にげうまメモ

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22/07/20 フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬 ④

*フランス障害競馬における非サラブレッド種牡馬

以下、1994年以降に産駒が障害競馬にて1勝以上を上げたその他のSelle Français(SF)及びAutre Que Pur-Sang(AQPS)種牡馬について簡単に記載する。

 

*Baloo Du Camp (FR) (SF) 1989

産駒数:38 勝利数:17 獲得総賞金額:301,504€ (Pedigree)

Turn-To (IRE) 1951
 |Sir Gaylord (USA) 1959
 | |Habitat (USA) 1966
 | | |Lou Piguet (FR) 1978
 | | | |Baloo Du Camp (FR) (SF) 1989

Sir Gaylord - Habitatの系統は日本でもニホンピロウイナーの活躍等でお馴染みだが、フランス平地競争を走ったLou Piguetは産駒としてサラブレッド以外にもSelle FrançaisやAnglo-Arabe De Complementを含むようで、Baloo Du CampはそのSelle Françaisの産駒である。Baloo Du Campは例によって母Lucretia Du CampがSelle Françaisというパターンで、Baloo Du Campの母母母父Hugues CapetがFrench Trotterである以降は代々サラブレッドが交配相手に選ばれている。Baloo Du Campの曽祖母Dare-Dare(SF)は1947年生まれで、当時の様相は現代とはかなり異なっていたようだ。Baloo Du CampはGrand Steeplechase De Craonをはじめフランス障害競走で計4勝をあげ種牡馬入りした。ただ、その産駒としては長くフランスCross Countryで活躍したPacha Du Lac(AC)が目立つ程度で、おそらくその産駒の多くは競馬用途ではないものだろう。Baloo Du Camp自身は2015年に死亡している。

 

*Cupidon (FR) (SF) 1990

産駒数:77 勝利数:37 獲得総賞金額:433,635€ (Pedigree)

Prince Rose (GB) 1928
 |Prince Bio (FR) 1941
 | |Sicambre (FR) 1948
 | | |Diatome (GB) 1960
 | | | |Margouillat (FR) 1970
 | | | | |Farid (FR) 1983
 | | | | | |Cupidon (FR) (SF) 1990

遡ればSt Simonに辿り着くPrince Roseの系統出身で、現役時代は平地競争で2勝したのみ、唯一の障害戦での実績はAuteuilの若齢馬限定Haies戦で大敗したのみである。なかなかサラブレッドの父系としては渋味のある系統なのだが、残念ながら代表的な産駒としてはフランスCross Countryで2勝をあげた牝馬Puce Des Ongrais(SF)くらいで、あまり目立った産駒は送り出していない。1997年の種牡馬入り当初は30頭以上の牝馬を集めていたようだが、そこから種付け数は減り続け、2008年に死亡している。

 

*Dirak Creiomin (FR) (SF) 1969

産駒数:51 勝利数:50 獲得総賞金額:391,250€ (Pedigree)

Blandford (IRE) 1919
 |Umidwar (GB) 1931
 | |Norseman (FR) 1940
 | | |Free Man (FR) 1948
 | | | |Furman (FR) 1960
 | | | | |Dirak Creiomin (FR) (SF) 1969
 | | | | | |Lampon (FR) (SF) 1977
 | | | | | |Alza II (FR) (SF) 1988 1996 Grand Cross Corlay

前述のLamponの父。Dirak Creiominの母Jeannette IIIはどうやらFrance GalopではDemi-Sangとされているようだ。Dirak Creiomin自身は平地競争で未勝利に終わった馬だが、種牡馬としてはフランス障害競走で計7勝をあげたAh Mon Pot(SF)や、Grand Cross Country de Corlayを勝った牝馬Alza II(SF)などを送り出した。ただ、LamponはこのDirak Creiominが種牡馬入りした直後の産駒のようで、いまいちLamponを種牡馬入りさせようと判断した理由はよくわからない。Dirak Creiomin自身は1976年からコンスタントに10頭前後の牝馬を集めていたようだが、1989年に死亡している。

 

*Echo De Thurin (FR) (SF) (3.120%) 1970

産駒数:1 勝利数:1 獲得総賞金額:6,311€ (Pedigree)

