*2017年 障害競馬ニュース10選
2015年、2016年に続いて1年を振り返ってみようキャンペーン。いいことも悪いこともあるのがこの世界なので、いいことを思い出しつつ1年を締めたいところ。年末の締めと期待していたWalsh Grand Nationalが延期になり、Leopardstown Christmas Festivalがいかんせん大荒れだったので。なお写真はだいたい2017年のCheltenham Festival。これはRobbie has the Power(Sizing John)。Robbie Powerという騎手だが、春先にかけて何かのご加護でもあるのではないかと思われるくらい勝ちまくっていた。
ちなみにリンク先に映像落ちていますが、登録が必要なところもあるので注意してください(要メールアドレス)。怪しいところではないですし、有料のところは入れていません。
・Classy Might Bite casts a spell over long distance steeplechase (UK)
2016年のKauto Star Novices' Chase (G1)にて、なかなかにプログレッシヴなレースをしたMight Biteだが、2017年もその期待に違わぬ走りを見せてくれた。シーズン初戦となったDoncasterのNovice戦を圧勝すると、続くRSA Chase (G1)では後続をはるか後方に置き去りにして抜け出したと思いきや、ゴール前で思い切りヨレつつも必死に追いかけてきたWhisperをゴール直前で差し返すというレースを見せる。さらにMildmay Novices' Chase (G1)でもいつもの友達Whisperを下して勝利。Noviceを卒業した2017/18シーズンでは相変わらず気性的な難しさを見せながら長距離Chaseの一大レースであるKing George VI Chase (G1)を制し、一躍長距離Chaseの主役へと躍り出た。いつなにをやらかすのか予測が難しい馬なのだが、長く伸びる四肢から繰り出される高く大きな飛越や黒光りする馬体も合わせて独特の魅力を持っている。来年はどのような面白い勝ち方をしてくれるのだろうか。
・Al Bustan dominates Swedish National and Italian most valuable Steeplechase (CZE, ITA, SWE)
チェコ調教馬は国内のPardubice競馬場を主戦にCross Countryを走る馬と、イタリアやポーランドなどの周辺国を転戦する馬がおり、Pardubice競馬場におけるスペクタクルなCross Countryとチェコ調教馬の国外での活躍はチェコ競馬をヨーロッパにおける主要障害競馬開催国の地位に押し上げている。チェコ調教馬で今年から急激に力を伸ばしたAl Bustanはスウェーデンとイタリアの主要レースを制し、一躍中欧・北欧障害競馬における主役へと躍り出た。長閑なStrömsholm競馬場で行われるスウェーデン最大の障害競馬Svenskt Grand Nationalにおけるチェコ調教馬の優勝は初であり、チェコ障害競馬のヨーロッパにおける地位の向上を示すもの。イタリア障害競馬はチェコ、ドイツ、フランスなどからも参戦馬が集まる国際的な障害競馬が展開されており、その最高峰であるGran Premio Merano (G1)は国外からも多くの注目を集める。おそらく現状、これほどまでに多彩な参戦馬を集める障害競馬開催国は他にないだろう。Al Bustanはどちらかというと器用な脚を使うタイプだが、Merano競馬場の巨大なSteeplechaseに対応したことは興味深い。飛越に全く余裕のない上にコース幅が狭く、内に入ると身動きが取れない上に重複落馬のリスクも高いMerano競馬場で内をすり抜けてくるパフォーマンスは障害競馬における最高峰、Aintree Grand National (G3)に行っても面白いだろう。
・First Wrocław Crystal Cup is won by Polish-trained Reki (POL)
欧州Cross Country SeriesであるCrystal Cupの正式メンバーとして、今年からポーランドのWrocław競馬場が組み込まれることになった。Wrocław競馬場は公式チャンネルで中継をやっていたりとなかなかサービスが充実してきている。だいたいポーランド障害競馬参戦馬は地元馬とチェコ調教馬で二分され、チェコ調教馬がいいところを掻っ攫っていくのだが、記念すべきWrocławの第一回Crystal Cupを勝ったのは地元のReki。2015のWielka Wrocławskaの勝ち馬で、連覇を狙ったチェコの名牝Delight My Fireを下してのものであり、その価値は高い。その後のWielka WrocławskaではDelight My FireがCrystal Cupの雪辱を晴らしており、ポーランド調教馬とチェコ調教馬の争いはまだまだ続きそうだ。
・Champion Jockey David Cottin makes impressive start as a trainer (FR, BEL)
