にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

23/01/17 映画「ドリーム・ホース」に関する覚書

*映画「ドリーム・ホース」に関する覚書

当記事では映画「ドリーム・ホース」(Dream Horse)に関連して、モデルとなったDream Alliance及び同馬にまつわる情報を備忘録として提示する。なお、作中では史実と比較して表現上の都合等によるものと思われる脚色が多数行われているが*1、当記事はそれらの変更を含む作品の評価について特定の見解を述べることを意図したものではない。

本日は上田麗奈さんのお誕生日です*2。おめでとうございます。

 

Dream Horse (2021)History vs Hollywood)

映画と実際の人物等の比較を含む記事。何頭かの馬が"Dream Alliance"を演じたそうだが、大きな流星が目立つ"Bo"という名前の馬が主に頑張ったようだ。以下の記事にはHoward Davies本人とDamian Lewis("Dream Horse"におけるHoward Davies役の俳優)とが一緒に写っている写真も掲載されている。

Dream Alliance: Hollywood tells 'fairytale' horse storyBBC

作品のキャスト及びクルーについては以下のとおり。Richard Hoiles、John Huntといったイギリスの競馬番組ではお馴染みのコメンテーターが出演しているほか、Nick Williams、David Noonanといった実際のNational Hunt Jockeyも出演しているようだ。毎年超多頭数を集めるWelsh Grand Nationalをはじめ、実際の競馬と比べるとやはり頭数をはじめとするレースシーンには限界があったようだが、どうやら計39頭もの馬がこの映画の製作には関わっていたそうで*3、なかなかレースシーンは非常に手の込んだ作りになっている。実際の競馬場において、Hurdle競走及びChase競走で使われる障害を使用し、明らかに障害飛越技術で見劣る馬が存在していないのは大したものである。

Dream Horse (2020) Full Cast & CrewIMDb

Dream Horse: The Welsh Filming Locations(Damian Lewis)

 

*Dream Allianceについて

Dream AllianceWikipedia

Dream Alliance (GB)(Racing Post)

Dream Alliance (GB)(At The Races)

Dream Alliance (GB) ch. G, 2001(Pedigree Online Thoroughbred Database)

Dream Allianceの父Bien Bienはアメリカ産馬で、Nearco - Nearctic - Northern Dancerと連なる父系の出身である。Dream Allianceは曽祖父に近年を代表する根幹種牡馬Lyphardを持つが、Lyphardの系統として日本でも*ダンシングブレーヴの子孫が多数存在するほか、Lyphardの産駒であるAlzaoは*ウィンドインハーヘアの父として知られており、その影響力は日本においても絶大である。Bien Bienの父Manilaは多数の後継種牡馬を残したが、どうやらその産駒であるマニラザルーラーという馬が日本で競走生活を送り、その後は日本で種牡馬として活動したようだ。Bien Bien自身は元々アメリカで種牡馬入りしたものの2000年にイギリスに移動したようだが、2002年の3月に種付け後の心臓発作により亡くなっている*4。Dream AllianceはBien Bienのイギリスにおける初年度種牡馬である。ただしこのDream Allianceを除けばBien Bienの産駒として欧州障害競馬における出走馬は殆どおらず、このDream Allianceがほぼ唯一の活躍馬である*5。ただし、どうやらBien Bienの産駒のうち、Bienamadoという平地馬が障害種牡馬として2018年のGrand Prix De Pau (G3)の勝ち馬Monsamouを送り出したようで、まだBien Bienの子孫において現役の障害馬は残っているかもしれない。なお、Dream Allianceの誕生に際してはもともと異なる種牡馬であるBlushing Flame*6との交配が予定されていたそうだが、フランスへの移動により不在であったためBien Bienはその代役となったそうだ*7。Bien Bienの種付け料は£3000であったと言われている*8

Dream Allianceの母Rewbellは未勝利馬で、"Under-rules"のNational Hunt Flat及びNovice並びにSelling Hurdleにおいて3戦するもさっぱりいいところはなく、Point-to-Pointでも3戦全てが競争中止という馬である。Rewbellは有刺鉄線による傷跡が残ることと非常に気性が悪いということで£1000で購入可能であったようだが、結果的にJanet Vokesは£300に加えて「幸運を祈る」ための£50を追加した£350で購入したようだ*9。Rewbellは2007年に亡くなっているが、産駒としてはDream Allianceの他にMidnight Missile(父Arms And The Man)、Recurring Dream(父Beat All)、Bouncing Bean(父M'Bebe)の3頭が存在する。Dream Allianceを除けばその成績はからきしだが、そのうちBouncing Beanという牝馬は3頭の産駒を送り出しており、Bouncing Beanの子であるBean In TroubleというSulamaniの産駒がイギリスの障害競争で3勝をあげたほか、Kayf Taraの産駒であるMorningsideという馬は2023年の1月にもSedgefieldのClass4に出走し、2着に入っている*10

