にげうまメモ

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21/03/17 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

Cheltenham Good to Soft

Cheltenham Festival2日目。Ladies' Dayということで本来であれば着飾ったマダムが競馬場を練り歩き、競馬場全体が華やかな雰囲気に包まれる一日なのだが、残念ながら今年は無観客開催ということでそのような光景も見られないこととなった。

 

Ballymore Novices' Hurdle (G1) 2m5f (Replay)

1. Bob Olinger J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

レースはBravemansgameが引っ張る展開。これを追いかけてBear Ghylls、Gaillard Du Mesnil。Bob Olingerはその後ろから。残り2障害の下り坂からBob Olingerが馬群を縫って上がってくると、内から抜けてきたGaillard Du Mesnilを7馬身突き放して快勝した。

Rachael Blackmoreは今年のCheltenham Festivalでは初日にいきなりHoneysuckleで歴史的な勝利を挙げているのだが、それに引き続いての素晴らしい騎乗を見せた。Cheltenhamの最終コーナー手前の下り坂の時点でBob Olingerの前にBear Ghyllsがいるのだが、この時点でBear Ghyllsはそろそろ苦しくなってきており、Bob Olingerにとって相手すべきは逃げるBravemansgameと内で不気味に息をひそめるGaillard Du Mesnilである。ここでRachael Blackmoreは迷わずBear Ghyllsの内を選択してBravemansgameに馬体を寄せ、Bravemansgameにプレッシャーを掛けるとともにGaillard Du Mesnilをブロックすることに成功している。実際にBear GhyllsのMatt Griffiths騎手は内から抜けてきたBob Olingerをブロックしに行くのだが、既に馬にはそこまでの余力はなく、Bob Olingerに抜け出しを許している。結果的に下り坂を最短距離で駆け抜けて加速に成功するとともに、内にいた有力馬を封じ込めている。Rachael Blackmoreというとアイルランドで活躍する女性障害騎手として注目されるのだが、それ以上にその卓越した騎乗技術と戦術眼には感服すべきものを持っていることは特筆すべきだろう。

Bob Olinger自身もRachael Blackmoreの騎乗に応える素晴らしい走りを見せた。Lawlor's of Naas Novice Hurdle (G1)にて昨日のSupreme Novices’ Hurdle (G1)にて好走したBlue Lordを6馬身突き放した圧巻の走りはやはりさすがであり、ここまでHeavyでの実績が多かったものの、ここでは良馬場にうまく対応することもできた。対抗角と思われていたGaillard Du Mesnilは2着で、上述の通り下り坂での馬群の捌き方で失敗した感がある。この馬もやはりHeavyでの良績が多く、展開次第ではBob Olingerにさらに迫ることも可能だろう。NewburyのChallow Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬で、ここではイギリス代表格だったBravemansgameが3着で、Gaillard Du Mesnilに対してスムーズに立ち回ったものの、最後はそのGaillard Du Mesnilに対しても3馬身離れた3着というのはやや残念な内容であった。

 

Brown Advisory Novices' Chase (G1) 3m80y (Replay)

1. Monkfish J: Paul Townend T: Willie Mullins

例年RSA Chaseと呼ばれる競走なのだが、今年は名称が変わったようだ。レースは前半からMonkfishとThe Big Breakawayが並んで引っ張る展開。早々にEklat De Rireが落馬すると、ゆるゆると馬群に取りつきMonkfish辺りに絡んでいく。Monkfishは全体的に飛越にスムーズさを欠くも、残り3障害辺りから抜け出すと、直線では空馬に絡まれつつ最終障害でミスをするも、2着のFiddlerontheroofを6馬身突き放して勝利した。

MonkfishはこれでChaseは4戦4勝とした。Hurdleでは昨年のAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)を勝利し、ChaseでもここまでNeville Hotels Novice Chase (G1)、Flogas Novice Chase (G1)と危なげのない勝利を見せているアイルランドの非常に強力な期待馬である。ここではどうにも飛越のリズムが悪く、同じく飛越の怪しかったEklat De Rireが絡んできた上に同馬は空馬状態でも飛越にミスがあるというなかなかに難しい状況ではあるのだが、それでも後続を完封するのだから、その能力自体は数段上であったと考えなければならない。

