*週刊障害競馬回顧 2022/04/11~22/04/17
4/13(水)
Cheltenham (UK) Good (Good to Soft in places)
〇 Silver Trophy Handicap Chase (G2) 2m4f127y (Replay)
1. Stolen Silver J: Sam Twiston-Davies T: Sam Thomas
好位から抜け出したStolen SilverがSimply The Bettsを競り落とすと、そのまま2着に11馬身差をつけて勝利した。Stolen SilverはHurdle時代にSupreme Trial Novices' Hurdle (G2)でEdwardstoneを下した勝利はあるのだが、Chaseではこれが重賞初勝利とした。Henry VIII Novices' Chase (G1)でもEdwardstoneから23馬身離れた4着に終わっているように、16ハロンNovice ChaseのG1路線では厳しかったようだが、ここのところは距離を延長して結果を残している。ただし上位馬の中では10st13lbと斤量的にはかなり楽であったことには注意したい。1月のNew Year's Day Handicap Chase (G3)で2着に入ったSimply The Bettsが2着。今シーズンは24ハロンに距離延長を試みているが、どうにもぱっとしない成績に終わっており、おそらく20ハロンの方がいいのだろう。Cheltenham Festivalで頑張っていたCoole Codyも例によって先頭に立って進めたが、今回は前からやや離れた3着に終わった。
4/16(土)
Monkton (USA) Firm
〇 My Lady's Manor Timber Stakes
For Five Year Olds and Upward, to be ridden by amateur riders acceptable to the race committee. Three Miles on the Timber $50,000 (Replay)
1. Tomgarrow J: Freddie Procter T: Leslie Young
National Steeplechase Associationのリプレイのアップロードが遅いので、アメリカ競馬回顧は遅れて追記することになりそうだ。レースは前半から軽快に逃げたTomgarrowが下り坂で一気にリードを開くと、唯一追いかけてきたMistic Strikeを抑えて勝利した。Schoodicが3着に入った。Tomgarrowは昨年のInternational Gold Cup Timber Stakesから連勝とした。元々はアイルランドPTPの出身の馬で、2019年にはTramoreでMaiden Hurdleを勝っているが、そこからアメリカに移籍している。2020年のVirginia Gold Cup Timber Stakes、2021年のNational Sporting Library and Museum Cupなどで2着に頑張っていたようだが、前走から逃げの手に出ておりこれがうまくいっているようだ。2019年のこのレースの勝ち馬Mistic Strikeが2着で、こればかりは戦術の差だろう。この馬もコンスタントに走っており、今年も楽しみな存在になりそうだ。古豪Schoodicはじわじわと盛り返しての3着で、今年もTimberで頑張ってくれるだろう。
Nakayama / 中山 (JPN) Good
〇 Nakayama Grand Jump / 中山グランドジャンプ (G1) 4250m (Result)
仮にも一国の"Grand National"の出走馬において、ここまでSadler's Wellsが入っていない障害競馬というのも面白いな。今年のグランドジャンプで唯一のSadler's Wells持ちがBlason D'Amourなんだけれど、しかもSadler's Wellsの分枝の中でも存在感の薄いEl Pradoという。
— にげうま/Nigeuma (@_virgos2g) 2022年4月16日
戦前に気になって少し調べものをしていた。世界中の障害競馬を席巻するSadler's Wellsの子孫だが、今年の中山グランドジャンプでこのSadler's Wellsを血を引くのはブラゾンダムールの一頭のみであり、それも母父Medaglia d'OrがEl Pradoの産駒というのみである。ざっと見たところ、平地競走馬を障害競走に転用し、かつその地域の血統が強く存在するオセアニアの障害競馬と状況は似ているようだが、それにしてもここまでSadler's Wellsの影響力の薄い障害競走というのも珍しいだろう。El Pradoの系統は北米で発展している系統のようだが、やはりアメリカ血統だけあって障害競馬における存在感は小さく、この系統出身の活躍馬としては2017年のLonesome Glory Handicap (G1)の勝ち馬All The Way Joe、2017年のNew York Turf Writers Cup (G1)の勝ち馬Diplomatが挙げられる程度である。また、どうやらアメリカ産馬Spanish Moonがフランスで繋養されているようで*1、Irish EBF Mares Novice Hurdle Championship (G1)等を勝利したLaurinaを送り出しているようだが、やはりGalileo、Montjeuといった他のSadler's Wellsの分枝と比べるとその勢いは物足りない。
