にげうまメモ

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19/04/06 National Hunt Racing - Grand National Result -

*Aintree Good to Soft

Randox Health Grand National Handicap Chase (G3) 4m2f74y

https://www.attheraces.com/racecard/Aintree/06-April-2019/1715

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ドヤ顔で写真をつけているが例によって去年のものである。写真右隅の方で実は表彰式をやっているのだが、入り込むタイミングを失ったので後ろのほうをぶらぶらしていた。今年に関しては、中の人はおうちで元気いっぱいブラックオリーブをつまみにチェコワインを飲んでいた。チェコワインを勉強したいのだが、あまり日本には入ってきていないようだ。職場の近くのワインショップでチェコワインを探していると言ったら変な顔をされてしまって悲しい。

 

人気は連覇を狙うTiger Rollから。これを追いかける形でアイルランドの巨人Willie Mullins師とチャンピオンジョッキーRuby Walshの黄金コンビを揃えたRathvinden。他には昨年の4着馬Anibale Fly、昨年の2着馬Pleasant Company、葦毛のVintage Clouds、上り馬Lake View LadにJoe Farrell、イギリスのチャンピオンジョッキーRichard Johnsonを擁するRock The Kasbah、アイルランドの天才Jack Kennedyを確保したDounikosなどが続いていた。特に昨年の上位1~4着馬が総じて出走していたことは、今年のGrand Nationalにおいて特筆すべき内容だろう。その中でBless The Wingsのみ単勝50倍とさっぱり売れていなかったが、その理由はお察しである。みんな大好きBless The Wings。

その他、詳細な出走馬の短評はこちらから。Grand Nationalに関する基礎的な情報はこちらで。中学生レベルの英語力でも行けるGrand National旅行記こちらで。

 

例によってスタンディングスタートから。横一列で第一障害に向かうも、いきなり葦毛のVintage Cloudsが落馬。さらにこれに躓いたUp For Reviewも落馬。とりあえず出てくるのはGo Conquer、Magic of Light、Step Backなど。第2~5障害と、後方にいたRock The Kasbahが第3障害で大きなミスをしたことを除けば順調にレースは進行。この辺りから内から外へと進路を取ったStep Backが先頭に立ち、その外の好位にGo Conquer、内側にMagic of Light、Ballyopticなどが取り付く。やや遅れてRathvinden、Vieux Lion Rouge、Minella Rocco。Tiger Rollは馬群の中の中段、Anibale Flyはさらにその後ろからレースを進める。Grand Nationalの最難関障害、むしろ世界最難関クラスの障害として名高いBecher's Brookは全馬無事クリア。早々に飛越にもたつき馬群から遅れ始めたMonbeg Notoriousを尻目に、馬群は密集して進行。Foinavonにて、好位にいたBallyopticが小さなミスをするも立て直す。Canal Turnの辺りで内を進んでいたRathvindenが先頭に代わり、これを追いかけてMagic of Light、Don Poli。Step Backは相変わらず好位の外を進行する。Canal Turnにて後方の馬群の中にいたOutlanderが小さなミス。Valentine's Brookを越えたあたりから内側を進んでいたPleasant Companyが先頭に並びかける。好位からは相変わらずRathvinden、Magic of Light、Step Back、Go Conquerなど。第10障害でWalk In The Mill、Ramses De Teilleeが小さなミスをするも大事には至らず。第11障害でのんびり後方を進むOne For Arthurの隣にいたRock The Kasbahがまたもやミス。道路を横切るところの隊列を一旦確認すると、外のStep Backと内のPleasant Companyが並んで引っ張る形。Rathvinden、Magic of Light、Regal Encore、Walk In The Mill、General Principle、Go Conquer、Minella Roccoなどが先頭集団を形成。少し遅れてTiger Roll、Ballyoptic、Livelovelaugh、Don Poli、Dounikosなどが位置し、この後ろからValtor、Ramses De Teillee、Anibale Flyなど。Ultragoold、One For Arther、Tea For Two、Rock The Kasbahなどは後方から進む。一頭やや遅れているのがMonbeg Notorious。馬群は順調にスタンド前へと向かい、The Chairは先頭集団のMagic of Lightがやや大きなミスをしたのみでクリア。さらにWaterにおいて先頭近くにいたRathvindenがなぜかミスをするも大事には至らず、2周目へと向かう。

