にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

20/04/19 Weekly National Hunt / Jump Racing

*障害競馬回顧 2020/04/13-04/19

なんと言っても今週は中山グランドジャンプでしたね。残念な事故もありましたが、この時期の日本としては珍しいくらいのタフなコンディションも相まって、日本障害競走の頂点に君臨するレースとして相応しい、激しくも美しい、素晴らしいサバイバルレースが展開されました。オジュウチョウサンの5連覇という数字はもちろん素晴らしいのですが、それ以上にその卓越したタフネスを感じたファンは多いのではないでしょうか。不良馬場だの障害だのと、レース後に例によって巻き起こる陳腐で頭の悪い意見の数々に色々と思うところはありますが、綺麗なものも汚いものも、清濁併せ持つことこそが競馬ですし、それを直視してこそ競馬の本質的な美しさが理解できるというものでしょう。一方、日本を除けば障害競馬開催国として唯一競馬開催を続行しているオーストラリアでは、Pakenham競馬場でWarrnamboolのMay Carnivalに向けたレースが組まれており、今シーズンが楽しみになる勝ち方を見せた馬が何頭も出てきました。

 

競馬開催情報

BHA extends suspension of racing in Britain with no date set for sport's return (Racingpost)

3月18日から中止となっているイギリス競馬は当初5月の再開を予定していたが、競馬の再開を判断するにあたっては安全性確保を最優先とし、再開予定日程は未定とするそうだ。いずれにせよ、今後は平地競馬の主要開催が続くため、イギリス障害競馬の再開はかなり遅れることになりそうだ。

Waregem Koerse 2020 afgelast (Waregem Koerse)

夏のWaregem競馬場の名物開催であるWaregem Koerseは中止となった。ベルギーでは8月まで大規模集会の中止命令が出ており、その煽りを食った形となる。

 

4/18(土)

中山(日本)不良

中山グランドジャンプ(JG1) 4250m

 1. オジュウチョウサン J: 石神深一 T: 和田正一郎

2. メイショウダッサイ J: 森一馬 T: 飯田祐史

3. ブライトクォーツ J: 西谷誠 T: 荒川義之

4. シンキングダンサー J: 五十嵐雄祐 T: 武市康男

中止 シングンマイケル J: 金子光希 T: 大江原哲

中止 メドウラーク J: 北沢伸也 T: 橋田満

中止 セガールフォンテン J: 上野翔 T: 石毛善彦

この日は強い雨が朝から降り続き、馬が走ると水飛沫が上がる程に水を含んだ馬場は不良まで悪化していたが、前評判としては前人未踏の5連覇を狙うオジュウチョウサンが圧倒的な一番人気になっていた。レースは前半からメドウラークが積極的に引っ張る展開で、そのまま隊列は非常に長く伸びる形になる。メイショウダッサイ、オジュウチョウサン、シングンマイケルなどが好位から。大生垣で後方にいたセガールフォンテンが落馬。向こう正面に入る辺りからブライトクォーツが一気に仕掛けて先頭集団に取りつくも、好位にいたオジュウチョウサンが先頭に。そのまま食い下がるメイショウダッサイを3馬身ほど突き放して勝利した。ブライトクォーツは最後脚が上がって離れた3着。シングンマイケルは最終障害で落馬に終わった。

オジュウチョウサンはこれで中山グランドジャンプ5連覇とした。同一重賞5連覇というと、それに匹敵する記録としてぱっと思いつくのはイギリスのQuevega(David Nicholson Mares' Hurdle 6連覇)やAl Capone II (Prix La Haye Jousselin 7連覇)くらいなもので、そもそも中山グランドジャンプに5年連続で出走すること自体が驚異的である現状、言うまでもなくこれは前人未踏の、日本競馬の歴史に燦然と輝く大記録である。また、その勝ちパターンは日本障害競馬で現状考え得るほぼ全てを網羅しており、今回はなにかと良馬場になりやすい日本では珍しいくらいの不良馬場に対応したことは、この馬のチャンピオンホースとしての地位を更に揺るがぬものにする内容であり、これを目の当たりにした競馬ファンとして、単なる5連覇という数字以上に語り継がなければいけないものである。前半から緩慢なストライドを活かしてメドウラークが緩めずに引っ張り、不良馬場も相まって有力馬の一部のみがこのペースについて行くことが出来る中、好位で淡々とレースを進め、ブライトクォーツの西谷騎手が向こう正面から仕掛けた玉砕的なスパートに対応し、最後はワンテンポ遅らせて追いかけたメイショウダッサイを抑え込むパフォーマンスは、まさに障害競馬「らしい」、現代日本競馬において考え得る限り究極のサバイバルレースにおいて、障害競馬チャンピオンホースとして正々堂々たる勝ち方であった。

