にげうまメモ

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21/02/07 中山グランドジャンプ予備登録馬

*2021 中山グランドジャンプ (G1) 予備登録馬

今年の4月17日(土)に予定されている中山グランドジャンプに、フランスからTenerife Sea(テネリフェシー)の予備登録があった。同レースはかつては国際招待競走として行われており、2000年代前半を中心にKarasiやSt Stevenを始めとする多数の海外調教馬を集めていたが、2013年のアイルランドのBlackstairmountainを最後に海外調教馬の参戦はなく、予備登録があるのも2016年におけるアイルランドのArctic Fire、Dicosimo及びYelix Yonger、並びにオーストラリアのUrban Explorer、Thubiaan以来となる。以下はJRAの海外向けの中山グランドジャンプの紹介ページとなる。

 

<French Challengers>

中山グランドジャンプの海外からの挑戦馬の詳細については以下のサイトで。

Oversea Challengers - worldjumpfan ページ!

フランスからの挑戦馬として再先着を果たしたのが2000年のBoca Bocaであり(2着)、当時勢いのあったFrançois Doumen調教師の管理馬である。ただしそれ以外にはフランス調教馬として中山グランドジャンプで好走した例はなく、2002年のTy Benjam、Dom Lypard、2003年のEscort Boy、Tiger Groom、2004年のOway、Neriette、2005年のSphinx Du Berlaisはいずれも大敗に終わり、2008年に中山グランドジャンプに何度か参戦したJacques Ortet調教師が送り込んできたAlarm Call(6着)を最後に、フランスからの参戦はない。

 

<Horse>

TENERIFE SEA (FR) ch. M, 2014

https://www.pedigreequery.com/tenerife+sea

https://www.france-galop.com/fr/cheval/NldQSDhaUXoxL2FQekNtRzRUZE1hQT09

NasrullahからKalamounを経てHighest Honoerに連なる父No Risk At Allは、現役時代は La Coup (G3)及びGrand Prix De Vichy (G3)勝ちがあるほか、Prix D'Ispahan (G1)の3着がある程度の実績であり、平地競争馬としてはさほど目立つものではない。しかし種牡馬としてはフランス国内においてなかなかに人気のようで、ifceのデータベースを当たると2020年は136頭に種付けを行っている。その代表産駒は、何と言っても2020年のChampion Hurdle (G1)を含む障害G1を3勝し、イギリス16f Hurdle路線において現時点で最強馬と目されているEpatanteであろう。それ以外にもアイルランドにてIrish Daily Mirror Novice Hurdle (G1)の2着を始めG1競走で複数の好走歴のあるAllahoが挙げられる。さらにフランスでもPrix Hopper (G3)を勝利したRoyale Maria Has、Grande Course de Haies de Compiegne (G3)勝ちのあるHighway To Hell、一時はスウェーデンで走るもその後フランスに戻りGrand Prix De Pau (G3)を勝利し、2021年のGrand Nationalにも登録のあるAjas等、イギリス・アイルランド・フランス障害競走にて数多くの活躍馬を送り出している。加えて、フランスではAQPSを対象とした平地競争であるPrix De Craon (G1)及びPrix Jacques De Vienne (G1)を勝利したGannatも代表的な産駒であり、同馬は昨年の11月にAngersのNational Hunt Flatにて15馬身差の圧勝を見せ、今後の障害馬としてのキャリアが楽しみである。フランス生産馬の主要な輸出先であるイタリア・チェコ障害競走でも活躍馬は多く、2020年のPremio Steeplechase D'Italia (G2)他重賞を4勝し、ここまで9戦8勝と目覚ましい活躍を挙げている期待馬First of All、Cena Kudy z nudy – Cena ČASCH (Stcc NL)を最低人気で逃げ切ったShentを送り出している。現時点で種牡馬としての経歴はさほど長くはなく、最高齢の産駒でも7歳であり、従ってどうしても24fを越える長距離戦におけるステイヤー資質については未知数なのだが、Epatante、Allaho、First of Allといい、ここまでは全体的に豊富なスピードを武器にした産駒が目立っている。なお、前述のAllahoは実績があるのは24fであるが、今年のHorse & Jockeys Hotel Chase (G2)を見ると20f程度の方がよさそうな印象もある。

