にげうまメモ

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21/07/04 Weekly National Hunt / Jump Racing

*障害競馬回顧 2021/06/28-2021/07/04

7/3(土)

Hawke's Bay RI @ Hastings (NZ) Slow9

〇 Hawke's Bay Hunt Maiden Hurdle MDN HDL 2500m (Replay)

1. Kaharau J: Emily Farr T: Ken Rae & Krystal Williams-Tuhoro

前半からMaster Paintonが大きく後続を引き離して逃げるも、向こう正面でミス。そのままReece Cole騎手はアブミを落としたまま騎乗を続けるが、さすがに最終コーナー手前で捕まって後退。Remarxが抜け出して押し切りを図るが、最終障害で落馬。残ったKaharauがそのまま大差をつけて快勝した。

実況でも言われているがKaharauは平地で82戦して14勝を上げた実力馬である。その中には2015年のDunedin Gold Cup (Listed)勝ちも含まれているが、近走はややパフォーマンスを落としていたようだ。これがHDLは初参戦で初勝利。全体的に飛越の怪しい馬が多く、レース条件としても2500メートルとMaidenクラスとしてもやや低調だが、ひとまず平地の実績馬ということで期待したいところである。

 

Hawke's Bay Hurdle OPN HDL (PJR) 3100m (Replay)

1. Tommyra J: Shaun Phelan T: Toby Autridge

レースは人気のBak Da Masterがゆったりとしたペースで逃げる展開だが、2周目からするすると後方にいたTommyraが先頭に並んでくる。最終コーナーでTommyraが前に出ると、内で抵抗するBak Da Masterは落馬。そのままNo Change、Tallyho Twinkletoeなどの追い上げを凌いでTommyraが勝利した。

TommyraはこれでHDLは5勝目、PJRは昨年のWaikato Hurdle、一昨年のKS Browne Hurdleに次ぐ3勝目とした。基本的にはSlow9~Heavy10くらいの微妙な重馬場を得意とするタイプで、極端な良馬場や重馬場は良くないなど、あまりストライクゾーンは広くはないのだが、今回は65.5kgと斤量が楽だったこと、かつBak Da Masterがゆったりと逃げる展開を早めに動いたShan Phelan騎手の好判断が当たったようだ。12歳のベテランNo Changeは久々の好走。ここでは圧倒的に実績上位のTallyho Twinkletoeはさすがにこののんびりとした展開の中、71kgの斤量を背負って後方から進めるという条件は厳しかったようだ。Slow9という馬場条件もこの馬向きではないのだが、最後まできっちりと脚を伸ばしているように10歳となった今年も元気なようで、ニュージーランドかオーストラリアか、今後の予定は不明だが今年も期待したい。

 

〇 Just A Swagger / Perry Mason Steeplechase MDN STP 4000m (Replay)

1. Shackeltons Edge J: Hamish McNeill T: Paul Nelson & Corrina McDougal

前半から逃げたShackeltons Edgeがそのまま後続に13馬身差をつけて快勝した。Shackeltons Edgeはアルゼンチン産馬Thanoの産駒となる。Southern Halo産駒であるこの馬は、どうやらアルゼンチンのGran Premio General San Matin (G1)を勝利したのち、ニュージーランドのGrangewilliam Studにて繋養されているようだ。Shackeltons Edgeは平地で18戦未勝利、HDLでも2戦して未勝利であったが、STP初参戦で強い競馬を見せた。前半からリズムよく運んだ利はあったのだが、それでもロングスパートを掛けてそのまま後続を振り切るレースはなかなか興味深いものがある。3着のPierian Springは比較的このクラスでは実力上位の馬であり、Shackeltons Edgeはこれまであまり馴染みのない種牡馬の産駒だが、少し注意してみておいてもよいだろう。

 

AHD Hawke's Bay Steeplechase OPN STP (PJR) 4800m (Replay)

1. Yardarm J: James Seivwright T: Kevin Myers

レースは前半から元気よくNotabadroosterが逃げるも、3周目に入るところからShamalが物凄い勢いで上がってくる。しかし抵抗したNotabadroosterがそのままShamalを振り切るが、さらにこれに絡んで行ったYardarmが先頭に。そこからYardarmは後続を振り切ると、2着のShamalに22馬身差をつけて快勝した。3着にはMesmerize、4着にはIt's A Wonderが入った。