上り馬メイショウダッサイは見せ場を作った。昨年の小倉サマージャンプを勝った時点ではどちらかというとスピードタイプの馬のイメージもあったのだが、昨年の中山大障害から比べると著しく馬がレベルアップを見せている。この展開とこの条件において、オジュウチョウサン相手に3馬身差は胸を張って良い内容であろう。この馬もまたチャンピオンの座を狙える器であることはもはや疑いようがなく、なんとかこれからも無事に行ってほしい。昨年の中山大障害の2着馬ブライトクォーツは太め残りで惨敗した阪神スプリングジャンプから大きく馬体を絞ってきていように、ここ一番に向けて万全の仕上げであったようだ。しかしいくらなんでもこの不良馬場において、向こう正面からオジュウチョウサンを目掛けて早すぎるタイミングで一気に脚を使いすぎたところがあり、最後は大きく失速したのは仕方がない結果である。西谷騎手はどうにも大障害というと向こう正面から積極的に動くところがあるのだが、ここまでの馬の性能や今回の馬場状態を考えるとあまり賢い仕掛けとは思えない。他の馬がトライして行かなかったのでオジュウチョウサンに並んで行ったとは騎手の弁だが、その戦法で今まで悉く同馬に跳ね返されているのは理解しているのだろうか。

メドウラークは積極的に飛ばすも、向こう正面から抵抗できず失速。競争中止に終わったが診断は右前肢跛行ということで、大事に至らなかったのは何よりである。重馬場でもある程度対応の出来る重いストライドを持った馬だが(むしろ平地ではどうしても瞬間的な加速力の面では見劣るため、馬場はある程度渋った方がプラスである)、このような瞬間的なスピードよりはスピードの持続性能が活きるマラソンレースにおいては、やはり本質的な馬体性能に基づくと良馬場でやりたかった。もっとも、この馬のストライドの持続性能を活かすレース運びとして、スタートからじわりと加速を掛けて行きつつそのまま緩めずに引っ張った北沢騎手の騎乗は決して間違いではなく、またこの馬が大舞台でレースを引っ張るところを見てみたいと思わせる勇気ある健闘であった。昨年の中山大障害の勝ち馬シングンマイケルは好位から積極的にオジュウチョウサンを追いかけるも、最終障害で落馬に終わった。4コーナーですでに何か異常を察知していたらしく金子騎手が馬を追うのをやめて外に出そうと試みているのだが、馬が最終障害の飛越を試みたらしく、結果的には残念な事故が発生してしまった。まだ6歳と若い馬で、高い飛越技術と強靭な持久力という障害馬としては非常に高いポテンシャルを持っており、これから長年に渡っての障害界での活躍が楽しみであったのだが、とにかく残念という言葉しか出てこない結果である。不良馬場や北沢騎手の積極策、集結した豪華メンバーもあり、近年稀に見る素晴らしい消耗戦であったのだが、最後の最後で残念な事故が起きてしまった。なお、セガールフォンテンは大生垣での落馬であったが、右後肢跛行ということで幸い大事には至らなかったようだ。

 

4/19(日)

Racing.com Park Syn (Pakenham) (AUS) Good3

〇 Ecycle Solutions 1JW Hurdle 3200m (Replay)

1. Runaway J: Shane Jackson T: Gai Waterhouse & Adrian Bott

終始先頭を走ったRunawayがそのまま圧勝。これでHurdleは2戦2勝とした。1JW Hurdleということで未勝利馬ばかりでさほどメンバーは揃っていなかったとはいえ、70kgを背負っての快勝は今後が楽しみになるものだろう。飛越に関しては非常に低く安定したものを見せており、特段問題になりそうなミスは見られなかった。

 

Ecycle Solutions MJ Bourke Hurdle 3200m (Replay)

1. Ancient King J: Clayton Douglas T: David Brideoake

2. Robbie's Star J: Thomas Sadler T: Peter Chow

3. Gobstopper J: Darryl Horner T: Eric Musgrove

4. Bit of a Lad J: Steven Pateman T: Ciaron Maher & David Eustace

7. Northern Voyage J: Shane Jackson T: Gai Waterhouse & Adrian Bott

Northern Voyageが前半から積極的に引っ張る展開も、残り3障害辺りから好位にいたGobstopperが接近。しかしさらに後方から忍び寄ってきたAncient Kingが抜け出すと、さらに後ろから来たRobbie's Starを抑えて勝利した。Ancient Kingはこのレースの2017年の勝ち馬で、同年にはGrand National Hurdleの勝利もある。しかし2018年はどうにも勝ち切れず、2019年は主に平地を走っており、これが久しぶりのHurdle参戦であった。小さな馬だけに斤量の影響は大きく、この勝利による斤量増は懸念材料であり、さらに今回は前半からNorthern Voyageが飛ばし過ぎたことで展開の助けもあったような印象もあるのだが、とりあえず馬の状態は良いと考えていいだろう。昨年のJJ Houlahan HurdleでAblazeの3着のあるRobbie's Starが2着。元ニュージーランド調教馬のGobstopperは積極的な競馬で3着まで来た。内容的には最も評価できる走りを見せたのがこの馬である。トップハンデのBit of a Ladはやや久々のHurdle参戦だったが、前半から好位につけて踏ん張った。Steeplechaseでは最近頭打ち気味になっているが、これが何かきっかけになればよいのだが。Northern Voyageは人気を背負っていたが、大いに失速して大敗。さすがに飛ばし過ぎだろう。

