にげうまメモ

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16/08/03 Jump Legend - Balthazar King -

*Jump Legend - Balthazar King -

海外障害競馬における名馬を紹介してみよう企画第3弾。日本に縁のある馬のほうが何かととっつきやすいとは思うが、中山グランドジャンプの大改悪もありあまりそういう馬も居ないので、もはや開き直って趣味全開で行こうと思う。出来るだけ現役馬や他の有名馬の話も織り交ぜていくので、色々とここから枝葉を広げながら調べてみると面白いかと。

 

第3弾は、英国クロスカントリー競馬において2012-14年頃にかけて一時代を築き上げ、英Grand National (G3)、仏クロスカントリー競馬においても実績を残したBalthazar Kingである。同馬の実績としては、やはり英国障害競馬最大の祭典、Cheltenham Festivalの中で開催されるCross Country競馬の最高峰、Glenfarclas Cross Country Chaseを2012年・2014年と制したことが挙げられるだろう。さらにフランスに遠征し、Grand Cross Country de Craonを2013年・2014年と連覇。その活躍はCross Country競馬にとどまらず、英国障害競馬における最高峰、Crabbie's Grand National (G3)にも挑戦し、2013年は完走、さらに2014年はPineau De Reの2着に健闘している。英国障害競馬において、長く活躍するベテラン馬はそれだけで人気を博すことが多いが、同馬もまたその息の長い活躍と卓越したパフォーマンスをもって数多くのファンを集めた名馬である。そんな同馬の経歴を見ていこう。

 

・Balthazar King (IRE)

Balthazar King Horse Pedigree

Owner:The Bushmakers

Trainer:Phillip Hobbs

 

アイルランド生産馬。管理するPhillip Hobbs師は英国障害競馬ではお馴染みの調教師である。長く手綱を取ったのはヨコノリ似のRichard Johnson。英国障害競馬において20年もの間トップジョッキーの座に君臨し続けた伝説的障害騎手A. P. McCoyの2番手として、16年もの間、ずっと後塵を拝し続けた騎手である。しかしA. P. McCoyの引退した2015-16シーズン、ついに英国障害騎手トップジョッキーの座を射止め、McCoyからChampion Jockeyのトロフィーを授与されたシーンは、同シーズンのクライマックスとして大きな注目を集めた。

 

さて、Balthazar Kingは2008年の3月、Newbury競馬場にてデビュー。障害馬を目指す馬たちが障害競馬の距離や斤量・ペースに慣れるための平地レースである、National Hunt Flat Race(NHF)を使ってきた。2008年の春にはNHFを2回走るも、全くいいところを見せられずに惨敗。同年の夏は休養、11月にNHFにて復帰し、ここで待望の勝利を挙げる。これに気をよくした陣営はHurdleに挑戦。しかし初戦は残り3障害のミスがたたって大敗。ポカのある飛越と、ややトップスピードでは見劣る同馬の性質もあり、結局2009年の10月に未勝利戦にてHurdle初勝利を上げるまで9戦を要することになる。その後はNovice路線には進まず、ハンデ戦を主に使うことになる。

Noviceとは昨シーズンまでに該当カテゴリー(Hurdle / Chase)にて勝利を上げていない馬が所属するクラスであり、Noviceに所属するたいていの馬はNovice戦を使うのが普通である。しかし、Novice戦はその出走馬の特徴ゆえにスローからの上がり勝負になりやすく、馬の性質によってはかえってNovice戦では勝ち星を上げられない場合もある。その場合はあえてNovice戦を避け、ハンデ戦を使うということも往々にしてある。

さて、同馬はNoviceのClass4を勝ったのち、ハンデ戦へと参戦。いきなり人気薄ながらClass3にて2着に入る好走を見せる。Class2に挑戦しても好走を続け、のちにGrand National Trial (G3)を勝利するLie Forritの4着、Wolf Moonの2着とそれなりのパフォーマンスを見せる。しかしCheltenham Festivalに行われたConditional Jockeys' Handicap Hurdle (C2)の第5障害にて早々に落馬すると、その後の2戦は精彩を欠き、2009-2010シーズンを終えることになる。