Waterを越えた直後に、一頭後方で追走に苦労していたMonbeg Notoriousは途中棄権。第17障害は第1障害で落馬したUp For Reviewの治療のため迂回されることになり、Step Back、Rathvinden、Pleasant Companyを先頭にして、一旦は広いAintreeのNational Courseに広がった馬群は見事に外側の迂回路を通過することに成功する。第18障害にてBallyoptic、Walk In The Millがミスするも立て直す。さらに後方に置かれていたBlow By Blowがやや飛越を拒否するような形のミス、第19障害の手前で途中棄権。第19障害ではRock The Kasbah、Jury Duty、General Principleの3頭が競争中止(後方のため何が起こったのかよくわからない)。この辺りから外を回っていたStep Backは後退し、代わってRathvinden、Livelovelaugh、さらにするすると上がってきたWalk In The Millなどが先頭集団を形成する格好となる。好位からは例によってGo Conquer、Magic of Light、Pleasant Company、Vieux Lion Rouge、Ballyoptic。Tiger Rollはその後ろに位置する格好で、Anibale Flyとは同じような位置から進行。相変わらずOne For Artherは後方に構える。第21障害の手前で手ごたえが悪くなっていたMinella Roccoは途中棄権。2回目のBecher's Brookも全馬無事クリア。FoinavonもUltragoldがミスをしたのみでクリアするが、この辺りから後方ではちらほらと追走に苦労し始める馬が出てくる。Canal Turnは全馬無事クリアするが、だいぶ後方に置かれていたStep Backはその直後に途中棄権。Valentine's Brookでは先頭集団にいたRathvindenが大きなミスをするも立て直す。この辺りはRathvinden、Pleasant Company、Livelovelaugh、さらにMagic of Lightのアイルランド勢4頭が先頭を走る展開で、やや遅れてWalk In The Mill、Tiger Roll、Regal Encore、Vieux Lion Rouge、Anibale Fly、Ballyoptic、Valseur Lidoなど。One For Artherはおそらく未だ後方にいるものと思われる。第26障害でTiger Rollが着地時にやや躓くような仕草を見せる。第27障害でもTiger Rollは同様のミス。ここでMagic of Lightがかなり気合をつけて飛んでいき、結果的に先頭に立つ。一方で好位にいたPleasant Companyは飛越のミスを立て直せず落馬。中段に下がっていたBallyopticも落馬。後方に遅れていたWarriors Tale、Noble Endeavorはこの障害の手前で途中棄権。残り3障害地点でMagic of Lightが先頭に代わり、これにRathvinden、Livelovelaugh、そして内からTiger Rollが接近。やや遅れてRegal Encore、Walk In The Mill、Captain Redbeard、そしてAnibale Flyと続く。One For Artherはさらにその後ろ。やや手ごたえの悪くなったLivelovelaugh、Regal Encore、Walk In The Millを残して、逃げるMagic of LightにTiger Rollが持ったままで接近。最終障害でミスをしたMagic of Lightを交わしてTiger Rollが先頭に代わると、ここから一気にTiger RollがMagic of Lightを突き放す。Magic of Lightはここから反撃を試みるもすでに遅し、Tiger RollがMagic of Lightに2馬身ほどの差をつけて勝利した。さらにそこから2馬身ほど遅れてRathvinden。さらに遅れてWalk In The Mill、Anibale Fly。さらにOne For Arther、Regal Encore、Singlefarmpayment、Outlander、Valseur Lido、Livelovelaugh、A Toi Phil、Bless The Wings、Ultragold、Vieux Lion Rouge、Captain Redbeard、Folsom Blue、Valtor、Don Poli。以上が完走した馬である。

 

