くし難いので是非期待して欲しい(生じないほうがいい)。なおイギリスのブックメーカーではFalse Startが生じるかというとてもとてもしょーもないBettingを行なっている。

なお、1993年はfalse startが宣言されたにも関わらず39頭中30頭の騎手がそれに気づかずレースを開始してしまい、7頭が結果完走してしまった。後にこのレースは無効とされてしまっている。後にこのレースは"the greatest disaster in the history of the Grand National" と表現された。

なお2014年のGrand Nationalでは発馬拒否した馬(Battle Group)以外、スタートラインに並ぶのが早すぎたとかいうことで、発馬拒否した馬に乗っていた騎手以外の全員がBHAから制裁を食らうという事例が発生している。

・第一障害

大歓声の中、栄光のゴールを目指してスタート。トップでゴールすれば歴史的な、一生ものの名誉。そんな逸る気持ちを抑えつつスタートするも、馬は元気一杯で やる気も十分、しかもコースも広い。ともなれば当然スピードが出る。しかしながらスピードが出た状態での障害飛越は非常に危険である。これはスピードが出 た状態では踏み切りの位置が安定しないこと、上半身を十分に上げきらずに障害に向かってしまい、前脚を引っ掛ける可能性が上がることなどが原因である。さらに言えばどっかの国でお馬鹿な暇人団体が騒ぐので事故率を減らすために障害の高さを下げたところ、逆にスピードが出てしまい事故がちっとも減らなかった という馬鹿馬鹿しい事実からも推測できるだろう。Grand Nationalに関して言えば、障害は上記の通り難易度が高く、かつ他の競馬場には存在しないため慣れない馬がほとんどである。従って第一障害で早速落馬する悲しい思いをする馬がちょくちょく出現する。このように、全ての馬が第一障害を無事クリアできるかは見所の一つといえよう。

・有名な障害

詳細は上の障害の解説を参照されたし。数あるNational Courseにおける難易度が高い障害の中でも、特に難しいとされる傷害である。ここでは簡単に挙げる。

Becher's Brook - Fence 6th and 22th (高さ 5 ft、着地側が 6in to 10in 飛越側よりも低い)

最も難易度が高いとされる障害。その高さは勿論のこと、着地側が飛越側よりも低くなっているため着地時に人馬がバランスをとるのが非常に難しく、毎年この障害で落馬が発生しやすい。

Foinavon - Fence 7th and 23th (高さ 4 ft 6in)

高さはNational Course最低レベルだが、カーブの途中に設置されているため難易度が高い。ただし、この障害はそれ自体の難易度よりも障害にまつわるエピソードの方が有名である。 

Canal Turn - Fence 8th and 24th (高さ 5 ft) 

障害としての高さはもちろんのこと、障害の直後に直角のカーブが設置されている障害。 そのため馬群が内に密集しやすく、多重落馬を引き起こしやすい。

Valentine's Brook - Fence 9th and 25th (高さ 5 ft、障害の後に 5 ft 6 in の空壕あり)

障害の後に空壕が設けられており、飛越の高さはもちろんのこと、飛越の幅が求められる障害となっている。

The Chair - Fence 15th (高さ 5 ft 2in、飛越側に幅 6 ft の空壕)

National Courseの中で最も高い障害。 スタンド前に設置されているため飛越時は大いに盛り上がる。

・空馬の存在

競馬をご覧になっている方はわかるだろう、騎手が落馬し人の制御を失った馬である。しかしながら空馬さん、往々にして一生懸命障害を飛越している馬群に一生 懸命ついていく。その姿は大変愛らしい。人がいなくても頑張って走るんだねぇ、と見る者に愛しみの情を抱かせる... というような考え方はちょっと待って欲しい。馬は集団で生きる動物であり、集団についていくのは本能的なものである。Grand Nationalに関して言えば、高い難易度を誇る障害の数々を越えて行かなければならず、かつ多頭数であるため馬群が巨大なものになりやすいこのレース において、空馬の存在は残った馬にとって脅威である。なにせ人の制御を失っているので動きがまるで読めない。障害を斜めに飛越して他馬の邪魔をする、勝手に飛越して転倒する、馬群を縫うように上がっていく、馬群の前を横切る、最悪の場合障害の前で立ち止まる。例えば2014年は先頭を走っていたAcross The Bayはコーナーで外に逃げていった空馬(Tidal Bay)に引っ掛けられ、コースの大外まで膨れてしまうという致命的な不利を受けた。同馬はその後完走を果たしているだけに、この不利は嘆いても嘆ききれない。かのFoinavonの事件も障害の手前で立ち止まった空馬が引き起こしたものである。このように、空馬の存在は残った馬にとって脅威でしかなく、どうか空馬に対しては外の迂回路を通ってくれるよう、障害と馬群から離れてもらうよう、そして無事関係者各位の元に帰ってくるよう、祈って欲しい。

