にげうまメモ

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22/10/22 ニュージーランド障害競馬 ② - 主要競走 -

ニュージーランド障害競馬

2022年のニュージーランド障害競馬における主要競走を以下に示す。

 

<Hurdle>

開催月 競争 Club 競馬場

距離

(m)

総賞金

(NZD)

5月 Awapuni Hurdles Rangitikei RC Trentham 2,900 60,000
6月 KS Browne Hurdle (PJR) Hawke's Bay RI Hastings 3,100 60,000
6月 Waikato Hurdle (PJR) Waikato RC Te Rapa 3,200 60,000
7月 Hawke's Bay Hurdle (PJR) Hawke's Bay RI Hastings 3,100 60,000
7月 Wellington Hurdles (PJR) Wellington RC Trentham 3,400 75,000
8月 Avon City Ford Sydenham Hurdles Riccarton Park - Canterbury JC Riccarton Park 3,100 50,000
8月 Grand National Hurdles (PJR) Riccarton Park - Canterbury JC Riccarton Park 4,200 100,000
9月

The Pakuranga Hunt Sesquicentennial

Open Hurdle

Pakuranga Hunt Te Rapa 3,200 60,000
9月 Great Northern Hurdle (PJR) Waikato RC Te Rapa 4,200 150,000

 

<Steeplechase>

開催月 競争 Club 競馬場

距離

(m)

総賞金

(NZD)

5月 Manawatu Steeplechase Rangitikei RC Trentham 4,000 60,000
6月 Poverty Bay Hunt Ferguson Gold Cup (PJR) Hawke's Bay RI Hastings 4,000 60,000
6月 Waikato Steeplechase (PJR) Waikato RC Te Rapa 3,900 60,000
7月 Hawke's Bay Steeplechase (PJR) Hawke's Bay RI Hastings 4,800 60,000
7月 Wellington Steeplechase (PJR) Wellington RC Trentham 5,500 75,000
8月 Koral Steeplechase Riccarton Park - Canterbury JC Riccarton Park 4,250 50,000
8月 Grand National Steeplechase (PJR) Riccarton Park - Canterbury JC Riccarton Park 5,600 100,000
9月 Pakuranga Hunt Cup (PJR) Pakuranga Hunt Te Rapa 4,800 60,000
9月 Great Northern Steeplechase (PJR) Waikato RC Te Rapa 6,500 150,000

 

ニュージーランド障害競馬シーズンは南半球の冬季にあたる5月から9月であり、2022年は5月のTe Rapaの開催ではじまり、10月のWoodvilleの開催で終了した。なお、10月のWoodville競馬場の開催では障害競走計5レースが行われたが、これは元々9月末の開催が中止になったことで延期されたものであり*1、元々障害競馬シーズン自体は9月末の開催を最後に終了する予定であった。近年はCOVID-19による影響で開催時期のずれが発生しており、特に2020年は障害競馬シーズンが丸ごと後ろ倒しになるという甚大な影響を受けていたのだが*2、COVID-19の流行前の数年間の動向を踏まえると基本的には上記のとおり5月から9月と考えてよいだろう。

主要競走に対するカテゴリー付けがなされていないオーストラリアと異なり、ニュージーランド障害競馬における主要競走は"Prestige Jumping Race (PJR)"という格付けが与えられている*3。ただし、一部のOpen Hurdle及びOpen SteeplechaseではPrestige Jumping Raceに匹敵する賞金額が設定されている場合もある。"Prestige Jumping Race"の格付けは変動が生じる場合もあるようで、Riverton競馬場で長く行われてきた競争であるGreat Western Steeplechase及びGreat Western Hurdleは2009年においてはPrestige Jumping Raceとして行われているが、翌年以降はPrestige Jumping Raceから外されている。なお、当該競走は現在では廃止されている。

 

2022年のニュージーランドHurdle競走のうち、Te Rapa競馬場で行われたGreat Northern Hurdlesは総賞金額150,000NZDと頭一つ抜けたものが設定されていた。総賞金額としてこれに次ぐのがGrand National Hurdlesの100,000NZD、そしてWellington Hurdlesの75,000NZDである。この3競走はニュージーランドHurdle競走における主要競争として位置づけられているが、2021年にはThe Cossackという馬がこの3大競争を完全制覇するという偉業を成し遂げている。The Cossackは2022年はKS Brown Hurdle及びHawke's Bay Hurdleを勝利し、その後はWellington Hurdles等には向かわずにオーストラリアに遠征、Grand National Steeplechaseでは僅差の2着と結果を残した。2022年に行われたHurdle競走のPrestige Jumping Raceは計5競争であり、The Cossackは2022年に現存したニュージーランドHurdle路線におけるPrestige Jumping Raceの完全制覇を成し遂げたことになる。

