Trophée National du Cross（TNC）とは旧"Championnat de France de Cross-Country"が2020年に名称を変更しリニューアルされたフランスCross Countryシリーズです*1。このシリーズはフランス国内におけるCross Country計14競走を指定競争とし、日本のサマー2000シリーズ等と同様に、指定されたレースの着順に基づいて調教師・馬・騎手に対してポイントが付与され、その合計ポイントを競うものとなっています。Crystal Cupとは差別化のため指定競争が重複することはなく、Grand Cross De PauやPrix Anjou-Loire Challengeといったフランスを代表するCross Country競走のみならず、Velka Pardubicka、Premio Delle Nazioniといったチェコ、イタリア等の代表的なCross Country競走をメンバーとする国際色豊かなCrystal Cup*2と比較するとその指定競争はフランス国内のみに限られますが、計14レースの各地の主要なCross Country競走をメンバーとし、このCross Country SeriesはフランスCross Country競馬において重要な存在となっています。複数の障害種牡馬を繋養する"Haras Du Lion"*3がスポンサーとなっています。
公式ホームページ：http://tropheenationalducross.com/index.php
facebook：https://www.facebook.com/TropheeNationalDuCross
Trophée National du Crossは全てFacebookライブによる中継が行われています。レース全体を映すような競馬中継とは異なり、カメラを持った人が競馬場やコース内を車に乗ったりしながら走り回り、必ずしも馬群が映っていないような質素な中継ですが、その代わり競馬場の雰囲気を感じられるような映像となっています。言語はもちろんフランス語です。
＊開催スケジュール*4
| 開催月 | 競馬場 | 競走名 | 距離（m） | 総賞金額（€） |
|---|---|---|---|---|
| 1月 | Pau | Prix John Henry Wright | 5000 | 38,000 |
| 3月 | Mont-De-Marsan | Prix Raymond De Bouglon | 4600 | 44,000 |
| 3月 | Lignieres | Grand Cross De Lignieres | 6000 | 44,000 |
| 4月 | Strasbourg | Prix Martine Et Michel Lutz | 5200 | 44,000 |
| 5月 | Vichy | Prix Marc Boudot | 5000 | 44,000 |
| 5月 | Rostrenen | Prix Bretagne Materiaux | 5800 | 44,000 |
| 6月 | Lyon-Parilly | Grand Cross De Lyon | 5200 | 44,000 |
| 6月 | Corlay | Grand Cross De Corlay | 5600 | 44,000 |
| 7月 | Le Pertre | Prix Rene Couetil | 5000 | 44,000 |
| 8月 | Vittel | Prix Maurice Aubry | 5200 | 44,000 |
| 8月 | Granville | Prix Des Vans Mtm - Grand Cross | 5800 | 44,000 |
| 8月 | Pompadour | Prix Basile Et Bernard Lachaud Grand Cross | 5000 | 44,000 |
| 10月 | Le Pin Au Haras | Grand Cross Du Pin | 5200 | 44,000 |
| 10月 | Saumur | Prix Patrice Lair | 5300 | 44,000 |
＊第1戦 Prix John Henry Wright @ Pau（2021年レース結果）（2022年レース結果）
ジョッキーカメラ映像をFrance Sireが上げてくれているのでそちらを張っておきます。レース映像は上記のFrance Galopへのリンク先でご覧ください。
南フランスのピレネー山脈の麓に位置するPau競馬場は1842年に作られた歴史ある競馬場であり*5、主に冬季（12～2月）にかけて開催が行われます*6。Pauは競走馬の調教施設としてフランスの重要な拠点の一つであり、中山グランドジャンプにもPauを拠点とする障害馬が参戦した実績があります*7。Trophée National du Crossの第1戦として行われるPrix John Henry Wrightは、2月に行われるPau競馬場最大のCross Country競走であるGrand Cross de Pauの前哨戦で、Pau競馬場のCross Countryにおけるトップホースが集結します。飛越する障害の数は27で、その中にはVolpoom、Banquette "de Bordeaux"、Banquette Irlandaise、Gros Passage de RouteといったPau競馬場特有の難易度の高い障害が数多く含まれます*8。
＊第2戦 Prix Raymond De Bouglon @ Mont-De-Marsan（2021年レース結果）
フランス南西部のLandes県の県庁所在地Mont-de-Marsanに位置するGrands Pins競馬場はフランス最大の競走馬トレーニング施設の一つであり*9*10、このレースはGrands Pins競馬場最大のCross Country競走であるGrand Cross de Mont-de-Marsanとして行われています*11。飛越する障害は24で、道中には水深の浅い池（Gué）もあるような、フランスCross Countryとしては一般的なコースが設定されています。Volpoom、Passage de Routeといった障害も存在しますが、Pau競馬場の同タイプの障害と異なり、比較的スピードを維持して突破することが可能な形状となっています。