David Cottinはフランスの元障害騎手で、Cravache d’Or(リーディング1位)に3回、Cravache d’Argent(リーディング2位)に4回輝いている名手。なかなかに爽やかなイケメン。2017年から騎手を引退し調教師となったが、その初戦からベルギーWaregem競馬場のPrijs Jacques Du Roy De Blicquy SteeplechaseをAmour Du Puy Noirで勝利する華々しいスタートを飾った。代表的な管理馬としては、Prix Renaud Du Vivier (G1)で3着に入ったD'Vinaだろうか。管理馬としては比較的若い馬が多く、あくまでこれからといったところ。Amour Du Puy Noirはその後イタリア障害競馬の最高峰Gran Premio Merano (G1)にも参戦しており、チャレンジングな姿勢はこれからが楽しみとなるものである。
・Oju Chosan completes Japanese Steeples in two consecutive year (JPN)
2016年は中山グランドジャンプ(JG1)、中山大障害(JG1)と日本の障害競馬における二大競争を制覇し、2016年の最優秀障害馬に選ばれたオジュウチョウサンであったが、2017年も中山グランドジャンプ(JG1)、中山大障害(JG1)の双方を制覇し、その地位をより盤石なものとした。特に2017年の中山大障害(JG1)は、自身の能力を最大限に生かす渾身の逃げを打ったアップトゥデイトを捕まえての勝利であり、2頭の激しい戦いは日本障害競馬の歴史に刻まれる名レースとなった。ハイペースへの適応力、障害飛越の安定感、馬場への適性、その持久力とパワーなど、どれをとっても歴代障害馬の中でもトップクラスの能力を持つ。障害馬は中長期的なキャリアを構築できることも特徴の一つだが、この馬自身、頂点に立ってからも継続してパフォーマンスを上げていることは特筆すべきだろう。2018年も国内を走るとのことだが、これほどの馬を国内に留まらせるのはいくらなんでも勿体ない。
・Wells overwhelms Australian Steeplechase with third National win (AUS)
2014年のGrand Nationalにて絶対王者Bashboyを下しオーストラリア障害競馬の頂点に立ったWellsだが、今シーズンはさらにそれを上回る活躍を見せた。Mosstrooper Steeplechaseではトップハンデの70kgを背負ってZed Emを下すと、続くCrisp Steeplechaseでも勝利。さらにGrand National Steeplechaseでも圧倒的なトップハンデ71.5kgを背負いながら貫禄の勝利を挙げ、オーストラリア障害におけるチャンピオンホースとしての地位をより盤石なものとした。これでGrand National Steeplechaseは2014、2016年に続き3勝目であり、近年のオーストラリア障害競馬を代表する一頭といえるだろう。低い飛越の安定感と、悪くなった馬場をものともしないパワー、類稀な精神力がこの馬の武器である。オセアニア障害競馬は勝利するごとに斤量が加算されるシステムであるため、かつてGrand Nationalにて一世一代の大逃げを打ち、Red Rumを追い詰めたCrispのような走りをイギリスで見せてほしいところだが。
・Muddy No Time To Lose with Jan Kratochvíl roars at Velká Pardubická (CZE)
今年のベストレース候補No.1。珍しく雨が降り続いていたPardubice競馬場であり、チェコ障害競馬最高峰のレースはpružnáで行われることになった。馬場が悪く、ダートコースには水たまりすらできているような馬場を前半から果敢に地元のBridgeurが飛ばし、さらに中盤からフランスからの参戦馬Urgent de Gregaineが抜け出し、一時は後続にセーフティーリードをつける激しいレース展開。それをゴール直前でとらえたのが地元のNo Time To Lose。Jan KratochvílはVelká Pardubickáは初勝利、チェコの生きる伝説Josef Váňaは調教師としては10勝目となった。No Time To Lose自身は昨年から力をつけてきた馬で、戦術としては後方から進めるため他馬に依存する部分もあるのだが、安定した飛越と機動力はやはり来年の活躍を期待させるものである。
ちなみにチェコ競馬は最近サービスが良くなりました。
・Waregem champion Taupin Rochelais makes Belgium National hat-trick (FR, BEL)
ベルギー障害競馬は8月末のING Grand Steeplechase des Flandres Steeplechaseの開催にて数レースが行われるのみであるが、夏の祭典として毎年素晴らしい熱気に包まれる。ING Grand Steeplechase des Flandres SteeplechaseはCrystal Cupの一環として行われるものの、どちらかというとSteeplechaseとしての性質のほうが強く、このコースにおける適性はイタリアMeranoへの適性を考えるうえでも興味深い。ING Grand Steeplechase des Flandres Steeplechaseはそのメインレースとして行われ、2017年の同レースはTaupin Rochelaisが3連覇を飾った。馬が障害の性質を熟知しての飛越と正確無比なペース配分はCourse Specialistのそれである。かつては幅750cmの巨大な水壕障害(The Gaverbeek Brook)もあった美しい障害コースを持つWaregem競馬場は、2018年から平地競馬も開催するようで、ベルギー障害競馬のより一層の発展が楽しみなところ。
