にげうまメモ

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16/11/16 Jump Legend - Simonsig -

*Jump Legend - Simonsig -

海外障害競馬の名馬を紹介してみよう企画第5弾。今回はイギリスから葦毛の名馬、"The Grey Airplane"と評されたSimonsig。ここではなくレース結果のところで強い強いと書きたかったのだが...。

 

Simonsigはイギリスの名門Nicky Henderson厩舎の所属。Bobs Worth、Sprinter Sacre、Triolo d'Aleneなどと共にHenderson厩舎の一時代を築き上げた。2012年Arkle Novices' Chase (G1)を勝つまでは9戦8勝、2着1回と破竹の快進撃を続けた馬である。そこからは長く故障に苦しみ、2015年にようやく復帰するも勝ち星を上げることは叶わなかった。しかしその危うさを秘めながらも、怪物のごとき能力で他馬を圧倒してきたパフォーマンス、つぶらな瞳と葦毛の馬体、その走りは数多くのファンを魅了してきたものに違いない。そんな同馬の経歴を見ていこう。

なおリンク先には映像とか落ちてる。おもちろいので是非。

 

・Simonsig (GB)

http://www.pedigreequery.com/simonsig

Owner:R A Bartlett 

Trainer:Nicky Henderson 

 

英国生産馬。2011年にKirkistown競馬場のPoint-to-Point Racingにてデビュー。2011年の間にPoint-to-Point Racingにて3戦2勝、落馬1回という成績を残してRonnie Bartlett氏に購入されることになる。

Point-to-Point Racingとはイギリスやアイルランドで行われる、主にアマチュア騎手による草競馬(障害競走)のようなものである。イギリス国内だけでPoint-to-Point Racingの競馬場は110か所存在するとされている。障害経験の浅い若駒や、ベテランの障害馬が現役後のキャリアとして出走することが多い。若馬はここから有力な馬主に購入され、競馬場デビューすることになる。

 

Simonsigは2011年4月にFairyhouseのNHFを快勝したのち、2011年の11月にHurdleデビュー。ここから長らくコンビを組むことになるブログおじさんBarry Geraghtyを背に圧倒的人気に応え11馬身差の快勝を飾る。これに気をよくした陣営は早速Neptune Investment Management Novices' Hurdle (G2)に駒を進める。

・Neptune Investment Management Novices' Hurdle (G2)

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20111202/1883733/12159177

後方からのたのたと走ってる葦毛の赤い帽子の馬がSimonsig。飛越がいまいち怪しいのも、追ってから意外と伸びないのもこの馬の特徴である。2m4fのNovice戦ということで2周目から少しずつペースが上がる展開。勝ったFingal Bayはこの時点ですでにG2を2勝、直後にBathwick Tyres Challow Novices' Hurdle (G1)を勝利した馬であり、完成度の点で差がついていたということだろう。

やや行きたがる気性ということを考慮されたのか、陣営は次のレースにClass2のハンデ戦を選択。2014 Cleeve Hurdle (G2)にてBig Buck's、At Fishers Cross、Reve De Sivolaなど長距離Hurdle戦の一流馬相手にまさかのどんでん返しを演じるKnockara Beauを相手に2馬身差の快勝。

 

この勝利で自信をつけたのか、中距離Novice Hurdleの最高峰、Neptune Investment Management Novices' Hurdle (G1)に参戦。さっきと同じ名前だが違うレースである。こんなんばっかりなのでご容赦。

相手としては、やはりアイルランドを代表する調教師Willie Mullins師が送り込む3頭。Naas競馬場にてpaddypower.com Novice Hurdle (G2)を勝利し、その後重賞を6勝、2016年の中山グランドジャンプにも参戦予定のあったFelix Yonger、Bar One Racing Royal Bond Novice Hurdle (G1)の覇者で早逝した天才Sous Les Cieux、さらに初重賞挑戦となったSynergy Security Solutions Novice Hurdle (G2)にBoston Bobの3着に入ったMake Your Mark。 Naas競馬場にてSlaney Novice Hurdle (G2)を勝利しその後2015-16長距離Novice Chase路線でも一線級相手に善戦を演じるMonkslandも加え、非常に骨っぽいメンバーが集まっていた。Simonsigはこの中で単勝3倍と堂々の一番人気に推される。

人気薄のFiulinが軽快に飛ばす流れ。Simonsigは中団の内から徐々に進出。先に抜け出したCotten Millを追いかけて番手に上がる。Cotten Millは残り2障害でまさかの落馬。そのままSimonsigが追いすがるFelix Yongerを突き放して7馬身差の快勝。3着にはMonkslandが入った。

