にげうまメモ

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16/09/23 Jump Legend - Orphee des Blins -

*Jump Legend - Orphee des Blins -

海外障害競馬における有名馬を紹介してみよう企画第4弾。ここまではイギリス・アイルランドの馬であったが、今回はちょっと変わってチェコから。チェコ競馬というとほとんど馴染みはないだろうが、障害競馬としてはPardubice競馬場を中心にVelká pardubická (Steeplechase-Cross Country:Stcc)を頂点としたCross Country競馬が盛んに行われている。その水準は非常に高く、チェコ調教馬はイタリアを始め周囲諸国の障害競馬に数多く遠征し、結果を残している。

 

第4弾はVelká pardubická (Stcc L)を2012-14にかけて3連覇したチェコの名牝Orphee des Blins。2012年の時点では全くの無名であったが、4連覇を狙ったTiumenや2007、2008と同レースを連覇した名牝Sixteenなどの強豪相手に、まさかの16馬身差の大楽勝。これを皮切りにチェコ国内では2013年から2014年にかけて無敵を誇った。チェコ障害競馬はオセアニアや日本に比べると、イギリス・アイルランドと同様かなり高齢まで活躍することが多く、また牝馬から活躍馬が出ることも多い。Orphee des Blinsも12歳となった2014年まで活躍を続けた。そんな同馬の経歴を見ていこう。

なおここには現役馬も数多く登場するので是非。クソブログのブログ内検索を使うと最近のレースに関する映像と駄文が出てくる。ちなみに2016年のVelká pardubickáは10/9 (日)。みんな見ようぜ。

 

・Orphee Des Blins (FR)

Orphee Des Blins Horse Pedigree

Owner:DS Pegas Znojmo

Trainer:Grzegorz Wroblewski

 

フランス生産馬。何ですかねこの牝系。Orphee des Blinsは実は競争生活のかなりの部分をフランスで過ごしている。2005年にNiortの平地にてデビュー。Clunyの平地戦を2連勝したのち、Haies (仏Hurdle)に転向。Pauの4歳馬限定戦Prix de Bizanos (Haies)を勝利するなど素質を見せる。HaiesはそこそこにSteeplechaseに転向したのちはAuteuilの4歳限定戦Prix Rene Couetil (Steeplechase)の勝利など早くから実績を上げるも、ややその後は頭打ちになり、2008年からCross Countryに参戦。平場戦を2勝するもさほど目立った実績は上げられず、2009年10月からチェコに移籍することになる。

 

初戦からぶつけてきたのはCena Labe - Cena společnosti VCES a.s. (Stcc L)。Velká pardubickáの開催と同時に行われる大レースだが、Velká pardubická (6900m)と異なり5200mと距離が短く参加資格も必要ないため、同年の上がり馬(たいてい春の段階で必要なVelká pardubickáへの出走登録をしていないため)やVelká pardubickáへの権利が取れなかった馬が出走することが多い。ただし、Pardubiceのコースはクラスが上がるほど基本的には難易度の高い障害を越えていくことになるため、経験の浅い馬はたいてい下のクラスから使うことが殆どである。移籍所詮からこのような大レースを使ってきたのは、フランスCross Countryで結果を残してきた同馬に対する期待の表れだろう。

レースは残念ながら映像が落ちていないため省略するが、勝ったのは2008 Cena MIROS a.s. dopravní stavby - Cena Vltavy (Stcc NL)などを勝利したBremen Plan。Orphee des Blinsは6着ととりあえず完走を果たす。しかし続くCENA TIUMENA - Závěrečná steeplechase cross country sezóny 2009 (Stcc II. kat.)は落馬、2010年はSteeplechaseからと期待されたCena Univerzity Pardubice (Stch III. kat.)も落馬とやや残念な結果に終わる。

 

結局チェコ初勝利を上げたのは、国内4戦目となった2010年のCena polských hřebčínů anglických plnokrevníků-hřebčín Kozienice, hřebčín Krasne (Stcc III. kat)となった。

