にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Entries

Aintree (UK)

Randox Grand National Handicap Chase (Premier Handicap) 4m2f74y (National)

Class 1, 7YO plus, Winner £500,000

例によって少しずつ更新予定。ただし、出走馬については適宜変更が生じることに留意されたい。過去のGrand Nationalのレース回顧等に関する記事は以下のカテゴリーを参照されたい。

トップ > イギリス・アイルランド競馬 >Grand National(にげうまメモ)

 

表記フォーマットは以下のとおり。出馬表はAt The Racesを参照している。

  • 馬番. 馬名 (生産国), 年齢 斤量 J: 騎手 T: 調教師 (血統表へのリンク)

斤量はストーン・ポンド表記で記載する。キログラムへの換算表は以下の記事を参照されたい。

21/09/16 障害競馬入門③ - レース条件 - (にげうまメモ)

 

 

Racing TVが良質なプロモーション映像を出してくれているので宣伝まで。

 

1. Any Second Now (IRE), 11 11st12lb J: Mark Walsh T: Ted Walsh (Pedigree)

このEnglish Grand Nationalではもはやお馴染みとなったOscarの産駒。Sadler's Wellsの直仔であるOscarは近年のイギリス・アイルランドにおいて最も成功した種牡馬の一頭であり、2021年のGrand National (G3)においてRachael Blackmoreとコンビを組んで女性騎手として初の歴史的な勝利を上げたMinella Timesをはじめ、Big Zeb、Oscar Whisky、Rock On Ruby、Lord Windermere、Paisley Park、Our Dukeといった近年のイギリス・アイルランド競馬シーンを彩る数々の名馬を送り出している。残念ながらOscarは2018年の11月に亡くなっているが、未だにその産駒のイギリス・アイルランド競馬における存在感は絶大である。

Grand National next for Any Second Now after Grade Two glory at Navan - Racing TV (Youtube)

Any Second Nowは昨年の2着馬。Grand National (Premier Handicap)はこれで3年連続の出走となるが、その成績はいずれも素晴らしいものを残しており、2021年は3着、2022年は2着と順調に着順を上げている。特に10st9lbと比較的楽な斤量で挑んだ2021年と異なり、2022年は11st8lbを大幅に斤量を増やしていたにも関わらず、勝ったNoble Yeatsから2馬身差の2着に入ったというのは立派な結果だろう。加えて、飛越のミスや道中の大きな不利が目立った2021年と比較すると、2022年は同開催で絶好調であったMark Walsh騎手とのコンビで飛越及び道中の立ち回りにおいてはかなり改善が認められていたことも特筆すべき事項であろう。今シーズンは例によってHurdleから始動し、さすがにIrish Gold Cup (G1)では4着に敗れてはいるものの、のちに圧倒的なパフォーマンスでCheltenham Gold Cup (G1)まで突き抜けていくGalopin Des Champsから15馬身差の入線、さらに続くNavanのWebster Cup (G2)では快勝と、11歳となった今年も全く力落ちのような気配を感じさせないのは大したものである。今年は昨年の11st8lbからさらに状況的には厳しくなるが、トップハンデの馬によるGrand National勝利という歴史的な快挙を達成してもおかしくない馬であり、三回目の挑戦で悲願達成なるか注目に値する一頭である。トップハンデを背負ってこのGrand Nationalを勝利した馬は1974年のRed Rumまで遡らなければならないということを考えると*1、如何にこの馬にかかるものが巨大なものであるかは想像に難くないだろう。鞍上は昨年と同じくMark Walshを確保してきたことも心強い。

 

2. Noble Yeats (IRE), 8 11st11lb J: Sean Bowen T: Emmet Mullins (Pedigree)

Sadler's Wells産駒のYeatsは2006年から2009年にかけてAscot Gold Cupを4連覇した名ステイヤーで、引退後はアイルランドで繋養され、障害種牡馬として大きな成功を残している。その代表産駒としてはこのNoble Yeatsに加え、2021年、2022年とCheltenham FestivalのStayers' Hurdle (G1)を逃げ切ったFlooring Porterが挙げられるが、他にも2022年Prix La Haye Jousselin (G1)の勝ち馬Figuero、2022年のIrish Gold Cup (G1)の勝ち馬Conflated、2016年のPrix Renaud Du Vivier (G1)の勝ち馬Capivariなどが挙げられる。なお、Yeatsの半兄ツクバシンフォニーは日本でエプソムカップを勝利した活躍馬で、競馬歴の長いファンであれば馴染みがあるだろう。

Look at that turn of foot! Grand National winner Noble Yeats wins the Many Clouds Chase - Racing TV (Youtube)

Noble Yeatsは昨年のGrand National (G3)の勝ち馬。過去にCheltenham Gold Cup (G1)等の主要競争をLong Runとのコンビで制したMr Sam Waley-Cohen騎手の現役最後の騎乗であったが、その節目となるレースにおいて勝利をもぎ取った昨年の走りは近年の競馬シーンを代表する"fairytale"の一つであり、長く競馬史において語り継がれることになる名レースであったことは間違いない。この馬自身、昨年のGrand National (G3)まではあまり目立った実績があったわけではないのだが、今シーズンはWexfordのM.W. Hickey Memorial Chase (Listed)、さらにはAintreeのMany Clouds Chase (G2)の快勝と、それまでの走りが嘘のような快走を続けている。さすがに今年に入ってのCheltenham Gold Cup (G1)を含むCheltenhamでの2走はCheltenhamの下り坂での加速性能の違いで置いていかれるような敗戦となっていたが、とはいえCheltenham Gold Cup (G1)でも一時は完全に先頭集団から置いていかれてからもそこからしぶとく伸び続けて4着まで食い込んでおり、この敗戦はむしろこの馬の高い持久力を示すものと考えていいだろう。今シーズンのレースを見る限り、基本的にはAintreeのような平坦なコースで馬力を生かして加速を掛けていくタイプで、CheltenhamからAintreeへのコース替わりは明らかにプラスである。斤量的には昨年の10st10lbから大幅に増加するが、とはいえ今シーズンの走りからは大いに期待が持てる一頭である。近年Grand National (G3)を連破したアイルランドTiger Rollに続く歴史的な快挙があってもおかしくない馬である。昨年のSam Waley-Cohenから騎手は変わるが、今シーズンはAuteuilの一戦を除きSean Bowen騎手とコンビを組んでおり、Sean Bowen騎手は既にこの馬のことは熟知しているものと思われる。

 

3. Galvin (IRE), 9 11st11lb J: Davy Russell T: Gordon Elliott (Pedigree)

父Gold WellはMontjeuの未出走の全弟で、障害種牡馬として活躍したものの2013年の11月に既に亡くなっている。障害種牡馬としては2018年のIrish Grand National (Grade A)の勝ち馬General Principleや、2022年Scottish Grand National (G3)の勝ち馬Win My Wings等の活躍馬を多数送り出している。中でも面白いのはアイルランドCross Countryで活躍したBallyboker Bridgeで、2022年のLa Touche Cupにて15歳という近代競馬では稀に見る超高齢馬による主要競争の制覇を成し遂げたが、そのレースはまるで若い馬たちにPunchestownのCross Country Courseの走り方のお手本を見せるような走りであった。Ballyboker Bridgeは同レースを最後に引退し、同レースは昨年のPunchestown Festivalのハイライトの一つとなった。Gold Wellは2014年生まれの産駒が最後の世代ということもあり、その産駒の活躍を見ることが出来る期間は残念ながらそう長くはない。

GALVIN gets there! He overhauls A PLUS TARD close home in a Savills Chase to savour - Racing TV (Youtube)

GalvinはそのGold Wellの代表的な産駒の一頭である。元々はNovice馬らしからぬ飛越技術と安定性を武器に2021年のNational Hunt Challenge Cup (G2)でNext Destinationを下して頭角を現してきた馬なのだが、2021-22シーズンは意外にも24f ChaseのG1路線で結果を残し、Leopardstown Christmas FestivalのSavills Chase (G1)ではのちのCheltenham Gold Cup (G1)勝ち馬のA Plus Tardを破って勝利を上げた。ただし、同様に24f ChaseのG1路線に参戦した今シーズンはやや案外な結果に終わっており、Cheltenham FestivalではGlenfarclas Cross Countryに矛先を変え、Delta Workから僅差の2着に入ってこちらに向かってきた。Cheltenhamでは初のCross Countryではあったのだが飛越は終始安定しており、葦毛の牝馬Snow Leopardessがかなり強引なペースを作る中、CheltenhamのCross Countryに慣れたDelta Workを追い詰めるのだから大したものだろう。National Hunt Challenge Cupの実績を考えると距離延長自体はさほど問題にはならないはずで、National Fenceも初とはいえGlenfarclas CrossのこのNationalへの外挿性を考えると、この馬の持っている技術には期待したいところである。課題はやはり斤量面だろう。Davy Russell騎手はTiger RollとのコンビでのGrand Nationalの連覇を始め、多数の成功を収めてきたアイルランドのトップジョッキーである。今年引退を表明するも、Jack Kennedy騎手の怪我によりGordon Elliott陣営の騎手の確保が難しくなったことから一時的に騎手に復帰している。すでにこのAintreeのGrand National MeetingではGerri ColombeでG1勝ちを収めており、おそらくこれが最後の騎乗になるものと思われる。

 

4. Fury Road (IRE), 9 11st6lb J: Jonjo O'Neill Jr T: Gordon Elliott (Pedigree)

父Stowawayは遡ればShirley Heightsに連なる系統の出身の種牡馬。障害種牡馬として2016年のLexus Chase (G1)の勝ち馬Outlander、2021年のRSA Chase (G1)の勝ち馬Monksfish、2021年のQueen Mother Champion Chase (G1)の勝ち馬Put The Kettle Onなど、複数のイギリス・アイルランドG1勝ち馬を輩出している成功した種牡馬で、2020-2021シーズンのリーディングサイアーに輝いている。残念ながら2015年に亡くなっているそうだが、イギリス・アイルランド障害競馬においてはもうしばらくその存在感を示してくれることが期待できそうだ。Shirley Heightsの子孫としては、日本にも輸入された*コンデュイットがシークレットパスやシンキングダンサーといった成功した産駒を送り出している。なお、*コンデュイットは2015年からアイルランドに戻り、2020年に亡くなっているそうだ。

FURY ROAD shows his class in the Grade 1 Neville Hotels Novice Chase (Youtube)

Fury Roadは2021年のNeville Hotels Novice Chase (G1)の勝ち馬。元々長い距離のNovice Hurdle路線で頭角を現してきた馬で、2020年のAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)ではMonksfishから惜しい3着に入っている。とはいえNeville Hotels Novice Chase (G1)当時のレース全体の水準としてもやや微妙ということもあったのか、結局Novice Chase路線でもこの1勝のみに留まり、G1路線に参入した今シーズンはいずれも前には肉薄できずに終わっている。CheltenhamではCheltenham Gold Cup (G1)ではなくRyanair Chase (G1)に向かったというのもどうにも陣営のこの馬に対する評価として微妙なところだが、20fよりは24fの方がよさそうであることを踏まえると、ひとまず今回は距離延長に期待といったところだろうか。とはいえ11st6lbとそれなりに斤量は厳しく、なかなか難しいレースになりそうだ。Racing TVにてRuby Walshがチョイスした5頭には入っているようだが、どうだろうか*2

 

5. The Big Dog (IRE), 10 11st5lb J: Aidan Coleman T: Peter Fahey (Pedigree)

父MahlerはSadler's Wellsの産駒だが欧州障害競馬ではだいぶお馴染みになった種牡馬で、Svenskt Grand National勝ち馬のTruckers Glory、Red Mills Chase (G2)の勝ち馬Chris's Dream、Mughull Novice' Chase (G1)の勝ち馬Ornuaなどを送り出している。面白いところでは、スウェーデンSteeplechaseの一線級で活躍し、H.M. Konungens Pris等を勝利したスウェーデン調教馬のThree Is Companyは2022年のVelka PardubickaのQualification Raceにも参戦している。残念ながら同レースでは途中棄権に終わっているが、翌年からVelka PardubickaのQualification Raceの一部はCrystal Cupに参加する等の国外向け施策が取られるようで、Three Is Companyの参戦はその先駆けとなる勇気ある挑戦となった。The Big DogはMahlerの代表産駒の一頭である。なお、The Big Dogの母父はSaddlers' Hallであり、従ってThe Big DogはSadler's Wellsの3×3というなかなか強いクロスを有していることになる。

Grand National horse? THE BIG DOG lands 2022 Troytown Chase | Racing TV (Youtube)

