Pardubice (CZE)
〇 131. Velká Pardubická se Slavia pojišťovnou
Steeplechase Cross Country Listed - 6yo+ - 6900 m - 3,000,000 Kč
いわゆるチェコのあれ。世界一タフな障害競馬と言われることも多い、チェコ障害競馬としては最高峰の競争である。日本人にとっては名前が覚えにくいのだが、"Velká"とは要するに"Great"とかそういう意味、後半の"Pardubice"とは町の名前である。要するに、グレート・パルドゥビチェ。パルドゥビチェ大賞とでも訳すのだろうか。なお、日本語では「ヴェルカ・パルドゥビツカ」と表記されることが多いものの、チェコ語の発音では「ヴェルカー・パルドゥビツカー」の方が正確である。
なお、今年のVelká Pardubickáに際して、元々ホームページに置いていたVelká Pardubickáの紹介をアップデートした上でこのブログに移行しています。この出走馬紹介では出走馬のことしか書かないので、Velká Pardubickáに関する一般的な紹介や情報の入手先は以下の記事(全5回)をご覧ください。
去年のレース結果及びレース回顧は以下の記事を参照されたい。
出馬表は以下のとおり。チェコJockey Clubのリンクはこちら。
馬名 | 斤量 | 騎手 | |
---|---|---|---|
1 | VANESSE | 68.0 | ž. Jordan Duchene |
2 | EVŽEN | 70.0 | ž. Jaroslav Myška |
3 | KAISERWALZER | 70.0 | am. Patrick W. Mullins |
4 | CASPER | 70.0 | Daniel Vyhnálek |
5 | THEOPHILOS | 70.0 | ž. Josef Bartoš |
6 | TALENT | 70.0 | ž. Pavel Složil ml. |
7 | DULCAR DE SIVOLA | 70.0 | ž. Petr Tůma |
8 | MR SPEX | 70.0 | ž. Jan Kratochvíl |
9 | PLAYER | 70.0 | ž. Marcel Novák |
10 | HEGNUS | 70.0 | ž. Lukáš Matuský |
11 | PARIS EIFFEL | 70.0 | ž. Martin Cagáň |
12 | STRETTON | 70.0 | Jakub Kocman |
13 | STAR | 70.0 | ž. Jaroslav Brečka |
14 | NO TIME TO LOSE | 70.0 | ž. Ondřej Velek |
15 | MAHE KING | 70.0 | ž. Jan Faltejsek |
16 | BEAU ROCHELAIS | 70.0 | Adam Čmiel |
17 | SZTORM | 70.0 | ž. Sertash Ferhanov |
18 | LOMBARGINI | 70.0 | ž. Jan Odložil |
19 | VANDUAL | 70.0 | ž. Romain Julliot |
表記フォーマットは以下のとおり。
- 馬番. 馬名 (生産国), 年齢 J: 騎手 T: 調教師 (血統表へのリンク)
1. Vanesse (FR), 9 J: ž. Jordan Duchene T: Pavel Vítek (Pedigree)
父VertigineuxはZeddaan - Kalamoun - Kenmare - Kendorに連なる父系の出自。どうやらフランスで繋養されているようだが、ここまであまり目立った産駒は出しておらず、近年の種付け数も一桁と、どちらかというとマイナー種牡馬の類のようだ。VanesseはVertigineuxの代表産駒である。障害競馬において、このZeddaanの系統の中ではZeddaan - Kalamoun - Kenmare - Highest Honorを経るラインが比較的近年勢いがあるようで、2021年のRyanair Chase (G1)の勝ち馬Allahoや2020年のChampion Hurdle (G1)の勝ち馬Epatanteを輩出したNo Risk At Allが近年特に勢いのある種牡馬として挙げられる。2021年の中山グランドジャンプに予備登録のあったTenerife SeaもNo Risk At Allの産駒で、残念ながら参戦は実現しなかったものの、参戦が実現すれば欧州障害競走においてトレンドとなっているNo Risk At Allの産駒が日本障害競馬を走るという、なかなかに興味深い試みとなっただろう。一方、このVertigineuxのKenmare - Kendorを経るラインにおいて成功した種牡馬としては、Grande Course De Haies D'Auteuil (G1)を連覇したThousand Starsの父Grey Risk等が挙げられるが、どちらかというと近年の障害競馬における活躍馬という意味ではHighest Honorのラインに押され気味である。
Vanesseは今年の9月までフランスのCross Countryを走っていた牝馬で、どうやら今年の9月にフランスからチェコPavel Vítek厩舎に移籍したようだ。Cross Country自体は2017年のPauから長く走っており、昨年の11月のCraonにて、2021年のGrand Cross de Craonを勝利することになるDoralou Des Bordesを相手に1勝を上げている。ただし今年は2月のGrand Cross de PauではPassage de Routeにて落馬した他馬にぶつかって落馬に終わると、その後のLignieresのGrand Cross De Lignieresでも落馬、Anjou-Loire Challengeを目指すメンバーを中心にかなりメンバーが揃っていたとはいえLion D'AngersのPrix Bourgeonneauは大敗、さらに前半から前が元気一杯引っ張ったGrand Steeplechase Cross Country De Ploermelではフェードアウトして途中棄権と、どうにも結果を残すことは出来ていない。