レースはケンホファヴァルトを制して大江原騎手のビレッジイーグルがハナに行く展開。水壕障害の辺りではやや隊列が長くなるも、そこからペースは落ち着いて馬群は密集して進行。するすると後方から上がってきたブラゾンダムールが残り2障害地点を過ぎてから一気にスパートして先頭に立つが、最終障害を越えてこれに迫ったオジュウチョウサンがこれを競り落として勝利した。
オジュウチョウサンはこれでこのレースは6勝目とした。5連覇がかかった昨年はややパフォーマンスを落としていたのだが、そこから立て直して昨年の中山大障害、中山グランドジャンプと勝利するのだから大したものである。さすがに往年のスピードはないようで3000メートルクラスのレースでは取りこぼすことも増えているのだが、そのスピードの持続性能はやはり現役馬の中では卓越したものをもっており、ここに来て飛越の円熟味をさらに増していることには恐れ入る。元々飛越がいまいちであった馬が高齢になって初めて飛越が改善してくることはレアケースであり、いまいちな飛越で頑張り続けるというのが通例なのだが、余程馬が自身の身体能力を理解しているのだろうか。それにしても5歳で初めてこのレースを制してから、これだけの長い期間、同じ舞台でチャンピオンで居続けるというのが如何に偉大なことであるかは言うまでもないだろう。欧州やオセアニア、アメリカの障害競馬ですらやはり11歳馬というのは高齢の部類であり、高齢馬が活躍するといっても基本的には高齢馬がそれだけ活躍できるだけのレース条件が存在し、かつ同馬が若い頃に活躍した舞台とは異なる条件での競走であることが多いことには留意すべきだろう。馬の能力的には2マイル半のレースではなく3マイルクラスのレースで見たいという気持ちはあるが、ここまで来ると個人的にはこの馬の走りを1日でも長く中山の舞台で見ていたいという気持ちの方が強い。
昨年の中山大障害の2着馬ブラゾンダムールは惜しい2着。じわじわと馬を宥めながら後方から進出する競馬は一気にスパートをかけた昨年よりも進境のあるものであった。残り2障害地点までのレース運びは完璧なのだが、例によって仕掛けが早すぎた。西谷騎手はこういう競馬でもはや数えきれないくらいオジュウチョウサンにやられており、いい加減学んで欲しいのだが、これを臆せず「勝ちに行った」と述べているあたり頭を抱えるしかない*2。昨年のペガサスジャンプステークスを勝ったマイネルレオーネは最後脚を伸ばして3着。どうやら屈腱炎で長期の休養を乗り越えてきた馬のようで、9歳からの長期休養というと陣営にとって現役続行は勇気のある決断だったと思われるが、その決断の正しさを証明する走りであった。道中飛越において不利を受ける場面があり、西谷騎手の謎スパートもあって差し込みやすい展開にはなったのだが、勿体ない競馬になってしまった。ケンホファヴァルトはどうにも全体的にちぐはぐなレースで4着。ビレッジイーグルはハナに立って進めたが、どうにも随所に若さを見せるようなところがあった。
4/17(日)
Cork (IRE) Heavy
〇 BARONERACING.COM Chase (G3) 3m (Replay)
1. Melon J: Bryan Cooper T: Willie Mullins
終始先頭に立って進めたMelonがそのまま勝利した。Melonは今シーズンはRed Mills Chase (G2)に続き重賞は2勝目とした。ここまで長くChaseのG1路線で善戦を続けてきた馬だが、ひたすらG1戦線ばかりを使っており、今シーズンはようやくG2からG3クラスに出走させてもらえている。さすがにここでは能力的には一枚上手であったようだが、G1クラスだとどうにもワンパンチ足りないところがあるのはここまでの戦績的には明らかで、10歳となった現状、ここから大きく変わってくることもないだろうというのが所感ではある。AintreeのGrand National (G3)ではやや不幸な落馬に終わったMinella Timeも出走していたが、好位から進めるも勝負所から脱落し3着に終わった。
Fairyhouse (IRE) Yielding
〇 Irish Stallion Farms EBF Mares Novice Hurdle Championship Final (G1) 2m4f55y (Replay)
1. Brandy Love J: Paul Townend T: Willie Mullins
Jack KennedyとWillie Mullinsという珍しい組み合わせのHors Pisteがやや後続を引き離し気味に逃げるも、最終コーナーから後続が殺到。抜け出しを測ったLove Envoiをその後ろから進めたBrandy Loveが突き放して勝利した。Hors Pisteが3着。
Brandy LoveはMaidenに引き続き2勝目とした。前走のFairyhouseでは真面目に走っていたAllegorie De Vassyから3馬身離れた2着に終わっていたのだが、持っている能力の高さは示していた。今回も前走に引き続きどうにも破天荒な走りをしていたのだが、それでもCheltenhamを勝ってきたLove Envoi以下を抑えるのだから大したものだろう。非常に荒削りなところがある馬だが、その活躍は楽しみにしたい。Ryaair Mares' Novices' Hurdle (G2)まで一気の5連勝を飾ってきたLove Envoiが2着。さすがに完成度の高い馬のようだが、今回は相手が強かった。やや引っかかり気味に逃げていたようなHors Pisteが3着で、この馬も今回は単勝20倍と低評価であったが、この路線では注意した方がいい馬のようだ。