 

Cefn FforestWikipedia

Dream Allianceが生まれたCefn FforestはBlackwoodの近くに位置するコミュニティであり、人口は2011年で約3894人とされている。Blackwoodは19世紀に当時この地域に数多くの炭鉱を所有していたJohn Hodder Moggridgeによって設立され、産業革命の起きた1830年代にはChartist運動により大規模な反乱も起きている。過去には多数の炭鉱を中心に栄えていたようだが、炭鉱は過去数十年に渡って徐々に閉鎖され、現在では軽工業等にシフトしている*11。なお、映画でしばしば登場する橋はSirhowy Valleyを渡るChartist Bridgeだと思われる*12。映画には多数の地元民がエキストラとして出演しているそうだが、映画は主に撮影環境の問題でCefn FforestではなくBlaenavon等で撮影されたそうだ*13。Blaenavonについては以下の記事が詳しい。

ブレナヴォンで馬を見る(白馬の旅行記

 

Dream comes true for Alliance as stallion bids for the National(WalesOnline)

Dream Alliance set for Grand National spotlightbbc.co.uk)

Dream Allianceの経緯に関しては上記及び以下の記事が詳しい。上記2つの記事は2010年のGrand National (G3)の直前に出されたものである。

From nag to riches: Read the winning story of the horse raised on an allotment by a village syndicate that went on to win the Welsh Grand National - and inspired a major movie(MailOnline)

Hollywood at a canter! Champion racehorse Dream Alliance becomes a movie icon after being bought by a village, raised on an allotment and winning the Welsh Grand National(MailOnline)

'You're off your effing head!' The cleaner and the road worker who bought a horse and kept it on their allotment, won the Grand National and were turned into a Hollywood film (WalesOnline)

過去鳩のブリーダーとして成功したJanet Vokesは地元Cefn Fforestのパブで働いていた際に、税理士であるHoward Daviesがかつて氏が所有していた競争馬について話していたことに触発され、上記Rewbellを購入、Howard DaviesをRacing Managerとして、Blackwoodのラグビークラブの敷地の隣の使われていない区画で生まれた仔馬*14を中心にシンジゲートを立ち上げた。Janet Vokesは自身の子供は独立していた一方、自身は年老いた両親を支えるためにスーパーマーケットの清掃員等の仕事を掛け持ちするという生活を送っており、上記Howard Davies氏が語る競争馬の世界に刺激を受けたことで競争馬を所有するアイデアを得たようだ*15。Dream Allianceの名はHoward Daviesにより提案され、メンバーの満場一致で決定*16、同馬はJanet Vokesの夫であるBrian Vokesが石炭採掘の跡地にDIYで建設した厩舎で育った*17。Howard Daviesは過去に競争馬のオーナーとして失敗した経験があったため当初は乗り気ではなかったようだが、競馬に関する知識を含めて大いに助けになったそうで、馬の飼育に関する知識を有するJanet Vokesの夫であるBrian Vokesを加えて、上記の記事中でJanet VokesはBrian Vokes、Howard Daviesを"Three Musketeers"と表現している。なお、シンジゲートのメンバー構成は上記の記事中にあるとおりだが、最終的には23人までに成長することになる*18

Dream AllianceはHurdleでのキャリアはそこそこに早々にChaseに転向、2007年のNewbury競馬場におけるHennessy Cognac Gold Cup (G3)にてDenmanの2着に入ったことで注目を集めた。映画ではNewburyのHurdle競走でDefending Championを相手に初勝利をあげた描写があるが*19、同馬はNewburyのHurdle競走はNoviceクラスにおける出走(3着)しかなく、おそらく時系列的にはNewburyの成功としてこのHennessy Cognac Gold Cup (G3)がモデルになったものと思われる。