元々はフランスのCross Countryにおける一線級相手だと若干力不足といった立ち位置であり、かつ馬場が渋る等によりゆったりとしたペースで流れるレースを得意とするタイプであったことを考えると、今年4戦はさすがにメンバーが強く、適性外かつ不幸な落馬だったりと色々と言い訳はできるので、近走成績の悪さはさほど気にしなくてもいいような感もある。Pauに限らずフランスでのCross Countryでのレース経験が豊富であることは大きな武器だろう。戦術としてはかなり極端なタイプで、前半は先頭から遥か離れた最後方に構え、そこからじわじわと押し上げていくというもの。やや行きたがって走るタイプのようで、しばしばこのようなタイプ自体はヨーロッパ障害競馬にいるのだが、要するに戦術としてはおそらく馬の後ろで我慢をさせながら、少しずつ馬を動かしていくという発想なのだろう。このタイプは馬にとって初めての舞台で他馬の動きを見ながらレースを運ぶことができる利点はあるのだが、道中の展開に左右される可能性が高く、前に強い馬がいると手も足も出ないというデメリットも存在する。鞍上のJordan Ducheneはフランスの障害騎手。Velká Pardubickáは2019年のChicname De Cotte以来の騎乗となるが、Vanesseと類似したタイプのChicname De Cotteを3着に導いた同騎手を確保できたのは心強い材料だろう。
2. Evžen (GB), 7 J: ž. Jaroslav Myška T: Štěpánka Myšková (Pedigree)
Evženの父So You Thinkはニュージーランド産馬で、世界各地の平地競争で活躍したのちオーストラリアで種牡馬入りしているが、その後アイルランドにもシャトル種牡馬として輸出されている。So You Thinkの祖父Sadler's Wellsは言うまでもなく障害競馬における世界最大の根幹種牡馬の一頭だが、その産駒であるHigh Chapparalはヨーロッパ及びオセアニア障害競馬の両方で結果を残している名種牡馬で、2019年のQueen Mother Champion Chase (G1)勝ちを始めとする圧倒的な成績を残したAltior、2014年のGrand Annual Steeplechaseの勝ち馬Chapparo等、障害競馬においても多彩な産駒を残している。So You Thinkの代表産駒としては2021年のKelly Farm Modernisation Handicap Hurdle (Grade B)勝ちのあるJesse Evansが挙げられるが、平地競走馬と比べると目立った産駒はおらず、Evženはその代表産駒となる。
Evženは近年のチェコSteeplechase Cross Countryにおける最大の上り馬で、ここまで10戦8勝と素晴らしい成績を残している。10月のこのVelká Pardubickáが行われる開催においては、2018年のCena ČASCHは9馬身差の圧勝、2019年のCena Vltavyも快勝、さらに昨年のCena LabeではLombargini以下を抑えて勝利と、順調にここに向けてステップアップを成功させてきた。今年のI. kvalifikace na 130. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは前半における飛越のミスによりリズムを崩して最下位に大敗しているが、その後のII. kvalifikace na 131 Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnou - Memoriál Mjr M.Svobodyでは後続に8馬身差をつけて快勝し、勢いに乗ってここに挑んできた。初めてのVelká Pardubickáということで、初距離・初コースなど課題は多く、飛越のミスによりリズムを崩すリスクもあるのだが、次世代のチャンピオン候補としてこの馬にかかる期待は非常に大きい。女性調教師Štěpánka MyškováはチェコKolesaに拠点を置く人で、最近でもLodgian Whistle、Bridgeur、Chrystal Cross、Goscaterなどのチェコ障害競走における活躍馬を多数送り出している。鞍上Jaroslav Myškaはこの馬の主戦騎手。Velká Pardubickáの勝ち星はないのだが、毎年のようにVelká Pardubickáに参戦している一流の障害騎手である。
3. Kaiserwalzer (GER), 8 J: am. Patrick W. Mullins T: Jaroslav Brečka (Pedigree)
父Wiener WalzerはTurn-To - Hail to Reason - Robertの系統の出身で、2009年のドイツダービー馬である。障害競馬においては2021年のCoral Final Juvenile Hurdle (G1)の勝ち馬Adagioや2020年のPremio Neni Da Zara (G3)の勝ち馬Kolsche Jungを出しているが、残念ながらすでにトルコに輸出されているそうだ。Wiener Walzerの父Dynaformerは障害馬の父としても優秀で、2011年のNew York Turf Writers Cup (G1)の勝ち馬Mabou、2010年及び2011年にIroquois Hurdle (G1)を連覇したTax Ruling、2015年のAustralian Steeplechaseを勝利したThubiaan、2017年の英Grand Nationalの2着馬Cause of Causesなどを輩出しているが、Dynaformerの後継種牡馬の障害競馬における存在感はそこまで大きくはない。
Kaiserwalzerはスロバキア調教馬。今年の8月までは2019年にCategory III勝ちがあるのみで、上位クラスではさっぱり良いところがなかったのだが、前走のIV. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouで2019年のVelká Pardubickáの勝ち馬Theophilosを下し、突如ここでの有力馬に躍り出てきた。8歳と比較的若い馬で、ここにきて急激に馬が変わってきた可能性もなくはないのだが、昨年のCena Labeでは上位からやや遅れた5着に終わっていたことを考えると、当時の小頭数かつ余裕のあるレースとなったことが勝因である可能性も疑った方がよいかもしれない。
しかし、この馬における最大のサプライズはその騎手である。鞍上はなんとアイルランドのPatrick Mullins。アイルランドにて13回ものチャンピオンアマチュア騎手のタイトルを誇り、アイルランド障害競馬リーディングにおいても上位に位置するこのアマチュア騎手は、並のプロ騎手を遥かに凌駕する卓越した技術を持ち、これまでも多数の偉大な障害馬とともに数々のビッグタイトルを獲得している。PardubiceのCross Countryはこれが初参戦となるが、どのような手綱さばきを見せるか楽しみにしたい。
4. Casper (FR), 9 J: Daniel Vyhnálek T: Dalibor Török (Pedigree)
