にげうまメモ

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22/10/01 オーストラリア障害競馬 ⑤ - 出走馬統計 -

*オーストラリア障害競馬

2022年のオーストラリア障害競馬における完走率は以下のとおりである*1

Figure.1 2022年オーストラリア障害競馬における完走率

Hurdle及びSteeplechaseにおいて、いずれも完走率は85%程度の数値を示した。この数値自体は文献上の2012~2014年におけるVIC州及びSA州の障害競走における完走率と大きな差異はないものと考えられる(Hurdle及びSteeplechaseでそれぞれ1135 / 1323 = 85.79%及び537 / 642 = 83.64%)(Karen Ruse, et al. Animals 2015)*2。一方で、落馬転倒による競争中止(Fall)は、2022年においてはそれぞれHurdle及びSteeplechaseにおいて2.73%及び3.87%であり、2012~2014年における当該割合(Hurdle及びSteeplechaseでそれぞれ39 / 1328 = 2.95%及び26 / 642 = 4.05%)(Karen Ruse, et al. Animals 2015)からわずかに減少しているようにも見えるが、そもそも如何せん試行回数に乏しく交絡因子が多数考えられることから、統計解析からはなんとも結論付けることは難しい。このことに関しては騎乗者の感覚的な部分も参考にすべきであろう。この数値を他国の障害競馬と単純に比較することはなかなか難しいのだが、ただし、2021/2022のPauの開催における落馬率はHaiesで6.3%、Steeplechaseで11.95%というデータもあり*3、2022年のオーストラリア障害競馬における統計的な数値は決して高いものではないように思われる。

2022年の競争中止の内訳は以下のとおりであり、Hurdle及びSteeplechaseでは全体でそれぞれ55件及び32件の競争中止が生じたが、競争中止理由の多くを"Fail to Finish"、すなわち途中棄権(イギリスでは"Pull Up"と表現する)が占めている。なお、過去に当ブログにおいてSteeplechase競走における競争中止要因の内訳を考察したが、当該考察においては2008年から2018年のデータを使用しており、2010年前後からオーストラリア障害競馬においては様々な変化があったことを踏まえると、2022年現在において下記考察とは異なった傾向が示されることが予想される。

22/01/15 完走率に基づく各国主要障害競馬の性質 ② - Hurdle・日本・オセアニア - (にげうまメモ)

22/01/15 完走率に基づく各国主要障害競馬の性質 ③ - Steeplechase - (にげうまメモ)

Figure.2 2022年オーストラリア障害競馬における競争中止内訳

2022年において1レース中において3頭以上の競争中止が生じた競走は以下のとおりである。

  • 220418 Pakenham (Soft7) Maiden Hurdle:Run 10, Faller 1, FF 3 (Result)
  • 220504 Warrnambool (Heavy9) BM120 Steeple:Run 8, Faller 1, FF 2 (Result)
  • 220515 Casterton (Soft5) Open Hurdle:Run 8, FF 4 (Result)
  • 220531 Hamilton (Heavy8) Maiden Hurdle:Run 9, Faller 1, FF 2 (Result)
  • 220531 Hamilton (Heavy10) Maiden Hurdle:Run 9, FF 3 (Result)
  • 220531 Hamilton (Heavy10) Maiden Hurdle:Run 9, FF 3 (Result)
  • 220531 Hamilton (Heavy10) 0-114 Steeple:Run 10, FF 4 (Result)
  • 220608 Sale (Heavy9) Handicap Steeple:Run 10, Faller 1, FF 3 (Result)
  • 220619 Warrnambool (Heavy10) Maiden Hurdle:Run 9, Faller 1, LR 2 (Result)
  • 220717 Pakenham (Heavy10) Maiden Steeple:Run 9, LR 1, FF 2 (Result)
  • 220828 Ballarat (Heavy10) Maiden Hurdle:Run 10, Faller 2, BD 1, FF 2 (Result)
  • 220828 Ballarat (Heavy10) Handicap Hurdle:Run 8, Faller 2, BD 1, FF 1 (Result)

8月末のBallaratのGrand National Meetingで競争中止が多く発生しているが、これはいずれも重複落馬によるものである。また、5月末のHamiltonでも比較的多数の競争中止が発生したようだが、これは極端な不良馬場によるものであると想定され、上記のリストにおいても全体的にHeavy10で行われた開催の競争が目につく。ただし、完走率と馬場状態の関連性については、サンプル数を増やした上でより詳細な検討が必要だろう。なお、4月のPakenhamのMaiden Hurdleは最終コーナーで前からまとめて置いて行かれた3頭が仲良く途中棄権したのちに前の馬群にいたDr Dependableが落馬したもの、CastartonのOpen Hurdleは平地競争で高いパフォーマンスを発揮してきたスピードのあるHush WriterにRoland Garrosが競り掛けていったことで極端なハイペースが生じたことによるものと思われる。

Figure.3 2022年オーストラリアHurdle競走における完走率

Figure.3にHurdle競走全体、Maiden Hurdle、及びMaiden Hurdle以外のHurdle競走(Benchmark、Novice、1JW等も含む)における完走率を示す。いずれにおいても85%程度の数値であり、数値的な差異はほぼなさそうだ。

Figure.4 2022年オーストラリアHurdle競走における競争中止内訳

また、Figure.4にオーストラリアHurdle競走における競争中止の内訳を示す。いずれも落馬/途中棄権の傾向としては大きな差異はなさそうだが、Lost Rider(馬が躓いて騎手が落馬したもの)はMaiden Hurdleのみで発生しているという違いがありそうだ。Maiden Hurdleは比較的障害経験に乏しい馬が出走する傾向があることを踏まえると、それぞれの出走馬群において技術的な成熟度の差異があることが推測されるが、一方で全体的な落馬の発生頻度自体はさほど変わらないようで、それだけMaiden Hurdleではリスクを避けた飛越を試みるという慎重なレースが展開されているのか、Maiden Hurdleに出走してくる馬でもしっかりとした準備をしてきていると考えられるのか、データ自体は色々と解釈の余地はありそうだ。

Figure.5 2022年オーストラリアSteeplechase競走における完走率

Figure.5にSteeplechase競走における完走率を示す。Maiden競走が活発に行われているHurdle競走と異なり(年間24レース)、SteeplechaseにおいてはMaiden競走が2022年においては1レースしか行われていなかった一方で、Benchmark等による制限のあるSteeplechase競走及び1JW Steeplechaseが比較的経験の浅い馬の出走対象となっていたことから、それらを"Other Steeple"として一括りにした。すなわち、Hurdleとはレースの括りが異なっていることに留意されたい。Figure.5に示すとおり、"Other Steeple"では僅かに"Open Steeple"と比較して完走率が低くなっている。

Figure.5 2022年オーストラリアSteeplechase競走における競争中止内訳

一方で、興味深いことに"Other Steeplechase"における競争中止の内訳はその殆どが途中棄権(Fail to Finish)によるものであり、転倒及び"Lost Rider"が生じることは稀のようだ。"Other Steeplechase"には一流競走においては能力的には足りない馬も多く出走してくるが、経験の浅い馬が多いことでよりリスクの高い飛越を避けた慎重なレースが展開されていることが考えられる。

*1:例によって微妙に数頭の集計上の誤差があるのだが、修正作業を行うにあたって心が折れたのでpreliminaryなデータということでご容赦頂きたい。おそらく完走頭数の集計間違いであると思われる...。

*2:Jump Horse Safety: Reconciling Public Debate and Australian Thoroughbred Jump Racing Data, 2012-2014

*3:https://twitter.com/JBrouqueyre/status/1494732582939942914