にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

21/04/10 National Hunt Racing - Grand National Entries -

*Aintree (UK)

〇 Randox Grand National Handicap Chase (G3) 4m2f74y (National)

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例によって前々から書いておきます。少しずつ更新予定ですが、出走馬はレーティング上位40頭となるので、適宜変更が生じることに留意してください。途中で心が折れたらすみません。

 

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基本的な話はこちらで。2019年の出走馬はこちら、結果はこちら。2018年のGrand National参戦記はこちら

 

Grand Nationalについて興味深いデータを集計したことがあるので、せっかくの機会ということで紹介しておきます。

完走率/落馬率/途中棄権率を比較すると、英Grand Nationalの性質というのはいわゆる各国の"Grand National"とは大きく違うのですね、という話。より詳しいデータはこちらで。

 

Grand Nationalの各障害における落馬率。驚くほど第1障害の落馬率が高く算出されているが、やはり障害そのものとしての難易度という意味ではBecher's Brookが最難関と考えてよいのだろう。それにしてもPardubice競馬場のTaxis Ditchは驚異的な難易度を誇る障害である。上記のようなコラム(?)にまとめようと思っているが、途中で心が折れて放置されている。

 

 

 

1. Bristol De Mai 11st10lb J: Daryl Jacob T: Nigel Twiston Davies (Pedigree)

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ヨーロッパ障害競走では主流となるSadler's Wellsの直系のSaddler Makerの産駒である。Saddler Maker自身は平地競争では未勝利に終わったものの、障害種牡馬としては大成功を収めており、持続的なスピード能力を生かしてHurdleのG1競走を計11勝したアイルランドの名牝Apple's Jadeが代表産駒として挙げられるだろう。母La Bolke Nightはフランス障害競走を3戦するもさっぱり良いところなくいずれも途中棄権に終わっており、産駒もBristol De Mai以外はさっぱり活躍していないという状態なのだが、そのような血統からこのような活躍馬が出るのだから競馬というのは面白いものである。

Bristol De Maiは"King of Haydock"と言われるほどHaydock競馬場では無類の強さを誇る馬で、Cue Card以下2着を57馬身差でぶっちぎった2017年のBetfair Chase (G1)を始め、Haydockではここまで6戦5勝、唯一敗れたのも苦手な良馬場となった2019年のBetfair Chase (G1)の2着のみと素晴らしい成績を収めている。一方でどうにも重馬場専門のパワーのあるワンペース型の馬だけにCheltenhamのコースは苦手としており、今シーズンは最初からCheltenham Gold Cup (G1)をスルーしてこちらに向かってきた。昨年もこのGrand Nationalに参戦するオプションがあったようだが、残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響で開催が中止となったため実現せず、"Virtual Grand National"に向けた"serious training"と称して放牧地で平和に昼寝を楽しむ写真が話題を集めていた。そんなわけでこれが初めてのGrand Nationalとなる。AintreeのChase Courseは比較的スピードが生きる形態で、同馬が経験した計4戦はいずれも良馬場ということもあって勝ち星はないのだが、ワンペース型の馬だけにAintree National Courseの単純な形態は悪くはないだろう。先頭集団でスムーズに運ぶ戦法を期待したい。課題はやはり馬場と斤量、それから初めてのNational Fenceと思われる。鞍上にはこの馬と長年コンビを組んできたDaryl Jacobを確保してきた。

  

2. Chris's Dream 11st7lb J: Darragh O'Keeffe T: Henry de Bromhead (Pedigree)

Sadler's Wells、Galileoに連なる父系出身のMahlerの産駒。Mahlerは競走馬としてはAscotのQueen's Vase (G3)の勝利がある他、2007年のMelbourne Cup (G1)にてEfficientの3着がある。その後は障害種牡馬として繋養されているようで、種牡馬としては、2019年のMaghull Novices' Chase (G1)を勝利したOrnuaがビッグタイトルを持つ産駒であるが、他にもNational Hunt Challenge Cup (G2)にてRathvindenの2着のある牝馬Ms Parfois、Albert Bartlett Novices' Hurdle (G1)の2着のあるOk Corral、障害馬として計99戦を消化したタフな牝馬Presenting Mahlerなどが挙げられる。Sadler's WellsからGalileoを経る系統は大きな発展を遂げているが、そこから障害競走に適性のある種牡馬を送り出すことが出来るかは今後の障害競走における血統を議論する上で非常に重要な問題になるだろう。

Chris's Dreamは今年のCheltenham FestivalではChampion Hurdle (G1)を圧勝したHoneysuckleを始め、主要競走において大活躍を見せたHenry de Bromhead厩舎の一頭である。勝ち星としては2020年のRed Mills Chase (G2)があり、今年のCheltenham FestivalではRyanair Chase (G1)に出走するも、ペースに付いていけず飛越でミスをし、早々に途中棄権に終わっていた。どうにもやや乗り難しいところがあるようだが、20fで一線級相手のスピードにはついていけず、かといって24fの一線級相手だと足りないような印象があり、好走と大敗を繰り返すような難しい馬である。少なくとも近走コンビを組んでいるRobbie Powerと手があうイメージはなく、ここのところの大敗は度外視してもいいようにも思うのだが、そうはいってもやはりいきなり初のNational Fence、距離延長、厳しい斤量と、それなりに課題は多い。

 

3. Yala Enki 11st3lb J: Bryony Frost T: Paul Nicholls (Pedigree)

Northern Dancerの直系で、Try My BestLast Tycoonに連なるNicknameの産駒となる。Last Tycoonといえば日本でもアローキャリーオースミタイクーン等を出しており、Last Tycoon産駒のBigstoneがウマのコンテンツでもお馴染みのメイショウドトウを輩出しているので、日本でも比較的馴染みがある系統かもしれない。考えてみればSadler's Wellsの直系、名障害種牡馬Kayf Taraの兄弟Opera Houseの産駒のテイエムオペラオーと、Last Tycoonの父系出身のメイショウドトウが日本の平地中長距離戦線で覇を競うというのは、現代日本競馬から考えると隔世の感がある。当時のテイエムオペラオーメイショウドトウの戦いを知る老人としては、これらの馬たちの産駒が現代日本競馬においてさっぱり走っていないのは寂しいものである。Nickname自身はフランス生産馬で、フランスでPrix Alain Du Breil (G1)、Prix Renaud du Vivier (G1)を勝利するなど大活躍を見せたのち、アイルランドに移籍しDial-A-Bet Chase (G1)等を勝利した名障害馬である。障害種牡馬としても大成功しており、2020年のKing George VI Chase (G1)を勝利したFrodon、2019年のAscot Chase (G1)を勝利したCyrname、面白いところでは2019年のVelka Pardubickaで人気薄ながら3着に食い込んだChicname De Cotteなどを送り出している。全体的にしなやかでパワーのある筋肉の持ち主で、比較的航行能力とスピードの持続性能に優れる馬が目立つのが特徴で、フランス産の障害馬に秀でた特徴を良く産駒に伝えている。

Yala Enki自身は超長距離のHandicap Chaseで活躍してきた馬で、目立つところだと2018年のGrand National Trial (G3)にて後続に54馬身差をつける勝利もある。今シーズンはすでに5走を消化しており、さすがにHeavyのCotswold Chase (G2)でRichard Johnson騎乗のCheltenham Gold Cup勝ち馬Native River相手に喧嘩を売るのは厳しかったようだが、TauntonのPortman Cupは快勝するなどこの馬自身の調子はいいようだ。重馬場を比較的得意とするワンペース型の馬だが、リズムよく運ぶことが出来るBryony Frost騎手との相性もいいようで、オーバーペースにならずに自分のペースで走ることが出来れば非常にしぶとく走り続けられるのが特徴である。極端なパワー型というよりは、この馬のスピードの持続性能を生かす上では重馬場の方が有利というだけであって、馬場自体はさほど気にしなくていいだろう。National Courseは昨年の12月にBecher Chase (G3)を一度走っており、第1障害で早速の落馬に終わっている。このレースが原因で馬に苦手意識がついていなければ良いのだが。斤量は11st3lbと、この馬の実績を考えれば極端に厳しいものでもないように思われる。鞍上は女性騎手Bryony Frost。とにかく馬をリズムよく走らせることには長けた人で、この馬との相性も非常に良い。

 

4. Ballyoptic 11st1lb J: Sam Twiston-Davies T: Nigel Twiston-Davies (Pedigree)

Sadlers Wellsの直系のOld Vicの産駒。Old Vicは1986年生まれであり、日本でも2000年のダイワテキサスの勝利した関屋記念(G3)の3着馬トウショウノアを始め、産駒がちらほらと走っている。とはいえ日本で産駒の出走歴があるのはせいぜい2000年代前半までであり、BMSまで広げても2010年代初めまでせいぜいと、日本ではもはや既に過去のものとなった血統の出自であり、このような一時代前のような血統の馬が走っていることは障害競走の魅力の一つでもあるだろう。Old Vic種牡馬としては既に引退しているものの、2010年のGrand National (G3)の勝ち馬Don't Push It、2008年のGrand National (G3)勝ち馬Comply Or Die、2005年のCheltenham Gold Cup (G1)を始め、G1を計6勝した2000年代前半の名馬Kicking Kingを始め、障害種牡馬としては大成功を収めており、2007/08シーズンにはリーディングサイアーに輝いている。BallyopticはOld Vicの残された数少ない産駒の一頭である。

Ballyoptic自身は2016年のDoom Bar Sefton Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬だが、Senior HurdleのG1戦線ではあまり結果を残せず、その後はChaseに転向。ChaseでもCharlie Hall Chase (G2)勝ちもあるのだが、基本的にはG1戦線というよりは24f以上のハンデ戦を主に使っている。2018年のScottish Grand National (G3)にてJoe Farrellの2着もあるのだが、基本的には比較的緩いペースをのんびりと追走させた方がいいタイプだろう。今シーズンの4戦はどうにも良いところなく終わっており、さすがに11歳という年齢的な問題があるような印象もある。前走は久々のHurdle競走としてRendlesham Hurdle (G2)を使っており、これが良い方向に出ることを願いたい。Grand National (G3)は2019年に一度出走しているが、好位から進めるも途中で脱落し、第27障害で落馬に終わっている。

 