葦毛の馬体を躍動させながら手ごたえ十分で上がっていく姿、どこか怪しげな飛越、そして圧倒的なパフォーマンス。Novice馬らしい粗削りさを残しながらも、そのポテンシャルは底知れないものを感じさせる。まさに新たなスターの誕生と言って間違いないだろう。

次走は2012 Grand National当日のMersey Novices' Hurdle (G2)を選択。ここでは圧倒的人気に応え15馬身差の楽勝を演じる。なお最終障害で悲しみの落馬に終わっているColour Squadronは2012年からNovice Chaseに参戦するも、ひたすら惜敗を続け初勝利を挙げたのが2015年の夏のBeginners' Chaseという愛すべき馬である。ちなみにBeginners' ChaseとはほぼChaseは初参戦という馬のためのレース。しかもシーズンオフの夏なのでメンバーが手薄。かわいい。

・Mersey Novices' Hurdle (G2)

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20120414/1968060/12160298

 

ここまでHurdleで素晴らしい活躍を続けてきたSimonsigだが、2012-13シーズンは短-中距離Novice Chaseに参戦することになる。

SimonsigはChase初戦からAscotのBetfred Novices' Chase (G2)に出走する強気のレース選択。通常Class4やClass3のNovice戦から始動することが多いのだが、やはり陣営としても相当期待していたのだろう。強敵となるDare MeはChase経験馬でその後C2のハンデ戦に勝ち鞍がある。Act Of KalanisiはHenry VIII Novices' Chase (G1)を前走走っている経験馬。決してChase初戦としては容易い相手ではないが。

まぁこういうこともあるよね。なおSulpiusはここまでに長くClass5のハンデ戦で走っていた馬であり、Chaseでも計4勝を挙げている。残念ながら2013年の春に故障して亡くなっている。無事であれば長くハンデ戦で頑張ってくれた馬だと思うのだが。

さて、Simonsigは次走はKemptonのwilliamhill.com Novices' Chase (G2)を選択。ここにはHenry VIII Novices' Chase (G1)の2着馬で翌年Henry VIII Novices' Chase (G1)を制すHinterlandを筆頭に、経験馬Royale's CharterにWings of Smokeなどが集まっていた。

・williamhill.com Novices' Chase (Registered As The Wayward Lad Novices' Chase) (G2)

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20121227/2130146/13841689

SimonsigのペースについていけるのがHinterlandしかいないというレース運び。そのHinterlandも向こう正面の終わりから飛越にミスが発生し、そのままSimonsigが持ったままでHinterland突き放して楽勝した。

 

ここでレース内で言及されているSprinter Sacreについても簡単に書いておこう。Sprinter SacreはSimonsigと同じくNicky Henderson師の管理馬である。その戦歴の凄まじさは24戦18勝という数字が物語る以上のもの。2011年の冬にChaseデビューすると、そこからは楽勝に次ぐ楽勝で10連勝。その中には短距離Chaseにおける歴代の一流馬相手のものも数多く含まれている。2013年の冬に心臓の問題で競争中止、2014-15シーズンに復帰するも精彩を欠いた。しかし2015年の冬のShloer Chase (G2)で久々の勝ち星を上げると、そこからは短距離Chaseの一流馬相手に圧巻の走りを見せつけ4連勝を飾った。2016年秋に引退。その強さは勿論のこと、心疾患からの不死鳥のごとく復帰するという、記憶にも記録にも残る世界的名馬である。

・Betway Queen Mother Champion Chase (G1)

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20160316/2582268/15382086

てぃあらたん(セン)可愛いよね。

そんなSprinter Sacreについていける馬がSimonsigであった。

 

さて、そんなSimonsigはRacing Post Arkle Challenge Trophy Chase (G1)に出走。短距離Novice Chaseの最高峰のレースである。ここには、2011 Fighting Fifth Hurdle (G1)の勝ち馬で2012 Champion Hurdle (G1)にてRock on Rubyの2着に入ったOverturnや、Drinmore Novice Chase (G1)、Racing Post Novice Chase (G1)の勝ち馬でアイルランドのWillie Mullins師が満を持して送り込むArvika Ligeonniereなど、短距離Novice Chaseの最高峰に相応しい強敵が揃っていた。その中でSimonsigは圧倒的一番人気に推される。

Overturnが逃げる展開。Arvika Ligeonniereがこれを追いかける。Simonsigは道中は引っかかり第9障害にて大きなミス。しかし残り3障害辺りで大きくミスをしたOverturnに代わってSimonsigは先頭に。そのままBaily Greenの追い上げをしのぎ切って勝利した。Overturnは4着まで。