The Big Dogはこのアイルランド24f超のHandicap Chase路線ではお馴染みになった馬で、2021年にはGrand National Trial (Grade B)、昨年はMunster National (Grade A)、Troytown Chase (Grade B)を勝利している。特に昨年の勢いは素晴らしく、Kim Gingellの追悼競争として行われたWelsh Grand National (Premier Handicap)でも12st0lbのトップハンデを背負って勝ったThe Two Amigosから6馬身差の3着に入った。2月のIrish Gold Cup (G1)ではいい感じで運ぶも残り2障害で落馬に終わっており、勝ったのはあのGalopin Des Champsということでどうしようもないのだが、とはいえそこまではきっちりと勝負に加わっていたのは褒めるべき内容だろう。どうにも前走のLeopardstownでの突っかかるような落馬が気にかかるところではあるのだが、とはいえ超長距離への適性や今シーズンにおける好調ぶりを考えると実力的には十二分に有力馬の一頭として考えてよさそうだ。ただ、斤量的にはやや見込まれた印象もあり、前走の落馬を引きずっていなければといったところだろうか。ひとまず調教師によると比較的慎重な飛越をする馬で、特段落馬転倒による影響はないという話である*3

 

6. Capodanno (FR), 7 11st5lb J: Danny Mullins T: Willie Mullins (Pedigree)

Manduroは近年ドイツを中心に大きな存在感を放つMonsunの産駒で、その産駒としてはこのCapodannoをはじめ、2020年のアメリカNew York Turf Writers Cup (G1)の勝ち馬Rashaanなどを送り出している。このMonsunの産駒としては成功した種牡馬は数多く存在し、その中にはNetwork、Samum、Shirocco、Arcadio、Gentlewave、Getaway、Maxiosなどを含み、このMonsunの子孫は現在では欧州障害競馬における一大勢力となっている。日本にもMonsunの産駒として*ノヴェリストが輸入されたが、現状ではノーザンクリスが新潟でオープン戦を勝利したのが最高のようだ。なお、Networkの産駒でAQPSのVoiladenuoはフランスで種牡馬入りし、すでに多数の産駒がフランス障害競馬を戦っている。

Capodanno sparkles as Bob Olinger disappoints in Champion Novice Chase - Racing TV (Youtube)

Capodannoは2022年のPunchestown FestivalにおけるDooley Insurance Group Champion Novice Chase (G1)の勝ち馬である。ただしその前のCheltenhamではL'homme Presseからだいぶ離れた4着に敗れていたことを考えると、どうにもメンバー的にはいまいちな感は否めないところがある。今シーズンはGowran ParkのRed Mills Chase (G2)を1戦したのみでここに備えてきた。ひとまず比較的フレッシュな馬で、前走のRed Mills Chase (G2)は20fと明らかに試走程度の位置づけであったことを考えると前走の敗戦は気にする必要はなさそうなのだが、とはいえChaseにおける経験不足な面は否めないというのが現状だろう。とりあえずは7歳と若い馬で、この馬の持っている能力と上がり目に期待したいところである。興味深いことに、HurdleではもともとG1路線ではなく早々にハンデ戦に移行していた馬で、2021年の4月にはPunchestownで25頭立てのConway Piling Handicap Hurdle (Grade B)を制した実績もある。本質的にはG1戦線よりもハンデ戦向きの馬である可能性もありそうだ。

 

7. Delta Work (FR) (AQPS), 10 11st4lb J: Keith Donoghue T: Gordon Elliott (Pedigree)

父Networkは上記Monsunの産駒で、近年の欧州競馬において最も成功した種牡馬の一頭である。その代表産駒はなんといってもSprinter Sacreで、全盛期に見せたそのイギリス16f Chaseにおける手が付けられないほどの強さと、心疾患を乗り越え不死鳥の如く復活したドラマは同馬の競馬史に長く残る名馬としての地位を不動のものとしている。それ以外にもRubi Ball、Rubi Light、Saint Are、Le Richebourgといった複数のG1勝ち馬を送り出しているほか、Prix Leon Rambaud (G2)の勝ち馬でAQPSのVoiladenuoはフランスにて種牡馬入りし、フランス障害競馬において高い人気を集めている。現状ではMonsunの系統の中の種牡馬としては一番手の地位に位置するといっても過言ではない名種牡馬である。Delta Workも基本的にはSelle Francaisの牝馬に代々サラブレッドが交配されてきたというパターンだが、その6代母Vedette VIIIの父DumbeaはFrench Trotterであり、一方の母Voitureがサラブレッドのようだ。

Delta Work edges Galvin in Elliott cross-country domination - Racing TV (Youtube)

Delta WorkはこのGrand National (G3)は昨年の3着に続き2回目の参戦となる。昨年はCheltenhamのGlenfarclas Crossにて有終の美を飾ることを目指した希代の名馬Tiger Rollの"fairytale ending"を阻止しての参戦であったが、今年も同じくGlenfarclas Crossを勝利しての参戦となった。昨年のGrand Nationalでは前半にミスを連発した上に障害飛越時に不利を受けたりしつつ、ほぼ絶望的な位置から盛り返してきたという大きなビハインドを背負ってのレースであったことを考えると、少なくとも昨年から明らかな力落ちもなく、しかも昨年の11st9lbから斤量を減らしての参戦となることは歓迎材料だろう。ただ、Glenfarclas Cross Countryでもどうにももたもたと飛越するような場面があり、National Fenceへの対応という点では問題はなさそうだが、昨年と同じように展開的に後手後手に回らないかという点はやや心配なところではある。Keith Donoghueは前走のGlenfarclas Cross Countryもこの馬とコンビを組んでおり、昨年のJack Kennedyから鞍上は変わるものの、さほど鞍上面での心配はなさそうだ。

 

8. Sam Brown (GB), 11 11st4lb J: Johnny Burke T: Anthony Honeyball (Pedigree)

Sadler's Wellsの産駒であるBlack Sam BellamyGalileoの全弟で、その代表的な産駒としてはやはり2018~2021年にかけてGrand Prix D'Automne (G1)を4連覇したGalop Marinであろう。大きなシャドーロールと大柄な馬体を躍動させた力強い先行策を武器としていた馬だが、残念ながらGalop Marinは2022年に真菌の感染症で亡くなっており、その実力は抜きんでたものを持っていただけに悔やまれる結末となってしまった。それ以外にもLong Walk Hurdle (G1)をJoe Colliver騎手とのコンビで制したSam Spinner、Cheltenham Course SpecialistのThe Giant Bolsterなども代表産駒として挙げられる。Black Sam Bellamyの後継種牡馬としてはEarl of Tinsdalという馬がいるようで、現状ではドイツPreis der Firmen Elektro Hoyndorf und Holzbau Meinholzを勝利したRoxalaguを送り出している。

Sam Brownは2022年のBetway Handicap Chase (G3)の勝ち馬。2021-2022シーズンは極端な不良馬場に泣かされたHaydockのGrand National Trial (G3)を除けばPeter Marsh Chase (G2)にてRoyale Pagailleから僅差の2着にも入るなど、コンスタントに活躍を見せた飛躍のシーズンとした。ただし今シーズンはどうにも微妙で、10月のCharlie Hall Chase (G2)でBravemansgameから4馬身差の3着に入ったのが最高である。同レースはその後のKing George VI Chase (G1)の勝ち馬Bravemansgameが相手とはいえ、シーズン序盤の試走的なニュアンスが強いレースであり、馬場も考えるとあまり着差はあてにできないだろう。ひとまずCheltenham Festivalは完全スルーし、UttoxeterのHandicap Hurdleを叩いてこちらに向かってきた。Aintreeというコース自体はいいようで、なぜかHandicapとは大きく性質が異なるG2クラスばかりを狙って使っているようなところがあることを踏まえるとあまり今シーズンの敗戦を気にする必要はなさそうなのだが、とはいえ11歳という年齢的なところ、距離的な適性やNational Fenceへの対応等、それなりに課題が多いのが現状だろう。なお、UttoxeterのHandicap Hurdleは5着と着順は悪いが、12st0lbのトップハンデを背負い、Soft (Heavy in places)の馬場で勝ち馬から10馬身と遅れていないのはそれなりに立派な成績ではある。

 

9. Lifetime Ambition (IRE), 8 11st3lb J: Sean O'Keeffe T: Mrs Jessica Harrington (Pedigree)

Nasrullahの直系となるKapgardeはフランス障害馬で、Prix Jacques D'Indy (G3)を勝利したほか、4歳限定競走であるPrix Ferdinand Dufaure (G1)でも僅差の2着に入っている。その種牡馬としての成績は非常に優秀で、Prix La Haye Jousselin (G1)を3連覇したMilord Thomas、King George VI Chase (G1)を連覇したClan Des Obeaux、Cheltenham Gold Cup (G1)を圧勝したA Plus Tard、さらにはMarsh Chase (G1)の連覇を含め多数のG1勝ちを収めたFakir D'Oudaries、Gran Corsa Siepi Nazionale (G1)を連覇したMauriciusなど、その産駒の活躍ぶりは目覚ましいものがある。Mill ReafからShirley Heightsを介さない系統は古くは日本でも*ミルジョージや*マグニチュードといった名種牡馬の産駒が多く活躍しているが、すでにその存在は過去のものとなっている。しかしMill Reaf - Garde RoyaleのラインはこのKapgardeのほか、Robin De Champs、Cokorikoといった名種牡馬が存在しており、欧州障害競馬において発展する可能性を秘めた系統と言えよう。なお、このKapgardeの産駒でPrix Aguado (G3)を勝利したParadisoは2023年から種牡馬入りしているようだ。

Grand National horse? THE BIG DOG lands 2022 Troytown Chase | Racing TV (Youtube)

Lifetime Ambitionの目立った実績としてはHugh MacMahon Memorial Novice Chase (G3)での勝利が挙げられる。HurdleでもMaiden勝ちまで時間がかかったように、基本的にはスピード能力を生かしてどうこうというよりは長い距離で力を発揮するタイプのようで、その後のPunchestwon FestivalのDooley Insurance Group Champion Novice Chase (G1)でもしぶとく走ってCapodannoの2着に入っている。今シーズンは勝ち星は挙げられてはいないのだが、AintreeのGrand Sefton Chaseでは11st6lbを背負っての4着、Troytown Handicap Chase (Grade B)でも2着と、なかなか立派な成績を残している。さすがにその後のChase2戦において20fは適性外の感もありやや前からは離された敗戦に終わっているが、とはいえJohn Durkan Memorial (G1)でも3着と、この馬のしぶとさを見せるパフォーマンスであった。ここに向けてはHurdleを叩いての挑戦となり、ローテーションとしてもなかなかよさそうで、まだ8歳と若い馬で上がり目があることを考えると侮れない一頭である。調教師のJessica Harringtonは現在乳がんにより化学療法を受けているようで、残念ながらウイルス感染対策によりアイルランドの自宅での観戦となるようだが、今年で76歳となる闘病中のアイルランドの名伯楽のための走りが期待される*4

 

10. Carefully Selected (IRE), 11 11st1lb J: Michael O'Sullivan T: Willie Mullins (Pedigree)

父Well ChosenはSadler's Wellsの産駒で、アイルランド種牡馬入りしている。その代表産駒としてはアイルランド調教馬としてアメリカGrand National Hurdle Stakes (G1)を制したJury Dutyが挙げられるが、それ以外にもGrand Annual Challenge Cup (G3)の勝ち馬Chosen Mate、Shamrock Handicap Chase (Grade B)の勝ち馬Goulane Chosenなども挙げられる。Carefully SelectedはWell Chosenの代表産駒の一頭である。

CAREFULLY SELECTED edges out Dunboyne in Thyestes thriller at Gowran (Youtube)

Carefully Selectedは元々2018年のChampion Bumper (G1)でRelegateから僅差の2着に入り将来を嘱望された馬であり、2019年のPunchestown FestivalのIrish Daily Mirror Novice Hurdle (G1)ではMaiden勝ちのみの身*5ながら将来のCheltenham Gold Cup (G1)勝ち馬Minella Indoから3馬身差の3着に入っている。しかしながらどうにもNovice Hurdleの頃から順調に使えなかったようで、2020年のNational Hunt Challenge Cup (G2)で落馬したのちは1022日間の休養を余儀なくされていた。今シーズンは上記の3年近い休養から復帰すると、1月のGowran ParkでのThyestes Handicap Chase (Grade A)を勝利している。その後のBobbyjo Chase (G3)ではKemboyから離れた4着に敗れているが、とはいえ叩き台的なニュアンスが強いレースであり、あまり気にすることはないだろう。元々持っている能力自体は非常に高く、長期の休養を挟みながらこれだけの能力馬がこの大舞台に辿り着いたことは喜ばしいことである。11歳と年齢は重ねているが、これがChase8戦目となかなかフレッシュな状態であり、年齢的に残されたチャンスはさほど多くはなさそうだが、この馬の経緯を考えるとなんとか無事に頑張って欲しいところである。Michael O'SullivanはCheltenhamでのMarine NationaleとのコンビによるSupreme Novices' Hurdle (G1)制覇をはじめとする勢いのある騎手で、これだけの馬が回ってきたチャンスを生かしてほしいところである。

