にげうまメモ

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20/10/11 Czech Racing - Velká Pardubická Result

*Pardubice (CZE) Stav dráhy: 3.6 (dobrá)

130. Velká Pardubická se Slavia pojišťovnou

Steeplechase Cross Country Listed - 6yo+ - 6900 m - 3,000,000 Kč (Result)

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写真は当然昨年のもの。写真は比較的のんびりとしたエリアなので競馬場の熱気が分かりにくいのだが、パドックの向こう側は人であふれている。来年はこのような熱気のある光景が戻って来ることを願いたい。英語実況によるレース映像はこちらチェコ語でも慣れるとなんとなく言っていることはわかるのだが、ひとまずなにが起こっているのかわからないという方には英語実況の方がいいかもしれない。当然日本語実況はない。グリーンチャンネルも障害競馬に焦点を当てた番組などを制作し、このレースの特集でも作ってくれないものだろうか。馬券を売り出してくれてもいいぞ。

 

 

ラジオでもそれなりに話したVelká Pardubická。聞いてくださった方、感想をくださった方には頭が上がらない。ただし、比較的初心者向けに噛み砕いた内容にしたつもりなのだが、(わたしが観測した限り)やはりVelká Pardubickáのような海外障害競馬に対して関心を持つのは日頃から海外競馬に関心の高い層であり、日本障害競馬ファンの関心が低いことは残念であった。海外競馬に触れる機会は十数年前から比べると劇的に改善しており、海外競馬に関する情報も容易に入手可能なため、関心を惹起する機会は幾らでも存在することを踏まえると、そもそも関心がない層に関心を惹起するアプローチはそろそろレッドオーシャンと化しているのかもしれない。須田鷹雄氏が話していたように、海外競馬界隈においては今後は初心者を中級者へと引き上げるアプローチの重要性が増加するように感じる。もっとも、わたしはただのファンなので知ったことではないのだが。

チェコ国内においては最近になって新型コロナウイルス感染症患者が急激に増加しており、9月30日に緊急事態宣言が発令されている。Velká Pardubickáの開催も危ぶまれていたのだが、無観客開催ではあったもののなんとか開催に漕ぎ着けることができたことは不幸中の幸いといったところだろう。

レースは昨年の勝ち馬Theophilos、上り馬Sottoventoが人気を集めていたが、全体的に混戦模様というのが概ねの評であった。一昨年の勝ち馬Tzigane Du Berlais、一昨年3着・昨年2着のStrettonなどが次点といった下馬評であった。チェコ国外からの参戦馬はスロバキア調教馬のVandualのみで、当初登録のあったフランスのUrgent De Gregain、アイルランドのOut Samなどは出走取り消しとなった。もっとも、Out SamのGordon Elliott調教師はこのレースに参戦することに対して関心を持っているようなコメントも出しており、コロナウイルス感染症が落ち着くのであれば来年以降はなにかしら同調教師の管理馬をここで見ることができるかもしれない。さすがにTiger Rollは来ないと思うが。

ひとまずスタート直後からStretton、Hegnus、Playerなどが出てくる展開。Velký Taxisův příkopにてNo Time To Lose、Sottoventoの2頭が落馬。さらにIrská laviceにおいて後方にいたAll Scaterが落馬。女性騎手としては6年ぶりにVelká Pardubickáに騎乗することになったVeronika Škvařilová-Řezáčováの夢はここで終わってしまった。さらにPopkovický skokにてイタリア産馬Catch Lifeも落馬。逃げるのはStrettonとVandual、好位からPlayer、Hegnusなど。Theophilosは中段から。Tzigane Du Berlais、Talent、Lodgian Whistleは後方から進める。Malé zahrádkyの辺りからペースが緩み、馬群は密集。Tzigane Du Berlaisは最後方でもたもたと走り、Jan Faltejsekという人がそれなりに馬を押して進めていく。おそらくCatch Lifeと思われる空馬が馬群の前を横切るアクシデントがあるも、唯一先頭を走っていたStrettonが若干の不利を受けただけで回避。Prodloužený taxisův příkopの辺りからじわじわと上がってきたLodgian Whistleが先頭に並んでいき、Vandualを交わしてレースを引っ張る形になる。Poplerův skokにて中段にいたMazhilisが躓くアクシデント。Drop、 Kamenná zeď、Hadí příkopと特段のアクシデントなくレースは進行。昨年はここの急カーブで転倒したPlayerも無事にクリア。Velký vodní příkopの手前辺りから好位にいたPlayerが進出し、Malý Taxisův příkopの手前で一瞬減速したLodgian Whistleを交わして先頭へ。好位からLodgian Whistle、Vandual、Mazhilisなど。Theophilosは最下位まで後退。この辺りからVandualが馬を促してPlayerに並んで行き、2頭で仲良くレースを引っ張る形となる。Živý plotの手前で後方で手応えが怪しくなっていたMahonyは途中棄権。途中棄権した馬や落馬した騎手が悔しがっているのを大写しにするのがこの中継の特徴である。Velký anglický skokの辺りからPlayerとVandualがやや後続を引き離す。やや遅れてHegnusが進出。Steeplechase Courseに入る手前辺りからVandualが先頭に立ち、Playerがこれを追いかける。さらに進出してきたHegnusが内に突っ込んでいくが、最終コーナーのところで一旦スペースがなくなり切り返す不利を受ける。Vandualが先頭で最終障害を越えるも、内から再度伸びてきたHegnusが追いすがるPlayer、Vandual、さらに後方からするすると上がってきていたTalentを抑えて勝利した。遅れた5着にはTzigane Du Berlaisが入った。Theophilos、Strettonなどはさらに大きく遅れた。