・Australian Jumps are ready to be on fire (AUS)
2018年のVictorian Jump Racing Programが発表され、賞金の増額、レース数の増加などの底上げが図られることになった。Warrnambool May Meetingに行われる主要レースであるGrand Annual Steeplechase、Brierly Steeplechase、Galleywood Hurdle、PakenhamのMJ Bourke HurdleとJEH Spencer Memorial Steeplechase、さらにCastertonのCasterton SteeplechaseとGreat Eastern Steeplechaseにおける賞金の増額が発表された。また、新たにWarrnabool競馬場にChampion Novice Steeplechaseが新設されたほか、2008年から障害競馬の開催がなかったTerang競馬場に障害競馬が再び戻ってきた。オーストラリア障害競馬は過激な動物愛護団体の圧力などで長年苦境に立たされてきたが、元々の競馬産業としては巨大なポテンシャルを持つ国。これからの巻き返しに期待したい。
・Scottish One For Arthur rules the world of steeplechase (UK)
今年のベストレース候補No.2。 Jリーグの中継に参入して有名になったDAZNでも中継をやっていたGrand National (G3)だが、今年はスコットランド調教馬としてOne For Arthurが歴史的な快挙を挙げた年となった。スコットランド調教馬のGrand National (G3)制覇は他に1979年のRubsticのみであり、One For Arthurは2頭目となる。National Fenceを用いるBecher Chase (G3)を5着からClassic Chase (G3)の勝利を経由してのこの大金星。Grand National (G3)にて上位に入線したBlaklionなどの馬が継続的に活躍していることからも、この勝利の価値はこれからさらに上昇することが考えられる。ただしOne For Arthur自身、2017/18シーズンは全休とのことで、早期の復帰が期待される。
*Other outstainding moments
・"King of Haydock"なる馬(Bristol De Mai)。馬場が悪化した際のHaydock競馬場だと異様なまでに走る。2着に50馬身ほどの大差をつけて勝利したBetfair Chase (G1)のパフォーマンスでGold Cup Horseだと祭り上げられたはいいものの、その後のKing George VI Chase (G1)ではあっさり失速した模様。(UK)
・散々スタート拒否をしたり、Charity RaceでSheikh Fahad殿下を背に勝ったり、砂浜競馬に出てみたりと異色の経歴を持つLabaikだが、Cheltenham Festivalでは新進気鋭の若手Jack Kennedyを背にまさかのSupreme Novices' Hurdle (G1)制覇という大仕事をやってのけた。能力は高いのだがいかんせん何をするのかよくわからない。ただし残念ながらその後故障で長期休養とのこと(UK, IRE)
・障害通算無敗を誇り、この馬に負けた馬がBuveur d'Air、Black Corton、Fox Nortonのように悉く出世するというAltiorだが、2016/17シーズンはNovice Chaseに挑戦。Arkle Challenge Trophy (G1)を快勝すると、その後のCelebration Chase (G1)も圧勝し、Noviceだけではなく16f Chaseにおける一流馬すら相手にしないという圧倒的なパフォーマンスを見せつけた。Next Sprinter Sacreとの期待も高い。ただし2017/18シーズンで呼吸器系の故障を発症、現在は復帰の途にある。(UK)
・Alpine Motorenöl-Seejagdrennen(Hamburg)。馬場が悪かったこともあるがNovalisが29馬身差の圧勝。ドイツ障害競馬の規模は小さいが、Kazzioなどなにかと強力な馬を輩出しているのでそれに続いてくれれば。(GER)
・スロバキアの名調教師(兼騎手)Brečka JaroslavとイギリスのGrand National Winning JockeyであるLeighton Aspellがタッグを組んでイタリアのGran Corsa Siepi d'Italia (G1)を勝った出来事。なんか知らんがお友達らしい。2着馬がハンガリーのDiplomataなのがまた国際色豊かである。母国ではいずれの馬も無双している。(ITA、UK)
・BJP Insurance Brokers Open Hunters' Chaseで楽勝かと思って馬を止めたらはるか後方にいた馬が追い付いてしまった出来事。そういうこともあるよね。オールウェザーだがWolverhamptonでもっとやらかしちゃったのもある。Newburyの人はアマチュア騎手ですしあんまりいぢめないであげてください。(UK)