Lyphard - Bellypha - Mendez - Linamixと連なる父系出身の種牡馬Martalineは言わずと知れた偉大な障害種牡馬で、フランスを中心にヨーロッパ障害競馬において絶大な存在感を放っており、2020のGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)の勝ち馬Paul's Saga、2014年のRyanair Chase (G1)の勝ち馬Dynaste、2015年のGrande Steeplechase D'Europa (G1)の勝ち馬Kamelie等、その活躍馬は枚挙に暇がない。障害種牡馬としては珍しく後継種牡馬にも恵まれており、2018年のPrix Cambaceres (G1)の勝ち馬Beaumex De Houelle、2019年の同レースの勝ち馬Nirvana Du Berlais等、複数の活躍馬が種牡馬入りしているようだ。Lyphard - Bellypha - Mendez - Linamixの系統は平地競争という意味ではやや下火になりつつある系統だが、2018-2019とPrix La Haye Jousselin (G1)を連覇したBipolaireを輩出したFragrant Mix、2015年から2018年にかけてING Grand Steeplechase Des Flandresを4連覇したTaupin Rochelaisを輩出したAl Namix、2013年のArkle Challenge Trophy (G1)の勝ち馬でその破天荒なレース振りで人気を集めたSimonsigの父Fair Mix、さらに2013年~2014年のGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)の勝ち馬で、種牡馬としても2020年のPrix Maurice Gillios (G1)を制覇したLe Berryを輩出したGemixなど、ヨーロッパ障害競馬において多数の活躍馬及び成功した種牡馬を輩出している。この辺りから、スピード偏重傾向の平地競馬とは一線を画す障害系統が現れることを期待したい。
Casper自身は勝ち鞍としてはSteeplechase Cross Countryは下級条件戦の1勝のみに留まるが、2019年のCena Vltavy (National Listed)にてEvženの2着に入って一躍頭角を現すと、2020年はVelká Pardubická戦線へと参戦し、Velká Pardubickáでは勝ち馬から4秒差の6着に入っている。今年もI. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは3着、その後のCategory IIのCena Catering Melodieは4着と、昨年とほぼ同じローテーションで堅実に頑張っているのだが、どうにもここまでのNational Listed以上でのレース振りを見る限り、一線級相手だとワンパンチ足りないというのが現状のようだ。去年一度Velká Pardubickáのコースを経験したことによる上積みに期待したい。Daniel Vyhnálekはここ3年ほど急激に乗鞍を増やしてきた騎手。Velká Pardubickáはこれが初めての参戦となる。
5. Theophilos (FR), 11 J: ž. Josef Bartoš T: Josef Váňa st. (Pedigree)
Gone Westの系統に連なる父Elusive Cityはイギリス・アイルランド・フランス障害競走においてはさほど活躍馬は出していないが、チェコにおいてVelká mostecká steeplechase (Stch NL)を2018年、2019年と連覇したほか、2018年ドイツのAlpine Motorenöl Seejagdrennenを制したPentre Elusifも代表産駒として挙げられる。TheophilosはこのElusive Cityにとって最も成功した産駒である。とはいえGone Westの系統自体、あまり近年の障害競馬における存在感は大きくない。
Theophilosは2019年のVelká Pardubickáの勝ち馬。3000メートルクラスのスピードにも十分対抗できる豊かなスピード能力を武器に2019年から2020年にかけては安定した成績を収めていた馬だが、昨年のVelká Pardubickáでは期待されながらも9着とまさかの大敗。今年初戦となったI. kvalifikace na 131 Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでも前からはやや離された5着、IV. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは6頭立てと小頭数で、メンバーも大幅に弱化したにも関わらず、実績的には格下のKaiserwalzerに足元をすくわれて2着と、どうにも不甲斐ない競馬を続けている。特にIV. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは悠然とこの馬のペースでレースを進めたにも関わらず、勝ち切るに至らなかったことはやや残念な内容であった。11歳という年齢を考えるとそろそろ全盛期を過ぎた可能性も考えられる。この舞台への適性は疑いようもないのだが、近走成績としては若干強調材料に欠けるというところだろう。鞍上はこの馬の主戦Josef Bartoš。言うまでもなくチェコ障害競馬における一流騎手で、Velká Pardubickáはこれまでに3度制している。
6. Talent (CZE), 10 J: ž. Pavel Složil ml. T: Hana Kabelková (Pedigree)
父のEgertonはドイツ生産馬で、ソングオブウインドやアドマイヤメインが参戦したHong Kong Vase (G1)にも出走していた馬といえば少しは馴染みがあるかもしれない。Egertonの代表産駒としては、2015~17年頃にハンガリー障害競走において無敵を誇り、イタリアのGran Corsa Siepi Di Milano (G1)などでも2着と活躍したハンガリーの英雄Diplomataが挙げられる。ハンガリー障害競走は現在Kincsem Parkにおいて、月に1度、平易な障害を用いるHurdle競走が行われるのみとなっており、またDiplomataのような名馬が現れてくることを期待したいのだが、障害競走の開催状況という意味では少々厳しいかもしれない。