 

このような同馬のパフォーマンスを受け、陣営はChaseに転向することを決定。初戦のBeginners' Chaseは勝利。続くC3 Novice Chaseもまた辛勝と、とりあえずは連勝を飾る。しかしClass2に参戦してからは、のちに2013 Red Mills Steeplechase (G2)を制すChicago Greyの4着、2015 Scottish Grand National (G3)を制すWayward Princeの2着などとやや勝ちきれないレースが続く。

・2010/11/13 Ultima Frontrunner In It Solutions Novices' Chase (C2) 3m80y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20101113/1698115/12154500

(Wayward Princeもまたさほど脚の速い馬ではない)

結局その後、Class4まで下げてそこを快勝、さらにさほど強力なメンバーが居なかったClass2を辛勝することになる(PTPから転向初戦のHunt Ballはいたが、PTPとはさすがにペースが違う)。これに気をよくした陣営は春のSandown開催の一大レース、bet365 Gold Cup (G3)に参戦。単勝オッズ9倍となかなかの人気を集める。しかしペースに戸惑ったのか途中からレースについていけなくなり、途中棄権という結果になる。Chaseに転向した2010-2011シーズンは、結局目ぼしい勝ち星を挙げられずに終わる。

・2011/04/23 bet365 Gold Cup Chase (G3) 3m4f166y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20110423/1756263/12155874

 

さて、とりあえずNovice卒業となった2011-12シーズンはClass2のハンデ戦から始動。ここはさすがに勝利するも、続くUnited House Gold Cup Handicap Chase (G3)は勝ち馬から大きく離された5着、Hennessy Gold Cup (G3)は9st11lb (約62kg)という軽量に恵まれながらも、勝ち馬であるCarruthersからは大きく離された12着と大敗する。ちなみに英国障害競馬においてこのような負担重量はハンデ戦で最軽量の馬が背負うものである。なお、Carruthersは2015 Cheltenham Gold Cup (G1)をNovice馬でありながら制したConeygreeの兄にあたる。

 

さて、ここまでのパフォーマンスを受けて陣営は一つの決断を下す。それはCross Countryへの参戦である。同馬はややポカのあるところはあるが、比較的飛越動作の一つ一つ自体は上手であり、飛越に器用さの要求されるCross Countryへの適正は高いことが考えられた。また、どちらかというとトップスピードよりもスピードの持続力に長けた同馬は、長距離を走る必要のあるCross Countryの距離にも対応できることが予測できた。そこで参戦したのが、Cheltenham競馬場で行われるGlenfarclas Cross Country Chase (C2)である。ちなみにGlenfarclasとはウィスキーの銘柄の名前。比較的華やかで飲みやすいものなので是非(宣伝)。

・2011/12/09 Glefarclas Cross Country Chase (C2) 3m6f37y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20111209/1886332/12159248

見てもらえればわかる(笑) このがっかり感よ...

Balthazar Kingは序盤こそ障害に戸惑ったのか、やや飛越に難が見られる。しかしすぐに対応し、逃げる3頭を見ながら好位置にて構える。少しずつ位置を上げ、内をすくって先頭に... と思ったところで内ラチに触れ馬が転倒。しかも追いかけていた馬が間違ったコースを走っていたというおまけ付き。Cross Country初戦で勝ち負け目前と思われたところでのアクシデントである。幸い馬は元気だったようだが。

