にげうまメモ

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21/10/03 Weekly National Hunt / Jump Racing

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*週刊障害競馬回顧 2021/09/27-2021/10/03

9/28(火)

Compiegne (FR) Collant (4.2)

Prix De La Gascogne (G3)

Steeplechase Pour tous chevaux de 5 ans et au- dessus 3800m (Replay)

1. Want of a Nail J: Mlle Nathalie Desoutter T: Lageneste & Macaire

Roi Mage、Donne Le Changeが前に行く展開も、最終コーナーの辺りから頑張って前に行ったWant of a NailがGarasilを抑えて勝利した。Want of a Nailは良く知られた良血馬で、Steeplechaseでの重賞勝利は昨年のListedに続き2勝目となる。Haiesでは2019年にHaras D'Etreham - Prix Bournosienne (G2)勝ちもあるのだが、その後ややスランプ気味になっており、あまり重賞競走に顔を出してくることは少なくなっていた。5歳牝馬ということだが、血統面を考えるとどこまで現役を続けるかは不透明なところ。2着のGarasilは最終障害でDonne Le Changeと接触する不利があり、それで半馬身差なのだからほぼ勝ちに等しい内容だろう。ここのところ重賞クラスでも崩れずに走っており、引き続き期待したい。

 

10/1(金)

Honzrath (GER) Sand

Großer Hindernispreis des Saarlandes sponsored by Firma Nano-Care Deutschland AG

Sonstige, 6.000 € Für 4-jährige und ältere Pferde. Jagdrennen 3400m (Replay)

1. Wutzelmann J: Pavel Slozil Jun. T: Anna Schleusner-Fruhriep

ドイツHonzrathの名物レース。現在世界中で、ダートコースを使用する障害競走が行われているのはこの競走のみである。レースは例によってWutzelmannが逃げる展開で、Pop Rockstar、Zuckerprinzなどが積極的に絡んでいくも、あっさりとこれらを振り切ったWutzelmannがそのまま5馬身差の快勝。2着には追い上げたZenithが入った。

Wutzelmannはこれでこの競走は3連覇とした。今年のBad HarzburgのSeejagdrennenではまさかの落馬に終わっていたが、ここでは貫禄を見せた。現役のドイツ調教馬としては卓越した飛越技術を誇っており、ここでは飛越技術の安定感が一歩抜けていた。かつてドイツである程度の障害競走が行われていた時代を知る数少ない馬であり、その頃に培った技術がここでも生かされているのだろう。今年のドイツ障害競走の内容を踏まえると、ドイツ競馬はやはり障害競走を開催する必要があることは間違いないだろう。Zenithはこれが障害2戦目であったが頑張って2着まで来た。Pop Rockstarは元々イギリスで計4勝を上げた障害馬で、今年からドイツに移籍しているのだが、どうにもまだドイツの障害になれていない感の3着。昨年2着のZuckerprinzは積極的にWutzelmannを追いかけるも、最後失速して4着に終わった。

 

10/2(土)

Gowran Park (IRE) Good

PWC Champion Chase (G2) 2m4f (Replay)

1. Royal Rendezvous J: Dannie Mullins T: Willie Mullins

Put The Kettle Onが出走するということで話題になっていたのだが、馬場が硬いという理由で出走取消。ある程度決め打ちしたような感じでAbbey Magicが前に出るも、途中からRoyal Rendezvousが先頭に。残り3障害あとからHardlineが先頭に代わるが、盛り返してきたRoyal RendezvousがHardlineとの叩き合いを制して勝利した。

Royal RendezvousはGalway Plate (Grade A)を含む3連勝とした。夏場に調子を上げてくるタイプで、どうやらこのような良馬場でのスピード勝負に適性があるのだろう。昨シーズンはほぼ冬場は全休に終わっていたが、今年はどこまでレースを使うのだろうか。Hardlineは近走さっぱりで人気がなかったが、今回は久々に見せ場を作った。2018年のはLimerickのNovice Chase (G1)を勝っている馬で、もしかするとこのようなゆったりとした余裕のあるレースの方がいいのかもしれない。Easy GameはRoyal Rendezvousのミスに釣られる形での落馬で、勿体ないレースとなってしまった。