Talentは2020年のVelká Pardubickáの4着馬。2018年、2019年とQualification Raceで高いパフォーマンスを発揮するも、故障がちでどうにも順調に使えない影響があり、ようやく参戦が叶った2019年のVelká Pardubickáでは7着に終わっていた。一方で2020年は順調にレースに出走することができ、その結果としてVelká Pardubickáでの好勝負に繋がったのかもしれない。しかしながら、今年はどうにもパフォーマンスを落としており、5月のI. kvalifikace na 131 Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは前から大きく離れた8着に終わると、直前のCategory IIのCena Catering Melodieも5着に敗れている。10歳と年齢を重ねていることや体調面の不安があることから、ここまでのレースでは目一杯に仕上げずにこの大一番に向けて仕上げてくる可能性も否めないのだが、近走成績からは若干の不安があるというのが正直なところだろう。Pavel Složil騎手は特に最近イタリアやポーランドでの実績が目立つ騎手だが、Talentとはこれまでに何度かコンビを組んでおり、昨年のVelká Pardubickáに引き続きのコンビとなる。
7. Dulcar De Sivola (FR), 8 J: ž. Petr Tůma T: Stanislav Kovář (Pedigree)
Dulcar De Sivolaの父AssessorはNiniskiの産駒で、障害種牡馬としては2012年から2014年にかけてLong Walk Hurdle (G1)を3連覇したReve De Sivolaや、2007年Arkle Challenge Trophy (G1)の勝ち馬My Way De Slzen等を送り出している。Nijinkyの分枝として、Niniskiの系統は障害競走という観点では近年隆盛のSaint Des SaintsやBuck's Boum等を有するGreen Dancer - Cadoudalの系統と比較すると若干小粒ではあるものの、その役者としての数は多く、最近ではNiniski - Hernando - Sulamaniの系統が、イギリス・アイルランドHurdle戦線で圧倒的なパフォーマンスを見せている歴史的な名牝Honeysuckleを輩出している。
Dulcar De Sivolaは今年で8歳となる馬で、障害馬としては決して高齢の部類ではないが、Velká Pardubickáにはこれまで精力的に参戦しており、今年で3回目の参戦となる。2017年まではフランスで走っていた馬で、その後チェコに移籍しているが、チェコ移籍初戦となったCategory IIIで2着に入ったのがチェコにおける最高着順で、ここまで勝ち星を挙げることは出来ていない。これまで2回参戦したVelká Pardubickáも9着、11着といずれもいいところはなく、Velká Pardubickáに向けたQualification Raceでも2020年のI. kvalifikace na 130. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouにおける4着が最高と、いずれも勝負に加わることはできていない。今年2戦もいずれも大敗に終わっており、3回目のVelká Pardubickáということでコース経験はあるものの、いきなりここでパフォーマンスを上げてくるのは考えにくいというのが現状だろう。Petr Tůma騎手とは2回目のコンビ。Petr Tůma騎手はこれまでに何度かVelká Pardubickáでの騎乗歴はあるのだが、良績は残せていないようだ。
8. Mr Spex (GER), 7 J: ž. Jan Kratochvíl T: Luboš Urbánek (Pedigree)
Mr Spexの父Tai Chiは前述のHigh Chapparalの産駒だが、ここまで障害競馬において目立った活躍馬は輩出しておらず、Mr Spexはその代表産駒となる。他には2019年のチェコダービーにも参戦したAmazing Gangsterが2019年からHurdle競走に参戦しているようだが、3戦して2着2回と、未だ勝ち星を挙げることは出来ていないようだ。High Chapparalの産駒として障害競馬における種牡馬として比較的活躍馬を送り出しているのは前述のSo You Thinkで、ほかには2021年のニュージーランドAwapuni Hurdleの勝ち馬Chief Sequoyahを送り出したRedwoodが挙げられるが、まだ繋養年数が経っているわけでもなく、ここからといったところだろう。
Mr Spexは元々Cena ČASCHにてEvženの3着に入り、現7歳世代では比較的上位の実力を示していた馬で、2019年にはCategory IIのCena pivovarů Staropramen - Memoriál Jana Kašparaを勝利して順調にステップアップしてきた。2021年からはVelká Pardubickáへと路線を切り替えており、すでに2戦のQualification Raceを消化しているが、そのいずれでも前からはやや離れた7着と結果を残すことが出来ていない。昨年のCena Vltavy (National Listed)でも前から離れた5着と、どうにも一線級を相手にするとやや力量的に足りないというのが現状のようで、距離延長がこの馬にとってプラスに働くなど、なにかしらのプラス材料がない限りここで好勝負するのは厳しそうだ。Jan Kratochvílとはここ2戦ほどコンビを組んでいる。Jan Kratochvílはチェコ一流の障害騎手で、Velká Pardubickáは2017年にNo Time To Loseとのコンビで勝利している。
9. Player (CZE), 9 J: ž. Marcel Novák T: Lenka Kvapilová (Pedigree)
父MoonjazはNashwanの産駒。イギリス生産馬ながらチェコに輸出された種牡馬で、2018年Gran Corsa Siepi Di Merano (G1)の勝ち馬Aztek、2019年Gran Criterium D'Autunno (G1)の勝ち馬Night Moon、2014年のVelká Pardubickáで3連覇を狙った伝説的名牝Orphee Des Blinsを僅差まで追い詰めたAl Jazなどを輩出している。近年種牡馬としてクロノジェネシスを輩出した*バゴがこのNashwanの産駒だが、Nashwanの系統はあまり近年の障害競馬では馴染みがなく、Moonjazはその数少ない砦である。
Playerは昨年のVelká Pardubickáの2着馬。Velká Pardubická初参戦となった2019年はコーナーで滑って転倒しているが、昨年は前半から前目で運んでペースを掴んでいくMarcel Novákの積極的な騎乗で2着に入った。今年初戦となったI. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは勝ち馬No Time To Loseとはあまり差のない4着に入っており、この路線では確実に実力上位であることを示している。前走のCategory IIのCena DENÍKU PRÁVOではChelmsfordの謎の激走の前に2着に終わっているが、ここに向けたプレップレースとしてはこれで十分だろう。同レースを使ってここにぶつけてくるローテーションは昨年と同様のものであり、乗り方一つでは悲願のVelká Pardubickáまであってもおかしくはない。鞍上は昨年に引き続きMarcel Novák。Velká Pardubickáには毎年のように出走している非常に経験豊かなチェコ一流の障害騎手で、昨年の雪辱を晴らすべく悲願のVelká Pardubickáに挑むこととなる。
