にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

19/08/25 Australian Racing

*Sportsbet-Ballarat Heavy10

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そんなわけで現地に行っていました。最初からなにかと災難続きで何度も踵を返して帰ろうかと思った上に、1泊3日でオーストラリアに行くと言うと10人中10人に怪訝な顔をされるような超強行日程でしたが、その代わりというか、競馬場の人たちにはなにかとよくしてもらった上に、白熱した素晴らしいレースを見ることが出来ました。競馬場にいたお客さんもとてもフレンドリーで、こんな日本からのこのこやってきた変人にオーストラリア障害競馬について語ってくれる年配の方もいたりして、非常に温かい雰囲気で競馬を楽しんだ一日でした。

競馬場内で撮影した写真の使用にはけっこう厳しい規則があって、その関係で一眼レフを持ち込むにあたっては競馬場の人に色々とお世話になっています。このブログも個人的なもので中の人のためのアフィは置いていないものの(こんな超マイナーな話題に特化した辺境の弱小ブログがアフィなんぞ置いたところでという話もありますが)、はてなブログの広告があるので、ここではデジカメ及びスマホで撮った風景写真だけの使用に止めておきます。旅行記であるとか競馬場内の様子とかは、完全にアフィを置いていないこちらで書きます。9月中くらいには書き上げたいなぁという低い目標。

 

Gotta Take Care Hurdle 4000m $50,000

Handicap. No age restriction, No sex restriction. No class restriction. Apprentices can claim. Track: Outer. Track type: Turf. Field limit: 12. 

https://www.racing.com/form/2019-08-25/sportsbet-ballarat/race/1/results

Tara Dreamingが淡々と逃げる展開。2周目からややペースを上げて逃げるも、これをじわじわと追いかけてきたFirefree、さらにMaster Poetが接近。Master Poetの追い上げをFirefreeが振り切って勝利した。Euromanが3着。

Gotta Take Care Hurdleは4000mと、VIC州のHurdle競走としては比較的距離が長めに設定されている。FirefreeはHurdle自体は3勝目だが、前走の4200mのGrand National HurdleにてTallyho Twinkletoeの2着に入っており、この距離をこなす下地はあったのだろう。前走の平地競走もHeavy10で勝利しており、調子もよく馬場も合うようだ。どちらかというと距離が伸びてよいタイプのような印象で、将来的にはSteeplechaseの方が良さを生かすことが出来るかもしれない。2着のMaster PoetはWill Gordon騎手が途中からかなり促して押し上げていくことで2着まできた。この馬も距離が伸びてよさそうだが、Firefreeの69kgと比べると64.5kgと斤量差があったあたり、勝ち馬と比べると少々厳しい印象。人気を背負ったEuromanは案外で、道中進路がなかった場面があったとはいえもう少し勝負に加わりたかった。Tara Dreamingは道中若干行きたがって走っているのだが、余力がありそうに見えて最後はあっさり脚が上がっている辺り、敗因は距離だろう。

 

Sportsbet - Grubs On Tour Maiden Hurdle 3400m $35,000

Set Weights. No age restriction, No sex restriction. Maiden. Apprentices can claim. Track: Outer. Track type: Turf. Field limit: 10. 

https://www.racing.com/form/2019-08-25/sportsbet-ballarat/race/2

Just A Jokeが逃げる展開も、これにPrincess Anacheevaが絡んでいく。向こう正面でJust A Jokeが着地にミス、ここからPrincess Anacheevaが前に出ようとするもJust A Jokeが抵抗。Princess Anacheevaは残り800m辺りでようやくJust A Jokeを競り落とすも、後方からMy Four Oh Nine、さらにFlying Agentが進出。My Four Oh NineをFlying Agentが3馬身ほど突き放して勝利した。Princess Anacheevaが3着。

Flying AgentはHDL5戦目にして初勝利。仕草を見ていると若干前向きな気性に見えるだけに、道中ゆったりと構えながらこのように捲り上げていくレース運びが合っているようで、おそらくこの形がこの馬にとってのやり方となるだろう。馬場はこのくらい渋った方がいいようだ。My Four Oh Nineは人気を背負っていたが、今回は勝ち馬の機動力に屈した格好となった。飛越を見ているとSteeplechaseでもやれそうな印象があるのだが、どちらを使うのだろうか。Princess Anacheevaは見せ場を作っての3着。勝ち上がりは早そうだが、とりあえずは来年に期待したい。

 

Hygain Winners Choice Maiden Hurdle 3200m $35,000

Set Weights. No age restriction, No sex restriction. Maiden. Apprentices can claim. Track: Outer. Track type: Turf. Field limit: 10.  