さて、ともあれこれでCross Countryには目途が付いた同馬。次走はCheltenham Festivalに開催されるGlenfarclas Cross Country Chaseを目指すことになる。ちなみにさっきと同じ名前のレースだが、同じ名前のレースが年に複数回あると思っていただければよい。相手としては12月のCross Countryを勝ってきたGarde Champetre、11歳の古豪で11月のCross Countryを勝利してきたUncle Junior、昨年の勝ち馬Sizing Australia、14歳の古豪で前走Balthazar Kingとともに転倒してしまったA New Story、2009 Welsh Grand National (G3)の勝ち馬で映画「Dark Horse」で有名なDream Allianceなどが名を連ねていた。

・2012/03/13 Glenfarclas Cross Country Chase (C2) 3m6f37y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20120313/1947898/12160001

レースは軽量のWedger Pardyが逃げる展開。Blathazar Kingは番手に構える。これを見ながらSizing Australia。Uncle Juniorは例によって後方から。Wedger Pardyに徐々にBalthazar King、Sizing Australia、A New Storyなどが追ってくる。残り2障害を越えてBalthazar Kingが先頭に。ここに内から忍び寄ったA New Storyが再度の戴冠を目指して襲い掛かるも、最終障害の飛越で勝ったBalthazar KingがA New Storyの必死の追撃を凌ぎ切り勝利した。

トップハンデのScotsirishのアクシデントが残念だったが、それでもBalthazar Kingのパフォーマンスは立派なものである。道中あまり緩むところがなく、少しずつペースアップしていくCross Countryの一流レースらしい展開。後方からの押し上げを狙ったUncle Juniorには押し上げていくタイミングがなく、同馬は大敗。また、自ら前々で運んでこれを見ながらレースを進めた有力馬を振り切り、最後までA New Storyに抜かせなかったパフォーマンスは、Cross Country路線における新たなチャンピオンの誕生を示すものだろう。

 

ここで欧州Cross Countryに関しても書いておこう。日本障害競馬にはCross Country競馬は存在しないが、欧州では盛んである。主にフランス、イタリア、チェコで数多く開催されており、チェコのVelka Pardubickaは日本でも有名であろう。他にもイギリス、アイルランドポーランド、ベルギー、スイスなどで行われている。欧州Cross Country SeriesのCrystal Cupは追いかけてみると面白いと思う。要するにサマー2000シリーズなどの欧州Cross Country版である。イギリス、アイルランドでは障害競馬の規模に比してCross Countryは多くはなく、イギリスのCheltenham競馬場、アイルランドのPunchestown競馬場で開催されている。レースとしては通常の障害競馬に比べると距離が長く、多彩で数多くの障害を越えていくことが特徴である。イギリス・アイルランドでは比較的高齢の馬や、スピード能力にはやや疑問を残しながらも飛越能力が高く、かつ器用な馬が参戦することが多い。ちなみにドイツの池を泳ぐ障害競走はクロスカントリーではなく、Seejagdrennenという特殊な呼び名を使われる。

 

さて、2012-13シーズンの初戦は通常のハンデ戦を使い、ここは勝利。そもそもクロカン自体さほどレース数は多くない。しかし11月のGlenfarclas Cross Country (C2)ではUncle Juniorの2着と敗れてしまう。

・2012/11/16 Glenfarclas Cross Country Handicap Chase (C2) 3m6f37y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20121116/2102839/13842015

さりげなくOrphee Des Blinsが居るので拝んでおこう。ご利益がある。チェコの名牝、2012-2014にかけてVelka Pardubicka (Stcc L)を3連覇した歴史的名馬である。ここでは特に見せ場なく途中棄権しているが。