Hennessy Gold CupはNewburyにて11月に行われる伝統ある名物Handicap Chaseで、ここを勝利した馬のうち9頭はCheltenham Gold Cupにも勝利しているという権威のあるレースである*20*21。当時のHennessy Gold  Cupを勝利した当時7歳のDenmanは2006-2007シーズンの24f Novice Chase路線においてCheltenhamのRoyal & SunAlliance Chase (G1)を圧勝するなど圧倒的な存在で、次世代のチャンピオンホースとしての期待も大きかったのだが、Novice卒業となったこの2007-2008シーズンの冒頭で11st12lbのトップハンデを背負って圧勝したHennessy Gold Cup (G3)の走りはイギリス競馬界に大きな衝撃を与えることになった。結局、このシーズンはアイルランドLeopardstownのLexus Chase (G1)、さらにCheltenham Gold Cup (G1)の勝利を含め、Denmanは4戦無敗でシーズンを終えることになる。ここまでChase無敗記録を更新し続けていたDenmanにとって2007-2008は明らかにキャリアハイのシーズンで、21世紀のイギリスを代表する最強馬として2023年においても名高く、このDenmanとのライバル関係で有名であったKauto Starですら手の付けられない強さを誇っていた*22。大型の馬体を躍動させる重戦車のような走りで他馬を圧倒し、"The Tank"との異名をとったDenmanはKauto Starと並び、今でも21世紀のイギリス最強馬の一頭として数えられている。

このHennessy Gold Cup (G3)の好走により、Dream Allianceは続くWelsh Grand National (G3)にて6/1と人気を集めたが、いいところなく途中棄権に終わる。さらにその後のExeter、Kemptonのハンデ戦も落馬又は途中棄権に終わり、ChaseからHurdleに戻したAintreeのGrand National MeetingにおけるListed Hurdleで途中棄権に終わるが、ここでDream Allianceの直前を走っていた馬の飛越ミスに伴ったスクランブルにより前脚の腱の重度の断裂を発症したそうだ*23安楽死の選択肢すらあった故障で、調教師も競走への復帰はもはや絶望的な状況であると考えていたようだが*24、その後の経緯は映画のとおりで、早々に騎手が馬を止めたこと、及び当時最先端の幹細胞治療が奏功し*25*26*27、見事競馬に復帰、そして復帰2戦目(Welsh Nationalの前に叩き台のChepstowのClass3のHandicap Hurdleで2着に入っている)でWelsh Grand National (G3)を制すことになる。なお、シンジゲートのメンバーが高額な幹細胞治療に踏み切った意図としては競走への復帰よりも同馬のQOLの向上を目的とした治療であったようだ*28

幹細胞移植治療法は2003年に自家骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)を腱損傷の罹患馬に移植した臨床研究が発端であるが*29、現在ではカネヒキリの例のように屈腱炎への適応が主である。骨髄由来間葉系幹細胞の他、脂肪由来間葉系幹細胞や臍帯由来間葉系幹細胞等が利用されているが*30、基本的に枠場内起立姿勢において骨髄液を採取する方法が一般的で、骨髄液から分離した幹細胞を培養、その後損傷腱組織部に培養幹細胞を移植するという手順である*31JRAでは2006年から屈腱炎を発症した馬を対象とした臨床研究を行っているようで、一定の有効性が期待される可能性があることが示唆されている*32*33*34*35。なお、欧州では腱損傷の治療を目的とした馬用幹細胞製品としてRenuTendが2022年に承認されている*36

以下がモデルとなったDream Allianceが制したWelsh Grand National (G3)の映像である。Wales最大の競争として有名な名物競争だが、起伏の大きいChepstow競馬場のコースに加え、なにかと雨が降って重馬場になりやすい気候、さらに3m5fという超長距離も相まって、イギリスでもトップクラスにタフな競争である。この時期は雨が多いようで、2010年以降、この競走は"Waterlogging"により延期になったことはなんと5回を数える*37

23/01/04 障害競馬入門⑭ - 主要競馬場(イギリス・アイルランド) - (にげうまメモ)

 

