にげうまメモ

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21/08/15 Weekly National Hunt / Jump Racing

*障害競馬回顧 2021/08/09-2021/08/15

8/11(水)

Riccarton Park - Canterbury JC @ Riccarton Park (NZ) Heavy11

131st Grand National Hurdles (PJR) OPN HDL 4200m (Replay)

1. The Cossack J: Shaun Phelan T: Paul Nelson & Corrina McDougal

Hurdle競走としてはニュージーランドではトップクラスのもので、ニュージーランド南島としては最大の競走となる。レースはRichard of Yorkeがゆったりと引っ張るも、これを好位から追走したThe Cossackが抜け出すと、そのまま2着のAigneに12馬身半差をつけて圧勝した。

The Cossackは昨年のGreat Northern Hurdle (PJR)の勝ち馬。先日亡くなったMastercraftsmanの産駒で、障害競走においてはMastercraftsmanの最高傑作である。今年に入ってからはWaikato Hurdle、Wellington HurdleとPJRを次々と勝利しており、これで今年はPJR3勝と破竹の勢いを見せている。昨年のDead4で行われたGreat Northern Hurdleを始め、やや全体的に良馬場での実績が多かったのだが、今回はHeavy11の馬場においても圧倒的な強さを見せた。ここまでPJR3勝と実績を残しているにも関わらず斤量は68.5kgとやや恵まれた感もあるのだが、内容的には見ての通り完勝だろう。Wellington Hurdleで2着に入ったTallyho TwinkletoeがGrand National Steeplechaseに向かう現在、ニュージーランドHurdleにおいては一番手の馬と考えてよさそうだ。おそらくGreat Northern Hurdleに向かうものと思われるが、この勢いであれば今年のニュージーランドHurdleにおける主要PJR完全制覇も実現可能だろう。

Aigneもこの馬のレースはしているのだが、ここまでのレースが示す通りどうにもThe Cossack相手だと地力の面で一歩劣るといった印象で、距離延長と馬場の悪化というより地力が明らかとなる条件において、大きくThe Cossackに水を空けられてしまった感は否めない。RST OPN HDLを勝って調子を上げてきたRichard of Yorkはこの馬のペースで進めたのだが、最後は遅れて3着まで。つい先日のOPN HDLを勝ってきた評判馬Chief Sequoyahは勝負所から脱落し落馬に終わった。前評判は高かったようだが、現時点でここで勝負をするのは荷が重かった印象がある。唯一の南島調教馬Ringboltは好位から積極的に進めたが、終盤ペースアップした辺りから早々に脱落し途中棄権に終わった。今回のレース振りや、今回も勝負に加わることが出来なかったChief Sequoyah相手にさっぱり歯が立たなかった前走からわかる通り、ここでは明らかに格下であった印象で、昨年は全く障害競走が行われず、今年も障害競走が数えるほどしか行われていないニュージーランド南島における障害競馬の苦境を浮き彫りにする結果となってしまった。

 

8/14(土)

Riccarton Park - Canterbury JC @ Riccarton Park (NZ) Heavy11

〇 Speight's 0-1 Win Hurdle 0-1 WIN HDL 3100m (Replay)

1. Fantasy Flight J: Shaun Fannin T: Kevin Myers

Penetrometer Band 7.9で始まったこの日のRiccarton ParkのGrand National Festival。その後も断続的に雨が降り続いており、馬場は順調にHeavy11を極めていった。レースはRemarxが順調に引っ張る展開も、最終コーナーから捲ってきたFantasy Flightが後続を突き放すと16馬身差の圧勝。Fantasy Flight自身はHDLはこれが2戦目での初勝利とした。障害初戦でいきなりRST OPN STPを使ってきたりとどうにもレース選択が謎なのだが、ここでのレース運びを見る限りでは明らかに一枚以上能力が上であった印象で、RST OPNクラスでも十分に勝負になるだろう。MDNを勝ったばかりのKaharauが2着に入った。

 

146th Grand National Steeplechase (PJR) OPN STP 5600m (Replay)

