にげうまメモ

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20/03/12 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

Cheltenham Soft (Good to Soft in places)

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Cheltenham Festivalの3日目、St Patrick's Thursday。場内にはちらほらと緑色の衣服を身につけた人が目につくが、特に緑色のモノを身につけていないとなにか言われるということはない。競馬場公式も、お洒落してきていいけれど暖かくしてね! と言っているように、ここのドレスコードは案外緩いのである。Cheltenham競馬場にはOld CourseとNew Courseが存在し、比較的平坦なOld Courseとは対照的に起伏の多いNew Courseではよりタフな競走が展開される。Cheltenham Festivalの1、2日目はOld Courseを使用するが、この日からはNew Courseを使用することになる。Cheltenham Festival開始時点ではHeavyに近い状態で開始された馬場であったが、その後雨は降らなかったということもあり、この日はSoft (Good to Soft in places)まで改善していた。

 

なおこのあと元気よく飲みすぎてトイレに籠城することになった。

 

Marsh Novices' Chase (G1) 2m3f168y (Replay)

1. Samcro J: Davy Russell T: Gordon Elliott

2. Melon J; Mr Patrick Mullins T: Willie Mullins

3. Faugheen J: Paul Townend T: Willie Mullins

4. Mister Fisher J: Nico de Boinville T: Nicky Henderson

5. Tornado Flyer J: Danny Mullins T: Willie Mullins

6. Midnight Shadow J: Danny Cook T: Sue Smith

U Itchy Feet J: Gavin Sheehan T: Olly Murphy

PU Reserve Tank J: Robbie Power T: Colin Tizzard

2015年のChampion Hurdle (G1)の勝ち馬で、今シーズンからChaseに転向した現12歳ののFaugheenが人気の中心になっていた。レースはFaugheenが前に出てくるも、第4障害の辺りからMelonが先頭に代わる。Faugheenは番手の外から進めるが、残り3障害のところでミス。ここでSamcroが外から進出すると、食い下がるMelonとの叩き合いを制して勝利した。Faugheenは最後追い上げるも3着まで。イギリス調教馬の筆頭格であったItchy Feetは前半から飛越にミスがあり、第6障害で落馬に終わった。

Samcroは2017-2018シーズンのNovice Hurdleにおいて目覚ましい活躍を見せた馬で、Deloitte Novice Hurdle (G1)、Ballymore Novices' Hurdle (G1)と馬の性能の違いを見せつけて勝利してきた。一方でその勢いのまま挑んだPunchestown Champion Hurdle (G1)では無念の落馬に終わると、16f Hurdle路線に参戦した2018-19シーズンでは勝利を挙げることは叶わず、不本意なシーズンに終わっていた。今シーズンからはChaseに転向しており、初戦のBeginners Chaseは圧勝したのだが、Drinmore Novice Chase (G1)では物凄い手応えでレースを進めるも残り2障害で落馬、続くMatchbook Betting Exchange Novice Chase (G1)では元気よく走ったFaugheenに振り切られ2着に終わっていた。どうやら前走においてノドの問題が明らかになったようで、今回のレースに挑む前にWind Surgeryを行っている。飛越にポカはあるものの前向きな気性でスピードを活かして追走することが出来るタイプで、瞬間的なスピード能力であれば超一流のものを持っている。主戦のJack Kennedy騎手はケガのためDavy Russell騎手に乗り替わっていたが、残り3障害辺りからスムーズに加速することで単純なスピードの持続性能だけであれば驚異的なものを持っているFaugheenの進路を塞ぎ、最後までこの馬のスピードを活かして後続を完封する完璧な騎乗であった。前走は高いスピードの持続力を誇るFaugheenに振り切られたが、Wind Surgeryを行ったことでこの馬のスピードの持続性能が回復していることを期待したいところである。