・2020 Champion Hurdle (G1) Epatante

https://www.youtube.com/watch?v=Ko_SBGxSL4s

・2021 Horse & Jockeys Hotel Chase (G2) Allaho

https://www.youtube.com/watch?v=cjlr-VAgl6k

・2020 Piero E Franco Richard (G3) First of All

http://webtv.awsteleippica.com/index.php/video/76797/corsa-04-galoppo-merano-300820#

・2019 Cena Kudy z nudy – Cena ČASCH (Stcc NL) Shent

https://www.youtube.com/watch?v=CKctseJrrKA

Tenerife Seaの母Giallaは古くからフランスに連なる牝系の出身で、大レースでの勝ち星はないものの2000メートル前後の平地競争で37戦6勝と長く頑張ってきた馬のようだ。産駒としてはTenerife Seaが代表産駒であり、それ以外に平地競争で計10勝を挙げたLe Feu Du Cielが挙げられるものの、それ以外に障害競走で活躍した産駒としてはAgenのCross Countryを1勝したHey Arriba程度に留まっている。

 

Tenerife Seaの経歴は、以下の同馬がGrande Course de Haies de Cagnes (Listed)を勝利した際のニュースに詳しく記載されている。

https://www.france-sire.com/article-actualites-26758-tenerife_sea_la_loire_atlantique_s_exporte_jusque_sur_la_riviera.php

Tenerife Seaは7歳牝馬。ここまで平地・障害を合わせると18戦6勝。障害はHaiesで12戦4勝、Steeplechaseは4戦2勝という成績を挙げている。セリで8000ユーロで取引されたのち、フランス生産馬を対象とした平地ダート2400メートルの未勝利戦にてデビュー(5着)。翌月には3歳牝馬を対象としたCagnes-Sur-MerのHaiesの未出走戦に出走すると(3着)、その後はHaiesで続戦し、2周目から思いっきり後続を突き放したはいいもののさすがに早仕掛けだったのか最後脚が上がったCagnes-Sur-MerのPrix De Cambridge、Tres Lourd (5.3)という極端な不良馬場に苦労し、途中の大きなミスで完全にリズムを崩して試合終了したPrix John Cunningtonを除くと、やや馬に行きたがるところがあるのか積極的に馬群の前で運ぶ戦法で安定したレースを続けていたが、ようやくHaies6戦目のChateaubriant競馬場にて初勝利を挙げた。このレースも積極的に前半からレースを引っ張り、食らいついてきたJulianosを抑えるというレースであった。この直後にイタリアMeranoの4歳限定戦であるCorsa Siepi Dei 4 Anni (G2)に遠征するも、スタート地点で滑って転倒し競争中止という残念な結果に終わった。ちなみにこのレースを勝利したのは、のちにGran Corsa Siepi Di Merano (G1)、Gran Corsa Siepi D'Italia (G1)を制覇することになるチェコの名馬Stukeであり、2着には後にGran Corsa Siepi Di Milano (G1)を制覇するイタリアのLive Your Life、さらに3着には後にWielka Partynicka等の勝利のあるポーランド最強馬Haad Rinが入るなど、振り返ってみればイタリア・チェコポーランドにおける名馬が揃う好レースであり、Tenerife Seaの実力を測る上でこの落馬は悔やまれる結果となってしまった。Tenerife Seaのフランス以外への遠征はここまでこのMeranoへの遠征のみである。

