にげうまメモ

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18/10/14 Czech Racing - Velká Pardubická Result

*Pardubice 3.0 (pružná)

128. Velká pardubická s Českou pojišťovnou

Stcc - cena L - 6+ - 6900 m - 5 000 000 Kč

128. Velká Pardubická 2018 - YouTube

Česká televizeが今年は地域制限が掛かっていた上に、Pardubice競馬場公式のYoutubeチャンネルが今日に限って仕事をしないという。これがあるのでどうにも信用できない部分が残るのだが、自力で情報収集することを含めて海外競馬の魅力でもあるのだろう。いやしかし、わたしはグリーンチャンネルでいつかVelká pardubickáが中継される日を夢見ている。ついでに馬券も売り出すといい。今年は外れていたと思うけれども。

Sztorm、Theophilosの2頭がスクラッチ。また、Milerytの騎手であるイケメン獣医師Mach Ján, MVDr.は落馬負傷のためMichal Kubíkに乗り替わり。Templářの騎手Thomas BoyerもフランスのFelix de Gilesに乗り替わっていた。前評判としては、昨年の勝ち馬No Time To Loseが一番人気。続いてAnge Guardian、Hegnus。少し空いてTzigane Du Berlais、Zarif、Vicodyと続いていた。出走馬の詳細はこちらから。

 

スタート直後から例によってBridgeur、Universe of Gracieなどが前に出てくる展開。第3障害のMalý vodní příkop(Small Water Jump)までは全馬無事クリア。Bridgeurを先頭にVelká pardubickáにおける最難関障害であるVelký Taxisův příkop(Taxis Jump)に向かうも、ここでは葦毛のTer Millをはじめ、Universe of Gracie、Templář、Vicodyの4頭が落馬。さらにVelký Taxisův příkopの勢いそのままに突っ込んでいったIrská lavice(Irish Bank)にてスロバキアのVajgarosが落馬。イギリスのLeighton AspellはどうにもこのIrská laviceに相性が悪いようだ。続くPopkovický skokでは中段にいた紅一点Delight My Fireが落馬し、さらに後方のKasimが飛越拒否して競争中止

ペースはFrancouzský skok(double hedge )を抜けて2連続障害となるMalé zahrádkyの辺りからやや落ち着く。この辺りで一度展開を確認しておこう。逃げるのは例によって昨年も引っ張ったBridgeur。続いて古豪Hegnus、Tzigane Du Berlais。Stretton、Ange Guardian、Nikas、Vandualなどが続く。Rebelinoはその後ろから。やや空いて人気のNo Time To Lose。後方からMileryt、Zarif、Pareto、Artistmontotと続いていた。

Živý plot s příkopem(railed hedge and ditch )の空壕にてRebelinoがやや引っ掛けた程度でレースは淡々と進行。後方集団から一頭Zarifが抜け出して中段に取りつき、Pareto、Artistmontot、Milerytはやや取り残される形となる。Poplerův skok(Timber Rail)の辺りで空馬となっていたTer Millも無事どこかに行き一安心。そのまま馬群はスタンド前へと向かう。

DropではRebelino、Mileryt、Paretoなどが躓くシーンがあるが立て直す。その後のKamenná zeď(stone wall)、Hadí příkop(snake ditch, water jump - jump down)、Velký vodní příkop(big water jump)は後方のArtistmontotが水しぶきを上げた程度でミスは見られない。先頭集団は相変わらずBridgeurが引っ張る展開で、後方からZarifが忍び寄ってきた以外はメンバーはさほど変わらないものの、中段にいたRebelinoはやや手ごたえが悪くなり後退。また先頭集団からVandualが脱落。Živý plotの辺りでParetoにも置いて行かれつつあったArtistmontot、Milerytは途中棄権。Velký anglický skok(big english jump - ditch and hedge)は全馬ミスなく飛越し、いよいよ残りは約1マイルとなる。