＊第3戦 Grand Cross de Lignieres @ Lignieres（2021年レース結果）
Lignieres競馬場はフランス中央部Centre-Val de Loire地域圏の中のCher県に位置する競馬場で*12、元々はHenry de Bourbon Lignières伯爵により1879年に設立され、現在ではCher県で唯一の競馬場として3月中旬から年に8回の競馬開催が行われます*13。Trophée National du Crossの第3戦として行われるGrand Cross de Lignieresはそのハイライトであり、計28の障害を飛越します*14*15。
＊第4戦 Prix Martine Et Michel Lutz @ Strasbourg（2021年レース結果）
フランス北東部に位置するStrasbourgはGrand Est地域圏の首府であり、ライン川を挟んでドイツと接しています。Strasbourg競馬場は1970年に現在の一に建設された比較的新しい競馬場で*16、日本でも活躍している坂井瑠星騎手もフランス滞在時にこの競馬場で騎乗したことがあるようです*17。Strasbourg競馬場最大のCross Country競走Grand Cross de Strasbourgとして行われるこの競走では、Chapeau De GendarmeやGué、Trou du loup entrée、Double croche entréeといったフランスCross Countryではしばしば見られる計29の障害を飛越します。
＊第5戦 Prix Marc Boudot @ Vichy（2021年レース結果）
Auvergne-Rhône-Alpes地域圏に位置するVichyは温泉保養地としても知られており、Vichy競馬場はAllier川のほとりに存在します。1875年にVeauce男爵の主導で競馬開催が行われて以来*18*19、現在では年に40回もの競馬開催が行われている活発な競馬場であり、Trophée National du Crossの第5戦としてVichy競馬場最大のCross Country競走であるGrand Cross de Vichyが指定されています*20。このレースではAllier川を眺めつつ森の中も走る風光明媚なコースが設定されており、計28の障害を飛越します。なお、障害数は中の人がレース映像を見ながら数えたので、間違っていたらすみません。
＊第6戦 Prix Bretagne Materiaux @ Rostrenen（2021年レース結果）
フランス北西部のCôtes-d'Armor県に位置するRostrenen競馬場は150年以上の歴史を誇る競馬場であり*21、その主要なCross Country競走であるGrand Cross de RostrenenはTrophée National du Crossの第6戦として行われます。長い歴史のある競馬場ですが、公式ホームページはなんとも素朴なものですね。外周の内側を十字状に走り、BanquetteやGros Talus、Guéといった障害が設置されたCross Countryコースをレース中盤から後半にかけて使用し、計34の障害を飛越します。
＊第7戦 Grand Cross de Lyon @ Lyon-Parilly（2021年レース結果）
フランス南東部Auvergne-Rhône-Alpes地域圏の首府であるLyonに位置するLyon-Parilly競馬場は1965年に建設され、毎年平地・障害・トロットを含む計40程度の開催が行われています*22。Lyon-Parilly最大のCross Country競走であるGrand Cross De LyonはTrophée National du Crossの第7戦として行われており、速歩競走コースの内側に設置された襷状のCross Countryコースや、平地コースの外側に存在する森の中の丘にあるダートコースを走り、計28の障害を飛越します。
＊第8戦 Grand Cross de Corlay @ Corlay（2021年レース結果）
フランス北西部のBrittany地域圏のCorlayに位置するPetit Paris競馬場は1904年に現在の場所に移され、夏季に競馬開催が行われています*23。Corlay最大のCross Country競走であるGrand Cross de CorlayはTrophée National du Crossの第8戦として行われています。ブルターニュ地方の美しい丘陵地帯を利用した緑豊かなコースですが、小麦畑の中を走るダートコースや途中で道路を横切る地点など独特のコースが設定されており*24、計30の障害を飛越します*25。
＊第9戦 Prix Rene Couetil @ Le Pertre（2021年レース結果）
Le Pertreはフランス北西部のブルターニュ地方に位置する町で、Le Pertre競馬場は1905年に創設されました*26。2021年は計3回の開催を行った同競馬場ですが*27、同競馬場最大のCross Country競走であるGrand Cross du PertreはTrophée National du Crossの第9戦として行われており、Craon競馬場で行われるフランスを代表するCross Country競走の一つであるGrand Cross de Craonへの前哨戦として重要な立ち位置を占めています*28。飛び乗り・飛び降りの動作を2回連続して行うDouble Contre Haut及びDouble Contre Basに挟まれたダートコースの丘を始め、丘陵地帯の地形を利用した緑豊かなコースが設定されており、計31の障害を飛越します。ホームページには同競馬場の維持や改良を行うボランティア活動の写真がアップされており*29、なんとも人々から愛される競馬場である様子が伺えます。
＊第10戦 Prix Maurice Aubry @ Vittel（2021年レース結果）
