にげうまメモ

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18/12/22 Japanese Racing

*Nakayama Firm

Nakayama Dai-Shogai (G1) 4100m

https://www.youtube.com/watch?v=3NGP8FHgBqw

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中山大障害3連覇がかかっていたオジュウチョウサン有馬記念に出走するとのことで、2015年の勝ち馬であり、散々オジュウチョウサンの2着に敗れていたアップトゥデイトが中心的な存在となっていた。これをミヤジタイガ、ニホンピロバロン、ルペールノエルなど、お馴染みのメンバーが追いかける構図であった。

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スタート直後から押してタイセイドリームが出てくるも、これを制してミヤジタイガがハナに行く展開。3号障害を越える辺りから、例によってじわじわと進出してきたアップトゥデイトが引っ張る形になる。しかし昨年とは異なり大逃げの形にはならず、大生垣を越えた後からミヤジタイガが接近、そのままハナに立つ。最終障害にてやや位置を下げていたアップトゥデイトはまさかの落馬。最終コーナーを回って先頭に立ったニホンピロバロンが、追い上げてきたタイセイドリームを退けて勝利した。3着には追い込んだマイネルプロンプト。シンキングダンサー、ミヤジタイガと続いた。

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アップトゥデイトはパワーと持続力のある緩慢なストライドを持つ馬で、このようなタイプは日本平地競馬においてダートの中長距離で先行するくらいしか居場所がないのだが、障害競馬においてはむしろ、このパワーとストライドは強力な飛越の伸びを生み出す原動力になると同時に、同馬を激しい展開において他馬の追随を許さない強靭なマラソンランナーへと変貌させる。一方で、この緩慢なストライドは障害飛越における様々な修正動作の挿入を難しくさせ、一見安定しつつもポカのある飛越を生み出すものとなる。障害競走が平地競争で頭打ちになった馬の単なる受け皿ではない所以である。このような特性ゆえか、同馬はやや障害手前でブレーキをかけつつ踏み切り位置を調整する癖が長年にわたって認められ、これは障害のキャリア4年目となった今年においても未だに解消はされていなかった。従って、上記のような性質を持つ同馬にとって、昨年の中山大障害で見せたような、オーバーペースで引っ張りながらも飛越のリズムを強引に作り出していくような、一見玉砕的なまでの大逃げこそ、この馬の性質をフルに引き出すことが出来る正攻法の戦い方である。

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日本障害競馬はスタート直後にポジション争いの関係でややペースが上がるのだが、今回も例にもれずミヤジタイガがある程度前に行ったために若干ペースが上がっている。瞬発的なスプリント能力に乏しいアップトゥデイトにとってここで無理をせず、ペースが落ち着いたところで前に出るまではよかったのだが、今回はオジュウチョウサンの不在のため王道の競馬を試みたのか、そのままミヤジタイガのペースダウンに付き合うようにペースを落としてしまったのは完全な騎乗ミスであった。結果的に後続がぴったりとついてくることになり、大生垣を越えたあたりから機動力に優れた馬に前に入られるに至った。落馬に関しては踏み切りを間違えたことによる凡ミスでしかないのだが、それ以上に前に入られたことによってこの馬本来の伸びやかな飛越と踏み切り動作を妨げられ、さらにペースが上がったために強引について行こうとしたことが原因だろう。半馬身ほど遅れて並走している馬が、前を走っている馬と同じタイミングで飛越を行った結果、踏み切り位置の誤りにより落馬することはイギリス障害競馬においてよくある事象であり、要するにそれと類似した落馬である。やはりこの馬にはライアンムーアブラザーズことJamie Mooreのような、強引にでも馬を動かしていくことで飛越のリズムを作り出していく人が必要なのだが、そのような技術を持った人は残念ながら日本には存在しないというのが現状である。

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ニホンピロバロンは3年ぶりの勝利であったが、さすがに今年の中山グランドジャンプ3着馬としての貫禄を見せた。アップトゥデイトがちんたら逃げたことに助けられた部分はあるのだが、初コンビとなった石神騎手との飛越も安定しており、さらに瞬間的な機動力に欠けるアップトゥデイトの弱点を石神騎手がよく見抜いていることを示す騎乗であった。ミヤジタイガが謎のスパートをかけたのはともかく、そこからアップトゥデイトの外に被せていくことで再加速するスペースを与えないコース取りは見事であった。大きな故障を乗り越えた馬ということで、獣医医療にとっても嬉しい勝利であったことは間違いない。絶対王者に匹敵するパフォーマンスであったとはやや言い難いのだが、それでもこのような馬は長くみていたいと思わせる勝利であった。

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2着のタイセイドリームは惜しい敗戦。この馬は550kg近くもある大柄のディープインパクト産駒ということで、アップトゥデイトほどのパワーこそないものの、どちらかというとアップトゥデイトとよく似たタイプである。だらだらとワンペースで走り続けることに長けた馬で、そのような形で新潟ジャンプステークスも勝ってきたのだが、今回はペースが落ち着いたことにより浮上することが出来た。オーバーペースになると途端について行けなくなるという、ある程度限界がはっきりしている一方で、自分の守備範囲であれば安定したレースができるのがこのタイプの特徴であり、今回は後者であったということだろう。要するに、どちらかというと機動力に優れたミヤジタイガ、さらにニホンピロバロンが動いた際について行けなかったのがこの馬の明確な敗因である。この馬に関してはこれ以上のパフォーマンスを望むということは難しいのだが、柔らかく動ける馬の宿命か、この馬もまたニホンピロバロンと同様に腱関係の故障を乗り越えてきた馬であり、なんとか長く走り続けてもらいたいものである。

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その他。マイネルプロンプトはやはり中山が合うようだ。淡々とこの馬のペースで飛越しており、特に目立ったミスもなく終始飛越は安定していた。このようなタイプはかえって目指せ完走くらいのスペクトラムが要求されるレースで力を発揮する可能性がある(歩いてでもゴールを目指す類のレースではない)。勝負所でもう少し動くことが出来れば大物食いまでやってのける可能性はあるのだが、それよりもこの馬の安定した飛越技術は海外障害競馬で見てみたい。距離や馬場が合うかどうかはともかく、フランスのSteeplechaseまでこなす可能性があるのではないだろうか。シンキングダンサーは2015年からアイルランドに障害用種牡馬として輸出されたConduitの産駒ということで興味深いところがあるのだが、さすがにここではもう少し積極的に乗らないと厳しいだろう。最後は脚を使っているだけにもったいないものがある。イルミネーションジャンプステークスを勝ってきたミヤジタイガは見せ場は作った。しかしどちらかというと瞬間的な機動力に優れたタイプのようで、最後は苦しくなってそのまま後退。距離不安があったのかもしれないが、これはやはり仕掛けるタイミングのミスが大きいだろう。西谷騎手の男気溢れる騎乗はスペクタクルなものであり、後方でちんたら追走するのではなく、このように勝利への渇望を感じさせるような騎乗がレースを盛り上げるものであるのだが、勝ちに行くのであれば、この馬こそひたすら勝負所まで死んだふりを続けるような騎乗が良かったのではないだろうか。

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勝ったニホンピロバロン。なにか言いたいのかもしれない。