にげうまメモ

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22/03/13 Weekly National Hunt / Jump racing

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*週刊障害競馬回顧 2022/03/07-2022/03/13

3/7(月)

Leopardstown (IRE) Yielding (Good to Yielding in places)

〇 Handicap Hurdle (80-109) 2m (Replay)

2. Na Caith Tobac J: Jack Foley T: Paul Flynn

珍しいオランダ生産馬であるNa Caith Tobacが出走していたが、勝ち馬から僅差の2着に敗れた。Na Caith Tobacはオーストラリア産馬Elzaamの産駒で、元々平地でデビューするも2020年からHurdleに転向しているようだ。ここまで13戦して1勝、入着5回とそれなりに頑張っている。Elzaam自体は現在アイルランドで繋養されており、産駒のイギリス・アイルランド障害競馬における実績は殆どない。Elzaamもオセアニア馬らしくDanhillの直系ということもあり、あまり欧州障害競馬として馴染みのある血統ではなさそうなのだが、どこまでやれるだろうか。

 

〇 Beginners Chase 2m1f (Replay)

1. Mt Leinster J: Paul Townend T Willie Mullins

Blackstairmountainの半弟Mt Leinsterが13馬身差の圧勝。Mt Leinsterは今シーズンからChaseに転向しており、ここまでHandicap Chase (Grade B)で4着もあるなど頑張っていたのだが、これがChaseでは初勝利となる。どうにも行きたがって走るところが目立つ馬で、飛越にもミスは多いのだが、持っているスピード自体は良いものがありそうだ。やはり兄に匹敵する活躍という意味ではまだまだ物足りないところがあるのは事実だが、少しでも兄に近づけるよう頑張って欲しい。

 

3/12(土)

Gowran Park (IRE) Heavy

Shamrock Handicap Chase (Grade B) 2m2f (Replay)

2. Gevrey J: Jordan Gainford T: Gordon Elliott

中山グランドジャンプに予備登録のあったGevreyが出走していたが、勝ち馬から7馬身離れた2着に敗れた。Gevreyは前走のBetVictor Novice Handicap Chase (Grade B)で4着に入っており、経験馬相手の重賞クラスとなるとこれが初である。ここまで重い馬場でのChase競走はこれが初めてであったが、全体的にうまく対応しており、飛越にまだ若いところがあった分勝負所で後れを取ったのだが、それでも最後はしっかりと足を伸ばしている辺り上出来だろう。おそらく距離的にはもう少しあった方がよさそうで、10st5lbの軽量に助けられた感はあるのだがそのうちチャンスはあるだろう。勝ったのはBois De Clamartという馬。有名どころとしてはAnibale Flyが出走していたが、特にやる気なく追走し9着に敗れた。

 

Naas (IRE) Soft (Heavy in places)

Webster Cup Chase (G2) 2m (Replay)

1. Sizing Pottsie J: Robbie Power T: Mrs Jessica Harrington

Cilaos Emeryが逃げるも、残り3障害くらいから接近したSizing Pottsieが追いかけてきたMaster Mcsheeを退けて勝利した。Sizing Pottsieは遡ればFlyingbolt Novice Chase (G3)勝ちがある馬で、これが久しぶりの重賞勝利となる。前走は久々の20f戦ということでRed Mills Chase (G2)を使っていたようだがあっさりMelonの2着に敗れており、おそらく16fの方が良いのだろう。ただしG1クラスでは通用しないことは既に明らかになっており、今回のようなどちらかというと手薄な重賞クラスを転戦することになると思われる。Faugheen Novice Chase (G1)の勝ち馬Master Mcsheeはなぜここに回ってきたのか不明だが、とりあえず最後追いこんで2着に入った。11st12lbのトップハンデを背負っていたことを考えるとこちらを上に取るべきだろう。普通にCheltenham Festivalで見たかったのだが。Notebookは好位から進めるも勝負所から脱落して3着。昨シーズンの段階までは勢いのあった馬だが、どうにも今年はFortria Chase (G2)で明らかに力落ちのSamcroを相手に勝っただけと、どうにも結果を残すことが出来ていない。