Orphee des Blinsは序盤から積極的にハナに行く。道中緩めずに淡々と引っ張る。そのまま途中から勝負を掛けに行ったDovybatelを競り落とすと、持ったままで10馬身差の快勝。ちなみに3着のReady for Lifeは2005年のチェコダービー (G3)の勝ち馬。障害ではさほど実績を上げられずに引退している。ちなみにチェコではダービー馬が障害に転向することはさほど珍しいことではない。

 

ここでチェコ障害競馬の体系に触れておこう。チェコ障害競馬はProutky (=Hurdle, PP)、Steeplechase (Stch)、Steeplechase-Crosscountry (Stcc)の3種類に分けられる。日本障害競馬ではこのようなカテゴリー分けは存在しないが、日本障害競馬と同程度以上の規模を有する国(イギリス、ア イルランド、フランス、オセアニアチェコ、イタリア、アメリカなど)における障害競馬では飛越する障害の形態に応じてHurdle、Chaseの区分が 存在する。イギリス、アイルランドではCross CountryはSteeplechaseに含むが、イタリア、フランス、チェコなどではsteeplechaseとは別にCross Countryの区分が存在する。

チェコ障害競馬の規模は日本障害競馬に比べるとやや大きい。チェコ競馬自体の規模は比較的小さいため、全体の競馬に対する障害競馬の割合はかなりのものを占める。Pardubice競馬場のほか、Brno競馬場、Lysá nad Labem競馬場、Most競馬場、Karlovy Vary競馬場などで障害競馬が行われているが、その中心となるのはPardubice競馬場である。Hurdle、Steeplechaseも数多く行われているが、最も人気を博すのがSteeplechase-Cross Country (以下Stcc)。その中でもVelká pardubická s Českou pojišťovnou (Stcc L)は最高峰のレースであり、Stccを使う馬は基本的にこのレースを目指してくることになる。

 

Orphee des Blinsはその後2年近くの休養を経て、2012年のPREMIO SAN ROSSORE PISA (Stch VI. kat.)にて復帰、見事勝利を上げる。続くCena "Zdravé a nemocné přírody Pardubického kraje" (Stcc III. kat.)も快勝と2連勝を飾る。

続いて迎えたのはVelká cena Pivovarů Staropramen III.kvalifikace na VP (Stcc NL)。Velká pardubickáは春に出走登録があり、その後4回の前哨戦にて改めて出走権利の付与が行われる。同レースはその3戦目。だいたい有力馬はこのどこかしらを使うことでVelká pardubickáへの出走権を得て、本番へと向かうことが多い。ここでも2007、2008とVelká pardubická (Stcc L)を連覇、2009年では2着、2010年では3着、2011年でも2着に入り、再度の戴冠を狙っていた牝馬Sixteen、2012 Velká cena města Pardubic XX.ročník 1.kvalifikace na VP s Českou pojišťovnou (Stcc NL)の勝ち馬Trezorを中心に、Velká pardubická (Stcc L)を目指す実力馬が集まっていた。

Video — 3. kvalifikace na Velkou pardubickou — Česká televize

リンク先はチェコ地上波のオンデマンド配信。レースは60分くらいから。

Orphee des Blinsは例によってハナを切るが、序盤のDropをミスして中団から。代わってKlaus、続いては葦毛のSixteenが先頭に。Orphee des Blinsはやや難しさを覗かせながらも徐々に位置を上げる。後半の生垣にてSixteenが着地をミス。ここからOrphee des Blinsは先頭に立つも、最後はTrezorの3着に終わった。やや序盤のミスが勿体ない敗戦だろう。

 

さて、これによってOrphee des Blinsは次のターゲットをチェコ障害競馬の最高峰、Velká pardubická (Stcc L)に定める。Velká pardubickáの条件は6歳以上、距離は6900m。飛越する障害は31。斤量は牡馬(セン馬)は68kg、牝馬は66kg。毎年20頭以上の出走馬を集めるが、かつては完走馬が10頭を切ることが殆どであった。完走馬がいなかったことや、コースを間違えたとして失格になった馬もいる。そのため、ヨーロッパにおいて最も過酷なCross Country競馬とすら言われている。ただし最近は飛越能力の向上か、完走馬が増えている傾向にある。出走馬の殆どはチェコ調教馬だが、イギリスやアイルランド、フランスなどからの参戦もある。

