にげうまメモ

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16/04/09 Crabbies' Grand National Chase (G3) Result

*Aintree Soft (Heavy in Places)

Crabbie's Grand National Chase (G3 Handicap) 4m2f74y

Grand National Dayの最初こそ曇りだったが、途中から激しい雨が降ってきて、結果的にメインレースまでに馬場はSoft (Heavy in Places)まで悪化してしまった。今年から何故かGrand Nationalの発走時間が遅くなったこともあり、例年通りであればもう少し良い馬場で行うことが出来たと思うのだが。観客が風邪引かないかちと心配である。どうせ競馬場では酒飲んで騒いでる人多いだろうし。あと夜遅くまで起きている物好きな日本人もいることだし。JRAはよGrand Nationalの馬券売り出せや。三連単とか当たる気がしないので的中票なしとかありえるぞ。

人気としては、上がり馬The Last Samuriと連覇を狙うトップハンデのMany Cloudsが並んで1番人気になっていた。続いて昨年のCheltenham Gold Cup (G1)の4着馬Holywell、King George VI Chase (G1)を2連覇した長距離Chase G1路線の強豪Silviniaco Conti、Irish Grand National (Grade A)の勝ち馬で昨年の4着馬Shutthefrontdoorなどが続いていた。詳しい出走馬プロフィールに関しては過去記事参照のこと。参考レースも大量に載っている。

なおO'faolains Boyは出走取り消し。

 

レース映像↓ RUKが何か今年からYoutubeに動画をアップしなくなった。クソが!(CV摩耶)

2016 Crabbie’s Grand National | Racing UK

後は英国Jockey ClubのHPに行けばレース映像は見れるはず。各所には無断転載のものとか上がっているが、できるだけ公式のを観てくれた方がいいと思う。

 

今年は一部の人が待ち望んだFalse Startはなし。とりあえず出てくるのはJLT Novices' Chase (G1)3着馬Double Ross、昨年の2着馬Saint Are。第一障害で早速先頭集団の外にいたHolywell、Romford Pele、中段にいたSir Des Champsがミス、後方に居た昨年Canal Turnを先頭で駆け抜けた古豪Sollが後方でミス、また中段の外に居たHadrian's Approachが躓き騎手が落馬、競争中止。第1障害を全ての馬がクリアするという馬券を持っていた人の夢は儚く散ってしまった。先頭のDouble Rossもかなり着地時に頭を下げる格好になっており、その障害の難易度の高さが分かるだろう。第2障害で先頭集団の外に居たFirst Lieutenantが後肢での立て直しに失敗し落馬。これに躓いたのか勝手に落馬したのかは分からないがHolywellも落馬。後方に居たOn His Ownも大きなミス。いきなり長距離G1路線の強豪が二頭も脱落してしまうというEventfulなスタートになってしまった。この辺りから外からAachenが果敢に先頭に立つ。これを外から追うのがRomford Pele。ペースはこの馬場と距離にしてはかなり早いものになる。第3障害は全馬無事クリア。第4障害では後方の外にいたThe Druids Nephewがやや着地時にバランスを崩した程度。この辺りで隊列を確認すると、外から果敢にも逃げて行ったAachenが先頭。Summer Cup (Listed)を逃げて快勝したRomford Peleが2番手。それを追うのがDouble Ross、Saint Are、Rule The World、The Last Samuri。Silviniaco Conti、Many Cloudsは中段の内。中段の真ん中辺りにShutthefrontdoor、Sir Des Champs、Ballycaseyなどが続く。Vics Canvasは後方の内。第5障害はまたThe Druids Nephewが着地でバランスを崩す場面こそあれど全馬無事飛越。そして挑むのは世にも恐ろしい障害、Becher's Brook。先頭集団は見事な飛越を見せるが、後方の内に居たVics Canvasが完全に着地に失敗ししりもちをついてしまうくらいの大きなミス。しかし鞍上のR T Dunneは必死に馬にしがみつき、事なきを得る。第7障害のFoinavonでは後方にいたHome Farmがミス。続く重複落馬が怖いCanal Turnだが、ここで先頭集団の外に居たRomford Peleが着地に失敗し騎手が落馬。しかし幸い重複落馬は起こらず、落馬はRomford Peleだけに終わる。第9障害では後方に居たOn His Ownがまたもやミス。この辺りから隊列はかなり長くなり、逃げるAachenに内からDouble Rossが接近。Saint Areも先頭をうかがう位置までやってくる。Many Cloudsはやや位置を上げたか。代わってSilviniaco Contiは位置を下げる。相変わらず不気味な位置にいるのがShutthefrontdoor、The Last Samuri、Rule The World。第10障害で後方に居た葦毛のUnionisteがミス。第11障害で中段にいたGoonyellaがミス、また後方に居たRocky Creekがバランスを崩す形で着地してしまい、同馬は大事を取ったのか直にPU。Melling Roadの直前の第12障害は全ての馬が無事に飛越するも、後方のThe Druis Nephewはこの辺りから手ごたえが悪くなる。直後のカーブで空馬(Hadirian's Approach)に引っ掛けられたAachenが外に膨らむアクシデントがあるが、いつぞやのAcross the Bayのような大惨事にはならずにAachenは好位で収まる。この辺りで再度隊列を確認すると、Saint Are、Double Ross、Aachenが先頭集団。これを追うのがMany Clouds、The Last Samuri、Shutthefrontdoor。その後ろにRule The World、Le Reve、PndraやGilgamboa、Morning Assembly。Gooneyellaはその後ろの集団。第13障害、14障害は全馬無事に飛越するが、第14障害の手前で後方まで下がってしまったSilviniaco ContiはPU。そしていよいよ挑むのはNational Course最大の障害、The Chair。先頭集団は綺麗な飛越を見せるも、後方でOn His Own (実況に名前間違えられていた可愛そうに。On My Ownって誰だよ。)、Sir Des Champsが落馬競争中止。やや心配な落ち方だったが両馬無事らしい(Sir Des Champsは飛越拒否の兆候が見られたそうな)。Waterはさすがに全馬飛越... と思いきや、Black Thunderが水壕に脚を突っかけてしまい、水しぶきが上がる。そしていよいよ勝負の2周目へ向かう。