・鞍上の手ごたえ

英愛障害レースでは、ある程度鞍上の手綱の動きで馬の余力を推し量ることができる。基本的にはマラソンレースなので、余力をなくした馬は集団についていくために鞍上が手を動かして押していくことになる。なので鞍上が軽く気合をつける程度でスムーズに上がってきた馬はまだ余力が残っていると推し量ってよい。しかし、時にはこれに当てはまらない馬が居る。それはとにかくズブい馬である。例えば今年のCheltenham FestivalのGlenfarclas Cross Country Chaseを勝利したAny Currencyなどはとにかくズブく、道中から鞍上の手が動きっぱなしである。他には2014年のCoral Welsh Grand National (G3)を勝ったEmperor's Choiceである。下に動画を張りつけたので興味のある方は是非。このコースはAintreeと違ってとにかく坂が凄い。障害はChaseとしては一般 的なものだが。なおこのレースはG3のハンデ戦ではあるが、非常に価値の高いレース。賞金も10万ポンドとかなり英国の中では高いものである。

・動物福祉 

英愛障害レース全体における馬の死亡事故率は0.6%程度であるが、Grand Nationalはその平均よりも高く、2000年から2010年までの間であると1.3%である。しかしながら、当然のことながら、人馬の事故を防ぐために様々な配慮がなされている。事実、例えば2008年には様々な最新設備を備えた手術室が競馬場内に設置されたほか、近隣の大学病院まで迅速に事故馬を 輸送する救急車も存在する。また、最終障害やゴールラインには馬に飲ませたり熱中症を防ぐために掛ける水や酸素吸入装置も存在する。5人の獣医がコース内 に待機し、競争中止した馬に対する迅速な診断と治療を行える準備が整えられている。

また、全体的に障害の難易度も易化してきている。例えば Becher's Brookの着地点にかつて存在した空壕は既に埋め立てられて久しい。Canal Turnもかつてに比べて内側に馬が密集しないようコース形態が変えられている。また各障害の飛越側には障害の目印となるオレンジ色のバーが設けられてい る。かつ、障害のコアとなる部分(トウヒの枝が上に乗っている部分)もかつてよりも柔軟性のある素材に変更された。もちろんコースのラチも柔らかく、馬がぶつかった際に怪我をしないよう壊れやすいものになっている。さらに、コースも2009年から幅が広げられ、事故馬が障害の後に留まった際に障害を迂回することができるようになった。2011年にこの変遷は初めて利用され、障害が迂回された。

・馬かわいい

馬は可愛い。未来永劫変わらない真実である。英国のGrand Nationalとはお祭りであり、その主役は騎手と馬たちである。しかも英国一名誉のあるレースに出走する愛すべき馬、長らく寝食を共にしてきた大切な 馬、長年共に歩んできた馬、関係者各位の想いもひとしおだろう。しかも障害馬の気性は平地の競走馬と比べて非常に穏かであり、人に従順な馬ばかりである。 そんなわけでGrand Nationalの前には丁寧に手入れされ、着飾った馬と関係者が共に写った写真がたくさんネット上にアップされる。これはFacebooktwitterなどで見れる。例えば去年だと#OurGrandestTeamというタグで呟かれた。またFacebookでは報道関係のアカウントがそれらの写真をまとめたページも作成する。是非ご覧になって、お気に入りの馬を見つけて欲しい。昨年度のそのほんの一部をtogetterでまとめてみた。 ちと関係ないものも入っているが。

 

*2015 Grand National Result

過去記事を張り付ける手抜きで失礼。簡単な下馬評、動画、解説と称した駄文が書き連ねてあるので宜しければどぞ。

 ついでなので勝利馬のジョッキー目線の動画が落ちていたので挙げておく。

www.youtube.com

 

そんなわけで雑多に失礼。今年は昨年の勝ち馬Many Clouds、一昨年の勝ち馬Pineau De Re、またKing George VI Chase (G1)勝ちなど、長距離Chaseを中心に活躍してきたSilviniaco Contiなどが出走を表明している。今年も例年に違わぬ熱戦となると同時に、全ての人馬の無事を祈ってやまない。