10. Hegnus (CZE), 13 J: ž. Lukáš Matuský T: Radek Holčák (Pedigree)
Hegnusの父Magnusは、Ribot - Tom Rolf - Hoist The Flag - Allegedからなる父系の出身のポーランド生産馬である。Magnusは種牡馬として、2013~2015年のPoplerův memoriál podporovanýを3連覇したShamanや2016年のCena Laty Brandisové勝ち馬Bugaboo等を輩出しており、Hegnusはその代表産駒である。Magnusの父Japeはアメリカ生産馬だが産駒はポーランドやチェコで走っており、Hegnusの母系は古くからチェコ・スロバキアに根差した土着血統であることを考えると、Hegnusの血統的にはなんともチェコっぽさを感じさせるものである。
Hoist The Flagの系統としてはAllegedを経るラインが主であり、その中でも特筆すべきはImperial Commander、One Track Mind、Flemenstar等多数の活躍馬を輩出したFlemensfirthが挙げられる。他にもDeath DutyやThe Storytellerなどを輩出したShantou、さらにQuestarabadやAnakingを輩出したAstarabadをはじめ、この系統はヨーロッパ障害競馬において多数の活躍馬を輩出している。その中でもJapeの系統は、チェコ・ポーランドに根差したラインであり、このラインからVelká Pardubická勝ち馬が輩出されることは非常に感慨深いものがある。
Hegnusは2020年のVelká Pardubickáの勝ち馬。今年でVelká Pardubickáは4回目の参戦となる13歳の大ベテランで、2016年は5着、2018年は2着とコンスタントに崩れずに走り続けている。昨年まで8戦連続で連を外さない安定感を誇っていたのだが、今年の始動戦であったII. kvalifikace na 131 Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnou - Memoriál Mjr M.Svobodyにおいては連を外しての5着に終わっている。年間1戦のみでVelká Pardubickáに挑むのは昨年と同様のローテーションであり、このコースにおいてはこのメンバーの中でも圧倒的な経験と安定感を誇るのだが、13歳という年齢を踏まえると、一昨年のチャンピオンTheophilosを追い詰めた昨年と異なり、今年の始動戦においてEvženから2秒ほど離れた5着に終わった結果はやや気になるところではある。Lukáš Matuskýとは昨年に引き続きのコンビとなる。
11. Paris Eiffel (IRE), 8 J: ž. Martin Cagáň T: Jan Cagáň (Pedigree)
Sadler's Wellsの産駒であるOscarはイギリス・アイルランドにおいて最も成功した障害種牡馬の一頭であり、Punchestown Champion Chase (G1)やQueen Mother Champion Chase (G1)を含むG1を6勝し、2008~2012年頃の16ハロンChaseを代表する名馬Big Zebをはじめ、Fighting Fifth Hurdle (G1)及びNeptune Investment Management Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬Peddlers Cross、2012年のChampion Hurdle (G1)の勝ち馬Rock On Ruby、2019年のStayers' Hurdle (G1)の勝ち馬で、同時期における24f戦では無敵を誇ったPaisely Parkなど、その産駒における活躍馬は枚挙に暇がない。今年に入ってもその勢いはとどまることを知らず、英Grand National (G3)では1着のMinella Times、3着のAny Second Nowと、複数の産駒が上位を占め、その圧倒的な存在感をアピールしている。
Paris Eiffelはスロバキア調教馬で、2019年にはスロバキアŠurany競馬場でCena Rybníka Mederčinaを勝利した実績がある。しかしPardubiceのSteeplechase Cross Countryでの実績はさっぱりで、昨年のCena Labeでは途中棄権、今年のI. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでなんとか入線を果たすも、上位からはるか離れた10着、その後のIII. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは落馬と、さすがにこの成績からどうこうというのは考えにくいだろう。唯一好走したのが昨年8月のCategory IIのCena společnosti SEKO AEROSPACEで、ここではEvženの3着に頑張っているのだが、今年3戦はいずれもさっぱりなのはやはり頂けない。強いて言えば父Oscar、母父Bob Backと、ヨーロッパ障害競馬においては比較的メジャーな障害血統であり、血統的な裏付けに期待といったところだろうか。Martin Cagáňは主にスロバキアで騎乗しているベテラン騎手だが、ここ2年ほどは勝ち星がない。
12. Stretton (CZE), 11 J: Jakub Kocman T: Stanislav Popelka (Pedigree)
父のHouse Rulesはアメリカカ生産馬。2008年のVelká Pardubickáにて1位入線を果たすものの、走路を間違えたとして失格となったAmant Grisが代表産駒として挙げられる。チェコJockey Clubのホームページを見る限り、このStrettonはHouse Rulesの最後の現役競走馬であるようだ。House Rulesの父Seattle Slewの系統は大きくSlew O'Gold、Capote、A.P. Indyの系統に分枝するが、基本的にアメリカ血統ということもあって、この系統の近年の障害競馬における存在感は非常に小さい。House Rules自身、後継種牡馬としてチェコ平地競争で活躍したSocr Houseがいるようだが、これといって目立った産駒を送り出してはいないようだ。
