にげうまメモ

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22/03/17 National Hunt Racing - Cheltenham Festival -

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3/17(木)

Cheltenham (UK) Soft

Turners Novices' Chase (G1) 2m3f168y (Replay)

1. Bob Olinger J: Rachael Blackmore T: Henry de Bromhead

F Galopin Des Champs J: Paul Townend T: Willie Mullins

昨年のBallymore Novices' Hurdle (G1)を圧勝し、今シーズンはChaseで2戦2勝のBob Olinger、昨シーズンのIrish Mirror Novice Hurdle (G1)の勝ち馬で、Leopardstown Dublin FestivalのLadbrokes Novice Chase (G1)を圧勝したGalopin Des Champsとの対決ということで注目が集まっていた。レースはGalopin Des Champsが前に行き、これをBob Olingerが追いかける展開。Busselton、El Barraの2頭は早々についていけなくなり脱落。残り4障害地点で大きなミスがあり、勝負所から手ごたえが悪くなったBob Olingerを振り切ってGalopin Des Champsが抜け出すも、最終障害でまさかの落馬。残ったBob Olingerがそのまま先頭でゴールした。

2日目にかなり強く降り続いた雨は3日目には上がっており、馬場はHeavyからSoftまで戻っているが、場所によってはまだ滑りやすい地点が残っていたようだ。Galopin Des Champsはフランス産馬らしいしなやかな馬体の持ち主で、レースの前半は馬体の柔軟性を生かした大きな飛越を繰り返している。これだけの飛越を連続して繰り出せる運動能力というのはやはり素晴らしいものだが、レース運びとしてもBob Olingerを圧倒しており、最終障害の地点では明らかに脚の上がったBob Olingerに対してこの馬は十二分に余力が残っていた。落馬は飛越をミスしたものではなく、むしろ滑りやすい馬場に前脚を取られたものであることは特筆すべき事項だろう。ここまで20fのみで結果を残してきた馬だが、Hurdleでは24fのIrish Mirror Novice Hurdle (G1)を圧勝しているようにさらに距離が伸びても対応できると思われる。不幸な落馬ではあるものの幸いにして特段怪我はなかったようで、来年の"Gold Cup Horse"候補として非常に楽しみな馬である。

対するBob Olingerは無敗記録すら守ったものの、内容的には完全に棚ぼたの勝利となった。飛越にもやや拙さが残っていたのは事実だが、それ以上に勝負所からの加速性能で大きな差をつけられてしまったのが気がかりで、最終障害の地点では脚が上がり、Galopin Des Champsのスパートについて行くだけの余力は残っていなかった。"It's fantastic to win but nobody likes winning like that"とは勝ったRachael Blackmoreの弁である*1。陣営によるとどうにもBob Olinger自信は本来の姿ではなかったということで、極端に評価を下げる必要はなさそうなのだが、ひとまず次のレースにおけるパフォーマンスは注意してみておいた方がよさそうだ。

 

Pertemps Network Final Handicap Hurdle (G3) 2m7f213y (Replay)

1. Third Wind J: Tom O'Brien T: Hughie Morrison

13歳のKansas City Chiefが引っ張るも馬群は密集して進行。残り2障害辺りからHonest Vicが前に出てくるも、さらに抜けてきたAlaphilippeとThird Windの叩き合いは内のThird Windに軍配が上がった。

Third Windは昨シーズンのRendlesham Hurdle (G2)の勝ち馬で、本来であれは24f Hurdleの重賞戦線で好勝負するだけの能力のある馬なのだが、今シーズンはどうにも相手が強すぎたり、極端な重馬場に泣かされたりと結果は残せていなかったようだ。とはいえこのくらいに適度に渋った馬場自体は得意としており、これだけの実績馬が10st11lbの斤量を設定されるというのはやはり恵まれた条件だったのだろう。Tom O'Brien騎手の馬群を抜けてくる進路取りも見事なものであり、なぜかレース後にはAlaphilippeの進路を妨害した可能性があるとのことで審議が行われたようだが、いくらなんでも降着はなかったようだ。昨シーズンにPrestige Novices' Hurdle (G2)を勝ったAlaphilippeが惜しい2着だが、この馬に対して3stの不利がありながらもこれを差し切った勝ち馬を褒めるべきである。ここにきて2連勝と好調の11歳馬Ballyandyもいたのだが、さすがに後方の馬群の中ではなにもできない。今シーズン好調のKansas City Chiefも早々に馬群に飲まれて大敗で、さすがに今回は相手が強かったようだ。なお、第4障害で落馬したBorn Patriotは残念ながら助からなかったそうだ。

 

Ryanair Chase (G1) 2m4f127y (Replay)

1. Allaho J: Paul Townend T: Willie Mullins

馬場を嫌って直前にMister FisherとSaint Calvadosが出走取消。レースは例によってAllahoが逃げる展開で、これを追いかけるのはEldorado Allen。Allahoは軽快に逃げると、ついてきたEldorado Allenを振り切り、終わってみれば2着のJanidilに14馬身差をつける圧勝。Shan Blueは好位から進めるも脱落して最下位、Conflatedは残り2障害で落馬に終わった。

