にげうまメモ

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22/09/29 オーストラリア障害競馬 ② - 主要競走 -

*オーストラリア障害競馬

2022年のオーストラリア障害競馬における主要競走を以下に示す。

 

<Hurdle>

開催月

競走 競馬場 距離(m) 総賞金(豪ドル)
4月 MJ Bourke Hurdle Pakenham 3,200 100,000
5月 Galleywood Hurdle Warrnambool 3,200 175,000
5月 Champion Novice Hurdle Warrnambool 3,200 60,000
5月 Australian Hurdle Ladbrokes Park Lakeside 3,900 150,000
7月 Kevin Lafferty Hurdle Warrnambool 3,200 125,000
7月 Brendan Drechsler Hurdle Pakenham 3,500 125,000
7月 Casterton Hurdle Casterton 3,480 40,000
8月 Grand National Hurdle Ladbrokes Park Lakeside 4,200 300,000
8月 Gotta Take Care Hurdle Ballarat 3,600 50,000
8月 JJ Houlahan Hurdle Ballarat 3,250 125,000

 

<Steeplechase>

開催月 競走 競馬場 距離(m) 総賞金(豪ドル)
4月 J.E.H Spencer Memorial Steeplechase Pakenham 3,500 100,000
5月 Brierly Steeplechase Warrnambool 3,450 175,000
5月 Grand Annual Steeplechase Warrnambool 5,500 350,000
5月 Two Rivers Steeplechase Casterton 3,800 100,000
5月 Australian Steeplechase Ladbrokes Park Lakeside 3,900 150,000
7月 Thackeray Steeplechase Warrnambool 3,450 125,000
7月 Mosstrooper Steeplechase Pakenham 3,500 125,000
7月 Casterton Steeplechase Casterton 3,800 60,000
8月 Crisp Steeplechase Ladbrokes Park Lakeside 4,200 150,000
8月 Great Western Steeplechase Coleraine 3,600 60,000
8月 Grand National Steeplechase Ballarat 4,500 350,000

 

オーストラリア障害競馬シーズンは南半球の冬季にあたる3月から8月であり、2022年は3月のTerang競馬場の開催で始まり、8月のBallarat競馬場のGrand National Meetingで終了した。SA州ではアイルランドの障害騎手を招待し、地元騎手との対抗戦を行う開催が9月のMorphettville競馬場で行われており、1986年から長く続けられていたが、SA州の障害競馬自体が廃止されたことから既に過去のものとなっている*1。また、Melbourne Cup当日の第1レースにはMelbourne Cup Hurdleなどと呼ばれる競走も行われていたようだが*2、どうやら2001年を最後に消滅しているそうだ*3

オーストラリア障害競馬のHurdle競走の殆どは3000メートル台の競争であり、オーストラリアHurdle競走としては最高額の賞金(総賞金300,000AUD)が設定されているGrand National Hurdleが4200メートルと、オーストラリアHurdle競走では唯一4000メートル超の距離が設定されている。これに次ぐのがAustralian Hurdleの3900メートルであり、それ以外は3600メートルのGotta Take Care Hurdleを除けばすべて3500メートル以下の競争であった。なお、2020年まではBallarat競馬場のGrand National Meetingで行われるGotta Take Care Hurdleは4000メートルの長距離が設定されており*4、Steeplechaserとして将来性のある馬を発掘する競走として機能していたものの、2021年からは3600メートルに短縮されている。多くの障害競馬開催国と同様にオーストラリアでも距離別の路線は設定されておらず、主要競走において相対的に長距離が設定されているというパターンで、Maiden Hurdleは全て3200~3500メートル程度の距離が設定されている。一方で、ニュージーランドにおいて数多く行われている2000メートルクラスの競争はなく、全ての競争に3200メートル以上の距離が設定されているのはニュージーランドとの違いと言えるかもしれない*5

なお、2022 Racing AwardにおけるChampion Jumper Awardには、この年のAustralian HurdleやGrand National等を制し、この年のオーストラリアHurdle競走の主要競走を総なめしたSaunter Boyが選出されている*6

 

5月上旬にWarrnambool競馬場で行われる祭典、"The Bool"(May Racing Carnival)のメインレースであるGrand Annual Steeplechaseは、オーストラリア障害競馬において最高の総賞金額(350,000AUD)が設定されたオーストラリアSteeplechaseの主要競走である。当該競走の距離は5500メートル、起伏の激しいWarrnambool競馬場のSteeplechase Courseに設置された計33の障害を飛越するという非常にタフな条件が設定されている*7。この障害飛越数は他国の"Grand National"及びそれに相当する競走の多くを凌駕しており、同じオセアニアニュージーランドGreat Northern Steeplechaseは過去Ellerslie競馬場においては6400メートルの距離に計25の障害、2022年のTe Rapa競馬場では6500メートルの距離に計32の障害を飛越するコースが設定されていることを踏まえると*8、やはりこのGrand Annual Steeplechaseの条件は特異なものである。さらに、英Grand Nationalは約6900メートルの距離に計30の障害を飛越するコースが設定されていることを踏まえると*9、Grand Annual Steeplechaseの障害飛越数及び飛越頻度の高さは2022年現在、世界的にも特筆すべきものである。"The Bool"は非常に人気のある開催であるが、特に2022年の3日間の売上高は6700万ドルを超え、合計約3万人が集まるなど、過去最高の大成功を収め、オーストラリア障害競馬の復興を強く印象付けた。Warrnamboolの丘の上からSteeplechase競走を観戦する大観衆の光景はもはやこの開催の名物となっている*10。Grand Annual Steeplechaseは非常に歴史のある競走で、2022年には150周年を迎えた。本記事の下部にMark McNamara氏による同競走の歴史に関する記事へのリンクを記載するので適宜参照されたい。