 

11. Coko Beach (FR), 8 11st0lb J: Harry Cobden T: Gordon Elliott (Pedigree)

父CokorikoはフランスHaiesを4戦したのちに早々に種牡馬入りした馬だが、その中にはPrix Gerald De Rochefort (Listed)の勝ち鞍が含まれるうえ、その際のメンバーはMilord Thomas、Un Temps Pour Toutと、なかなか将来性豊かな面々であった。Cokorikoは種牡馬としてはこのCoko Beachが代表産駒であるが、フランスではなかなか人気があるようで、今後の産駒の活躍には注目した方が良いだろう。なお、Cokorikoの父Robin Des ChampsもまたフランスHaiesで5戦4勝という立派な成績を残し種牡馬としても成功している馬で、なんともフランス障害競馬らしい系統である。

What a performance! Coko Beach - 2021 Goffs Thyestes Chase (Youtube)

Coko Beachはアイルランド24f超のHandicap Chaseではすっかりおなじみになった馬で、2021年のはThyestes Chase (Grade A)を勝利しているほか、2023年にはPunchestownのGrand National Trial (Grade B)を勝利している。このGrand National (Premier Handicap)については昨年の8着に続く参戦となる。基本的に渋った馬場において高く伸びのある飛越に支えられたパワーとスピードの持続性能を武器に戦う馬で、長い距離における適性はもはや疑いようがなく、National Fenceにも対応できるだけの飛越技術もその強みである。一方で昨年のAintreeにおける良馬場のようなスピード勝負では分が悪いということははっきりしており、前走のGrand National Trial (Grade B)でも勝利したとはいえ28fの距離を警戒してのスローペースであったことを踏まえると、良馬場等に起因してペースが速くなると手も足も出ない可能性があるというところは留意すべきだろう。また、基本的にはストライドの持続性能を武器とする馬だけに、あまり馬群の中に入ってどうこうというよりは伸び伸びと走りたいタイプであり、展開的な立ち回りにも注文が付きそうだ。

 

12. Longhouse Poet (IRE), 9 11st0lb J: JJ Slevin T: Martin Brassil (Pedigree)

Gamble landed! LONGHOUSE POET has the final word in the 2022 Goffs Thyestes Chase - Racing TV (Youtube)

上記Yeatsの産駒。このLonghouse Poetもまたアイルランド24f超のHandicap Chaseで結果を残してきた馬で、2022年のThyestes Chase (Grade A)が主な勝ち鞍である。ただしその後はほぼこのGrand National (Premier Handicap)を目標に使っているところがあるようで、今シーズンはHurdleで3回、Bobbyjo Chase (G3)を含むChaseで2回出走しているが、そのいずれもがあまり勝負気配のないレースばかりであった。このレースは昨年の6着に引き続きの出走となる。ひとまずDown RoyalのBluegrass Stamm 30 Chaseを勝利しての参戦ということで馬の状態はよさそうで、Novice HurdleのG1クラスでも好勝負をしていた能力馬であるだけに、完全にここを目標にローテーションを組んできた臨戦過程は好感が持てるものだろう。上記Thyestes Chase (Grade A)では経験の少ない馬らしくやや行きたがって走るところはあったが、昨年一度このレースを経験したことによる上積みに期待したい。また、昨年の11st4lbから11st0lbへ斤量的に楽になることも好材料で、他のHandicap重賞に目もくれなかった陣営の準備が報われるか注目したい。なお、調教師のMartin BrassilはNumbersixvalverdeで2006年のGrand National (G3)を制した人だが、どうやら馬の状態は良い旨を述べているようだ*6

 

13. Gaillard Du Mesnil (FR) (AQPS) (0.770%), 7 11st0lb J: Paul Townend T: Willie Mullins (Pedigree)

父Saint Des Saintsは近年のフランス競馬において最も成功した種牡馬の一頭で、その産駒としてQuel Esprit、Quito De La Roque、Djakadam、Le Rocher、Storm of Saintly、Northerly Wind、Fusil Raffles、Protektorat等、G1勝ち馬の数はもはや枚挙に暇がない。後継種牡馬も多く存在するようで、Jeu St Eloi、Castle Du Berlaisといった種牡馬の産駒がすでにデビューしていることに加え、その中でも有力視されているのがPrix Ferdinand Dufaure (G1)で圧倒的な身体能力で他馬を寄せ付けない競馬を見せたGoliath Du Berlaisで、フランスSteeplechaseにて卓越したパフォーマンスを示した馬が種牡馬入りしたということで大いに人気を集めているようだ。Saint Des Saintsは大種牡馬Cadoudalの産駒だが、その産駒にはIndian River、Maresca Sorrento、Buck's Boumといった成功した種牡馬が含まれており、欧州障害競馬において今後大きな発展の可能性を秘めた系統である。Saint Des Saints自身はサラブレッドだが、Gaillard Du Mesnilの母Athena Du MesnilはSelle Francaisであり、その5代母Clara Du Mesnilの父NickelはAnglo-Arabianである。ただしNickel自身の父系は遡ればTeddyに辿り着くラインで、Teddyの孫であるサラブレッドのDadjiが繰り返し純血Arabian又はAnglo-Arabianの牝馬と交配されていたようだ。従って、全体のアラブ血量に基づき、Gaillard Du Mesnilの祖母Perle Du MesnilまでがAnglo-Arabe de complément、それ以降はSelle Francais又はAQPSとなる。

Gaillard Du Mesnil strikes at the 2021 Dublin Racing Festival for Willie Mullins and Paul Townend (Youtube)

Gaillard Du MesnilはNovice HurdleではAlanna Homes Champion Novice Hurdle (G1)をはじめG1を2勝した馬で、2021-22シーズンからChaseに転向している。G1や大舞台では勝てないながらもLadbrokes Novice Chase (G1)、Brown Advisory Novices' Chase (G1)、さらにIrish Grand National (Grade A)と連続で3着に入り、その能力の高さを示した。今シーズンはついにシーズン2戦目となったNeville Hotels Novice Chase (G1)で待望のChase初勝利、さらに前走のNational Hunt Challenge Cup (G2)でも勝利を挙げた。前走のCheltenhamでは残り2障害地点では前のMahler Missionから突き放されたりとやや反応の悪さを見せていたのだが、とはいえ30f戦で最後までスプリントを掛ける余力は残っていたようで、その超長距離への適性も含めてその能力は疑いようがないだろう。Irish Grand National (Grade A)で11st8lbを背負って3着にきているように、多頭数のハンデ戦の経験もあること、ここまで崩れず落馬もなく走ってきていること、さらに11st0lbと斤量的には大いに恵まれたことを考えると、ここでも楽しみな一頭になりそうだ。Paul Townend騎手はWillie Mullins陣営の中では一番手となる騎手で、Willie Mullins厩舎の出走馬においてこの騎手が回ってきた意義は考慮すべきだろう。

 

14. Darasso (FR) (AQPS) (0.780%), 10 10st13lb J: Luke Dempsey T: Joseph O'Brien (Pedigree)

父Konig TurfはNasrullahからBoldnesianに連なる血統で、Big Shuffleの産駒である。この系統はSeattle Slewから主にA.P Indyへと分岐した系統が現代では主流となっているが、基本的にはアメリカ血統ということもあり現代障害競馬における存在感は小さい。Big Shuffleはドイツで繋養されたようで、そのドイツで残した産駒がちらほらと障害競馬でも活躍馬を送り出している。その中でもKonig Turfは比較的成功した部類で、イタリアCorsa Siepi Dei 4 Anni (G1)の勝ち馬Spes Militurf、ベルギーING Grote Steeplechase Van Vlaanderenの勝ち馬Gino Des Dunnesが目立つところだろうか。面白いところでは、母にAnglo-ArabianのSamara D'Ocを持つAnglo-Arabe de complémentのSully D'Oc AAはアイルランドでPigsback.com Handicap Chase (Grade B)を制した。Darassoの母NassoraはAnglo-Arabe de complémentだが、Darassoの4代母Ma Protegeeの父Le VerglasがAnglo-Arabianである一方、5代母La Protegeeはサラブレッドである。なお、Le Verglasの父系は遡ればGalopinに連なるサラブレッドであるようだ。

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Darassoはどちらかというと20fクラスのアイルランドListed~G2の常連といったところで、目立つところでは2022年のGalway Plate (Grade A)にて"American Dream"を成し遂げたHewickの2着の実績がある。ただ、どうにもJoseph O'Brien厩舎にありがちな、いまいちレースの使い方に一貫性が見られないようなタイプで、ここまでHurdleとChaseを織り交ぜながら走ってきている。なんだかんだでさほど崩れずに走るタイプなだけに能力自体は高いものがありそうではある。とはいえ2023年に入っての2戦はいずれもやる気なく終わっているようで、単なる叩き台という可能性も大いに考えられるのだが、とはいえ距離面やNational Fenceへの対応、さらには超長距離におけるハンデ戦の経験もさほど多いわけではなく、能力面でも未知数なところも多く、それなりに対応すべき課題は多いのが現状である。

 

15. Le Milos (GB), 8 10st11lb J: Harry Skelton T: Dan Skelton (Pedigree)

ShiroccoMonsunの産駒で、近年のMonsun系統の欧州障害競馬での成功を支える重要な種牡馬の一頭である。2005年のドイツHorse of the Yearに輝いた同馬の産駒にはなんといっても近年のアイルランドを代表する名牝Annie Powerのほか、Gran Criterium D'Autunno (G1)の勝ち馬Principle Del Mare、Mersey Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬Lac Fontana、Grosse Steeplechase in Freauenfeldの勝ち馬Kemalisteなどが含まれており、その産駒はイギリス・アイルランドのみならず欧州障害競馬で一定の存在感を示している。

LE MILOS strikes for the Skeltons in the 2022 Coral Gold Cup at Newbury (Youtube)

Le Milosは今シーズンのCoral Gold Cup (Premier Handicap)の勝ち馬である。元々ウェールズのTim Vaughan厩舎に所属していた馬で、Class2辺りまでの勝ち鞍はあったのだが、昨年Dan Skelton厩舎へと移籍、Bangor-On-DeeのClass2からNewburyの伝統のハンデ戦であるCoral Gold Cup (Premier Handicap)と連勝を飾り、一気にこの路線の主役級の一頭となった。基本的にG2以上ではなくほぼハンデ戦ばかりを使ってきたタイプで、馬場不問で走ること、さらに距離延長でも結果を残したこと、Coral Gold Cup (Premier Handicap)も11st0lbと極端な軽量でもなく、今回も10st11lbと斤量的には恵まれそうであることを踏まえると、ここでもなかなか楽しみな一頭になりそうだ。前走のKelsoのPremier Chase (Listed)では最後復活してきたEmpire Steelに交わされて2着には終わっているが、これは逃げたWishing and Hopingを早々に捉えに行った結果であり、内容的には十分なものを示していたと考えていいだろう。元アイルランド騎手のBarry GeraghtyはGrand Nationalの一番手としてLe Milosを挙げている*7

 

16. Escaria Ten (FR), 9 10st10lb J: Adrian Heskin T: Gordon Elliott (Pedigree)

父Maresca SorrentoはフランスHaiesで3戦2勝という成績を収めたのちに早々に種牡馬入りした馬で、その代表産駒としては2014年のAintree Grand National (G3)をAQPSとして勝利したPineau De Reが挙げられる。Maresca SorrentoはCadoudalの産駒だが、上記のとおりCadoudalの系統としてはSaint Des Saints、Indian River、Buck's Boumなど成功した種牡馬が複数含まれており、特にこの系統の障害馬を種牡馬入りする動きはフランスで多く認められる。欧州障害競馬におけるその子孫の活躍には要注目だろう。