Welsh Nationalの勝利ののち、Dream AllianceはHaydockのGrand National TrialからAintreeのGrand Nationalに向かった。Walesの代表として挑んだレースであったが、2010年のAintreeのGrand National (G3)はAP McCoyの騎乗したDon't Push Itが勝利したことで有名である。Tony McCoyはなんと20連続でイギリス競馬リーディングジョッキーに輝いた伝説の騎手であるが、これが15回目にしてGrand Nationalは初の勝利となった*38。一方、上記の記事にもあったとおりDream Allianceはかなりの注目を集めていたようだが、11st3lbを背負ったDream Allianceは終始後方を進み、2nd Canal Turn(第24障害)の手前で途中棄権に終わっている*39。当該競走においてDream Allianceには肺疾患があることが判明し*40*41、Grand Nationalのあとは連覇を掛けたWelsh Grand National (G3)を含め7走するも、いずれも入着することなく引退している。Dream Alliance自身は2023年1月現在も存命で、Facebookページもあるようだ。

Dream AllianceFacebook

なお、Janet VokesはDream Allianceに関して"Dream Horse"というタイトルの本を出版している。また、Howard DaviesもまたこのDream Allianceに関して、"Miracle Racecourse Dream Alliance"という本を出版している。Amazonへのリンクを以下に示すが、ちなみに当ブログはアフィリエイト収入を得ておらず、リンク先の本を誰かが買ったりしたところで中の人には一銭も入らないのでどうか安心されたい。

Dream Horse: The Incredible True Story of Dream Alliance – The Incredible True Story of Dream Alliance – the Allotment Horse who Became a ChampionAmazon

Miracle Racehorse Dream AllianceAmazon

 

*Dream Allianceの競馬関係者について

Philip Hobbs Racing - Sandhill Racing Stables

Philip HobbsはイギリスSomersetに拠点を置く調教師で、過去にChampion Hurdle(Rooster Booster)、Queen Mother Champion Chase(Flagship Uberalles)、Tingle Creek Chase(Flagship Uberalles、Defi Du Seuil)等、イギリス及びアイルランドの主要競争を多数制しているイギリスを代表する調教師の一人である。父親もNational Hunt Horseを所有する調教師であった1955年生まれのPhilip Hobbsは元々アマチュア騎手として活動し、Northern BayでMidland Grand Nationalの勝利を含む160勝以上を上げた*42。もともと調教師を志していたPhilip Hobbsは1985年から調教師として活動を開始し、1999年以降は常にイギリスリーディング争いの上位に顔を出している*43。わずか6頭の競争馬からスタートした同厩舎であったようだが、現在は100頭以上を管理する大規模な厩舎を運営するまでに厩舎の規模を拡大することに成功した*44Welsh Grand Nationalを制した際にDream Allianceとコンビを組んだTom O'Brienは叔父にAidan O'Brienを持つ1986年生まれの騎手であるが、2004年からPhilip Hobbs厩舎に加わり、Richard Johnsonが引退した現在、同厩舎の主戦騎手として活躍している。2021年にはイギリス及びアイルランドで合わせて1000勝という記録を達成し*45、近年ではThyme HillとのコンビでLiverpool Hurdle (G1)やKauto Star Novices' Chase (G1)を勝利している。

Dream AllianceはRichard Johnsonともコンビを組むことが多く、Richard Johnsonとのコンビで計3勝をあげている。上記Aintreeのアクシデントの際に騎乗していたのはこのRichard Johnsonであり、同騎手の好判断がこの馬の予後に大きな影響を与えた。Richard Johnsonは1977年生まれの障害騎手で、2021年に引退するまで3500勝以上を上げた近年のイギリスを代表する名手である。Richard Johnsonは20シーズン連続でリーディングジョッキーに輝いたSir Anthony McCoyに次ぐリーディング2位に長年甘んじていたが、ついに2006年に初めてリーディングジョッキーに輝くと、そこから3回連続で英国リーディングジョッキーを獲得している。長年Philip Hobbs厩舎の主戦を務めた名手はCheltenham Gold Cup、Champion Hurdle、Queen Mother Champion Chase、Stayers' Hurdleといったイギリスの主要競争を悉く制しており、その残した成績の偉大さは疑いようがない。AintreeのGrand Nationalには残念ながら最後まで縁がなかったが、Grand Nationalには計21回騎乗しており、これはGrand Nationalの勝利がない騎手としては最多騎乗回数であるそうだ*46

Hennessy Gold Cupの際にDream Allianceとコンビを組んだのはJamie Mooreである。Jamie Mooreは日本でも有名なRyan Mooreの弟であり、この下にはさらにJoshua Mooreという障害騎手も現役の騎手として活躍している*47。これらライアンムーアブラザーズの父は調教師として有名なGary Mooreであり、この父Gary Mooreが管理するSire De GrugyとともにJamie MooreはQueen Mother Champion ChaseやClarence House Chase等を制し、2013~2015頃には16ハロンChase路線において一時代を築き上げた*48。なお、Dream Allianceのキャリアを通じてこの騎手とコンビを組んだのはこのHennessy Gold Cupのみである。