 

〇 Ecycle Solutions BM120 Chase 3200m (Replay)

1. Euroman J: Steven Pateman T: Ciaron Maher & David Eustace

2. The Dominator J: Thomas Sadler T: Henry Dwyer

前半から人気のThe Dominatorが飛ばす展開だが、残り2障害辺りから進出してきたEuromanがThe Dominatorとの叩き合いを制して勝利した。EuromanはHurdleではGrand National Hurdleの3着もある馬だが、どうにも詰めが甘く勝ち切れないレースが続いており、これがSteeplechase初参戦であった。前半から着地でふらついて他の馬にぶつかる場面があったり、最終障害でも着地が覚束なかったりと怪しい部分は多かったのだが、それでも勝ち切る辺りはやはり能力は高いのだろう。2018年にこのクラスの勝利のあるThe Dominatorは惜しい2着。

 

J.E.H Spencer Memorial Chase 3500m (Replay)

1. Felix Bay J: Lee Horner T: Amy McDonald

2. Getting Leggie J: Thomas Sadler T: Nick Smart

3. Excellent Rhythm J: Tom Ryan T: Rachael Cunningham

6. Zed Em J: Steven Pateman T: Patrick Payne

例によってExcellent Rhythmが大逃げを見せるも、2周目から馬群は密集。残り3障害辺りから一気にペースアップすると、後方から捲ってきたFelix Bayが前をまとめて捲り切り、そのままGetting Leggieを突き放して勝利した。Felix Bayは2018年のSA Grand National Steeplechaseの勝ち馬だが、その後はHurdleを中心に使われており、これが久々のSteeplechaseであった。Excellent Rhythmはやや特殊なラップ推移を作りだすタイプの馬で、残り3障害辺りからの機動力勝負となったという面もあるのだが、Felix Bayとしては今シーズンの活躍が楽しみになる走りだろう。Getting Leggieは人気薄であったが好位から運んで2着まで残った。Excellent Rhythmは自身のレースはしたのだが、やはり前半はできればゆったりと運びつつ、後半からロングスパートを掛けるような展開に持ち込みたかった。Zed Emは前走平地を勝利して調子の良さを見せていたのだが、好位から全く動けずに大敗に終わった。この良馬場に機動力勝負となると、さすがに72.5kgを背負っては荷が重かったようだ。

 

福島(日本)不良

〇 障害4歳以上未勝利 2750m

1. ラフレシアレディ J: 草野太郎 T: 畠山吉宏

2. ジョーカーワイルド J: 小野寺祐太 T: 浅野洋一郎

5. オウケンブラック J: 五十嵐雄祐 T: 田中剛

好位から進めたラフレシアレディが追いかけてきたジョーカーワイルドを凌いで勝利した。ラフレシアレディは2戦連続の障害未勝利2着にピリオドを打つ勝利であり、さすがに立ち回りの上手さという点では一日の長があったようだが、平地では全くいいところがなかった馬で、走法を見ても前脚を投げ出すような硬い走りは現代日本競馬のスピードには対応することが困難であることが想定される。今回は重い馬場が味方したように見えるが、やはり上のクラスのスピードへの対応力には疑問が残る。平地では重賞にも出走経験のあるオウケンブラックはこれが初障害であったが、好位から動ききれず5着に終わった。

 

〇 障害4歳以上未勝利 2750m

1. オブリゲーション J: 小坂忠士 T: 奥村豊

グリーンウォールの辺りから先頭に立ったオブリゲーションが軽快に逃げると、最後は後続に2秒ほどの差をつける圧勝。オブリゲーションは障害初戦の前走は暴走気味の大逃げで大敗していたが、今回は前半我慢をさせたことで何とか最後まで走れたといった内容。ただし飛越は全体的に低くミスも認められており、最後は脚が上がり気味であったこと、勝ち時計としても直前のレースとさほど変わらないことを考えると、着差程立派なものではないだろう。ある程度我慢ができれば上のクラスでも戦うだけの能力を持った馬と思われるが、どこまで気性的な成長が見られるだろうか。

 

その他

Remember that recovery? Mullins pays tribute after the retirement of Killultagh Vic (Racing Post)

LeopardstownでのRuby Walshの驚異的なリカバリーで一躍有名になったKillultagh Vicが引退することになったらしい。どうにも最後まで飛越が覚束なかったのだが、どうやら故障に悩まされていた経緯があるようで、持っている能力を考えればもっと大きいところを狙えた馬だろう。

Historic fifth Grand Jump for world's highest earning jumper Oju Chosan (Racing Post)

オジュウチョウサンに関するレーポスの記事。内容はわりとしょぼい。