Coleraine競馬場で行われているGreat Western Steeplechaseは現存する障害競走としてはオーストラリア最古のものであり、2022年現在において155年以上の歴史を誇るものである。最初のGreat Western Steeplechaseは1858年に行われ、約4マイルの距離、最大で高さ5フィート程の障害を含む計42もの障害を飛越するものであったようだ*11。現在は大きくその姿を変え、Coleraine競馬場の平地コースの内側に設置された障害コースを使用する3600メートルの距離が設定されている。なお、オーストラリアで1800年代に詩人等として活躍したAdam Lindsay Gordonは同競走に騎手として参戦し、Coleraineの競馬に関する詩(The Fields of Coleraine等)も残していたようで*12、ColeraineにはAdam Lindsay Gordonを記念するモニュメントも設置されているようだ*13。なお、同名の競争は大型の水壕障害を有するニュージーランドRiverton競馬場でも行われていたが*14、COVID-19の影響で近年低迷していたニュージーランド南島の障害競馬は壊滅的な打撃を受け、現在は廃止となっている。

Coleraine Races – in the footsteps of Adam Lindsay Gordon(The Footy Almanac)

 

SteeplechaseもHurdleと同様に殆どが3000メートル台の距離が設定されており、4000メートル超の距離が設定されているのは2022年においては前述のGrand Annual Steeplechase(5500メートル)のほか、Grand National Steeplechase(4500メートル)及びCrisp Steeplechase(4200メートル)のみであった。2022年のHurdle及びSteeplechaseの距離の平均値及び中央値は以下のとおりである。

  • Hurdle:平均値 3319メートル、中央値 3200メートル
  • Steeple:平均値 3640メートル、中央値 3450メートル

 

2022年オーストラリア障害競走におけるHurdle及びSteeplechaseの1競走あたりの総賞金額の平均値及び中央値は以下のとおりである。

  • Hurdle:平均値 56,020AUD、中央値 35,000AUD
  • Steeple:平均値 97,083AUD、中央値 55,000AUD

Hurdleに比べてSteeplechaseでは平均値及び中央値が高く算出されているが、これはSteeplechaseにおいては主要な競走が比較的高い割合で含まれる一方で、Maidenクラスの競争が殆ど行われていないことがその理由であると考えられる*15。オーストラリア障害競馬における最高賞金額が設定されているのはGrand Annual Steeplechase及びGrand National Steeplechaseの350,000AUDで、一方のMaiden Hurdleでは35,000~50,000AUD(1AUD = 93.88円、約330万円~470万円)程度の総賞金額が設定されている。オーストラリア障害競馬にはニュージーランドからの移籍馬が多数存在するが、2022年のニュージーランドにおけるMaiden Hurdleの総賞金額は20,000NZD(1NZD = 82.76円、約165万円)であることを踏まえると、やはりオーストラリアにおいてはニュージーランドと比較して高額の賞金が設定されていると考えてよいだろう。

 

<参考>

Grand Annual Steeplechase150周年を記念したMark McNamara氏による記事*16

Part 1: Beginnings, 1872-1882(Racing.com)

Part 2: Tom Corrigan(Racing.com)

Part 3: The Paddocks(Racing.com)

Part 4: 1883-1903 - A Grand Name(Racing.com)

Part 5: 1904-1919 - War and Pandemic(Racing.com)

Part 6: The 1920s - Controversy and Champions(Racing.com)

Part 7: 1930-1941 - Depression and War(Racing.com)

Part 8: 1947-1955 - Boom Times(Racing.com)

Part 9: 1956-1965 - Lafferty(Racing.com)

Part 10: 1966-1976 - Changes(Racing.com)

Part 11: 1977-1984 - 100 Annuals(Racing.com)

Part 12: 1985-1989 - Galleywood(Racing.com)

Part 13: 1990-2000 - Houlahan & Wheeler(Racing.com)

Part 14: 2001-2010 - Challenges(Racing.com)

Part 15: 2010-2017 - Young Guns(Racing.com)

Part 16: 2018-2021 – Pure Gold(Racing.com)

Part 17: Warrnambool Week(Racing.com)