Escaria Tenの目立った実績としては2021年のNational Hunt Challenge Cup (G2)にてGalvinの2着に入ったことが挙げられる。その後は精力的にHandicap Chaseの重賞に参戦しているが、そのいずれでも大敗に終わっており、昨年のGrand National (G3)にも参戦はしていたものの、前からは大きく離れた9着に終わっている。今シーズンはThurlesのEquiip Foal to Race TY Programme Chase (Listed)にてDarassoの2着に入っており、とりあえずは馬の調子はよさそうなのだが、とはいえここまであまりHandicap Chaseの大舞台でいいところがないというのはやはり懸念材料であり、1月のThyestes Chase (Grade A)、CheltenhamのMagners Plate (Premier Handicap)でも大敗していることを踏まえると、昨年の11st1lbからはわずかに斤量的には楽になるとはいえ、どうにもここで一変するシナリオは考えにくいというのが現状だろう。

 

17. The Big Breakaway (IRE), 8 10st10lb J: Brendan Powell T: Joe Tizzard (Pedigree)

父Getawayはお馴染みMonsun一派の一頭であり、Scilly Isles Novices' Chase (G1)の勝ち馬Sporting John、RYBO Handicap Hurdle (Grade A)の勝ち馬Glan、さらにはChristmas Hurdle (G1)の勝ち馬Verdana Blueなどを送り出し、イギリス・アイルランド障害競馬ではお馴染みの種牡馬の一頭である。特にVerdana BlueのKemptonでの走りは、当時イギリス16f Hurdle路線にて非常に強い競馬を見せていたBuveur D'Airを破ってのもので、なかなかにインパクトのある勝利であった。

What a STAR! The Two Amigos battles to victory in the Coral Welsh Grand National at Chepstow! (Youtube)

The Big Breakawayは昨年Colin Tizzardから厩舎を引き継いだJoe Tizzardの管理馬で、実績的に目立つところでは昨年のWelsh Grand National (Premier Handicap)の2着がある。とにかく勝ち切れないタイプで、ここまでChaseはNovice戦の1勝のみ、Kauto Star Novice' Chase (G1)で2着、Brown Advisory Novices' Chase (G1)は3着などと、基本的には入着までのレースばかりである。ただ、コンスタントに走るかと思いきやどうにも飛越をミスしてそのまま大敗するというパターンもありそうで、前走のUltima Handicap (Premier Handicap)でも途中棄権に終わっている。実力的にはここでも戦えるだけのものはありそうだが、一方でどうにも現状では信用しきれないというところもありそうだ。Joe Tizzardとしては初のGrand National (Premier Handicap)挑戦となる。

 

18. Cape Gentleman (IRE), 7 10st8lb J: Jody McGarvey T: John Hanlon (Pedigree)

Cape Gentlemanの父Champs ElyseesはDanehillの産駒で、2009年のカナダ年度代表馬に選出されている。その後はイギリス及びアイルランド種牡馬生活を送ったようで、RYBO Handicap Hurdle (Grade A)の勝ち馬Low Sunなどを送り出した。Danehillの系統はさすがに大きく発展したこともあってその役者の数は多いが、その中でも特に目立つのがDanehill Dancerの子孫で、アメリカ生産馬のJeremyはSir Gerhard、Appriciate It、Our Conor、Jer's Girl、Black Tearsといった複数のG1勝ち馬を送り出しているほか、Mastercraftsmanは2020年頃においてニュージーランドHurdleにおけるPrestige Jumping Raceを全制覇し、ニュージーランド障害競馬において上限斤量を背負って戦っていた当時の絶対的な最強馬The Cossackを送り出した。また、Estejoの産駒でポーランド生産馬のTunisはPrix Amadou (G2)等を制したフランス障害馬だが、引退後はフランスで種牡馬入りしているようだ。日本でもDansili産駒の*ハービンジャーが2022年の中山大障害 (G1)を制したニシノデイジーを送り出している。

Cape Gentlemanは元々Emmet Mullins厩舎にいた馬で、Galway Hurdle (Grade A)の3着などの実績を残したのち、Chaseに転向、ChaseではCorkのPaddy Power From The Horses Mouth Podcast EBF Novice Chase (G3)にてRun Wild Fredを破って勝利している。ただ、どうにもその後は2022年に平地競争を勝ったのみといまいちで、昨年9月のKerry National (Grade A)でも落馬に終わっている。ひとまず現厩舎に移籍後は2戦を消化しているが、前走のRated Chaseでも大敗していたりと、どうにも近走成績からは強調しにくいというのが現状だろう。ここまでの実績からしても24f超のHandicap Chaseが向くという印象もなく、強いて言えば7歳馬の変わり身に期待したいといったところだろうか。John 'Shark' Hanlonはアイルランドの調教師で、この"Shark"という愛称は氏のはーリングでの逸話に起因するそうだ*8。最近ではGalway Plate (Grade A)やAmerican Grand National (G1)を制し、地元のパブにも顔を出したとされるHewickの調教師として有名であろう*9。Stephen 'Laddie' Sandfordは1923年にSergeant MurphyでイギリスGrand Nationalを制した初のアメリカ人オーナーであるが、Cape GentlemanのオーナーであるPierre Manigaultはその子孫のようだ*10

 

19. Roi Mage (FR), 11 10st8lb J: Felix de Giles T: Patrick Griffin (Pedigree)

お馴染みSadler's Wellsの直系であるPoligloteの産駒。イギリスでJLT Melling Chase (G1)、Tingle Creek Chase (G1)を勝利した葦毛のPolitologueが代表産駒として良く知られているが、チェコVelka Pardubickaを制したTzigane Du Berlaisや、2015年、2016年とGrand Steeplechase de Paris (G1)を制したSo French、2023年Stayers' Hurdle (G1)で大穴を開けたSire Du Berlaisなど、欧州障害競走を中心に多数の活躍馬を送り出している。Poligloteの産駒にはパワー溢れる力強い馬体から繰り出される高いスピードの持続性能を武器にした馬が多く、その資質は欧州障害競馬において大きな存在感を放っている。日本では2012年の凱旋門賞を制し、2012年ジャパンカップにも参戦したSolemiaがこのPoligloteの産駒でお馴染みなのだが、それから約10年ほど前にアンドアイラブハーという馬が輸入され日本でデビューしている。ただし成績的にはあまり良いところはなく、ダートの中距離未勝利戦を勝利したのみで障害競走への出走もなく終わっている。どうやらPoligloteには後継種牡馬もいるようで、Irish Wellsが2018年のGran Corsa Siepi Nazionale (G1)の勝ち馬Vodka Wellsを送り出しているほか、フランス障害競走への出走歴もあるDinkが2020年Desert Orchid Chase (G2)を勝利したスペイン産馬Nube Negraを送り出している。

GRAND STEEPLE CHASE DE PARIS 2019 | Carriacou, le triomphe ! | Auteuil | Groupe 1 (Youtube)

Roi Mageはex-french Steeplechaserだが、2015年にフランスでデビューしてから9歳となる2021年までフランスで過ごした馬である。イギリス・アイルランドでフランスからの移籍馬を見かけることは多いが、その大半がフランスでは若齢馬限定戦のみのキャリアで早々に移籍してきたというパターンで、ここまでフランスでの長いキャリアを有する馬は近年では珍しい。2019年のGrand Steeplechase De Paris (G1)では3着にも入っていたようにフランスSteeplechase重賞では一線級で戦ってきた実績馬である。2022年のGrand Nationalにも登録があったのだがレーティングの問題で残念ながら出走は叶わず、今年は満を持しての出走となる。今シーズンはCompiegneのGrand CrossでGrandgadorの3着に入ると、その後はGlenfarclas Crossを含むChase競走を叩いてここに向かってきた。Glenfarclas Cross Countryでは案外な落馬に終わっているが、とはいえCross Country未経験にも関わらずいきなりCompiegneのGrand Crossで好走するだけの飛越技術を持った馬で、足の速い馬ではないだけに今シーズンのChase2戦では敗戦を喫しているものの、能力的には10st8lbという斤量は若干軽視されている感もある。ただし、このNational Courseを含めフランスSteeplechaseの経験が長い馬は近年イギリスでは結果を残せていない傾向があるという点もまた同時に考慮すべきであり、この馬自身イギリス・アイルランドのChase障害には全く苦労していないものの、ex-French Steeplechaserとしては興味深い挑戦になりそうだ。元々はJames Reveley騎手を予定していたようだがどうやら怪我で騎乗が難しくなったようで*11、代わりにFelix De Giles騎手が騎乗する予定のようだ。Felix de Gilesはフランスの障害騎手で、特にCross Countryにおける一切の無駄のない騎乗はもはや芸術の域に達している達人である。Grand Nationalでも騎乗経験があり、その手綱さばきには注目だろう。

 

20. Diol Ker (FR), 9 10st8lb J: Kieren Buckley T: Noel Meade (Pedigree)

Lyphard - Bellypha - Mendez - Linamixと連なる父系出身のMartalineは成功した種牡馬で、フランスを中心にヨーロッパ障害競馬において大きな存在感を放っており、2020年のGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)の勝ち馬Paul's Saga、2014年のRyanair Chase (G1)の勝ち馬Dynaste、2015年のGrande Steeplechase D'Europa (G1)の勝ち馬Kamelie等、その活躍馬は枚挙に暇がない。その産駒には重馬場を突き進むパワーを武器とした馬が多いことが特色だろう。障害種牡馬としては珍しく後継種牡馬にも恵まれており、2018年のPrix Cambaceres (G1)の勝ち馬Beaumex De Houelle、2019年の同レースの勝ち馬Nirvana Du Berlais等、複数の活躍馬が種牡馬入りしているようだ。Lyphard - Bellypha - Mendez - Linamixの系統は平地競争という意味ではやや下火になりつつある系統だが、2018-2019とPrix La Haye Jousselin (G1)を連覇したBipolaireを輩出したFragrant Mix、2015年から2018年にかけてING Grand Steeplechase Des Flandresを4連覇したTaupin Rochelaisを輩出したAl Namix、2013年のArkle Challenge Trophy (G1)の勝ち馬でその破天荒なレース振りで人気を集めたSimonsigの父Fair Mix、さらに2013年~2014年のGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)の勝ち馬で、種牡馬としても2020年のPrix Maurice Gillios (G1)を制覇したLe Berryを輩出したGemixなど、ヨーロッパ障害競馬において多数の活躍馬及び成功した種牡馬を輩出している。残念ながらGemixは2022年に早逝してしまったが、この辺りから平地競馬とは一線を画す障害系統が現れることを期待したい。

Diol Kerの主な勝ち鞍としては2022年3月のLeinster National Handicap Chase (Grade A)が挙げられる。あまりBeginners Chaseではうまくいかなかったようだが、その年のThyestes Handicap Chase (Grade A)でもLonghouse Poetから6馬身差の4着に入っており、基本的にはハンデ戦向きの馬といったところだろう。今シーズンはPaddy Power Chase (Grade B)にてReal Steelの2着に入るなど、馬自身は元気そうだ。ただし25f以上のレースではあまり実績がないようで、Irish Grand National、Cork Grand National、及びPunchestownのGrand National Trialではいずれも大敗に終わっている辺り、距離的には若干の不安が残りそうだ。また、Martalineの産駒は他馬が苦にするほどの重馬場でも突き進むだけのパワーを持った馬が多い一方で良馬場のスピード勝負では不安が残る傾向があり、この馬もまたHeavyにて主な実績を残してきた馬であることを考えると、当日の馬場状態にも注文が付きそうだ。

 

21. A Wave Of The Sea (IRE), 7 10st6lb J: Shane Fitzgerald T: Joseph O'Brien (Pedigree)

Invincible Spirit産駒のBorn To SeaはGalileo及びSea The Starsの半弟で、元々アイルランド種牡馬入りしているがその後フランスに移動しているようだ。A Wave Of The SeaはBorn To Seaの代表産駒だが、他にもWKD Hurdle (G2)の勝ち馬Aspire Towerなど、複数の重賞勝ち馬を送り出している。Green Desertの子孫として近年ではSea The MoonがHenry VIII Novices' Chase (G1)の勝ち馬Allmankindを送り出したほか、My Tent Or YoursやWutzelmannを送り出したDesert Princeなど、ちらほらと成功した種牡馬が含まれている。最近ではStag HornやFirst Street等、Golden Hornの産駒のex-flat horseが障害に転向して成功した例があるようだ。