イタリアからの帰国後はSteeplechaseに参戦し、Cagnes-Sur-Merの4歳限定Handicap競走に出走、69kgとそれなりに重い斤量を背負って3着に入る。このレースではHaiesで単純なミスもあったのだが、Cagnes-Sur-MerのSteeplechaseは平坦なコースで比較的障害の難易度も低く、スピードが要求されることからこの馬には合っていたようだ。続くCagnes-Sur-MerのHandicap Steeplechaseも3着、2019年1月にCagnes-Sur-Mer競馬場で行われた、2018年12月以降にSteeplechaseで勝利を挙げていない5歳馬限定競走(Prix Des Iles De Lerins)でSteeplechase初勝利を挙げた。このレースでもやや引っかかり気味に逃げ、Double Barrierで大きなミスがあるも、接近してきたEminence Rougeとの叩き合いを制し、最後接近してきたPomone Du Berlaisを退けるというレースであった。ちなみにこのレースで派手に落馬しているBerjouはその後Grande Course De Haies D'Auteuil (G1)にてアイルランドの名牝Benie Des Dieuxの3着に入る実力馬である。

その後はそのままSteeplechaseを使い続けるのではなくHaiesに戻し、Fontainebleau競馬場における5歳牝馬を対象としたPrix Spumate (Listed)にて、65kgの軽ハンデではあったものの勝利を挙げる。ここでは全体的に先行争いが激化し隊列が長くなるところ、この馬もご多分に漏れず先行争いに参加し、第3障害辺りから元気一杯先頭を走り、一時は後続に10馬身ほどをつける大逃げを打っての勝利であった。2019年の春にはAuteuilの重賞競走にも参戦し、4~5歳牝馬を対象としたPrix D'Arles (Listed)、さらにPrix Christian De Tredern (G3)にて、いずれも派手な大逃げを打つも最後捕まり4着に終わった。特にPrix Christian De Tredern (G3)は実に派手な大逃げを打ち、最終障害を越えた時点でも後続に大きなリードをつけている(ただし脚は上がっている)という、なかなかに個性的なレースを見せている。

・Prix d'Arles (Listed)の映像リンク

https://www.canalturf.com/videos-courses/23415_video-du-prix-d-arles.html*1

・Prix Christian De Tredern (G3)の映像リンク

https://twitter.com/equidia/status/1141705678614147073

その後詳細な経緯は不明だが、1年半ほどの休養を経て2020年の12月にCagnes-Sur-MerのSteeplechase条件戦(Prix Roger Duchene)で復帰し、ここは例によって元気よく逃げるレース運びで快勝。続くHaiesのHandicap競走(Prix De La Promenade Des Anglais)もやはり後続に10馬身ほどのリードをつけて元気に前に行くレース運びで、終わってみれば10馬身差の圧勝。馬場がLourd (4.8)と悪化したPrix Du Breilは5着に大敗したが、2021年のGrande Course De Haies De Cagnes (Listed)ではCapivari以下を抑える勝利を挙げている。このレースではこれまでとは打って変わって、後方から馬群の中で抑える競走を試みており、道中やや行きたがるような仕草を見せる場面はあったものの、残り3障害辺りから進出、内を回って出てきたCapivariを抑えるという、この馬としては新しい面を見せるレースであった。なお2着のCapivariは現在はJosef Vana Jr厩舎に所属するチェコ調教馬だが、以前はフランスでPrix Renaud Du Vivier (G1)を勝利した実績もある実力馬である。昨年はPrahaにてZlatý pohár Elektrizace železnic Praha (Proutky I. kat)の勝利があるほか、イタリアでもGrande Steeplechase di Milano (G1)の3着もあり、主にイタリアSiepiでは現時点でトップクラスで戦える実力を持った一頭である。

・Grande Course De Haies De Cagnes (Listed)の映像リンク

https://twitter.com/equidia/status/1348236284620374016

 

上記のキャリアを総合すると、実力的にはイタリアSiepiであればG1クラスで好走が期待される一方で、フランスHaiesに関してはListed~G3クラスの能力といった立ち位置であると思われる。