5. Definitely Red 11st1lb J: Henry Brook T: Brian Ellison (Pedigree)

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父Definite ArticleはClarion、Klairon、さらにはAhonooraに連なるIndian Ridgeの系統で、平地競争馬としてはIrish St. Leger (G1)を4連覇したVinnie Roeを輩出しているが、現在では障害種牡馬として繋養されている。日本では産駒は一頭のみ、ハドソンストリートという名前の馬が存在し、笠松で1勝をあげたのち、その後はnetkeibaの掲示板によれば早稲田大学で乗馬となっているそうだ。Definite Articleの産駒は障害競走で多数走っているが、Definitely Redはその代表的な産駒であり、それ以外にはイギリスで走ったのちにアメリカに移籍し、2011年のGrand National Hurdle (G1)を勝利するBlack Jack Blues、WKD Hurdle (G2)など重賞勝ちのあるThe Real Articleなどが目立つ産駒である。なお、上述のVinnie Roeもその後種牡馬となっており、Sodexo Gold Cup (G3)勝ちのあるステイヤーVinndication、究極の不良馬場により実質的な完走馬が1頭のみとなった伝説のWest Wales Nationalの勝ち馬Bob Ford、2017年のNeptune Investment Management Novices' Hurdle (G1)にて2着に入るもその後悲運の死を遂げたNeon Wolf等、なかなかに多彩な障害馬を送り出している。

Definitely Redは出走馬中最年長の12歳。ここまで2017年のMany Clouds Chase (G2)を始め、Chaseにおける重賞は7勝と長年にわたって活躍してきた馬だが、どうにもG1クラスでは厳しいらしく、あまり実績を残すことはできていない。一方でG2クラスでは安定した強さを誇っていたものの、さすがに年齢を重ねてきた近走は相当なズブさを見せており、今シーズンはRehearsal Handicap Chase (Listed)の落馬を除いても結果を残すことはできていない。重馬場の持久戦になれば浮上してくる可能性はあるのだが、近走成績から考えるとやや厳しいと判断する方が妥当だろう。Grand National (G3)自体は2017年に一度参戦しているが、Bechersでのミスが原因で早々にリタイアしている。当時は2番人気として挑むも不幸なアクシデントで結果を残せなかった馬が、12歳でいい加減年齢的に衰えを感じさせる状況下において激走すれば非常にドラマチックな展開であり、心情的には頑張って欲しいところではある。ちなみに管理するのはラジオの英愛障害競馬入門回でSatieさんが推していたBrian Ellison調教師である。曰く人の良いおじいちゃんらしい。

 

6. Lake View Lad 11st0lb J: Brian Hughes T: Nick Alexander (Pedigree)

Sadler's Wellsの直仔となるOscarはイギリス・アイルランドにおいて最も成功した障害種牡馬の一頭であり、Punchestown Champion Chase (G1)やQueen Mother Champion Chase (G1)を含むG1を6勝し、2008~2012年頃の16f Chaseを代表する名馬Big Zebをはじめ、Fighting Fifth Hurdle (G1)及びNeptune Investment Management Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬Peddlers Cross、2012年のChampion Hurdle (G1)の勝ち馬Rock On Ruby、2019年のStayers' Hurdle (G1)の勝ち馬で、同時期における24f戦では無敵を誇ったPaisley Parkなど、その産駒における活躍馬は枚挙に暇がない。

Lake View Ladはどちらかというとここまで24fのハンデ戦で結果を残してきた馬で、目立つ成績としては2018年のRowland Meyrick Handicap Chase (G3)勝ちが挙げられる。その後も11st台後半の厳しい斤量を背負いながらハンデ戦で頑張っていたが、今シーズン初戦となったAintreeのMany Clouds Chase (G2)でSantiniやNative Riverといった24f Chaseの一線級のメンバーを抑えてまさかの勝利を上げた。ただし、その実日差しの影響でスタンド前の殆どの障害がオミットされたレースであり、同馬は11st0lbの最軽量であったことを考えると、同レースの障害競走としての価値は高くない。その後のSandownのCotswold Chase (G2)はRichard Johnsonが追っ付けて引っ張ったNative Riverのペースに付いていけず大敗、KelsoのPremier Chase (Listed)もやる気なく追走し大敗と、11歳となった今年においてはどうにも馬の調子が読めないところがある。比較的そこまで良績を残していた2019年のGrand National (G3)は早々に脱落して途中棄権に終わっており、2019年当時のパフォーマンスと比較すると今シーズンのパフォーマンスはいまいちで、そこからプラス材料があるかと言われればだいぶ微妙なところがある。Brian Hughesは昨シーズンの英国障害競馬リーディングジョッキー。今シーズンもリーディングジョッキーを目指してHarry Skelton、Harry Cobdonといい勝負を繰り広げている。

 

7. Burrows Saint 10st13lb J: Mr Patrick Mullins T: Willie Mullins (Pedigree)

父Saint Des SaintsはNijinskyGreen Dancerに連なる父系の出身で、フランスで障害競走を走りPrix Amadou (G2)などを勝利している。障害種牡馬としては、2014年のGrand Steeplechase de Paris (G1)の勝ち馬Storm of Saintly、Prix Ferdinand Dufaure (G1)にて16馬身差の圧勝を飾った良血馬Whetstone、Prix La Haye Jousselin (G1)にてMilord Thomasの2着のあるSaint Paloisなどを送り出しており、フランス障害競馬における代表的な種牡馬の一頭と言えよう。イギリス・アイルランドにおいても産駒の活躍は目立っており、John Durkan Memorial Chase (G1)勝ちを上げ、2015年頃の24f Chaseを彩ったDjakadam、JNwine.com Champion Chase (G1)の勝ち馬Quito de La Roqueなどを送り出している。平地競争という意味では若干微妙になってきてしまった系統ではあるが、2019年のPrix Ferdinand Dufaure (G1)で圧巻のパフォーマンスを見せたGoliath Du Berlaisをはじめ、Castle Du Berlais、Jeu St Eloiといった産駒が種牡馬入りしており、ヨーロッパ障害競走において今後大きく発展する可能性を秘めた系統と言えよう。特にGoliath Du Berlaisの圧倒的な身体能力を見せつけた上記のパフォーマンスは関係者から高く評価されているようで、同馬は障害種牡馬として大変人気のようだ。この辺りから障害競走において独自の発展を遂げる系統が現れれば面白い。

Burrows Saintは2019年のIrish Grand National (Grade A)の勝ち馬。Chase4戦しかないキャリアの馬のIrish Grand National制覇は大いに話題を集め、直後に挑んだGrand Steeplechase de Paris (G1)でも頑張って5着に完走している。ただしその後は2020年前半の大レースがほぼコロナウイルス感染症で中止になった影響もあり、勝ち鞍としては2019年にHurdleを1勝するのみに留まっている。ひとまず今シーズンはHurdle競走を一叩きしたのち、Bobbyjo Chase (G3)にてAcapella Bourgoisの2着に入ってここに挑んできた。Bobbyjo Chase (G3)の結果は順調にレースに使っていた分と思われることから、あまり気にしなくてもよいとは思うのだが、どこまで馬の状態が戻っているかはやや微妙なところがある。とはいえ、いきなりのIrish Grand National、Grand Steeplechase de Parisで頑張ったパフォーマンスは驚くべきものであり、おそらくWillie Mullins厩舎の出走馬の中では最有力と思われる一頭ではある。アマチュア騎手Patrick Mullinsは、先日のCheltenham Festivalこそアマチュア騎手の騎乗が許可されなかったため参戦出来なかったのだが、今回は無事に乗れることになったらしい。ちなみにPatrick Mullinsをアマチュア騎手といって侮ってはいけない。アイルランド障害競馬という果てしなく層が厚い世界において、一流のプロ騎手と肩を並べるほどの高い技術の持ち主である。

 

8. Magic of Light 10st13lb J: Robbie Power T: Mrs Jessica Harrington (Pedigree)

St. Simon、さらにはRibotに連なる父系出身のFlemensfirthの産駒。世界的に既にこの血統は衰退の一途にあるのだが、Hoist The FlagAllegedの系統はFlemensfirth、Astarabad、Shantouを始め、比較的障害競馬において成功した種牡馬を輩出している。Flemensfirthは障害種牡馬としては大成功を収めており、2012年のLexus Chase (G1)にて劇的な勝利を収めたTidal Bay、2010年のCheltenham Gold Cup (G1)の勝利を始め、Denman、Kauto Starといった当時の名馬たちと競ったImperial Commander、John Durkan Memorial Chase (G1)などG1を4勝したアイルランドの名馬Flemenstar、不良馬場における不屈の闘志を武器に2014年のWelsh Grand National (G3)を勝利したEmperor's Choiceなど、多数の活躍馬を送り出している。

Magic of Lightは名前からわかる通り牝馬で、2019年のGrand National (G3)で単勝67倍の低評価ながらTiger Rollの2着に入っている。どうにも当時は飛越が粗いところが目立っていたのだが、それでもTiger Rollから2馬身差の2着に入ったパフォーマンスは驚きのものであった。瞬間的なスピード能力というよりはスピードの持続性能に優れた馬で、今シーズンはPertemps Network Mares' Chase (Listed)を勝利するなど調子はいいようだ。前走のCheltenhamのMrs Paddy Power Mares' Chase (G2)は特に良いところなく敗れているが、このようなワンペース型の馬はCheltenhamのコースを苦手とする場合が多いだけにあまり気にしなくていいだろう。また、その前のAscotの牝馬限定G2 HurdleもRoksanaから8馬身差の2着に敗れているが、Roksana自身24fでの瞬間的なスパート能力に優れたタイプで、その後Cheltenham Festivalではなぜか20fのClose Brothers Mares' Hurdle (G1)に挑戦して3着に敗れているものの、24fのHurdleであれば本来はG1路線でも戦える馬だけに、Magic of LightのAscotでの敗戦はあまり気にはしなくていいように思う。2019年のGrand Nationalから2lbsの増加のみで戦えるのはプラス材料で、National Fenceへの対応さえ問題なくできればチャンスがあってもおかしくない。10歳と年齢を重ねているのがやや気がかりだが。

 

9. Acapella Bourgeois 10st12lb J: Danny Mullins T: Willie Mullins (Pedigree)

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父NetworkはBlandfordからMonsunに連なるドイツ系統の出自である。Monsunの産駒としては日本でもNovelistが繋養されており、2019年の京成杯 (G3)を勝利したラストドラフトを出している。Novelistの産駒は日本の障害競走でも走っており、インザムード、ノーザンクリスの2頭が勝ちあがっているようだ。Monsunはドイツで一大系統を築いた種牡馬だが、母父としてソウルスターリングやヴェロックスを出しており、日本でも聞き覚えのあるファンは多いだろう。Networkの産駒として最も代表的なのは何と言ってもイギリス16f Chaseで無敵の強さを誇ったSprinter Sacreで、一時は出走したレースは全て圧勝に次ぐ圧勝と無敵の強さを誇った馬が、心臓のトラブルにより大きくパフォーマンスを落とし、そしてそれを乗り越えてQueen Mother Champion Chase (G1)を勝利した劇的な復活劇は英国障害競馬史に燦然と輝くエピソードである。NetworkはSprinter Sacreのみならず、アイルランドでG1を5勝しているDelta Work、フランスでLong Runと鎬を削りPrix La Haye Jousselin (G1)などG1を3勝したRubi Ballなど、数々の名馬を送り出している。