フランス北東部に位置するVosges県に位置するVittelはローマ時代から続く温泉保養地ですが、日本ではミネラルウォーターの名称で有名かもしれません。Vittel競馬場は1904年にスパリゾートの一部として建設され、障害コースの一部はゴルフコースと重なるようです*30。どうにもこのような競馬場でありがちなのですが、France Galopのレース映像の大半は美しい風景をお楽しみください状態なので、おそらくTrophée National du Crossのホームページのドローン映像を見た方がいいかもしれません。計22の障害を飛越します*31。なお、障害数は中の人がレース映像を見ながら数えたので、間違っていたらすみません。
＊第11戦 Prix Des Vans Mtm - Grand Cross @ Granville（2021年レース結果）
＊第12戦 Prix Basile Et Bernard Lachaud Grand Cross @ Pompadour（2021年レース結果）
フランスNouvelle-Aquitaine地域圏に位置するArnac-Pompadourは、1751年にルイ15世の愛妾であるエティオール夫人ジャンヌ・アントワネット・ポワッソンによって設立された種馬飼育場を基礎とする国立種馬飼育場で有名で、Pompadour競馬場は1837年に設立されました*34。公式ホームページがいかにも古の時代のインターネット感があっていいですね。Grand Cross de Pompadourとして行われるこの競走はPompadour競馬場の主要なCross Country競走であり、起伏の多い緑豊かな競馬場に計31の大型の生垣障害を含むテクニカルなコースが設定されています。
＊第13戦 Grand Cross Du Pin @ Le Pin Au Haras（2021年レース結果）
Le Pin-au-Harasはフランス北西部Orne県に位置し、Bergerie競馬場は1823年にフランス最大の国立スタッドファームの一部として建設された歴史ある競馬場です*35。Bergerie競馬場最大のCross Country競走であるこのレースでは複雑に設定されたコースに設置された計28の障害を飛越しますが、特にこの競馬場の障害コースとして特徴的なのは、スタンド前に位置する大型の生垣障害が3連続で設置された障害（Triple de haie）でしょう。
＊第14戦 Prix Patrice Lair @ Saumur（2021年レース結果）
フランス北西部に位置するMaine-et-Loire県の都市Saumurは元々軍用騎兵学校として開かれたフランスの国立乗馬学校"Le Cadre noir de Saumur"が存在し、軍事馬術文化が浸透した都市として有名です。Saumur競馬場は1850年に創設された歴史ある競馬場であり、年に5回の競馬開催を行っています。その障害コースは2019年にリニューアルされ、Grand Cross de SaumurはTrophée National du Crossの最終ラウンドとして行われています*36*37。全体としてドラゴンクエストのスライムのような形状をしたコースに設置された計27の障害を飛越します。季節も秋に移り替わり、少しずつ色づいてきた森の中を走る風光明媚なレースが展開されます。
*1:Le nouveau Trophée National du Cross - Haras du Lion démarre le 12 janvier à Pau
*5:Hippodrome de Pau - Notre histoire
*7:21/12/14 中山グランドジャンプ 海外からの参戦馬一覧
*8:Hippodrome de Pau - Parcours
*11:2e étape du Trophée National du Cross : Tequila Sun et Marc Nicolau, reine et roi de Mont-de-Marsan
*13:Hippodrome Lignieres - Historique
*15:3e étape du Trophée National du Cross : Adrien Fouchet provoque le destin avec Dunquin
*16:Strasbourg Hippodrome - Historique
*17:【海外競馬】坂井瑠星騎手のフランスにおける騎乗成績(9月19日)
*18:145 ans d’une histoire qui continue toujours de s’écrire…
*19:Hippodrome Vichy - Historique
*20:Hippodrome de Vichy-Bellerive
*24:8ème étape TNC - Haras du Lion : Some Operator, quand la Marseillaise retentit pour un Irlandais entraîné par une Anglaise !
*26:Société des Courses du Pertre
*28:La 9e étape du TNC - Haras du Lion pour Twirling : le roi du Pertre, c'est bien Serge Hamon !
*29:L'équipe des bénévoles et l'aménagement de l'hippodrome de la Chaussée
*31:10e étape du TNC - Haras du Lion : le Vent des Dunes souffle sur le Grand Cross de Vittel
*32:Société des courses de Granville
*33:Grand Cross de Granville - TNC Haras du Lion : Bolero de Kerser dans une course folle pour le 9e sacre de Patrice Quinton
*34:Société des courses de Pompadour
*37:Le Grand Cross de Saumur pour Espoir, Marion et Julliot, le TNC - Haras du Lion pour Vent des Dunes, Quinton... et Julliot !
