にげうまメモ

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21/12/24 第9回(2007)中山グランドジャンプ 海外からの参戦馬

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*第9回(2007)中山グランドジャンプ (Result)

〇 優勝馬:Karasi / カラジ (IRE) (Pedigree) (Racing Post) (racing.com)

騎手:Brett Scott 調教師:Eric Musgrove

第7回(2005)、第8回(2006)に引き続き、3連覇を目指して来日。引き続きBrett Scott騎手とのコンビで挑むと、昨年と同じく4歳馬のリワードプレザンを3/4馬身凌いで勝利しました。他に掲示板に乗ったのは5歳のメルシーエイタイム、4歳のスリーオペレーター、6歳のストームセイコーと若齢の馬ばかりで、そもそもこのレースにおける日本調教馬としての最高齢はキャピタルゲイン、マウントフォンテン、トウショウトリック、テレジェニックの7歳なのですから、この*カラジの12歳という年齢のインパクトは計り知れません。そもそも海外障害馬としても12歳というのはかなり高齢の域で、このくらいの年齢に差し掛かってくるとアメリカのTimberを除きそろそろ一線級を退きつつあるのが一般的なのですから、中山グランドジャンプという平地のスピード能力が生きるレースにおいて、12歳で3連覇を達成したという業績がいかに偉大なものであるか、もはや語るまでもないでしょう。同馬及び陣営の詳細は2005年の記事をご覧ください。

 

〇 6着:Personal Drum / パーソナルドラム (NZ) (Pedigree) (Racing.com)

騎手:Craig Durden 調教師:Eric Musgrove

オーストラリア調教馬。Karasiと同じくEric Musgrove調教師の管理馬です。平地競争ではPerth Cup (G2)を始め重賞クラスへの出走歴もある馬ですが、2005年から障害デビュー。Hurdleでは果敢にFlemington競馬場のGrand National Hurdleにも参戦した経歴もありますが、結局Hurdleでは未勝利に終わりました。しかし2006年からSteeplechaseに転向すると一変。Steeplechaseデビュー戦のTongalla Steeplechaseでは勝ち馬から2馬身差の2着に入ると、Australian SteeplechaseでもLaughing In Dubaiから僅差の2着に入ります。そして次走のFlemington競馬場のGrand National Steeplechaseを勝利、さらにHiskens Steeplechaseを勝利と、一躍オーストラリアSteeplechaseの頂点に立ちました。2007年は平地を使ってここを目標にしてきましたが、残念ながら前哨戦のペガサスジャンプステークスも含めてさっぱり良いところなく大敗。その後はオーストラリアSteeplechaseに参戦するも、2006年の走りは取り戻せずに引退となりました。2006年時点がやはり馬のピークであった感もありますが、上記Grand National SteeplechaseやHiskens Steeplechaseはいずれも重馬場での実績で、中山の良馬場適性という点でも若干微妙だったかもしれません。また、Hiskens Steeplechaseの後に元々所属していたChris Hyland厩舎から複数回の転厩もあったようで、中山に向けてはあまり順調なローテーションではなかったかもしれませんね。ただし、その長いキャリアはやはり特筆すべきで、各地を転々としながら数多くの出走をこなした非常にタフな馬と言えるでしょう*1。Craig Durden騎手は2006年のMerlosに続く中山グランドジャンプへの参戦となりました。Personal Drumの父Personal EscortはMr Prospectorの産駒。Merlos(父*リズム)に続き、2年連続でEric Musgrove調教師がMr Prospector系の障害馬を送り込んできたのは単なる偶然なのか、それともなにか意図があったのでしょうか。

 

〇 9着:Real Tonic / リアルトニック (NZ) (Pedigree) (Loveracing.com) (Racing.com)