Acapella Bourgeoisは上の写真で一頭ぽつねんと馬群から離れて歩いている馬。元々Ten Up Novice Chase (G2)にて後続を32馬身ぶっちぎって勝つなど色々とネタ的にも面白い馬だったのだが、所属していたSandra Hughes厩舎が経済的な理由で解散した影響でWillie Mullins厩舎に移籍し、その後は主に24f超のハンデ戦を主戦場としてきた。どちらかというと重馬場においてマイペースで運んだ時にしぶとさを発揮するタイプで、どうにも他の馬からやや距離を取って運んだ方が良いという馬の性質も踏まえると、おそらく先手を取ってレースを引っ張る形になるだろう。距離的にはさほど不安はないのだが、同型馬が何頭かいること、特にYala Enkiの主戦騎手Bryony Frostはかなり強気に引っ張る騎手なだけに、それらとの兼ね合いが課題である。Grand Nationalはこれが初めての参戦となる。どちらかというと伸びやかで高く慎重な飛越をするタイプなだけに、National Fenceにも対応してくれることを期待したいところ。

 

10. Talkischeap 10st12lb J: Tom Cannon T: Alan King (Pedigree)

父Getawayは上述のMonsunの産駒で、イギリス・アイルランドでは人気の障害種牡馬である。産駒としては日本ではサウンドクラフトという馬がなぜか一頭だけ走っているようで、未勝利戦の4着が最高で勝ち星を上げることは叶わなかったようだ。Getawayはイギリスでは2018年のChristmas hurdle (G1)でBuveur D'Airを破って驚きの勝利を上げたVerdana Blueを輩出しているが、同馬自身障害馬として高い資質を持つ馬というよりも平地のスピード能力に優れた馬といったタイプで、その他Challow Novices' Hurdle (G1)にてChampの2着のあるGetaway Trump、2020年のCoral Cup (G3)にてDame De Compagnieの3着のあるThosedaysaregoneもいるのだが、同系統のNetworkと比べるとやや全体的に見劣りする種牡馬成績となっている。

Talkinscheapは2019年のBet365 Gold Cup (G3)の勝ち馬。当時はNovice馬ながらも2着のThe Yong Masterの10馬身差をつける良い勝ち方を見せたのだが、その後の成績はぱっとせず、今シーズンはNational Hunt Flatも含め平地競争を叩いてKemptonのClose Brothers Handicap Chase (G3)を使うも、良いところなく大敗に終わっている。どちらかというと良馬場の方が良さげなタイプの方に思われるが、ここまでChaseは9戦と経験も少なく、National Fenceへの対応力も未知数といったところで、やや強調材料に乏しいのが現状である。

 

11. Tout Est Permis 10st12lb J: Sean Flanagan T: Noel Meade (Pedigree)

父Linda's LadはSadler's Wellsの産駒で、父系としてはまさにヨーロッパ障害競馬における主流血統である。障害種牡馬としては2019年、2020年のイタリアGran Premio Merano (G1)を連覇したチェコの名馬L'Estranを出しているが、イギリス・アイルランド・フランス辺りでの活躍馬は種付け数の割に多くはなく、Tout Est Permisは比較的その中では活躍した産駒である。

Tout Est PermisはHurdleでのキャリアはそこそこに、2017年からChaseに転向、2017-18シーズンは9月から5月にかけて合計10戦を消化するというタフネスぶりを見せている。現厩舎に移籍して3戦はいきなりHorse & Jockeys Hotel Chase (G2)を含む3連勝を上げたのだが、その後はいまいち勝ち星を上げられていない。今シーズンもSavills Chase (G1)などに参戦し、これで8戦目となにかと丈夫な馬だが、シーズン初戦のIrish Daily Star Salutes Our Frontline Heroes Chase (G3)の2着が最高で、どうにも重賞クラスだと足りないというのが現状だろう。ここに向けての叩き台となったBluegrass Horse Feeds Chaseも途中で落馬に終わっており、落馬や明らかな格上のレースを除けばさほど大きく崩れずに頑張って走っている点は魅力なのだが、実績的にいきなりここでどうこうというのは若干厳しいように感じる。

 

12. Anibale Fly 10st12lb J: Denis O'Regan T: Tony Martin (Pedigree)

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父AssessorはNearctic - Northern Dancer - Nijinsky - Niniskiの系統の出身で、その代表産駒としては2012-14にかけてLong Walk Hurdle (G1)を3連覇、フランスのGrand Prix D'Automne (G1)の勝ち星もあるReve De Sivola、2006年のWorld Hurdle (現Stayers' Hurdle) (G1)及び2007年のArkle Challenge Trophy (G1)を勝利したMy Way De Solzenが代表的な産駒として挙げられる。日本ではGran Corsa Siepi Di Roma (G1)を勝ったフランス調教馬のAnge De Beaumontが2006年のペガサスジャンプステークスに出走しているが、いまいちいいところなく13着に大敗、その後調教中の骨折が原因で中山グランドジャンプには出走せずに帰国している。

Anibale FlyはこれでGrand Natonal (G3)は3回目の出走となる。2018年は4着、2019年は5着といずれも頑張って走っており、当時の11st台後半の斤量からは大きくハンデを減らしての参戦となりそうだ。2018年のCheltenham Gold Cup (G1)ではNative Riverの3着、2019年のCheltenham Gold Cup (G1)でもAl Boum Photoの2着に入っているように、スピード能力よりも厳しい流れの消耗戦になった際にじわじわと復活してくるタイプの馬であり、本来この舞台への適性は高いものを持っている。ただし2019年のGrand Nationalの後はほぼ勝ち馬からはるか離された最下位というのが定位置になっており、今シーズンの初戦のBobbyjo Chase (G3)もAcapella Bourgeoisから18馬身離れた最下位に終わっている。元々車間距離を要する高い飛越と豊富な持久力を武器としており、スピード能力に優れた馬ではないのだが、11歳という年齢もあってここのところは大きくスピード能力(及び馬のやる気)を落としている印象もある。なんとか頑張って欲しいのだが、全盛期のような走りが出来るかどうかは疑問だろう。高齢馬がNationalの舞台でなにかを思い出せばよいのだが。

 

13. Mister Malarky 10st12lb J: Jonjo O'Neill Jr T: Colin Tizzard (Pedigree)

父MalinasはAssessorと同じくNiniskiに連なる系統の出身だが、こちらはドイツで活躍したLomitasの産駒で、調べるとLomitasの子孫は主に南アフリカで活躍しているようだ。Lomitas自身は父として2011年の凱旋門賞などを制しジャパンカップにも参戦したDanedreamを出しているが、Danedreamは2021年からは社台ファームで繋養されるなどそれなりに日本にも馴染みのある系統かと思われる。Malinas自身は障害種牡馬としてもそれなりに頑張っており、フランスにてPrix Robert de Clermont-Tonnerre (G3)勝ちのあるMali Borgiaが代表産駒として挙げられる。

Mister MalarkyはNoviceクラスではSodexo Reynoldstown Novices' Chase (G2)の勝利もあるのだが、G1クラスではRSA Chase (G1)でTopogthegameから18馬身離れた4着に終わっており、その後は24fのハンデ戦をメインに使っている。勝ち星としては2020年にBetway Handicap Chase (G3)があるのだが、今年1月のDoncasterのListedでは飛越がいまいちで大敗していたりとどうにも信用しきれないところがある。AscotのSliver Cup (Listed)ではしぶといレースをしていたのだが、チークピーシーズをつけているようにやや集中力の面で課題がある可能性もある。今年の冬にWind Surgeryを行っており、前走のKemptonのClose Brothers Handicap Chase (G3)では勝ち馬から4馬身離れた3着に入っており、一定の効果はあるかもしれない。管理するColin Tizzardはこの馬をGrand Nationalにという強い意向を持っていたようで、師の慧眼に期待したいところ。これが初めてのNational Fenceへの参戦となる。Jonjo O'Neill Jrは最近売り出し中の若手騎手。

 

14. Kimberlite Candy 10st10lb J: Riche McLernon T: Tom Lacey (Pedigree)

上述Flemensfirthの産駒である。Herefordshireに拠点を置くTom Lacey調教師は代表的な管理馬として2018年のAlder Hey Children's Charity Handicap Hurdle (G3)を勝ったJester Jet、2018年のBetway Handicap Chase (G3)を勝利したThomas Patrickなどが挙げられるが、ここまでCheltenham Festivalは未勝利であり、2012/13から開業したどちらかというとこれから売り出していこうという若手の調教師である。Willie Mullinsを始め多数の管理馬を登録している大厩舎と異なり、Grand Nationalでの登録馬もこのKimberlite Candy一頭である。

Kimberlite Candyは昨年のClassic Handicap Chase (G3)の勝ち馬。起伏の多いWarwick競馬場のこの3m5f戦はGrand Nationalに向けた前哨戦として注意しなければいけないレースであるが、Kimberlite Candyが勝ったレースはCaptain Chaosが決め打ちしてハナに行った展開で、最後まで脚を伸ばして他を圧倒したパフォーマンスは立派なものである。National Fenceを使用する12月のBecher Chase (G3)では2019年、2020年とともに2着に入っているようにNational Fenceへの適性もあり、ここまでのレース振りから考えれば無視してはいけない一頭だろう。Irish Grand National (Grade A)、Eider Chaseといった超長距離戦では大敗しているが、どうも良馬場よりはSoft程度の馬場でやりたい馬のようで、これら2レースの敗戦には言い訳が出来るだろう。馬場には注文は付くものの、おそらく有力な一頭として注意した方がよさそうだ。今シーズンはBecher Chase (G3)の1走のみであり、ここに向けて万全の体勢を作ってきた。

 

15. Any Second Now 10st9lb J: Mark Walsh T: Ted Walsh (Pedigree)

Any Second Nowは上述のOscarの産駒。母Pretty NeatはHurdleデビュー戦となったTauntonのNovice競走で人気を背負うも、故障により途中棄権し、そのまま引退した馬で、Any Second Nowを始め6頭の競走馬を輩出している。全弟にはRoxboro Roadという馬がいるようで、こちらは下級条件戦を中心にイギリス・アイルランドで障害競走6勝を上げているようだ。母父TopanooraはKlairon、Lorenzaccioに連なるAhonooraの産駒だが、障害馬の父としてはあまり目立った産駒はなく、母父としてもこのAny Second Nowが代表産駒となる。もっとも、Topanooraの孫には平地競争でお馴染みのCirrus Des Aiglesがいるのだが。