Swynford (GB) 1907
 |Blandford (IRE) 1919
 | |Umidwar (GB) 1931
 | | |Ultimate (GB) 1941
 | | | |Diable Rouge (FR) (SF)*1 1947
 | | | | |Tigre Rouge (FR) (SF) 1963
 | | | | | |Echo De Thurin (FR) (SF) (3.120%) 1970
 | | | | | | |Hunter Du Sapin (FR) (SF) (1.560%) 1995 フランス障害1勝

産駒数及び勝利数1という数字からわかるとおり、ただでさえこの需要皆無なシリーズの中でも輪をかけて強烈な異彩を放つ種牡馬で、父系自体は遡ればSwynford - Blandfordに連なる系統なのだが、なんとUltimateの産駒Diable Rouge(SF)から3代続けてSelle Françaisの系統が続いたという、今になっては奇跡のような存在である。その血統図全体はもはや異系の塊で、Echo De Thurinの父Tigre Rouge(SF)は両親ともにSelle Françaisなのだが、Tigre Rouge(SF)の父Diable Rouge(SF)の母Vous Seule(SF)の父Milan(SF)はサラブレッドであるRattlerからFrench Trotter、Anglo Norman等を経て続いてきたSelle Françaisの系統、さらにDiable Rouge(SF)の母Vous Seule(SF)の牝系の由来は不明、Tigre Rouge(SF)の母Operette(SF)の牝系の由来もまた不明、そしてそのTigre Rouge(SF)の母Operette(SF)の父Cidre DouxはDemi Sang、Operette(SF)の父方の祖父Jus De Pommeは遡ればSt Simonに連なるAnglo-Norman、Operette(SF)の母父Le Clapaはおそらく完全なArabianから連なるAngro-Arabianと、父方だけでも凄まじい血統である。Echo De Thurinの母Syrie(SF)の血統も圧巻で、Syrie(SF)の父Galopin VIはサラブレッドなのだが、遡ればMatchemに連なるHarry Onを経て、Precipitationを経ずにTown Guard - Quai D'Orsay - Tangoと繋がってきた、Hurry Onの系統の中でもマイナーな、もはや歴史の彼方に消え失せた系統*2である。また、Syrie(SF)の母Kavala(SF)の血統の中にはSelle Françaisはもちろん、TrotterやAnglo-Normanが含まれており、例えばKavala(SF)の父Ecossais(SF)ははるか昔に遡ればサラブレッドであるRattlerを経てMatchemに辿り着くのだが、そこからFrench Trotter、Selle Français、Anglo-Norman等を経て繋がってきた系統であり、どうやら上記Milan(SF)とは1921年生まれのVas Y Donc(SF)までは共通の系統のようだ。どうやらInstitut français du cheval et de l'équitationのデータベースによるとEcho De Thurinの産駒は合計で60頭ほどがいるようで、おそらくその大半は競走用途ではないと思われる。France Galopのデータベース上に存在するEcho De Thurinの唯一の産駒Hunter Du Sapin(SF)は母方がサラブレッドなのだが、フランス障害競走で計10戦し、そのうち1999年のNimesのClaiming Steeplechaseでサラブレッド相手に1勝をあげたようで、もはや2022年を生きる我々からすれば競馬(Galop)用途であるかすら怪しいような異系中の異系の種牡馬の産駒が競馬を走っていたという事実にはもはや驚きを通り越して感動すら覚える。

 

*Esteem Ball (FR) (SF) 1992

産駒数:53 勝利数:60 獲得総賞金額:729,217€ (Pedigree)

Nasrullah (GB) 1940
 |Never Bend (USA) 1960
 | |Mill Reef (USA) 1968
 | | |Port Etienne (FR) 1983
 | | | |Esteem Ball (FR) (SF) 1992

Esteem Ballの父Port Etienneはサラブレッドだが、どうやら障害種牡馬として繋養されたようで、その産駒にはサラブレッドのみならず、Selle FrançaisやAnglo-Arabe de Complementが含まれる。Esteem Ballの母TyranniqueがSelle Françaisだが、代々Selle Françaisの牝系にサラブレッドが交配されてきたパターンで、Esteem Ballの血統表の殆どはサラブレッドが占めている。Esteem BallはフランスSteeplechaseで1勝をあげたのちに種牡馬入りした。Esteem Ball自身の産駒は2008年には年間で計6勝、総賞金€79,165を獲得し、賞金ベースのリーディングで121位に入ったのが最高で、特段目立った産駒を送り出しているわけではなさそうだ。

*1:France Galopでは"Demi Sang"とされている

*2:ハリーオン系 - Wikipedia