YardarmはここまでHDLでは2017年にWaikato Hurdles (PJR)にてThenamesbondの2着に入った馬。さらに同年はオーストラリアに遠征し、"Over the Yardarm"という名前でCrisp Steeplechase、Grand National SteeplechaseにてWellsの2着の実績があった。そこから長い休養を経て復帰するもここまで良績はなく、これがまさかの復活の勝利となる。どうやら長く故障で苦労してきた馬だが、レース運びとしては堂々たるもので、ここまでの不振が嘘のような快勝であった。69kgを背負ったShamalはこの馬の過去を彷彿とさせるような捲りであったが、内容としてはペースが緩んだところを動いたもので、過去のものとは異なるものであることには留意すべきだろう。むしろそこからじわじわとペースアップしながら前を追いかける走りこそが現時点でのこの馬の本質であり、勝ち馬にこそ振り切られたものの、2着を死守した走りは今シーズンが楽しみになるものであった。2019年にオーストラリアに遠征してからはどうにも上手くいっていないのだが、本来であればPJRクラスでも主役級の馬である。人気のMesmerizeは全体的に後手後手に回っての3着。実績馬It's A Wonderは先手を取れなかったが、それよりももう少し馬場が重くなった方がいいだろう。逃げたNotabadroosterは散々他馬に絡まれ、最後は失速しての5着。さすがにこの展開は気の毒であった。

 

7/4(日)

Warrnambool (AUS) Heavy10

〇 Sungold Milk Maiden Hurdle

Set Weights. Three-Years-Old and Upwards, No sex restriction. Maiden. Apprentices can claim 3200m (Replay)

1. Norway J: Steven Pateman T: Ciaron Maher

Caliburnが逃げるも、最終コーナー辺りからNorwayが外をまくって進出。そのまま2着のSivarに10馬身差をつけて勝利した。Norwayは2019年のアイルランドダービーの3着馬で、その後はオーストラリアに移籍するも戦績としてはぱっとせず、これが初めてのHurdle競走であった。飛越としてはこのHeavy10の馬場ではやや苦しくなるようなミスもあったのだが、それでもこれだけ千切るのだから馬の能力自体が抜けていたのだろう。不良馬場への適性は不明だが、やはり楽しみにしておいた方がよさそうな馬である。4歳のSivarもこれが初障害であったが、強敵相手に頑張って2着に入った。ここまで未勝利で良績を残してきたDistress Signal、Caliburnなども出走しており、Maidenとしての水準はかなり高そうだ。勝ち時計としても、直後の1JW Hurdle、及びKevin Lafferty Hurdleよりも速く、もちろん強い雨が降っていたことやレースの進行による馬場の悪化も考えられるのだが、内容的には高く評価してよいだろう。

 

〇 Pontings Mitre-10 1JW Hurdle

Handicap. Three-Years-Old and Upwards, No sex restriction. Restricted Conditions. Apprentices can claim. 3200m (Replay)

1. Wil John J: Steven Pateman T: Ciaron Maher

Karakoram、Dodge Cityなどが前に行く展開も、外から捲ってきたWil Johnがそのまま後続に20馬身差をつける圧勝。Wil JohnはこれでHurdleは2戦2勝とした。かなり大柄な馬でレース中も目立つのだが、それにしてもここでは持っている能力自体が違ったようだ。自家繁殖の馬ということで関係者の喜びもひとしおだろう。未勝利を勝ってきたばかりのKarakoramが2着。Australian Hurdleで3着のあるHome By Midnightもいたのだが、こちらは中段から進めるも伸びきれず3着に終わった。71kgと斤量的には勝ち馬とそう変わらなかった上に、前走もHeavy9でOut And Dreamingの2着に入っているのだが、今回は前回とは異なり、やや極端なHeavy10の馬場であった可能性もある。このように色々とHome By Midnightに関しては言い訳も可能な状況なのだが、ひとまずこれは勝ち馬を褒めておいた方がいいだろう。

 

Kevin Lafferty Hurdle

Quality. No age restriction, No sex restriction. No class restriction. Apprentices cannot claim. 3200m (Replay)

1. Saunter Boy J: Steven Pateman T: Ciaron Maher

Looking Aroundが前に行くも早々にInstigaterが捕まえに行き先頭に。しかし例によって外から進出してきたSaunter Boyが追いかけてきたInayforhayに7馬身差をつけて快勝した。

Saunter Boyは今シーズンはAustralian Hurdleに続く勝利を上げた。当時はGood4の馬場を10馬身ぶっちぎる内容だったのだが、今回はHeavy10の馬場での快勝劇と、ここまで馬場不問で強い競馬を見せている。5月のGalleywood Hurdleの際はどうにも飛越が安定しない面もあったのだが、今回はもはやそのような面は認められず、障害馬として着実にステップアップしているようだ。レース直後には中山グランドジャンプに行くという話もあったようだが、その後に出た記事には微妙だという話もあり、いずれにせよやや先のことということで、ひとまず今シーズンどこまで走るか楽しみにしておくのがよいだろう。前走は人気を裏切る形になってしまったInayforhayが2着。Heavy10での実績という意味では、極端な不良馬場となった昨年のJJ Houlahan Hurdleを勝利した実績のあるInstigatorもいたのだが、こちらは3着まで。Blood And Sand、Firefreeといった長期休養を経てきた馬も出走していたが、どちらも大敗に終わった。