2020 Tattersalls Ireland Spring Juvenile Hurdle - Racing TV (Youtube)

A Wave of the Seaは遡れば2020年のIreland Spring Juvenile Hurdle (G1)を勝った馬だが、結局Novice ChaseではなくHandicap Chase路線へと向かったようで、ChaseではMatheson Handicap Chase (Grade B)等を勝利している。2021-22シーズンからは24f Handicap Chase路線に参戦し、2021年のMunster National (Grade A)ではOntheropesの2着、2022年はThe Big Dogの4着に入っているのだが、ここ2戦は今度は一気に距離を短縮して16fに戻している。LeopardstownのPaddy Power Cheltenham Fanzone Handicap Chase (Grade B)では前々で運んで3着に踏ん張っているのだが、一方のGrand Annual Chase (Premier Handicap)ではさっぱりいいところなく途中棄権に終わっていたりと、どうにも信用しにくいというのが正直なところだろう。比較的良績が集中しているLeopardstownのCourse Specialistであれば比較的Aintree自体は性質的には向きそうな感もあるのだが、とはいえ大敗と好走を繰り返していたりと信用しにくいというのが正直なところで、ここ2戦ほどの距離短縮が馬に刺激を与えていればいいのだが、距離面での実績的な裏付けがないだけにむしろオーバーペースを発生させる可能性もあり、なんともいまいち強調材料に乏しいのが現状である。

 

22. Minella Trump (IRE), 9 10st6lb J: Theo Gillard T: Donald McCain Jnr (Pedigree)

St. Simon、さらにはRibotに連なる父系出身のShantouの産駒。世界的に既にこの血統は衰退の一途にあるのだが、Hoist The Flag、Allagedの系統はFlemensfirth、Astarabad、Shantouを始め、障害競馬においては成功している種牡馬を多数輩出している重要な系統である。Shantouの代表産駒として挙げられるのは2017年のLawlor's Hotel Novice Hurdle (G1)等の複数のG1勝ちを挙げたDeath Dutyだが、それ以外にも世紀の珍レースとなった2018年のGrowise Champion Novice Chase (G1)で近年屈指のドラマチックな勝利を掴み、その後2020年のLadbroeks Champion Chase (G1)にて今度は実力でG1勝ちを収めたThe Storytellerが挙げられる。The Storytellerはその後大きな故障で長期の休養に入ったが、2023年現在もどうやらPoint to Pointを中心に現役を続けているようで、Irish Point to Pointでは複数の勝利を収めているようだ

同馬は2021-22シーズンは夏場から精力的にChaseを使ってきた馬で、8月のPerthのClass 3 Novice Handicap Chaseから一気の6連勝。今シーズンもやはり暖かい時期のみレースに使っているようで、2022年4~6月のChaseを連勝、3月にBangor-On-DeeのClass2のHurdle戦を叩いてここに備えてきた。ここまでChaseは12戦8勝、大きく崩れたのは2020年11月の一度きりと安定した成績を残しているのだが、とはいえその戦績はClass2~3の競争であり、それもPerth、Ludlow、Sedgefield等といったローカル競馬場での競争であることを踏まえると、少々レース全体の水準には疑問が残るというのが正直なところである。どちらかというと良馬場で良績を残してきた馬で、少なくとも4月のAintreeという条件はさほど悪くはなさそうではあり、このような経歴の馬がこのような大舞台で活躍することは地方の競馬場にとっても喜ばしいことではあるのだが、とはいえ一気の相手強化と距離の延長等、なかなか乗り越えるべきハードルは高い。なお、Ginger McCainはRed RumやAmberleigh HouseでGrand Nationalを制覇した調教師であるが、今年はRed Rumの最初の勝利から50周年となる*12

 

23. Vanillier (FR), 8 10st6lb J: Sean Flanagan T: Gavin Cromwell (Pedigree)

He's still got it! KEMBOY gets back to winning ways in the Bobbyjo Chase! - Racing TV  (Youtube)

上記Martalineの産駒。Hurdle時代にはCheltenhamのAlbert Bartlett Novices' Hurdle (G1)にて11馬身差の圧勝を見せた馬で、2021-22シーズンからChaseに移行している。しかしどうにもChaseでの飛越自体がいまいちで、Novice時代には他馬の落馬に助けられたFlorida Pearl Novice Chase (G2)の1勝のみ、その後は勝ち星を挙げられていない。とりあえず前走のBobbyjo Chase (G3)ではKemboyから僅差の2着に入り、24fへの適性を見せたというのは好材料だろう。Novice時代はどうにも飛越にもたつく場面が多かった馬で、ようやくそのあたりの改善が見られてきた印象もあり、24f超への適性及び上がり目という点では期待してよさそうな一頭ではある。ただし、やはりHandicap Chaseへの経験という点ではいまいちで、Leopardstown Handicap Chase (Grade A)でも早々に落馬に終わっていり、このようなタイプはある程度車間距離を取って走らせたいという特性もあることを踏まえると、ここではそれなりに難しいタスクになることが予想される。父Martalineという守備範囲も考慮に入れた方がよさそうだ。

 

24. Velvet Elvis (IRE), 7 10st6lb J: Darragh O'Keeffe T: Thomas Gibney (Pedigree)

上記Shiroccoの産駒。この馬の実績的に目立つのは昨年3月NavanのIrish Stallion Farms EBF Novice Handicap Chase Final (Grade B)の勝ち鞍だろうか。その後のIrish Grand National (Grade A)でもLord Lariatから8馬身差の6着に入っており、それなりにこの類の超長距離Handicap Chaseへの適性を有する馬と考えられる。とはいえ今シーズンはTorytown Chase (Grade B)、Munster National (Grade A)ともに大敗、勝利したのはFairyhouseのRate Chaseのみと、どうにも成績的にいまいちな感は否めず、春先に調子を上げてくる可能性も否めないだけに一概に軽視するのは難しいのだが、とはいえどうにも強調材料に乏しいというのが現状だろう。Gibney RacingはDrumbaraghを拠点とする小規模な厩舎だが、Lion Na Bernaiで2012年のIrish Grand Nationalを制した調教師である。2014年の記事ではあるものの馬の自主性を重んじて厩舎での鞭の使用は禁止されている旨の情報もあるようで*13、なかなか独特のアプローチを採用しているようだ。

 

25. Ain't That A Shame (IRE), 9 10st5lb J: Rachael Blackmore T: Henry De Bromhead (Pedigree)

父JeremyはDanehillの孫で、アメリカ産馬であるがイギリスで競争馬生活を送ったようで、引退後はアイルランド種牡馬入りした。その代表産駒としてはBallymore Novices' Chase (G1)等を勝利した素質馬Sir Gerhard、Supreme Novices' Hurdle (G1)を圧勝したAppriciate It、Paddy Power Future Champion Hurdle (G1)を棚ぼたで制したWhiskey Sourなど、なかなかに多彩な面々が含まれている。残念ながらJeremy自身は2014年に亡くなっており、Ain't That A Shameはその残された産駒の一頭である。

Ain't That A ShameはHurdleではMaiden勝ちのみの馬だが、ChaseではMunster National Handicap Chase (Grade A)にてThe Big Dogの2着、Paddy Power Chase (Grade B)でもReal Steelの4着に入っている。どうにも全体的に取りこぼすことが多かった馬だが、今年の3月のGowran ParkのBeginners Chaseでようやく待望の勝利をあげての参戦となる。勝ち星としてはBeginners Chaseのみの馬だが、とはいえ一方では24f超のハンデ戦において高い適性を示してきた馬であり、10st5lbとかなり楽な斤量で出走できることを考えると、ここでも有力視してよい一頭だろう。2022年のNational Hunt Challenge Cup (G2)ではなぜか大敗に終わっているようだが、とりあえずこれは度外視しても良いかもしれない。なお、この馬が勝利した場合は昨年に続き2年連続でのNovice馬のGrand National勝利となる。Novice馬の勝利となると2016年のRule The Worldが挙げられるが、それ以前となると1958年のMr. Whatまで遡らなければならない。なお、鞍上がRachael Blackmoreに決まったことが発表されたことを受け、ブックメーカーではこの馬のオッズが一気に下がったようだ。

 

26. Corach Rambler (IRE), 9 10st5lb J: Derex Fox T: Miss Lucinda Russell (Pedigree)

Derek Fox does it again as CORACH RAMBLER goes back to back in the Ultima Chase (Youtube)

上記Jeremyの産駒。Corach Ramblerの目立つ実績としてはCheltenhamのUltima Handicap Chase (Premier Handicap)の連覇が挙げられる。Cheltenham Festival初日の25f Handicap ChaseはここからGrand Nationalを目指す馬たちが出走する伝統のハンデ戦であり、同馬は2022年は10st2lb、さらに2023年は11st5lbと大幅に斤量を増やしたにも関わらず、見事2022年と同様のレース運びで連覇を成し遂げた。基本的に後方からじわじわと馬群をすり抜けて追い込んでくるレース運びを得意としており、今年のUltima Handicapもそのようなレース運びであった。極端に馬場状態に注文が付くというわけでもなさそうで、多頭数のハンデ戦への経験値という点でも面白い一頭だろう。Cheltenhamとは性質が異なるNewburyのCoral Gold Cup (Premier Handicap)でも4着に入っているように、特殊な形態を味方につける必要のあるCheltenham競馬場専用というわけでもなさそうで、10st5lbという楽な斤量で挑めることを踏まえると有力馬の一頭として数えることができそうだ。なお、この馬はどうやら共同馬主の所有馬であるが、その中にはCOVID-19のパンデミックの頃から競馬に触れた21歳の大学生も含まれているらしい*14*15。他にはスコットランド出身のオーストラリア在住者、妻を亡くしたばかりの男性といったメンバーが含まれており、なんとも夢のある話である*16*17*18

 

27. Enjoy D'Allen (FR) (AQPS), 9 10st5lb J: Simon Torrens T: Ciaran Murphy (Pedigree)

WOW! 150/1 WINNER of the Irish Grand National as Freewheelin Dylan makes all under Ricky Doyle (Youtube)

上記Networkの産駒。例によってSelle Francais又はAQPSの牝馬に代々サラブレッドが交配されてきたというパターンでのようだ。Enjoy D'Allenは元々Peter Fahey厩舎にて善戦を繰り返していた馬だが、現厩舎に移籍後いきなり2連勝。NoviceのHandicap Chase重賞にて連続で2着に入ると、2021年のIrish Grand National (Grade A)ではFreewheelin Dylanから4馬身差の3着に入り、この路線での存在感を示した。しかし昨年のGrand National (G3)では落馬、2022年のIrish Grand National (Grade A)でも大敗に終わると、今シーズンは4戦していずれも結果を残せていない。11月のHurdle2戦は度外視してよさそうだが、とはいえその後のPaddy Power Chase (Grade B)、Bobbyjo Chase (G3)ともに大きく離された敗戦に終わっており、Paddy Power Chase (Grade B)でも3着に入った昨年と比較するとどうにも馬の調子の面で心配なところだろう。

 

28. Mr Incredible (IRE), 7 10st4lb J: Brian Hayes T: Willie Mullins (Pedigree)

Danehillの産駒であるWesternerは成功した種牡馬で、Arkle Challenge Trophy (G1)の勝ち馬Western Warhorse、World Hurdlle (G1)にて軽快な逃走劇により穴をあけたCole Harden、さらには2022-23シーズンの16f Novice Chaseでオーバーペース気味の逃走劇でレースを盛り上げたDysart Dynamo、さらにChampion Bumper (G1)の勝ち馬Ferny Hollowなど、多数の成功した産駒を送り出している。

Super stayer IWILLDOIT gets job done in £100,000 2023 Classic Chase at Warwick after a year off! (Youtube)

Mr Incredibleは勝ち星としてはBeginners Chaseのみに限られる。元々Henry de Bromhead厩舎にいた馬なのだが、LeopardstownのNebville Hotels Novice Chase (G1)では発馬拒否、その後のTramoreの平場戦ではさっぱり走る気を見せず途中棄権に終わっている。現厩舎に移籍してからはあまりそのような仕草はないようで、Paddy Power Chase (Grade B)では早々に重複落馬に巻き込まれたものの、WarwickのClassic Chase (Premier Handicap)では11st5lbを背負って2着、CheltenhamのFulke Walwyn Kim Muir Challenge Cupでは12st0lbを背負って3着にきている。どうにも気性的に信用しきれないという面はあり、得意とする条件等は不透明なのだが、とはいえ持っている能力自体はいいものがありそうで、上がり目のある7歳馬の未知の魅力に期待するというのも面白いかもしれない。レースとしてはおそらく後方からまくり上げていくという形になりそうだ。

 