1. Tallyho Twinkletoe J: Shaun Phelan T: Kevin Myers

今年で第146回となるニュージーランドGrand National Steeplechase。回数だけならば中山大障害とさして変わらないのだが、中山大障害はかつては春及び冬と年2回行われていたことから、こちらの方が中山大障害よりも長い歴史を持つ。ニュージーランド南島のRiccarton Park競馬場には"Jumbo"と呼ばれる大型の生垣障害を始め、ニュージーランド障害競馬の中でも有数の本格的なSteeplechase Courseが設置されており、5600メートルというニュージーランド障害競走の中でも有数の長距離が設定されていることで、このGrand National Steeplechaseにおいてはオセアニア随一の非常にタフなレースが展開される。Ellerslie競馬場のEllerslie Hillが今年で消滅することが決定している現状、このRiccarton Park競馬場のSteeplechase Courseのニュージーランド障害競馬における重要性は今後相対的に増すことになるだろう。

レースは1周目のStand Doubleを飛んだ辺りからShamalが先頭に。Master Courtsmanなどが番手に構えに行くが、これらを振り切って後続にある程度のリードを保ちつつShamalが快調に飛ばす。好位からThe Rolling Stone、Coconutなど。2周目に入ってもShamalの逃げ足は衰えず、むしろ好位集団を振り切ってリードを開いて行くが、中段からじわじわと上がってきたTallyho TwinkletoeがShamalを捕まえに行く。Jumboの辺りでShamalを捉えたTallyho Twinkletoeが前に出ると、そのまま後続を突き放して15馬身半の圧勝。2着には後方から足を伸ばしたMandalayが2着に入った。

ここまで今年はEllerslie Hillの消滅や南島の苦境など、あまり良い話題のなかったニュージーランド障害競馬において、久しぶりに明るい話題を齎す歴史に残るレースとなった。騎乗していたShaun Pelan騎手はEric The Viking、Upper Cut、It's A Wonderに続くGrand National Steeplechase 4勝目を成し遂げた初めての騎手となった。さらに、Tallyho Twinkletoeは2019年に1930年のMosstropper以来となる同一年オーストラリアVIC州Grand National Hurdle及びGrand National Steeplechase制覇を成し遂げた名馬であるのだが、これでニュージーランド及びオーストラリアVIC州"Grand National Double"を成し遂げた初の競走馬となった。

レースを引っ張ったShamalは2018年のGrand National Steeplechaseの勝ち馬で、2019年もWaikato Steeplechaseを勝利するなど実力を示していたのだが、その後オーストラリアに遠征してからはどうにも精彩を欠いていたようなところがあった。とはいえこの馬自身は生粋のステイヤーであり、最近は中盤から謎の強引なスパートを掛けては失速するというレースを繰り返していたものの、今回のBuddy Lammas騎手の思い切った先行策はShamal自身の能力を最大限に引き出すものであった。結果として、この馬を追いかけてきたThe Rolling Stone、Master Courtsman、Coconutといった先行勢は総崩れに終わっており、2着に追いこんできたMandalayもほぼ最後方に近い位置取りから大事に大事に押し上げてきた馬である。一方で勝ったTallyho TwinkletoeはShamalに対して2kg、それ以外の馬に対しては5kgの斤量負担を強いられながらも、中段からロングスパートを掛けて早々にShamalを捕まえに行く強い競馬をしており、15馬身という着差が示す以上に力量差があったことが想定される。5600メートルはTallyho Twinkletoeにとって初の距離であり、さらに今回はHeavy11の中でも非常に重い馬場となっていたことは容易に想像が出来るのだが、この究極に厳しいコンディションの中、安定した飛越を繰り出して他馬を圧倒するパフォーマンスは、事前のShaun Phelan騎手の「この50年の中で最高の馬になり得る」という下馬評は決して大げさなものではなかったと言ってよいだろう。戦前にはオーストラリアVIC州のGrand National Steeplechaseという話も出ていたようだが、ここまで厳しいレースをしたことによる馬のダメージが少々心配なところである。

2着の牝馬Mandalayは後方から押し上げるレースでShamalに対する先着を果たした。ここまでSTPは17戦を消化してきたベテランで、本来このクラスでは厳しい感もあるのだが、今回はShaun Fannin騎手がひたすら大事に大事に、この馬の体力を最後まで使い切ることを主眼に置いたレース運びをしたことで2着に浮上した。レースを作ったShamalは最後Mandalayに差されて3着に終わったが、ここまでTallyho Twinkletoeに大きく突き放されてから再度脚を使うというのも馬にとっては酷なレースである。2018年当時の勢いという点では年齢的なものもあるのか微妙なのだが、レース運び一つでまだチャンスはあるだろう。RST OPN STPを勝ってきたCoconutは積極的に運んだが、さすがに苦しくなって途中棄権。どうにもこのクラスに入ると厳しい印象もある。先日亡くなったMastercraftsmanの産駒のMaster Courtsmanも出走していたが、こちらも先行するも途中から苦しくなり大敗。とりあえず勝ち馬から10秒以上遅れるもなんとか完走は果たしたようだ。