最低人気ながら2着に突っ込んできたのがFiddlerontheroof。2020年のTolworth Hurdle (G1)の勝ち馬だが、その後Chaseに転向するもExeterのC3勝ちのみに留まり、重賞クラスではどうにも勝負所での加速が十分できずに勝ち切れないレースを続けていた。しかしここでは最後一頭Monkfishを追いかける走りを見せており、なんだかんだで相手なりに走るような馬という可能性もある。Monkfishと比較してスムーズな競馬を見せたのがThe Big Breakawayで、この馬自身Kauto Star Novices' Chase (G1)ではShane Blueの2着に入った実力馬である。これを完封するのだからMonkfishの実力は相当なものである。

 

Coral Cup Handicap Hurdle (G3) 2m5f (Replay)

1. Heaven Help Us J: Richard Condon T: Paul Hennessy

Cheltenham Festival恒例のHandicap Hurdle。毎年25頭近い出走馬を集めるのだが、今年も26頭立てと多数の出走馬を集めた。レースは前半から積極的にハナに行ったHeaven Help Usがそのまま後続を完封した。アイルランド調教馬の同馬は今年はChaseに挑戦していたが、Neville Hotels Novice Chase (G1)ではMonkfishから100馬身ほど離れた4着に終わっており、前走Paddy Mullins Mares Handicap Hurdle (Grade B)からHurdleに戻していた。ChaseではBeginners Chaseのみの勝ち星に留まったが、前走でも見せたようにスピードを活かした先行策がこの馬には合うのだろう。Conditional JockeyであるRichard Condon騎手の積極策も光った。後方からじわじわと差を詰めるも最終障害で落馬に終わったのがBlue Sariで、Champion BumperではEnvoi Allenの2着もあるのだが、ここまでHurdleでは未勝利勝ちのみに留まっており、故障や落馬の影響もあり実績を残せていなかった。最終障害で無念の落馬に終わったが、本来であれば持っている能力は一流のはずで、この馬の再度の挑戦に期待したい。

 

Queen Mother Champion Chase (G1) 1m7f199y (Replay)

1. Put The Kettle On J: Aidan Coleman T: Henry de Bromhead

本日のメインレース。残念ながら2018年、2019年の勝ち馬Altiorはノドの状態が宜しくないらしく回避、昨年の勝ち馬Politologueは鼻出血があったとのことで直前で取り消しとなったが、アイルランドの強豪Chacun Pour Soiを始め、この路線の実力馬が集まる豪華なメンバーとなった。前評判としてはアイルランドのChacun Pour Soiが抜けた人気を集めていた。

レースは前半からRouge Vif、Put The Kettle Onなどが前に行く展開。First Flowもこれに絡んで行こうと頑張るがついていけず後退。好位からChacun Pour Soi。Nube Negraは中段、Cilaos Emeryは後方から構える。残り3障害辺りから馬群は凝縮し、Put The Kettle Onが前に出るも、ここから内を立ち回ってChacun Pour Soiが先頭に。しかし最終障害を越え上り坂の辺りで再度Put The Kettle Onが先頭を奪い返すと、猛然と追いかけてきたNube Negraを抑えて勝利した。

Put The Kettle On自身は昨シーズンのArkle Challenge Trophy (G1)で穴をあけた馬で、今シーズンはShloer Chase (G2)を快勝するも、その後のPaddy's Rewards Club Chase (G1)ではChacun Pour Soiから8馬身遅れた3着に終わっており、ここでは人気を落としていた。しかしやはり走りを見ていると、Cheltenhamの起伏のあるコースでスピードを活かして先行させた際の破壊力は素晴らしいものを持っているようで、Aidan Coleman騎手の積極的な騎乗に応える見事なパフォーマンスを見せた。どうしても良馬場ということもあり馬群が密集して進行するのは仕方がないところなのだが、その中でも不利を受けずに好位で進めた騎乗はこの馬のスピードの持続性能を生かす上で最高の騎乗であった。