Allahoはこのレースは昨年に引き続き連覇とした。昨年はRachael Blackmoreがこの馬の良さを引き出すような逃げを打っており、今年はPaul Townend騎手が同様のレース展開を作り出したことになる。Allahoはもともと24fで主に走っていた馬だが、本来は16fクラスの一線級ですら通用する水準で20fクラスでは規格外のスピードを武器に戦う馬であり、今回もそのスピード性能を存分に生かしたレースを見せてくれた。特にCheltenhamのような競馬場の形態に合わせた加速性能を要求するコースにおいて、このスピード性能と自在に加速する能力は強力な武器となっており、20fの有力馬が集まったはずのこのレースの出走馬の中にすら、この馬のスピードと加速力に付き合えるだけの馬はいなかったということだろう。まさに終わってみればAllaho劇場となったレースで、このRyanair Chaseでの圧倒劇という意味では2017年のUn De Sceauxのことを思い出させるのだが、16f仕様の馬が無理やり20fのレースをしていたUn De Sceauxと異なり、20fの馬が20fの勝ち方を見せたのがこのAllahoのレースである。

Janidilは最後追いこんで2着に来た。昨シーズンのUnderwriting Exchange Gold Cup Novice Chase (G1)の勝ち馬で、John Durkan Memorial Chase (G1)ではAllahoの2着に入っていた。全体的に踏み遅れたような負け方だったのだが、AllahoのCheltenhamの下り坂での加速性能は卓越しており、この負け方はこれで仕方がないのだろう。このレース運びを見ると24fの方がよさそうな印象も受けるのだが、案外ここまでのLeopardstownでの負け方を見ていると、本質的には20fの方が良いのかもしれない。イギリス勢で最先着を果たしたのがEldorado Allenで、さすがにAllahoの加速にはついていけなかったものの、頑張って3着まで粘り込んだ。どちらかというとワンペース型の馬で、競馬場の形態によってはもう少しチャンスはあるかもしれない。

Irish Gold Cup (G1)の勝ち馬Conflatedは残り2障害で落馬に終わった。そこまでは少なくとも2着争いをする勢いはあったことを考えるとここでも力量上位だったと考えられるが、今回はさすがに勝ったAllahoが一頭飛びぬけていた。陣営としてはGold Cupと迷っていたようで、今回の負け方を見るとAllahoクラスのスピードへの対応という意味では24fの方がよさそうな感もあるのだが、ひとまず今後のレース運びには注意しておきたい。Charlie Hall Chase (G2)ではいいレースを見せたShane Blueは好位から進めるも脱落して大敗。同レースにおける落馬からしばらく休養に充ており、ここまでの順調さの面で見劣るところがあったように思われる。Dan Skelton調教師はまだ若いこの馬をじっくりと育てたいということで休養していたようで、やはりこの馬は次に期待したい。前走Gowran Parkで久々の勝利を挙げたMelonはペースに付いてけず大敗で、かつては16fクラスでも頑張っていた馬なのだが、さすがに10歳となった現在、Allahoクラスのスピードへの追走力を求められると厳しいようだ。

 

Stayers' Hurdle (G1) 2m7f213y (Replay)

1. Flooring Porter J: Danny Mullins T: Gavin Cromwell

Klassical Dream、Flooring Porterと、かなり厳しいペースで引っ張ることで結果を残してきた逃げ馬2頭が出走していたのだが、想定に反してKlassical Dreamは最後方からレースを進め、Flooring Porterの単騎逃げの格好になる。好位からRoyal Kahala、Home By The Leeなど。勝負所から馬群は密集し、Klassical Dreamも後方からじわじわと接近してくるが、ここからFlooring Porterが抵抗。差を詰めてきたThyme Hill、Paisley Parkを2馬身ほど振り切って勝利した。Klassical Dreamは5着まで。

Flooring PorterのDanny Mullinsの騎乗は各所で絶賛されている*2。元々は積極的な逃亡劇で結果を残してきた馬だが、今回はDanny MullinsがCheltenhamの競馬場に合わせて自在にペースを操りつつ、後続を完封する逃げを打っている。これは後続に控えていたThyme HillやPaisley Parkといった強力なロングスパートを有する馬に対して勝負所での馬群を密集させることで十分な加速を与えないものであり、かつChampのような瞬間的な加速力に優れた馬をスピードの持続性能で振り切るものであった。Flooring Porter自身も高いスピードの持続性能を持った馬なのだが、Cheltenhamという特殊で独特の戦術を要求する競馬場の形態を最大限に利用しつつ、この馬のスピードの持続性能を最大限に生かす魔法のような騎乗であった。昨年はJoshua Mooreの代役としての騎乗であったが、この馬の性能を十二分に理解した上に、その新たな持ち味を引き出す騎乗である。ここまで自由にやらせてもらった要因としてKlassical Dreamが序盤から引いたこともあるのだが、競馬とは個性の戦いである、という故・岡田繁幸氏の言葉を想起させるレースであった。