ニュージーランドHurdleのうち、最長距離を誇るのがGreat Northern HurdlesとGrand National Hurdlesの4200メートルである。この2競走は他競争と比較すると飛びぬけて距離が長く、これに次ぐのがWellington Hurdlesの3400メートルであり、それ以外は全て3200メートル以下の競争である。オーストラリア障害競馬の最長距離がGrand Natonal Hurdleの4200メートルであり、それ以外はAustralian Hurdle(3900メートル)等の一部の例外を除いて殆どが3500メートル以下の競争であるという意味では、オーストラリアとニュージーランドは類似したレース構造を有すると言えよう。一方でニュージーランドHurdle競走で特徴的であるのは、世界的にもやや珍しい2000メートル台の競争が行われていることであり、その最短距離は2500メートルと一般的な平地競争レベルの距離である*4。特にMaidenクラスは殆どが2000メートル台の競争となっており、10月のWoodville開催にて3200メートルのMaiden Hurdleが行われたのは全体としてはやや珍しい例である(Maiden Hurdle全16レース中3000メートル以上の距離が設定されていた競争は5レースしかない)。日本障害競馬では阪神や中山、福島等の主に未勝利戦にて2000メートル台の距離が設定されていることも多く、全体的なレース距離の構成はニュージーランドHurdleと日本とで類似している可能性も考えられる。

 

主要競走としてSteeplechaseのレース体系もHurdleと類似しており、総賞金額150,000NZDが設定されている距離6500メートルのGreat Northern Steeplechaseを頂点に、総賞金額100,000NZD、距離5600メートルのGrand National Steeplechase、総賞金額75,000NZD、距離5500メートルのWellington Steeplechaseと続く。また、9月にTe Rapa競馬場で行われるPakuranga Hunt CupはGreat Nothern Steeplechaseに向けた重要な前哨戦として位置づけられており、Great Northern Steeplechaseを目指す一流馬が多数集結する。元々Great Northern Steeplechase(Great Nothern Meeting)及びPakuranga Hunt Cupは北島の湾岸都市Aucklandに位置するEllerslie競馬場で行われていたが、2021年に障害コースを含む一部の土地が都市開発のために売却され*5*6*7、代替として新設されるStrathAyr Trackは障害競馬開催には不適であることから、Ellerslie競馬場で行われていた障害競走は2022年からTe Rapa競馬場に移設されている。なお、2021年のGreat Northern MeetingはTe Aroha競馬場で行われているが、これは新型コロナウイルス感染症の影響であり、本来はEllerslie競馬場で行われる予定であった*8。結果的にこのニュージーランド障害競馬の頂点である開催は、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で10月にずれ込んだ上に内馬場のゴルフ場でゴルフに興じていた人がGreat Northern Steeplechaseのレース中にコースに進入するアクシデントがあり*9、そのEllerslieでの開催が最後となることが決定していた2021年はEllerslieでの開催は叶わずと、Ellerslie競馬場で紡がれていた歴史は非常に不幸な形で幕を閉じることになった。

ニュージーランドSteeplechaseにおいては3000メートル台の競争も行われているが、4000メートル以上の距離が設定されている競争も多く、Maiden Steeplechaseでも4000メートルの距離が設定されている競争も含まれている(2022年はMaiden Steeplechase8レース中3レースが4000メートルの距離であった。なお、残り3レースが3900メートル、2レースが3200メートルであった)。これは5500メートルのGrand Annual Steeplechase、4500メートルのGrand National Steeplechase及び4200メートルのCrisp Steeplechaseを除く全てのSteeplechase競走が3000メートル台のオーストラリアとは一線を画していると言えよう。とはいえ5000メートルクラスの競争はやはりニュージーランドSteeplechaseでも数える程度であり、上記Great Northern Steeplechase、Grand National Steeplechase及びWellington Steeplechaseの3競走のみであり、これにHawke's Bay Steeplechase及びPakuranga Hunt Cupの4800メートルが続いているという状況である。

 

2022年ニュージーランド障害競馬の各競走数の内訳は以下のとおりである。なお、Prestige Jumping RaceはOpen Entry Hurdle / Steeplechaseに含有される。

  Maiden 0-1 WIN RST OPN SWP Open
Hurdle 16 1 5 12
Steeplechase 8 1 4 11

 

2022年ニュージーランド障害競馬のHurdle及びSteeplechaseの距離の平均値及び中央値は以下のとおりである。

  • Hurdle:平均値2994メートル、中央値3000メートル
  • Steeplechase:平均値4189メートル、中央値4000メートル

2022年ニュージーランド障害競馬のHurdle及びSteeplechaseの賞金額の平均値及び中央値は以下のとおりである。

  • Hurdle:平均値38088NZD、中央値30000NZD
  • Steeplechase:平均値44375NZD、中央値30000NZD

上記のとおり、ニュージーランドHurdle競走においては2000メートル台の競争が多く含まれており、Maidenの16レース中11レース、RST OPN SWPでの5レース中2レース、Open Entry Hurdleの12レース中1レースで3000メートル未満の距離が設定されていた。それ以外のHurdle競走においても、Great Northern Hurdle及びGrand Nattional Hurdleを除けば殆どの競争が3000~3400メートル程度の距離であり、全体の平均値としては世界的にも例を見ないほど短い距離となっている。一方のSteeplechaseにおける平均距離は4000メートルを越えており、2022年は中山大障害の距離(4100メートル)をわずかに上回っている。3000メートル台の競争はMaidenで8レース中5レース、0-1 WIN Steeplechaseで1レース中1レース、RST OPN SWPで4レース中2レース、Open Steeplechaseで11レース中2レースであった。