この辺りから先頭集団にくらいついてたNikasは後退。代わってBridgeurにZarif、Strettonなどが並びかける。さらにSteeplechase Courseに入ったあたりから手ごたえよくAnge Guardianが取り付く。Bridgeurはやや手ごたえが悪くなり後退。Thomas Garnerが激しく手綱を動かして抵抗するStrettonを、外からAnge Guardianが持ったままで交わして直線に向かう。さらに内からHegnus、Zarifも接近。しかし最終障害を越えると、外に持ち出したTzigane Du Berlaisが一気に伸びて、内の各馬を交わし去り勝利した。内側の叩き合いから出てきたHegnusが2着。逃げ粘ったStrettonが3着、さらに最内にいたZarif、さりげなく追い込んできたNo Time To Lose。ややこの叩き合いからは遅れてAnge Guardianが6着。大きく遅れてBridgeur、Vandual、Nikas、Pareto、Rebelino。以上が完走した馬である。

 

馬場は3.0 (pružná)とかなり良いようだ。もはや勝ち馬が泥だらけになった姿がフォーカスされた昨年は4.0 (pružná)と仕方がないのだが、それでもCharme Look、Nikas(Rebelino)の年がいずれも3.6。近年ではおそらく最も硬い馬場で行われたVelká pardubickáと言っていいだろう。馬場が良くなると、重馬場においてありがちな単純な馬力と体力によって差が付き、直線を向くころには10馬身差が1単位くらいになるようなレースではなく、Velká pardubickáのように人馬の技術が高度に洗練された障害競馬においては、着差がつかずに直線まで勝負が持ち越されるレースとなる。

引っ張ったBridgeurは前半こそ飛ばしているのだが、Urgent De Gragaineに散々絡まれた挙句、最後はほぼ歩くように入線した昨年の反省があったのか、途中からは前半のハイテンションは抑えつつ淡々とレースを進行させている。結果として、Velká pardubickáを走り切る体力を持った馬がほぼ直線まで勝負圏内に存在し、そこからフラットのスピード能力によって勝負が決する珍しいタイプのレースとなった。勝ったTzigane Du Berlaisは7歳の上り馬で、今年のVelká cena města Pardubic(I. Kvalifikace)(Stcc NL)こそ途中でトラブルがあったらしく途中棄権しているが、Cena města Pardubic – EURO EQUUS –(IV. Kvalifikace)(Stcc NL)ではいきなりAnge Guardianを追い詰める走りを見せていた。Velká pardubickáはこれが初参戦であり、距離的にはやや不安があったのだが、良馬場という条件、途中で息が入ることでそこまで体力が要求されない展開と、持ち前のスピード能力を生かすことが可能となる条件はこの馬向きであった。無理に前を追いかけずに最後まで追い出しを我慢するJan Faltejsek騎手の騎乗も見事であり、最後の卓越した伸び脚はこの良馬場を見越して体力を温存する騎乗によって生まれたものだろう。事実、当日はフラットのスピードで勝負が決するレースが頻発しており、これは騎手がここまでのトレンドを読んだ結果ともいえるのかもしれない。いずれにせよ、ここまで途中棄権がトラブルを除けば一度もない安定した飛越は魅力であり、良馬場であれば一頭桁違いの破壊力を発揮することを示すことができた。比較的夏場は天気の良いチェコ障害競馬において、来年は主役として君臨することが期待できるだろう。

2着のHegnusもまた良馬場に恵まれたパターンだろう。2016年に挑んだ際は5着と、どうにも勝負圏内に入ることはできなかったのだが、結果的にはやや距離に不安を残してしまった当時よりも大きな前進が認められた。Marek Stromský騎手の魂の騎乗で2着に踏ん張ったのだが、それ以上の脚を使うことが出来る馬がいたということだろう。ポカのあった飛越もだいぶ向上しており、10歳と年齢を重ね、ようやくチェコ障害競馬における安定勢力として円熟味を増してきたといったところか。驚きの好走を見せたのが3着のStretton。乗り替わりに初距離、kvalifikaceではいいところなしと好走する要素がなかったのだが、パフォーマンスとしてはフロックでもなんでもなく、十分に勝負に加わっての3着である。前走のCena Arnošta z Pardubic(Stcc II. kat)を勝って馬が何かを思い出していたのだろうか。8歳とまだ若く、おそらく次が真価を問われるところだろう。