〇 BoyleSports Novice Handicap Chase (Grade B) 2m150y (Replay)
1. Mt Leinster J: Danny Mullins T: Willie Mullins
珍しく好位で進めたMt Leinsterが残り2障害辺りからGrange Walkと並んで抜け出すも、Grange Walkが残り2障害地点で落馬。そのままMt LeinsterがBold Emperorに5馬身差をつけて勝利した。Mt LeinsterはBlackstairmountainの半弟で、重賞はこれが初勝利とした。Chaseではそれなりに経緯が長い馬でこれが6戦目となるが、前走のBeginners Chaseでようやく初勝利を挙げていた。どうにも飛越がいまいちで、しかも行きたがって走るところがあるのだが、それでもこの馬にとって好位で我慢しながら進めることができたのは大きな収穫だろう。平地でもそれなりに頑張っていた馬のようで、中山のスピード競馬に対する適性も比較的高いのかもしれない。
〇 BoyleSports Gold Cup Novice Chase (G1) 2m4f (Replay)
1. Galopin Des Champs J: Paul Townend T: Willie Mullins
するすると逃げたGalopin Des Champsがそのまま18馬身差の圧勝。Galopin Des Champsが前走のTurners Novices' Chase (G1)ではBob Olingerのマッチレースと思われたところ、そのBob Olingerを圧倒するレースを見せながらも最終障害で落馬に終わっていた。今回はその仕切り直しとなるレースであったがさすがの能力を見せた。4頭立てとはいえどの馬も本来であればこのG1路線でも勝負になる能力を持った馬で、それらを難なくぶっちぎるのだからこの馬の能力は恐るべきものがある。どうやらPunchestownにも登録があるようだが、今から次のシーズンの走りが楽しみになるものであった。Faugheen Novice Chase (G1)の勝ち馬Master Mcsheeは頑張ってついて行くも2着まで。なにかと惜敗の多い馬のようで、距離を伸ばしてなんとかならないだろうか。今回は初の20ハロンとなったRiviere D'Etelが3着。この馬はもう少し馬場が渋った方がいいだろう。Blue Sariはどうにも飛越にミスが散見された。
その他
〇 Retirement plans on hold for Grand National fourth Santini (Sporting Life)
Grand Nationalで4着に入ったSantiniはオーナー側が戦前に予定していた引退を撤回し、次のシーズンも現役を続行するそうだ。さすがにG1クラスでどうこうということは厳しそうだが、Grand Nationalへの参戦も含め、もう少し24ハロン超の重賞戦線で頑張ってくれそうだ。
〇 THE WEEK THAT WAS: National should hold its ground (The Irish Field)
Grand Nationalの2頭の死亡事故を受け、Grand Nationalの安全対策が議論されているようだ。今年の事故のうち、一頭はほぼ障害に突っ込んでいったこと、もう一頭は平地部分での事故なのでどうしようもないように思うのだが...。その中には出走頭数を40頭から30頭に引き下げる案もあるようだが、さすがに「わけがわからないよ」案件だろう。
〇 Cheltenham consulting on five-day festival - and it could come as early as 2024 (Racing Post)
Cheltenham Festivalを5日間に延長する案が現在議論されており、早ければ2024年に実現するようだ。調教師には支持する人も多いようだが、一方で競馬ファンの中には反対する人も多く、これから色々と議論を呼ぶことになるだろう。
〇 A star guest for Bool but where are the steeplechasers? (RSN)
来月の頭に予定されている"The Bool"にHugh Bowmanが参戦するらしいが、オーストラリア障害競馬の複数の有力馬が不在となることが想定されているようだ。今年はOakbankの開催がなくなったことにより出走権利の獲得が例年よりも厳しくなっていることも影響を及ぼしているそうだ。
〇 VIDEO: Oakbank Easter Racing Carnival goes ahead without some traditional races (abc.net)
伝統あるGreat Eastern Steeplechaseを初めとする障害競走なしの開催となったOakbankのEaster Carnivalが行われた。facebookのオーストラリア障害競馬コミュニティを見ると当然のごとく圧倒的なまでに不評である。しかも例によって動物愛護団体が出張ってきているようで、なかなか悲しい光景が作り出されたようだ。いちおうある程度の観客は集まったという話だが、どうも観客数は大幅に低下したという説もある*3。