https://www.racing.com/form/2019-08-25/sportsbet-ballarat/race/3

Patch Adamsがやや引き離して逃げる展開も、2周目から後続が接近してくる。これにHurricaineなどが絡んでいくが、最終コーナーを回って抜け出してきたWicked Trilogyがそのまま後続に20馬身差をつけて圧勝した。2着にはRuby Rayが上がっていたようだ。

着差は立派なのだが、My Four Oh Nine、Princess Anacheevaなどメンバーがかなり揃った第2レースと比較するとさほどタイム的に強調するものではなく、こちらの方がメンバーはさほど揃っていなかったことを考えると、見た目の印象ほど高く評価できるものではないかもしれない。第4レースのJJ Houlahan Hurdleに比べてもタイム差は3秒ほどついており、勝ったWicked Trilogyは最後流していたとはいえ、着差通りのインパクトを求めるのであればもう少しタイム差を詰めておきたかった。Wicked Trilogyは去年の7月からHDLを使っていた馬。狭いところを抜けてくるスピードは大したものだが、かなりレースを重ねていた馬がここで大化けするとも考えにくく、次走は少し注意してみた方がいいだろう。Patch Adamsは前走上のクラスで走っていたこともあり人気を背負っていたが、最終障害で大きなミスもあり大敗に終わった。同じく人気になっていたWolfendaleは飛越をミスしたのちに途中棄権。

 

E-Cycle Solutions JJ Houlahan Hurdle 3200m $125,000

Set Weights plus Penalties. No age restriction, No sex restriction. No class restriction. Apprentices cannot claim. Track: Outer. Track type: Turf. Field limit: 12. 

https://www.racing.com/form/2019-08-25/sportsbet-ballarat/race/4

人気を背負ったNorthern Voyageが軽快に逃げる展開。これを追いかけてMonte Carloが進めるが、途中からGobstopperが押し上げてくる。さらに後方にいたAblazeが進出すると、最後はNorthern Voyageを3馬身ほど競り落として勝利した。Robbie's Starが3着。

Northern Voyageは前走のEcycle Adam Lindsay Gordon Hurdleもこのような軽快なスピードを生かして圧倒してきた馬で、ここまで無敗で来ていた期待の4歳馬である。今回も例によって前半からスピードを生かした逃げを打っているのだが、今回は相手強化及び馬場の悪化というビハインドもあり、最後はAblazeに捕まるに至った。前半から一生懸命に走ってしまうタイプのようで、もう少しリラックスして走ることが出来れば大きく成長してくる可能性を秘めた一頭である。AblazeはMDNから連勝とした。前半はゆったりと構え、勝負所から脚を使い切るRichard Cully騎手の騎乗は見事であった。Robbie's Starも同じような位置から動いたのだが、Ablazeと比べると機動力の違いを見せつけられてしまった内容。もともとニュージーランドで走り、その後VIC州、さらにはSA州のEric Musgrove師へと移籍したGobstopperは4着。前走のGrand National Hurdleにおいては心臓関連のアクシデントで競争中止していた経緯もあり、ややその後遺症が心配である。また、68.5kgを背負っていたことも考えると、Northern Voyageが飛ばした展開において前半から積極的に動いてしまったのは失策だったかもしれない。

 

 

Cheap As Chips BM120 Steeplechase 3200m $35,000

Handicap. Three-Years-Old and Upwards, No sex restriction. BenchMark 120. Apprentices can claim. Track: Outer. Track type: Turf. Field limit: 10. 

https://www.racing.com/form/2019-08-25/sportsbet-ballarat/race/5/results

見ての通り、Steeplechaseといっても比較的大型の障害をコースに設置して使用するのがオーストラリアSteeplechaseの基本的な形態である。ちなみに例外として、Casterton競馬場には唯一生垣障害が存在する。以前は生垣障害を広く使用していたそうだが、この辺りの変遷の経緯は動物愛護運動の影響が大きく関係しているらしい。残念ながらこの日もまた動物愛護団体が場外に来ていた。安直で短絡的な動物愛護運動がかえって動物及び関連産業にとって害悪でしかないことは既にこの界隈では議論され尽くされた常識であり、歴史が物語る事実である。

例によってMannertoneが出てくる展開も、2周目から絡んでいったMappingが途中から先頭に。しかし外から捲ってきたAscot Redが最終障害でこれに並ぶと、そのまま後続を3馬身ほど引き離して勝利した。2着にはSpeedy Jaxが入った。

