にげうまメモ

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22/01/15 完走率に基づく各国主要障害競馬の性質 ③ - Steeplechase -

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*完走率に基づく各国主要障害競馬の性質

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Figure 1 各国主要競走の完走率・落馬率・途中棄権率

 

*Steeplechase競走について

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Figure 5 各国主要Steeplechase競走の完走率・落馬率・途中棄権率

Figure 1からSteeplechase競走のみを抜粋したのがFigure 5です。なお、日本の中山グランドジャンプ中山大障害は使用する障害としてはSteeplechaseに近いため参考までにFigure 5にも掲載してますが、やはり前回考察したように、数値として現れてくる傾向は他国の主要Steeplechase競走と比べると大きく異なっています。

英Grand Nationalの完走率は各国主要競走の中では最低ですが、これと似たような完走率を示すのがアイルランド随一のハンデキャップChase競走であるIrish Grand Nationalです。しかしIrish Grand Nationalの競争中止理由としては途中棄権が大半を占めるのに対して、英Grand Nationalの競争中止理由としては落馬が途中棄権を上回ります。やはりAintree競馬場のNational Fenceは高度に鍛え上げられたイギリス・アイルランド調教馬にとっても難易度が高いのです。このようなGrand Nationalと同様の傾向を示すのがチェコのVelká Pardubickáで、もう少しマイルドにした傾向があるのがフランスGrand Steeplchase de ParisとイタリアGran Premio Meranoです。若干フランスGrand Steeplchase de Parisの方が途中棄権率が高いのは距離によるものでしょう。ただし、フランスGrand Steeplchase de ParisとイタリアGram Premio Meranoでは通常のSteeplechaseで使用されるコースで行われますが、レースの性質としてはかなり異なることに留意してください。フランスGrand Steeplchase de Parisの出走馬はほとんどがAuteuil競馬場を走り慣れたフランス調教馬であり、わずかながらイギリス・アイルランド調教馬が出走する一方で、イタリアGran Premio Meranoは通常イタリアSteeplechaseに参戦していないフランス調教馬がしばしば参戦し、通常の競走とは異なる乱ペースがしばしば発生します。また、Auteuilのコースはやたらと広い一方で、Meranoのコースは幅員が狭く複雑です。従って、障害自体の難易度が主要な落馬要因となるAuteuil競馬場と異なり、Merano競馬場では巨大な生垣障害が存在するにも関わらず馬群が密集してレースが進行するため、障害自体の難易度の高さに加えて多重落馬が生じるリスクも比較的高いことが想定されます。ただし、このようなレースの性質には大きな違いがあるものの、この2レースの間で落馬率自体には結果的に差がないと考えた方がよいでしょう。

一方、イギリスCheltenham Gold Cupの落馬率は7.8%と、フランスGrand Steeplechase de ParisやイタリアGran Premio Meranoとはかなり違った様相を呈しています。これはやはり権威のある競走ほど長距離が設定されているフランス・イタリア障害競走とは大きく違った、Cheltenham Gold Cup自体のイギリス障害競馬におけるレース体系上の立ち位置によるものと考えられます。どちらかというとCheltenham Gold Cupの傾向はオセアニアに近いようですが、前回考察したようにニュージーランドでは途中棄権率を安定化させる要因が想定されること、オセアニアにおいてもフランス・イタリアと同様に権威のある競走ほど長距離が設定されてること等を踏まえると、オセアニア主要Steeplechase競走と同質とは考えない方がいいでしょう。

 

もう少しイギリス障害競走の特徴を考察してみましょう。

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Figure 6 イギリス主要競走の完走率・落馬率・途中棄権率

イギリスG1競走として、24ハロンのCheltenham Gold Cupと16ハロンのChampion Hurdleを並べるのはいまいち比較対象として宜しくないため、16ハロンQueen Mother Champion Chaseと24ハロンのStayers' Hurdleを加えました。傾向としてはほぼ同様のものを示しています。やはりスピードが出るQueen Mother Champion Chaseの方がCheltenham Gold Cupよりも、Champion Hurdleの方がStayers' Hurdleよりも若干落馬率が高い一方で、途中棄権率が低く、最終的な完走率は高くなっています。

また、Figure 6には重馬場で行われることの多いWelsh Grand National、良馬場で行われることの多いScottish Grand National、権威のあるハンデキャップChase重賞の一例としてLadbrokes Trophyを加えました。Table 1にその馬場状態を示します。馬場状態としてはWelsh Grand Nationalは殆どがSoft~Heavyと厳しいコンディションで行われる一方で、Scottish Grand Nationalでは殆どが良馬場で行われていることがわかります。馬場状態だけ見るとWelsh Grand Nationalの方が途中棄権率が高く、完走率は低く算出されそうなものですが、その実、落馬率はほぼ同様の数値である一方で、Scottish Grand Nationalの方が若干途中棄権率が高くなっています。これは出走数がWelsh Nationalは15~20頭、Scottish Nationalが30頭近くと、Scottish Grand Nationalの方が上回っていること、及び距離もScottish Nationalが4m110y、Welsh Nationalは3m5fとScottish Nationalの方が長距離を走ることに起因していることが考えられます。また、時期的にScottish Grand Nationalはシーズン終盤で馬に疲労が蓄積しており、往々にしてすでにお釣りの無くなっている馬は早々に諦めることが多いこと等が原因かもしれません。なお、同じハンデ重賞でもLadbrokes Trophyの完走率は同様の出走数であるWelsh Nationalと比べて高く算出されましたが、これはLadbrokes TrophyはSoft~Goodで行われている一方で、Welsh NationalはSoft~Heavyでのレースとなっており、Welsh Nationalの方がタフなレースとなっていることがその理由かと考えられます。また、Welsh Nationalが行われるChepstow競馬場のコースは、起伏の激しい非常にタフなコースであることもその一因として挙げられます。

上記のようなイギリスハンデキャップChase競走との比較において、アイルランドIrish Grand Nationalの傾向としては、他のハンデキャップ重賞であるWelsh Grand NationalやScottish Grand Nationalとさほど変わらないような傾向を示しています。

 

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Table 1 イギリス・アイルランド主要ハンデ競走の馬場状態

 

なお、近年Grand Nationalに向けたレースとしてその重要性が際立っているCheltenham FestivalのGlenfarclas Cross Countryですが、案外落馬率は低く、Cheltenham Gold Cupと同様の傾向を示しています。イギリスのCross Country競走は年間数えるほどしか開催されていませんが、出走してくる馬はベテランの飛越技術に長けた馬が多く、落馬自体は起きにくいのでしょう。もっとも、距離的な問題や、明らかに飛越がうまくいかなかった等の理由で途中で諦める馬はそこそこ多いようですが、

このように、他の超長距離ハンデキャップ重賞と比較しても英Grand Nationalの特異性は際立ちます。こう考えると、ハンデキャップ重賞であることよりも、Grand Nationalで使用する特殊な障害、National Fenceに原因があるように考えられます。次回は、英Grand NationalとNational Fenceを使用するレースとを比較してみましょう。