 

Auteuil (FR) Collant (4.2)

Prix Duc D'Anjou (G3)

Steeplechase Pour tous poulains et pouliches de 4 ans 3500m (Replay)

1. Latino Des Isles J: Pierre Dubourg T: Arnaud Chaille-Chaille

Iceo Madrikが逃げるも、途中からTonguettedがこれに並んでいく。最終コーナーの手前から再度Iceo Madrikがハナに立ちそのまま逃げ込みを狙うも、好位にいたLatino Des Islesが抜け出して勝利した。2着にはTonguettedが入った。

Latino Des Islesはこれで昨年のPrix Congress (G2)を含む3連勝とした。当時はIniesta Du Gouetを相手に20馬身差の圧勝を決めていたのだが、今回はそのIniesta Du Gouetが約2馬身差まで詰め寄ってきており、展開の違いなのか同馬の成長があったのかは注視したい。ともかく、69kgのトップハンデを背負って勝ち切ったことはやはり強調すべき材料で、4歳Steeplechase路線においては楽しみな存在になりそうだ。FontainebleauでSteeplechaseのClass2を勝ってきたTonguettedは惜しい2着で、Steeplechase2戦目でこれだけやれれば大したものだろう。CagnesでPrix Christian De L'Hermite (Listed)を勝ったIceo Madrikが僅差の4着に入った。PauのPrix Antoine De Palaminy (Listed)の1、2着馬であるMorgan HasとTennesee Bascもいたのだが、いずれも大敗か落馬に終わった。

 

Hanshin / 阪神 (JPN) Good to Firm

The Hanshin Spring Jump / 阪神スプリングジャンプ (G2) 3900m (Result)

1. エイシンクリック J: 西谷誠 T: 坂口智康

11歳のオジュウチョウサンの始動戦ということで話題になっていた。11歳馬のJRA重賞の勝利は過去にカラジの中山グランドジャンプ (G1)制覇が挙げられるのみで、日本調教馬としての例はない。レースはベイビーステップが前に行く展開も、好位からオジュウチョウサンタガノエスプレッソなどが追走。しかし後方からじわじわと捲ってきたエイシンクリックが3コーナーで前に出ると、そのままオジュウチョウサン以下を退けて勝利した。

エイシンクリックはこれで小倉未勝利戦から3連勝とした。2019年にはステイヤーズステークス (G2)で3着に入っている馬だが、障害転向当時はあまりうまくいかなかったようだ。ルーラーシップ産駒らしい比較的大きいストライドの持ち主で、どちらかというと瞬間的なスピード能力というよりはスピードの持続性能に長けた馬なのだろう。スタートで大きく出遅れているのだが、そこから無理をせず馬のリズムに任せて上がっていく西谷騎手の好騎乗もあった。ただし本質的なステイヤーというわけではないような感もあり、中山の坂の多いコースに適性があるのかは不明である。

昨年の中山大障害で3着に入ったレオビヨンドは最後しぶとく差を詰めて2着で、おそらく本番でも無視できない存在になりそうだ。オジュウチョウサンは最後までしぶとく走っての3着で、単なる叩き台にも関わらずこれだけ走ることができれば十分だろう。どうにも石神騎手は馬群のポケットに入れて我慢をさせるような騎乗が目につくのだが、この馬のステイヤー資質を生かすのであれば外から被されて後手後手に回るリスクを孕んだ競馬は避けた方がいいように思う。それにしても、11歳にもなってこれだけ馬がレースへの熱意を持っていることは驚嘆に値することで、ここまでフレッシュな11歳馬は本場欧州の障害競馬でも滅多に見られるものではない。

 

3/13(日)

Naas (IRE) Soft (Heavy in places)

Kingsfurze Novice Hurdle (G3) 1m7f80y (Replay)