一方で、ロスの多い競馬となってしまったのが2着のNube Negra。今シーズンはKemptonのDesert Orchid Chase (G2)にて圧倒的人気を背負ったAltiorを圧倒する走りを見せており、同レースが単なるAltiorの不調で片付けられるものではないことを改めて示した。とにかく終始狭いところに入っており、ようやく前が空いて十分な加速を掛けられるようになったのが坂を登ってのゴール寸前といったレース運びで、最後はPut The Kettle Onを追い詰める伸び脚を見せていただけに、実に悔いが残るレース内容となってしまった。人気を背負ったChacun Pour Soiは最後捕まり3着まで。どうにも内で馬に我慢をさせながらレースを進めていたのだが、おそらくこの馬のスピードを十二分に生かすのであれば外をスムーズに回す方が良かったように思われる。

今シーズンはHaldon Gold Cup (G2)を勝利した上り馬Greaneteenも差のない4着。その後のTingle Creek Chase (G1)等ではどうにも上位に迫れないレースを見せていたが、馬場さえよければ今後も期待できるだろう。Sceau Royalも調子はいいようで、下り坂のところで大きな不利があるも立て直して5着まで伸びてきた。この辺りは展開次第で着順が入れ替わってもいい。Clarence House Chase (G1)でPolitologueを競り潰す走りを見せたFirst Flowはどうにも展開に乗り切れず、離れた6着に終わった。この馬にとっては馬場はもっと渋った方が良いだろう。アイルランドのNotebookは見せ場を作れず。元々Cheltenhamは苦手な馬だけにこれは仕方がない敗戦である。いくら鞍上がRachael Blackmoreであってもどうしようもないものはどうしようもない。Willie Mullinsの秘密兵器Ciloas Emeryは前半からレースに参加せず後半からの一気のスパートに掛けたが、残り2障害で脱落して大敗。ここまでG1クラスでの経験は少ないだけにまともにやり合っては太刀打ちできないことは予測可能なものであり、この騎乗は意図的なものだが、やはり少々スピードの持続性能という面で難しかった。Rouge Vifも良馬場ということで積極的に運んだが、最後は息切れして大敗に終わった。

 

Glenfarclas Chase (C2) 3m6f37y (Replay)

1. Tiger Roll J: Keith Donoghue T: Mrs Denise Foster

Grand Nationalを2勝し、今年のGrand Nationalには斤量の問題で出走しないことを表明していたTiger Rollの参戦が話題を集めていた。昨シーズンはGrand Nationalの開催自体が中止になってしまったとはいえ、今シーズンのパフォーマンスはどうにもぱっとせず、前評判としてはフランスのEasyslandが中心となっていた。

レースは前半から積極的にKingswell Theatreが飛ばす展開。好位からTiger Roll、さらにDefi Des Carres、Kings Temptationなど。途中からDefi Des Carresが先頭に代わり果敢にレースを引っ張る。しかしこれをスムーズに追いかけたTiger Rollが2度目のWater Jumpの辺りから先頭に並びかけると、そのまま追いかけてきた後続を寄せ付けず、後続に18馬身をつける圧勝。2着には後方から追い上げてきたEasyslandが入った。