Grand National Meetingの初日にはやや強い雨が降っており、初日のFoxhunters' ChaseはSoft表示で行われており、一時はHeavyに近いのではという騎手コメントが出ていたほど馬場は重くなっていた。しかしその後は素晴らしい春の陽気となり、馬場はGood to Soft表示ながらもGoodに近い程度までは乾燥していたようだ。Grand Nationalの序盤は案の定というかStep Backが前に行くわけだが、鞍上のNico de Boinvilleもさすがは百戦錬磨の障害騎手、長距離戦の逃げ方を熟知している人だけにさして強引に加速をつけていない上に、同じく先頭集団にいたGo Conquer、Magic of LightはStep Backが来た時点で引く構えを見せている。途中からRathvinden、Pleasant Company辺りが前に行くのだが、この辺りの馬も強引にスピードを上げて引っ張るタイプでもなく、あくまで外をふらふら走っていたStep Backと並走する格好となった。結果的に、全体的に前半から無理のあるペースで流れるのではなく、飛越を散々ミスしていた上に良馬場はからきしダメな重馬場巧者であるMonbeg Notoriousを除けば、各馬追走すること自体には余裕があるため馬群は密集して進行することになった。これは馬場状態さえ異なれど、I Just Know、Ucello Contiなどのさほど出足の早くない馬が前に行った2018年と同様の展開である。

 

Tiger Rollは1973、1974、1977とGrand Nationalを3勝したイギリスの伝説の障害馬Red Rumに次ぐ、45年ぶりのGrand National連覇を成し遂げた。1974年といえば日本ではハイセイコーブームの全盛期であり、1974年の中山大障害(春)はグランドマーチスが勝利するような時代である。当時は日本馬もGrand Nationalに挑戦するという話が出る辺り、稀代の名障害馬に上り詰めたチャンピオンホースの平地再挑戦とかいう理解不能な妄言が持て囃される現代よりも良い時代であったのかもしれない。ちなみにその前のGrand National連覇となると、戦前の1935、1936のReynoldstownにまで遡らなければならない。このように、Grand Nationalを勝利することはもちろん、連覇することがいかに困難を極めるかは想像に難くないだろう。Grand Nationalはその厳しいレースゆえに、勝利した馬は肉体面・精神面のダメージが非常に大きく、特に高齢の障害馬に付きものの故障に悩まされることが多い。さらにGrand Nationalを制したことによる斤量面での大きな負担増も生じる。事実、Grand National勝ち馬はその後に何かと苦労することが多く、2015年の12月に2014年のGrand Nationalの勝ち馬Pineau De ReがPertemps Network Handicap Hurdleにて勝利を挙げたのはやや驚きを持って報じられたのだが、実は当時、Grand National勝ち馬がその後に勝利を挙げたのは2002年のBindaree以来のことであるという記録があった。