この辺りから先頭はSaint Areに代わる。いつの間にか上がってきたLe Reve、Many Clouds、抵抗するAachen、Double Ross辺りが先頭集団。第17障害では先頭のSaint Are、Buywiseなどがミスをするも、全馬これを飛越。Soll、Home Farm、The Druis Nephew辺りがこの辺りから遅れ始める。第18障害で再度Saint Areがミス。先頭に立ったはいいがかなり余力をなくしているように見えた。Gallant Oscarもミスをし、その後なんとか馬の首筋にしがみついていた騎手が落馬。第19障害で後方に居たBallynagourが落馬。この辺りで先頭はThe Last Samuri、そして連覇を目指してひた走るMany Cloudsに代わる。第20障害は全馬クリアするも、その直後に後方に置かれていたHome Farm、Black Thunder、Soll、Wonderful Charmが途中棄権。また第22障害(2nd bechers)の手前でBoston BobもPU。2回目のBecher's Brookを先頭で飛ぶのは連覇を目指すMany Cloudsと上がり馬The Last Samuriの二頭。さすがの見事な飛越を見せるも、後方にいたKetenkoが落馬。騎手は前方に落ちる形であり、Becher'sにおける典型的な落馬だろう。またこれに躓いてOnenightinviennaの騎手も落馬。さらに先頭集団にいたSaint Areも再度ミス。前半果敢に引っ張ったAachenはこの障害の手前でPU。2周目のCanal Turnを先頭で飛ぶのはMany Clouds。続いてThe Last Samuri。全馬見事な飛越を見せるが、好位にいたDouble Rossはここでアブミを落としてしまったのか、直後に途中棄権。ここまで見事な飛越を見せてきたMany Cloudsだが、第26障害にて前脚を障害に引っ掛けてしまい着地に失敗、ここで先頭はThe Last Samuriに代わる。これを好位で追いかけるのがMorning Assembly、Vics Canvas、Rule The World、Vieux Lion Rougeなど。第27障害で好位にいたRule The Worldがミスするも立て直す。後方にいたKruzhlininはPU。この辺りからMany Cloudsの手ごたえが怪しくなり、同馬は万事休す。代わって上がってくるのはVics Canvas、Gilgamboa。第28障害は全馬飛越。後方のJust A Par、Unioniste、Triolo D'aleneはかなり苦しみながらも追走。Melling Roadを越えた辺りでMorning Assembly、Vics Canvasが先頭のThe Last Samuriに並びかける。Many Cloudsは脱落。Saint Areは後方まで下がってしまう。この辺りから進出するのはRule The World。世界最高の障害競走のタイトルをかけて、死力を尽くして残り2障害に挑む。残り2障害を先頭で飛んだのはThe Last Samuri。内からVics Canvas、外のMorning Assemblyは右に斜飛してしまい、かなり苦しくなっているようだ。これを追うのがRule The World、Gilgamboa、Vieux Lion Rouge、Ucello Contiなど。ここで騎手がバランスを崩したBallycaseyが無念の落馬。最終障害を先頭で飛んだのがThe Last SamuriとVics Canvas。この2頭の叩き合いかと思いきや、外からものすごい勢いで襲い掛かったのは、Chase未勝利ながら挑んできた「最強の未勝利馬」Rule The World。2頭を並ぶまもなく交わし去ると、最後まで脚を伸ばしきり6馬身差の圧勝。2着にはこれに必死で抵抗したThe Last Samuri。この競り合いから遅れたVics Canvasは3着、4着にはこれを猛追したGilgamboaが入った。大きく遅れた5着にはGoonyella。以下Ucello Conti、最後遅れたVieux Lion Rouge、Morning Assembly、Shutthefrontdoor、苦しみながらも追走したUnioniste、Le Reve、Buywise。大きく遅れて歩くよう入線したのがPendra、Triolo D'alene、Just A Par、そしてMany Clouds。Saint Areは最終障害手前で無念の途中棄権。以上16頭が完走を果たした馬たちである。

