にげうまメモ

障害競馬の個人用備忘録 ご意見等はtwitter(@_virgos2g)まで

24/04/13 National Hunt Racing - Grand National Result

Aintree (UK) Soft (Good to Soft in places)

Randox Grand National Handicap Chase (Premier Handicap) 4m2f74y (National)

Class 1, 7YO plus, Winner £500,000

毎年恒例のGrand National (Premier Handicap)の出走馬に関する短評(約50000字)については以下の記事を参照されたい。当記事等に際して、改めてこのようなマニアックで不親切なブログにご訪問等頂いた方には感謝を申し上げる。中の人のやる気の問題で初心者向けに解説する気など皆無な内容で、せめてものユーザビリティの向上を目的として今年は冒頭に目次を付けただけ(所要時間1分)で中の人は満足した程度である一方で、今年はXにて非常に丁寧かつ詳細に作り込まれた日本語版の出走表を作成した方がいらしたりと*1、昨今はこうしてこのAintreeのGrand National MeetingやCheltenham Festival等、スポーツとしての側面を含めて高度に発達した欧州の障害競走が日本人にとっても身近なものとなっていることは喜ばしいことであろう。幼少期にはラジオで日本の競馬中継を聴きながらレースの情景を想像した経験や、中山グランドジャンプ等に関連して競馬番組で極めて断片的に放映された海外の障害競馬の映像を憧憬の念を持って視聴した経験を持つ人間としては、こうして遠い国の競馬をリアルタイムで、それも相当量の事前情報を持って容易に観戦することができるということには改めて隔世の感を覚えるものである。

24/04/13 National Hunt Racing - Grand National Entries (にげうまメモ)

なお、この週のAintree競馬場のGrand National (Premier Handicap)以外の各国主要競走に関するレース回顧については別記事を参照されたい。

24/04/14 Weekly National Hunt / Jump Racing (にげうまメモ)

レースの前評判としては、昨年のIrish Grand National (Grade A)の勝ち馬で、今シーズンはDrinmore Novice Chase (G1)等を勝利しているアイルランドのI Am Maximusが人気の中心となっていた。他には73年ぶりの牝馬としてのAintree Grand National (Premier Handicap)の勝利を目指すLimerick Lace、連覇を狙うスコットランドのCorach Rambler、直近にJP McManusに購入されたことで話題になったMeetingofthewaters、ウェールズ代表としてChristian Williams一家のストーリーがあちこちで報道されたKitty's Light、Aintree競馬場公式に可愛らしいサムネイル画像を作ってもらった上がり馬Panda Boy*2、一昨年の勝ち馬で今年はHurdle戦線を使ってきたNoble Yeatsアイルランドの素質馬Mr Incredibleなどが比較的人気を集めていたようだ。なお、直前にChambardとRun Wild Fredの2頭が出走を取り消し、ただでさえ今年から減った出走馬はさらに減り、最終的な出走頭数は32頭となった。

 

False Startはなく順調なスタート。第1障害でいきなり連覇を狙うCorach Ramblerが落馬。馬は無事に走っていたようだが第2障害でも空馬の状態で転倒し馬群から離脱。前に出てくるのはGlengoulyやMinella Crooner、Foxy Jacks、さらにはLatenightpass、Farouk D'Aleneなど。I Am Maximusは馬群の内に構える一方で、Mr IncredibleやStattlerは早々に後方に遅れる。そのままOpen Ditchを越えて先行争いを制したGlengoulyが先頭に出てくる。Becher's Brook、もはやPlain Fenceと呼ばれてしまったFoinavonは全馬無事クリア。Canal Turnで先頭のGlengoulyが細かいミス、中段の内辺りで玉突き状に接触があり、結果的にLimerick Laceがやや大きな不利を受けるも立て直す。Valentine's Brookの手前で後方にて飛越に苦労していたStattlerが早々に途中棄権。Valentine's Brook、更にその次の第8障害で後方のMaher Missionがミス。このあたりの先頭は引き続きGlengoulyが頑張って馬群を引っ張る展開で、好位からFoxy Jacks、Minella Crooner、Eldorado Allen。その後ろにMinella Indo、Coko Beach、Latenightpassなど。中段以降はかなり馬群が密集するも、そこからさらに遅れて最後方にNoble Yeats。どうにもNoble Yeatsはもたもたと走っていたようで、Harry Cobden騎手が鞭を飛ばしながら追走を続ける。Melling Roadを渡る辺りから馬群はぐっと密集し、GlengoulyとFoxy Jacksの2頭が縦に並びつつ前で引っ張る形となる。第13障害で馬群の後方にいたRoi Mageがミス、第15障害のThe ChairにてMahler MissionとMr Incredibleの2頭が落馬。第16障害のWaterは全馬無事飛越し、引き続き前で頑張るGlengoulyを先頭に2周目に向かう。