Ascot RedはSteeplechase自体は初勝利だが、5月に同じクラスにてPentomatic及びSolar Coasterと僅差の勝負をしており、基本的には実績上位と考えていいだろう。実績的には上述の生垣障害を使用するCastertonでも好走しているが、飛越を見る限りでは通常のSteeplechaseの方がよさそうな印象。そのCastertonでAscot Redに勝ってきたSpeedy Jaxは70.5kgの斤量もあったのか、どうにも反応が鈍い場面があった。Mappingは積極的な競馬で3着。12歳のベテランCarounはもう少し積極的に動いてもよかったかもしれない。

 

E-Cycle Solutions Grand National Steeplechase 4500m $350,000

Handicap. No age restriction, No sex restriction. No class restriction. Apprentices cannot claim. Track: Outer. Track type: Turf. Field limit: 12. 

https://www.racing.com/form/2019-08-25/sportsbet-ballarat/race/6

賞金額としては5月のGrand Annual Steeplechaseと並んで、VIC州Steeplechaseにおける最高額を誇るレース。4度目のGrand National Steeplechaseを目指し、12歳のためこのレースで引退となるWellsを中心に、前走Grand National Hurdleを快勝してきたニュージーランドからの移籍馬Tallyho Twinkletoe、Crisp SteeplechaseにてWellsの2着に入ったSlowpoke Rodriguez、2017年のGreat Eastern Steeplechaseの勝ち馬で昨年はSea Kingの驚異的な二枚腰に屈して2着となった大ベテランSpying On You、今年のBrierly Steeplechaseの勝ち馬Bit of a Lad、今年のThackeray Steeplechaseを勝ってきた上り馬Police Champ、オーストラリア・ニュージーランド間で活躍を続けるLucky TonightといったVIC州Steeplechaseにおける一線級に加え、今年はニュージーランドから昨年のGrand National Steeplechase (PJR)の勝ち馬であるShamalを迎えた豪華なメンバーが勢揃いした。人気はTallyho Twinkletoeから。

前半から積極的にFulmineusが飛ばす展開。番手からWells、Lucky Tonightなど。早々にShamalが落馬。2周目に入ってFulmineusの逃げ足は衰えないが、後退したLucky Tonightに代わり外からするするとTallyho Twinkletoeが進出。最終コーナーを回る辺りからWells、Fulmineusまで捲り切ると、そのまま後続に10馬身ほどの差をつけて快勝した。2着にはWellsが踏ん張るかと思いきや、後方からSpying On Youが足を伸ばしていたようだ。Wells、Slowpoke Rodriguezと続いた。

2015年のニュージーランドRiccarton Parkでのこの馬のパフォーマンスを知っている人間からすれば、この馬がこうしてターフに戻ってきたことは非常に感慨深いものがある。Tallyho Twinkletoeは2015年のニュージーランドHurdleにおいて一躍頭角を現してきた馬で、MDN、RST OPN HDLと圧勝を続け、Wee Biskit、Gagarin、Just Got Home、Mahanadiといった当時のニュージーランドHurdleにおける最強クラスが揃ったGrand National Hurdleもまた圧勝で飾っていた。しかしその後は故障で長期の休養に入り、殆ど関連情報すら出ないまま3年の時を経た2018年のRST OPN HDLでようやく復帰するも、再度1年近い休養を挟んでいた。今年は7月のMDN STPを快勝すると、その後は適性を考えたのかオーストラリアに移籍、Grand National HurdleにてFirefreeなどを寄せ付けないパフォーマンスを見せていた。以前はスピードに任せた粗い飛越が目立っていたのだが、年齢を重ねてSteeplechaseをこなすための技術も身につけてきたようだ。実際、オーストラリアのPatrick Payne調教師によればHurdleよりもSteeplechaseの方がよさそうとの話が出ており、実際に今回も細かいミスはあったものの全体的に伸びやかで前向きな飛越を見せていた。それにしても、ニュージーランドでも後にGreat Northern Hurdle (PJR)を勝利するD'Llaroを瞬く間に置き去りにするほどのスピードを見せつけていたのだが、今回もWellsなどを一瞬にして置き去りした高い機動力はもちろん、この馬に真っ向勝負を挑んだ組が総じて脚が上がっているように、この豪華メンバー相手に一頭別格のパフォーマンスを見せるのだから、そのスピードと持久力は大したものである。同一シーズンにおいてGrand National HurdleとGrand National Steeplechaseを勝利した馬は1930年のMosstrooper以来であるのだが、これはHurdleを戦うだけのスピードと、Steeplechaseにて踏ん張りぬく持久力を兼ね備えていることが必要な、障害馬としては大変な快挙である。一時期はイギリス移籍という噂も出ていたように、障害馬として素晴らしい可能性を持った馬である。国外であれば例えばアメリカNational Fenceくらいであればこなすことが出来るだろう。さらにこれほどのスピードがあること、及びニュージーランドの生垣障害もこなしていたことを考えると、日本という選択肢もあるのだが、この馬の走ってきた馬場を考えると日本の特異なまでに速い馬場が合うかどうかは微妙なところ。むしろ馬場は渋った方がよさそうな印象もある。いずれにせよ、故障を乗り越えてきた馬だけになんとか無事に行ってほしいのだが、とりあえずは休養のためニュージーランドに戻るとのことである。