1. Highland Charge J: Sean Flanagan T: Noel Meade

ゆったりとDeploy The Getawayが逃げるも、好位から進めたHightland ChargeがVina Ardanzaとの叩き合いを制して勝利した。Highland ChargeはこれでMaidenから2連勝とした。ここまで未勝利戦ではEric Bloodaxe、Sir Gerhardなどにあっさり負けていた馬で、ここにきて馬が調子を上げてきた感もあるのだが、やはりメンバー的なものを考えるとまだ信用しにくいというのが正直なところだろう。どうにも反応が悪いようなところもあり、距離はもう少しあってもいいかもしれない。Maidenを勝ってきたばかりのVina Ardanzaが2着。前走Listedを勝ってきたSlip of the Tongueは直線で終始狭いところに入っており、結果的に伸びきれずに終わった。鞍上は誰かと思えば案の定Mark Walshで、どうにもこの人は進路取りという面では信用できないところがある。

 

Leinster National Handicap Chase (Grade A) 3m126y (Replay)

1. Diol Ker J: Sean Flanagan T: Noel Meade

Darrens Hope、Defi Bleuなどが前に行くも馬群は密集して進行。2周目の中盤からペースが上がると、最後の直線走路で抜け出したRonald PumpとDiol Kerの叩き合いはDiol Kerに軍配が上がった。

Diol KerはChaseはこれが初勝利となる。とはいえ昨シーズンの段階からChaseは使っており、前走はThyestes Handicap Chase (Grade A)にて4着に入っていた。HurdleではいちおうChampion Stayers Hurdle (G1)まで駒を進めた馬であることを考えるとChaseでもと期待したいところで、ようやく大仕事をやってくれたといったところだろう。やや驚きなのは2着のRonald Pumpで、おそらく24ハロンHurdle路線で走るものと思われていたのだが、まさかのここへの参戦で結果を残した。2019-2020シーズンにChaseは何度か出走し、Beginners Chaseを勝ったのみだったのだが、いまいち飛越がおぼつかず進路取りも決して褒められたものではなかったにもかかわらず、いきなりこれだけ走ることが出来るのはやはり大したものである。Grand National (G3)にも登録のあるFranco De Portは4着で、一頭だけ突出したトップハンデを背負っていたことを考えれば十分な走りだろう。本番での斤量も現時点では11st4lbと決して楽ではないのだが、調子の良さという点では信頼できそうだ。

 

Lignieres En Berry (FR) Collant (4.4)

Prix Des Docteurs Veterinaires Wissocq Et Berthelot

#3 Trophee National Du Cross Haras Du Lion Pour tous chevaux de 6 ans et au-dessus. 6000m (Replay)

1. Lucky Net Love J: James Reveley T: Emmanuel Clayeux

ゆったりと逃げたFayasを制してChez Pedro、Lucky Net Loveが前に行くも、Bull Finchの地点で大きなミスをしたChez PedroをLucky Net Loveが制して前に出ると、そのままNutits Premier Cruを突き放して14馬身差の快勝。2着にはChez Pedroが盛り返していたようだ。

Lucky Net Loveは可愛い名前だが9歳のセン馬。Cross Countryではかなり長い馬で、PauのGrand Cross de Pauでは今年も3着と常連である。このレースは2020年に2着に入っているのだが、比較的Banquetteタイプの障害が多いLignieresのコースはPauのCross Countryコースにも類似しているところがあるのだろう。終始飛越は安定しており、トップハンデの69kgを背負っていたことを考えると内容的には盤石のレースであった。2019年のこのレースの2着馬であるChez PedroはBull Finchでのミスが大きかった。近走のPauではいまいちぱっとしないレースを続けていたのだが、本来フランスCross Countryでは上位クラスの能力を持った馬である。10歳のNuits Premier Cruは強敵相手に善戦しての3着で、あまりCross Countryの経験が長い馬ではないだけにここを使っての上積みが期待される。11歳のFayasはさすがにレース運びは安定していたが、ややスピード負けしたような感もある4着で、Cross Countryの経験は長い馬だがそろそろ年齢的な部分もあるのかもしれない。

