にげうまメモ

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22/03/04 2018年 Grand National Meeting 旅行記 ⑥ - Grand National Thursday -

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*2018年 Grand National Meeting 旅行記

Aintree競馬場のGrand National Meetingは合計3日間行われます。1日目は"Grand National Thursday"、3ハロンChaseのG1競走であるBowl Chase (G1)、2マイル4ハロンHurdleのG1競走であるAintree Hurdle (G1)を含め、G1競走が計4レース行われます。さらに、National Courseを使用するFoxhunters' Open Hunters' Chaseを含め、1日で障害競走が計6レース、National Hunt Flatが計1レース行われます。そもそもAintree競馬場はCheltenham競馬場と同様に障害競馬専門の競馬場であり、平地競争としては"National Hunt Flat"と呼ばれる障害馬専用の平地競争が僅かに行われるのみです。このような状況に慣れると、中山の大一番の日であっても1日に障害競走が1レースしか行われない日本の競馬は障害競馬ファンとしてはどうにも物足りなく感じますね。このGrand National Meetingも多数のG1競走が行われる開催ですが、イギリス・アイルランド調教馬が一堂に会するCheltenham Festivalと異なり、イギリス調教馬が出走馬の大勢を占めるのが大きな違いでしょうか。

この日のレース結果はこちらから。

 

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National CourseのCourse Walkをはじめ、第1レース前にさんざん場内を歩き回ってAintree競馬場を満喫していたところですが、ようやく第1レースの出走馬がパドックに出てきます。第1レースはManifesto Novices' Chase (G1)。2マイル4ハロンのNovice ChaseのG1競走ですね。人気になっていたのが写真のCyrname。この年のCheltenham FestivalのJLT Novices' Chase (G1)はスキップしていましたが、2月のPendil Novices' Chase (G2)を快勝し、どちらかというと新興勢力として人気になっていました。

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パドック中に始まった謎の航空ショー。どうやらOpening Ceremonyの一環らしく。しかしながら、この日はいまいち曇りで寒く、寒々とした天候での競馬開催。どうにも気分は盛り上がりません。

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レースが始まります。6頭立てで早々に一頭(Brain Power)が落馬したことで、全体的に間延びした絵になります。この日の出走馬はアイルランドからCalino D'Airyの1頭のみ、残りは全てイギリス調教馬でした。イギリス障害G1にはしばしばありがちな光景です。

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勝ったのはFinian's Oscar。元々HurdleではTolworth Hurdle (G1)やMersey Novices' Hurdle (G1)を勝っていた素質馬です。Chase転向後は初戦となったtotequadpot Novices' Chase (Listed)を勝ったのみで、前走のCheltenhamのJLT Novices' Chase (G1)は案外な結果に終わっていましたが、ようやくここでビッグタイトルを掴むことに成功しました。

Finian's Oscarは直後のPunchestown FestivalのGrowise Champion Novice Chase (G1)に挑戦しますが、Al Boum Photoに騎乗したPaul Townend騎手の伝説的な騎乗ミスにより、最終障害手前でコース外に釣り出されて途中棄権に終わります。残念ながらこの年の7月に疝痛治療後に亡くなったそうで*1、才能豊かな6歳馬にとってはこれが最後の勝利となりました。

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Finian's Oscar。

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表彰式。

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このレースの出走馬の中でその後最も出世したのは4着のCyrnameでしょう。2019年以降、Harry Cobdon騎手と手を組むようになってから非常に強い競馬を見せるようになり、2019年11月のChristy 1965 Chase (G2)ではそれまで無敗だったAltiorに初めて土をつける快勝。その後はなかなか順調に使えていないようですが、2019年のAscot競馬場で圧倒的なスピードを誇った快速馬の復活を期待したいところです。

 

