にげうまメモ

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16/03/20 National Hunt Racing

*Carlisle Good to Soft (Good in Places last mile)

Veterans' Handicap Chase (C2)

10歳以上限定レース。近年BHAはベテラン馬限定戦に力を入れているらしい。馴染みのベテランが長く無事に活躍することは英愛障害競馬が人を惹きつける一つの要因だろう。

レースは12歳馬Barafundleが逃げる展開。好位にRestless Harry、Scotswell、Haward's Legacy。中段からMr Moonshine、Milborough、Firth of the Clyde。ややBarafundleは後続を離し気味に逃げる。ペースに戸惑ったのか、早々に後方に居たHarry the Vikingにムチが飛ぶ。この馬はだいたいいつもこうなのだが、今回はそのまま抵抗することなく第10障害でPU。第4障害辺りで前にMr Moonshineが取りつき、好位で追走。第7障害辺りでペースを落としたBarafundleに代わってMr Moonshineが先頭に。この辺りからやや馬群がばらけてくる。14歳馬Tullamore Dew、Settledoutofcourtも遅れる。そのままMr Moonshineが軽快に飛ばし、付いてくるのはMilborough、Firth of the Clyde。残り4障害辺りからMr Moonshineの手ごたえがなくなり、最終障害で先頭に立ったFirth of the Clydeが押し切った。2着にはMilborough。

Firth of the ClydeはListed2着がある程度の馬だが、どうやらここに来て調子を上げているようだ。前走に引き続き2連勝。11st12lbを背負っての勝利は価値がある。Milboroughはどうやら良馬場がいい馬のようだ。やや上のクラスでは荷が重いようだが、この辺りのハンデ戦ならば勝機はあるだろう。Mr Moonshineは積極的な競馬を見せるも最後脚が上がり3着。さほど持続的なスピードに長けた馬ではないので、脚の使いどころが難しい。ただし今シーズンはHurdleを勝利してのこのパフォーマンスなので調子は良いのだろう。

 

Open Hunters' Chase (C6) 3m110y

アマチュア騎手限定戦。とはいえ馬はかなりのベテラン揃いであり、ここを使ってGrand Nationalなど長距離の大レースに向かう馬も存在するので見逃せない路線である。ここでは2011 Cheltenham Gold Cup (G1)の勝ち馬Long RunがここからGrand Nationalを目指すということで話題になっていた。

レースはOckey de Neulliacが先頭をうかがう構えも、第3障害でLong Runが踏み切りの遠い飛越を見せ、先頭に代わる。そのまま軽快に飛ばす展開だが、第10障害でLong Runがミス、第11障害でも踏み切りをミスし同馬は後退。代わって先頭に立ったOckey de Neulliacを最後番手にいたRobbieが差し切り勝利。Long Runは最後離れた後方を追走していたBarachois Silver、Durban Goldにも交わされ5着。

Robbieは今シーズンからこの路線に参戦してきた12歳馬。勝ち鞍はC3のみだが、飛越の安定さはさすがのものがあった。この路線の常連の14歳馬Ockey De Neulliacは惜しい2着。やや一線級に入ると荷が重いようだが、この辺りならば今後も楽しみだろう。期待されたLong Runは相変わらず集中力を欠いたのか飛越に雑なところが見られ、途中のミスでリズムを崩して大敗。

 

なお、この大敗でLong Runは引退が決まったらしい。折角なのでLong Runの思い出でも書いておこう。

Long Runは元々はフランスの馬だが、2009年からNicky Henderson師の下に移籍。RSA Chase (G1)こそWeapon's Amnestyの3着に敗れるも、Feltham Novices' Chase (現Kauto Star Novices' Chase) (G1)勝ちなどいきなり実績を残す。翌シーズンはKauto Starが圧倒的人気を集めたKing George VI Chase (G1)でこれを破る大金星を挙げ、一躍頭角を現す。続いて迎えた長距離Chaseの最高峰、Cheltenham Gold Cup (G1)ではKauto Starが2周目から先頭に立ち、これに前年の勝ち馬Imperial CommanderとChina Rockがプレッシャーを掛け、非常に厳しいペースになる中、Kauto Star、Denmanといった伝説的名馬を破り優勝。6歳という若齢にして長距離Chaseの頂点に立つという快挙を成し遂げる。

これは今見ても凄いレースである。Midnight Chaseがスローで逃げ、Kauto Starが2周目から先頭に立ち、徐々にペースを上げていく。ここにImperial CommanderとChina RockがプレッシャーをかけることでKauto Starとしては想定以上に早くからペースを上げざるを得なくなる展開。Imperial Commanderとしてはまさに真っ向勝負を挑んだ形だろう。これをDenmanが捕まえに掛かったところを、Long Runが襲い掛かる。まさに英愛障害競馬における超一流馬が死力を振り絞っての直線だろう。Kauto Starに絡んでいった二頭は完全に脚が上がって途中棄権。Kauto Starは完全に脚が上がっている。Denmanも相当苦しがっている。それを下したLong Runの持久力と精神力は人智を超えているとしか言いようがない。

Long Runの11/12シーズンはG2勝ち一つのみとやや不甲斐ないものになってしまったが、Betfair Chase (G1)、King George Vi Chase (G1)ではKauto Starの2着、Cheltenham Gold Cup (G1)では悲運の名馬Synchronisedの3着とその実力を見せ付ける。12/13シーズン初戦はSilviniaco Contiの2着に敗れるも、King George VI Chase (G1)では再びビッグタイトルを手にすることになる。

水田馬場で行われたKing George VI Chase (G1)。まさに死力を尽くしたレースとなった。レースはLong Runが好位からレースを進めるも、中段からスルスルと抜け出してきたCaptain Chrisが最終障害の飛越で勝り、一時は決定的な差をつける。しかしこれを、完全に脚が上がった状態で、気力だけで反撃を試みる雄姿はまさに超一流馬のそれだろう。並の馬ならこの時点で諦めている。Captain Chrisは故障さえなければG1を取れていた程の馬。この馬が完全に脚が上がりながらも何とか逃げ込みを図るところを、これを最後差し切ったLong Runの精神力は凄まじいものがあるだろう。

13/14シーズンは初戦、2戦目ともに精彩を欠き、連覇を狙ったKing George VI Chase (G1)は落馬。その後のC2を勝って挑んだGrand Nationalも飛越に集中力を欠き落馬と残念な結果に終わってしまった。2014の春にパリ大障害に挑むも、全盛期の力はなく、また障害も合わず大敗。その後は故障もあり長期休養に入っていた。何度か復帰の報は出たがなかなか復帰は叶わず、ようやく2年ぶりの出走となったここでも残念ながら往年の力はなく大敗となってしまった。引退は妥当なところだろう。

それにしても、決して上手いとはいい難い飛越、特筆すべきものでもないトップスピードでありながら、強靭な精神力と持久力の持ち主であったLong Run。Kauto StarやDenmanと言った歴代の名馬に比べると、残念ながら晩年のパフォーマンスが評価を下げている感はあるが、それでもこれらと互角以上に渡り合った実力は確かなものがある。例えば全盛期のLong Runが昨年Coneygreeが逃げ切ったCheltenham Gold Cup (G1)に出ていたら? 2周目からの超ロングスパート合戦になった昨年のKing George VI Chase (G1)に出ていたら? 想像は尽きない。確かにそれは実現しなかった対戦だが、これを想像するのも競馬の楽しみの一つだろう。輝かしい栄光と苦しい挫折、そのどちらも味わった馬。同馬が幸せな余生を過ごすことを祈ってやまない。