Any Second Nowは2019年のFulke Walwyn Kim Muir Challenge Cupの勝ち馬。元々はRacing Post Novice Chase (G1)で当時勢いのあったFootpadの2着に入るスピードも見せていたのだが、その後は主に24f戦を使っている。ただし勝ち星としては2020年のWhatOddsPaddy Chase (G3)、Webster Cup (G2)など16fの方が多く、どうにも距離適性が読めない部分がある。上記2レースはいずれもHeavyでさほどメンバーが揃わなかったレースであったことを踏まえると、純粋に16fのスピード勝負が良い馬というわけではなさそうで、今シーズンは3月のWebster Cup (G2)で快勝しているように馬の調子は良さそうなところはとりあえずのプラス材料だろう。課題は未知数の距離である。

 

16. Balko Des Flos 10st9lb J: Aidan Coleman T: Henry de Bromhead (Pedigree)

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父BalkoはPhalaris - Nearcoのラインのうち、NasrullahやTurn-To、Northern Dancerを経ないDanteの系統の出身である。父系としてはややNearcoの系統としてはやや異端の存在となるが、3歳時にPrix Congress (G2)勝利などフランス障害競走で一定の活躍を見せた同馬は、種牡馬としては2015年のScilly Isles Novices' Chase (G1)を勝利したGitane Du Berlaisを送り出すなどイギリス・アイルランド・フランスにおいて一定の成功を収めており、Balko Des Flosもその代表産駒の一頭である。

Balko Des Flosは2018年のRyanair Chase (G1)の勝ち馬。その後も精力的にG1戦線への出走を続けていたが、G1路線でも好走を続けていた2017-18年当時の勢いを取り戻すことはできず、2019年以降は重賞戦線で入着すらなく、前走は矛先を変えてCheltenhamのGlenfarclas Cross Countryに参戦するも、途中で落馬に終わっている。上記Ryanair Chase (G1)の勝利とは言え、本来20fは少々長いはずのUn De Sceauxをターゲットに上手く乗った感もあり、本来20~24fの一線級相手だと苦しいというのが元々の立ち位置のような印象もある。どうやら今年3月のGoffs Online Saleでセリに掛けられていたようで、馬主のGigginstown Studは重賞クラスで厳しいと判断した高齢馬をセリにかける傾向があることも踏まえると、やや力落ちが否めないというのが現状だろう。前走のGlenfarclas Cross Countryで落馬に終わったことも考えると、若干National Fenceへの対応と言う意味でも不安が残る。

 

17. Alpha Des Obeaux 10st9lb J: Jody McGarvey T: Mrs Denise Foster (Pedigree)

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上記Saddler Makerの産駒。母Omega Des Obeauxはフランス障害競走で3戦未勝利だった馬。母父Saint Preuilは日本でも繋養されたTrafficの子孫で、HyperionからAlibhaiを経て連なる系統の出自である。障害種牡馬としてはPrix Jean Stern (G2)を勝利したSaint Realise、Prix Des Drags (G2)の勝ち馬Louping D'Ainayを輩出しており、主に2000年初頭にかけてイギリス・フランス障害競走で活躍馬を出した種牡馬である。DamsireとしてはこのAlpha Des Obeauxが代表的だが、先日のQueen Mother Champion Chase (G1)にてWillie Mullins厩舎の秘密兵器的な立ち位置であったCilaos Emeryの母QueissaもSaint Preuilの産駒である。

Alpha Des Obeauxは遡れば2015年のTattersalls Ireland Champion Novice Hurdle (G1)やHatton's Grace Hurdle (G1)、LeopardstownのChristmas Hurdle (G1)、World Hurdle (G1)での2着がある馬。ChaseではClonmel Oil Chase (G2)勝ちを始めDrinmore Novice Chase (G1)の3着など頑張っており、2020年初頭くらいまでは大きく崩れずに走っている。ただしそれ以降はさっぱりで、今シーズンのDown RoyalのChampion Chase (G1)も鞍上のBrian Cooperが相当強引に押していってハナをに立って進めるなど、だいぶ年齢的にズブさが出てきたような印象がある。前走はGlenfarclas Cross Countryに挑み、勝ったTiger Rollが強すぎるのはともかく、Cross Country初戦の馬としては上々の4着に入った。元々持っている能力はG1クラスであり、前走のCross Countryで馬が何かを思い出していれば良いのだが、さすがにほぼ最下位が途中棄権という今シーズンの成績からは年齢的なものを考える方が妥当だろう。Grand Nationalは2018年に一度参戦し、第15障害のChairで落馬に終わっている。鞍上Jody McGarveyは先日のFairyhouse Easter Festivalで1日にG1をSkyace及びJanidilで2勝しており、鞍上の勢いという意味では素晴らしいものがある。

 

18. Ok Corral 10st8lb J: Derek O'Connor T: Nicky Henderson (Pedigree)

Ok Corralは上記Mahlerの産駒。母父もFlemensfirthと、血統的にはまさにイギリス障害馬のそれである。母AcoolaはPoint-to-PointでMaiden勝ちを上げた馬で、産駒としてはOk Corralの他に先日のNational Hunt Challenge Cup (G2)にも挑戦したLithic、下級条件戦で障害競走2勝を挙げているBreaking Wavesを輩出している。

Ok Corralは2018年のAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)の2着馬。その後Chaseに転向し、Sky Bet Handicap Chase (Listed)勝ちなどを挙げている。ただし本来目標としていたと思われるハンデ戦における実績はいまいちで、2019年のLadbrokes Trophy (G3)では大敗など、どうにも結果を残せていないところが気がかりである。距離的にも2019年のNational Hunt Challenge Cup (G2)では途中棄権に終わっているようにどうにも不安が残る上、約1年ぶりの復帰戦となった今年3月のUltima Handicap Chase (G3)も途中棄権と、馬の調子の面でも微妙である。ここまで長期の休養を挟みながらレースに使っているためにChaseも7戦と経験値も少なく、本来持っていた能力は高いと思われるものの、11歳とベテランの域に入ったここまで、その能力を生かし切れていないというのが現状だろう。Nicky Henderson厩舎は元々SantiniやPym、Beware the Bearをここに登録しており、ハンディキャップを踏まえるとこれらの3頭の出走は可能だったのだが、出走はこの馬1頭に絞ってきた。Nicky Henderson調教師自身慎重な人だけに何かしらの勝算があったのかもしれないが、SantiniやPymなど他の3頭の調子がいまいちであったことを踏まえると、Nicky Henderson調教師がわざわざ出走させてきた馬、という意味では強調しにくいところがある。

 

19. Takingrisks 10st7lb J: Sean Quinlan T: Nicky Richards (Pedigree)

父Golden Tornadoは例によってSadler's Wellsの産駒である。National Hunt Sireとして活躍したFourstars Allstarの半弟で、Golden Tornado自身は未出走馬ながらも種牡馬入りしている。産駒としてはこのTakingrisksが代表的で、他にはGuiness Greenmount Park Novice Chase (G2)勝ちのあるDancing Tornado、2010年のAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)を勝利したBerties Dreamなどを送り出している。

Takingrisksは2019年のScottish Grand National (G3)の勝ち馬。もともと超長距離のハンデ戦でコンスタントに走っていた馬で、今年で12歳になる高齢馬だが、今シーズンは1月のSky Bet Handicap Chase (Listed)を勝利するなど馬の調子はいいようだ。どうにも最近は高齢馬らしく好走と大敗を繰り返しているように信頼できない部分があるのだが、人気を良い意味でも裏切るような突然の好走歴が多く侮れないところがある。馬場不問で走れること、走る気にさえなれば非常にしぶといパフォーマンスを見せることが出来る馬で、高齢馬の一発に期待したい。

 

20. Shattered Love 10st7lb J: ●●● T: Mrs Denise Foster (Pedigree)

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YeatsはSadler's Wellsの産駒で、Ascot Gold Cup (G1)を4度も制覇したイギリスの名ステイヤーだが、例によって障害種牡馬として成功した馬である。その代表産駒としてはフランスでPrix Maurice Gillois (G1)にて30馬身差の圧勝を飾ったFiguero、つい先日のStayers' Hurdle (G1)を逃げ切ったFlooring Porter、フランスのPrix Renaud Du Vivier (G1)を制覇し、その後はイタリア・チェコで活躍を続けるCapivariなどが挙げられる。Yeatsの母Lyndonvilleは繁殖牝馬としてエプソムカップ (G3)を制し、NHKマイルカップ (G1)の2着のあるツクバシンフォニー(父:デインヒル)を出しており、ツクバシンフォニーの半弟といえば競馬歴が長いファンには馴染みがある馬かもしれない。

Shattered Love自身は2018年のJLT Novice Chase (G1)を含むNoviceのChase G1を2勝したアイルランドの名牝だが、その後はG1の一線級相手には良績を残せず、10歳となった今年までListedの2勝のみに留まっている。20fくらいの距離で馬場が渋ったところをゆったりと追走した方が良いタイプで、24fではNeville Hotels Novice Chase (G1)勝ちはあるものの、それ以外のレースを見るとどうにも24fはいまいちなような印象がある。ひとまず前走は比較的得意とするCheltenhamのMrs Paddy Power Mares' Chase (G2)という新設重賞にてColreevyの3着に入るなど調子はいいようだが、本質的に距離延長が向くタイプのようには思えない。Aintreeの平坦なコースよりはパワーを生かすことが出来る起伏のあるコースの方が向いているような印象もあり、初めてのNational Fenceであることも踏まえると状況的にはやや厳しそうだ。

 

21. Jett 10st7lb J: Mr Sam Waley-Cohen T: Mrs Jessica Harrington (Pedigree)

上記Flemensfirthの産駒。母父Phardanteは障害馬の母父として成功を収めており、2015年頃にHurdle路線で暴れまわったアイルランドの名馬Jezkiを始め、Aintree Hurdle (G1)やGrande Course de Haies d'Auteuil (G1)勝ちを上げるも先日レース中の事故が原因で亡くなったL'ami Sergeなどを輩出している。

Jett自身は2019年のDevenish Chase (G2)などの勝ち鞍がある馬で、ここまでNational Hunt Flatを含む43戦と頑張っている。特にG1クラスでも怯むことなく果敢にチャレンジを続けているが、どうにもそのチャレンジがうまくいったような感はなく、2019年のIrish Daily Star Chase (G3)の勝利を最後に勝ち星からは遠ざかっている。元々引っかかって走ることがあるように乗り難しいタイプの馬のようで、ある程度ペースが上がった方が走りやすそうな印象もあるのだが、そういっても2020年以降は途中棄権か勝ち馬から大きく離された大敗ばかりで、10歳という年齢も考えるとさすがに強調しにくいところがある。昨年のBecher Chase (G3)にも出走しているが、勝ち馬からは大きく離れた8着に終わっている。距離云々よりも馬の調子の方が課題になりそうだ。Mr Sam Waley-Cohenはアマチュア騎手だが、かつてはLong Runとのコンビでイギリス障害戦線を沸かせた代表的なアマチュア騎手である。