 

Rule The Worldは単勝34倍の低評価を覆す見事な走りを見せた。2015 Irish Grand National (Grade A)ではThunder And Rosesの2着、Kerry National (Grade A)でRogue Angelの3着、Neville Hotels Novice Chase (G1)では悲運の名馬No More Heroesの2着などがある実績馬だが、なんとこれがChase初勝利である。しかし第27障害でややミスをするも、そこから立て直し、最後までバテずに脚を伸ばしきるレースは強いの一言。19歳の若手騎手D J Mullinsと共に挑んだ初のNational Fenceであったが、第27障害のミス以外は終始飛越も比較的安定していた。ハイペースを追走しながら最後までバテない持久力、あっという間に2着以下を置き去りにしたトップスピード、重馬場への適性、どれをとっても素晴らしいとしか言いようがない。まさに「史上最強の1勝馬」の誕生だろう。なんでも骨盤骨折を2度も乗り越えてきた馬らしい。今後に関しては2度の大怪我を乗り越えてきた馬だけに、オーナーサイドはこれを期に引退も考えているらしい。現役続行、引退のいずれにせよ同馬の今後の馬生が幸せなものであることを願ってやまない。

上がり馬The Last SamuriはMany Clouds相手に真っ向勝負を挑み、第26障害から先頭に立つ強気の競馬。最後は勝ち馬のトップスピードに屈する格好となったが、この馬も最後までバテずに脚を伸ばしている。比較的経験の浅い馬だが、初のNational Fenceにも関わらず飛越も終始安定しており、その高い飛越能力と持久力を見せ付けた。まだ8歳と若い馬だが、今後の成長が楽しみな一頭だろう。最低人気のVics Canvas。13歳馬と出走馬の中では最高齢での挑戦であった。実績こそG3でJust A Parの2着、Cork Grand National (Grade B)のみだが、第6障害での大きなミスにも関わらずそれを立て直し、最終障害を越えたところではあわやというシーンまで作り出した。最後は流石に脚が上がっていたようだが、大きなミスをしてもへこたれない高い精神力と持久力、勇敢に恐ろしい障害の数々に立ち向かっていく姿はまさにベテラン障害馬のそれだろう。いまいち特性が掴みにくいところがあるが、もしかすると重馬場での激しい消耗戦が得意な馬かもしれない。13歳と恒例だが、来年もこの地で再び見えることを期待したい。最後猛然と追い込んできたのは4着のGilgamboa。一線級相手にはややスピード負けしているような印象があっただけに、もしかするとこの馬も長距離戦での消耗戦が得意な馬なのではないだろうか。ハンデ戦への挑戦は2回目、National Fenceも初、距離も未知数なところが大きい馬だったが、新たな活路を見出した一戦だろう。

比較的人気を集めたGoonyellaは最後遅れ5着。2015 Midlands Grand National (Listed)の勝ち馬の力は示したし、National Fenceの経験も生きたとは思うが、流石に最後は苦しくなってしまった。重馬場も向いただろうが、やや上位馬とは差があるか。Ucello Contiは見せ場十分の6着。これが英国初戦という馬で、さすがに苦しいかと思っていたら残り2障害の地点では好位まで追い詰めるという素晴らしい競馬を見せた。第26障害でミスがあったが、これは大きな6着だろう。重馬場になりやすい愛国の超長距離戦であれば大きなタイトルを取れる馬である。Vieux Lion Rougeは積極的な競馬を見せるも7着まで。自身の高い持久力と距離適正を存分に生かした競馬であった。Morning Assemblyも積極的な競馬を見せるも、最後遅れ8着。比較的経験の浅い馬であり、かつ長期の休養も経験している馬。しかし今回はその高い飛越能力と持久力を見せ付けた。さすがに最後は苦しくなったが、この馬本来の舞台である長距離戦に戻れば面白い存在だろう。昨年は見せ場たっぷりの5着に入ったShutthefrontdoorは9着まで。さすがの安定した飛越を見せるも、最後苦しくなってしまった。良馬場の方が良い馬なだけに、今回の重馬場はやや苦しかったかもしれない。