障害の数が非常に多いのはCross Country競馬に類するため。コースの中には森もある広く平坦なPardubice競馬場の中に複雑に存在する障害を飛越する。馬場は芝が基本だが、中にはかなり深いダートコースも走破する必要があり、6900mという距離も相まって非常にタフなレースとなる。また、障害としてはイギリス・アイルランドやイタリアと異なり、比較的飛越時にスピードを要求するものが多い。一方で、中にはDropのようにスピードを殺して突破する必要があるものも存在し、ただワンペースで突っ切ればよいというも のではない。経路としては急カーブも存在し、そのたびにスピードを落とす必要がある。スピードを持ったまま曲がろうとしてバランスを崩して転倒する馬も 時々いる。このような要因も相まって、完走には高い飛越能力と精神力、持久力、パワー、器用さを必要とする非常に厳しいレースとなっている。その中でも特に難所と言われるのは、第4障害に存在するVelký Taxisův příkop / Taxis Jumpだろう。障害としては高さ150cm、幅180cmの生垣障害の後ろに、深さ100cm、幅400cmもの空壕を設置したという恐ろしいもの。数多くの障害が設置されているPardubice競馬場でも1年に一度、このVelká pardubickáの第4障害でしか用いられない。これまでに28頭もの馬がこの障害での事故が原因で亡くなっている。

 

さて、2012年のVelká pardubická (Stcc L)であるが、注目を集めていたのは4連覇をかけて挑んできたTiumenである。2009-2011にかけて同レースを3連覇したチェコの名馬中の名馬。その背に跨るのはチェコを代表する騎手兼調教師、2016年現在64歳となる生きる伝説、Velká pardubickáを8度も制したJosef Váňaである。

対抗角とみられていたのが先ほどのTrezor、葦毛の牝馬Sixteen。Cena společnosti A.S.A - IV.kvalif.na 122 .Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou (Stcc NL)にてTiumenを下してきたRonino。またアイルランドからの刺客Uncle Junior、素敵なおじさまDušan Andrésを背にした2011年のVelká pardubická (Stcc L)3着馬Valldemosoなどなど。これらの実力馬を相手に、Orphee des Blinsは単勝55倍と全くの人気薄であった。

Orphee des Blinsは序盤から積極的に逃げる展開。これを追うのがいつものTrezor、Klausなど。直前にTaxis Jumpがあるため、Dropは全馬かなりのスピードをもって突入。前走ここでミスをしたOrphee des Blinsは今回は無事ここをこなす。スタンド前の再度のDropを抜け、二度の水壕のみ障害のところからOrphee des Blinsはペースアップ。番手のRonino、さらにはTiumenも必死で追ってくるがなかなか差は詰まらない。そのままOrphee des BlinsがFaltejsek Janの派手なガッツポーズとともに快勝した。

着差通りの圧勝と言っていいだろう。ややDropに不安は残るが、序盤から激しいペースを刻みつつも安定した飛越を繰り出し、追いかけてくる後続をなぶり殺しにしていくレース運び。高い持久力とスピードをもって他馬を捩じ伏せる、純然たるチェコ障害チャンピオンとしての競馬である。前評判こそ全くの無名であったが、そのパフォーマンスは新たなスターホースの誕生を告げるものだろう。

 

この勝利に気を良くした陣営は英国遠征を決断。Cheltenham競馬場のGlenfarclas Cross Country Handicap Chase (C2)に挑戦するも、ここでは慣れない英国の障害に戸惑ったのか途中棄権という結果に終わる。

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20121116/2102839/13842015

ちなみに勝利したのは先ほどのVelká pardubická (Stcc L)で6着まで追い上げているUncle Junior。後ろからじわじわと追い上げていくのは同馬の芸風だったりする。