Strettonは2019年のVelká Pardubickáの2着馬。Velká Pardubickáはこれで4回目の挑戦であり、2018年は3着、2019年は2着と堅実な成績を残していたのだが、昨年は8着と着順を落としている。以前は勝てないまでも比較的コンスタントに走るタイプであったのだが、今年に入ってからの成績はどうにもいまいちで、前走のCategory IIのCena Catering Melodieでも先頭からやや離れた8着と大敗している。II. kvalifikace na 131 Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouではいちおう3着に入ってはいるのだが、凡走したHegnusはともかくとして、2着のMazhilis以下の水準という意味では若干微妙であることを考えると、あまり額面通りに受け取らない方がよさそうだ。近走成績から考えるとキャリアハイの活躍を見せた2018年、2019年当時の勢いはないようで、おそらく6000メートル以上の距離に適性のあるタイプであり、本番で馬がなにかを思い出して激走する可能性を秘めてはいるものの、11歳と言う年齢を踏まえると若干信頼しにくいというのが正直なところだろう。今年に入ってコンビを組んでいるJakub Kocmanとは3回目の実戦となる。Jakub Kocman自身、Velká Pardubickáへの参戦歴は何度かあるようだが、ここまで良績は残せていない。
13. Star (GER), 10 J: ž. Jaroslav Brečka T: Jaroslav Brečka (Pedigree)
Starの父SternkönigはGrey Sovereign - Zeddaan - KalamounからKalaglowを経るラインの出自で、種牡馬としては2006年のGran Corsa Siepi Di Milano (G1)の勝ち馬Piedmontを送り出している。また、Sternkönigの産駒であるBonvivantは種牡馬としては2015年のSvenskt Grand Nationalの勝ち馬Ländlerを送り出しており、ヨーロッパ障害競馬においてそれなりに馴染みのある系統ではある。StarはSternkönigに残された数少ない現役競走馬の一頭である。
Starはスロバキア調教馬で、10歳にして未去勢の牡馬である。これまでにスロバキアの障害競走にて2勝を上げているものの、PardubiceのSteeplechase Cross Countryは4戦して勝ち星はない。今年のIV. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouにて4着に入って出走権利を獲得してきた。最近までProutkyやSteeplechaseをメインに使っていた馬であり、PardubiceのCross Countryの経験は少ないだけに、前走のQualification Raceの水準は微妙だったとはいえ、丁寧に飛越をこなしたことによる上積みは期待できるかもしれない。また、前走も勝ち馬から10秒以上離された入線とはいえ、勝負所の障害での大きなミスにより馬を止めているだけに着差ほどの低評価はしなくてもよさそうではある。今年6月のZlatý pohár (Steeplechase National Listed)でも最後まで諦めずに頑張って走って2着と、距離が伸びてよさそうな印象もあるのだが、昨年のCena Vltavyでも大敗と、やはりいきなりSteeplechase Crouss Countryの一線級を相手にすると厳しいようにも感じられる。
この馬において最も特筆すべきはその騎手である。Jaroslav Brečkaはスロバキアで実績のある調教師で、調教師兼騎手として今年に入っても精力的にレースに騎乗している。Jockey Clubのデータベースを遡ると1989年の成績すら出てくるという人で、チェコの伝説的騎手Josef Váňaがやはりチェコの伝説的な名馬Železníkとのコンビで勝利した1989年のVelká Pardubickáにも騎乗した実績があり、Josef Váňaが2019年以来騎乗していない現状、1989年のVelká Pardubickáに参戦した騎手の中で現役で残っているのはもはやこの人くらいだろう。Jaroslav Brečkaは騎手としてVelká Pardubickáは1992年にQuirinusとのコンビで勝利しているが、Velká Pardubickáへの参戦は2014年以来となる。
14. No Time To Lose (GB), 12 J: ž. Ondřej Velek T: Josef Váňa st. (Pedigree)
父AuthorizedはSadler's Wells - Montjeuという欧州障害競走において最も成功した系統の出自で、2018年・2019年と英Grand National (G3)を連覇位した歴史的名馬Tiger Rollや、アイルランドHurdleにてG1を8勝したNichols Canyonを送り出すことに成功し、その障害種牡馬としての地位を不動のものとしている。日本でも*エンシュラウドが2020年のイルミネーションジャンプステークスを勝利しており、残念ながら同馬は障害馬として大成することは叶わなかったものの、日本障害競馬においても馴染みのある種牡馬と言えるだろう。
No Time To Loseは2017年のVelká Pardubickáの勝ち馬。不良馬場で各馬が追走に苦労する中、子気味良いテンポで飛ばし、一旦は後続にセーフティーリードと思われる大差をつけたフランス調教馬Urgent De Gragaineをただ一頭追いかけていき、ゴール前で差し切ったパフォーマンスは、チェコ調教馬の勝利を期待する地元のファンを大いに沸かせるものであった。2018年は良馬場に泣き5着、2019年は故障で回避、2020年は早々に落馬と、かつてのチャンピオンもそろそろ年齢的な衰えが出てきたかと思われた今年、始動戦となったI. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは、Theophilos、Tzigane Du Berlais、Playerといったこの路線の一流馬が集まる中、2着に4馬身差をつける驚きの快勝を挙げた。さらに9月のCategory IIのCena Arnošta z Pardubicでは、3000メートルクラスの強豪が集まる中、早々にロングスパートをかけてそのまま逃げ込みを図ったMedicを最終障害で捉え、そこから3馬身差をつけて快勝して見せた。チェコSteeplechase Cross Countryにおいてトップクラスのスピード能力を誇る3000メートルクラスの強豪を相手に、12歳と障害馬としても高齢の域に入りながら、あのようなレースを見せる身体能力は驚嘆に値するものである。Authorized産駒最大の武器である高いスピード能力と、スピードの持続性能に裏付けられた驚異的なロングスパート能力を武器とする馬。今年に入ってのこの勢いであれば、12歳となった今年、4年越しに再度の大仕事をやってのけても不思議ではない。今年に入っての2戦はいずれもOndřej Velek騎手とコンビを組んでおり、これがうまくいった可能性もあるだろう。Ondřej Velek騎手はこれまで何度かVelká Pardubickáへの参戦歴はあるが、あまり良績は残せていない。とはいえ今年はイタリアMeranoでGrande Steeplechase D'Europa (G1)を制すなど、勢いのある騎手である。