Tiger RollはこれでCheltenham Festivalは2014年のTriumph Hurdle (G1)、2017年のNational Hunt Challenge Cup (G2)、2018年及び2019年のGlenfarclas Cross Countryに続き5勝目とした。今シーズン初戦のGlenfarclas Cross Countryではさっぱり行きっぷりが悪く大敗に終わっていたのだが、前走のNavanのBoyne Hurdle (G2)では着順こそ悪いものの走る素振りを見せており、馬自体は元気なのだろう。Grand Nationalは負担重量の問題で出走を取りやめているが、出走すれば斤量はともかく現時点でも力量は上位であると思われる。それにしても、CheltenhamのCross Countryの障害をスピードを全く殺さずに器用に飛越していく技術は、単純なイギリス・アイルランド型のSteeplechaserというよりはCross Country Horseのならでは技術である。そしてこのCross Countryへの対応力が、AintreeのGrand Nationalのような、極めて難易度が高く障害馬として総合的な技術が試されるFenceへの対応に繋がっていることは既に過去のGrand Nationalの記事にて言及した通りである。今回はGood to Softと比較的走りやすい条件なのだが、13頭走って(故障でリタイアしたKings Temptationを除き)完走は6頭と少ないことを踏まえると、いかにこのTiger Rollが圧倒的なパフォーマンスを見せたかということは言うまでもないだろう。今年11歳と高齢だが、来年こそはGrand Nationalへの再度の挑戦が叶うことを期待したい。なお、今年はGrand Nationalへの出走を取りやめたということで、代わって他の"Grand National”への出走が検討されるかもしれないが、その場合はやや注意した方がよいかもしれない。

フランスのEasyslandは後方から追い上げるも2着まで。もともと行きたがって走る馬と言うこともあり、今回は後方からじっくりと進める競馬に徹していた。前に行ったTiger Rollがここまで強いレースを見せてしまうと展開的に手も足も出ないのだが、苦手としていたAintree Canal Turnも問題なく飛越しており、2着に敗れたものの収穫のある競馬であったように思う。昨年12月のGlenfarclas Crossを勝ったSome Neckが3着で、この馬自身もこの路線では実力上位の馬であることを示した。驚きの好走を見せたのがAlpha Des Obeauxで、これがCross Countryは初参戦なのだが、AintreeのGrand Nationalにも挑戦し、Becher Chase (G3)にて3着にも入ったこの馬の能力の高さを見せてくれた。今シーズンはほぼ最下位及び途中棄権と冴えない結果だったのだが、Cross Countryの障害がこの馬になんらかの刺激を与えたことを期待したい。

その他。ベテランKingswell Theatre、上り馬Defi Des CarresはTiger Rollに競り潰される格好で途中棄権。いくらなんでもTiger Rollにあそこまでプレッシャーを掛けられてはどうしようもない。メンバー次第で再度期待したい。昨年のVelka Pardubickaにも登録のあったOut Samは勝ち馬からはるか後方ではあったものの頑張って5着に完走を果たした。Gordon Elliott調教師はVelka Pardubickaへの関心を示しており、Denise Fosterがどのように考えるかは不明だが、誰かしら予備登録があることを期待したいところ。好位から進めたKings Temptationは故障で途中棄権。残念ながら助からなかったそうだ。

 

Johnny Henderson Grand Annual Challenge Cup (G3) 1m7f199y (Replay)

1. Sky Pirate J: Nick Scholfield T: Jonjo O'Neill

レースは好位から抜け出したSky PirateがEntoucasを抑えて勝利した。Sky Pirate自身はNovice馬で、前走はWarwickのKingmaker Novices’ Chase (G2)にてAllmankindの2着に入っている。Noviceとはいえどちらかというとハンデ戦で実績を残してきた馬であり、昨年のCheltenham FestivalのKim Muir Challenge Cupに出走していたのだが、なんだかんだで距離を短縮してきたのが良い方向に出ているようだ。おそらく今後もハンデ戦を使うものと思われるが、11st6lbで勝ち切った内容はなかなか高く評価すべきものだろう。後方から追いこんだアイルランドのEntoucasが2着で、この馬もここまでChaseでは勝利がないのだが、ほぼ入着を果たしているようにコンスタントに走る馬である。勝ち星はMaiden Hurdleしかないのだが、そのうちいいことがあって欲しい。実績馬としては2019年のArkle Challenge Trophy (G1)の勝ち馬Duc Des Genievres、2018-19シーズンのRacing Post Novice Chase (G1)からG1にて4戦連続で2着に入ったUs And Themもいたのだが、いずれもあまり良いところはなく終わった。