第17障害を越えた辺りで外からFoxy Jacksが出てきて先頭に並びかける。さらに外からLatenightpass、Minella Crooner、最内にはEldorado Allen。Glengoulyは引き続き前で引っ張る。第19障害のOpen DitchにてFoxy Jacks、さらに後方にいたEklat De Rireがミス。さらに細かいミスをしたFoxy Jacksは脱落し、代わってGalia Des Liteauxが進出。第21障害地点にて後方にいたMac Tottieが何かしらの異常があったのか途中棄権。Becher's BrookにてI Am Maximus、Farouk D'Alene、さらにNoble Yeatsがミス。今度は名前を呼ばれたFainavonは全馬無事突破し、このあたりから内にいたEldorado Allenが先頭に出てくる。Glengoulyは抵抗するも先頭集団から脱落。Valentine's Brookを越えてEldorado AllenとLatenightpassが先頭で引っ張る形となり、好位からGalia Des Liteaux、Glengouly、さらにいつの間にか前に出てきたRoi Mage。残り4障害辺りでも相変わらずEldorado Allenが前を走るも、これにMinella Indo、Kitty's Light、さらに外からLatenightpassやRoi Mage、The Gofferなどの面々が顔を覗かせつつ先頭を伺う。好位の内にDelta Work。Anchor Bridgeの辺りでEldorado Allenは脱落し、Galia Des LiteauxとLatenightpassが先頭に。さらにMinella IndoやRoi Mage、Kitty's Lightが追走。やや遅れ始めたGalia Des Liteauxを残してGina AndrewsとTom EllisのLatenightpassが前に出てくるも、ここにMinella IndoやDelta Work、さらにはKitty's Lightも接近。最終障害を越えて最も手ごたえ良く出てきたMinella IndoとDelta Workが抜け出しを図るも、この内からI Am Maximusが接近。直線を向いて外に持ち出したI Am Maximusが加速すると、そのままDelta Work以下を豪快に7馬身ほど突き放して勝利した。Delta Work、Minella Indo、追い込んだGalvin、Kitty's Lightと2~5着でフィニッシュ。やや離れてAin't That A Shame、Meetingofthewaters、これに遅れてGalia Des Liteaux、Roi Mage、Limerick Lace、更にCoko Beach、Latenightpass、The Goffer、Vanillier、Eklat De Rire、Capodanno、Panda Boy、Nassalam、Noble Yeats、Eldorado Allen、Adamantly Chosen。以上21頭が完走した馬である。

 