昨年はSea Kingの驚異的な伸び脚の前に屈したヤマニンバイタル産駒のSpying On Youはまたもや2着となった。ただし、勝ったTallyho Twinkletoeを追いかけて行ったWells辺りがかなり苦しくなるところを差し込んできての2着だけに、昨年とは若干様相が異なる。えっちらおっちら上がっていたパフォーマンスを見た感じではより距離は伸びた方がよさそうで、馬場も渋った方がこの馬のしぶとさを生かせそうな印象がある。どこかでニュージーランドSteeplechaseで見てみたいのだが、どうだろうか。これが引退レースとなったWellsは自身の競馬をやり切っての3着。73.5kgの圧倒的トップハンデを考えるとTallyho Twinkletoeの後ろにいては勝負にならないので、逃げたFulmineusを番手で追いかけつつ早めにスパートをかけていく形で、この馬のやれることはやった内容だろう。後方から足を伸ばしてきたSpying On Youはともかく、この馬を目掛けて動いてきたSlowpoke Rodriguezを抑えきったタフネスは大したものである。とにかくこの馬の強みは並ばれてからもう一伸びでも二伸びでもする強靭な精神力であるのだが、いかんせん今回は勝ち馬のスピードが別格過ぎた。昨年のGrand National Steeplechaseは落馬したりと、4度目のGrand National Steeplechase制覇は残念ながら叶わなかったのだが、この馬もまた2010年台後半のオーストラリアSteeplechaseを代表する強靭な障害馬であることを十分に示すレースであった。

その他。Slowpoke Rodriguezは前走のCrisp Steeplechaseと同様にWellsを交わせず4着。Wellsが73.5kg、Slowpoke Rodriguezは64kgと相当な斤量差があったことを考えれば、ここは何とかしたかった。Fulmineusは未勝利馬ながら逃げて見せ場を作った。Crisp Steeplechaseでも同様の形で見せ場を作っており、この形であれば一線級相手でも戦えるようだ。こういう馬はレースを見た目的にも内容的にも盛り上げるため、早いところMDNは勝ちあがって欲しいのだが。Police Champは積極的に動くも最後脚が上がり脱落。上位馬とは差があるだろう。Bit of a Ladはどうにも前半から斜飛したりと飛越のリズムが悪く、途中動いて行くも早々に失速。Lucky Tonightは案外このようなタフな条件では踏ん張りがきかないようで、好位から進めるも脱落して途中棄権となった。もったいなかったのがニュージーランドから参戦してきたShamalで、ニュージーランドSteeplechaseでは瞬間的な機動力を武器としてきた馬だけに、67kgと斤量が恵まれたここでTallyho Twinkletoe相手にどこまでついて行けるのか見てみたかった。前走のGrand National Steeplechase (PJR)はニュージーランドで時々発生する異次元の不良馬場とぶっ飛ばしたIt's a Wonderのペースでどうしようもなかったが、今回はチャンスがあった。一気に脚を使っては失速というレースを繰り返してきたのだが、昨年辺りからは一気に動いてからもうひと踏ん張りするようなタフさも身につけており、障害馬として一段上の馬になった感があった。川上騎手が騎乗したBonnardはスタート直後は好位にいたものの、少しずつ位置を下げて、最後はじわじわと脚を伸ばすも8着まで。ご本人が呟いているように馬場を苦にしたとのことで、もう少し馬場が良ければより上の着順を狙うことが出来た可能性がある。

ちなみに、レース後にスタンドから声をかけたところ、その後気にかけて頂いていたらしく、日本在住のオーストラリア障害競馬ファンとして大変嬉しい出来事もあった。日本の競馬ファンにとって、海外障害競馬というと言語やシステム、さらにはそのタフさといった要素からかどうにも敷居が高いようだが、オーストラリアは比較的日本から旅行しやすく、障害競馬も非常に盛んであり、このように現地で活躍する日本人騎手もいらっしゃる。言語の壁さえ超えることが出来れば、そこには多様で深遠な障害競馬の世界が待っている。日本の障害競馬ファンにも、その存在やこの競馬のことはもっと知られてよいと思うのだ。