Tiger Rollは昨年と馬場は異なれど、同様の展開において安定したレース振りで勝利を挙げた。と言うと平凡に読めるのだが、その実、このレース振りは競馬の歴史の中で強烈なインパクトを残すものである。もともとTiger RollはJBC Triumph Hurdle (G1)の勝ち馬でそれなりのスピード能力は持っていたようだが、2016年の春からChaseに転向するとアイルランドのシーズンオフである夏場も精力的にレースに出走し、結果的にその持久力と飛越技術の高さを見込まれたのか、2017年のNational Hunt Challenge Cup (G2)に参戦、これを勝利している。さらに2017年の冬にはCheltenhamのCross Countryに挑戦し、2018年のGlenfarclas Cross Countryの勝利を弾みに、昨年のGrand National勝利へと至るという経歴であった。Glenfarclas Cross CountryのGrand Nationalにおけるプレップレースとしての重要性は昨年のレース回顧で述べた通りであり、今更それを繰り返し記載するつもりもないのだが、この馬は元々持ち合わせていたスピード能力と持久力を背景に、高い飛越技術を要求されるアマチュア騎手限定Chase競走、さらには多様な障害への対応能力を要求されるCross Country競走と、飛越技術を順調にステップアップさせてきたというキャリアを持っていた。これだけでもアイルランド障害馬としてのキャリアアップとしては理想的なものなのだが、しかし、この馬が真に驚異的なパフォーマンスを見せたのは今シーズンに入ってからであり、特にそれは今年のGlenfarclas Cross Countryである。ここでは、Velká Pardubickáにおいて初見の障害にも関わらず飛越技術で地元の馬を圧倒し、あわやのシーンまで作り出したフランスのCross Country SpecialistであるUrgent De Gregaine、アイルランドの古豪でCross Country競走では随一の実力を誇るJosies OrdersなどのヨーロッパCross Country Horseとしては超一流が揃った素晴らしいメンバーを相手に、これらを完全に子ども扱いするような22馬身差の圧勝を決めている。昨年のGrand Nationalを経てここまでのパフォーマンスの向上を見せていることは、前述の理由を踏まえると驚異的な出来事である。今年のGrand Nationalも、昨年の10st13lbから11st5lbへと斤量こそ増加していたのだが、内でじっくりとレースを進め、真っ向勝負を挑んできたMagic of Lightらを盤石のレース運びで差し切るパフォーマンスを見せた。途中で若干躓く場面はあったのだが、National Fenceはその特性上何かとミスを誘発しやすい部分があり、ある意味では避けられないようなタイプのミスだろう。Grand Nationalでは若干のミスが生じても体勢を立て直す修正能力と、飛越ミスで諦めない気持ちの強さが高い水準で要求される。上記のミスの際でも、この馬は全く問題なく体勢を立て直すことが出来ていた。Tiger Rollは一頭になるとどうにも集中力を欠くところがあるため、最後まで馬群の内でレースを進め、最後の最後まで追い出しを我慢するDavy Russell騎手の騎乗はこの馬の特性を知り尽くしたパーフェクトなものであった。この安定したレース運びを見る限り、ここでは数段障害馬としての完成度が抜けているといっていいだろう。Grand Nationalはそのハンデ差、全40頭の超多頭数、難易度の高い障害にイギリス障害競馬最長距離、どうにもその日のご機嫌が読めない高齢馬、GoodとHeavyではアルファ世界線とベータ世界線くらいは違いが生じる馬場状態など、一般的な競走とは比べ物にならないほどの無数の変数が存在するカオスであり、それはブックメーカーのオッズが示すとおりである。さらにイギリス・アイルランドはその広大な馬術文化に支えられた障害競馬産業が存在しており、これは平地で頭打ちになった競走馬の受け皿としてのみ機能している日本の障害競馬産業とは比べものにならないほど巨大な規模のものである。事実、イギリスの歴史的な名馬であるDesert Orchidも元々はHuntingを目的として生産された馬である。そしてこの障害競馬産業の頂点に存在するのが、このGrand Nationalというレースなのである。このようなレースを、一度このレースを制しながらも、ここまで盤石の状態で、盤石の競馬で勝ち切ることが出来る馬が存在するということ、確かに歴史的な数字も素晴らしいのだが、それがこのレースにおいて最も記憶しておかねばならない事実である。

 

紅一点Magic of Lightは見せ場を作った。主戦のRobbie Power騎手はJury Dutyに騎乗しており、Paddy Kennedy騎手とは2017年にコンビを組んでいたとはいえ、比較的勝負気配としては微妙なところがあり、事実前評判も決して高くはなかった。しかし、そのレース振りは牡馬・セン馬顔負けの堂々たるものである。どちらかというと前々で運びつつしぶとく脚を伸ばすといったタイプのようで、前走のUltima Handicap Chase (G3)は大敗しているが、後方からレースを進めたこと、また緩急の激しいCheltenhamのコースも合わなかったことが敗因であると思われる。11st8lbの斤量もそれなりに見込まれていた。Grand Nationalでの走りに関しては、The Chairと最終障害で躓く場面はあったものの、これらのミスを立て直しつつ、諦めずに次の障害に向かっていく強さは、この馬もまたGrand Nationalを勝つために必要なものを持っていたことを示す内容である。Tiger Rollとはさすがに瞬間的なスピード能力では突き離されたが、最後まで勝ち馬を追いかけてスプリントをかける脚を持っていたことは特筆すべき内容だろう。どうしてもこの馬に関しては飛越のミスが目立ってしまうのだが、2周目では加速を掛けつつの障害飛越を成功させており、これがレース後半のペースアップに繋がっていただけに、この馬の持続的なスピード能力を生かすだけの十分な飛越技術は持っていたものと判断できる。更なるトップスピードが望めるのであれば大仕事をやってのけるだけの可能性は高まるのだが、さすがに年齢的にもそれは厳しいかもしれない。また、牝馬だけにどこまで現役を続けるのかはわからない。

