*ニュージーランド障害競馬
2022年ニュージーランド障害競馬における完走率は以下のとおりである。
Figure.1 2022年ニュージーランド障害競馬における完走率
Hurdle及びSteeplechaseにおいて、いずれも完走率は77%程度の数値を示した。ニュージーランドSteeplechaseでは伝統的な生垣障害を使用しているのだが、Hurdle競走においてもオーストラリア障害競馬のような新型Hurdleが導入されていないとはいえ、SteeplechaseにおいてHurdle競走における完走率と殆ど遜色ない数値が算出されたことは興味深い結果だろう。一方で、Hurdle及びSteeplechaseの双方において、オーストラリア障害競馬における完走率(Hurdle:85.61%、Steeplechase:82.32%)と比較するとやや低い数値が算出されている。2022年のニュージーランド障害競馬における落馬転倒による競争中止(Fall)は、それぞれHurdle及びSteeplechaseにおいて2.08%及び2.31%であり、いずれもオーストラリア障害競馬における当該数値(Hurdle:2.73%Steeplechase:3.87%)と比較して高い数値ではなく、騎手の落馬による競争中止(Lost Rider)を含めた落馬率(Fall / Lost Rider)もニュージーランドHurdle及びSteeplechaseでそれぞれ3.47%及び6.36%、オーストラリアHurdle及びSteeplechaseで3.97%及び5.52%と、殆ど差異は認められない。ただし、落馬転倒(Fall)による競争中止は2022年ニュージーランドHurdle競走で計6件、Steeplechaseで計4件と殆ど発生はなく、騎手の落馬による競争中止(Lost Rider)の発生件数も類似しているため、最終的な数値としてはかなりブレがある可能性はあることに留意されたい。一方で、途中棄権(Fail to Finish / Pull Up)の発生率を算出すると、ニュージーランド障害競馬ではHurdle及びSteeplechaseでそれぞれ19.4%及び15.6%、オーストラリア障害競馬ではHurdle及びSteeplechaseで9.18%及び12.15%と、それなりの開きがあることがわかる。ひとまず、今回の統計上の数値からはニュージーランド障害競馬では全体的に途中棄権による競争中止の発生率の高さが全体的な完走率を引き下げていたと考えてよいだろう。
ニュージーランドとオーストラリアでこのような差が発生した理由は不明であるが、一つ考えられる理由としては極端な重馬場傾向だろう。実際に、出走馬の半数が途中棄権した6月HastingsのMaiden Hurdle、5レース中3レースで3頭以上の途中棄権が発生した7月のTrentham開催など、多数の途中棄権が発生した競走は全てHeavy10で行われているなど、比較的多数の途中棄権が発生した競走においてはHeavy10で行われた例が目立つ。なお、Heavy8で行われたPakuranga Hunt Cupでも13頭中3頭が途中棄権に終わったが、これはおそらくPrestige Jumping Raceにも関わらず13頭という多頭数で行われ、レースはMagic WonderやNo Tipといった実力馬が揃ったことで隊列が長くなり、後方の馬が早々に諦めたものと思われる。
Figure.2 2022年ニュージーランド障害競馬における馬場状態と途中棄権率
しかしながら、2022年ニュージーランド障害競馬における馬場状態と途中棄権率の相関係数を求めると0.151となり、少なくとも2022年のニュージーランド障害競馬において、統計上この二つの要素はほとんど相関がないことがわかる。とはいえ多数の交絡因子が存在する可能性が容易に想像されることや、極端な重馬場以外はさほど途中棄権率の増大に寄与しないことが想定されること等を踏まえると、今回ニュージーランド障害競馬として使用したデータはレース数がn=58と少数であり、少なくとも更なるサンプル数を増やした解析等が必要だろう。
Figure.3 2022年ニュージーランドHurdle競走における完走率
Figure.3にHurdle競走を細分化した際の完走率を示す。0-1 WIN Hurdleは年間1レースしかなく、出走馬の性質的にはRST OPN SWPに類似していると想定されたことからRST OPN HDLに含めている。RST OPN SWP / 0-1 WIN Hurdleでやや低い完走率を示しているが、これはおそらく落馬率(Fall / Lost Rider)が相対的に上がっているものだろう。実際に競争中止の内訳を調べると、MDN、RST OPN SWP / 0-1 WIN、OPNでそれぞれ途中棄権率は21.15%、21.74%、15.12%であったのに対し、落馬率(Fall)は0.64%、4.35%、3.49%、騎手の落馬による競争中止(Lost Rider)は1.28%、2.17%、1.16%であった。すなわち、RST OPN SWP / 0-1 WINでは落馬率(Fall / Lost Rider)は他のカテゴリーと比べると頭一つ抜けて高いことがわかる。Maidenクラスでは比較的落馬(Fall / Lost Rider)は少なく途中棄権が多いことはより飛越に際しては慎重なものを試みているものと思われるが、一方でOPNクラスでは途中棄権率の低下と落馬率の上昇が認められており、やはり馬の障害経験の向上等を踏まえ、クラスが上がるにつれてよりリスクのある飛越及びレース運びを試みていることが考えられる。RST OPN SWP / 0-1 WINクラスはその中間であり、Maidenよりもリスクのあるレースを試みている一方で、OPNクラスに挑むほどでもない馬たちということもあって、出走馬の水準にはそれなりに格差があるのかもしれない。ただし、OPNクラスは比較的小頭数で行われているレースもあり、ニュージーランド障害競馬における出走頭数程度では重複落馬リスクの増大には寄与しないことが想定されるが、レースの性質の変化を踏まえた頭数と競争中止の関連性に関しても考察する必要があるだろう。
Figure.4 2022年ニュージーランドSteeplechase競走における完走率
Steeplechaseでも同様の解析を行った。0-1 WIN SteeplechaseについてはHurdleと同様の扱いをしている。興味深いことに、僅かではあるもののクラスが上がるほどSteeplechaseでは完走率が高い印象がある結果となった。その内訳を調べると、MDN、RST OPN SWP / 0-1 WIN、OPNでそれぞれ途中棄権率は18.97%、16.22%、12.82%であったのに対し、落馬率(Fall)は1.72%、5.41%、1.28%、騎手の落馬による競争中止(Lost Rider)は3.45%、0.00%、6.41%であった。RST OPN SWP / 0-1 WINにおける落馬率が他のカテゴリーと比べてやや多いのは誤差の可能性もあるが、いずれにせよレース及び飛越時のリスク管理の傾向としてはHurdleとSteeplechaseで同様のものであることが推測されるだろう。