にげうまメモ

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22/05/06 Aintree競馬場の"National Fence"の性質 ⑥

*Aintree競馬場の"National Fence"の性質

最後に、元々のこの記事の趣旨からは外れますが、2000~2022年のGrand Nationalについて、各障害において飛越を試みた頭数、落馬数、及び次の障害までの途中棄権数に基づき、個々のGrand Nationalにおけるレースの性質の分析に資する考察を行うことを試みます。

 

Figure 12 2000~2022年のGrand Nationalの各障害における落馬数及び直後の障害までに途中棄権を選択した頭数

Figure 12に2000~2022年のGrand Nationalにおける競争中止発生件数の累計の内訳を示します。1周目では第1障害、Becher's Brook及びCanal Turn、The Chairに落馬(Fall / Unseated Rider)のピークがあることがわかります。競争中止の内訳は1周目の前半は落馬が多いものの、徐々に途中棄権が増加しており、後半は殆どが途中棄権によるものであることがわかります。なお、このシリーズでは、比較的マイナーな落馬要因(Carried Out、Brought Down、Refused等)はその発生状況に応じて落馬又は途中棄権に含めており、このFigureも含めて必ずしも正確な競争中止の内訳を反映しているわけではないことに留意してください。

 

Figure 13 2000~2022年のGrand Nationalの各障害において飛越を試みた頭数

Figure 13に2000~2022年のGrand Nationalの各障害において飛越を試みた頭数を示します。2020年はGrand National自体が中止になったためデータはないこと、また障害の迂回を生じた場合(欠損値)については直後の障害において飛越を試みた頭数を参照していることに留意してください。2000~2022年の平均値は太線で示しています。

 

2000~2022年のGrand Nationalにおいて、明らかに異質な競走が展開されているのが2001年です。このレースは空前絶後の不良馬場で行われた競走で、Canal Turnでの計10頭もの競争中止を初め1周目で競争を中止する馬が続出し、2周目まで競走を継続することに成功したのはたったの7頭、完走は再騎乗2頭を含む計4頭という稀代の消耗戦が展開されました。なお、このときの勝ち時計は11分0秒1と、通常9分ちょっとで決着するGrand Nationalにしては異常なまでの勝ち時計が計測されています。

 

Table 3 2000~2022年のGrand Nationalの距離・完走頭数・勝ち時計・馬場状態

Table 3に2000~2022年のGrand Nationalにおける各データを示します。4月のAintreeということで良馬場で行われることが多いこのレースですが、馬場状態Heavyで行われたのは2001年と2018年の2回で、その中でも2001年は異常なまでに時計を要しています。2018年は前々日、前日ともに冷たく弱い雨が降りしきる天候でしたが、Grand National当日は晴天で、馬場状態は極端には重くはならなかったものと思われます。

 

一方で、2013年は前半の第7障害(Foinavon)までは一頭も落馬せず、Canal Turnにて3頭の落馬(The Rainbow Hunter、Treacle、Big Fella Thanks)が発生したのが同レースにおいて初の落馬となっています。

 

さて、各障害の落馬率において、2000~2009年のデータと2010~2022年のデータでは差異があることは以前考察したとおりです。これはおそらく以前にも考察したとおり、2012年における障害設計の見直しによるものと考えられますが、先のデータとの比較のためにも2000~2009年及び2010~2022年の飛越頭数に関するデータを同様に比較してみることにします。

 

Figure 13-2 2000~2022年のGrand Nationalの各障害において飛越を試みた頭数(平均値)

Figure 13-3 2000~2022年のGrand Nationalの各障害において飛越を試みた頭数(平均値)

Figure 13-2にはFigure 13の2000~2009年及び2010~2022年の平均値を示します。エラーバーは標準誤差を示します。2001年はあまりにも特殊過ぎるので、2000~2009年のデータについては2001年のデータを除外したものも併せて示しました。特に目立つのは1周目前半、第8障害(Canal Turn)までの脱落が2010~2022年では減っているように見えるのと、2周目の前半~中盤にかけての減少が緩やかになっているように見えます。なお、一部で直前の障害の飛越数を直後の障害の飛越数が上回っている箇所がありますが、これはおそらく障害の迂回が生じたことによるものであると考えられます。2001年のデータを除外した平均値も併せて示していますが、概ね傾向としては2000~2009年の合算値と大きな差異はなさそうです。Figure 13-3はFigure 13-2に各年のデータと合わせたものですが、欠損値を補完しているため、Figure 13-2とは微妙に数値が異なっています。

 


Figure 13-4 2000~2022年のGrand Nationalの各障害において飛越を試みた頭数(平均値)

Figure 13-3について、2022年の推移を強調したのがFigure 13-4です。ただし、2022年の第19障害(Open Ditch)は迂回が生じたため、通常第20障害として飛越する障害の飛越数で補完していることに留意してください。同レースにおいては、第8障害までの脱落は例年並みであった一方で、第8障害(Canal Turn)においてDe Rasher Counter、Death Duty及びRun Wild Fredの3頭が落馬、さらに第9障害(Valentine's Brook)にてMinella Times及びAugusta Goldの3頭が落馬、加えて同障害の後にSchool Boy Hours及びDeise Abaの2頭が途中棄権としていることから、1周目中盤での落ち込みが顕著です。さらに、第15障害(The Chair)にてKildisart、Burrows Saint、Domaine De L'Isleの3頭が落馬したことで、近年の傾向と比較して1周目で多くの脱落が生じた年と言えるでしょう。

Figure 13-5 2000~2022年のGrand Nationalの各障害において飛越を試みた頭数(平均値)

2022年と比較的類似した推移を示したのが2018年のGrand Nationalで、この年はBecher's Brookで3頭(I Just Know、Houblon Des Obeaux、Virgilio)、及びCanal Turnで3頭(Lord Windermere、Buywise、Final Nudge)の落馬が生じたこと等から、特に前半部分での落ち込みが顕著です。後半でも2018年と2022年は比較的類似した推移を示しておりますが、わずかに終盤での落ち込みが2018年の方が顕著なのは馬場状態(2018:Heavy、2022:Good to Soft)によるものかもしれません。