 

〇 Mark Primmer Memorial BM120 Steeplechase

Handicap. Three-Years-Old and Upwards, No sex restriction. BenchMark 120. Apprentices can claim. 3450m (Replay)

1. Social Element J: Tom Ryan T: Gai Waterhouse

American In Parisが先手を取るも、途中からやや引っかかり気味にAlfee Deeが先頭に。しかし二連続障害の辺りからLayliteがこれに並んでいくとAlfee Deeは徐々に失速。しかし残り2障害地点でSocial Elementが前に出ると、Layliteを30馬身突き放して勝利した。American In Paris、Mappingと続いた。

Social elementは前走の1JW Steeplechaseから連勝とした。平地ではQueensland Cup (Listed)の2着がある馬で、同レースの4着馬がSaunter Boyだったりするのは面白いところかもしれない。勝ったAzuroという馬はその後どうにもぱっとしないようだが、Ciaron Maher厩舎なので障害に来ないものだろうか。レース内容としてはやや前が乱ペース気味に流れるところ、少し後ろでじっくりと構えたTom Ryan騎手のレース運びの巧さが目立つレースであった。Tom Ryan騎手は最近このようなレース運びの妙を感じさせる騎乗がよく目につくところ。先に動いたLaylite、先手を取ったAmerican In Parisが上位勢だが、さすがにSocial Elementが71kgを背負って30馬身千切られたのだから言い訳はできないだろう。Mappingは例によって後方から復活しての4着。2019年にニュージーランドGrand National Hurdleの勝ち馬で、これが久々の実戦であったAlfie Deeはどうにも前半から操縦性の悪さを見せての大敗。ニュージーランドでもこのような課題は目立っていた馬だけに、なんとか解消されて欲しいところなのだが。

 

Hammonds Paints Thackeray Steeplechase

Quality. No age restriction, No sex restriction. No class restriction. Apprentices cannot claim. 3450m (Replay)

1. The Dominator J: William McCarthy T: Henry Dwyer

レースは前半からかなり距離を取ってThe Dominatorが飛ばす展開。後続のBit of a Lad、Flying Agentなどがじわじわと進出してくるも、かえって追いかけてきたFlying Agentなどが失速。そのままPolice Campに5馬身差をつけてThe Dominatorが勝利した。

レースとしては完全にWilliam McCarthy騎手の技ありの勝利となった。前半からある程度距離を取って逃げることでこの馬の飛越にリズムを作り出し、この不良馬場で後続に無理なペースアップを強いることで完全に後続の余力を無くす素晴らしい逃走劇であった。アイルランド出身のWilliam McCarthy騎手は、その後アメリカに渡り、2014年にはチャンピオンジョッキーの座に輝いている。オーストラリアにはほんの1カ月前にやってきたらしい。12カ月前には首の骨を折る大怪我を経験していた騎手であり、この勝利は非常に嬉しいものであったことが容易に想像される。The Dominator自身は昨年のBM120 Chaseに続く勝利だが、何度か落馬により大きな故障があったようで、レース内容もここに至るストーリーも、非常にドラマチックなレースであった。この辺りの内容についてはRacing.comの記事が詳しい。人気を背負ったFlying Agentはこの馬にとっては得意な馬場であり、じわじわと勝ち馬を追いかけたのだが、最後は逆に余力を無くして失速した。Lee Horner騎手も怪我からの復帰でここに賭ける想いは強いものだったと思われるが、今回はWilliam McCarthy騎手とThe Dominatorを褒めるべきだろう。

 

その他

Future of jumps racing under scrutiny (nzherald)

ニュージーランド障害競走の今後の展望に関して、どうやら土曜日に話し合いの場が設けられたようだ。オセアニアの障害競走として、オーストラリアは一時期大幅な縮小を強いられたもののその後の関係者の尽力で盛り返しつつある一方で、ニュージーランドはオーストラリアとは異なる問題で苦労しているようだ。日本国内では、どうにも日本における障害競走の重要性というのは(半ば判官贔屓のような面もあって)強調される一方で、海外の障害競走は日本と比べて盛んで人気があるという浅い認識の人が多いように思う。日本の障害競走と比較して遥かに脆弱な基盤しか持たず、存続が危ぶまれる状態の国が少なくないということは広く知られて良いことだろう。