MelonはこれでCheltenham Festivalは4度目の2着となった。飛越があまりうまくないのはHurdle時代から相変わらずなのだが、前向きな気性の持ち主と言うこともあり、先頭で気分よく運んだ方が何かとレースはしやすいのだろう。ただし、できれば馬場はもう少し渋っておいて欲しかった。ここまでChaseではあまり結果が出ていないが、持っているものを考えれば大仕事をやってのける可能性を秘めた馬である。今回最も耳目を集めた12歳のFaugheenは惜しくも3着に終わった。残り3障害地点で着地時に躓いて減速がかかっており、これが外からSamcroに蓋をされることで、下り坂を利した十分な加速が難しくなるという致命的なビハインドに繋がった。なお、Paul Townend騎手は直線ではこの馬の手前に合わせて進路取りを切り替えており、これ自体は決して不自然なことではない。それ以上に、やや緩いストライドを活かした圧倒的なスピードの持続性能を持つこの馬にとって、残り3障害辺りの下り坂で十分に加速しきれなかったことが致命的であった。12歳と年齢は重ねており、様々な故障やトラブルを乗り越えてきた馬なのだが、この高齢にも関わらず新たな戦場に挑戦し、自身の年齢の半分程度の馬たちに交じって互角以上に渡り合う姿は、紛れもなく近年のアイルランド障害競馬を代表する名馬のものである。

DoncasterのLightning Novices' Chase (G2)を勝ってきたMister Fisherは好位から進めたが、上位3頭には肉薄できず4着。アイルランドのTornado Flyerもやや遅れたが、これはアイルランドでの実績が示す通りだろう。Itchy Feetは後方からじっくりと進め、おそらく下り坂を利して一気にスパートを掛ける戦法であったと思われるが、飛越がいまいちで結局は落馬に終わった。Hurdleでも最後の伸び脚は素晴らしいものを見せていた馬で、Cheltenhamのコースはこの馬向きであったと思われるのだが、残念な結果に終わった。昨シーズンの20f Novice HurdleではG1を2勝しているReserve Tankはさっぱりで、早々に脱落して途中棄権に終わった。どうにもChaseではこの馬らしい走りを見せることが出来ておらず、おそらくHurdleに戻した方がいいのだろう。

 

Pertemps Network Final Handicap Hurdle (G3) 2m7f213y (Replay)

1. Sire Du Berlais J: Barry Geraghty T: Gordon Elliott

2. The Storyteller J: Davy Russell T: Gordon Elliott

14. Kilbricken Storm J: Harry Cobdon T: Colin Tizzard

16. Unowhatimeanharry J: Aidan Coleman T: Harry Fry

外から物凄い手応えで進出してきたThe Storytellerだが、内をするすると抜けてきたSire Du Berlaisがこれを半馬身ほど凌いで勝利した。Sire Du Berlaisは11st12lbのトップハンデを背負っていたが、これで同レースは連覇とするのだから大したものである。PunchestownのGrowise Champion Novice Chase (G1)を棚ぼたで勝利したThe StorytellerはここのところはHurdleを使っているが、どうやらこちらの方がよさそうな印象で、今回も11st9lbを背負って2着真で頑張った。Kilbrikcen Storm、Unowhatimeanharryなど実績のある馬もいたが、良いところなく大敗した。

 

Ryanair Chase (G1) 2m4f127y (Replay)


1. Min J: Paul Townend T: Willie Mullins

2. Saint Calvados J: Gavin Sheehan T: Harry Whittington

3. A Plus Tard J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

4. Frodon J: Bryony Frost T: Paul Nicholls

5. Duc Des Genievres J: Robbie Power T: Willie Mullins

6. Shattered Love J: Mark Walsh T: Gordon Elliott

7. Aso J: Charlie Deutsch T: Miss Venetia Williams

F Riders On The Storm J: Sam Twiston-Davies T: Nigel Twiston-Davies

連覇を狙うFrodonが元気よく先頭に立つも、第5障害辺りからMinが先頭に。そのまま緩めずに引っ張ると、最後猛追してきたSaint Calvadosを抑えて勝利した。人気のA Plus Tardは3着に入った。後続は遅れた。