Good to Soft表示にしてはハナを切ったWedger Pardyが早々にバテたせいでスローペース。Orphee Des Blinsは英国式の障害に戸惑って飛越していた。チェコの障害は比較的スピードを要求し、掻き分けて飛ぶものが多い。これに対して英国式の障害には掻き分けて飛ぶことは出来ないものがある。この辺りの障害の見極めでミスを連発していた。また、同馬にとっては苦手な控える競馬も良くなかっただろう。遠征馬は自国の騎手を乗せていくことが多いのだが、たいていの場合は騎手自身も慣れないコースであるため、慎重に乗ることが多い。少し英国Cross Countryにも慣れて、自分のペースで引っ張ればチャンスはあったかもしれないが、残念ながら再度の参戦は叶わなかったようだ。

 

さて、2013年はČervnová cross country Válečníka (Stcc I. kat)から始動。3300mという短距離が懸念されたのか2011 Poplerův memoriál - Cena Dominika Haška (Stcc NL)の勝ち馬Ursanと人気を分け合う形となるが、2着に7馬身差をつける快勝を見せる。続くCross country PERUÁNA (Stcc II. kat.)も圧倒的人気に応え勝利。連覇を狙ってVelká pardubická s Českou pojišťovnou (Stcc L)に向かうことになる。

前評判としては、再度の戴冠を狙うTiumen、2013年に入ってからMemoriál majora Miloše Svobody - II.Kvalifikace na 123. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou podporovaná společností Staropramen (Stcc NL)、Cena společnosti .A.S.A. - III.kvalifikace na 123 Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou (Stcc NL)と連勝し今年こそはと雪辱を期すTrezor、そしてOrphee des Blinsとの3頭で人気を分け合う形になっていた。そのほかの有力馬としては、イタリアSteeplechaseにて結果を残してきたBudapest、大レースにて善戦を続けてきたKlaus、イギリスからの参戦馬Shalimar Fromentroなどが人気を集めていた。

例によってOrphee des Blinsは積極的に前に出るレース運び。相変わらずDropは下手だが、今年もさほど大きなミスなくそのまま先頭を切る。これを追いかけてきたのがTropic de Brion、Kasim、Trezorなど。Tiumenは後方から。安定した飛越を見せながら徐々にペースを上げるOrphee des Blinsとは対照的に後続は次々と脱落。有力馬Trezorも後半の障害で前脚による着地で踏ん張る体力をなくして落馬。唯一追いかけてきたTropic de Brionを振り切ると、あとはOrphee des Blinsの一人旅。後続に7秒近い大差をつけて圧勝した。2着は後方から追い上げたNikas。のちに2015 Velká pardubická (Stcc L)にて一位入線を果たすも、禁止薬物が検出され失格となった悲運の名馬である。

stav dráhy: 5.5 (měkká)という珍しく重い馬場であるため着差が付いたが、昨年に引き続き、スピードと持久力、そして類稀なる飛越能力を持つチェコ障害競馬のチャンピオンがチャンピオンたる競馬をしたレースと言えるだろう。完走馬が6頭しかいないことからもこの激しいレースたる証左が伺える。

 

さて、3連覇を目指すOrphee des Blinsは2014年はCena vítězů Velké pardubické (Stcc II. kat.)から始動。圧倒的人気に応え13馬身差の楽勝を見せる。

映像はPardubice公式チャンネル。2014年辺りからのレースは全て上げてくれている。大変ありがたいのだが、やや仕事が遅いのが難点。ちなみにFalse Startはけっこうある。なお早々に落馬しているが、Rebelinoはのちに2015 Velká pardubická (Stcc L)にて2位入線、1位入線のNikasが失格になったことにより繰り上がり優勝になる馬。Modenaはのちに2014 Cena společnosti VCES a.s. - Cena Labe (Stcc L)を勝利する牝馬である。やや6900mとなると分が悪いようだが。

2013年の2走目はIV. kvalifikace na 124. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou podporovaná Dostihovým klubem (Stcc NL)を選択。ここでも当然のことながら圧倒的人気に押される。

一頭後ろでちんたら走っているのがRibelino。どうやらかなり難しいところのある馬のようで、しょっちゅうレースを勝手にやめる形で途中棄権している。真面目に走ればその能力は一級品なのだが。