 

22. Lord Du Mesnil 10st6lb J: Nick Scholfield T: Richard Hobson (Pedigree)

上記Saint Des Saintsの産駒。母父Turgeonは障害種牡馬としては大成功を収めた馬で、2013年のPrix La Haye Jousselin (G1)の勝ち馬Shannon Rockを始め、Lexus Chase (G1)の勝ち馬Exotic Dancer、2011年のGrande Prix D'Automne (G1)の勝ち馬La Segnora、2012年Grande Course de Haies D'Auteuil (G1)にてThousand Starsの3着に入った牝馬Formasa Joana Hasなど活躍馬を多数送り出している。Turgeonの産駒として日本ではグレイスカノン、ノモチアーの2頭が登録されており、グレイスカノンはヒシピナクルの勝利したローズステークス (G2)にも挑戦している。グレイスカノンの産駒としては残念ながら地方で1勝を上げたネオコルテックス、ルマンメモリがいる程度で、中央には現役馬としてジャングルポケット産駒のネフュージュニアもいるのだが、ここまで3戦していずれも単勝式3桁人気、勝ち馬から2秒以上離れた2桁着順と、勝ちあがりを期待するという意味ではだいぶ厳しい状況のようだ。

Lord Du Mesnilはもともとフランスでキャリアをスタートした馬で、その後イギリスに移籍。イギリス移籍後のChase2戦はいずれも落馬に終わったのち、しばらくHurdleを使って勝ち星を上げることはできなかったのだが、2019年のNewcastleのNovice Chaseを勝利すると、そこから3連勝。Grand National Trial (G3)、National Hunt Challenge Cup (G2)と連続で2着に入り、一躍重賞戦線への仲間入りを果たした。今シーズンはHaydockのGrand National Trial (G3)を制すなど調子は良さそうだが、どうにも不良馬場のようなペースが上がりようがない状況でゆったりと運んだ際の持久力に秀でた馬といったところで、良馬場になった際の対応力にはやや疑問が残る。特にWelsh Grand National (G3)ではあまり良いところはなく終わっており、National Fenceを用いるGrand Sefton Chaseも途中でミスをして9着と大敗している点は気がかりな材料である。

 

23. Potters Corner 10st6lb J: Jack Tuder T: Christian Williams (Pedigree)

その名の通りDanehillを父に持つIndian Danehillの産駒となる。平地競争馬としてPrix Ganay (G1)の勝利のある同馬は種牡馬としてもそれなりに頑張っており、このPotters Cornerが代表産駒ではあるが、それ以外にも2015年のGalway Plate (Grade A)の勝ち馬Shanahan's Turnを送り出している。ただ、Danehillの系統は日本でもHerbingerなどが種牡馬として大活躍しているが、どちらかというとオーストラリアを中心に栄えているようで、あまりヨーロッパ障害競馬で活躍馬を送り出すようなイメージには乏しい。

Potters Cornerは2019年のWelsh Grand National (G3)の勝ち馬。もともとクラス3あたりの超長距離ハンデ戦を使っていた馬で、2019年の3月にはUttoxeterの34f戦であるMidlands Grand National (Listed)も勝利している。今シーズンは11月にGlenfarclas Cross Countryを使いKingswell Theatreの3着に入ったのち、Hurdleを2回叩いてここに挑んできた。ローテーションとしては完全にここを目標にしてきたもので、特にGlenfarclas Crossにて初のCross Countryであるにも関わらず好走したことは強調材料だが、馬の特徴としては不良馬場でのタフな持久戦に強いタイプで、スピードを要する良馬場への対応となるとやや微妙なところがある。Jack Tuderは18歳の若手騎手。Welsh Grand Nationalをたったの17歳で勝利して話題になった期待の新星である。ちなみに昨年のGrand Nationalは新型コロナウイルス感染症の影響で中止になったため"Virtual Grand National"が話題になったのだが、その勝ち馬がこのPotters Cornerである。"Virtual"の勝ち馬が"Real"の勝ち馬になることが出来るのか、注目の一頭である。

 

24. Class Conti 10st6lb J: Brian Hayes T: Willie Mullins (Pedigree)

お馴染みSadler's Wellsの直系であるPoligloteの産駒。イギリスでJLT Melling Chase (G1)、Tingle Creek Chase (G1)を勝利した葦毛のPolitologueが代表産駒として良く知られているが、チェコVelka Pardubickaを制したTzigane Du Berlaisや、2015-16とGrand Steeplechase de Paris (G1)を制したSo Frenchなど、欧州障害競走を中心に多数の活躍馬を送り出している。日本では2012年の凱旋門賞を制し、2012年のジャパンカップにも参戦したSolemiaがこのPoligloteの産駒でお馴染みなのだが、実はそれから約10年ほど前にアンドアイラブハーという馬が輸入され中央競馬でデビューしている。ただし成績的にはあまり良いところはなく、ダートの中距離未勝利戦を勝利したのみで障害競走への出走もなく終わっている。

Class Contiはフランス産馬で、いわゆる"Autre Que Pur-Sang"(AQPS)という呼ばれる類の馬である。フランスでは2016年のPrix The Fellow (G3)における4着が目立つ程度だが、メンバー的にはTriana Du Berlais、Carriacou、Sainte Turgeon、Galop Marinなど今から考えればなかなかいい馬が揃っていたようだ。2019年の春からアイルランドに移籍しているが、アイルランドでの成績はいまいちで、デビュー戦となったTramoreの1勝のみに留まっている。いちおうGodds Thyestes Handicap Chase (Grade A)でのTotal Recallの2着やLeinster National (Grade A)の4着など惜しいレースもあるのだが、基本的には重い馬場の超長距離戦で浮上するといった成績で、良馬場への対応という意味では不安が残るのが現状だろう。イギリスへの遠征もこれが初めてとなる。

 

25. Milan Native 10st6lb J: Mr Jamie Codd T: Mrs Denise Foster (Pedigree)

名前の通りMilanの産駒で、Milan自身も例によってSadler’s Wellsの直系である。英St Leger (G1)の勝ち鞍のあるMilanは障害種牡馬として活躍しており、上記アイルランドの至宝Jezki、スコットランド調教馬として歴史的なGrand Nationalの勝利を上げたOne For Arthurなどの活躍馬を多数送り出している。Milanの母Kithangaはアイルランドで重賞勝ちのある馬だが、このMilanの全妹Kitty Wellsが日本に輸入されているのか、Golden Hornの産駒がセレクトセールで取引されているようだ。産駒の障害競走における活躍を期待したい。ちなみにKithangaの全妹Karlayaも日本に輸入されているようだが、残念がら目立った活躍馬は出していない。

Milan Nativeは昨年のFulke Walwyn Kim Muir Challenge Cupの勝ち馬。スピード能力よりも飛越技術と持続力を要求されるCheltenham Festivalのアマチュア騎手限定の26f戦であるが、今シーズンのM.W. Hickey Memorial Chase (G3)は勝ったMinella Indoが強すぎたのでともかくとしても、その後のPortstown Handicap Chase (Grade B)、Paddy Power Chase (Grade B)と大敗しているのは少々頂けない。CheltenhamのUltima Handicap Chase (G3)もやはり大敗しており、どうにも24f以上の距離が良いようなイメージもなく、ここまでの実績的にはやや厳しそうだ。

 

26. Discorama 10st6lb J: Bryan Cooper T: Paul Nolan (Pedigree)

上述Saddler Makerの産駒で、このDiscoramaという馬もAQPSと呼ばれる類の馬である。AQPSとは"Other Than Thoroughbred"という意味で、サラブレッドとAnglo-Arabians、Selle Francais、French Trottersなどとの交雑種となる。母Quentalaは未出走馬で、ここまでDiscoramaを除くと活躍馬は送りだせていないようだ。母父Lone BidはNorthern Dancerの系統でもSovereign Dancerを経る比較的マイナーなラインの出身だが、種牡馬としてはあまり活躍馬は送り出してないようだ。

Discoramaはアイルランド調教馬で、目立つ成績としてはNational Hunt Challenge Cup (G2)におけるLe Breuilの2着がある。G1クラスでもPunchestwon Champion Novice Chase (G1)にてDelta Workの2着もあり、スピード能力はともかくとしてもしぶとく走るタイプといったところだろう。今シーズンのCheltenhamのPlanteur At Chapel Stud Handicap Chase (G3)は前半引っかかって大敗に終わっているが、初めてのRobbie Power騎手との手が合わなかったという可能性も考えられる。距離延長は歓迎材料なはずで、比較的良馬場での良績もあることはプラスに考えてよいだろう。持っている能力を考えれば10st6lbという斤量はかなり恵まれたと考えてよさそうだ。

 

27. Vieux Lion Rouge 10st5lb J: Conor O'Farrell T: David Pipe (Pedigree)

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 父Sabiangoはドイツで発展しているSurumuに由来する系統の出身で、この系統として有名なのは1995年のジャパンカップ (G1)を制したLandoが挙げられるだろう。Landoの産駒としては2017年のČeské derby (G3)を勝ったJosephがいたりと、東欧諸国の競馬ファンにとってはテンションの上がる系統なのだが、Sabiango自身の障害種牡馬としての成績は微妙で、唯一このVieux Lion Rougeが一頭だけ気を吐いている程度である。

Vieux Lion Rougeはいわゆる"National Specialist"。National Courseにおける経験値に関しては出走馬、むしろ現役馬の中でも圧倒的なものを持っている。National Courseはここまで2016年から合計9戦を経験しており、Grand Nationalだけでも2016年、2017年、2018年、2019年とここのところはもはや皆勤賞である。2019年はさすがにパフォーマンスを落としていたのだが、11歳で挑んだ昨年のBecher Chase (G3)は2着のKimberite Candyに24馬身をつける大楽勝を見せ、古豪健在ぶりを見せつけた。前走のWelsh Grand National (G3)は特に見せ場なく敗れているが高齢馬にはいつものことだろう。ただし、むしろ気になるのが2016年は7着、2017年は6着と、2018年及び2019年も完走するも大敗と、終盤では先頭集団から大きく脱落しての入線に終わっており、本質的にこの距離は長いような印象がある。12歳となったベテランでなんとか頑張って欲しいのだが、ここまでのGrand Nationalにおける成績から考えると若干厳しそうだ。

 