(Good to Soft表示にしてはハナを切ったWedger Pardyが早々にバテたせいでスローになったという印象。そのため、Uncle Juniorには中盤押しあげるタイミングがあり、さらに後半に一気にペースアップするレースは同馬にとって有利な展開になった。Orphee Des Blinsは英国式の障害に戸惑って飛越していた印象。チェコの障害は比較的スピードを要求し、掻き分けて飛ぶものが多い。これに対して英国式の障害には掻き分けて飛ぶことは出来ないものがある。この辺りの障害の見極めでミスを連発していた。また、さすがにトップスピードという点でも英国馬とは差があった模様。Velka Pardubickaの後の参戦と言うことで疲労もあっただろう。少し英国Cross Countryにも慣れて、自分のペースで引っ張ればチャンスはあったかもしれないが、残念ながら再度の参戦は叶わなかったようだ。ちなみにOrphee des Blinsが勝利した2012 Velka Pardubickaには、この記事内で散々名前が出てくるUncle Juniorも居たりする。例のごとく後方から進め、さりげなく6着まで追い上げてきている。)

さて、Balthazar KingはCheltenham FestivalのGlenfarclas Cross Country Chaseはスキップして、目標をAintreeのCrabbie's Grand National (G3)に定めた。その高い飛越能力と持久力、Glenfarclas Cross Country Chaseに比べて軽くなる負担重量に期待したのだろう。そんな同馬は、英国競馬最高峰のレースにおいても単勝17倍となかなかの評価を受けることになる。

2013年、2014年と2年連続でレースを引っ張り、そして2年連続で2周目の入り口で空馬の被害を受けるAcross The Bayと仲良くハナを切るBalthazar King。飛越も素晴らしいものを見せていた。残り3障害までは好位置で抵抗するも、そこからは馬群に飲み込まれ、結局15着で入線。しかし、精根尽き果てて途中棄権する馬、難易度の高い障害に対応できず落馬する馬、世界一厳しい障害レースといっても過言ではないほどのGrand Nationalにおいて、終始素晴らしい飛越を見せ、最後まで完走したその高い飛越能力と持久力、精神力は称えられるべきものだろう。

同馬はその後、懲りずにbet365 Gold Cup (G3)に参戦も途中棄権。さすがにGrand Nationalの疲労もあったのだろう。やや実績的には残念なシーズンに終わる。

 

さて、迎えた2013-14シーズンは初戦からフランスへの遠征を敢行。Craon競馬場で行われるGrand Cross Country De Craon - Crystal Cup (Listed)に参戦。世界最長距離レースとして名高い2013 Prix Anjou-Loire Challenge (Listed)にて葦毛のToutancarmontの2着に入ったPhakos、2011, 2012と同レースを連覇していた当時13歳のベテランChrisetiなどに押され、Balthazar Kingは単勝17倍とやや低評価であった。しかし、それを覆す見事な走りを見せる。

(残念ながら動画が落ちてないので省略)

その後は英国に戻り、Showcase Trophy (C2 Handicap Chase)を快勝。11月のGlenfarclas Cross Country Chase (C2)では一番人気に応え、三連覇を狙ったUncle Junior、のちに2016年Cheltenham FestivalにおいてGlenfarclas Cross Country Chaseを制するも、禁止薬物が検出され失格になるAny Currencyらを寄せ付けず見事な勝利を飾る。

・2013/11/15 Glenfarclas Cross Country Handicap Chase (C2) 3m6f37y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20131115/2309161/13540781

その後はCheltenham Festivalに直行し、2012年以来の2度目のFestival Glenfarclas Cross Country Chaseの勝利を目指す。相手としてはいつものUncle Junior、Sizing Australiaのほか、11月のGlenfarclas Cross Country ChaseにてBlathazar Kingの3着に入ったAny Currency、12月のGlenfarclas Cross Country ChaseにてAny Currencyを下してきた葦毛のSire Collongesなどが名を連ねていた。他にも2013年の同レースの勝ち馬で、連覇を狙って参戦してきたBig Shu、Galway Plate (Grade A)の2着馬でのちにアイルランドCross Country競馬を牽引していくQuantitativeeasingなども参戦していた。このような強力なライバルたちの中、Balthazar Kingは11st12lbというトップハンデを背負わされる。しかし、単勝オッズは一番人気で5倍と、なかなかの高評価を受けていた。