29. Mister Coffey (FR), 8 10st4lb J: Nico de Boinville T: Nicky Henderson (Pedigree)

父AuthorizedはSadler's Wells - Montjeuという欧州障害競走において最も成功した系統の出自で、2018~2019年と英Grand National (G3)を連覇した歴史的名馬Tiger Rollや、アイルランドHurdleにてG1を8勝したNichols Canyon、さらにはVelka Pardubicka勝ち馬のNo Time To Loseといった産駒を送り出すことに成功し、その障害種牡馬としての名声を不動のものとしている。Goshenをはじめどうにも気性的に難しいところがある産駒も多いのだが、しかしながらその卓越したパワーとスピードの持続性能は欧州障害競馬において高い適正を示している。日本でもエンシュラウドが2020年のイルミネーションジャンプステークスを勝利しており、残念ながら同馬は障害馬として大成することは叶わなかったものの、日本障害競馬においても馴染みのある種牡馬と言えるだろう。

2022 Scilly Isles Novice Chase Grade 1 L'HOMME PRESSE Wins Sandown Park (Youtube)

Mister CoffeyはChase未勝利馬である。ただ、Scilly Isles Novices Chase (G1)の2着、Fulke Walwyn Kim Muir Challenge Cupの2着、National Hunt Challenge Cup (G2)の3着など、あまり崩れずに走るタイプで、Chaseで唯一大敗したのは昨年のTopham Chase (3)のみである。ただしそのTopham Chase (G3)は途中で飛越のミスもあり、どちらかというと度外視してもいいレースかもしれない。いずれにせよ、ここまであまり崩れずに走ってきていること、さらに一度National Fenceの経験があることはプラスだろう。8歳と年齢的にも上積みが見込める条件で、Rule The Worldに次ぐNovice馬のGrand National (Premier Handicap)の勝利の可能性もありそうだ。ただし、前走で14馬身突き放されているGaillard Du Mesnilと案外ハンデ差は付かなかったというのが現状で、前走の負け方を見るともう少し斤量的な恩恵も欲しかった感もある。Nicky Hendersonはイギリスを代表する名伯楽で、このGrand Nationalは1979年のZongalero及び1987年のTsarevitchで2度の2着に入っているが、未だに勝ち星がない。師は同馬の挑戦に際してそれなりに自信を持っているようだが、どうだろうか*19

 

30. Cloudy Glen (IRE), 10 10st4lb J: Charlie Deutsch T: Miss Venetia Williams (Pedigree)

父Cloudingsの代表産駒は2015年のGrand National (G3)を制したMany Cloudsであり、11st9lbという厳しい斤量を背負っての勝利はイギリス競馬に大きな衝撃を与えた。近年これに匹敵する斤量としては2012年のNeptune Collongesの11st6lb、2019年のTiger Roll及び2010年のDon't Push Itの11st5lbがあるのだが、このMany Cloudsを越える斤量としては1974年のRed Rumの12st0lbまで遡らねばならない。同馬の功績を讃え、同馬が2016年に制したAintreeのListed Chaseは2017年から"Many Clouds Chase"というG2競走として行われている。Cloudingsは他にも成功した障害馬を多数送り出しているが、その中でも面白いのはUltima Handicap Chase (G3)に5年連続で挑み、その5回目で勝利をもぎ取ったVintage Cloudsだろうか。

CLOUDY GLEN posts fairytale triumph in £250,000 2021 Ladbrokes Trophy (Youtube)

Cloudy Glenはその勝負服からわかる通り、Grand National (G3)を制したMany Cloudsを含めて多数の成功を収めたTrevor Hemmingsの持ち馬だが、氏は2021年に亡くなっており、その追悼式が木曜日に行われた週の土曜日におけるLadbrokes Trophy (G3)で劇的な勝利を挙げた馬である*20。Many Cloudsの主な勝ち鞍にはGrand National (G3)のほか、このNewburyの伝統のHandicap Chaseも含まれており、氏にとっても所縁のあるレースということで実に素晴らしい勝利となった。しかしこの"Fairytale"のあとはどうにもいまいちで、今年のHaydockのGrand National Trial (Premier Handicap)で3着に入ったのが最高である。元々どうにも好走と凡走との落差が激しい馬だけに信用しにくいところが大きく、かつ前に行ってペースを作るタイプなだけにスタート直後の乱ペースに巻き込まれるリスクも高く、イギリス競馬ファンにとっては感慨深い勝負服ではあるのだが、とはいえ近走成績からはどうにも強調しにくいというのが正直なところだろう。

 

31. Hill Sixteen (GB), 10 10st2lb J: Ryan Mania T: Sandy Thomson (Pedigree)

父Court Caveは未出走のSadler's Wells産駒だが、Beat Hollowの全弟、母はIrish Oaksの勝ち馬という超良血で、アイルランドにて種牡馬入りしたようだ。その代表産駒としては2019年のBallymore Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬City Islandや、2017年のNeptune Investment Management Novices' Hurdle (G1)の勝ち馬Willoughby Courtなどを送り出している。

SNOW LEOPARDESS records fairytale 2021 Becher Chase success at Aintree (Youtube)

Hill SixteenはSue Smith厩舎、Nigel Twiston-Davies厩舎と渡り歩いてきた馬で、現在はSandy Thomson厩舎に所属している。目立つ実績としては2021年のBecher Chase (G3)で、一度引退して出産したのちに現役に復帰した葦毛の牝馬Snow Leopardessに対して10st0lbの裸同然の軽ハンデを生かして追い詰めた走りは印象的であった。その後も超長距離戦でコンスタントに走っており、今シーズンはKelsonのEdinburgh Gin Chase (Class 2)にてSounds Russianの3着に入っている。2022年のBecher Chase (Premier Handicap)では7着に敗れているが、とはいえ当時は11st12lbとかなり厳しい斤量をなぜか背負わされており、さすがにこれはどうしようもないだろう。2021年のBecher Chase (G3)でも最軽量に近い斤量であった馬がGrand National (Premier Handicap)に10st2lbで出走できるというのはなかなか驚きなのだが、National Fenceへの適性の高さを考えると軽ハンデを生かした走りを期待したいところである。前走のKelsoは大敗に終わっているが、Sandy Thomson厩舎は高齢馬の扱いに慣れており、この陣営としては織り込み済みの大敗だろう。Ryan ManiaはEuroras Ancoreで2013年のGrand Nationalを制した騎手だが、その後一度は体重調整の問題で引退し、そこから現役に復帰している*21

 

32. Gabbys Cross (IRE), 8 10st2lb J: Peter Carberry T: Henry de Bromhead (Pedigree)

父FrammassoneはNureyevに連なる父系の出身のアイルランド生産馬だが、面白いのはその経歴で、イタリアで競走生活を送りGran Corsa Siepi Di Roma (G1)、Gran Corsa Siepi D'Italia (G1)等を含む3つのSiepiのG1競走を制した当時のイタリアHurdleの最強馬である。引退後はイギリスで種牡馬入りしたようだ。障害馬がそもそもイギリスで種牡馬入りすること自体が非常に珍しいケースであるが、イタリア障害競争で活躍した馬がイギリスで種牡馬入りするということ自体、イタリアとイギリスの障害競馬の規模における(もはや10倍を超える程の)大きな差異(及びその水準の差異)を考えれば異例のことで、このFrammassoneという種牡馬は欧州障害競馬においても極めて異色の存在である。Gabbys CrossはFrammassoneの代表産駒である。Gabbys Crossの母系もまた興味深いもので、Gabbys Crossの母Mille Et Une Nuitsはアラブ血量として14.060%を有するAnglo-Arabe de complémentで、祖母MigreはAnglo-Arabian、曾祖父Le Gregol及び曾祖母MiguelineもまたAnglo-Arabianである。どうやら元々サラブレッドの牝馬に対してThalian、Le GregolとAnglo-Arabianの種牡馬が2代に渡って交配されてきたようで、Gabbys Crossの全体のアラブ血量としてはMille Et Une Nuitsの半分、すなわち7.030%となる。

Gabbys Crossはアイルランド24f Handicap Chase路線ではお馴染みになった馬で、昨年Galway FestivalのGuinness Galway Blazers Handicap Chaseにて11st9lbを背負って勝利している。重賞戦線でもそれなりに頑張っているようで、Paddy Power Chase (Grade B)では4馬身差の6着、前走のLeinster National (Grade A)ではEspanito Belloから12馬身差の3着に入っている。あまりG1戦線でどうこうという馬ではなく能力的にはHandicap Chase向きといったタイプのようで、Leinster National (Grade A)でも11st12lbを背負っての3着というのは立派な結果だろう。馬場はどちらかというと良馬場の方がいいようで、さすがに一気の距離延長やNational Fenceへの対応等課題は多いのだが、この馬の特殊な血統背景を考えると10st2lbというほぼ裸同然の軽量を生かして少しでも頑張って欲しいところである。

 

33. Recite A Prayer (IRE), 8 10st2lb J: Jack Foley T: Willie Mullins (Pedigree)

父Recitalはフランスやアイルランドカタール等で競走生活を送った馬で、引退後はアイルランド種牡馬入りしているようだ。しかしながらあまり産駒数は多くはないようで、活躍馬もこのRecite A Prayerが目立つ程度である。Recitalの父Montjeuは言わずと知れた大種牡馬で、Montjeu自身のNational Hunt Sireとしてのポテンシャルはもちろんのこと、その中にはMotivator、Scorpion、Walk In The Park、Authorized、Montmartre、Fame And Glory、Jukebox Juryといった成功した種牡馬が多数含まれており、Sadler's Wellsの分枝の中では最も勢いのある系統となっている。

Recite A Prayerは2022年のKillarney Nationalの勝ち馬。Novice卒業となった昨年の夏は精力的にレースに出走しており、Kerry National (Grade A)では2着、Cork Grand National (Grade B)では3着に入っている。しかしBecher Chase (Premier Handicap)ではあまりいいところなく大敗すると、その後のPaddy Power Chase (Grade B)でも大敗に終わっている。どうにも大敗と好走のパターンが読みにくいタイプではあるのだが、少なくとも馬場にはさほど注文は付かなそうであること、National Fence自体には経験があること、どちらかというと暖かい時期の方がよさそうなタイプというのはいいことだろう。とはいえここ2走の走りを踏まえるとどうにも強調しづらいというのも事実で、10st2lbの軽量を生かしてどこまでといったところだろうか。

 

34. Eva's Oskar (IRE), 9 10st2lb J: Alan Johns T: Tim Vaughan (Pedigree)

EVA'S OSKAR takes a starring role with victory at Cheltenham - Welsh National next? (Youtube)

Eva's Oskar is running in the Grand National! (Youtube)

OscarではなくOskarであり、Oscarではなく上記Shiroccoの産駒である。Eva's OskarはNovice上がりの馬で、今シーズンは11st12lbを背負ってCheltenhamのDahlbury Handicap Chase (Premier Handicap)を制している。その後はSandownのClass2、及びNewcastleのEider Chaseでいずれも12st0lbを背負って勝ち馬から15馬身程度離れた入線となっている。比較的良馬場からSoft程度の馬場で結果を残してきたタイプで、Eider Chaseでも残り2障害までは頑張っていたようにあまり距離的な不安がないことは好材料だろう。実績を考えると、この近走内容で10st2lbで出走が可能というのはそれなりに興味深い一頭になりそうだ。ただし、どうにも前々で運ぶタイプなだけに他の同型馬の動向等の展開に左右される面はありそうで、特にこのような大舞台ともなるとこの馬も含めて俄然張り切って飛ばしてくる馬も現れてくるだけに、こればかりはなんとも不確かなところはありそうだ。

 

35. Our Power (IRE), 8 10st2lb J: Sam Twiston-Davies T: Sam Thomas (Pedigree)

父Power*22Danzig - Green Desert - Oasis Dreamに連なる系統の出自で、元々はアイルランド種牡馬入りしたものの、2019年からはオーストラリアへと移動しているようだ。活躍産駒としてはこのOur Powerが代表的だが、その他にはWinning Fair Juvenile Hurdle (G3)の勝ち馬Way Back Homeが挙げられる。Oasis Dream自身もSvenskt Grand Nationalの勝ち馬Reinventを送り出しているが、その産駒もまた種牡馬としてはちらほらと活躍馬を送り出しており、最近ではGran Criterium D'Autonno (G1)を勝利したLemhi Passの父Morpheus、Champion Bumper (G1)を勝利したA Dream To Shareの父Muhaararが挙げられる。

Our Powerは今シーズンはNovice上がりとなる馬で、AscotのLondon Gold Cup (Premier Handicap)、KemptonのCoral Trophy (Premier Handicap)と連勝してきている。基本的には後方からまくり上げてくるレース運びを得意とする馬で、主に良績は良馬場に集中している。昨年はこのKemptonのあとはCheltenhamのUltima Handicap Chaseに向かったようだが、今シーズンはそれらをスキップしてこちらに向かってきた。今シーズンに入って24fにて一気に頭角を現してきたように調子の良さという意味では強調できる一頭で、ここまで余裕のある臨戦過程、10st0lbという裸同然の斤量で滑り込むことができたというのはなかなか面白い材料だろう。なお、この馬の共同所有者であるDai Waltersは昨年11月にヘリコプターの墜落事故に巻き込まれ、一時は集中治療室にいたようだが、その後無事に回復してこのOur Powerの挑戦を楽しみにしているようだ*23