対抗角と思われていたRathvindenも見せ場を作った。ちなみに世界の合田はnetkeibaかどこかの記事でこの馬を古豪と称していたが、実のところ年齢の割に出走レース数は少ない馬であり、いわゆる古豪という表現から想像されるようなキャリアを歩んできた馬ではない。Waterではこの馬としてはやや珍しいミスをしていたが、これは踏み切り位置を誤ったもの。水壕障害ではこのようなミスをする馬がしばしば発生する。2度目のValentine's Brookのミスはよくあるタイプのものだろう。いずれにせよ、この馬もまたMagic of Lightと同様に着地時のミスのリカバリーに成功していた。とにかくこの馬は飛越技術とスピードの持続力については素晴らしいものを持っている。あまり脚が早くないため、2周目の終盤も積極的に進んだMagic of Lightにはやや後れを取ったのだが、この馬もまた自身のレースをやり切っての3着である。レース後にRuby Walshが自身の髪の毛の色の如く、燃え尽きて灰になったかのような雰囲気でインタビューに応じていたのだが、この馬のレースはそのRuby Walsh騎手の雰囲気を物語るものである。

今シーズンのBecher Chase (G3)の勝ち馬Walk In The Millはしぶとく先頭集団にくらいついての4着。飛越に問題が生じることは殆どなく、加速すべき場面では必要は飛越が出来ていた。Valentine's Brookを越えてからMagic of Lightが加速をかけていったのだが、この辺りから鞍上のJames Bestの手が激しく動いていた辺り、ややスピード負けしたのか、もしくは加速を掛ける余力が残っていなかったかのどちらかだろう。直線では前の3頭の加速について行けないかのような走りを見せており、この馬自身そこまで機動力に劣るタイプではなく、直線でのフォームを見る限りではおそらく後者かと思われるのだが。トップハンデを背負ったAnibale Flyも5着と意地を見せた。馬群の中に入れつつもTiger Rollをいつでも見ることが出来る位置で進める戦法であったと思われるのだが、馬群の中に入ってしまったことにより、若干飛越の際に狭くなる場面が散見された。飛越で大きなミスはなかったのだが、このようなタイプはのびのびとした持ち前の飛越を妨げられると案外消耗が早くなる可能性がある。また、落馬したPleasant Companyの煽りを食らい、Magic of Lightが加速した辺りからスムーズにリズムに乗れなかったのはやはり悔やまれる内容だろう。いまいち全体的に進路取りが宜しくなく、Mark Walsh騎手も上手い人ではあるのだが、主戦のBarry Geraghty騎手を確保できていれば結果は違ったかもしれない。

 

一昨年の勝ち馬One For ArtherはNational Heroとしての意地を見せた。故障から復帰したこの2戦は全くやる気なく試合終了していたのだが、本番に向けてきっちりと馬を作ってくるあたり、さすがは一度はこのレースを制覇した関係者と馬である。さすがに全盛期の勢いにあったかと言われると少々怪しいのだが、それよりもこの馬としてはもう少し前半から消耗が激しくなることで、後半のペースアップがさほど急ではないような展開の方が捲り上げやすいというところがあるだろう。2周目のCanal Turn辺りから加速をかけており、残り2障害辺りまでは一頭桁違いの勢いで進出してきているのだが、最後はやや脚が上がってしまったようだ。馬場ももう少し渋った方がやりやすかったかもしれない。Regal Encoreは好位に食らいついていたのだが、勝負所から脱落しての7着。11歳のいつ走るかよくわからない馬だが、立派なレース振りである。Grand National (G3)は馬が何か思うところがあるのかやる気を出して走るようだが、2年前も同じような負け方をしているだけに、少々距離は長いのかもしれない。Singlefarmpaymentはとにかく後方のインにこだわって進んでいた。Becher's Brookでミスがあったが許容範囲だろう。この馬の馬群をすり抜けてくる能力に賭けた騎乗だが、いまいち今回は捲り上げるタイミングがなかったようだ。