 

*作中に登場するその他の実在の競争馬について

以下、中の人が映画を見た際に気が付いた実在の競争馬について適宜記載する。他にも実在の競争馬に言及があった場合は適宜追記するかもしれない。

作中ではAintreeのHurdle競走における出走馬として登場したAuroras Encoreは2013年のGrand National (G3)の勝ち馬である。West Yorkshireに拠点を置くSue Smith調教師の管理馬である同馬はRyan Maniaとのコンビで2013年のGrand National (G3)を制したが、当時のオッズは66/1と著しく低評価で、実況には"Huge shock in the National"と言われている。史実ではDream Allianceが上記の重傷を負ったHurdle競走(John Smith's Extra Cold Handicap Hurdle (Listed))にAuroras Encoreも出走し、5着に終わっている。作中では同レースにAccording to Peteの名前も登場しており、同馬は実際の同レースにおいても出走し、3着に入った。According to Peteは2011年のRowland Meyrick Handicap Chase (G3)及び2012年のPeter Marsh Chase (G2)を勝利した馬であり、その年のGrand National (G3)にも出走しているが、残念ながら2nd Becher's Brookにて落馬に巻き込まれた際の故障により死亡している*49。同レースにはBuena Vistaも出走しているが、当然Buena Vista (JPN) 2006とは異なる馬であり、こちらはBuena Vista (IRE) 2001*50である。同馬は11歳になるまで現役を続け、50戦9勝、Cheltenham FestivalのPertemps Final Handicap Hurdle (Listed)を勝利するという立派な成績を収めている*51。同レースでは落馬(Fall)が発生したシーンもあるが、史実の同レースでは落馬は発生していないこと、及び該当する名前の馬も出走していないことから、おそらくこれは架空の馬と思われる*52*53

Mon Momeは作中ではDream Allianceが勝利したWelsh Grand Nationalにおいて、Dream Allianceと並んで比較的低評価を受けている馬として名前が記載されている。ただしMon Mome自身は馬場を嫌って直前で回避、同レースには出走していない*54。Mon Momeは2009年のGrand National (G3)の勝ち馬だが、その際のオッズは100/1と1967年にFoinavonが勝利した以来最大のオッズであったそうだ*55*56。Mon Momeはイギリスで成功したAQPSの代表的な一頭であるとともに、フランス生産馬として久しぶりの英国Grand Nationalの勝利となった*57

Dream Allianceの勝利したWelsh Grand National (G3)の2着馬はSilver By Natureという馬で、作中と同じくその名の通り葦毛の馬である。CarlisleのClass3を快勝して挑んだWelsh Grand National (G3)ではDream Allianceから僅差の2着に入り、その後も超長距離Handicap Chaseで活躍を続け、2010年のBlue Square Gold Cup (G3)及び2011年のGrand National Trial (G3)(名前は異なるが同じレースである)を勝利している。2011年にはAintreeのGrand National (G3)にも出走し、さすがに良馬場が堪えたようでBallabriggsから遥か後方に離されるも12着と完走を果たした*58。Silver By Natureは残念ながら2013年のWelsh Grand Nationalへ向けた調教中の故障で亡くなっている*59

*1:「史実」ではなく「史実を基にしたストーリー」である......。

*2:https://twitter.com/ReinaUeda_Staff/status/1615322807575142406

*3:https://twitter.com/MovieDreamhorse/status/1608296752313942017

*4:https://www.pedigreequery.com/bien+bien

*5:https://www.racingpost.com/profile/horse/79381/bien-bien

*6:https://www.pedigreequery.com/blushing+flame

*7:Dream comes true for Alliance as stallion bids for the National - Wales Online

*8:https://www.historyvshollywood.com/reelfaces/dream-horse/

*9:https://en.wikipedia.org/wiki/Dream_Alliance

*10:他にもBean NortyというMalinasの産駒もいるのだが、Hurdleで3戦してさっぱりいいところはなく、少々厳しそうだ。

*11:http://www.visitoruk.com/Blackwood/

*12:https://en.wikipedia.org/wiki/Blackwood,_Caerphilly

*13:https://www.bbc.com/news/uk-wales-57198191

*14:https://caerphilly.observer/news/1620/cefn-fforest-horse-dream-alliance-wins-welsh-grand-national/