騎手:Jonathan Riddell 調教師:John Wheeler

ニュージーランド調教馬。かつてSt Stevenを送り込んできたJohn Wheeler調教師の管理馬です。平地では計4勝を挙げた馬ですが、2001年から障害デビュー。いきなりHurdleデビュー戦のMaiden Hurdleを勝利すると、2002年には当時はListedクラスであったWaikato Hurdles (Listed)をBrett Scott騎手とのコンビで勝利し、ニュージーランドHurdle路線で頭角を現します。2002年の6月からはオーストラリアHurdleにも参戦し、2002年Flemington競馬場のGrand National Hurdleでは2着、同年のCup Hurdleでは3着、OakbankのClassic Hurdleでは3着と、オーストラリアHurdle路線における主要競走で結果を残します。ややそこから長い休養もあったようですが、2005年に復帰しオーストラリアSteeplechaseに参戦すると、2006年にはOakbank競馬場のGreat Eastern Steeplechase、WarrnamboolのGrand Annual Steeplechaseを制し、一気にオーストラリアSteeplechaseの頂点に立ちます。その年の6月以降のAustralian Steeplechase、Flemington競馬場のGrand National Steeplechaseはうまくいかなかったようですが、8月にニュージーランドに戻ると、Pakuranga Hunt Cup (PJR)、Great Northern Steeplechase (PJR)を含む3連勝を挙げ、ニュージーランドSteeplechaseの頂点を掴みました。残念ながら不良馬場の超長距離戦が合っていた馬のようで、11歳という高齢もあり中山のスピード決着には対応できませんでしたが、当時のオセアニア障害競走を代表する名馬が来日したということは、やはりオセアニア障害競馬における中山グランドジャンプへの関心の高さを物語るものでしょう。同馬は2007年は来日後もオセアニアSteeplechaseの主要競走を戦い、連覇を目指したGreat Northern Steeplechaseでは同レースを3勝した名馬Hypotizeの5着に入りました。Jonathan Riddell騎手は2004年、2005年における短期免許での来日等、日本ではお馴染みのニュージーランドの障害騎手ですね。Grand National Hurdle / Steeplechase、Great Northern Hurdleなどニュージーランド障害競馬における主要競走の多数の勝ち鞍がある一流騎手ですが*2、現在は平地専門で騎乗しているようです*3。Real Tonicの父Victory Danceは現代障害競馬において最も存在感のある大種牡馬Sadler's Wellsの産駒で、ニュージーランドで繋養されているようですが、その産駒としてもこのReal Tonicのほか、2013年ニュージーランドGrand National Steeplechaseの勝ち馬El Patron、2011年Awapuni Hurdleの勝ち馬Victory Morgan、2010年同Awapuni Hurdleの勝ち馬Ho Down等を送り出しており、ニュージーランド障害競馬において成功を収めています。

 

〇 12着:No Hero / ノーヒーロー (NZ) (Loveracing.nz)

騎手:Isaac Lupton 調教師:Paul Nelson

ニュージーランド調教馬。平地では勝ち星を挙げることはできませんでしたが、2002年から障害に転向。Hurdleではそれなりに苦労していたようですが、2003年にようやくSteeplechaseで勝利を挙げると、そこから頭角を現し、2003年のHawke's Bay Steeplechase (PJR)を勝利。途中で2年間の休養を挟みながらも、2005年のHawke's Bay Steeplechase (PJR)、2005年のGrand National Steeplechase (PJR)、2006年のRiverton競馬場におけるGreat Western Steeplechaseを含む8連勝を飾りました。特に第100回Great Western Steeplechaseでは26馬身差の圧勝を飾っており、Rivertonではなく2006年の中山グランドジャンプに参戦することへの関心も高かったようですね*4*5。残念ながらペガサスジャンプステークスも含めて中山では良いところがありませんでしたが、2008年までニュージーランドSteeplechaseにおける常連として頑張っていたようです。Isaac Lupton騎手は2006年のFonteraに続く中山グランドジャンプへの参戦。Paul NelsonはHastingsに拠点を置く調教師ですが、最近では2020年、2021年とGreat Northern Hurdleを連覇し、2021年現在ニュージーランドHurdle路線では無敵を誇るThe Cossackを管理しています*6。No Heroの父HeroicityはCaro - Cherawの系統の出身で、ニュージーランドで繋養されていたようですが、近年でも2011年のGreat Northern Steeplechaseの勝ち馬Ima Heroine、2010年のKS Browne Hurdleの勝ち馬Big Brownie等、成功した障害馬を送り出しているようです。Caroを経る系統としてはやはりSmadounが近年の障害競馬においては大きな存在感を示しており、Smadoun自身も2011年Bowl Chase (G1)の勝ち馬Nacaratや2015年Hennessy Gold Cup (G3)の勝ち馬Smad Placeを送り出しているほか、その後継種牡馬であるBlue Bresilは2021年のGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)を圧勝するなど、近年のフランスHaiesを席巻している名牝L'Autonomieを送り出しています。Blue Bresil自身は平地でも走っていたようですが、2009年のPrix Alain Du Breil (G1)でも5着の実績があるようにAuteuilの重賞戦線でも頑張っていたようで、この辺りから後継種牡馬が出てくればフランスの障害血統として楽しみな存在になるかもしれません。