事前には雨予報で馬場の悪化が想定されていたAintreeの開催であるが、ふたを開けてみると初日こそ重馬場で行われていたもののそこから馬場は乾燥傾向にあったようで、結果的に3日目のメインレースまでにNational CourseはSoft (Good to Soft)まで良化している。一方で、前に行ったのはHeavyのGowran ParkのThyestes Handicap Chase (G3)でペースを作った軽量馬Glengoulyや、KilbegganのMidlands National (Listed)や11月のGlenfarclas Cross Country Handicapを勝ったFoxy Jacksと、ある程度前目で運びたいタイプとはいえハイペースで引っ張るほどのスピードがある面々ではなく、スタート直後こそ前目で運んだ組が先行争いを兼ねてペースを上げて引っ張っているものの、レース全般として結果的に距離を警戒して慎重に進める馬が多い24f超のマラソンレースにありがちなのんびりとしたペースでレースは進行している。実際に縦方向の馬群としてはかなり密集していたこと、及び、2周目のMelling Roadの辺りまで多くの馬が先頭集団に取り付いていたことを考えると、レースとしてはタフなサバイバルレースというよりは4マイル超の長い距離を我慢して走りつつ、余力の残っている馬がじわじわとロングスパートを掛けていくというレースが展開されている。

I Am MaximusはIrish Grand National (Grade A)から英愛の"Grand National"を制覇することになった。これは2006年にこのレースを制したNumbersixvalverde以来の記録となる*3。Willie Mullins厩舎以前に同馬を管理していた*4Henrietta Knightによれば非常に慎重な飛越を見せる馬ということで*5*6、実際のレースでもLeopardstownで見せていたようにあまりスピードに乗って飛距離を稼ぐような積極的かつ前向きな飛越を見せることは少ないのだが、Paul Townend騎手はこの馬の特性を理解していたのか最内に突っ込んでレースを進めている。National Fenceは初めてであったが、Becher's BrookやThe Chairにて細かいミスがあった程度で、障害への対応自体には大きな問題はなかったようだ。一方で道中では、典型的なワンペース型でこの馬場では積極的に前に出ていくことが難しいと思われるCoko Beachが終始前を走っていたり、やたらと馬格もパワーもあるCoko Beachをようやく交わして前に出た時点では苦しくなって脱落を始めたEldorado Allenが前に来た上に外から馬が殺到し行き場をなくしたり、直線でもDelta Workのインを諦めてMinella Indoの外に切り替えたりと、馬群が密集して進行したこともありかなり立ち回りには苦労している。これは実際にRacing TVが出しているMinella Indoとの飛越に関する比較データを見れば明らかで*7、本来であればこの馬の飛越の思想を変えるために勝負所からはある程度スペースのあるところに持っていくことが理想であったと思われる。実際にPaul Townend騎手も2周目では飛越が慎重になったことや、終盤の立ち回りとしては良くなかった旨を述べているようで*8*9、これは内に入ったことのデメリットが出てしまった結果と言えよう。斤量的にも11st6lbとあまり楽なものではなかったが、とはいえやはりMinella IndoやDelta Workといったスムーズに運んだ実力馬を相手に間に合わせてしまうだけの脚力は驚異的であり、かつ約4m2fを走ってこれだけのスプリントを掛けるだけの余力が残っていたというのは驚くべきことであろう。2016年にRule The Worldでこのレースを勝利したMouse Morrisによれば近年のGrand Nationalは“The race has changed now, you’ve got to have a bit of class about you, the old handicappers get left behind."と表現されていたように*10、今年のレースの性質からもわかる通り古典的なHandicap競走ではなくなっているAintreeのGrand National (Premier Handicap)の性質も考えると、I Am Maximus自身として今後はCheltenham Gold Cup (G1)のような今年とは異なる選択肢もあるものと考えられ、一時期は不振を極めていたAintreeのNational Winnerのその後の戦績もすっかり良いものとなっているだけに、その動向には引き続き注目したいところであろう。ただし、このように後方からじわじわと脚を伸ばしていくタイプなだけに立ち回りには引き続き注文が付きそうで、前半から後半にかけての飛越の内容についても注意しておいた方が良いものと思われる。