Simonsigとしてはかなり課題が明確になったレースとなった。道中からかなり制御を欠き、踏切位置も安定していなかった。前脚を引っ掛けた第9障害のミスはそのツケだろう。道中行きたがったときの飛越には課題が残る。一方で一旦気分よく走れればそこからの飛越は安定していた。これだけ制御を欠いてBaily Greenをしのぎ切ったパフォーマンスは危うさを秘めながらも高い能力を感じさせるもの。なおBaily Greenは前走の敗戦で人気を落としていたが、2012年の秋には重賞3連勝を含む7連勝を飾った馬。その後は重賞勝ちにこそ恵まれていないが、強敵相手に惜敗を続けている程度には高い能力を持っている。

 

さて、2012-13シーズンを無敗で終え、その後の活躍が期待されたSimonsigであったが、残念ながら故障で長い休養に入ることになる。その後は度々元気そうな姿が報じられていたが(そのたびに太っていたが)、結局復帰は2015年の11月まで持ち越されることになる。

・Betfred Hurdle

http://www.thejockeyclub.co.uk/video/20151107/2553413/15173190

序盤から引っかかり気味に行く気性、持ったままで上がっていく姿、追ってから意外と伸びないのもいつものSimonsigである。ちなみに勝ったBobs WorthはSimonsigと同厩舎。よくSimonsigと仲良くしている写真が上がっている。2013年Cheltenham Gold Cup (G1)をはじめG1を4勝した2012-14年台における長距離Chaseを代表する馬である。

その後SimonsigはCheltenham Festivalには登録していたものの回避、Aintreeも回避し、Punchestown Champion Chase (G1)にて復帰。

Simonsigちょっとやせた気がする。

例によってSpecial Tiaraが逃げる展開。これを追いかけてVautour、God's Own。Baily Green、Simonsigは中団から。坂の多いPunchestownを気にしてかSpecial Tiaraは飛越にスムーズさを欠く。残り3障害辺りからSpecial Tiaraは後退、Vautour、God's Ownが先頭に並びかける。Simonsigは残り2障害辺りで外から進出するも、最後はGod's Ownを捕まえきれず3着に敗れた。

Punchestownとハイペースに対する適正が出たレースだろう。God's OwnはMelling Chase (G1)、Ryanair Novice Chase (G1)に続くG1は3勝目。もともと飛越にポカはあるもののPunchestown競馬場は器用にこなすことが出来る。一方でVautour、Special Tiaraは大きな飛越を繰り返す馬でありやや細かい坂の分でスピードに乗り切れない部分があった。その中Simonsigは順調に使えない分はありながらも強敵相手に見せ場十分の3着。十分な能力の片鱗を見せてくれたレースである。

 

その後SimonsigはPrix La Barka (G2)に参戦するも馬場を気にしてか大敗。

2016-17シーズンこそはと再起を期し、Shloer Chase (G2)から始動することになる。奇しくも同レースは昨シーズンに同じ厩舎のSprinter Sacreが復活の狼煙を上げたレース。同日にSprinter Sacreが引退を表明し、パレードが行われることとなった。その中でSimonsigは一番人気に推されることになる。

レース映像は上のJockey Clubのホームページとかに落ちてる。Simonsigは後方からレースを進めるも、第1障害にてミス、第3障害にて落馬。残念ながら落馬の際の骨折により安楽死の処置が取られることになった。

 

Simonsigには素晴らしい友人がいた。同厩舎のTriolo d'Aleneである。詳しくは下記の記事が物語っている。2頭の幸せそうな写真が載っている。簡単な英語なので是非。ここでは一部を抜粋しておこう。

“They would be together, side by side, day in and day out. And when they came into their stable they would still be side by side.”

The horse Simonsig left behind - the tragic end to an equine love affair | Racing UK

圧勝に次ぐ圧勝にてその比類なき才能を見せつけながら、故障にて長期の離脱、そして数多くのファンに待ち望まれた復帰。その矢先の不幸となってしまった。その葦毛の馬体と難しい気性、非常に個性的なパフォーマンスを見せてくれた馬。無事であれば必ず大きいところを狙えた馬であることは間違いない。Sprinter SacreやBobs Worthといった同厩舎に所属した歴史的な名馬とともに、大きなレースを戦う姿が見たかったものだ。同馬のご冥福を祈るとともに長らくケアに苦心した関係者には感謝の言葉しかない。

 

以下海外障害馬の写真とか参考リンク。Simonsigもちょこちょこ入ってる。