Thyme Hillはじわじわと伸びて2着。今シーズンはいまいちまだ勝利を手にしていないのだが、それでもこの馬らしいロングスパート能力は見せてくれた。古豪Paisley Parkは例によって勝負所から手ごたえが悪くなるのだが、そこから伸びてきて3着。もう少し道中が順調であれば差し切ることが出来る世界線もありそうで、どうやら次のシーズンも現役続行らしいので楽しみにしたい*3。ChampはやはりCheltenhamだと加速が良すぎて最後息切れするようで、好位で手ごたえよく進めるも最後は4着に終わった。道中の加速という意味ではPaisley Parkと足して2で割るくらいでちょうどいいかもしれない。人気のKlassical Dreamはいまいち何がしたかったのかよくわからない負け方で、前走のGowran Parkでいまいちぼんやりと逃げて最後捕まっただけに馬のやる気を削がないように進めたことも考えられるのだが、やや物足りないレース内容であった。ウクライナ支援のためにわざわざ勝負服を新調したLisnagar Oscarは好位から進めるもあっさり脱落して途中棄権に終わり、さすがに近走成績を見ていると往年の力はないのかもしれない。

 

Craft Irish Whiskey Co. Plate Handicap Chase (G3) 2m4f127y (Replay)

1. Coole Cody J: Adam Wedge T: Evan Williams

例によってCoole Codyが元気に逃げる展開。Coole Codyは勝負所からSlate House、さらにImperial Alcazarに交わされるも、ここから盛り返して最後は2着に6馬身差をつけて快勝した。

Coole Codyはこれで今シーズンは6戦目なのだが、その全てでCheltenhaの20f戦を使っている。さらに言えば2020-2021シーズンは計8戦しているのだが、うち5戦はCheltenham競馬場の20f戦である。まさに執拗なまでにCheltenhamばかりを使っている"Cheltenham Specialist"であり、そのような馬が最高の舞台で最高の結果を残したことになる。全体的にパワーのあるスピードで押していくタイプの馬で、Cheltenhamの下り坂で加速しながら、最後の直線に待ち受けている上り坂を駆け上がるというレース運びを得意としており、ここでもその上り坂をものともしない加速性能は目立っていた。11歳と年齢は重ねているが、11歳とは思えないほどパワーとレースへの熱意を感じさせるレースであった。

11st9lbを背負ったImperial Alcazarが2着。Novice馬でまだChaseは4戦目なのだが、比較的軽量馬が前に来たレースにおいてこれだけ走れるのだから大したものである。2019年にKauto Star Novices' Chase (G1)を勝ったSlate Houseは久々に大舞台で見せ場を作ったが、最後は脱落して6着。どうもレース運びを見ていると集中力の面で課題があるような感がある。12歳馬Wishing and Hopingは逃げたかったようだが、Coole Codyがかなり強引にハナを主張したため逃げることはできず、徐々に脱落して途中棄権にに終わった。なお、中山グランドジャンプに予備登録のあったFancy Foundationも登録していたようだが、馬場を嫌って出走取消となった。

 

Ryanair Mares' Novice Hurdle (G2) 2m179y (Replay)

1. Love Envoi J: Jonathan Burke T: Harry Fry

アイルランドのDinoblue、Party Centralが人気になっていたが、勝ったのはイギリスのLove Envoi。これでPtP NHFを含めると6戦6勝とした。前走はJane Seymour Mares' Novices' Hurdle (G2)を勝っていた馬で、レースに対する経験値という意味でも上手であったようだ。元騎手Noel Fehilyが関わっているNoel Fehily Syndicateにとっては嬉しい勝利となった。これがHurdle6戦目となるAhorsewithnonameが2着で、単勝50倍と低評価だったのだが、ここまで未勝利ながらも殆ど崩れずに走っている馬のようで、そのうちどこかでいいことがあって欲しい。

 

Fulke Walwyn Kim Muir Challenge Cup Amateur Jockeys' Handicap Chase (C2) 3m2f (Replay)

1. Chambard J: Miss Lucy Turner T: Miss Venetia Williams

マチュア騎手限定戦。勝ったのは後方から進めたChambard。今シーズンから鞍上のLucy Turner騎手とコンビを組んでおり、うち6戦して4勝と素晴らしい結果を残している。L'homme Presseの初勝利の際のコンビであったLucy Turner騎手はVenetia Williamsとも繋がりの深いPhilip Turnerの娘であり、陣営にとっても嬉しい勝利となったようだ*4。前走Scilly Isles Novices' Chase (G1)で2着に入ったMister Coffeyはややここに出てくるのが不思議な馬なのだが、11st4lbを背負っての2着。なお第2障害で3頭の重複落馬があったのだが、うちMindsmadeupは残念ながら助からなかったそうだ。