Velká Pardubická(ヴェルカ・パルドゥビツカ)の2021年のレース条件は以下のとおりです*1。
- 距離:6900メートル
- 斤量:牡馬/セン馬 70kg、牝馬 68kg(定量)
- 年齢:6歳以上
- 障害数:31
- 賞金額:総賞金3,000,000 Kč、一着賞金1,200,000 Kč(チェコ生産馬を対象に総額40,000 Kčのボーナス)
- 出走条件:2021年に行われたQualification Raceにおいて1回以上完走すること、又は2020年10月12日以降に行われたイギリス・アイルランド・フランス・イタリアにおける4800メートル以上のSteeplechase又はCross Country競走で完走すること。なお、第130回Velká Pardubickáの勝ち馬は無条件で出走可能。
- 騎手条件:以下、①又は②の条件を満たすこと。① 障害競馬で通算10勝以上、及び2021年にSteeplechase又はCross Country競走で1回以上完走 ② 障害競馬で通算10回以上の入着、及び2021年のQualification Raceで1回以上の完走
レース距離は6900メートルと、チェコ障害競走において最長距離を誇ります。チェコ障害競馬に6000メートル超の競争は他にはなく、次点はVelká Pardubickáに向けたQualification Raceを始めとする5000メートルクラスの競争となります。各国の障害競馬と同様に、牡馬は殆どが去勢されるため出走馬の多くをセン馬が占めますが、毎年牝馬も数頭は出走します。負担重量については、獲得賞金や過去の勝ち鞍による加算はなく、牡馬/セン馬・牝馬ともに定量です。この斤量自体はヨーロッパ障害競馬としてはごく一般的なもので、チェコ障害競走の平均と比較すると数kg程度重めに設定されています。なお、負担重量は2016年以前は牡馬・セン馬が68kg、牝馬が66kgに設定されていましたが、2016年から2kg増加して今の斤量となっています。
出走頭数は毎年15~25頭ほど。出走馬の年齢は6~13歳程度ですが、メインは10歳前後であり、このVelká Pardubickáの開催には比較的若い馬のための大レースが数多く設定されていることから、Velká PardubickáにはチェコCross Country競争において豊富なキャリアを有する馬が多数出走します。競馬場内には森も存在する、広く美しいPardubice競馬場を縦横無尽に走る複雑なコースが設定されており、日本の競馬場のように走路が明確に整備されたコースを見慣れていると、そのコースは複雑怪奇なものに感じられるかもしれません。ただし、ヨーロッパにおけるCross Country競走においてこのような複雑なコース設定は一般的です。走路はフランスのCross Countryと同様に芝とダート(というよりは土)が混在していますが、踏切地点及び着地地点は全て芝となっています。コースには急カーブも存在し、滑って転倒するリスクも孕んでいます。障害については生垣障害が主体ですが、それ以外にもPardubice競馬場に存在する多様な障害を使用します。
*Qualification Race
チェコ及びスロバキア調教馬は、原則、年に4回行われるQualification Race(Kvalifikace)のうちのいずれかで完走すること、又は4800m以上のイギリス・アイルランド・フランス・イタリアのSteeplechase又はCross Country競争を完走することで、Velká Pardubickáへの出走権を得ます。Qualification RaceはPardubice競馬場にて5月、6月、8月、9月に計4回行われており、格付けとしてはチェコ・スロバキア調教馬に限定された"National Listed"競走となっています。このレースではVelká Pardubickáで使用する全ての障害を使用するわけではありませんが、比較的Velká Pardubickáに類似したコースが設定されています。従って、これらのQualification Raceはチェコ・スロバキア調教馬にとってVelká Pardubickáに向けた非常に重要な前哨戦となっており、概ねチェコ・スロバキア調教馬はこのQualification Raceを数回使ってVelká Pardubickáに向かうことが多いようです。
チェコ・スロバキア以外の調教馬はこのQualification Raceに出走できないため、イギリス・アイルランド・フランス・イタリアの4800m以上のSteeplechaseまたはCross Countryで完走していることでVelká Pardubickáへの出走権を得ます。これらの馬はPardubice競馬場のCross Country競争を使うことはできないため、Pardubice競馬場のCross Country競走に関してはぶっつけ本番となるようです。仮に日本馬がVelká Pardubickáに挑戦する場合、日本に4800メートル以上の障害競争は存在しないので、フランス辺りで一度走ってからVelká Pardubickáに挑むというローテーションになるかもしれません。