15. Mahe King (GER), 6 J: ž. Jan Faltejsek T: Josef Váňa st. (Pedigree)
Mahe Kingの父AdlerflugはIn The Wingsの産駒で、今を時めくSadler's Wellsの直系の子孫である。Adlerflugは2007年のドイツダービー馬で、ジャパンカップにも参戦したItoやIquitosを輩出し、さらにはTorquator Tassoが2021年の凱旋門賞を制すなど、平地においては一定の成功を収めているそうだが、障害競馬における存在感は今のところは大きくない。In The Wingsの系統としては、Fighting Fifth Hurdle (G1)を2勝したIrvingを輩出したSingspiel、RSA Chase (G1)の勝ち馬Bostons AngelやClarence House Chase (G1)の勝ち馬Twist Magicを輩出したWinged Love、2017年のAlpine Motorenöl-Seejagdrennenの勝ち馬Novalisを輩出したSoldier Hollowなどが実績のある種牡馬として挙げられる。
Mahe Kingは6歳の未去勢の牡馬。Steeplechase Cross Country競馬の上位クラスの競争に未去勢の牡馬が出走してくることはかなり珍しい。今年の5200メートルのCategory IIの競争であるCena Služeb města Pardubicを勝ったのち、IV. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは勝ち馬とさほど差のない3着に入って出走権利を獲得した。まだ6歳と若い馬で、距離延長でパフォーマンスを上げてきたこと、チェコを代表する名伯楽Josef Váňaがここにぶつけてくるからにはなにかしらの意図はありそうだが、Steeplechase Cross Country6戦目の馬がいきなりここで好勝負するのは少々荷が重いようにも思える。
チェコのトップジョッキーの1人、Jan Faltejsekとはこれが2回目のコンビとなる。Jan Faltejsekは、Velká Pardubickáはこれまで5勝、さらにイタリア、ドイツ、スウェーデン、スロバキアといったヨーロッパ各国で数々の大レースを制している実績のある騎手で、イギリスやフランスでも重賞勝ちを収めている。その技術はチェコや周辺諸国のみならず、イギリスやフランスといった障害競馬大国においても上位クラスの卓越したものを持っており、これほどの騎手を確保してきたことはなにかしらの意図がありそうな感もある。
16. Beau Rochelais (FR), 10 J: Adam Čmiel T: Tamara Křídlová (Pedigree)
Beau Rochelaisはサラブレッドではなく"Autre Que Pur-Sang(AQPS)"と呼ばれる馬。AQPSは"Other than Thoroughbred"と英訳されており、"Anglo-Arabians"、"Selle Français"(French Riding Horse)、"French Trotters"、さらにそれらの交雑種が含まれている。フランス障害競走では多数のAQPSが生産されており、フランスを始めとするヨーロッパ障害競馬ではサラブレッドと対等以上の戦いを繰り広げている。従って、AQPSはヨーロッパ障害競馬においては非常に重要な役割を果たしていると言ってよいだろう。すっかりサラブレッドばかりとなってしまった日本競馬から考えるとやや不思議な状況に思われるかもしれないが、ヨーロッパ障害競馬においてAQPSは決して珍しい存在ではない。Beau Rochelaisに関しては、父はサラブレッドである一方で母がAQPSである。AQPSの種牡馬も存在するが、どちらかというとBeau Rochelaisのようなパターンが多い。
Beau Rochelaisの父Goldneyevは平地競走馬としては大した実績のない馬だが、障害種牡馬としては成功を収めており、2015年のAscot Chase (G1)を制した悲運の名馬Balder Succes、2012年のPrix Alain Du Breil (G1)を制したUsual Suspectsなどを輩出している。日本には2頭の産駒が輸入され、いずれも地方競馬も含めて未勝利に終わっているが、ミッキークイーンの母Musical Wayの父Gold Awayを送り出しており、日本でも馴染みのある種牡馬だろう。Goldneyevは2010年に死亡しており、Beau Rochelaisは残された数少ない産駒である。
Beau Rochelaisは元々フランスのCross Country路線を走っていた馬で、2019年のVelká Pardubickáではチェコ移籍直後にも関わらずわざわざ追加登録してきたことで話題になった。しかし同レースでは早々にVelký Taxisův příkop(Taxis Jump)で落馬に終わり、その後2年近い休養とTamara Křídlová厩舎への転厩を経て今年の7月のIII. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouにて復帰するも、もたもたと飛越して早々に馬群から遅れ途中棄権、その後のIV. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouもまた勝ち馬から20秒近く離された最下位と、さっぱり良いところがない。フランスでの実績を考えると距離は長い方がよさそうなのだが、いくらなんでもこの近走のパフォーマンスからはどうしようもないだろう。女性調教師であるTamara Křídlováはこの4年で下級条件戦の1勝しか挙げることが出来ておらず、2008年からのデータを見る限り、Velká Pardubickáは初めての参戦である。鞍上Adam Čmielとはこれが初コンビとなる。
17. Sztorm (POL), 12 J: ž. Sertash Ferhanov T: Grzegorz Wroblewski (Pedigree)