Hurdleに対してSteeplechaseの総賞金額の平均値は大きく上回っているが、これは相対的にMaidenクラスの競争が少なく、上位クラスの競争の占める割合が多いためである。Hurdle及びSteeplechaseともにMaidenクラスでは20,000NZDの総賞金額が設定されていた*10。0-1 WIN及びRST OPNクラスでは30,000NZDの総賞金額、Openクラスでは30,000NZD以上の総賞金額が設定されていた。Prestige Jumping Raceでは全て60,000NZD以上の総賞金額であり、その中でも最高総賞金額が設定されていたのはGreat Northern Hurdle及びGreat Northern Steeplechaseの150,000NZD(約1270万円)であった。近年ニュージーランド障害競馬の賞金額は全体的に引き上げられているが、VIC州Grand Annual Steeplechaseの総賞金額が350,000AUD(約3300万円)であること等を踏まえると、オセアニア二国間では賞金額自体にそれなりの差があるのが現状である。

 

Track Rating レース数 説明
Firm1 0 A dry hard track
Firm2 0 A firm track with reasonable grass coverage
Good3 0 Track with good grass coverage and cushion
Good4 0 Track with some give in it
Soft5 1 Track with a reasonable amount of give in it
Soft6 4 Moist but not a badly affected track
Soft7 0 Rain affected track that will chop out
Heavy8 9 Rain affected track that horses will get into
Heavy9 3 Wet track getting into a squelchy area
Heavy10 41 Heaviest category track, very wet, towards saturation

Track Ratings Changes For NZ Thoroughbred Racing (TAB)

2022年4月からニュージーランド競馬の馬場状態表示が変更され、オーストラリアと共通する表示を使用することになった。以前は11段階に区分されていたが、現在は10段階に区分されている。ニュージーランド障害競馬は冬季に行われることが多いことから殆どが重馬場で行われており、上記の表は2022年のニュージーランド障害競馬における各馬場状態で行われたレース数を表示したものである。障害競馬開催において極端にスピードが出る硬い馬場は危険であることはもはや常識であるが、一方でニュージーランド障害競馬においてはここまで極端な重馬場が多いというのもまた特徴的であろう。特に、Heavy10は下限が設けられていない最も重い馬場表示であるが、Heavy10の中でも非常に極端な不良馬場を得意とする馬もまた存在し、2017年のZedeedudadeekoが勝利したGreat Northern Hurdlesは距離4190メートルのところ、極端な重馬場によりその勝ち時計は6分12秒45であった*11*12。この記録は過去のGreat Northern Hurdleの中でも最も遅い勝ち時計であり*13、当日の馬場の重さはそのレース映像から一目瞭然である。なお、同年の中山グランドジャンプ(距離4250メートル)の勝ち時計は4分50秒8、近年でも屈指の重馬場で行われたとされる2020年の中山グランドジャンプ(距離4250メートル)の勝ち時計でも5分2秒9である。

*1:https://loveracing.nz/RaceInfo/37787/Meeting-News-Article.aspx

*2:20/10/18 Weekly National Hunt / Jump Racing - にげうまメモ

*3:https://loveracing.nz/NZTR/Racing-Info/Types-of-Racing.aspx

*4:2019年頃にロシアKrasnodar競馬場にてダートコースを使用するHurdle競走で1800メートルの距離が設定されていたことがあり、おそらく当該レースが近年の障害競走では世界最短距離だろう。ただし、レース中に数回ごく小型の障害を飛越するのみであり、障害競走としては若干微妙なところではある。

*5:Ellerslie Racecourse land sale clears way for more than 500 new homes | Stuff.co.nz

*6:Proposed Residential Development For The Hill, Ellerslie | NZ Racing News

*7:https://www.ellerslie.co.nz/post/media-release-proposed-residential-development-for-the-hill-ellerslie

*8:Racing: Covid-19 restrictions thwart send-off for Ellerslie's famous steeplechase hill - NZ Herald

*9:幸い事故には至らなかったのだが、これとは独立した事象として出走馬の死亡事故があった。

*10:10月のWoodville開催のみ、Maiden Hurdle及びMaiden Steeplechaseにおいて30,000NZDの総賞金額が設定されていた。

*11:https://loveracing.nz/RaceInfo/46355/5/Race-Detail.aspx

*12:どうやらニュージーランド競馬公式はまじめに仕事をしているようで、2022年以前の馬場状態も現在の基準に書き直しているようである。

*13:同日に行われたGreat Northern Steeplechaseもまた歴代で最も遅い勝ち時計を記録した。