 

10/3(日)

Tipperary (IRE) Yielding (Good in places)

Joe Mac Novice Hurdle (G3) 2m (Replay)

1. Purple Mountain J: Sean O'Keeffe T: Willie Mullins

最終障害手前から抜け出したSan Salvadorだが、最終障害で落馬。代わって番手で頑張っていたPurple Mountainが後続に6馬身差をつけて勝利した。

San Salvadorは障害2戦目で、前走Maidenを勝ったばかりの馬。National Hunt Flatでは8月に1勝を上げたのみとあまり振るわなかったが、いきなり重賞クラスで頑張った。Galileo産駒のEl Salvadorはここまであまり繋養年数を重ねていない種牡馬で、今後の動向に注目しておきたい。勝ったPurple Mountainは棚ぼたの勝利ではあるが、とりあえずHurdleは2戦2勝とした。National Hunt Flatでは牝馬Listedの勝ち鞍もあり、今回同厩舎のArctic Warriorとの騎手の配置を考えるとあまり評価順は高くないようだが、牝馬ということもあり使えるレースの選択肢は多そうだ。これでHurdleは22戦目となるBonarcが最後追いこんで2着。人気のArctic Warriorはどうにも飛越がいまいちで、早々に後退し途中棄権に終わった。

 

Horse & Jockey Hotel Hurdle (G3) 2m (Replay)

1. Saldier J: Danny Mullins T: Willie Mullins

ゆるゆると逃げたSaldierがそのまま逃げ切り勝利した。Saldierは前走のGalway Hurdle (Grade A)から連勝とした。もともとMorgiana Hurdle (G1)を始めG1を2勝している実力馬で、前走は久々に復活の兆しを見せていたのだが、今回も期待に違わぬ走りを見せた。内容的にはほぼ最後の直線の上り勝負といったところで、やはりシーズン序盤らしいまったり感はぬぐえないのだが、それでも勝ち切ったことがなによりの結果だろう。今シーズンこそはこの馬本来の能力をG1戦線で見せてくれることを期待したい。Darassoが2着に入ったが、どうにも7月にはGalway Plate (Grade A)を使っていたりと路線が定まらないところがあり、レース選択は注意しておいた方がいいだろう。トップハンデのJason The Militantが3着で、Darassoとは斤量の分の差と考えた方がよさそうだ。

 

O'Dwyer Steel Dundrum Novice Chase (G3) 2m3f170y (Replay)

1. Gin On Lime J: Robbie Power T: Henry de Bromhead

逃げたGin On LimeがそのままFan De Bluesに12馬身差をつけて快勝した。Gine On LimeはChaseはこれで7戦4勝とした。今年の夏も精力的にChaseを使っている馬で、前走のGalwayのRockshore Novice Chase (G3)はFan De Bluesの2着に敗れているが、今回は完全に脚が上がったFan De Bluesを突き放す強い競馬を見せた。そのFan De Bluesが2着だが、どうにも馬場の悪化と2ハロンの延長が厳しかったようだ。昨シーズンも冬場から使っていたものの結果を残せなかっただけに、この馬はどちらかというと夏馬といったところだろう。

 

Racing Te Aroha @ Te Aroha (NZ) Slow7

Paul Bibby Memorial Great Northern Hurdle (PJR) OPN HDL 4200m (Replay)

1. The Cossack J: Shaun Phelan T: Paul Nelson & Corrina McDougal

Hurdle競走としてはニュージーランド最大のもの。今シーズンはWellington Hurdle、Grand National HurdleとPJRを連勝しているThe Cossackが人気の中心となっていた。レースは早々からやや制御を欠いたAlfie Deeが引っ張る展開で、一時は後続にやや大きなリードをつける。しかし最終コーナーの手前からDr Hankが進出すると、これを追いかけてThe Cossackも進出。直線に入った時点でThe CossackがDr Hankを振り切ると、そのまま後続に4馬身差をつけて勝利した。