 

36. Dunboyne (IRE), 8 10st2lb J: Jack Tudor T: Gordon Elliott (Pedigree)

上記Yeatsの産駒。キャリアとしてはex-pointerという類で、今シーズンからChaseに転向している。あまりBeginners Chaseではうまくいかなかったようだが、11月のHandicap Chaseを快勝してChase初勝利を挙げた。その後もThyestes Handicap Chase (Grade A)で2着、Fulke Walwyn Kim Muir Challenge Cupで11st10lbを背負って4着と、なかなかいいレースを見せている。ただ、どうにも重馬場専用のようなところがあり、Maiden Hurdle時代にもCapodannoやBob OlingerといったのちのG1馬の2着に入っていたりもするのだが、それらはいずれもHeavyでの実績であった。馬の状態や斤量面を考えればHeavyであればチャンスがある可能性はありそうだが、とはいえ一方で脚の速い馬ではないということはここまでの実績から明確であり、条件次第では手も足も出ないという可能性もありそうだ。

 

37. Francky Du Berlais (FR), 10 10st2lb J: Ben Jones T: Peter Bowen (Pedigree)

Francky Du Berlais: Betway Summer Plate Handicap Chase | Racing TV (Youtube)

上記Saint Des Saintsの産駒。その実績はまさに夏馬といったところで、Market RasenのSummer Plate (G3)を2021年、2022年と連覇している。2022年の夏はこのSummer Plate (G3)のほか、UttoxeterのSummer Cup Handicap Chase (Listed)で3着に入るなど結果を残している。しかし今シーズンはなぜか冬場もレースに出走しており、最高着順は1月のGlenfarclas Cross Country Handicapで5着と振るわない。ただ、Cheltenham FestivalのGlenfarclas Cross Countryではそれなりにレースに参加したものの最終障害で飛越拒否に終わっており、シンプルに成績表の着順から受ける印象よりはまともな可能性もありそうだ。National Fenceについても昨年4月のTopham Chase (G3)での4着の実績のほか、Grand Sefton Chase、Becher Chase (Premier Handicap)への出走歴もあり、いずれも完走を果たしていることはプラス材料だろう。イギリス競馬としてはシーズンオフの夏に活躍した馬ということでどうしても軽視されがちなのだが、とはいえ4月というのはこの馬にとって調子を上げてくる頃合いであり、なぜか冬場にレースを使った反動がなければ案外軽視はできない一頭である。

 

38. Fortescue (GB), 9 10st2lb J: Hugh Nugent T: Mrs Henry Daly (Pedigree)

Royale Pagaille pulls out all the stops to retain his Peter Marsh crown - Racing TV (Youtube)

上記Shiroccoの産駒。イギリス24f超のHandicap Chaseではお馴染みの馬で、2022年2月のAscotのSwinley Chase (Listed)の勝ち星が目立つところである。ただ、昨年のGrand National (G3)は早々に置いていかれたうえに第27障害で落馬に終わっている。今シーズンはひとまず11st9lbを背負ってBecher Chase (Premier Handicap)では4着と頑張っているのだが、とはいえChepstowのWelsh Grand National (Premier Handicap)では途中棄権、Grand National Trial (Premier Handicap)でも勝ち馬からだいぶ離れた5着と、さっぱりレースに参加できずに終わった昨年と比べて大きな上積みがあるかというとやや微妙なところではある。Swinley Chase (Listed)ではかなり厳しいバテ合いを制したということで、ひとまず2回National Fenceを経験したこと、及び昨年の10st6lbからさらに斤量が楽になることに期待したいといったところだろうか。

 

39. Back On The Lash (GB), 9 10st2lb J: Adam Wedge T: Martin Keighley (Pedigree)

父MalinasはLomitasの産駒で、代表産駒として目立つのは2021年のScottish Grand National (G3)を制したMighty Thunder、Faugheen Novice Chase (G1)の勝ち馬Master Mcsheeだろうか。Lomitas自身もSerionlohnやSaltas等の活躍馬を輩出しているが、その産駒もなかなか優秀で、Wielka Wroclawskaの勝ち馬HabanaやWielka Partynickaの勝ち馬Trimを送り出したBelenus、2017年のAustrian Derbyの勝ち馬でGran Corsa Siepi Di Merano (G1)を勝利したProud Borisを送り出したSilvanoなど、複数の成功した種牡馬が含まれている。Niniskiの系統にはこのLomitasのラインのほか、Alflora、Assessor、Hernand - Sulamaniなどの成功した種牡馬が存在し、欧州障害競馬では一定の存在感を示している。

GO ON LAD! The Keighley family roar Back On The Lash to victory in the cross-country at Cheltenham. (Youtube)

Back On The LashはCheltenhamのCross  Country Specialistで、今年1月のGlenfarclas Cross Country Handicapのほか、2021年11月のGlenfarclas Cross Country Handicapを制している。近年はほぼこのCheltenhamのCross Countryばかりを専門に使っており、どうにもそれ以外のレースでの実力というのがわかりにくいところではあるのだが、とりあえず昨年11月のJewson Handicap Chase (Premier Handicap)ではDoes He Knowから僅差の3着に入っており、一般的なChaseではさっぱりというわけではないようだ。Cheltenham Festivalの同レースではさっぱりレースに参加できず途中棄権に終わったが、これは11st7lbとこの馬にとっては重い斤量であったことに加え、前がかなり極端なペースを作ったことが原因であり、今回は再度裸同然の軽量に戻るということであまり気にしなくてもいいかもしれない。課題はやはり相手関係だろう。Martin Keighleyの管理馬としてやはり印象深いのはCheltenhamのCross Country SpecialistのAny Currencyで、このNational Fenceへの対策ということについては不安はないだろう。

 

40. Born By The Sea (IRE), 9 10st2lb J: Phillip Enright T: Paul John Gilligan (Pedigree)

上記Born To Seaの産駒。Born By The Seaはここまで19戦して2勝という成績を残している馬だが、重賞でどうこうという結果を残しているわけではなく、勝ったのもWetherbyのClass4と7月のGalwayのHandicap Chaseである。比較的長い距離の方がよさそうな感があるのだが、とはいえ今シーズンの使われ方もどうにも一貫していない。どうにももとより成績も安定しない馬で、今シーズンは2回も16f戦を使って馬に何かしらの刺激を与えようとした感もあるのだが、とはいえ前走のCheltenhamのMagners Plate (Premier Handicap)もいいところなく大敗と、あまりその効果も出ていないような感がある。とりあえず馬に刺激もあって距離が長くなってよくなるという可能性も否定はできないのだが、とはいえさすがにこの成績からここでいきなり好走というのは色々なものがあまりにもうまくいきすぎないと考えにくいというのが現状だろう。

 

以下、出走取消済み。

●. Royale Pagaille (FR), 9 11st8lb J: ● T: Venetia Williams (Pedigree)

父Blue BresilはフランスにおいてHaies / Plat兼用で走った馬で、Haiesの重賞においては複数の入着歴があるほか、2009年のPrix Alain Du Breil (G1)では5着に入っている。その産駒には比較的良質なスピードを武器とする馬が多いが、その代表産駒としては2021年のGrande Course De Haies D'Auteuil (G1)にて2着に30馬身差をつけて圧勝するなど、当時のフランスHaiesでは手が付けられない強さを誇ったフランス最強牝馬L'Autonomie、そして2023年のChampion Hurdle (G1)での圧巻の勝利をはじめ、近年のイギリスHurdle路線で圧倒的なパフォーマンスを示しているConstitution Hillが挙げられる。Blue Bresilは元々フランスで繋養され、その後イギリス、アイルランドと移動しているが、Royale Pagailleはフランス時代の産駒となる。いずれにせよ、欧州障害競馬において高いパフォーマンスを発揮した種牡馬の産駒がこれほどまでに圧巻のパフォーマンスを見せるというのは喜ばしいことである。

Royale Pagaille pulls out all the stops to retain his Peter Marsh crown - Racing TV (Youtube)

Royale Pagailleはサラブレッドのex-french Steeplechaserだが、フランス時代は特段目立った実績があるわけではない。イギリスに移籍してから頭角を現してきた馬で、主な勝ち鞍としてはHaydockのPeter Marsh Chase (G2)が挙げられる。今シーズンはKing George VI Chase (G1)でBravemansgameの2着、さらにCheltenham Gold Cup (G1)では6着に入ってここに挑んできた。どちらかというと重たくなった馬場の平坦なコースでだらだらと走ってなだれ込んでくるタイプで、Cheltenhamへの適性や落馬による不利等を踏まえるとCheltenham Gold Cup (G1)の敗戦自体は仕方のないものだろう。良馬場でもある程度対応はできるようで、CheltenhamからAintreeへのコース替わりもプラスと考えられるが、とはいえ11st8lbというのは少々見込まれたような印象があることと、ここまであまりハンデ戦での実績が多くないことは気がかりな材料である。イギリス移籍後は落馬のない点はプラス材料だが、一方で3m3f以上の経験がないという点も未知数である。

 

●. Envoi Allen (FR) (AQPS), 9 11st8lb J: ● T: Henry De Bromhead (Pedigree)

父Muhtathirは遡ればSharpen Up - Native Dancerに連なるラインの出自となる。Sharpen Upに連なる系統の中ではMuhtathirは障害種牡馬として成功した馬で、このEnvoi Allenのほか、2014年のDial-A-Bet Chase (G1)を制したTwinlight、2010年のPrix Alain Du Breil (G1)の勝ち馬Salder Roqueなどが代表産駒として挙げられる。また、Muhtathirの産駒であるDoctor Dinoも種牡馬として成功しており、2020年及び2021年とGrand Steeplechase De Paris (G1)を連破したDocteur De Ballonを送り出した。Doctor Dinoの成功を踏まえると、このMuhtathirの系統は今後フランス障害競馬において注意すべき存在となる可能性がありそうだ。Muhtathir自身は2020年に亡くなっている。Envoi Allenの母ReactionはフランスCross Countryで2勝を挙げたSelle Francaisで、祖母HesmeraldaはPompadourのGrand Crossの勝ち馬、さらに遡っていくとGrand Course De Haies D'Auteuilの勝ち馬Verdiが種牡馬欄にいたりと、なんとも味のある母系である。ただし基本的にはSelle Francaisの牝馬に代々サラブレッドが交配されてきたというパターンで、1935年生まれのNapolitaineの父CorymbeもまたWoodpeckerに連なるサラブレッドである。上記の牝系を踏まえ、Envoi AllenはAQPSとなる。

ENVOI ALLEN flies high again following victory in Grade 1 Ryanair Chase at Cheltenham (Youtube)

Einvoi Allenは元々PtPからデビュー後14連勝という素晴らしい快進撃を見せた馬で、その中にはNHF、Novice Hurdle及びNovice Chaseにおける5つのG1勝ちが含まれる。近年屈指の能力馬としてその素質を高く評価されていた馬だが、Gordon Elliott厩舎のいざこざに巻き込まれる格好で現厩舎に移籍、移籍初戦となったMarsh Novices' Chase (G1)はまさかの落馬、続くPunchestownのDooley Insurance Group Champion Novice Chase (G1)では途中棄権に終わっている。その後は3つのG1勝ちを含めて結果は残しているが、とはいえさっぱりいいところを見せずの大敗もあったりと、どうにも信用しきれないというのが現状だろう。今シーズンはDown RoyalのChampion Chase (G1)、さらにRyanair Chase (G1)と2つのG1勝ちを収めているが、一方でKing George VI Chase (G1)では大敗しており、Ryanair Chase (G1)も人気を集めたShishkinの勝負所での飛越のミスや、明らかに距離不安があった上に全盛期を過ぎたChacun Pour Soiのペースに助けられたりと、G1勝ちの数を額面通りに受け取れないというのが現状である。距離的にも20fクラスでの実績が多いことを踏まえると、24f以上が本質的に向くかというと微妙なところで、多頭数のハンデ戦の経験もなく、この馬自身の持っている能力は高いものの、それなりに難しいタスクを要求されそうだ。

 

●. The Shunter (IRE), 10 10st11lb J: ● T: Emmet Mullins (Pedigree)