*15:http://anequestrianlife.com/2020/04/dream-alliance/

*16:https://www.dailymail.co.uk/news/article-8699785/Story-horse-raised-allotment-village-syndicate-went-win-Welsh-Grand-National.html

*17:http://edition.cnn.com/2015/04/10/sport/horse-racing-dream-alliance/

*18:http://anequestrianlife.com/2020/04/dream-alliance/

*19:Dream Alliance自身はNovice Hurdleで何勝かを上げているが、そもそもNoviceクラスのレースで連覇を狙う馬がいるというのは不自然である。

*20:https://en.wikipedia.org/wiki/Coral_Gold_Cup

*21:そもそも、イギリスにおいて「G3競走」でも並みのG1競走を遥かに凌駕する価値を有する場合があることは競馬ファンには常識であろう。なお、もともとG3競走とされていたレースの多くは2022年の秋から"Premier Handicap"と名称が変更されている。

*22:Denman (horse) - Wikipedia

*23:http://anequestrianlife.com/2020/04/dream-alliance/

*24:https://www.wsfp.co.uk/news/dream-win-for-trainer-philip-493767

*25:https://www.theplaidhorse.com/2021/07/06/dream-horse-a-hollywood-movie-from-a-real-life-story/

*26:日本でもカネヒキリが幹細胞治療を受けたのが2007年であり、まさに黎明期である。

*27:この治療にかかった費用は2万ポンドと言われている。

*28:https://www.theguardian.com/sport/2010/apr/07/dream-alliance-grand-national

*29:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12553472/

*30:https://stemcellres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13287-019-1291-0

*31:https://beva.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.2042-3306.2010.00215.x

*32:日本における競走馬医療の現状(2)競走馬の腱損傷について | CiNii Research

*33:日本獣医学会のQ&A- 馬の獣医師の現状と馬の再生医療について

*34:Therapeutics prior to mesenchymal stromal cell therapy improves outcome in equine orthopedic injuries

*35:中の人は再生医療等製品の治験に関する専門家ではないが、微妙な言い方をしているの有効性を科学的に示すことの難しさを反映したものである。

*36:https://www.boehringer-ingelheim.com/science-innovation/animal-health-innovation/therapeutics/stem-cell-therapy-tendon-and-ligament

*37:https://en.wikipedia.org/wiki/Welsh_Grand_National

*38:https://en.wikipedia.org/wiki/2010_Grand_National

*39:https://www.racingpost.com/results/32/aintree/2010-04-10/497800

*40:http://anequestrianlife.com/2020/04/dream-alliance/

*41:おそらく運動誘発性肺出血(EIPH)のことを指すと思われる。

*42:https://www.overthestabledoor.com/post/an-interview-with-trainer-philip-hobbs

*43:https://pjhobbs.com/philip-hobbs/

*44:https://mickfitzgeraldracingclub.co.uk/trainer-philip-hobbs/

*45:Tom O'Brien (jockey) - Wikipedia

*46:https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Johnson_(jockey)

*47:https://en.wikipedia.org/wiki/Jamie_Moore_(jockey)

*48:https://en.wikipedia.org/wiki/Sire_de_Grugy

*49:https://en.wikipedia.org/wiki/2012_Grand_National

*50:https://www.pedigreequery.com/buena+vista6

*51:https://www.racingpost.com/profile/horse/583806/buena-vista/form

*52:https://www.racingpost.com/results/32/aintree/2008-04-05/452130

*53:なお、落馬が発生した可能性がある障害と直後の空馬が立ち上がる映像とがかみ合っておらず、この理由は不明だがなにかしらの配慮があったのかもしれない。

*54:https://www.racingpost.com/results/12/chepstow/2009-12-28/494313

*55:https://en.wikipedia.org/wiki/Mon_Mome

*56:https://www.theguardian.com/sport/2009/apr/04/mon-mome-grand-national

*57:ただし、その後はNeptune Collonges、Pineau De ReとAQPSによる勝利が相次いでいる。

*58:https://www.theguardian.com/sport/2011/apr/03/silver-by-nature-grand-national

*59:Silver By Nature has suffered a fatal injury | Racing News | Sky Sports