馬の能力としては、瞬間的なスピード能力の高さよりも、No Risk At All産駒の良いところであるフランス馬らしいスピードの持続性能の高さを生かした航行性能を武器に戦ってきた印象がある。極端な不良馬場は不得手とするようだが、基本的には冬場のCagnes-Sur-Mer競馬場での実績が多く、日本競馬にありがちな極端に早い時計の出やすい良馬場への適性は不明である。距離適性としては、同馬はここまで3000メートルクラスの競争を主に使ってきたのだが、昨年からは4000メートルクラスのレースでも好走しており、特にGrande Course de Haies de Cagnesにて4300メートルの距離を克服したことは大きい。さらに、以前は行きたがる気性もあってか後続を大きく突き放した逃げを打つ派手な戦術が基本であったが、上記のGrande Course de Haies de Cagnes (Listed)では馬群の中で控える競馬を成功させており、戦術の幅が広がっていることは好材料だろう。ただし、この馬の航行性能の高さを生かすことを考えると、前目で運びつつロングスパートを掛けるような戦法が基本となると思われる。COVID-19の影響で外国人騎手が来日しにくい状況ではあるが、やはり日本人騎手との技術の違いを考えると、フランス人騎手、特に主戦騎手Christopher Couillaudを確保したいところである。

障害飛越技術についてはさすがにフランス馬らしいしっかりとした技術を持っているようだが、全体的に飛越は低く、Steeplechaseでの実績があるとは言っても基本的にはHaiesタイプの馬だろう。SteeplechaseとしてはCagnes-Sur-Merのみの実績であり、同競馬場の障害は比較的で平易でスピードが生きるコースであるため、いわゆるAuteuilのSteeplechaseのような難易度の高い障害に対する技術は未知数である。もっとも、中山の障害はフランスSteeplechaseと比べると平易であり、Cagnes-Sur-MerのSteeplechaseに対応できれば障害飛越技術としては十分だろう。ただし、ここまで比較的平坦な競馬場での実績が多く、中山のアップダウンのあるコースへの適性は未知数である。

 

<Jockey>

・Christopher Couillaud

https://www.france-galop.com/fr/jockey/bFJhSTUxQ1lmYVZwem5Ub1I2cEFJdz09

Tenerife Seaの主戦はほぼChristopher Couillaudが務めており、初勝利を挙げたPrix Djarvisを除く5勝は全てChristopher Couillaudとのコンビである。フランスNantes出身の障害騎手であるChristopher Couillaud自身は、France Galopでは1994年からデータがあるのだが、2020年は年間5勝を挙げリーディング95位、2019年は14勝をあげリーディング51位となっており、近年は概ね年間10勝程度を挙げているようだ。自身のfacebookアカウントのアイコンをTenerife Seaにしていたように、近年はTenerife Seaが代表的な騎乗馬である。Tenerife Seaを管理するPierre-Jean Fertillet調教師にとってはChristopher Couillaudは主戦騎手である。

 

<Trainer>

・Pierre-Jean Fertillet

https://www.france-galop.com/fr/entraineur/VXRMS2ljcko2dCsrc1Y0WE9kTWEzQT09

Pierre Fertillet調教師に関しては以下の記事が詳しい。同記事ではDom Lyphardと並んでいる子供時代のPierre Fertillet調教師の写真が掲載されている。

https://www.equidia.fr/articles/actualite/nakayama-grand-jump-un-nouveau-defi-pour-tenerife-sea

Pierre Fertillet調教師は、2002年の中山グランドジャンプにDom Lyphard(8着)を送り込んだYannick Fertilletの息子である。2015年から調教師として活動しているようで、Tenerife Seaの他には他にもAuteuilのPrix Cnews (Listed)勝ちのあるMyboy、ベルギーWaregemで勝利を挙げ、2018年のGran Corsa Siepi Di Merano (G1)にも参戦したCross Wayが管理馬として挙げられるが、やはりTenerife Seaが代表的な活躍馬だろう。管理馬の数はおそらく多くはないと思われるが、比較的ベルギー、イタリアへの遠征も積極的に行っている。なお同調教師はホームページも作っているがあまりコンテンツはなく、むしろfacebookの方が比較的コンテンツは充実している。

*1:Youtubeにも動画は上がっているのだが、限定公開になっているので念のため。なお、France Galopにおいてレース映像の視聴が可能である。アカウント登録が必要だが、登録は無料で何かと有用なので、アカウントをお持ちでない場合はアカウントを作成しておくことを推奨する。