にげうまメモ

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22/01/15 完走率に基づく各国主要障害競馬の性質 ④ - Cross Country / National Fence -

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*完走率に基づく各国主要障害競馬の性質

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Figure 1 各国主要競走の完走率・落馬率・途中棄権率

 

*National Fenceを使用する競走について

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Figure 7 National Fenceを使用するレースの完走率・落馬率・途中棄権率

英Grand Nationalで使用されるNational Courseを使ったレースは年に5つのみであり、12月のBecher ChaseとGrand Sefton Chase(2021年から11月開催)、それから4月のGrand National、Topham Chase、及びFoxhunters' Chaseです。Figure 7に示した通り、Irish Grand Nationalと比較するとその落馬率の高さは一目瞭然であり、National Courseを使用するレースは若干の傾向の違いこそあるものの、他のハンデキャップChase重賞と比較すると明確な性質の違いが見て取れます。やはり英Grand Nationalの特異な特性はNational Fenceの難易度によるものと言っていいでしょう。他の主要Steeplchease競走(Grand Steeplechase de Paris、Gran Premio Merano)と比べると、National Courseを使用した競走に対する出走馬の出走経験の乏しさもその要因の一つかもしれません。

さて、12月のBecher ChaseとGrand Sefton Chaseは、4月の3レースと比べると、若干低い落馬率を示しています。この理由としては出走頭数が少ないことが考えられ、2008-2018において、Becher Chaseは平均18頭、Grand Sefton Chaseは平均13頭の出走馬を集めた一方で、Topham Chaseは平均28頭、Foxhunters' Chaseは平均24頭の出走馬を集めました。馬群の中における飛越は難易度が上がり、重複落馬のリスクを含めて落馬のリスクが総合的に上昇するため、この辺りの出走頭数の違いが落馬率の上昇に寄与している可能性が考えられます。そう考えると、毎年のように40頭近い出走馬を集めるGrand Nationalの落馬率は案外低いと言えるのかもしれません。なお、Foxhunters' Chaseはこの中で唯一アマチュア騎手限定戦となっていますが、落馬率はTopham Chaseとさほど変わりません。出走馬がベテラン揃いであることもありますが、イギリス・アイルランドのアマチュア騎手は非常に高い技術を持っているのです。

 

*Cross Country競走について

さて、Figure 1を見ると、英Grand Nationalの傾向に比較的近いのがチェコのVelká Pardubickáでした。同レースは欧州Cross Country SeriesであるCrystal Cupの一環ですので、Crystal Cupの各レースを比較してみましょう。

 

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Figure 8 欧州主要Cross Country競走の完走率・落馬率・途中棄権率

アイルランドのLa Touche Cupは2017年からメンバーを外れていますが、アイルランドCross Countryとしては代表的な競走であるため比較対象に入れています。

このように比較すると、同じフランスCross Countryでもかなり傾向が異なることがわかります。特にGrand Cross de Pauの落馬率の高さは目を引きますね。南フランスに位置するPau競馬場は主に12月~2月にかけての開催となり、重馬場でのレースとなることが多いのですが、それ以上にCross Country CourseにはVolpoom、Passage de Route、Banquetteなどの高難度の障害が多用されています。これらの障害は他の競馬場と異なりペースが上がる勝負所にも設置されている上、Passage de Routeは他の競馬場に設置されている同様の障害と違い完歩の大きさが重要であり、スピードをもって越えることが必要となっています。また、12月~2月はほとんど他の競馬場の開催はないため、Pauを専門に使い、Pauの障害に慣れた馬がリスクを冒してペースを上げにかかることもこのような傾向を生み出す一因かもしれません。Grand Cross de CraonとAnjou-Loire Challengeは同程度の傾向を示していますが、Anjou-Loire Challengeは世界最長距離を誇るレースであり(7300m)、Grand Cross de Craon(6000m)よりも長距離を走る分か、若干途中棄権率は高くなっています。Grand Cross de Fontainebleauで使用される障害はCross Countryとしては一般的であり、小回りのコースでスピードが上がりにくい分か、落馬率は低めになっているようです。下り坂を降りた直後に飛び乗り台があるという高難度の障害はありますが、勝負所でもなんでもないため無理な飛越は試みません。

La Touche Cupは4m1fという超長距離に加え、アイルランド障害馬にとってはやや馴染みの薄いタイプ(ただし、難易度は低いですが)の障害が多用されていますが、非常に慎重なレースとなることが多く、その分落馬率は下がっているようです。もっとも、飛び降り台が多い分、Glenfarclas Cross Countryよりは落馬率は高めに出ています。また、このレースはPunchestown競馬場特有の急カーブと春の硬い馬場に起因した平地部分での転倒がしばしば生じます。

こうしてみるとVelká PardubickáはGrand Cross de Pauと傾向が似ていますね。いずれも難易度の高い障害と、馬場や距離のためにタフなレースとなりやすい点が似ています。

 

さて、Figure 8に提示したCross Country競走の中でもひときわ目を引く、イタリアのPremio Delle Nazioniには言及する必要があるでしょう。このレースの落馬率はあのGrand Nationalを上回っている一方で、途中棄権率は(さすがに日本よりは高いものの)なんとChampion Hurdleの6.1%以下です。 

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Figure 9 欧州主要Cross Country競走の平均出走馬数

Figure 9のように、イタリアPremio Delle Nazioniは欧州Cross Countryの中でもひときわ小頭数で行われています。このレースは6000メートルとイタリアCross Countryの中では最長距離が設定されていますが、イタリアにはこの長距離を走るCross Country競走自体のレース数が少なく、出走馬の母数としては多くありません。Merano競馬場のCross Country CourseにはただでさえSteeplechaseで使用する巨大な生垣障害に加え、3連続生垣障害や2連続Timber Rail、Pardubice競馬場のIrish Bankに類似した障害など、難易度の高い障害が数多く設置されており、これらの障害の難易度がレースにおける一番の壁になっているようです。そのため終始慎重なレースとなり、出走馬数も少ないことから、落馬しなければ賞金獲得のために完走を目指すという意味で、途中棄権率は低いようですが。

なお、Figure 9には面白がってGrand Nationalを入れてみましたが、特に意図はありません。