 

8/15(日)

Merano (ITA) Tempo Bello - Terreno Morbido

〇 Creme Anglaise - Memorial Gilberto Giottoli Euro 25.000 TRIO

per cavalli di 5 anni ed oltre (Steeple-Chase - LISTED RACE - FANTINI) 3800m (Replay)

1. L'Estran J: Josef Bartos T: Josef Vana Jr

ゆるゆると逃げたL'Estranがそのまま勝利した。L'Estranは今年Gran Premio Merano (G1)の3連覇を目指す馬だが、今年初戦は落馬、続くGrande Steeplechase D'Europa (G1)も落馬に終わっていた。今回は戦術を変えての先行策であったが、修理リズムよく運ぶことに成功していた。ただし同厩舎のNotti Magicheも自分でペースを作りたいタイプであり、本番はどのようなレース展開になるのか注意した方がいいだろう。今年5月のGrande Steeplechase Di Milano (G1)を勝ったNortherly Windは巻き返して2着。今回は試走といった印象が強かったが、やはり本番は楽しみになりそうな一頭である。Notti Magicheは例によって安定したレース運びで3着。今回は69kgとやや斤量を背負っており、この着順は仕方なしといったところだろう。案外好走したのがイタリアのEnola Gayで、今回がフランスからの移籍初戦であったのだが、いきなりこのメンバー相手に僅差の4着というのは立派な内容だろう。元々フランスでデビューし、その後イギリスに移籍、2019年からフランスに戻って現役を続けてきた馬で、前走AuteuilのClamingを勝ってのここであった。フランスではListedクラスで3着の実績もある馬で、どこかでいいことがあって欲しい。

 

Coleraine (AUS) Soft7

〇 Great Western Steeplechase

Handicap. No age restriction, No sex restriction. No class restriction. Apprentices can claim. 3600m (Replay)

1. Riding High J: William McCarthy T: Henry Dwyer

オーストラリアSteeplechaseとしては国内最古の歴史を誇るものだが、総賞金額は$40,000とさほど目立つものではなく、Crisp SteeplechaseやGrand National Steeplechaseというスケジュール的な面も相まって、毎年やや一線級と比較するとメンバー的には手薄となるレースである。レースは前半からBig Blue、Accounted Fourなどが前に行く展開だが、途中からSan Remoが押して前に絡んでいく。後退したBig Blueに変わって前に出たZedmanとRiding Highの叩き合いはRiding Highが僅差前に出て勝利した。

Riding Highは今年のAustralian Steeplechaseの勝ち馬だが、その後のCrisp Steeplechaseは4着に敗れていた。Australian Steeplechase自体、全体的にメンバーが手薄だった中で65kgの軽量を生かして勝利した感も強く、本来オーストラリアSteeplechaseの一線級相手にはやや一歩後れを取るくらいの立ち位置の馬である。今回は71.5kgを背負っての勝利ということで勝ちはあるのだが、そうはいってもやはりメンバー的にはやや格下感があることは否めない。ニュージーランドでMaiden Steeplechase勝ちのあるZedmanは惜しい2着で、やはりRiding Highとの斤量差を考えるとここは勝ち切りたかったところ。San Remoは最後追いこんでの3着で、今回はLee Horner騎手がかなり押っ付けて前に行ったものの、勝負所でやや置いて行かれる部分があった。Big Blueは積極的に運んだが、飛越をミスして後退、そのまま大敗に終わった。どうにも気性的にも問題があるようで、最後は集中力を欠いているようにも見えた。

 

その他

Racing: New Zealand trainer Kevin Myers leaps to defence of jumps racing in rare interview (nzherald.co.nz)

この20年間メディアの取材を一切断ってきたニュージーランドの名伯楽Kevin Myers調教師がメディアの取材を受けたようだ。内容としてはニュージーランド競馬界における障害競走の重要性を強調しており、師のニュージーランド障害競馬に対する相当な危機感を感じさせるものとなっている。