2着争いにはDelta Work、Minella Indo、Galvinと、アイルランドのG1クラスで上位争いを繰り広げていた面々で、かつ近走ではCross Countryの経験のある高齢馬が入った。その2着争いを制したのがDelta Workで、道中はI Am Maximusの一列外、Minella Indoの後ろに構えつつ、そこからMinella Indoの内に潜り込んで抜けてくるというレースであった。1周目のCanal Turnでもたもたと飛越したことで後続の玉突きを引き起こす原因になってはいるのだが、2022年は全体的にもたもたとした飛越で後手後手に回り、2023年は落馬に終わった課題の飛越について、今回は特に大きな問題は認められなかった。今シーズンは得意のGlenfarclas Cross Countryでもあまりいいところはなしと成績的にはあまり芳しいものではなかったのだが、今回初めて着用したブリンカーが奏功したのかかなり前向きで積極的な追走を見せており、内容的には過去3年の中で最も勝利に近く完成度の高いレースをしたと言えよう。後肢に切り傷があったとのことでWinners Enclosureには戻ってこなかったようだが*11、11歳と年齢を重ねてはいるものの、改めて今後の活躍を期待したい一頭である。どうやらGordon Elliott調教師に拠れば今年は素晴らしい調子であったということで*12、以下のように毎年性懲りもなく失礼極まりないことを記載している*13某クソブログの管理人は例年通り腹を切ってお詫びすべきである。

昨年11月のGlenfarclas Cross Countryでは11st13lbを背負って17馬身差の6着とそれなりに好勝負をしているようだが、一方で昨年・一昨年ともにどうにもこの舞台では飛越の問題か後手後手に回るようなところが目立っており、昨年もEva's Oscarを巻き込む形で落馬に終わっていることを考えると、11歳となった今年において明確な上がり目があるかと言われるとやや微妙なところである。

Cheltenham Gold Cup (G1)の勝ち馬として歴史的な勝利を狙ったMinella Indoも差のない3着に入った。CheltenhamのGlenfarclas Cross Countryでは12st0lbを背負ってLatenightpassから4着と良い競馬をしており、今回は改めてこの馬の強さを示す結果となった。馬群の中で我慢したDelta Workに対してこの馬はかなり強気に立ち回った影響か、最後はDelta Workに交わされての3着となったが、とはいえこの馬もまた素晴らしいレースをしたことには違いはない。同馬の今後については未定だそうだが、オーナーもこのパフォーマンスには喜んでいるようで*14、Henry de Bromhead調教師によれば"the way he jumped round there he looked like he loved every minute of it."とのことで*15、残念ながら今年は中止になったCheltenham FestivalのGlenfarclas Cross Countryにおいて更なるタイトルを獲得していた可能性も考えると、またCheltenhamのCross CountryやAintreeのNationalの舞台で見てみたい一頭であろう。一方のGalvinはMinella Indoに対してやや後ろを立ち回っての4着。やや勝負所でMinella Indoの後ろに入ったことで難しい立ち回りを迫られてしまった感があり、このあたりの立ち回りがスムーズであれば2着まであったかもしれない。近走はいまいちパッとしなかったところはあるのだが、とはいえ飛越としても全体的に良好なものを見せており、改めてこの馬の力量を確認することができるとともに、第1障害で早々に落馬に終わるなど不幸な結果に終わった昨年のことを考えると*16、この馬の持つポテンシャルの高さをこのAintreeのNational Courseの舞台で示すことができたことを喜ばしく思う一戦であった。いずれにせよ、Mouse Morris調教師の見解も踏まえるとGrand Nationalというレースの性質の変化を強く感じさせる上位勢の顔ぶれで、このようなメンバーにとってのステップレースとしてのGlenfarclas Cross Countryの重要性を改めて示すレースとなったと言えよう。これはRacing Post誌のChris Cook氏によっても強調されている論点である*17