後方はもはや歩くように入線している馬だけに適当に。Unionisteは昨年こそ早々に無念の落馬となってしまったが、今回は完走。途中ミスもあったが、National Fenceへの適応が見られる。しかし途中からはかなり遅れて苦しみながら追走しているように、ハイペースを追走する能力、距離適性という点ではやや疑問が残る。Heavyの26f戦で重馬場長距離のバケモノNeptune Equesterを下しているように、馬場は問題ないと思うのだが。Le Reveは途中から好位に取り付くも、最後は完全に脚が上がり大敗。National Fenceはこなせたようだが、さすがに距離だろう。Buywiseは第17障害でミスをし、そのまま見せ場なく後方に敗れた。重馬場自体は問題ない馬だけに、さすがに距離か。Pendra、Triolo D'Alene、Just A Parも完走は果たすも、最後は歩くように入線。Pendraに関して距離は持つように思われたし、National Fenceもこなしてはいたのだが、ややこのペースは厳しかったようだ。昨年の勝ち馬Many Cloudsは落鉄があったらしい。また、呼吸器系に何かしらの異常も発見されたようで、このあと手術を行うとか何とか。

その他落馬・競争中止した馬の中から何頭か。期待されたSilviniaco ContiはNational Fenceは何とか飛越するも、徐々に位置を下げ早々にPU。Aachenがかなり積極的に引っ張る展開だっただけに、スローペースでこその同馬はかなり厳しかっただろう。On His Ownは終始後方から進み、The Chairで落馬。この馬にもややペースが厳しかったとは思うが、最近めっきりズブくなっている感があるのが気がかりである。First Lieutenantは無念の第2障害での落馬。しかしSaint Are、Double Rossなどの強気のスタートを好位で進めたことは評価してよいだろう。National Fenceに関しては昨年は完走を果たしている馬。ここのところはスピードの衰えか後ろから行く競馬が続いていたが、本来その持久力は一流のものがある。ポジションを取りにいけたことは今後に向けて評価してよい。Holywellは全くNational Fenceをこなせず早々に落馬。飛越の上手い馬ではないし仕方がないだろう。Sir Des ChampsはThe Chairにて飛越拒否の格好をみせ、殆ど飛越していない状態での落馬。幸い馬は無事だったらしいが、National Fenceに関しては英愛の高い障害を跳んできている勇敢な馬の中にも、このように飛越を拒んでしまう馬がいることは注意しておいた方が良いと思う。Aachenは積極的に引っ張るも2周目の途中からバテてPU。National Fenceはこなせているだけに、これは距離だろう。勿体無かったのがDouble Ross。やや斜めに飛ぶクセが見られたのが気になったが、大きなミスもなく好位で頑張っていた。Canal Turnでアブミを落とし、そこから復帰できなかったのは残念でならない。Saint Areは積極的な競馬を見せるも途中からバテて、ミスを繰り返した後にPU。やや馬場と距離に比してペースが早すぎたのだろう。Boston Bobは距離とペース。このような早いペースを延々と追走できる馬ではない。さすがに飛越能力は以前より向上しているが。

 

完走した馬、競争中止した馬、全ての人馬に怪我はなかったとのこと。それにしても1周目から果敢にもハイペースを作ったAachen、それを2周目から次いで引っ張ったSaint Are、Many Clouds、The Last Samuri、そしてこのハイペースを追走し、最後は見事な脚で快勝したRule The World。英愛障害競馬における兵たちが数々の恐ろしい障害に勇敢に立ち向かい、何度をミスをしながらも立て直し、そして死力を尽くして戦い抜いた、素晴らしいレースであった。飛越のスリルとはスピードのある飛越でも綺麗な飛越によっても成し遂げられるものではない。難易度の高い障害を、卓越した障害飛越能力を持った人馬が一体となって勇敢に挑んでいき、多少のミスがあっても立て直し、強靭な精神力を持って次の障害に立ち向かっていく、そのような雄姿こそが飛越のスリルと興奮、そして世界最高の障害競馬を生むのである。そしてこの姿はMaidenやNovice、NHFにHurdle、そしてChase、さらにこれを支える草競馬やPoint to Pointといった、整然と体系立てられた巨大な障害競馬文化があって初めて生まれるものである。このことを改めて痛感させてくれた素晴らしいGrand Nationalであった。このレースに挑んだ素晴らしい39頭の馬と39人の騎手に最大級の賛辞を送ると共に、改めてこのようなレースを見せてくれた彼らと英愛障害競馬文化に感謝を捧げたい。