The CossackはこれでこのGreat Northren Hurdleは連覇、今シーズンはWaikato Hurdle、Wellington Hurdle、Grand National Hurdleに次ぐPJRは3勝目とした。昨年のこのレースはDead4と異例の良馬場であったのだが、特にGrand National HurdleはHeavy11と非常に厳しい馬場で、一方で今回はSlow8というまた異なった条件と、様々な状況で強い競馬を見せている。どうやらPaul Nelson調教師によると重馬場の方がよさそうということだが、良馬場にも十分対応していることはこの馬のこの路線における優位性を確かなものにする材料だろう。今回もただ一頭70.5kgと厳しい斤量を背負い、他の馬は最高でもAigneやTommyraの66.5kgであったことを考えると、現時点のこの路線では明らかに力量が抜けていると言わざるを得ない。ひとまず来年の予定は不明だそうだが、今後が非常に楽しみな馬である。

上り馬Dr HankはThe Cossackによく抵抗して2着。今シーズンに入ってMaidenを勝ってきた比較的経験の浅い馬で、初めての距離にも関わらず頑張った。Aigneはやや離れた3着で、ここまでWellington Hurdle、Grand National Hurdleなどあまり崩れずに走っているのだが、いずれもThe Cossackには太刀打ち出来ていないあたり、力量的にはどうしようもないのだろう。Alfie Deeは前走に引き続きのニュージーランドHurdleへの参戦であったが、相変わらず制御が難しいようで、11歳とかなり年齢を重ねているにも関わらずどうにも改善が認められないのは残念である。

 

Diprose Miller Great Northern Steeplechase (PJR) OPN STP 6200m (Replay)

1. Te Kahu J: Mathew Cropp T: Dan O'Leary

本来Ellerslie競馬場で行われる競走だが、今年はCOVID-19の影響でTe Arohaに舞台を移して行われた。Ellerslie競馬場のEllerslie Hillの区画は既に今年で閉鎖となることが決定されており、来年以降のこの競走の開催場所は不明である。ニュージーランド障害競走としては最長距離と最高の賞金額を誇る競走なだけに、その動向には注意しておきたい。

レースは前半から例によってZartanが引っ張る展開。Te Kahu、Lacustre、No Tipなどが好位から進める。Eion、Shamal、Mandalayは後方から。Zartanは少しずつペースを上げて引っ張り、最終周からは隊列がかなり伸びる展開となる。そのままZartanが押し切りを図るも、これに唯一ついて行ったTe Kahuが最終障害を越えて先頭に立つと、そのままZartanとの叩き合いを制して勝利した。

Ellerslie競馬場は3度のEllerslie Hill越えに加えて、特にメインスタンドの正面にトリッキーで難易度の高い障害が設置されており、その結果3回目のEllerslie Hillの頂上から下りにおいて一気に加速を掛け、そのままの勢いで雪崩れ込むというレースになりがちである。基本的にレースとしては純然たる消耗戦であり、高いステイヤー資質と、後半のEllerslie Hillの下りをスムーズに回ってくる騎手の技量が試されるハイレベルな障害競走が展開されることが特徴である。一方のTe Aroha競馬場は平坦でEllerslie競馬場ほどのトリッキーな障害は設置されておらず、その結果として3周目からひたすらロングスパートをかけてサバイバルレースに持ち込むというレースが展開される傾向があり、やはり障害競走の質としてはかなり違ってくるのだろう。来年以降のGreat Northern Steeplechaseを考える上でも、今年のGreat Northern Steeplechaseは興味深いレースであった。

Te Kahuは今年に入って力をつけてきた上り馬で、7月にMaidenでDeligateを下して勝利すると、その後のPakuranga Hunt CupではEionの3着に入っていた。やや当時のEllerslieでは終盤の進路取りや飛越にミスがあった感もあり、勝ちに等しい内容だったのだが、今回はその雪辱を晴らすことになった。逃げたZartanに騎乗したShaun Fanninのつくりだしたペースは、道中緩めることがないにも関わらず後半にかけて少しずつ加速し、最後まで極端に脚が上がることなく馬の体力を使い切る完璧な内容で、このペースの中において後方に居ては勝負にならなかったのだが、Mathew Cropp騎手がこのZartanをぴったりと追いかけていったことは正解であったと考えられる。