Wales地方のChristian Williams厩舎*18が送り出したKitty's Lightはイギリス勢として最先着の5着に入った。1905年のKirkland以来初となるWales地方の調教馬のGrand National勝利を目指した*19Kitty's Lightは過去に有名なRed Rumと同様に砂浜で調教された馬ということだが、どうやらそれ以上にChristian Williamsの6歳の娘であるBetsyは1年前に白血病と診断され、現在でも化学療法を受けているそうで*20、43年前にAldanitiに騎乗したBob Championの逸話もあってか*21*22、この馬の挑戦はメディアに大きく取り上げられていた。レースとしては好位でスムーズに進みつつ最終障害を越えるまでほぼ勝負圏内で踏ん張るという立派なもので、最後は前の馬の伸び脚には屈したものの、この馬のやるべきことを全てやり切った内容だろう。最軽量でぎりぎりで出走圏内に滑り込んだこと、さらに懸念された天候も崩れず馬場も良くなったことなど、この馬にとっては色々な条件が向いてのレースで、内容としては悔いが残らない素晴らしいものであった。どうやらSandownのbet365 Gold Cupに向かうようでそちらでの走りに期待したい*23。事前にアマチュア騎手David Maxwellに購入されたことで話題を集めたAin't That A Shameはじわじわと差を詰めるもKitty's Lightからやや離された6着まで。同様にJP McManusに購入されたMeetingofthewatersも同じような位置での入線で、このあたりの馬にとっては今回の早い馬場は向かなかったものと思われる。ロンドン在住の42歳のビジネスマンであるDavid Maxwell騎手はこの舞台への熱意を改めて口にしており、Ain't That A Shameは15歳まで現役を続けたい旨の話すらしているようで*24、オーナー兼ライダーとしてのGrand National制覇は1883年以来となる偉業に挑んだ名手としてその挑戦は讃えられるものであろう*25。ただし、24fのHandicap路線においては高い能力を示してきた馬が、ある程度の斤量の恩恵を受けながらも先頭集団からやや遅れた入線となったことは少々考えさせる内容である。

牝馬として最先着を果たしたのがGalia Des Liteauxで、これはこの馬の適性を考えれば十分な競馬だろう。馬場が重くなればもう少し浮上していた可能性はありそうだ。12歳馬として挑んだRoi MageはじわじわとJames Reveley騎手とのコンビで位置を上げるも最後は失速しての9着で、昨年はやや前向きに飛ばし過ぎたものの最後は失速したレース振りを鑑みての戦術であったと思われる。ただし、やはりこの馬は既に今年で12歳とトップスピードにはだいぶ衰えがあるようで、意味不明なレーティングのせいで除外になった2022年での走りを見たかった。牝馬Limerick Laceは後方から進めるも前に迫ることはできず。飛越にもやや苦労していたようだ*26。Coko Beach、Latenightpass、The Goffer、Nassalam、Eldorado Allenとある程度見せ場を作るも、最後は苦しくなったようだ。Coko BeachやNassalamについては馬場、Eldorado Allenについては距離適性だろう。Latenightpassもさすがにこのクラスのトップスピードを求められると苦しいものがある。Vanillier、Eklat De Rire、Capodanno、Panda Boy、Admantly Chosenは見せ場なし。Admantly Chosenは鼻出血があったそうだ。一昨年の勝ち馬Noble Yeatsは終始追走に苦労しており、そのまま押し上げることはできず大敗に終わった。レース展開としても押し上げるには苦労するものであったと思われるが、能力的にはここでも面白いものを持っている馬だけに、馬が悪い方向でNational Courseについて学習してしまったのか、Hurdle参戦がいい方向に出なかったことは残念である。

その他競争中止した馬。Foxy Jacksは途中まで見せ場を作るも、2周目から早々に脱落して途中棄権。どうやら鞍上のGavin Brouder騎手は馬場がもっと良ければという話をしているようだ*27。前に行ったGlengouly、Minella Crooner、Farouk D'Aleneなどはそのまま脱落し競争中止。Mr IncredibleはThe Chairで落馬に終わったが、それ以前に飛越があまり良いリズムではなかったように見える。Racing PostのレポートによればStattlerは呼吸器系に問題があったそうだ。連覇を狙ったCorach Ramblerは第1障害で落馬に終わった。ただ第1障害での落馬よりも第2障害での落馬の方がリスクが高い落ち方をしているのだが、幸いにも特段の怪我はなかったようで、Cheltenhamでのパフォーマンスを鑑みると引き続きこの馬の走りには期待したいところである*28*29*30