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表彰式もそこそこに次のレースに出走する馬が出てきます。第2レースはDoom Bar Anniversary 4YO Juvenile Hurdle (G1)。4歳限定のHurdle競走です。Apple's Jadeの半妹のApple's Shakiraが人気になっていました。CheltenhamのTriumph Hurdle (G1)ではどうにもちぐはぐなレース振りで4着に終わっていましたが、そこまでに重賞を2勝している素質馬。管理する厩舎がイギリスの名門Nicky Henderson厩舎というのもポイントですね。

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このレースにはアイルランドから2頭、さらにフランスから1頭が参戦していました。フランス調教馬はBeau Gosseという馬で、フランスではListed競走で勝ち星を挙げていました。ただし、直前のKemptonのAdonis Juvenile Hurdle (G3)では人気を背負うも勝った馬から17馬身離れた3着に終わっており、この時はあまり人気はなかったようです。騎乗するのはフランスの名手James Reveley。

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中の人はLord Sefton Standの立見席を取っていたのですが、スタンドの立見席はいまいちレースが見えないということを理解したので、結局最前列に行きます。頑張ってちょっとお高いチケットを買った意味とは一体。このGrand Nationalという開催において、まともにレースを見るために払うべき対価は高いのです。

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ゴールシーン。Lord Sefton Standの辺りだと、ちょうどこちらに向かって馬が走ってくるような角度になります。いまいちレースの状況はわかりません。このチケットはパドック本馬場を行き来するのは便利ですが...。

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レース後の皆様。やれやれ疲れた疲れた。

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勝ったのはWe Have A Dreamという馬。Apple's Shakiraと同じくNicky Henderson厩舎の馬でした。ここまでFuture Champions Finale Juvenile Hurdle (G1)を制していた馬で、これでイギリス移籍後Hurdleは5戦無敗としました。ただし、残念ながらJuvenile Hurdle卒業後はClass2を1勝したのみと期待ほどの活躍はできず、2019年に調教中の事故が原因で亡くなったそうです*2

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なんかどん詰まりしていたApple's ShakiraとBarry Geraghty。この日のBarry Geraghtyはどうにも終始いまいちでした。

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5着に入ったNube Negraにも触れておきましょう。イギリス障害競馬では非常に珍しいスペイン産馬です。この時点ではClass4の下級条件戦を勝ったばかりでさっぱり人気にはなっていませんでしたが、その後はChaseに転向するとじわじわと力をつけ、2020年のDesert Orchid Chase (G2)で圧倒的人気を背負ったAltiorを下し、一躍有名になります。その後もQueen Mother Champion Chase (G1)でPut The Kettle Onに対して僅差の2着に入るなど、16ハロンChase路線で活躍を続けています。

 

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休む間もなく第3レース。Bowl Chase (G1)という3マイルのG1競走ですね。人気になっていたのはMight Bite、Bristol De Maiという馬ですが、どちらもいつまでたってもパドックに出てきません。気が付いたら騎手が出てきて騎乗を始めます。写真はTea For TwoとLizzie Kelly。2017年のこのレースを勝った馬ですね。このコンビは2015年のKauto Star Novices' Chase (G1)でイギリス初の女性騎手によるG1勝利を挙げています。

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本馬場に向かう通路でぼんやりと馬を見ていると、ようやくMight Biteが姿を現します。

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レース。もうちょっと大きめのレンズを持ってくればよかったのかもしれません。

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レースが終わり、早々に引き上げてくるのは落馬したDanny Cook騎手。騎乗していたDefinitly RedはAintreeのコース自体は得意な馬でしたが、残念ながら今回は第3障害で早々に落馬に終わりました。仏頂面で自ら歩いて帰ってきます。

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勝ったのは人気を背負っていたMight Bite。Kauto Star Novices' Chase (G1)では一頭完全に抜け出したにも関わらず最終障害で落馬したり、RSA Chase (G1)では後続に大きなリードをつけて最終障害を越えたにも関わらず突如ふらふらと斜行し、番手に居た馬に交わされてからもう一度走り始めて勝利したりと、なにかとお騒がせな馬でしたが、このシーズンはかなりまともに走っており、これでこのシーズンはG1は2勝目と、キャリアハイの状態でした。ただし、このレースを最後に完全にスランプに陥り、結局2020年末のGrand Sefton Chase (C2)で途中棄権に終わって引退するまで勝ち星を挙げることは叶わず、これがこの馬の強い姿をターフで見ることができた最後のレースとなりました。