Orphee des Blinsは例によってペースを握る展開だが、前哨戦らしくさほどペースを上げきらない。そのためか後続がぴったりとマークしてきており、最後までZarifが食いついてきている。もっとも、Orphee des Blinsは最後追い出されてからかなり尾を振っており、余力としては十二分に残っているのだが。Zarifはその後2015 II. Kvalifikace na 125. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou (Stcc L)を勝利、2015 Velká pardubická (Stcc L)にて3位入線(2着)に入る実力馬である。

 

さて、2014年も連勝を飾ってきたOrphee des BlinsはVelká pardubická s Českou pojišťovnou (Stcc L)へと向かう。当然のことながら単勝1.6倍の圧倒的人気に押される。相手としては、前述のTiumen、Trezor、2013年のVelká pardubická (Stcc L)にて後方から追い上げ2着にまで来たNikas、及びIV. kvalifikace na 124. Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou podporovaná Dostihovým klubem (Stcc NL)にてOrphee des Blinsを追い詰めたZarif、元々はLysá nad Labem競馬場で頭角を現してきたSorosなどが上がっていた。

地上波とPardubice公式のものを貼り付けておく。角度が違ってたりして見比べると面白い。

Orphee des Blinsは今年も例によってハナを切る展開。Taxisで落馬したのはZulejka。早々にNikasも落馬。Tiumenも後方から。Orphee des Blinsはやや前半から空馬に絡まれるシーンはあるが、今年も快調に飛ばす。これをマークするのがKasim、KlausなどのいつものメンバーにUniverse of Gracie、葦毛のTer Milなど。Zarif、Trezorは中団から。水壕だけ障害でスライディングを決めているのはLambro。 Orphee des Blinsは例によってスタンド前の水壕障害辺りからペースを再度上げ、後続を振り切りにかかるが、唯一ここから追い詰めてきたのは単勝77倍の人気薄、栗毛に白い流星のイケメンAl Jaz。Al Jazは最終障害を番手で飛びながらも、その後の平地でやや脚の上がったOrphee des Blinsを追い詰める。しかしここからOrphee des Blinsが反撃、最後は3/4馬身ほど前に出て3連覇を飾った。3着には前に行ったKlaus。4着にはUniverse of Gracie。Tiumenは何とか完走を果たすも16着と敗れた。

もはや文字通りの死闘と言っていいだろう。Orphee des Blinsは道中から激しく引っ張るのが持ち味の馬だが、空馬に散々絡まれることによってやや気難しさを見せていた。それでもほとんど脚の上がった後続を振り切り、唯一追ってきたAl Jazを凌ぎ切ったのはこの馬の高い持久力の現れである。Al Jaz自身、後ろから進める馬であり何かとアクシデントに巻き込まれやすいこと、また飛越能力がさほど高くないことから成績は安定しないが、2013 IV.kvalifikace na Velkou pardubickou s Českou pojišťovnou za podpory AKČR (Stcc NL)にて2着に入る程度には能力の高い馬。その後も展開さえむけば好走しており、決して格下の馬ではないことには注意すべきだろう。

 

Orphee des Blinsは2014年も3年連続でチェコのHorse of the yearに選出されることになった。ここにはチェコ競馬界における障害競馬の人気と重要性が垣間見られるだろう。2015年も4連覇を期待されたが、残念ながら持病の故障と年齢もあり引退することになった。その後は繁殖に用いられるとのこと。同馬の幸せな余生を願うばかりである。

それにしても、フランスでの戦歴やチェコ障害移籍当初は決して華々しいものではなかった牝馬が徐々に力をつけ、やがてはTiumenやSixteenといったチェコ障害競馬における歴史的な強豪を撃破するようになるサクセスストーリー、非常に厳しいCross Country競馬において12歳という長きに渡って戦い続けたその姿。それは障害競馬の世界史において燦然と輝き続けるものであろう。また、その高いスピード能力とどこまでも駆けていくのではと思わせる持久力、最後まで諦めない精神力、難易度の高い障害を次々と越えていく飛越能力。これは障害馬の理想像をチェコという一つの大舞台で体現したものに他ならない。障害競馬を見るとき、いつかまたこのような馬と出会えることを願ってやまないのだ。

 

以下参考資料。と言う名の駄文。

・2015 Velká pardubická s Českou pojišťovnou (Stcc L)

・2015年のいろいろ