 

その他

Huge effort at Galway as 70 volunteers are on hand to help support Ukraine (Racing Post)

アイルランドGalway競馬場はしばらく競馬開催自体はないのだが、ウクライナへの支援物資の保管場所として大きな役割を果たしているそうだ。地域の人々からは大きなサポートが集まっており、60~70人ものボランティアが活動しているようだ。

Lisnagar Oscar to wear Ukraine silks in bid to regain Stayers' Hurdle (Racing Post)

来週に予定されているCheltenham Festivalでもウクライナへの支援が集まっている。ウクライナを支援するための腕章の着用や、National Hunt Challenge Cupの名称変更、ウクライナへの寄付など多数の支援が企画されている。Stayers' Hurdleの2度目の勝利を目指すLisnagar Oscarの馬主はウクライナ支援を目的として、わざわざ青と黄色の新たな勝負服を作製したそうだ。

La STC Horse France apporte son soutien à l'Ukraine... et doublement en plus ! (France Sire)

フランスからもウクライナへの支援が集まっている。競走馬の輸送等を行うSTC Horse Franceは支援物資をウクライナへ輸送するそうだ。特に輸送が難しい医療機器類を大型のトラックを用いてウクライナに輸送するそうだ。

Larosh, embarquez pour l'Ukraine avec Air "Guillaume Macaire" ! (France Sire)

ウクライナ産馬Laroshに関する記事。Laroshはもともとウクライナでデビューし平地競争で3勝を挙げた馬だが、その後フランスGuillaume Macaire厩舎に移籍し、2020年のFontainebleauのHurdle競走を勝利している。2022年現在の状況は不明。記事中にはGuillaume Macaire調教師がTunisをはじめ欧州各地から才能ある競走馬を発掘してくる目利き能力についても言及されている。記事にはウクライナ競馬の状況についても端的に記載されており、France Sireらしく読み応えのある記事となっている。

At Ukrainian Racetrack, Just Trying to Survive (Thoroughbred Daily News)

ウクライナのKyiv及びOdessaの競馬場はロシアの侵攻が始まって以降閉鎖されている。同競馬場には競走馬が飼育されており、関係者が危険を顧みずなんとか世話をしているそうだ。

S trenéry před sezónou (22.) - Stanislav Popelka připravuje 27 koní, čtyři by mohli dojít až do Velké pardubické (Fitmin)

チェコStanislav Popelka厩舎のシーズン前のプレビュー。このシリーズにはチェコの様々な厩舎におけるシーズン前の管理馬の動向が記載されており、有力馬の動向をチェックする上でなかなか有用そうだ。

中山グランドジャンプ(J・GⅠ) 外国馬の出走なし (JRA)

中山グランドジャンプに予備登録のあったアイルランドのFancy Foundations及びGevreyは出走を辞退した。状況が状況だけに来日は困難であることが想定されたため仕方のないことではあるのだが、やはりこれらの候補馬の有する日本競馬においては異質な特色を踏まえると残念な結末である。どうしても国際的な日本障害競走の位置づけを踏まえると、日本でも比較的知名度のあるイギリス・アイルランド・フランスにおける一流馬の参戦は現実味が乏しい一方で、一流馬の参戦が期待できるオセアニア等の障害競走については日本での知名度が低いことから、どうしても来日馬のネームバリューには期待できないという問題点がある。しかし、これだけ海外障害競馬に関する情報の入手が容易になっている現在において、同レースが国際招待競走に変更された2000年当時と比較すると、中山グランドジャンプに海外調教馬を招待する意義は遍く一般的な競馬ファンにおける馬券的な妙味やスポーツとしての思考実験という観点では大きくなっているように思う。少なくとも、近年は海外調教馬が全く勝負にならず、国際競争としての意義を失っている某府中芝2400メートルに招待するよりは遥かに有意義であろう。