・障害競馬に落馬は付きものだが、必死で馬にしがみついて勝った人もいる。最近の派手なのだとLimerickのPhilip Enrightか。#Nevergiveup(IRE)
・ただでさえHeavy11と最も重い馬場表示だったうえに、第1レースの前あたりから豪雨が降っていたEllerslie競馬場のGreat Northern Day。1400mのJRA Trophyという平地競馬の勝ち時計が1.41.89とかいう超絶不良馬場である。ほとんど最後ギャロップできている馬がいないような状態で、Great Northern HurdlesはZedeedudadeeko、Great Northern SteeplechaseはWise Men Sayが勝利した。ちなみにGreat Northern Hurdlesは4150mで勝ち時計が6.12.45。今年の中山大障害(4100m)の勝ち時計は4.36.1。さて、中山大障害で走っていた馬がGreat Northern Dayにいたらどのような走りを見せただろうか。そんな超絶不良馬場のレースだが、最後は勝ち馬を迎える空に虹がかかりました(NZ)
・ソウルスターリングの優駿牝馬(G1)の制覇をはじめ、あちこちで活躍を収めているFrankel産駒。Frankel産駒としては初の障害競馬出走となったSolo Saxophoneだが、散々飛越をミスしたにも関わらず驚くべき差し切りを決め、Frankel産駒として障害初勝利を挙げた。今後どれくらいの馬が障害に転向してくれるかはわからないが、ひとまずFrankel産駒の障害競馬における可能性を考えるうえでは興味深い勝利となった。(UK)
・なぜかPrix Alain du Breil (G1)では落馬に終わったDe Bon Coeurだが、その後のPrix Renard Du Vivier (G1)では圧勝。通算9戦8勝とした。まだ4歳の牝馬ということで、これからが非常に楽しみな馬。イギリスにも来てほしいところ。(FR)
・ヨーロッパ障害競馬で大逃げが決まることはほとんどないのだが、珍しく決まったのが11月のNavanのHandicap Hurdle。後続の騎手は反省して丸坊主にすべき。(IRE)
・世界最長距離(7300m)、50個の障害が待ち受けているフランスのAnjou-Loire Challengeだが、今年は2014年の勝ち馬Posiloxが2015年の勝ち馬Kick Onを下して勝利を挙げた。今年で11歳になる大ベテラン。上の写真はCheltenhamのAmazing Comedy。いちおうAnjou-Loire Challengeにもいたけれども大敗。(FR)
・フランスHaiesの最高峰であるGrande Course De Haies d'Auteuil (G1)にイギリスからL'ami Sergeが参戦。もともと行きたがる馬でピッチ走法で加速する馬なのだが、鞍上のDaryl Jacobは内でひたすら脚をため、その一瞬の加速力を生かし切るレースで勝利をつかんだ。Grand Prix d'Automne (G1)の勝ち馬Alex De Larredyaを下しての勝利であり、Daryl Jacobが馬の特性を知り尽くしてのものだろう。(FR、UK、IRE)
・障害競馬に空馬が出るのは仕方がないのだが、ニュージーランド障害競馬では誘導馬が空馬の相手をしていたりもする。Wellington競馬場のSteeplechaseでは空馬が二連続障害の途中で突っ込んできたり、地味に誘導馬が空馬を弾いて走路から追い出していたり、いろいろと見どころが多いレースで少しだけ話題になった。(NZ)
・いわゆる穴馬で決して人気になることはないのだが、ストライクゾーンに入った時の破壊力だけは素晴らしいものを持っているSpecial Tiara。Noel Fehily騎手のこの馬の特性を生かし切る好騎乗もあり、Queen Mother Champion Chase (G1)で大仕事をやってのけた。昨年の秋に引退したSprinter Sacreのお披露目と、Cheltenham Festival4日間の中で唯一天気が良かったということもあり、春の日差しの中の華やかなLadies Dayとなった。2015年の同レースの3着馬Special Tiaraが2016年のQueen Mother Champion Chase (G1)を制したほか、2着馬Un De SceauxもRyanair Chase (G1)を制しており、2015年の勝ち馬Sprinter Sacreの偉大さもまた改めてかみしめる1日でもあった。
そんなわけで1年間お疲れさまでした。毎年King George VI Chase (G1)が終わり、Welsh Grand Nationalが終わり、Leopardstown Christmas Festivalが終わり、そうしてようやく年末を感じるのだが、いまいち今年はWelsh Grand Nationalが終わっていなかったり、Leopardstown Christmas Festivalが大荒れだったりと、どうにも年末感があまりない。とはいえ1年間いいことも悪いこともあったが、また来年は素晴らしい年となるよう、Wishing you a happy new yearということで、今年の締めとしたい。
*おまけ
障害競馬関連ホームページ作ってます。気が向いたら遊んでやってください。