28. Cloth Cap 10st5lb J: Tom Scudamore T: Jonjo O'Neill (Pedigree)

父Beneficialは上記Balkoと同じく、Phalaris - Nearcoのラインのうち、NasrullahやTurn-To、Northern Dancerを経ないDanteの系統の出身である。平地競争馬としてはKing Edward VII Stakes (G2)が目立つ程度だが、障害種牡馬としてはなかなか頑張っており、RSA Chase (G1)及びDr PJ Moriarty Novice Chase (G1)を勝利したCooldine、FairyhouseのGold Cup Chase (G1)やFrank Ward Solicitors Arkle Novice Chase (G1)を勝利したRealt Dubh、2014年のWorld Hurdle (G1)の勝ち馬More of Thatなど活躍馬を輩出している。代表産駒としては主に牝馬限定戦で活躍し、Yorkshire Rose Mares' Hurdle (G2)など計15勝を上げたLady Buttonsもおり、つい先日引退し繁殖牝馬として大いに期待されていたのだが、残念ながら生殖能力がないことが判明している。

Cloth Capは現時点で前売り一番人気に押されている馬。もともと長距離ハンデ戦で頑張っていた馬で、2019年のScottish Grand National (G3)では10st0lbの軽量を生かして3着もあるのだが、今シーズンは特に調子を上げており、Ladbrokes Trophy (G3)では10st0lbの利もあったものの2着のAye Rightに10馬身をつける圧勝、次ぐKelsoのPremier Chase (Listed)もAsoに7馬身差をつける勝利と勢いに乗っている。Premier Chaseはこれまでの軽量とは異なり11st2lbを背負ってのレースで、Aso、Two For Goldといった24f Chase重賞戦線の常連を寄せ付けないレースを見せたのはなかなかに立派なパフォーマンスであった。32fにも対応できる持久力と近走の勢いという意味では非常に楽しみな一頭だろう。当然課題は初のNational Fenceとなる。

 

29. Cabaret Queen 10st5lb J: ●●● T: Willie Mullins (Pedigree)

父King's Theatreは例によってSadler's Wellsの産駒で、現役時代はKing George VI And Queen Elizabeth Diamond Stakes (G1)を始め主にイギリス中距離戦線で活躍した馬である。National Hunt Sireとしては大成功を収めており、2015年のKing George VI Chase (G1)を始め、現役時代にはG1を8勝した2010年台を彩る名馬Cue Cardを始め、Aintree Hurdle (G1)などを勝利し現役生活で合計20勝を上げたThe New One、上記L'ami Serge、アイルランドの至宝Carlingford Lough、Grand National (G3)においてPineau De Reの2着などの実績のあるCross Country HorseであるBalthazar Kingなど、2010年台において数々の活躍馬を輩出している。残念ながら2011年の6月に亡くなっており、Cabaret Queenはそのラストクロップの一頭である。

Cabaret QueenはもともとイギリスDan Skelton厩舎でC3当たりの24f戦辺りを使っていた馬だが、2019年からアイルランドWillie Mullins厩舎に移籍している。ビッグタイトルとしては2020年のKerry National (Grade A)の勝ち鞍はあるのだが、今年に入ってからの3戦はいずれもさっぱりな成績に終わっている。どうにも戦術的にはハナに立ってレースを引っ張りたいタイプのようだが、ここのところは騎手が毎回変わっている上に、同厩舎のBurrows Saintに主戦騎手Paul Townendが騎乗する可能性があること、Paul TownendがFairyhouseのEaster Festivalで落馬し、Irish Grand Nationalの騎乗を取りやめているというのはこの馬にとってマイナス材料だろう。Yala EnkiやAcapella Bourgeoisなど同型馬も多く、近走成績からはどうにも難しそうだ。

 

30. Minellacelebration 10st5lb J: Benjamin Poste T: Katy Price (Pedigree)

上記King's Theatreの産駒。King's Theatreの産駒として、日本でもお馴染みなのはAlkaasedの勝利した2005年のジャパンカップに参戦したKing's Dramaかと思われるが、残念ながら同レースでは特にいいいところなく16着に大敗している。また、同時期にマチカネアカダイヤという牡馬が日本でデビューしているが、11戦を消化するもデビュー戦の5着が最高で勝利を上げることはできなかったようだ。

Minellacelebrationは今年11歳になるベテランで、なにか大舞台でどうこうということはないのだが、2020年のUttoxeterの夏恒例の競争であるSummer Cup Handicap Chase (Listed)の勝利がある。基本的にはC3~C2辺りの長距離ハンデ戦で活躍するタイプだが、ここまで案外24fを越えるような距離への出走経験はなく、2回ほど挑戦したNational Fenceの競争もいずれも良いところなく終わっている。2019年のBecher Chase (G3)の大敗はノドの影響があったことが想定されること、昨年のBecher Chase (G3)はコーナーでの落馬ということであまり気にしなくていいような感触もあるのだが、距離延長という意味では若干微妙かもしれない。Katy PriceはWalesのHay-on-Wyeという古書店街で知られた小さな町に拠点を置く調教師で、ここまで目立った活躍馬はなく、このMinellacelebrationが一頭突出した活躍を見せている。Minellacelebrationに2016年から一貫して乗り続けているBenjamin Posteという騎手もまた大レースの勝利等の目立った成績はなく、やはりこのMinellacelebrationがほぼ唯一の活躍馬である。実績的には厳しそうな感もあるが、11歳まで元気に活躍してきた陣営一番のベテランホースの挑戦ということで、陣営のここに賭ける意気込みは並大抵のものではないだろう。

 

31. Canelo 10st4lb J: Thomas Bellamy T: Alan King (Pedigree)

上述Mahlerの産駒。Sadler's Wellsの産駒の中でもGalileoは突出して系統を伸ばしており、平地の活躍馬としては日本でもお馴染みFrankel、Rip Van WinkleNathaniel、Waldgeistといった産駒を出しているが、一方でイギリス・アイルランドにおける障害競走馬というと平地と比べると若干微妙で、Aintree Hurdle (G1)などG1を3勝したSupasundae、JCB Triumph Hurdle (G1)の勝ち馬Celestial Haloがいる程度である。むしろオーストラリアに目を向けると、VIC州Grand National Steeplechaseを3度勝利したオーストラリアの名馬Wells、Galleywood Hurdleを勝利し、その後Cheltenham Festivalに出たいということでイギリス・アイルランドに果敢にも遠征したBig Blueを輩出している。

Caneloは昨年12月のRowland Meyrick Handicap Chase (G3)の勝ち馬。Handicap Chaseとはいえ実質的にはあまりハンデ差はなく、11st6lbであったとはいえ最軽量の牝馬Snow Lepardessが10st13lbで、出走頭数も8頭とあまりハンデ戦らしくないハンデ戦である。前走のDoncasterのC2 Handicap Chaseでの3着は軽量馬にやられたものであまり気にしなくても良さそうなのだが、ここまで24fを専門に使ってきた馬というよりは20fから距離延長してきたばかりといった印象で、8歳という年齢を考えると上積みがあってもおかしくはないのだが、やはり初距離と初のNational Fenceが課題となるだろう。

 

32. The Long Mile 10st4lb J: Luke Dempsey T: Philip Dempsey (Pedigree)

父Kayf TaraはSadler's Wellsの産駒。日本でもお馴染みOpera Houseの全弟で、イギリス・アイルランドにおいて大成功した障害種牡馬の一頭である。その代表産駒は24f Hurdle路線において無敵を誇り、Novice馬ながらKing George VI Chase (G1)勝利という快挙を成し遂げたThistlecrackで、同馬自身その後は故障に苦しみ本来のパフォーマンスを取り戻すことはできなかったのだが、全盛期に見せた圧倒的な運動能力は記憶に深く刻まれるものであった。他にも2017年のQueen Mother Champion Chase (G1)など16f Chase路線で活躍し、12歳になるまで元気一杯馬群を引っ張るレース運びで観客を沸かせたSpecial Tiara、女性騎手Lizzie KellyとのコンビでBowl Chase (G1)を制したTea For Two、2018年のIrish Gold Cup (G1)の勝ち馬で、故障を乗り越えての劇的な復活劇を遂げた"miracle horse"と呼ばれたEdwulfなど、多彩な活躍馬を多数送り出している。

The Long Mileは昨年のTim Duggan Memorial Handicap Chase (Grade B)の勝ち馬。基本的には20f程度のハンデ戦を主戦場としている馬で、重馬場~不良馬場での良績が殆どである。24f以上のレースはHurdle時代に一度使っているのと、前走のBobbyjo Chase (G3)が久しぶりの参戦であり、Acappella Bourgeoisの3着に終わっている。同レース自体、基本的にはAcapella Bourgeoisがのんびりと自分のペースで運んだといった内容で、本質的な24fのハンデ戦というレースではない。7歳と年齢制限ぎりぎりの若齢馬で未知の魅力はあるのだが、やはり一気の距離延長が課題だろう。

 

33. Give Me A Copper 10st4lb J: Harry Cobden T: Paul Nicholls (Pedigree)

父PresentingはBlandfordからDonatelloに連なる系統の出自である。Presenting自身は障害種牡馬としては大成功を収めており、2000年台後半に"The Tank"の異名で24f ChaseのG1路線で暴れまわったDenmanをはじめ、2006年にはCheltenham Gold Cup (G1)からPunchestown Gold Cup (G1)制覇の快挙を成し遂げたWar of Attrition、50戦して2着9回、3着12回という驚異的な堅実振りを誇ったFirst Lieutenantなど、イギリス・アイルランドにおける活躍馬を多数送り出している。

イギリス障害競走リーディングトレーナーのPaul Nicholls厩舎が送り込む馬。ここまでWincantonのBadger Beers Silver Trophy Handicap Chase (Listed)の勝ち鞍がある馬で、基本的には24f超のハンデ戦を主戦場にしている。今年で11歳となるベテランだがChaseでの実績は9戦と多くはなく、どうにも途中で2回も1年近い休養を挟んでいたりと、あまりレースに詰めて使っていないようだ。おそらく良馬場でやりたいタイプのようで、馬場が渋ると極端にパフォーマンスを落とすところがある。ただしどうにも乗り難しい部分があったり、苦しくなるとミスをしたりとレース振りが安定していないようで、経験値という点でも若干微妙なところがありそうだ。

 

34. Farclas 10st3lb J: Jack Kennedy T: Mrs Denise Foster (Pedigree)

祖父にMontjeuを持つJukebox Juryの産駒。Irish St Leger (G1)やPreis von Europa (G1)の勝ち鞍のある同馬は、2010年のブエナビスタが参戦し2着に入ったDubai Sheema Classic (G1)にも参戦しているので、名前を見たことがあるという競馬ファンはいるかもしれない。種牡馬としては2020年のHeavyの2m4f戦ということで話題になったPrix Du Cadran (G1)勝ちのあるPrincess Zoeを出しているが、障害種牡馬としての成績はわりと微妙で、せいぜいこのFarclasが一頭頑張っている程度である。