Protektorat denies Hitman in the same silks to win the SSS Super Alloys Manifesto Novices' Chase (Youtube)

上記Stowawayの産駒。元々Greatwood Hurdle (G3)、さらにCheltenham FestivalのPaddy Power Plate Handicap Chase (G3)を勝利しHandicap戦で頭角を現してきた馬で、上記Cheltenham Festivalで勝利した2021-22シーズンはその後のAintreeのManifesto Novices' Chase (G1)にてProtektoratの2着にも入っている。ただしどうにもそれ以降はいまいちで、2022年の5月に平地競争を勝利したのが目立つのみで、今シーズンもGalway Plate (Grade A)は大敗、前走のKelsoのPremier Chase (Listed)も勝負には加われず、逃げて最後苦しくなった13歳馬Wishing And Hopingを交わしたのみと、2021年の春ごろまでにHandicap路線で見せたパフォーマンスには戻り切らないのが現状である。昨年のこの競走を勝利したEmmet Mullins調教師の管理馬であり、Noble Yeatsと同様に何かしらの考えがある可能性もありそうだが、とはいえ近況のレース成績から考えるとさすがに厳しそうだ。また、結果を残してきたのが16~20fクラスであるだけに、距離的にも不安が残るというのが正直なところだろう。なお、同馬は2022年の中山グランドジャンプに遠征するプランもあったようだが*24、結局予備登録もなく実現はしていない。

 

●. Quick Wave (FR), 10 10st11lb J: ● T: Venetia Williams (Pedigree)

父GentlewaveはMonsunの産駒で、2006年にイタリアダービーを勝利、アイルランドダービーでもDylan Thomasの2着に入っている。元々はフランスで種牡馬入りし、その後イギリスに渡ったようだが、現在はTrophée National du Crossのスポンサーであるフランス"Haras Du Lion"で繋養されているようだ。代表産駒としてはGlenfarclas Cross Country、Grand Steeplechase Cross Country de Compiegne、Grand Cross de Pau等を勝利し、当時のフランス・イギリスCross Countryで無敵を誇ったEasyslandが挙げられる。残念ながら同馬はイギリス移籍後はさっぱりな成績に終わっているが、全盛期に見せた破天荒なレース振りはGrand National (G3)を連覇した名馬Tiger Rollすらを圧倒するものであった。他にもGentlewaveはKerry National (Grade A)の勝ち馬Poker Party、Prix Du President De La Republique (G3)の勝ち馬Fanfron Specialなど、なかなか味のある産駒を送り出しているようだ。

Two BRAVE mares battle out the Grand National Trial at Haydock, Quick Wave & Snow Leopardess (Youtube)

Quick Waveは今年で10歳になる牝馬である。ここまでのキャリアハイの成功は2023年のHaydockのGrand National Trial (Premier Handicap)で、28fの超長距離戦においてSnow Leopardessとの牝馬による一騎打ちを制したそのレースは印象的なものであった。昨年のLondon Nationalも制しているように超長距離戦はお手の物で、基本的にこの距離延長に対する不安はないだろう。特にそのGrand National Trial (Premier Handicap)では11st8lbの厳しい斤量を背負っての勝利というのは大したものである。ただし基本的には重い馬場よりも軽い馬場の方がよさそうで、かつ前走のGrand National Trial (Premier Handicap)もSnow Leopardessでもついていけていたようにさほど速いペースではなかっただけに、極端なペースが発生したときにどこまでついていけるかという点には注意した方がいいかもしれない。

 

●. Gin On Lime (FR) (AQPS), 7 10st4lb J: ● T: Henry de Bromhead (Pedigree)

父Doctor DinoはMuhtathirの産駒で、その代表産駒はやはりGrand Steeplechase De Paris (G1)を連破したDocteur De Ballonだろう。故障を乗り越えてきた往年のSteeplechaserが2020年及び2021年のGrand Steeplechase De Paris (G1)で見せたパフォーマンスは圧巻で、他馬が次々と脚が上がって苦しくなる中、この馬だけがゴールに向かって最後まで加速を続けたロングスパート能力は驚異的なものであった。Doctor Dinoは他にも成功した産駒は多く、Morgiana Hurdle (G1)等を楽勝したState Manをはじめ、La Bague Au Roi、Sceau Royal、SharjarなどのG1馬に加え、PauのCross Countryで強い競馬を見せたSaint GodefroyもDoctor Dinoの産駒である。なお、Doctor Dinoの半弟でAuthorized産駒のBandeは日本で競走生活を送ったのち種牡馬入りしたが、その後フランスへ輸出されている。日本ではほぼ飼い殺しのような状態であったが、障害競馬大国であるフランスでは大いに人気を集めているようで、これ程の可能性を秘めた馬が正当な評価を受ける環境に戻ったことを喜ばしく思う。Gine On Limeの母Quiche LorraineはSelle Francaisだが、例によってSelle Francaisの牝系にサラブレッドが交配されてきたというパターンで、1945年生まれのBoucle Dorという馬の父Lingot DorがようやくSelle Francaisのようだ。

Gine On Limeは2021年のO'Dwyer Steel Dundrum Novice Chase (G3)の勝ち馬だが、Novice ChaseのG1戦線ではあまりうまくいかなかったようで、その後はGalway Plate (Grande A)、Kerry National Handicap Chase (Grade A)と活躍の場を移している。Kerry National (Grade A)では4着に入りこの路線でも戦える可能性を示しているが、初のCross CountryとなったGlenfarclas Cross Countryでは第2障害で早々に落馬に終わっている。今年で7歳となる牝馬であることから上がり目自体はありそうで、Kerry National (Grade A)では初の24f戦で4着と頑張ったことは評価してよいだろう。冬場はレースに使わず、前走のCheltenhamも全くレースになっておらずと馬がフレッシュなことはいいことである。とはいえどうにも経験不足な面は否めず、あくまでこの軽量を生かしてどこまでといったところだろうか。

 

●. Defi Bleu (FR) (AQPS) (1.760%), 10 9st12lb J: ● T: Gordon Elliott (Pedigree)

Defi Blueの父Saddler MakerはSadler's Wellsの産駒だが、欧州障害競馬では大成功を収めている種牡馬で、その産駒の中にはBristol De Mai、Apple's Jade、Messire De Obeaux、Gerri Colombeなど、多数の活躍馬が含まれている。特にHaydockでは無敵の強さを誇ったBristol De Mai、アイルランド・イギリスで多数のG1勝ちを収めたApple's Jadeの活躍は目覚ましいものがあった。Saddler Makerの産駒には多数のAQPSが含まれているが、日本でもAQPSとして中山グランドジャンプに予備登録したことで大いに話題を集めたアイルランドのGevreyの父として有名だろう。Defi Blueの母Glycine BleueはAnglo-Arabe de complémentで、曾祖母Etoile Bleueの父Urfは遡ればTourbillonに連なるAnglo-Arabianとなる。一方で母方はFrance GalopによればDemi Sang*25となるようだ。

Defi Blueはアイルランドの24f超Handicap Chase路線ではすっかりおなじみになった馬で、勝ち星としてはBeginners Chase及びHandicap Chase程度に限られるのだが、とはいえ今シーズンはCork Grand National (Grade B)で2着、Grand National Trial Handicap (Grade B)で3着と、それなりに結果を残している。Thyestes HandicapやPaddy Power Chaseではさっぱりいいところがなかったのだが、とはいえ28f戦で結果を残しているということを考えると、24fすらこの馬にとっては距離的には短い可能性すらある。Saddler Makerの産駒は性能的にCheltenhamは合わないのだが、そのCheltenhamでも11st1lbを背負ってFulke Walwyn Kim Muir Challenge Cupで5着に頑張っていることを考えると、馬の調子として悪いとかいうことではなさそうで、むしろこの馬の高い持久力を想定した方が良いだろう。ほぼ最軽量に近い斤量での出走が叶うことを考えると無視できない一頭である。ただしSaddler Makerの産駒はどうにも重馬場を得意とするタイプが多く、レース条件によっては手も足も出ないという可能性もありそうだ。

 

●. Battleoverdoyen (IRE), 10 10st4lb J: ● T: Gordon Elliott (Pedigree)

Sadler's Wells産駒のDoyenは障害種牡馬として成功した一頭で、その代表産駒として挙げられるのは2021年のWexfordでMaiden Hurdleを勝利し、アメリカの伝説的な調教師であるJonathan Sheppard調教師の後を継いだKeri Brion調教師に初のアイルランド障害競走における勝利をプレゼントしたThe Mean Queenが挙げられるだろう。そのThe Mean Queenアメリカに戻ると、2021年のJonathan Sheppard Handicap (G1)、Lonesome Glory Handicap (G1)、さらにGrand National Hurdle Stakes (G1)とアメリカHurdle戦線を席巻する3連勝を挙げたことでその年のEclipse Winnerに輝いた。

2019 Neville Hotels Novice Chase - Racing TV (Youtube)

Battleoverdoyenは元々Novice時代は高い能力を示してきた馬で、Lawlor's of Naas Novice Hurdle (G1)、Neville Hotels Novice Chase (G1)の勝ち星がある。しかしそれ以降はさっぱりで、2021年7月の平場戦を制したことを最後に勝ち星からは遠ざかっている。今シーズンはすでに11戦を消化しているがその殆どで大敗に終わっており、前走のGrand Annual Challenge Cup (Premier Handicap)でも殆ど走る気を見せず途中棄権となっている。ここまで距離延長で目立って結果を残したということもなく、元々はGigginstown House Studの持ち馬であったがすでにオーナーは変わっていることを考えると、元の馬主のこの馬に対する評価というのも推して知るべしといったところだろう。昨年のTopham Chase (G3)の経験はあることはプラス材料だが、近走成績からはさすがに厳しく、しかも昨年は夏場からレースに使っていたことも踏まえると馬の状態面でも不安が残るというのが現状である。

*1:https://news.paddypower.com/guides/2023/02/02/grand-national-horse-win-top-weight/

*2:https://www.racingtv.com/news/ruby-walsh-s-grand-national-tips-and-50-000-pick-5-selections

*3:https://www.sportinglife.com/racing/news/the-big-dog-ready-to-show-grand-national-bite-at-aintree/208637

*4:https://www.france24.com/en/live-news/20230414-cancer-sufferer-harrington-hopes-to-realise-lifetime-ambition-in-national

*5:【原神】エピソード セノ「命により、罪を課す」 - YouTube

*6:2023 Grand National: Longhouse Poet set for Aintree return - Liverpool Echo

*7:https://news.williamhill.com/horse-racing/barry-geraghty/grand-national/aintree-day-three-preview/

*8:https://www.sharkhanlonracing.ie/about-me

*9:https://www.mirror.co.uk/sport/horse-racing/horse-lifetime-hewick-walks-bar-28374057

*10:https://www.bloodhorse.com/horse-racing/articles/267861/american-owner-bids-to-win-grand-national

*11:https://www.racingpost.com/news/ireland/felix-de-giles-booked-for-roi-mage-in-grand-national-as-james-reveley-loses-race-to-be-fit-as3VB7k5HYsB/

*12:https://www.racingtv.com/news/minella-trump-aiming-to-enhance-mccain-family-s-national-record

*13:https://grandnational.horseracing.guide/10410/thomas-gibney/

*14:https://www.racingtv.com/grand-national/news/grand-national-favourite-carries-hope-of-university-student

*15:https://www.telegraph.co.uk/racing/2023/04/14/grand-national-2023-favourite-corach-rambler-student-owner/

*16:https://www.theguardian.com/sport/2023/apr/11/corach-rambler-national-hope-who-has-already-proved-worth-the-gamble

*17:https://www.mirror.co.uk/sport/horse-racing/grand-national-2023-meet-corach-29695371

*18:https://www.standard.co.uk/sport/horse-racing/corach-rambler-grand-national-2023-b1074199.html

*19:Nicky Henderson confident Mister Coffey has realistic chance of breaking Grand National duck | PlanetSport

*20:https://broughscott.com/cloudy-glen-wins-ladbrokes-trophy-in-late-owners-colours/

*21:https://www.racingtv.com/news/hill-sixteen-could-give-ryan-mania-the-perfect-national-encore

*22:パワー(チェンソーマン) (ちぇんそーまんのぱわー)とは【ピクシブ百科事典】 

*23:'Everything is going the right way' for Grand National hope Our Power's owner Dai Walters after helicopter crash | Racing Post

*24:https://www.racingpost.com/news/features/interviews/we-try-to-keep-everyone-guessing-a9dde1f88tZ2/

*25:https://fr.wikipedia.org/wiki/Demi-sang_(cheval)