Alydarの系統に連なる父Enjoy Planは、種牡馬としては、2003~2007年のイタリア障害にて活躍し、Gran Premio Merano (G1)、Grande Steeplechase Di Milano (G1)を勝利したKolorado、2014年のWielka Wroclawskaの勝ち馬Jam Takiなどを送り出している。Alydarの系統出身の活躍馬としては、2003年の中山グランドジャンプに参戦したフランスのEscort Boyが挙げられるが、ここ10年ほどの障害競馬における活躍馬は概ねこのEnjoy Planの産駒に限られる。母系は5代に渡ってポーランド生産馬が脈々と続いており、なんとも味のある血統である。
Sztormは2018年のポーランドSteeplechase Championで、途中から一気に加速して後続を突き放す競馬で、2018年のNagroda Tiumena、Crystal Cup、Wielka WroclawskaのポーランドSteeplechase主要競走を総なめにした。それ以降はポーランドSteeplechaseとチェコPardubiceのCross Countryを織り交ぜて出走しているのだが、2018年にポーランドで見せた圧倒的な強さは影を潜め、12戦して勝ち星を挙げることはできていない。前走のWielka Wroclawskaも途中から積極的に前に出ようと試みたのだが、結局後続を突き放すに至ることはできず、結果としてBrunch Royalの3着に終わっている。やはり年齢的にかなりスピード能力に陰りが見えてきたような感があるのだが、5月のI. kvalifikace na 131 Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouにてNo Time To Loseの2着に入っていたりと馬自身は元気なようだ。より勢いのあった2019年のVelká Pardubickáでは10着と大敗しており、やはり距離的な不安もあるのだが、一度コースを経験したことによる上積みに期待したい。Sertash Ferhanovとはこの馬が覚醒する前の2017年以来のコンビとなるようだ。Sertash Ferhanovは実績のある騎手であり、Velká Pardubickáでの騎乗経験もあるのだが、今のところVelká Pardubickáでの良績はなさそうだ。
18. Lombargini (GER), 10 J: ž. Jan Odložil T: Stanislav Popelka (Pedigree)
前述Enjoy Planの産駒。Lombarginiは2019年、2020年とVelká Pardubickáの開催における準メイン競走であるCena Labeに出走し、いずれも2着に入っていた馬だが、今年は満を持してVelká Pardubickáへと矛先を向けてきた。あまりの極悪馬場でSteeplechase Cross Country競走が全てSteeplechaseへと変更になった2020年のCena města Pardubic - Úvodní Cross Country Korokaを除けば、ここ2年ほどはほぼ崩れずに走っており、特に今年8月のIII. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouにおいて、Lodgian Whistleがかなり強気に前に出ていった流れの中、これを追いかけて最後は後続を6馬身突き放す強い競馬を見せたことは非常に興味深い内容である。当然初距離など課題はあるのだが、10歳にして本格化を感じさせる勢いのある馬である。悲願のCena Labe制覇には目もくれず、Velká Pardubickáに照準を定めてきたことは陣営のここに賭ける意気込みの表れだろう。Jan Odložilとは前走に引き続きのコンビとなる。前走はある程度前に出ていったLodgian Whistleを見ながらのレースであり、おそらく今回も同様の戦術を取ることになるだろう。
19. Vandual (SVK), 13 J: ž. Romain Julliot T: Marián Štangel (Pedigree)
Vandualの父はカナダにて3回ものSovereign Awardsを獲得した名馬Rainbows For Lifeである。Rainbows For Lifeは種牡馬としても成功を収めており、1999年のチェコダービー・スロバキアダービーを制したRay of Lightや、2007、2008とVelká Pardubickáを連覇したチェコの名牝Sixteenを送り出している。Ray of Lightも種牡馬としてCena Pepperousa勝ちのあるAlmanyなどを送り出しており、なんとかこの辺りの地元血統として頑張って欲しいところである。Lyphard - Bellypha - Mendez - Limanixの系統はFragrant Mix、Al Namix、Martalineなどの有力な障害種牡馬を擁すのだが、それ以外のLyphardの系統としては、このチェコにおけるRainbows for Lifeの他にスウェーデンのSonglineが比較的存在感があるようで、SonglineはH M Honungens Prisの勝ち馬Symphonias WilmerやSt Eriks Prixの勝ち馬Hightowerなどを輩出している。
Vandualはスロバキア調教馬で、今年で13歳になる未去勢の牡馬である。遡るとスロバキアSt. legerの勝ち馬で、2013年からCross Countryを使ってきた古豪なのだが、昨年のVelká Pardubickáでは低評価ながらRomain Julliot騎手渾身の騎乗で僅差の3着に食い込んだ。今年初戦のI. kvalifikace na 131 Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは大敗しているが、Roman Julliot騎手に乗り替わったIII. kvalifikace na 131. Velkou pardubickou se Slavia pojišťovnouでは積極的な騎乗でLombargini、Direct Lagrangeに次ぐ3着に頑張っている。ここまでの成績的に去年と比較して力落ちはないと考えてよさそうで、ここまでVelká Pardubickáへの計3回の挑戦を含む障害競走24戦を消化し、一度も落馬がない圧倒的な安定感も大きな武器である。長きにわたって走り続けた13歳馬の悲願が叶っても不思議ではない。鞍上は勿論前述のRomain Julliot。フランスの騎手で、あまりPardubice競馬場でのレース経験は多くはないのだが、昨年のVelká Pardubickáでの騎乗はPardubice競馬場のCross Countryにおける勝負所を相当に研究してきたとしか思えないものであり、今年に入ってもStrasbourgのTrophee National Du Crossで技ありのレースを見せるなど、卓越した戦術眼を持った非常に面白い騎手である。