今年の馬場状態は 3.6 (dobrá)であり、昨年の3.5 (dobrá)とさほど変わらない。一方で、昨年の勝ち時計は9.28.76であるものの、今年は9.22.99と、やや勝ち時計は早く計測されている。昨年までは前半から早いテンポで引っ張るタイプであるBridgeurがいたためにどこかで大きくレースが緩むことなく終盤にタイムロスの生じる消耗戦に持ち込まれているのだが、今年は不在であったためにPopkovický skokの直後からペースが緩み、ここからダラダラとペースが上がるレースとなっている。特に終盤の1マイルに掛けてのペースアップが顕著であり、このペースアップについて行けないタイプの馬は勝負に加わることが出来ず、先頭集団から遅れるという結果に至った。

12歳のHegnusはこのレースは3回目の参戦、2016年は5着、2018年は2着と頑張っており、3度目の正直での戴冠となった。特にここ3年ほどは一度も連を外さない堅実振りを見せており、ここでも好位からの安定したレース運びが目立った。どのような展開でも対応してきっちりと形を作ってくるレース運びはやはり障害馬としての総合的な能力が高い馬のそれであり、12歳となった今年においてもその能力に衰えはない。飛越に関しても一切のミスが見られず、熟練した技術を見せてくれた。2018年においてTzigane Du Berlaisの爆発力に敗れたように強力な決め手があるようなタイプではないのだが、障害馬としての総合的な能力という意味ではここでは一枚上手であった。最終コーナーで一度前をカットされる不利を受けており、着差以上の完勝といっていいだろう。ポーランド産馬Magnusの産駒であるが、このような比較的マイナーな血統からもここまで完成度の高い障害馬が現れることは、やはり平地競争と比べて遥かに後天的要因の大きい障害競馬ならではの魅力であろう。既にかなり高齢のため現役続行の有無は不明だが、来年もまたその走りをこの舞台で見てみたい一頭である。

2着はやや格下と思われていたPlayerが入った。前走こそSteeplechaseのスピード能力に秀でたMustamirに敗れてはいるのだが、Cena města Pardubic – EURO EQUUS – I. kvalifikace na 130. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnou (Stcc NL)でも3着に入っているようにここでも実力上位であり、前半から前目で運ぶことでペースを掴んでいくMarcel Novákの積極的な騎乗もあり、前評判を覆す2着に入った。本来の能力を考えればこのくらい走れてもおかしくない馬で、今回は騎手の好騎乗もあったものの、レース運びの巧さも身につけることが出来れば勝ち切るまであってもおかしくはない。今回の騎乗はこの馬の新たな可能性を引き出すものであった。8歳とまだ若い馬であり、来年以降の活躍に期待したい。驚きであったのが12歳のスロバキア調教馬Vandualである。本来実績的にはここでは明らかに格下であり、年齢的にも完走することが勲章といった立ち位置、さらに鞍上のフランスのRomain Julliot騎手はPardubice競馬場に対する経験に乏しく、はっきり言えば強調材料は見いだせない一頭であった。しかし、勝負所から積極的に前に出て行き、さらに最終コーナーでは先頭で回ってくるなど、あわやのシーンまで作りだした。少しずつ全体がペースアップしていく中、Pardubice競馬場のCross Countryにおける勝負所から積極的に仕掛けていく騎乗は、Pardubice競馬場のCross Countryの勘所を相当に研究してきたとしか思えない。距離も展開も味方につけての大激走であった。最後は勝ち馬の瞬発力に屈しての3着だが、もしこの馬が勝っていたらどのようなドラマが生まれていたのだろうか。後方から押し上げてきたTalentも見せ場を作った。前半こそゆったりと構えていたのだが、ペースが緩んだところですっとポジションを押し上げるPavel Složil ml.騎手の騎乗は見事であった。この馬自身、昨年のような消耗戦よりはこのような展開の方が合うのだろう。

その他。5着のTzigane Du Berlaisは最後脚を伸ばしていたのだが、前半からもたもたと走っており、近走見せていたようにかなりズブさが出てきているように見える。おそらく距離延長ということで見直されての前評判であったと思われるが、さすがにもう少し馬がやる気にならないと厳しいだろう。また、どちらかというとある程度ペースが流れて強引に馬群について行く必要が生じる消耗戦の方がこの馬向きであった。一昨年に見せたように、Poliglote由来の伸びのあるストライドは距離が伸びたときの強靭な武器になり得るのだが、近走の課題を克服できない残念なパフォーマンスであった。期待されたStrettonは大きく遅れて8着。前半から前目につけておりこの馬の競馬を試みているのだが、徐々に先頭集団から遅れて行き大敗に終わった。この馬も決め手に秀でたタイプというよりは消耗戦向きの馬だろう。連覇を狙ったTheophilosはさっぱり走らず9着。この馬に関しては展開云々というよりも、ここ2戦は妙に馬が動かな過ぎることの方が心配である。本来3000メートルクラスのスピードにも対応できるほどの馬であり、ここまで道中何もできないとやや馬の状態が不安である。上り馬として期待されたLodgian Whistleはペースが緩んだところでポジションを取りに行く積極的な競馬を見せたが、途中からフェードアウトし大敗に終わった。さすがにこれは距離だろう。Mazhilisも好位から進めたが大敗に終わった。消耗戦向きのこの馬にとっては展開も向かなかったが、それよりはそろそろ年齢的なものが出ているように感じる。飛越にも何度かミスがあったが、MeranoのSteeplechaseで戦ってきた馬があれくらいのミスで動じるはずがない。No Time To Loseは勿体ない落馬。上り馬Sottoventoも期待されていたが、Velký Taxisův příkopにおいて踏み切り位置が遠すぎたため、空壕に引っ掛かる形での落馬に終わった。残念ながら落馬により亡くなったということで、2年連続で残念な事故が起きてしまった。