Outlanderは何回か細かいミスがあったが、後方から進めて特に見せ場はなし。Don Poliは前半から積極的に進め、最後は完全について行けなくなっていたのだが、この馬のレースをやり切っての完走である。ともかく、この2頭については無事に新しいオーナーが見つかったことを喜ぶべきだろう。Valseur Lidoは中段から徐々に好位に取りつくレースを見せたが、残り3障害辺りから脱落し10着。昨年は脚を使い切って脱落したことを考えれば、Rachael Blackmore騎手は昨年の反省を生かした素晴らしい騎乗をしたのだが、やはりレース振りから考えると少し距離は長いのかもしれない。重賞クラスではやや頭打ちになってきたことを考えると、そろそろ次のキャリアを考えた方がいいだろう。Livelovelaughは軽ハンデの恩恵もあったが、積極的に運んで見せ場十分のレースを見せた。どうにも特徴のつかみにくい馬だが、飛越自体には問題がなかった辺り、National Courseの距離短縮で見直せる可能性がある。A Toi Phil、Folsom Blueは後方から特に何もできず。Ultragoldも後方から進め、飛越こそ問題はなかったものの特に見せ場はなし。Becher Chase、Topham Chaseなど、National Specialistの一頭ではあるのだが、少々距離が長いかもしれない。もっとも、今回の展開を踏まえると、中段以降にいるとなにもできないというのもあった。Vieux Lion Rougeも好位から進めるも徐々に脱落し15着。Grand Nationalの常連だが、毎年似たような負け方をしている辺り、この馬もやはり問題は距離だろう。フランスから移籍してきたValtorは2周目のCanal Turnでミスがあった以外は概ね飛越自体は安定していたのだが、残念ながら見せ場は作れなかった。Magic of Lightが加速を掛けたあたりで細かいミスが連続であったことで、この辺りでエンジンが掛からなかった可能性もある。Captain Redbeardは好位から進め、完全に脚を使い切っての16着。このレースは中段以降にいてはどうしようもないだけに、やることはやり切った内容のレースである。14歳のBless The Wingsも中段から特に見せ場はなかったのだが、とりあえずは完走したようだ。残り2障害地点ではぶつかってきたValseur Lidoを弾き飛ばすようなガッツのあるレースを見せており、気力自体は衰えていなかったのだろう。これで引退とのことで、良い区切りになったのではないだろうか。

 

その他落馬した馬。なによりもったいなかったのがPleasant Company。実は落馬した障害(第27障害)の手前の障害(第26障害)で若干着地で重心を落とすような仕草を見せている。さらに、第26障害の辺りからMagic of Lightが加速をつけて飛んでおり、これによって並走していたMagic of Lightが第27障害の地点では一馬身程度前に来るような格好となっている。Magic of Lightは第27障害でもやや加速を掛けて飛んでいるのに対し、Pleasant Companyは一つ余計なステップを入れたことで結果的に踏切地点が障害に近すぎた結果、障害に引っ掛ける形で騎手がバランスを崩して落馬するという形になっている。第26障害でややリズムを崩していただけに第27障害は慎重に飛びたかったのかもしれないが、ここは騎手が強引にでも完歩を合わせていくべきであったかもしれない。これが3度目のGrand Nationalであり、今年で11歳とベテランの域に達していることを考えると、来年もチャンスがあるかはわからないのだが、なんとか再起を期待したいところ。Vintage Cloudsは第一障害で早速落馬に終わったのだが、この馬の身体能力から考えればこのような落馬を起こすリスクは付きものだろう。Go Conquer、Step Backは少しずつ位置を下げ途中棄権。Step Backはハナに行ったはいいものの、だいぶフラフラと走っており、2周目からは早々に苦しくなり途中棄権。ある程度強引にでもリズムを作った方が良さを発揮するタイプである可能性があり、そう考えるとこのNational Fenceは合わなかったのかもしれない。Tea For Twoはどうにも気性的に限界が来ていることを思わせるような走り。Jury DutyとGeneral Principleは仲良く落馬に終わったが、そもそも今回はもう少し前々に付けていないと今回は展開的に厳しかった。Just A Parは後方から特に何もせず。何もしないときは何もしない馬である。今日は何もしない日であった。Rock The Kasbahは前半から飛越をミスしており、第19障害で飛越をミスしての落馬。Richard Johnson騎手としてはこの馬の通常のレース運びと異なり後方から進めることでNational Fenceを慎重に飛越させようという目論見だった可能性もあるのだが、やはりリズムを崩すとどうにも脆いところがあるため、いずれにせよNational Fenceは合わなかったと考えられる。Up For ReviewはVintage Cloudsの煽りを食った形の落馬だが、残念ながら助からなかったとのこと(落馬シーンは上記の映像からはカットされている)。Grand Nationalの死亡事故は2012年のSynchronised及びAccording to Pete以来であり、決してGrand Nationalの死亡率は極端に高いものではないのだが、レース前に出た浅薄な動物愛護系の考察記事が散々叩かれていたりとこの系統の話題がどうにも今年は煩く出ていたという背景もあり、残念な結果となってしまった。