Farclasは2018年のJCB Triumph Hurdle (G1)の勝ち馬。振り返るといきなりMaidenから挑んできたSaldierくらいしかその後の活躍馬が出ていないこのレースを勝利したのは良いのだが、2018-19シーズンはSenior Hurdleに挑むもさいっぱり良いところはなく5戦全敗。2019年の5月にChaseに転向し、そこから夏場にNovice競走を3連勝している。そこから1年以上の休養を経て、今シーズンは主にハンデ戦を使っており、勝ち星を上げるには至らなかったものの全体的に崩れずに頑張っており、CheltenhamのPaddy Power Plate Handicap Chase (G3)にてThe Shunterから3馬身離れた2着がある。元々持っている能力を考えればここで10st3lbで走ることが出来るというのは大いに魅力的であり、Chaseでの経験が乏しいにも関わらずHandicap Chaseで崩れずに走っているのは強調材料だろう。24f以上の経験にも乏しく、なかなかにハードルは高いのだが、7歳とまだ若い馬だけに伸びしろに期待したい。

 

35. Minella Times 10st3lb J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead (Pedigree)

上記Oscarの産駒。Oscarの母Snow Dayの妹Vindanaは日本に輸入されたようだが目立った産駒は残せず、父Shady Heightsのホッカイサクセスという馬が1994年に未勝利戦を1勝した程度である。また、Oscarの半姉Ionian Seaは2012年のジャパンカップにも参戦したMount Athos、Imperial Moarchといった活躍馬を送り出しているのだが、それらの姉Roman Empressは日本に輸入され、その産駒バルバレスコ(父ロードカナロア)は中央競馬で2勝を挙げている。

Minella Timesは上記Henry de Bromhead厩舎の一頭。基本的に24fのハンデ戦を使ってきた馬で、2019年にはFoxrock Handicap Chase (Grade B)において9st10lbの軽ハンデでの勝利がある。その後やや斤量を上げるもパフォーマンスを落とすことはなく、久しぶりの24f戦となったPaddy Power Chase (Grade B)、2月のGaelic Plant Hire Leopardstown Handicap Chase (Grade A)でも2着に入るなど、馬の調子は良さそうだ。20f程度の距離にも対応できるスピードと、比較的馬場は不問で走ることが出来る安定感は魅力だろう。ハンデ戦の経験も多く、馬群の中で進めるレースに慣れていることはこの超多頭数となるGrand Nationalにおいて強力な武器である。一方で24f超のレースの経験は比較的乏しく、課題は距離とNational Fenceになるだろう。

 

36. Sub Lieutenant 10st3lb J: Tabitha Worsley T: Ms Georgie Howell (Pedigree)

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Sadler’s Wellsの直仔のBrian Boruの産駒となる。Brian Boruは2歳時にはRacing Post Trophy (G1)を制し、DoncasterのSt Leger (G1)を制した実績のある馬で、2004年のAscot Gold Cup (G1)では天皇賞春を横山典弘騎手とのコンビで逃げ切ったイングランディーレと対戦している。障害種牡馬としてはこのSub Lieutenantをはじめ、Noel Novices' Chase (G2)勝ちをはじめ長く活躍したFox Appeal、2014年のClassic Chase (G3)を制したShotgun Paddyなどを送り出している。ちなみにBrian Boruの全妹Soviet MoonはWorkforceの母、同じく全妹KushnarenkovoはBest Solutionの祖母であり、母系という意味では活躍馬を輩出している一族の出身である。ちなみに上記Kushnarenkovoの産駒ウィズアミッションは日本で現役生活を送り中央で2勝をあげ、現時点でキタサンブラックドゥラメンテの産駒がいるようだ。

Sub Lieutenantはもともと複数の重賞勝ちを上げ、Novice Hurdleから20fのChase G1戦線でも活躍した馬で、特にキャリアピークの2017年にはRyanair Chase (G1)、Melling Chase (G1)と連続で2着に入る頑張りを見せている。ただし2018年のIrish Daily Star Chase (G3)を最後に勝ち星はなく、既に力量的にG1クラスでは通用しなくなって久しい。2020年の段階で馬主が元々のGigginstown House StudからGeorgie Howellに代わり、Henry de Bromhead厩舎から馬主兼調教師のGeorgie Howellのもとへ移籍している。イギリス移籍後はAscotのSilver Cup (Listed)、Swinley Chase (Listed)と連続で4着に入り、この馬なりに頑張ってはいるものの、やはり全盛期と比べると程通いパフォーマンスではある。一方で2019年のTopham Chase (G3)ではCadmiumの2着に入った経験もあり、National Fenceへの適性という意味では決して悪くないものがある。20f程度の距離での良績が多いのだが24fでの成績がからきしといったこともなく、イギリスでの2戦も全くの人気薄ながらしぶとく頑張っており、距離延長が全くのマイナスに働くということはないだろう。12歳のベテラン馬による捲土重来を期待したい。WorcestershireのTenbury Wellsという小さな町に拠点を置くGeorgie Howellは調教師としての勝ち星は未だなく、どうやら騎乗する女性騎手Tabitha Worsleyの母親だそうだ。Tabitha Worsleyは落馬による背骨の骨折から17カ月後にTop WoodとのコンビでAintreeのNational Courseを使用するアマチュア騎手のための競争であるFoxhunters' Chaseを勝利した不屈の騎手である。このような重賞実績があり、ある程度のレーティングを持つベテラン馬はしばしばGrand Nationalを目指して購入される場合があるのだが、この馬の場合は本来そのような目的ではなく、Ascotでのパフォーマンスを踏まえてGrand Nationalへの参戦を決定したそうだ。この馬がGrand Nationalを勝利したら伝説になるだろう。

 

37. Hogan's Height 10st3lb J: Gavin Sheehan T: Jamie Snowden (Pedigree)

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父Indian Riverはフランス産馬で、Northern Dancer - Nijinskyの系統からGreen Dancerを経るラインとなる。Hogan's Heightの祖父Cadoudalは種牡馬としてSaint Des Saintsを輩出しており、Saint Des Saints自身、上述のようにGoliath Du Berlaisを始めとする後継種牡馬が存在している。フランスで障害馬として現役生活を送り、現役時代にはPrix Du President De La Republique (G3)勝ちのある同馬は、Cheltenham Gold Cup (G1)の勝ち馬Native Riverを始め、Gras Sasvoye Hipcover Prix La Barka (G2)を勝利し、2000年台後半のフランスHaies重賞戦線で活躍したShinco Du Berlais、2008年のHennessy Gold Cup (G3)の勝ち馬Madison Du Berlaisなどを輩出している。

Hogan's Heightは2019年のGrand Sefton Chaseの勝ち馬。Novice時代にはMildmay Novices' Chase (G1)への参戦もあるのだがいいところなく終わっており、その後は基本的にC3辺りの20~24f戦を使おうという意図があったようだ。ただし途中でノドの問題でWind Surgeryがあり、その後はNovice戦を使えることもあってHurdleで復帰していた。2019年のGrand Sefton Chaseの後はやはりHurdleで復帰し、前走はGlenfarclas Cross Countryを使ってここに備えてきたようだ。ただし今シーズンの2走はいずれも微妙で、復帰戦となったC3のHurdleは途中棄権、Glenfarclas Cross Countryではさすがに勝ったTiger Rollが強すぎるというのもあるのだが、後方でさっぱりレースに参加せずに終わっており、National Fenceへの適性はありそうということを差し引いても、馬の状態という意味で疑問が残りそうだ。ちなみに、Hogan's Heightは合計20人の共同馬主であり、どうやらGrand National当日には各馬6人までの馬主の会場参加が認められたとのことは、関係者にとっては大変嬉しいニュースだろう。

 

38. Double Shuffle 10st2lb J: Jonathan Burke T: Tom George (Pedigree)

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上記Milanの産駒。母Fiddlers BarはHurdleで1勝を上げたのみの馬だが、繁殖牝馬としては2018年のDecember Novices' Chase (G2)の勝ち星があり、現役で24fのクラス2あたりで活躍するRocky's Treasureを出している。母父Un Desperadoの代表産駒はなんと言ってもBest Mateで、2002~2004年においてCheltenham Gold Cup (G1)を3連覇し、2005年のHaldon Gold Cupにおいて心不全で亡くなった際には大ニュースとなった。Best Mateの遺灰はCheltenham競馬場のゴールポストの横に埋葬されている。Damsireとしては上記BallyopticもこのUn Desperadoを母父に持つ馬である。

Double Shuffleは遡ると2017年のKing George VI Chase (G1)にてMight Biteの2着がある馬。その後もG1路線に出走を続けていたが、2019年からはめっきり頭打ち状態となり、ここのところはVeterans' Seriesを始めとするハンデ戦へと舞台を移している。今年1月にはC2のHandicap Chaseを勝利するなどこの馬なりに元気なようだ。ただし元気とはいってもKempton競馬場のCourse Specialistで、Grand Nationalは2017年に挑むも勝負所から脱落して途中棄権と、当時と比較して大きく力落ちがある現状、さすがにここでどうこうというのは厳しいかもしれない。

 

39. Ami Desbois 10st2lb J: Kielan Woods T: Graeme McPherson (Pedigree)

Dream Wellは例によって例の如くSadler's Wellsの産駒である。もはやこの記事で何度このSadler’s Wellsの名前を連呼したかわからない。1998年にフランスダービー及びアイルランドダービーを勝利した名馬で、古馬になってからはぱっとしなかったが、1999年のPrix de Saint-Cloud (G1)では日本のEl Condor Pasaの3着に入っている。2000年に日本に輸出され、日経新春杯 (G2)やダイヤモンドステークス (G3)を制したアドマイヤモナーク等を送り出しているが、2003年シーズン後にフランスに戻り、その後は2014年のPrix Renaud du Vivier (G1)の勝ち馬Hippomene、2019年のSupreme Novices' Hurdle (G1)及びHerald Champion Hurdle (G1)の勝ち馬Klassical Dream、元々はフランスでPrix Cambaceres (G1)の2着などの実績があり、イタリアでGran Corsa Siepi di Milano (G1)の連覇やGran Corsa Siepi di Italia (G1)の勝利など活躍したチェコ調教馬Champ de Batailleなどを送り出している。血統的には明らかに日本ではなく欧州障害競走向きといったところで、フランスに戻ったのはこの馬にとって正解だろう。

