障害競馬は一般的に、平地競争と比べて負担重量は重く、長距離を走るレース条件が設定されています。国によって若干の差異こそあれど、この傾向は世界のどの障害競馬開催国においても共通しています。ここでは障害競馬の一般的なレース条件及びレース傾向について解説します。
*負担重量
障害競走における負担重量は平地競争よりも重く、ほとんどの国では負担重量として60kg以上の斤量が設定されています。基本的には65~75kgの斤量が中心であり、国によっては75kg以上の斤量を背負うこともあります。例えばチェコの"Velká Pardubická"(ヴェルカ・パルドゥビツカ)は、牡馬及びセン馬が70kg、牝馬が68kgの定量戦として行われますが、一方で2021年のイギリスGrand Nationalは、トップハンデが11ストーン10ポンド(約74.4kg)、最軽量10ストーン2ポンド(約64.4kg)のハンデキャップ競走として行われました。70kg以上(すなわち11ストーン1ポンド以上)の斤量を背負って走ることが多いイギリス・アイルランド障害が最も重い斤量を背負う傾向があり、これに60kg台後半が多いフランス、チェコ、イタリア、オセアニアなどが続く形となっています。一方で、日本は最も格の高い中山のG1競走ですら負担重量は63kg程度であり、世界的に見ると特異に軽い斤量が設定とされています。
斤量の単位として、イギリス・アイルランドではストーン・ポンド表示を用います。1ストーン = 14ポンド = 約6.35kgです。例えば11ストーン12ポンド(11st12lb) = 約75.3kgとなります。ほとんどのレースは10st0lb(= 約63.5kg)から11st13lb(= 約75.7kg)の間で行われますが、一部のハンデ戦では9ストーン台後半の負担重量で走る馬も存在します。また、Hunters' Chaseと呼ばれるアマチュア騎手限定戦ではスピードを落とすため、12ストーン台の斤量が設定されています。
アメリカはポンド表示を用います。1ポンド = 約0.45kgです。だいたい140ポンド(= 約63.5kg)から170ポンド(= 約77.1kg)を背負います。
記事の末尾にストーン・ポンド / ポンド / キログラム表記換算表をつけておきましたので、必要に応じてご利用ください。
*レース距離
障害競走では一般に平地競争よりも長距離が設定されており、2000メートル後半から7000メートルクラスまでの多様な距離が設定されています。現在世界最長距離が設定されているのはフランスCross Country競走のAnjou-Loire Challengeであり、これが7300メートルです。一方で2000メートルクラスのレースは、日本の他にニュージーランドやオーストラリア等で見ることが出来ます。世界的な傾向として、より長い距離で難易度の高い障害を用いるレースが高い権威と人気を誇ります。各国で最も権威のあるレースとして、イギリスGrand Nationalは約6900メートル、フランスGrand Steeplechase de Parisは6000メートル、チェコVelká Pardubickáは6900メートル、イタリアGran Premio Meranoは5000メートル、ポーランドWielka Wrocławskaは5000メートル(ポーランドCrystal Cupは5500メートル)、オーストラリアGrand Annual Steeplechaseは5500メートル、ニュージーランドのGreat Northern Steeplechaseは6400メートルの距離が設定されています。
イギリス、アイルランドではマイル・ハロン・ヤード表示を用います。1マイル = 8ハロン = 約1609メートルです。また、1ハロン = 220ヤード = 約201メートルです。例えば3m2f110y = 3マイル2ハロン110ヤード = 約5331メートルとなります。各レースによって小さな誤差はありますが、イギリス・アイルランド障害競走は大きく2マイル(16ハロン)戦 、2マイル4ハロン(20ハロン)戦、3マイル戦(24ハロン)戦の3つの路線に分けられており、それぞれの距離別にレース体系が整備されています。一方で、フランス障害競走には距離別の路線は存在せず、主に年齢指定競争となっています。
*出走頭数
出走頭数は競馬開催国やレース条件によって大きく変わります。イギリスやアイルランドでは10頭以下のレースが行われることは少なくなく、特に有力な馬が出走してきたNovice競走や重賞競走は5頭以下で行われることも多々あります。英国競馬を主催するBHA(British Horseracing Authority)は小頭数のレースを問題視しているようです。一方で、ハンデキャップ重賞やアイルランドにおけるHurdleの未勝利競走(Maiden)には比較的多数の馬が集まることが多く、レースによっては20頭以上で行われることもしばしばあります。例えばイギリスGrand Nationalの出走枠は40頭ですが、毎年100頭以上の登録を集めます。なお、イギリスGrand Nationalはレーティングによって出走順と斤量が決定します。
一方で、チェコやイタリア、フランス、オーストラリア、ニュージーランドなどの障害競走、特にHurdle競走の下級条件戦では、比較的コンスタントに10頭前後の頭数を集めているようです。
*スタート方法
ヨーロッパやアメリカ障害競走では主にバリアスタートを用います。これはスタートラインに馬が集まり、ラインが上がることでスタートを切るもので、かつては日本でも使われていました。小頭数であれば特に問題はないのですが、多数の馬が集まるレースの場合は、誰かが早めに飛び出してしまったり、一部の馬が適切なポジションにいなかったりと、スタートの失敗(False Start)がしばしば生じます。また、スタート地点のポジションによってレース中の位置が決まる要素もあるため、スタート地点から騎手の駆け引きが始まっていたりします。障害馬は平地競争馬と比較すると高齢であることが多く、馬によってはかなりズブくなっていることがあり、平地競争と比べると発馬拒否する馬をかなり頻繁に見ることができます。
日本障害競馬のようなゲート式のスタートを用いる国としては、ニュージーランドやオーストラリアが挙げられます。世界的にはバリアスタートが多く、ゲート式はオセアニアやアジアで見ることができます。写真はニュージーランドEllerslie競馬場の障害競走で、ここではゲート式が用いられていました。
*馬場状態
日本障害競馬は近年の馬場改良技術の恩恵により素晴らしく水はけが良いため、雨が降ってもたちまち回復して良馬場で行われることが多いのですが、イギリス・アイルランドやオセアニアの障害競馬シーズンは冬であるため、重馬場で行われることが多くあります。特に近年のイギリス・アイルランドでは冬の降雨が問題となっており、競馬場が水没して開催中止になることは度々あります。各国とも馬場表示において最も重いHeavyやLourdクラスの馬場となると、日本で想像される不良馬場よりもはるかに重く、良馬場とは全く異質の馬場が作られます。各国の馬場表示は以下のようになっています。