 

今年のAintreeのGrand Nationalにおいては、動物福祉及び安全性の向上を目的として非常に大規模な投資及びレース条件の変更等の施策が行われており*31、昨年開始された"Stand Up For Racing"の意思を引き継ぎ、業界横断的な協力の賜物として実現した動物福祉に関する透明性のある科学的かつ客観的なキャンペーンである"HorsePWR"の開始も含め、欧州競馬の中でも一つの代表的な祭典ともいえるこのレースにとっては重要な節目となる年であった。その結果として、完走は32頭中21頭、途中棄権が7頭、"Unseated Rider"が4頭と、2005年以降*32最多となる完走頭数を誇ったうえに「落馬転倒」(すなわち"Faller")は0頭と、その異質な結果には驚くべきものがある。特にその完走率(約65%)は驚異的な数字であり、2008~2018年の完走率の平均値は41.5%*33、上記2005年の完走率も21/40頭=52.5%、歴史上最多の完走頭数を達成した1984年の完走率も23/40頭=57.5%であることを踏まえると*34、この数字は歴史上類を見ないものであろう。はんまー氏(@HammerofKuchibu)の調査によれば、これよりも高い完走率は1900年の*3511/16頭であるとのことだが(あくまでpreliminaryな調査結果であることに留意されたい)、1900年の"Grand National"はよく知られるAintreeの"Grand National"とはその障害の条件も含めて大きく現代とは性質が異なっていることが容易に想定され*36、もはやその数字に比較の意味はないことは言うまでもない。上の図は過去に作成した2000~2023年のGrand Nationalの各障害において飛越を試みた頭数に2024年のデータを追加したものであるが*37、比較的幅員が狭いThe Chairの地点にて重複落馬が発生したこと、及び後半の残り数障害地点から疲労によると思われる途中棄権が発生したことを除けば、その脱落数の少なさは驚くべきものである。これらから来る"Grand National"の性質の変化は上記Racing Post誌のChris Cook氏の記事においても言及されており、Chris Cook氏は比較的ゆったりとしたペースで馬群が固まって進行し、そこからじわじわと加速していくCheltenhamのCross Countryとの類似性を指摘する*38。このような変化は多かれ少なかれ過去の巨大な障害と多数の落馬を発生していたハイリスクでスペクタクルな"Grand National"を知る関係者等からの反発は免れないようだが*39、一方でJockey ClubのNevin Truesdale氏はまさに期待していた通りのレースが実現したと歓迎しており、同様にこの変化についてはRachael Blackmore、Sir Anthony McCoy、Nicky Henderson等多くの業界関係者も肯定的であると同時に、Ruby Walshは“If that doesn’t convince people that this is a wonderful sport then I don’t know what will.”と語っているなど*40*41、これらの変更による影響を歓迎する声は業界内からも大きい*42*43*44*45。出走頭数の削減に関しては統計的な裏付けとなるデータの不足が否定できず*46、加えてイギリス・アイルランド競馬の現状を鑑みるとWillie MullinsやGordon Elliott等の一部のG1クラスで好勝負を演じた高いレーティングを有する実績馬を多数所有する大厩舎が出走枠を独占する可能性もまた否定できないことは確かであるが、一方で馬事文化の社会的立ち位置の担保及び持続可能性の実現という論点において、このスポーツに参画する(競走)馬に係る高度な動物福祉の達成及び安全性担保という目的における今般の変更によるインパクト及びその意義が極めて大きいことは上記のデータからも明らかであると言えよう*47。最後に昨年の"Stand Up For Racing"の呼びかけ人の一人であるKevin Blake氏のポストを引用し、本稿の結びとしたい。