・2014/03/12 Glenfarclas Cross Country Handicap Chase (C2) 3m6f37y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20140312/2360814/13910404

葦毛のSire Collongesがハイペースで引っ張る展開。これを番手でぴったりマークするのがAny Currency。Balthazar Kingは好位置から。Uncle Junior、Big Shuは後方に構える。Sire Collongesはそのだらだらと脚を使える特性を生かし、道中大きく緩むところがなく引っ張る。隊列はかなり長くなり、ついていけない馬は次々と脱落。残り1mを切ったところのCanal TurnにてAny Currencyが先頭に。この馬も脚は早くないにも関わらずとにかく長く脚を使える馬であり、早々にSire Collongesを潰しに行き、ここでハイペースで引っ張ってきたSire Collongesを競り落としたことになる。しかしここから忍び寄ってきたのがBalthazar King。逃げるAny Currencyを捕まえると先頭に。押し切りを図るも、連覇を目指すBig Shu、Any Currencyが再度の反撃を試みる。最後はやや一杯になってしまったBig Shuを尻目に、Any Currencyがその驚異的な持久力で猛追する。これだけ激しいレースを戦いながら、最後まで脚が残っているこの2頭の持久力には驚嘆するものがあるだろう。このAny Currencyの必死の猛追を凌いだBalthazar Kingが勝利。2年ぶりの栄冠をつかむことになった。

このパフォーマンスを受け、陣営は再度のGrand National (G3)挑戦を決定。Cheltenham Gold Cup (G1)の覇者Long Run(前回の記事参照)や2013年の3着馬Teaforthreeなどの参戦で沸いている中、単勝15倍と高い評価を受けることになる。

例によってAcross The Bayが逃げる展開。Balthazar Kingはいつもより後ろ、中団の外に構える。2周目の入り口でAcross The Bayが悲しみの不利を受けてしまう。代わってRocky Creek、Mr Moonshineなどが先頭に。Balthazar Kingは特に飛越にミスもなく、終始中団から好位の外を追走。残り4障害辺りから好位置にとりつき、先頭を追うも、なかなか逃げるPineau De Reとの差は詰まらず。A P McCoyのDouble Sevenを退けるも、惜しくも2着に終わった。

さて、英国2013-14シーズンはこれで終わりになるが、シーズンオフにも同馬は積極果敢にフランスに遠征。世界最長距離を誇るフランスのPrix Anjou-Loire Challenge (Listed)に参戦。Craonの実績もあるため一番人気に押されるも、残念ながら勝負所の飛び乗り台にて脚をぶつけて転倒。幸い馬は無事だった模様だが。

ばるたざっきんと言われている馬がそうである。勝ったのはPosiloxという馬。Grand Cross Country De Craon - Crystal Cup (Listed)にてBalthazar Kingの6着に大敗している。メンバー的にはわりと薄いので、アクシデントさえなければといったところか。

 

2014-15シーズンは昨年と同じくCraonのGrand Cross Country De Craon - Crystal Cup (Listed)から始動。昨年のパフォーマンスが評価されてか、再度一番人気の評価を得る。相手としてはPrix Anjou-Loire Challenge (Listed)を勝ったPosilox、昨年Balthazar Kingの2着に入ったKapvilleといったところか。

やや直線に向くところまではヒヤリとする場面もあったが、直線に向いてからはトップスピードの違いで他馬を差し切り勝利。なおこのレースには厩舎が同じのDuke of Lucaも参戦していたりする。途中で落馬しているが。

さて、英国に帰り、11月のGlenfarclas Cross Country Chase (C2)に参戦。Any Currency、Uncle Junior、Sire Collongesなどの英国クロスカントリーの常連たちを寄せ付けず、圧倒的人気に応えてさすがの勝利を上げる。

・2014/11/14 Glenfarclas Cross Country Chase (C2) 3m6f27y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20141114/2454443/14506123