例によって惜しいレースをしたのがZaratanで。ここのところのPJRは惜敗続きである。12歳とかなり年齢を重ねており、どこまで現役生活を継続することが可能であるかは未知数なのだが、少なくともSTPにおいてMDNの1勝のみで終わっていい馬ではないだろう。Zartanをぴったりと追いかけていったNo Tipは最後苦しくなり3着。この中では最も勢いのあったEionは道中後半にいてはどうしようもない。同厩舎のShamalもやはり後方からの押しあげを図ったのだが、このペースでは手も足も出なかった。

 

その他

Jumps racing to end in SA (Racing.com)

Jumps racing removed from SA racing’s calendar (Racing SA)

South Australian Jumps racing is no more (The Advertiser)

2022年から南オーストラリア州で障害競馬は開催されないことが決定され、1世紀を超える長い歴史を持つ南オーストラリア州の障害競馬は2021年で幕を閉じることとなった。南オーストラリア州の障害競馬はOakbank競馬場におけるGreat Eastern Steeplechaseを中心に行われていたのだが、近年は出走頭数の減少や騎手の確保に悩まされていた上に、COVID-19の影響による移動制限もあり、開催の継続が困難となっていた。オーストラリア障害競馬は近年ビクトリア州南オーストラリア州で行われていたのだが、賞金額の増額やレース数の増加により再興される方向にあるビクトリア州とは対照的に、上述のとおり南オーストラリア州の障害競馬は苦境に陥っていた。南オーストラリア州の障害競馬として最も象徴的であるのはOakbank競馬場のEaster Festivalであり、1980年台~1990年台においては数万人規模の観客を集めた開催であったのだが、それも過去のものとなるようだ。2010年台にタスマニア州における障害競馬も廃止されており、これでオーストラリアにおいて障害競馬を開催するのはビクトリア州のみとなる。なお、South Australian Jumps Racingは上記の発表を踏まえ、業界関係者に対する意見照会がなかったことを問題視しこのような声明を出している。

Pateman Calls for Oakbank rethink (Racing.com)

上記決定に対するオーストラリア障害競馬の第一人者Steven Pateman騎手兼調教師のコメント。上記の決定に再考を求めているが、どうやらGreat Eastern Steeplechaseを開催するOakbankがこの決定を支持したらしい。

Can History Be Trashed So Easily? (RSN)

Furious Oakbank Members Turn on Club (RSA)

ただし、Oakbank Racing Clubの中も一枚岩でもないようで、色々なところで議論を引き起こしているそうだ。いずれにせよ、Great Eastern Steeplechaseを始めとする歴史ある障害競走を失ったOakbankに明るい未来がないことは疑いようのないことである。

"Gutted" Brook vows to fight (Racing.com)

Threats, Offers, Accusations in the Battle for Oakbank (RSN)

同様の声明は他の関係者からも出ており、Australian Jump Racing Associationを始め、多数の関係者が南オーストラリア州の障害競走の存続のために尽力している。SAJRのfacebookには随時関係者の重要なコメントやニュースがアップデートされており、しばらく注視しておいた方がよいだろう。

Warrnambool Racing Club and Racing Victoria looking at program options after South Australia’s decision to dump jumps racing (Herald Sun)

南オーストラリア州の決定を受けて、5月のWarrnambool競馬場のMay Carnivalに向けたステップレースがビクトリア州のいずれかの競馬場で可能であるか、Racing Victoria及びWarrnambool Racing Clubは検討を始めているそうだ。OakbankのEaster FestivalはWarrnamboolへ向かう路線において重要なレースである。

 

‘I See Both Sides’: Trainer Keri Brion Talks Realities Of Steeplechase Racing (Paulick Report)

先日のBaltimore Buckoの事故を受け、調教師のKeri Brionがラジオ番組に出演する機会を得たそうだ。上記記事にはラジオのアーカイブ配信へのリンク先も記載されている。