MinはこれでG1は6勝目とした。素晴らしい運動神経とスピード能力を武器とする馬で、今回も随所でその高い運動神経を感じさせるダイナミックな飛越を見せている。一方でどうにも気性的に乗り難しいところがあるようで、これまでの戦歴が示す通り、先頭に立って気分よく走らせるレース運びが合っているようだ。そういう点で、ペースが早くなる16fよりも20fの方がレース自体はしやすいのだろう。前走はRobbie Power騎手が手綱を取ったが、当たりの強いRobbie Power騎手よりもアイデアのある騎乗ができるPaul Townend騎手の方が手は合っているようにも思える。

Saint Calvadosは強敵相手に見せ場を作った。元々フランスからの移籍馬で、行きたがる気性とスピードの高さを武器にNovice Chaseを爆走していたのだが、16f ChaseのG1クラスでは歯が立たず、ここのところはハンデ戦を走っていた。一方で、馬群の中に入れても我慢が利くようになってきたこと、さらにフランスからの移籍馬らしく飛越を丁寧に行うことで飛越のためのスペースと飛越の度の減速が必要となるという問題があったのだが、これが解消されてきたことで、ようやくこの馬の本来の能力を発揮できるようになってきたような感がある。一瞬のスピードというよりはロングスパート能力に長けたタイプで、今回Paul Townend騎手により内に閉じ込められたことは決してこの馬にとっては有利な条件ではなかったのだが、それでも2着に来たことは高く評価すべきだろう。Leopardstownのなにやらよくわからない名前の16f ChaseのG1で、今年のQueen Mother Champion Chaseの有力候補Chacun Pour Soiを下してきたA Plus Tardは3着に終わった。この馬自身にとっては今回は比較的有利な展開であり、Cheltenhamのコースも合っている。Rachael Blackmore騎手の騎乗も問題はなかったのだが、前2頭を褒めるべきだろう。

連覇を狙ったFrodonはいつも通りペースを握る作戦に出たのだが、今回は第5障害からMinが絡んでいったことで試合終了した。こればかりは戦術の組み合わせによるものなのでどうしようもない。Duc Des Genievresは久々のCheltenhamであったが見せ場は作れず。昨年のArkle Challenge Trophy (G1)は何だったのだろうか。Shattered Loveは好位から進めるも、途中から脱落して大敗。やはりこのクラスではペースが落ち着かないと苦しい。ベテランのAsoも好位から進めたが、今回はこの馬にとってはオーバーペースであったように感じる。

 

Stayers' Hurdle (G1) 2m7f213y (Replay)

1. Lisnagar Oscar J: Adam Wedge T: Miss Rebecca Curtis

2. Ronald Pump J: Brian Cooper T: Matthew Smith

3. Bacardys J: Mr Patrick Mullins T: Willie Mullins

4. Emiton J: Gavin Sheehan T: Warren Greatrex

5. Summerville Boy J: Jonathan Burke T: Tom George

6. Tobefair J: Thomas Bellamy T: Mrs Debra Hamer

7. Paisely Park J: Aidan Coleman T: Miss Emma Lavelle

8. Apple's Jade J: Richard Johnson T: Gordon Elliott

PU City Island J: Mark Walsh T: Martin Brassil

PU Donna's Diamond J: Thomas Dowson T: Chris Grant

PU L'ami Serge J: Dary Jacob T: Nicky Henderson

PU Penhill J: Paul Townend T: Willie Mullins

PU West Approach J: Harry Cobdon T: Colin Tizzard

連覇を狙うPaisley Parkが人気になっていた。レースはDonna's Diamondがスタート直後に気合を入れて先頭を伺う構えを見せるも、Apple's Jadeがハナに立って後続を引き離して逃げる。Apple's Jadeは終始緩めずに引っ張るも、最終コーナー辺りから後続が殺到。ここから抜け出してきたLisnagar OscarがRonald Pumpを凌いで勝利した。Bacardysが3着。Paisley Parkは全く伸びず7着と大敗した。