この勝利を受けて、陣営はCross Countryには敵なしと判断したのか、12月、3月のGlenfarclas Cross Country Chaseをスキップし、2015 Crabbie's Grand National (G3)一本に目標を定める。ここには連覇を狙うPineau De Re、Cheltenham Gold Cup (G1)の勝ち馬Lord Windermere、Hennessy Gold Cup (G3)の勝ち馬Many Clouds、Irish Grand National (Grade A)の勝ち馬でこれが最後のGrand National (G3)騎乗となるA P McCoyを擁するShutthefrontdoorなどが参戦を表明していたが、その中でもBalthazar Kingは単勝9.5倍とかなりの高評価を受ける。

Balthazar Kingがちょいちょい飛越にポカがあることは分かっていた。Canal Turnでの落馬はいつものだろう。しかし、Canal Turnは障害の難易度の高さは勿論のこと、直後に直角の急カーブが設けられており、馬群が内側に密集しやすいことで知られている。そのため、落馬した馬にほかの馬が躓いて落馬するという多重落馬が発生しやすい。Balthazar Kingは落馬した直後、Ballycaseyがこれに衝突。双方にとって不幸な事故である。

しかし、この事故でBalthazar Kingは肋骨を骨折してしまう。2周目のCanal TurnはBalthazar Kingの治療のためテントが張られており、迂回することになる。ちなみにCanal Turnの手前でチェッカーズフラッグを張っている人を観察すると面白い発見があるだろう。日本でもお馴染みの白髪のあの人である。

 

同馬は事故直後はしばらく立ち上がれず心配されたが、その後自力で起立し、近くの動物病院へと運ばれた。その後退院、厩舎にて元気に回復している姿が報じられた。たくさんのメッセージカードに囲まれた姿はいかに同馬がファンから愛されているかを示すものだろう。雑多に流れてきた馬の写真をまとめたものだが、宜しければ。現在2ページ目くらいにある。

さて、2015年11月、12月のGlenfarclas Cross Country Chaseにこそ間に合わなかったが、なんとか2016年3月のCheltenham FestivalのGlenfarclas Cross Country Chase (C2)には復帰が叶う。ここにはAny Currency、Uncle Junior、Quantitativeeasing、Sire Collongesといったいつものメンバーのほか、上がり馬Josies Orders、Bless The Wingsなどが登録していた。Balthazar Kingはさすがに怪我明けということで評価を下げ、単勝5.5倍でのレースとなった。

・2016/03/16 Glenfarclas Cross Country Chase (C2) 3m6f37y

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20160316/2582277/15382895

Split Fenceで外側を跳ぶ姿、飛び降り台を器用にこなしていく姿、どこかポカのある飛越... これぞ帰ってきたBalthazar Kingである。しかし、Cheese Wedgeにてまさかの落馬。馬は元気に走っていたようだが。

 

これを受けて、陣営は引退を決定。12歳とやや高齢であること、やはり肋骨骨折ということで馬に無理をさせないための選択だろう。2015-16シーズンの終わりのSandown開催にて、ファンの前に元気な姿を見せてくれた。

それにしても、英国Cross Country競馬にて一時代を築き上げたBalthazar King。その活躍は国内Cross Countryだけではなく、英国障害競馬の最高峰のレースGrand National、そしてフランスの名誉あるCross Country Raceまでにも及んだ。小さな馬体で懸命に難易度の高い障害を越えていく姿、基本的に飛越はかなりの技術を持ちながら、どこかポカのあるキャラクター。そしてどこまでも走っていくのではと思わせるほどの高い持久力。どのような展開になっても必ず上位に顔を出してくる高い能力、接戦になっても最後まで抜かせない精神力、まさに英国Cross Country競馬に残る名馬の一頭だろう。同馬が幸せな余生を過ごしてくれることを祈るばかりである。

 

以下参考資料。

・Grand National Guide

・英国障害競馬入門

・2015 Grand National Result

・2016 Cheltenham Festical Result