→(2022.08.06修正)チェコ・スロバキア以外の調教馬もこのQualification Raceに出走可能です。従って、チェコ・スロバキア以外の調教馬もチェコ・スロバキア調教馬と同様にこのQualification Raceにて完走することでVelká Pardubickáの出走権利を得ることが可能です。
なお、例外として前年のVelká Pardubickáの勝ち馬には上記の条件は適用されず、無条件で出走可能です。とはいえたいていの場合、いずれかのQualification Raceを走って本番に挑戦することが多いようです。
*賞金額
2021年のVelká Pardubickáの総賞金3,000,000 Kč、一着賞金1,200,000 Kč。2021年のチェコダービーの総賞金2,000,000 Kč、一着賞金1,000,000 Kčですので、なんと自国のダービーよりも賞金額が高いのです。ただし、2019年のVelká Pardubickáの総賞金は5,000,000 Kčですので、やはり新型コロナウイルス感染症の影響もあってか若干の減少が生じています。2021年のVelká Pardubickáの総賞金及び一着賞金を日本円に換算すると、それぞれ約1500万円、約610万円(2021年9月24日現在、1 Kč = 5.1円)。賞金額としては日本の障害未勝利戦よりも低いのですが、そのレースとしての価値の高さは当日の場内の様子から一目瞭然でしょう。
*障害数
Velká Pardubickáでは合計31の障害を飛越します。障害は生垣障害が主ですが、2連続障害、石垣(Stone Wall)、木製の柵(Timber Rail)、Irish Bank、空壕(Dry Ditch)、水壕等、Pardubice競馬場に設置されている多種多様の障害をフルに使用します。Velká Pardubickáが行われる開催日における準メイン競走であり、5200メートルとチェコ障害競走の中では上位の長距離を走るCena Labe (Listed)で使用する障害数は24であることから考えても、この31という障害数はチェコ障害競走としても飛びぬけて多いのです。
開催国 | レース名 | 障害数 |
---|---|---|
イギリス | Grand National (G3) | 30 |
アイルランド | Irish Grand National (Grade A) | 24 |
フランス | Grand Steeplechase de Paris (G1) | 23 |
イタリア | Gran Premio Merano (G1) | 24 |
ポーランド | Wielka Wrocławska | 25 |
ベルギー | ING Grand Steeplechase des Flandres | 25 |
スウェーデン | Svenskt Grand National | 16 |
オーストラリア | Grand Annual Steeplechase | 33 |
ニュージーランド | Great Northern Steeplechase | 25 |
日本 | 中山グランドジャンプ / Nakayama Grand Jump (G1) | 12 |
各国を代表する障害競走の障害数。Velká PardubickáはSteeplechase Cross Countryですが、それ以外の競争は基本的にSteeplechaseです。なお、ベルギーのING Grand Steeplechase des FlandresはCrystal Cupのメンバーで、カテゴリー的にはCross Countryとされており、一部Cross Country的な障害も設置されていますが、全体的な障害の性質としてはSteeplechaseの方が近いように思います。オーストラリアのGrand Annual Steeplechaseが最も障害数が多いというのは少々意外かもしれません。各国の代表的なCross Country競争を比較すると下記のようになります。
開催国 | レース名 | 障害数 |
---|---|---|
イギリス | Glenfarclas Cross Country | 32 |
アイルランド | La Touche Cup | 35 |
フランス | Prix Anjou-Loire Challenge (Listed) | 50 |
フランス | Grand Cross de Craon (Listed) | 31 |
フランス | Grand Cross de Pau (Listed) | 31 |
イタリア | Premio Delle Nazioni (G2) | 34 |
Prix Anjou-Loire Challengeは世界最長距離(7300メートル)を誇るCross Country競走です。ただし、障害のカウント方法は各国で若干異なっているため、あくまで参考程度の数値と考えてください。例えば、Premio Delle Nazioniでは、複数の障害を組み合わせた障害が多数存在し、公式が発表している数字ではそれらを一つの障害としてカウントしていますが*2、Velká Pardubickáでは2連続障害を複数の障害としてカウントしています。