Ami DesboisはHurdle時代はChallow Novices' Hurdle (G1)の3着などG1戦線への参戦歴もあるのだが、Novice Chaseではクラス3のみの勝利に留まり、その後はクラス3~クラス2の24f戦を主戦場としている。クラス2で11st台後半の斤量を背負って入着を果たすなどそれなりに力量はしっかりしている印象もあるのだが、とはいえ今年1月のKemtonのクラス2にて、10st12lbを背負って11st2lbのDouble Shuffleの2着というのは若干ここに向けての力量という点で微妙な感がある。基本的に重賞クラスでの良績はなく、このクラスのスピードについて行けるかと言われるとかなり微妙かもしれない。

 

40. Blaklion 10st2lb J: Harry Skelton T: Dan Skelton (Pedigree)

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上記Kayf Taraの産駒。母父Legend of FranceはLyphard系の出身で、障害種牡馬としてはSouthern Nationalの勝ち馬Brave Spiritが代表的な産駒だろうか。日本ではフジミサという牝馬が1996年頃に佐賀で走っていたようだが、5戦して未勝利に終わっている。BMSとしてはメッセトゥルムという馬が2006年に障害未勝利戦を勝利している。

BlaklionはもともとNovice Hurdle路線ではChallow Novices' Hurdle (G1)の3着など活躍した馬で、その後のNovice ChaseではRSA Chase (G1)の勝ち鞍もある。Noviceを卒業後は24fのG1戦線に進むのではなく、むしろGrand Nationalを目指してレースを使われ、2017年のGrand National (G3)はOne For Arthurの4着、2017年のBecher Chase (G3)は同じくNational SpecialistのThe Last Samuriに9馬身差をつける圧勝と、順調に"National Specialist"としての地位を築いていた。2018年の春にWind Surgeryを行い、それまでの活躍が高く評価された結果としての11st10lbの斤量を背負い、満を持して挑んだ2018年のGrand Nationalだが、第1障害で他馬の煽りを食ってまさかの落馬という悲しい結果に終わっている。その後は転厩などもあったがいずれも大敗に終わっており、かつての走りを取り戻すことはできていない。全盛期はNational Fenceをものともしない飛越技術、高いスピード能力と持久力に裏打ちされた強靭なステイヤーであったのだが、大敗続きの近走成績はやはり大きな懸念材料だろう。かつてGrand Nationalに挑んだ時期と比較して10st2lbと裸同然の斤量で挑むことが出来るのは大きなメリットで、National Fenceで12歳馬がなにかを思い出すことが出来れば一発があってもおかしくはないのだが。

 

以下補欠

Reserve 1 Some Neck 10st1lb J: ●●● T: John McConnell (Pedigree)

上記Yeatsの産駒。母父Machiavellianは言わずと知れた大種牡馬だが、母父としても大活躍しており、日本でもシュヴァルグランヴィクトワールピサヴィルシーナアサクサデンエンなど、多数の活躍馬を送り出している。障害馬の父としての活躍は若干微妙だが、BMSとしてはPrix Bournosienne (G3)等の勝ち馬Titi De Montmartre、アメリEclipse WinnerのWinston C、アメリカでLonesome Glory Handicap (G1)などG1を2勝したZanjabeelなどを送り出している。京都ジャンプステークス (G3)など重賞2勝を上げた日本のランヘランバもこのMachiavellianを母父に持つ。

Some NeckはアイルランドでFlorida Pearl Novice Chase (G2)勝ちを上げた馬だが、その後ハンデ戦を主に使うも特に良いところはなく、2020年にWillie Mullins厩舎から現在のJohn McConnell厩舎に移籍していた。今シーズンからCross Countryに移行し、11月のrisk of Thunder Chaseでは3着に健闘。12月のGlenfarclas Cross Coutnryで積極的に運んだ経験馬Defi Des Carresを抑える勝利を上げた。3月のGlenfarclas Cross Countryでは本来主戦騎手のMr Ben Harveyが騎乗できない影響もあったのだが、Tiger Rollの3着と大健闘している。11月のCheltenhamの段階では若干飛越にミスもあり、最後の最後で間に合わせてきたといった印象もあったのだが、3月には飛越も改善されており、大きな身長が伺えるレースであった。もともとは馬主Rich RicciにWillie Mullins厩舎というアイルランドの黄金コンビの馬であり、ex-Willie Mullins horseというのはなにかとうまくいかないことが多いのだが、この馬はWillie Mullins厩舎から転厩して新たな活躍の場を見出した数少ない例である。CheltenhamのCross CountryのNational Courseへの外挿性はこれまでもTiger Roll、Balthazar King、Cause of Causesなどが示してきたとおりであり、10st1lbという軽ハンデを考えると興味深い存在になるだろう。

 

Reserve 2 Secret Reprieve 10st1lb J: James Bowen T: Evan Williams (Pedigree)

上記Flemensfirthの産駒。母父もOscarと、血統表だけ見ればもはやコテコテのヨーロッパ障害競馬血統である。母Oscar's Reprieveは未出走馬で、Secret ReprieveにはOn Callという全兄がいるのだが、こちらはPoint-to-Pointでは勝ち鞍があるものの、"Under rules"では11戦して未勝利のようだ。とはいえクラス4の24f戦辺りで最近いい勝負をしているようで、そのうちどこかでチャンスはあるだろう。

Secret Reprieveは今年1月のWelsh Grand National (G3)の勝ち馬。HurdleではNoviceの下級条件勝ちのみ、Novice Chaseでは勝ち星を上げることはできなかったのだが、今シーズンに入ってからWelsh Grand National Trialから連勝を飾り、一気にその名を上げてきた。Chaseたったの6戦のキャリアで一気にWelsh Grand National (G3)まで勝ち切る能力の高さは大きな魅力であり、特にWelsh Grand Nationalでは中段から馬群を縫って出てくるという多頭数の競争に対する高い適性を見せていた。超長距離戦に対する適性も高く、10st1lbという素晴らしい軽ハンデで挑むことが出来る点も強調材料だろう。当然課題は初のNational Fenceとなる。Reserve2となると上手いこと出走に漕ぎ着けることが出来るかはだいぶ怪しい順番であり、出走できればチャンスはあるのだが、この馬をGrand Nationalの舞台で見ることが出来るかは若干微妙な状況だろう。

 

Reserve 3 Kauto Riko 9st13lb J: ●●● T: Tom Gretton (Pedigree)

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Kauto Rikoは例によってSadler's Wellsの孫で、Ballingarryの産駒である。2歳時にはCriterium de Saint-Cloud (G1)の勝ち星があるBallingarryはその後Canadian International (G1)を勝利した実績があるが、例によって引退後はNational Hunt Sireとして使われているようだ。主な産駒としては、2018年のDoom Bar Maghull Novices' Chase (G1)の勝ち馬Diego Du Charmilが挙げられる。日本ではカンタオーラという牝馬が福山で走っていたようだが、13戦して2着が最高という成績に終わっている。むしろKauto Rikoに関しては母系の方が立派で、祖母のKauto Relkaはあのイギリスの伝説的名馬Kauto Starの母である。

Kauto Rikoは今年で10歳になるベテラン。Novice Chase時代にはDoom Bar Maghull Novices' Chase (G1)に出走するもいいところなく、その後はクラス3のハンデ戦を1勝したのみである。ただしその後は案外強気に重賞戦線に挑戦しており、2019年のPeterborough Chase (G2)では単勝100倍という低評価ながらTop Notchから僅差の2着に頑張っている。今シーズンは11月のPaddy Power Gold Cup (G3)でCoole Codyの4着に入りここに向かってきた。トップスピードは速くないもののしぶとく粘り強い走りが持ち味のタイプで、常に低評価を覆す走りを見せてきた馬だけに、9st13lbという最軽量も踏まえると軽視できないところがある。前走から一気の距離延長とはなるが、これまでの走りから考えるとむしろプラスに捉えた方が良いだろう。問題は出走順で、さすがにReserve3となると上手いこと食い込めるか微妙なラインである。

 

Reserve 4 Fagan 9st13lg J: Harry Bannister T: Alex Hales (Pedigree)

父Fair MixはPhalaris - NearcoからNorthern Dnacerを経てLyphardに連なる系統で、この系統からは日本でもお馴染みDancing Braveが輩出されている。Faganの父系を辿るっとFair Mix - Linamix - Mendez - Bellypha - Lyphardと連なっているのだが、Lyphardの産駒Bellyphaは日本にも輸出され、1993年の京成杯 (G3)の勝ち馬オースミポイントを輩出している。またMendezといえば最近ウマの関係でツインターボが勝利したオールカマーが話題になるのだが、そこにも出走していたハシルショウグンを輩出した種牡馬ということで、そこまで遡れば日本でも馴染みのある馬だろう。祖父Linamixの産駒としては日本では7戦して未勝利に終わったフサイチエメロードがいる程度だが、Linamixの孫には最近Le Berryなど活躍馬を出している元フランス障害馬で、現在はフランス障害種牡馬として繋養されているGemixを始め、Beaumec de Houelle、Nirvana du Berlaisといい、フランス障害競走において今後重要な地位を占める可能性を秘めた種牡馬を多数送り出している。Fair Mixの代表産駒と言えばなんといってもSimonsigで、その後は故障で長期の休養があり、頑張って復帰するも残念ながらShloer Chase (G2)の落馬が原因で亡くなってしまうのだが、2013年のArkle Challenge Trophy (G1)を始め、あの危なっかしくも破天荒なレース振りは大いにファンを沸かせるものであった。

FaganはもともとはGordon Elliott厩舎の所属馬として、Albert Bartlett Novices' Hurdle (G1)におけるUnowhatimeanharryの2着をはじめNovice Hurdleでは実績を残した馬で、その後Chaseに転向しデビュー戦を勝利したはいいものの、その後はG1路線ではなくなぜかScottish Grand National (G3)に挑戦し、いいところなく途中棄権に終わっている。その後長期の休養及び転厩を経て2020年に復帰、前走クラス3の23f戦で久々の嬉しい勝利を挙げている。元々持っていた能力は高い馬のようだが、途中で665日の休養があったりとあまり順調に使えておらず、11歳になるここまでChaseは計7戦と、若干レース経験の面からすると信用しにくいところがある。前走のクラス3も12st0lbを背負っての勝利と言うことで、本来はクラス2辺りで通用する実力を持っていてもおかしくはなく、若干レーティング上では過小評価されている感もあるのだが、そうはいっても距離延長、飛越技術、ハンデ戦への経験等、ここまでの実績的には強調しにくいだろう。そもそも、Reserve4となるとさすがにレースに出走できる可能性はだいぶ低そうだ。

 

その他

What will the 2021 Randox Grand National winner look like? (Racing Post)

Grand National勝ち馬の傾向に関する記事。個人的にこの類のデータ的なものはあまり利用していないのだが、人によっては参考になるかもしれない。