*1:https://twitter.com/HammerofKuchibu/status/1779092591877009562

*2:https://twitter.com/AintreeRaces/status/1779056938640101612

*3:Numbersixvalverde - Wikipedia

*4:https://twitter.com/tongueryan3/status/1779439800451314128

*5:Immensely proud of I Am Maximus whom I... - Henrietta Knight

*6:Henrietta Knight backing I Am Maximus for Gold Cup glory | At The Races

*7:https://twitter.com/RacingTV/status/1779182415426064393

*8:I Am Maximus storms to 2024 Grand National glory at Aintree | Racing Post

*9:I Am Maximus gives 'lucky boy' Townsend maiden Grand National win

*10:https://www.racingtv.com/news/mouse-morris-dreaming-of-more-grand-national-glory-with-foxy-jacks

*11:Grand National 2024: Gordon Elliott responds after coming up short against Willie Mullins - Mirror Online

*12:https://www.racingtv.com/news/so-close-but-elliott-has-to-give-best-to-mullins-again

*13:24/04/13 National Hunt Racing - Grand National Entries - にげうまメモ

*14:'For an 11-year-old to pull off a performance like that, it's unreal' - praise heaped on Minella Indo after National third | Racing Post

*15:https://www.racingtv.com/news/so-close-but-elliott-has-to-give-best-to-mullins-again

*16:23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Result - にげうまメモ

*17:Has the Grand National been turned into another cross-country race? | Racing Post

*18:Christian Williams Racing

*19:Grand National 2024: The touching reason everyone wants this Welsh horse to win - Wales Online

*20:Grand National: Kitty's Light gives trainer's family chance to dream after daughter's leukemia fight | ITV News Wales

*21:'The public's horse' backed to win Grand National for trainer whose daughter is bravely battling cancer | The Sun

*22:Kitty's Light aims for uplifting result at Grand National 2024 | Racing | Sport | Express.co.uk

*23:Kitty's Light lined up for bet365 Gold Cup repeat bid after courageous Grand National fifth for Christian Williams | Racing Post

*24:So close, but Elliott has to give best to Mullins again | At The Races

*25:Northern Ireland amateur David Maxwell celebrates 'such a thrill' as Grand National debut ends in 'brilliant' sixth

*26:2024 Randox Grand National - reaction from beaten connections at Aintree

*27:2024 Randox Grand National - reaction from beaten connections at Aintree

*28:So close, but Elliott has to give best to Mullins again | At The Races

*29:All well with Corach Rambler after National disappointment | At The Races

*30:https://www.racingtv.com/news/all-well-with-corach-rambler-after-national-disappointment

*31:THE JOCKEY CLUB ANNOUNCES CHANGES TO THE RANDOX GRAND NATIONAL AS PART OF RELENTLESS FOCUS ON HORSE WELFARE

*32:https://en.wikipedia.org/wiki/2005_Grand_National

*33:22/01/15 完走率に基づく各国主要障害競馬の性質 ④ - Cross Country / National Fence - - にげうまメモ

*34:1984 Grand National - Wikipedia

*35:https://twitter.com/HammerofKuchibu/status/1779178633976054117

*36:https://player.bfi.org.uk/free/film/watch-ambush-ii-at-eyrefield-lodge-the-curragh-1902-1902-online

*37:22/05/06 Aintree競馬場の"National Fence"の性質 ⑥ - にげうまメモ

*38:Has the Grand National been turned into another cross-country race? | Racing Post

*39:Bob Champion - I always knew changing times would come...

*40:‘The National exactly as we want it’ – Jockey Club chief hails Aintree changes

*41:No fallers and highest number of finishers in 19 years as 21 complete course in the Grand National | Racing Post

*42:https://www.racingtv.com/news/grand-national-five-things-we-learned

*43:I've always found the Grand National a hard watch - but this year's race was a real breath of fresh air | Racing Post

*44:The Grand National has changed for the better - and how anyone can moan about Saturday’s race is beyond me | Racing Post

*45:https://www.attheraces.com/blogs/kevin-blake/15-april-2024/grand-national-to-stay-the-distance

*46:23/10/19 英Grand Nationalにおける軽量馬に関する考察 - にげうまメモ

*47:23/04/15 National Hunt Racing - Grand National Result - にげうまメモ