開催国 | 馬場表示一覧 |
---|---|
イギリス | Hard - Firm - Good - Soft - Heavy |
アイルランド | Hard - Firm - Good - Yielding - Soft - Heavy |
フランス | sec - tres leger - leger - bon leger - bon - bon souple - souple - tres souple - collant - lourd - tres lourd |
チェコ | tvrdá - pevná - pružná - měkká - těžká - hluboká |
イタリア | duro - buono - morbido - leggermente pesante - colloso - pesante - molto pesante |
ドイツ | hart - fest - gut - weich - schwer - tief |
ポーランド | twardy - lekki - lekko elastyczny - elastyczny - mocno elastyczny - ciężki |
スウェーデン | god - något tung - blöt - lätt - tung - mjuk |
オーストラリア | Firm - Good - Soft - Heavy |
ニュージーランド | Fast - Good - Dead - Slow - Heavy |
アメリカ | Firm - Good - Yielding - Soft - Heavy |
(注) 過去、オーストラリアの馬場状態は10段階、ニュージーランドは11段階に区分されていましたが、2022年からニュージーランドがオーストラリアに合わせる形で統一されています*1。
以下参考情報
*ストーン・ポンド / ポンド / キログラム換算表
ストーン・ポンド | ポンド | キログラム | |
---|---|---|---|
9st | 7lb | 133lb | 60.3kg |
9st | 8lb | 134lb | 60.8kg |
9st | 9lb | 135lb | 61.2kg |
9st | 10lb | 136lb | 61.7kg |
9st | 11lb | 137lb | 62.1kg |
9st | 12lb | 138lb | 62.6kg |
9st | 13lb | 139lb | 63.0kg |
10st | 0lb | 140lb | 63.5kg |
10st | 1lb | 141lb | 64.0kg |
10st | 2lb | 142lb | 64.4kg |
10st | 3lb | 143lb | 64.9kg |
10st | 4lb | 144lb | 65.3kg |
10st | 5lb | 145lb | 65.8kg |
10st | 6lb | 146lb | 66.2kg |
10st | 7lb | 147lb | 66.7kg |
10st | 8lb | 148lb | 67.1kg |
10st | 9lb | 149lb | 67.6kg |
10st | 10lb | 150lb | 68.0kg |
10st | 11lb | 151lb | 68.5kg |
10st | 12lb | 152lb | 68.9kg |
10st | 13lb | 153lb | 69.4kg |
11st | 0lb | 154lb | 69.9kg |
11st | 1lb | 155lb | 70.3kg |
11st | 2lb | 156lb | 70.8kg |
11st | 3lb | 157lb | 71.2kg |
11st | 4lb | 158lb | 71.7kg |
11st | 5lb | 159lb | 72.1kg |
11st | 6lb | 160lb | 72.6kg |
11st | 7lb | 161lb | 73.0kg |
11st | 8lb | 162lb | 73.5kg |
11st | 9lb | 163lb | 73.9kg |
11st | 10lb | 164lb | 74.4kg |
11st | 11lb | 165lb | 74.8kg |
11st | 12lb | 166lb | 75.3kg |
11st | 13lb | 167lb | 75.7kg |
12st | 0lb | 168lb | 76.2kg |
12st | 1lb | 169lb | 76.7kg |
12st | 2lb | 170lb | 77.1kg |
12st | 3lb | 171lb | 77.6kg |
12st | 4lb | 172lb | 78.0kg |
12st | 5lb | 173lb | 78.5kg |
12st | 6lb | 174lb | 78.9kg |
12st | 7lb | 175lb | 79.4kg |
12st | 8lb | 176lb | 79.8kg |
12st | 9lb | 177lb | 80.3kg |
12st | 10lb | 178lb | 80.7kg |
12st | 11lb | 179lb | 81.2kg |
12st | 12lb | 180lb | 81.6kg |
12st | 13lb | 181lb | 82.1kg |
*(参考)ニュージーランド競馬 馬場表示
Scale | Rating | Penetrometer Band | Comment |
---|---|---|---|
1 | Fast | 0.5 - 1.9 | A dry hard track |
2 | Good | 2.0 - 2.2 | A firm track |
3 | Good | 2.3 - 2.5 | Ideal track with some give |
4 | Dead | 2.6 - 2.8 | Track with give better side of Genuine Dead |
5 | Dead | 2.9 - 3.2 | Genuine Dead |
6 | Dead | 3.3 - 3.5 | Significant amount of give, worse side of Genuine Dead |
7 | Slow | 3.6 - 3.8 | A mildly rain affected track, better side of Genuine Slow |
8 | Slow | 3.9 - 4.2 | Genuine Slow |
9 | Slow | 4.3 - 4.5 | Rain affected, worse side of Genuine Slow |
10 | Heavy | 4.6 - 5.5 | Genuine Heavy |
11 | Heavy | 5.6 - | Very soft and wet, heaviest category |