ベテランのZarifはさすがに安定したレースを見せた。後方からぽつねんと追走し、気が付いたらするすると好位にいるという展開は前走の通り。Pardubice競馬場はコース形態が複雑で国外の騎手にとっては非常に敷居の高い競馬場なのだが、Raffaele Romano騎手はさすがはイタリアのチャンピオンジョッキー、おそらくVáňa st. Josef調教師とも入念に事前準備をしてきたのだろう。自身の長所と短所を理解した上で最高の騎乗を見せた。とはいえこの馬にとっては、やはりもう少し馬場は渋った方がよいかもしれない。できれば体力勝負によってある程度馬がふるい落とされつつも、飛越の巧拙によって順位が決定し、フラットのスピード能力がさほど必要ないレースになった方が着順を上げた可能性がある。昨年の勝ち馬No Time To Loseは後方から追い上げるも5着。馬場に張り付くようなパワフルな走りはまさに重馬場巧者のそれであり、残念ながらこのような良馬場ではそのパワーは不要の長物となる。3.3の馬場にて行われた前走のCena firmy Chládek a Tintěra(III. kvalifikace)(Stcc NL)では勝負所でかなり手綱を激しく動かす場面があり、どうにもその懸念が本物になってしまった。5着まで踏ん張ったその実力は本物であるが、良馬場ではやや仕掛け遅れる可能性があるということで今後も注意した方がいいかもしれない。対抗角と目されたAnge Guardianは最後遅れ6着。珍しく好位から進んだレース運びも原因の一つではあるのだが、それ以上にこの馬はフラットのスピード能力が全てである。障害馬においては往々にしてスプリントをかけるとフォームがバラバラになる馬がいるのだが、この馬もその類である。後方から押し上げることで強力な惰性をつけてペースを押し上げていき、そのまま直線何とかゴールに転がり込むのがこの馬のパターンであり、純粋なフラットのスピード勝負となるとさすがに苦しいものがある。

逃げたBridgeurは最後は一杯になり7着。Urgent De Gragaineに絡まれた昨年よりも馬場が良くなったことでパフォーマンスを上げているのだが、どうにもブリンカーをつけたワンペース型の馬にあるように、どうにも交わされるとあっさりレースをやめてズルズルとフェードアウトするところが目立つ。むしろ5000メートルくらいの距離でハイペースを刻んだ方がいいのだろうが、kvalifikaceでそこまでリスクを冒す必要がないというのもまた事実でもあり、適鞍となると難しいところ。Vandualは勝負にこそ加わることはできなかったが完走は果たしたようだ。この馬は自己条件に戻ってどこまで。Nikasは途中まで先頭集団にくらいついていたが、最後はさすがに苦しくなったようだ。往年の体力はすでに失われているのだが、精神力が強いタイプであるだけに、もしかすると周囲の空気を察知して馬が自身で準備をしてきたのかもしれない。Velká pardubickáはこれが7度目の挑戦。名誉ある9着である。Paretoは何とか完走を果たしたが、何度か大きなミスをしていた。やはり広いコースのペースについて行くのはしんどいように見える。Rebelinoは途中から脱落したが、勝ち馬から30秒近く離されながらも完走したようだ。

その他競争中止した馬。Artistmontotはさすがにスピード不足だろう。いまいち適鞍がわからないのだが、例えばポーランド辺りで強引にこの馬のペースを作ればチャンスがあるのかもしれない。Milerytはこの馬のレースはした。この馬は無事に帰ってくることが勲章である。Templářは今年もVelký Taxisův příkopで落馬したが、来年はThe Rainbow Hunter SpecialならぬTemplář Specialとか言ってVelký Taxisův příkopを越えられるか否かというbettingがあってもいい。古豪Universe of Gracie、Ter Millも早々にTaxisで落馬したが、もしかするとこの辺りの先行馬の落馬がなかったら展開が変わっていた可能性もある。Vicodyはもったいない落馬。Delight My Fireの落馬したPopkovický skokは地味な難所で、直後に直角のカーブが存在する。この馬はCheltenhamのCanal Turnのレプリカでも落馬したことがあるのだが、どうにもこの類の障害には相性が悪いのかもしれない。Kasimの飛越拒否はよくわからないが、そろそろ年齢的な部分があるかもしれない。VajgarosはIrish Bankで落馬したが、実はその前のレースでも鞍上のLeighton Aspellはこの障害で落馬していたりする。イギリスにこのような障害はないので、さすがのGrand National Winning Jockeyとはいえ不慣れな面があるのかもしれない。あと、やはりこのような機動力を生かす展開であれば、スクラッチとなったSztormとTheophilosは見てみたかった。