Apple's JadeはここまでG1を11勝しているアイルランドの名馬で、同馬の武器はある程度渋った馬場におけるスピードの持続性能である。2016年のAintreeにて、当時のTriumph Hurdle (G1)の勝ち馬Ivanovich Gorbatovを相手に41馬身差の大楽勝を見せたことは今でも鮮明に記憶に残る勝利である。2018-19シーズンの初頭はこの先行策を武器に、距離不問で他馬を圧倒する競馬を見せたのだが、Champion Hurdle (G1)で激しく他馬に絡まれたことによるオーバーペースが原因で惨敗し、そこからはどうにもいまいちなレースを続けていた。2019年12月のFrank Ward Memorial Hurdle (G1)では初めてチークピーシーズを着用し、以前のような積極策を見せると後続に17馬身をつけて圧勝したのだが、その後のJohn Mulhern Galmoy Hurdle (G2)ではそもそもあまり走る気がなかったのか、早々に後退して途中棄権に終わっている。このような経緯もあってか、今回は初めてブリンカーを着用し、さらにRichard Johnson騎手が終始促して飛越を試みているように、この馬の集中力を維持しつつ、かつこの馬のスピードの持続性能を最大限に生かす騎乗を試みている。Richard Johnson騎手の発想としては決して間違いではないのだが、どうやらブリンカーが効きすぎたようで、結果としては完全にオーバーペースでレースを引っ張ることになった。

Lisnagar Oscarは単勝50倍と、前評判としては完全にノーマークであった。実績としてもHaydockのAlbert Bartlett Prestige Novice' Hudle (G2)を勝った程度で、今シーズンはChaseを試すも良いところなく終わっている。前走のCleeve Hurdle (G2)でもPaisley Parkには迫れずの3着で、実績的には全くと言っていいほどここで激走する要素は見当たらない。外々をスムーズに立ち回れた利はあったのだが、それ以上にこの条件、この馬場、そしてこの展開に適性があったということなのだろう。Ronald Pumpも実績的にはほぼ無名の馬で、アイルランドでINH Stallion Owners EBF Novice Handicap Hurdle (Grade B)勝ちがある程度である。今シーズンはChaseを試すも、Drinmore Novice Chase (G1)では有力馬Samcroが落馬し、そのまま先頭に残ったFakir D'Oudariesから22馬身離された2着となれば、もはや実績的には完全に格下と考えられてもおかしくない馬である。BacardysはさかのぼればDeloitte Novice Hurdle (G1)などG1を2勝している馬だが、その後の実績からこのクラスでは少々足りなさそうということははっきりしている。今回はMr Patrick Mullins騎手が思い切って最後方まで下げ、Cheltenhamの下り坂を利したこの馬の加速力に賭けた騎乗によるものだろう。それでも最後は脚が上がっているのだが。

HaydockのRendlesham Hurdle (G2)を勝ってきたEmitonは、馬群に揉まれながらも4着まで頑張った。このような小脚が使えるのがこの馬の武器であり、CheltenhamよりもAintreeのような競馬場で期待したい。Summerville Boyは好位で上手く流れに乗ったが、最後は脚が上がっての5着。人気を背負ったPaisley Parkは完全にオーバーペースだろう。道中反応が悪いのはこの馬によくあることなのだが、それ以上に今回はそこから全く伸びず、最後は完全に脚が上がって歩くように入線している。11歳馬Donna's Diamondは不良馬場でパワーと持久力で他馬を圧倒するタイプの馬。今回は自身のやりたいことはやろうとしたのだが、やはりこのペースとこの馬場ではどうしようもない。L'ami Sergeはとにかく溜めてキレるタイプの馬で、さすがにこのペースでは手も足も出ないだろう。PenhillはCheltenhamの坂では強力な加速がかかるタイプで、Cheltenham替わりということで期待されたのだが、残念ながら早々に途中棄権に終わった。どうやら跛行ということで、大事に至らなければよいのだが。

【追記】Paisley Parkはその後不整脈が見つかったらしい。大事に至らなければよいのだが。