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2着はBristol De Mai。2017年のBetfair Chase (G1)では2着に57馬身差をつける勝利をあげ、Haydock競馬場ではあまりにも圧倒的なレースを見せることから"King of Haydock"と呼ばれた馬です。一方のAintree競馬場はどうにも得意ではないようで、2022年2月までに5回走って、この時の2着が最高といまいち振るわない成績です。

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3着にはClan Des Obeauxが入りました。この当時は大した実績もなくあまり人気もなかったのですが、2018年のKing George VI Chase (G1)ではThistlecrack以下を退けてまさかの勝利。2019年の同レースも連覇し、その勝利がフロックではないことを示しました。2021年にはこのBowl Chase (G1)、さらにアイルランドのPunchestown Gold Cup (G1)と勝利し、イギリス24ハロンChase路線の主役級の一頭として頑張っています。ただ、どうにもCheltenham競馬場は得意ではないようですが。

 

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続いて第4レース。Aintree Hurdle (G1)の出走馬が出てきます。20ハロンのHurdle競走ですが、どうにもHurdle路線において20ハロンというのは微妙な立ち位置で、ここでも16ハロンで活躍していた馬が多く出走していました。人気になっていたのはGalileo産駒のSupasandae。この年はIrish Champion Hurdle (G1)をFaugheenを破って勝利し、その後はStayers' Hurdle (G1)でPenhillの2着に入っていました。なにかと堅実にしぶとく走るのが持ち味の馬で、このシーズンはここまで4戦して全て3着以内に入っていました。

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古豪My Tent Or Yours。11歳となるベテランで、2013年にはFighting Fifth Hurdle (G1)、Christmas Hurdle (G1)を勝利。その後も16ハロンHurdle路線では常に上位争いをしていた名馬で、このシーズンもInternational Hurdle (G2)を勝利していました。

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そんなMy Tent Or Yoursにとっては宿敵といえるThe New One。

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レースはGary Moore厩舎のDiakaliが後続に大きなリードをつけて引っ張ります。元々2013年のChampion Four Year Old Hurdle (G1)やPrix Alain Du Breil (G1)を制した素質馬ですが、これがGary Moore厩舎への移籍初戦でした。

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遅れてやってくる後続。

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勝ったのはL'ami Sergeという馬。2017年のGrand Course De Haies D'Auteuil (G1)の勝ち馬ですが、前走のStayers' Hurdle (G1)では大敗しており、やや人気を落としていたようです。これがこの馬にとってG1は3勝目。その後は残念ながら故障で順調に使えず、ようやく復帰した2021年2月のClass2で故障を発症して亡くなってしまうのですが、イギリス・フランスHurdle路線で広く活躍した名馬となりました。

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3着に入ったClyne。

 

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第6レースはNational Courseを使用するFoxhunters' Open Hunters' Chase。Class2のアマチュア騎手限定戦です。National Fenceを飛越するところを見るぞい、と気合を入れて行ったのですが、冷静に考えてここから最も近いのは一番小さいWaterのみ。The Chairを見ようと思うとかなり遠くまで行かなければいけません。

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Waterを続々と越えていきます。遠い。

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勝ったのはBalnaslowという11歳馬とDerek O'Connor騎手。遡れば名門Willie Mullins厩舎に所属していた馬で、Galway Plate (Grade A)の3着の実績もあるようですが、近年はHunters' Chaseばかりを使っていたようです。

 

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第6レースのRed Rum Handicap Chase (G3)を勝ったBentelimar。Novice HurdleのListed競走の勝ち鞍があるようですが、Chaseではこれが2勝目、重賞は初勝利となりました。

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3着に入ったGino Trail。当時既に11歳と高齢でのレースでしたが、その後も13歳になるまで現役を続け、積極的な先行策で有名な馬でした。